説明

電線導体の製造方法

【課題】断線しにくく、かつ、細径化に対応した銅合金電線導体の製造方法を提供する。
【解決手段】 電線導体の接合部に接合処理と熱処理を行うことを特徴とする銅合金電線導体の製造方法であって、SCRなどの連続鋳造装置により、所望の成分からなる銅合金の荒引線を製造し、前記荒引線を冷間加工により伸線処理(荒引線の伸線処理)し、焼鈍処理をほどこす。ついで伸線処理(第一の伸線処理)し、さらに伸線処理(第二の伸線処理)を施して自動車電線用素線とする。第一の伸線処理と第二の伸線処理を施す際、電線導体の端部に接合処理及び熱処理を施す。前記接合処理は、前記熱処理の前でも後でもよい。前記接合処理は、一方の電線導体の端部ともう一方の電線導体の端部を接合する処理である。好ましくは、前記熱処理は、前記接合部を500〜850℃で0.5〜30分熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ワイヤーハーネスに使用される自動車用電線に用いられる電線導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤーハーネスは、例えば、エンジンルームの内部の各装置や制御機器等を電気的に接続する電線として車両関係に広く用いられている。近年、省スペース、軽量化が要求されており、これに伴いワイヤーハーネスには、電線の細径化が要求されている。
【0003】
ワイヤーハーネスに用いられる自動車用電線として、従来は電線導体として純銅からなる軟銅線を用い、この電線導体を数本撚り合わせた束の外周に樹脂等の絶縁体を被覆したものが用いられていた。これに対し、電線導体として純銅にスズを添加したCu−Sn合金線を用いて強度向上及び細径化を実現させた例がある(特許文献1)。
【0004】
これら自動車用電線の電線導体は、一般的に荒引線から製造する。すなわち、連続鋳造装置により荒引線を製造し、所定の長さで切断し、コイル状に巻かれる。次いで、前記荒引線を伸線装置に通して伸線(冷間加工)したり、焼鈍装置に通して焼鈍を行うことを繰り返して、所望の外径の電線導体を製造する。なお、焼鈍は連続式でもバッチ式でも良い。
【0005】
伸線工程においては、伸線装置への通線(例えば、伸線ダイスや冷却槽へ手作業で線を通していくこと)に時間がかかることから、作業の効率化のため、電線導体の線同士の端部を接続している。これにより、通線作業をしなくても、継続して伸線処理をすることができる。線同士の端部を接続する方法として、市販のコールドウェルド工具を用いて接合を行うことが一般的である。すなわち、電線導体の端部を突き合わせて押し込み、加圧、変形させて接合する。これにより接合部分は元の電線導体と同等の強度が得られるので、接合した部分を伸線処理できるとともに、電線導体として使用も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−192535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の、純銅からなる電線導体の場合は、前記の接合を行った部分を伸線処理しても断線は発生しなかった。しかし特許文献1記載の銅合金線の線同士の端部をコールドウェルド工具にて接続し、接合部を伸線したところ、断線することが多いことが判明した。また、他の銅合金線でも同様であった。
【0008】
そこで本発明は、伸線工程にて断線しにくく、かつ、細径化に対応した電線導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の手段により達成される。すなわち、本発明は、
(1)電線導体の接合部に接合処理と熱処理を行うことを特徴とする銅合金電線導体の製造方法であって、
前記電線導体に第一の伸線処理し、前記接合処理し、前記接合部を500〜850℃で0.5〜30分熱処理し、第二の伸線処理することを特徴とする電線導体の製造方法、
(2)電線導体の接合部に接合処理と熱処理を行うことを特徴とする銅合金電線導体の製造方法であって、
前記電線導体に第一の伸線処理し、前記接合部を500〜850℃で0.5〜30分熱処理し、前記接合処理し、第二の伸線処理をすることを特徴とする電線導体の製造方法、
