説明

電線弛度測定方法および装置

【課題】プレハブ架線工法によって敷設された電線の弛度測定を容易にし、電線の弛度測定に要する労力を大幅に軽減することが可能な電線弛度測定方法および装置を提供する。
【解決手段】一方のポストと他方のポストとのそれぞれに電線の設計弛度を示す基準点を設け、一方のポスト基準点に、上下方向に延び他方のポストの基準点と電線の弛みの最下点を観測可能な高さ水準観測器20が昇降可能に取付けられる目盛り2f付きのスライド用レール2を固定し、高さ水準観測器20を水平方向に回動させることにより高さ水準観測器20の照準と電線の弛みの最下点との位置関係を比較し、照準が電線の最下点に合致していない場合は、高さ水準観測器20を昇降させて照準を電線の弛みの最下点に合致させ、照準と電線の最下点が合致した際の高さ水準観測器20の昇降量をスライド用レール2の目盛り2fによって読取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレハブ架線工法によって敷設された電線の弛度を測定する電線弛度測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔間に敷設される送電線には、熱膨張に伴う長さに変化を考慮して適度な弛みをもたせている。送電線の弛み具合(弛度)は、鉄塔間の距離などによって異なり、送電線の敷設に際しては鉄塔間毎に送電線の弛みを観測することが行われている。
【0003】
送電線を新たに敷設する場合や送電線を張り替える場合は、ポケットコンパスと呼ばれる高さ水準観測器を用いて送電線の弛みを観測することが必要となる。この場合は、まず高さ水準観測器を一方の鉄塔の基準点に固定し、高さ水準観測器の照準を他方の鉄塔の基準点に合わせる。その後、高さ水準観測器によって送電線の弛みの最下点を観測し、高さ水準観測器の照準に送電線の弛みの最下点が合致しない場合は、送電線の延線量を調整し、送電線の最下点を高さ水準観測器の照準を合わせるようにしている。この工法では、ドラムから引出された電線を鉄塔に延線した後、鉄塔上で電線の長さを決定し、鉄塔上で電線の切断および電線を引き留めるためのクランプの圧縮を行っているので、高所での作業量が多くなり、多くの労力を必要としていた。
【0004】
そこで、例えば変電所などにおける電線の敷設作業においては、電線の長さの決定、切断および引き留めクランプの圧縮を地上側で行い、高所での作業量を軽減するプレハブ架線工法が採用されている。プレハブ架線工法の一例として、鉄塔間の測量データを元にして電線の実長を求めるようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
プレハブ架線工法は、事前に電線を地上側で所定の長さに切断するため、電線の敷設中には電線の弛みの最下点の高さを調整することはできず、電線の敷設後に電線の弛度が設計弛度に対して許容範囲内にあるか否かを測定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−241022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、プレハブ架線工法によって敷設された電線の弛度測定において、高さ水準観測器の照準を電線の最下点に合せるためには、高さ水準観測器を上下方向に移動させるとともに、高さ水準観測器を水平に保つ必要があり、単純な作業ではあるが非常に時間がかかるという問題がある。すなわち、高さ水準観測器を上下方向に移動させる場合は、鉄塔などの支持物に固定した高さ水準観測器を一旦支持物から取外す必要があり、高さ水準観測器の照準が電線の最下点と合致しない場合は、高さ水準観測器の固定および取外しを何度も繰り返すことになり、多くの時間と手間を要する。また、高さ水準観測器を固定する支持物の観測位置に、アングルと呼ばれる山形鋼などの障害物が有る場合は、高さ水準観測器の固定位置を変更する必要があり、それだけ電線の弛度測定に多くの労力を必要とする。
【0008】
そこで本発明は、プレハブ架線工法によって敷設された電線の弛度測定を容易にし、電線の弛度測定に要する労力を大幅に軽減することが可能な電線弛度測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、プレハブ架線工法によって一方の支持物と他方の支持物との間に敷設された電線の弛みを測定する電線弛度測定方法であって、前記一方の支持物と前記他方の支持物とのそれぞれに前記電線の設計弛度を示す基準点を設け、前記一方の支持物の前記基準点に、上下方向に延び前記他方の基準点と前記電線の弛みの最下点を観測可能な高さ水準観測器が昇降可能に取付けられる目盛り付きのスライド用レールを固定し、前記スライド用レールに取付けられた前記高さ水準観測器の照準を前記他方の支持物の基準点に合せ、前記高さ水準観測器を水平方向に回動させることにより前記高さ水準観測器の照準と前記電線の弛みの最下点との位置関係を比較し、前記照準が電線の最下点に合致していない場合は、前記高さ水準観測器を昇降させて前記照準を前記電線の弛みの最下点に合致させ、前記照準と前記電線の最下点が合致した際の前記高さ水準観測器の昇降量を前記スライド用レールの目盛りによって読取ることを特徴とする電線弛度測定方法である。