(3)前記電線導体は、少なくとも一方が、Snを0.1〜10質量%を含む銅合金からなることを特徴とする(1)または(2)記載の電線導体の製造方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電線導体の製造方法は、線同士の接合部に加熱処理を施すことにより、伸線工程で破断することが防止され、段替作業の効率化を図ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電線導体は、Sn、Ni,Si,Zn,Mg,Fe、Co、P、Mn、Beなどを含んだ銅合金よりなる。例えば、Snを0.1〜10質量%を含む銅合金、あるいは、NiとCoとSiを0.1〜10質量%含む銅合金などがある。自動車用の電線導体として好ましいのは、Snを0.1〜2.0質量%を含む銅合金、あるいは、NiとCoとを合計で0.1〜3.0質量%さらにSiを0.1〜0.7質量%含む銅合金である。また、本発明の電線導体は、導体の外径が0.1〜10mmの線からなる。
【0012】
本発明の電線導体の製造方法を説明する。SCRなどの連続鋳造装置により、所望の成分からなる銅合金の荒引線を製造する。ついで、前記荒引線を冷間加工により伸線処理(荒引線の伸線処理)し、連続式焼鈍処理を施す。ついで冷間加工により伸線処理(第一の伸線処理)し、さらに、冷間加工により伸線処理(第二の伸線処理)を施し、自動車電線用素線とする。
このとき、前記第一の伸線処理と、前記第二の伸線処理の間に、電線導体の端部に接合処理及び熱処理を施す。また、前記第二の伸線処理を施す前に、電線導体の端部に接合処理及び熱処理を施す。前記接合処理と前記熱処理は、その順序を問わない。
【0013】
本発明の接合処理は、市販のコールドウェルド工具により行う。一般的には、一方の電線導体の端部と、もう一方の電線導体の端部を突き合わせて、一対のチャックにて固定する。次いで、双方の電線導体を押し付けるように、一対のチャックを一定の距離だけ近づける。これにより、双方の電線導体の端部は塑性変形し、ゴミや酸化層の無い面同士で押し付けられることで、双方の電線導体が接合面で機械的に接続して、接合処理が完了する。前記変形にともない、前記接合面において径方向にはバリと呼ばれる突起物が電線導体周囲にはみ出す。前記バリはヤスリ等で除去し、前記電線導体の外径がほぼ一定になるようにしておく。
【0014】
前記接合部では、電線導体の長手方向とは異なり、前記長手方向と略90度方向へ塑性変形する。このため、銅合金の結晶組織も、前記長手方向と前記接合部ではそれぞれ、略90度方向異なる方向に長い結晶組織となる。一般的に金属組織において、結晶組織の長い方向への加工は比較的耐えられるが、前記接合部では、局所的に伸線加工の方向と結晶組織の長い方向が異なるため、伸線加工において断線しやすくなると考えられる。
【0015】
また、バリの除去作業において、手作業などでは表面傷を除去することは難しく、傷が残存したまま伸線加工され、伸線ダイスを通過する際、破断の基点となると考えられる。
【0016】
ついで熱処理を行う。本発明の熱処理は、少なくとも前記接合部を加熱装置により加熱する。加熱方法は通電方式でもバーナー方式でもかまわない。前記接合部の周囲も加熱してもかまわない。周囲とは接合部の前後1m程度の長さの部分を言う。加熱条件は、500〜850℃で、0.5〜30分が好ましい。熱処理温度が600度未満であると熱処理の効果が小さく断線しやすい。また、850℃を超える熱処理は過焼鈍の状態となり、靭性が低下して断線がしやすくなる。より好ましくは600〜800℃、さらに好ましくは650〜750℃である。
【0017】
熱処理時間が0.5分未満であれば熱処理の効果が小さく断線しやすい。また、熱処理時間が30分を超えると過焼鈍の状態となり、靭性が低下して断線がしやすくなる。より好ましくは1〜20分、さらに好ましくは2〜5分である。
【0018】
本発明の熱処理を前記接合部に行うことで、前記接合部の結晶組織において加工歪の除去がなされたり、また一部の組織が部分的に再結晶したりすることで、伸線加工の方向と結晶組織の方向の向きの差が緩和される。これにより、前記接合部に表面傷が存在した場合であっても、前記接合部を伸線した際に破断しにくくなる。
【0019】
また、本発明の熱処理を接合処理の前に行った場合でも、同様に破断しにくくなる。これは、加工歪の除去や部分的な再結晶などが発生した状態で前記接合処理をすることで、前記接合部の結晶組織の方向の向きの差が緩和されるからである。
【0020】
なお、熱処理は、前記接合部の付近の前後1m程度以内で行う。電線導体全体で熱処理をすると、電線導体を複数本束ねて撚線加工し自動車用電線とした際に、自動車用電線として所望の特性が得られないからである。
【0021】
本発明の接合処理は、Cu−Sn合金線の電線導体同士の接合を行っても、異なる成分の電線導体同士の接合であっても良い。例えば、少なくとも一方の電線導体が、Snを0.1〜10質量%を含む銅合金であれば、もう一方の電線導体が従来品である純銅からなる銅合金であっても、本発明の効果は得られる。
【実施例】
【0022】
以下、電線導体の製造方法について、詳細に説明する。本発明のSCRなどの連続鋳造装置により、所望の成分からなる銅合金の荒引線(外径8mm)を製造した。成分は、Snを1.0質量%添加した銅合金(Cu-1.0Sn)、及び純銅(Cu)を用いた。
【0023】
ついで、前記荒引線を冷間加工により外形2.6mmまで伸線処理(第一の伸線処理)し、非酸化雰囲気中にて焼鈍処理をほどこした。ついで、外径0.2mm程度まで伸線処理(第二の伸線処理)して、自動車電線用素線とした。このとき、前記第二の伸線処理を施す際、電線導体の端部に接合処理及び熱処理を施した。前記接合処理と前記熱処理は、接合処理の後に熱処理を行ったもの(接合→熱処理)と、熱処理の後に接合処理を行ったもの(熱処理→接合)の両方を製造した。なお、比較例として熱処理を行わない電線導体も作製した。
【0024】
前記接合処理は、市販のコールドウェルド工具(住電朝日精工製:ABM−5型)により行った。条件は、StopArmの間隔を40mm、押し回数を10回とした。次いで、接合部分をヤスリにてバリ取りを行い、電線導体の接合部の表面を研磨して、荒れや傷が無いことを目視にて確認した。
【0025】
熱処理は、前記接合処理の後の場合は、前記接合部およびその前後1m程度を加熱炉の内部に通して加熱し、それ以外の電線導体は熱処理をしないようにした。前記接合処理の前に熱処理する場合は、接合処理をする予定の一方の電線導体の一端から0.5m程度、及び、もう一方の電線導体の一端から0.5m程度を加熱炉の内部に通して加熱し、それ以外の電線導体は熱処理をしないようにした。加熱条件は表1に記載の条件とした。
【0026】
得られた電線導体の接合部を伸線装置に通し、外径0.2mmまで伸線加工を施した。その際、前記接合部における断線の発生の有無について評価した。評価は、接合部において断線が発生しなかった場合を「良」と判定して「○」印を付し、接合部において断線が発生した場合を「不良」と判定して「×」印を付した。結果は表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から明らかなように、本発明の電線導体の製造方法により製造した電線導体の接合部は、伸線加工時の断線は発生しなかった。しかし、前記接合部に熱処理を行わなかった比較例では断線が発生していた。また熱処理条件を適切にしないと、断線が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線導体の接合部に接合処理と熱処理を行うことを特徴とする銅合金電線導体の製造方法であって、前記電線導体に第一の伸線処理し、前記接合処理し、前記接合部を500〜850℃で0.5〜30分熱処理し、第二の伸線処理することを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項2】
電線導体の接合部に接合処理と熱処理を行うことを特徴とする銅合金電線導体の製造方法であって、前記電線導体に第一の伸線処理し、前記接合部を500〜850℃で0.5〜30分熱処理し、前記接合処理し、第二の伸線処理をすることを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項3】
前記電線導体は、少なくとも一方が、Snを0.1〜10質量%を含む銅合金からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−174347(P2010−174347A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19580(P2009−19580)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】