【0010】
この発明によれば、高さ水準観測器を用いて他方の支持物の基準点と電線の最下点との位置を比較し、照準が電線の最下点に合致している場合は、電線の弛度は設計弛度と一致していることになる。照準が電線の最下点に合致していない場合は、高さ水準観測器を昇降させて照準を電線の弛みの最下点に合致させ、照準と電線の最下点が合致した際の高さ水準観測器の昇降量をスライド用レールの目盛りによって読取ることにより、設計弛度に対する電線の弛度を測定することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、プレハブ架線工法によって一方の支持物と他方の支持物との間に敷設された電線の弛みを測定する電線弛度測定装置であって、上下方向に目盛りが付与された上下方向に延びるスライド用レールと、前記スライド用レールの両端部を支持し、前記支持物に固定可能な固定具と、前記スライド用レールに対して昇降可能に取付けられる可動台と、前記可動台に取付けられ水平方向の回動によって前記他方の支持物の基準点と前記電線の弛みの最下点を観測可能な高さ水準観測器と、を備えたことを特徴とする電線弛度測定装置である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電線弛度測定装置において、前記固定具は、前記支持物を構成する鋼材に対して吸着可能な磁石を有することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の電線弛度測定装置において、前記スライド用レールは、軸方向に複数に分割可能であること特徴としている。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし4にいずれか1項に記載の電線弛度測定装置において、前記スライド用レールには、前記固定具に前記スライド用レールを垂直に固定するための水準器が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、高さ水準観測器の昇降量をスライド用レールの目盛りによって読取ることにより、設計弛度に対する電線の弛みを測定することが可能となるので、プレハブ架線工法によって敷設された電線の弛度測定が容易となり、電線の弛度測定に要する労力を大幅に軽減することができる。これにより、高所での作業の時間短縮および弛度測定作業のコスト低減が図れる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、スライド用レールの両端部は、支持物に固定可能な固定具に支持されているので、一方の支持物の基準点に例えば山形鋼などの障害物があっても、障害物をまたいでスライド用レールを固定することが可能となり、高さ水準観測器と障害物との干渉を回避することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、固定具は、支持物を構成する鋼材に対して吸着可能な磁石を有するので、固定具を迅速かつ確実に支持物に固定することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、スライド用レールは、軸方向に複数に分割可能であるので、高所への持ち運びが容易となる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、スライド用レールには、固定具にスライド用レールを垂直に固定するための水準器を設けているので、スライド用レールが斜めに固定されるのを回避することができ、電線の弛度測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における電線弛度測定装置の正面図である。
【図2】図1の電線弛度測定装置における高さ水準観測器の拡大正面図である。
【図3】図1の電線弛度測定装置の側面図である。
【図4】図1の電線弛度測定装置におけるスライド用レールの分解図である。
【図5】図1の電線弛度測定装置によって弛度が測定される電線を支持する支持物の平面図である。
【図6】図5の支持物の正面図である。
【図7】図1の電線弛度測定装置を用いた電線の弛度測定方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】図1の電線弛度測定装置における高さ水準観測器から見た電線と基準点との位置関係を示す観測図であり、図8(a)は望遠鏡の照準を基準点に合せた状態の観測図を示し、図8(b)は望遠鏡の照準と電線との位置関係を示す観測図を示し、図(c)は望遠鏡の照準を電線の最下点に合致させた状態を示す観測図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0022】
図1ないし図8は、本発明の実施の形態を示している。電線弛度測定装置1は、図6に示すように、変電所に設置された鉄構50における一方のポスト51と他方のポスト52との間に敷設される電線54の弛みの測定に用いられる。地上Gに固定された鉄構50は、一方のポスト51と他方のポスト52との間には、各回線に対応した複数の電線54が敷設されている。
【0023】
鉄構50は、図6に示すように、支持物としてのポスト51とポスト52が対向して配置されており、ポスト51とポスト52との間の距離L1は、例えば34mに設定されている。一方のポスト51の上端部には、ビーム51aが固定されており、他方のポスト52の上端部には、ビーム52aが固定されている。一方のビーム51aには、碍子55が取付けられている。他方のビーム52aには、碍子56が取付けられている。電線54は、一方が碍子55を介してポスト51側のビーム51aに支持されており、他方が碍子56を介してポスト52側のビーム52aに支持されている。この実施の形態における電線54の設計弛度H1(碍子55、56の上部支持端から電線54の最下点54aまでの距離)は、設計張力によって設定されている。
【0024】
図1に示すように、電線弛度測定装置1は、スライド用レール2と、可動台10と、高さ水準観測器20とを有している。スライド用レール2は、上下方向に直線状に延びる棒状部材から構成されている。スライド用レール2は、軽量化と強度を確保するために、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金などから構成されている。スライド用レール2は、断面形状が四角形となっており、四つの側面うちの一つ側面には上下方向の高さを測定するための目盛り2fが付与されている。スライド用レール2の上端面には、スライド用レール2を垂直に固定するためのレール用水準器(水平器)3が取付けられている。
【0025】
この実施の形態においては、図4に示すように、スライド用レール2は、軸方向に5つに分割可能となっている。すなわち、スライド用レール2は、第1のレール2aと、第2のレール2bと、第3のレール2cと、第4のレール2dと、第5のレール2eと、連結紐2gとから構成されている。第1のレール2aには、第2のレール2bが連結可能となっており、第2のレール2bには、第3のレール2cが連結可能となっている。第3のレール2cには、第4のレール2dが連結可能となっており、第4のレール2dには、第5のレール2eが連結可能となっている。第1のレール2a〜第5のレール2eは、中空状に形成されており、中空部に通された一本の連結紐2gによって5本のレール2a〜2eを連結することにより、一本のスライド用レール2が形成されるようになっている。
【0026】
スライド用レール2は、固定具4を介してポスト51に固定されるようになっている。固定具4は、可動支持部5と、上部支持棒6と、下部支持棒7と、上部磁石8、下部磁石9から構成されている。可動支持部5は、スライド用レール2の上下方向の端部にそれぞれ設けられており、スライド用レール2に対して上下方向に移動可能となっている。可動支持部5には、位置調整用の貫通穴5aが形成されている。
【0027】
スライド用レール2の上端部側に設けられた可動支持部5は、上部支持棒6に対して水平方向(矢印F2方向)に移動可能となっている。図3に示すように、可動支持部5には、スライド用レール2に対して可動支持部5を固定する第1の固定ネジ5bと、上部支持棒6に対して可動支持部5を固定する第2の固定ネジ5cが設けられている。同様に、スライド用レール2の下端部側に設けられた可動支持部5は、下部支持棒7に対して水平方向(矢印F3方向)に移動可能となっている。下側の可動支持部5には、スライド用レール2に対して可動支持部5を固定する第1の固定ネジ5bと、下部支持棒7に対して可動支持部5を固定する第2の固定ネジ5cが設けられている。
【0028】
上部支持棒6の端部には、鉄構50を構成する鋼材からなるポスト51に対して吸着可能な磁石8が設けられている。磁石8は、ポスト51に対して吸着可能な吸着面8aと、吸着操作用の操作レバー8bが設けられている。下部支持棒7の端部には、ポスト51に対して吸着可能な磁石9が設けられている。磁石9は、ポスト51に対して吸着可能な吸着面9aと、吸着操作用の操作レバー9bが設けられている。
【0029】
スライド用レール2には、可動台10が上下方向(矢印F1方向)に移動可能に取付けられている。可動台10は、例えば角型の金属製のブロックから構成されている。可動台10は、軽量化と強度を確保するために、スライド用レール2と同様に例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金などから構成されている。可動台10は、例えばノギスのようにほとんど隙間なくスライド用レール2と嵌合されており、スライド用レール2に対して上下方向に円滑に移動可能となっている。可動台10には、可動台10をスライド用レール2に固定するための固定ネジ10aと、高さ水準観測器20を固定するための固定面10bが設けられている。
【0030】
図2は、高さ水準観測器20の詳細を示している。ここで、高さ水準観測器20とは、基準となる高さに対して観測する物体の高さが同一であるか否かを把握するための計器であり、例えばポケットコンパスとも呼ばれている。高さ水準観測器20は、図2に示すように、望遠鏡(テレスコープ)21、角度計22、水平台23、球面固定部24、支持軸25、水平軸26、磁石27を有している。望遠鏡21は、遠方の物体を拡大して観測するためのものであり、端部に観測窓21aを有している。望遠鏡21には、観測する物体に対して位置を定めるための照準Pが付与されている。照準Pは、観測窓21aを覗くことにより目視で確認することができる。望遠鏡21は、離れた位置にあるポスト52の基準点A1と電線54の弛みの最下点54aとを観測することが可能となっている。
【0031】
望遠鏡21が取付けられる角度計22は、水平台23に対して水平方向(矢印F4方向)に回動可能となっている。角度計22は、望遠鏡21を上下方向に揺動可能に支持し、かつ望遠鏡21の上下方向の揺動角度を測定する機能を有している。この実施の形態においては、望遠鏡21は常に軸心C2が水平状態で使用されることから、望遠鏡21の上下方向の角度調整は不要となっている。角度計22が取付けられる水平台23は、円盤状の部材から構成されている。水平台23の上面には、水平台23の水平軸心C1を水平にするための水準器23aが設けられている。水平台23は、水準器23aによって水平軸心C1を水平に設定することにより、望遠鏡21の軸心C2を水平に設定することが可能となっている。
【0032】
水平台23の下面には、球面固定部24が設けられている。球面固定部24は、支持軸25に対して全周方向に揺動可能に連結されている。球面固定部24は、ロックネジ(図示略)により支持軸25に対する水平台23の動きをロックする機能を有している。支持軸25の下端部は、アルミニウム合金などの角棒から構成される水平軸26に固定されている。水平軸26の軸方向端部には、磁石27が取付けられている。磁石27の吸着面27aは、可動台10の固定面10bに吸着可能となっている。
【0033】
つぎに、電線弛度測定装置1を用いた電線弛度測定方法および作用について説明する。
【0034】
例えば変電所などにおける電線の敷設作業においては、電線の長さの決定、切断および引き留めクランプの圧縮を地上側で行い、高所での作業量を軽減するプレハブ架線工法が採用されている。図7は、プレハブ架線工法によって一方の支持物と他方の支持物との間に敷設された電線の弛みを測定する電線弛度測定方法の作業手順を示している。
【0035】
図7のステップS61に示すように、架線工事に際しては、鉄構50におけるポスト51とポスト52との間の距離L1などを考慮し、敷設される電線54の長さが事前に決定され、地上側で電線54の切断が行われる。つぎに、ステップS62に示すように、ポスト51とポスト52に、それぞれ設計弛度を表示する基準点A1を設ける。すなわち、ポスト51とポスト52の表面には、作業者Mによって基準点A1が描かれる。
【0036】
その後、一方のポスト51の基準点A1が描かれている位置に、電線弛度測定装置1のスライド用レール2を固定する。スライド用レール2は、図4に示すように軸方向に分割されているが、スライド用レール2のポスト51への固定は、第1のレール2a〜第5のレール2eを連結紐2gによって連結した後に行われる。スライド用レール2のポスト51への固定は、磁石8、9によって行うことができるので、携帯用の万力やクランプなどを用いる場合よりも、迅速にかつ確実にスライド用レール2をポスト51へ固定することが可能となる。スライド用レール2をポスト51へ固定する際には、レール用水準器3の使用および可動支持部5を適宜移動させ、スライド用レール2が垂直となるように調整する。その後、ステップS63に示すように、可動台10にポケットコンパスと呼ばれる高さ水準観測器20を取付ける。高さ水準観測器20の可動台10への取付けは、磁石27の吸着面27aを可動台10の固定面10bに吸着させることにより行う。
【0037】
高さ水準観測器20の可動台10への取付けが終了すると、高さ水準観測器20の水平台23を水平にするための調整を行う。この調整作業は、球面固定部24のロックを解除した状態で、水準器23aを用いて行う。すなわち、水準器23aの気泡が中心部に位置するように水平台23を揺動させ、水平台23が水平となった状態で、球面固定部24をロックネジによってロックする。これにより、望遠鏡21の軸心C2も水平となる。
【0038】
水平台23が水平状態にされた後は、望遠鏡21の照準Pをポスト51の基準点A1に合わせるための調整を行う。この調整は、スライド用レール2に対して可動台10を上下方向に移動させることにより行われる。図8(a)は、望遠鏡21の照準Pをポスト51の基準点A1に合わせ、矢印S1方向から基準点A1を観測した状態を示している。つぎに、ステップS64に示すように、望遠鏡21の照準Pをポスト51の基準点A1に合わせた状態で、望遠鏡21を水平方向(矢印F5方向)に回動させ、望遠鏡21を電線54の最下点54aに向ける。
【0039】
図8(b)は、高さ水準観測器20を電線54の最下点54aの方向に向け、矢印S2方向から電線54の最下点54aを観測した状態を示している。この状態では、ステップS65に示すように、高さ水準観測器20の照準Pと電線54の弛みの最下点54aとの位置関係を比較し、照準Pが電線54の最下点54aと合致しているか否かが作業者Mによって判断される。ここで、照準Pが電線54の最下点54aと合致していると判断された場合は、電線54の弛度が設計弛度H1と一致しているとみなされ、電線54の弛度測定が終了する。
【0040】
ステップS65において、図8(b)に示すように、望遠鏡21の照準Pが電線54の最下点54aと合致していないと判断された場合は、すなわち、照準Pと電線54の最下点54aとの高さ方向の位置関係が高さH2だけ違っている場合は、この時点での高さ水準観測器20の観測位置をスライド用レール2の目盛り2fによって読み取り、その後、ステップS66に示すように、高さ水準観測器20を上昇させて照準Pを電線54の弛みの最下点54aに合致させる。図8(c)は、高さ水準観測器20を上昇させて照準Pを電線54の弛みの最下点54aに合致させた状態を示している。この状態では、ステップS66に示すように、照準Pと電線54の最下点54aが合致した際の高さ水準観測器20の昇降量(高さH2)をスライド用レール2の目盛り2fによって読取る。ここで、高さ水準観測器20の昇降量は、設計弛度H1に対する電線54の弛度を示し、電線54の弛度が許容値内にあるか否かを把握することができる。
【0041】
このように、高さ水準観測器20の昇降量をスライド用レール2の目盛り2fによって読取ることにより、設計弛度H1に対する電線54の弛度を測定することが可能となるので、従来の測定方法に比べて電線54の弛度測定が著しく容易となり、プレハブ架線工法によって変電所などに敷設された電線54の弛度測定に要する労力を大幅に軽減することができる。これにより、高所での作業の時間短縮および弛度測定作業のコスト低減が図れる。
【0042】
また、スライド用レール2の両端部は、支持物である一方のポスト51に固定可能な固定具4に支持されているので、ポスト51の基準点A1に例えば山形鋼などの障害物58があっても、障害物58をまたいでスライド用レール2を固定することが可能となり、高さ水準観測器20と障害物58との干渉を回避することができる。さらに、固定具4は、ポスト51を構成する鋼材に対して吸着可能な磁石8、9を有しているので、スライド用レール2を迅速かつ確実にポスト51に固定することができる。
【0043】
スライド用レール2は、軸方向に5つに分割可能となっているので、携帯するのに都合がよく、高所である鉄構50の上部への持ち運びが容易となる。また、スライド用レール3の上端には、固定具4にスライド用レール2を垂直に固定するための水準器3を設けているので、スライド用レール2が斜めに固定されるのを回避することができ、電線54の弛度測定精度を高めることができる。
【0044】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態では、スライド用レール2の両端部は、磁石8、9を介してポスト51に固定する構成としているが、スライド用レール2の両端部は、磁石以外の手段、例えば携帯可能な万力(クランプ)や専用の固定具を用いて鉄塔に固定する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 電線弛度測定装置1
2 スライド用レール
2f 目盛り
4 固定具
8、9 磁石
10 可動台
20 高さ水準観測器
21 望遠鏡
50 鉄構
51 ポスト(支持物)
52 ポスト(支持物)
54 電線
54a 最下点
H1 設計弛度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレハブ架線工法によって一方の支持物と他方の支持物との間に敷設された電線の弛みを測定する電線弛度測定方法であって、前記一方の支持物と前記他方の支持物とのそれぞれに前記電線の設計弛度を示す基準点を設け、前記一方の支持物の前記基準点に、上下方向に延び前記他方の基準点と前記電線の弛みの最下点を観測可能な高さ水準観測器が昇降可能に取付けられる目盛り付きのスライド用レールを固定し、前記スライド用レールに取付けられた前記高さ水準観測器の照準を前記他方の支持物の基準点に合せ、前記高さ水準観測器を水平方向に回動させることにより前記高さ水準観測器の照準と前記電線の弛みの最下点との位置関係を比較し、前記照準が電線の最下点に合致していない場合は、前記高さ水準観測器を昇降させて前記照準を前記電線の弛みの最下点に合致させ、前記照準と前記電線の最下点が合致した際の前記高さ水準観測器の昇降量を前記スライド用レールの目盛りによって読取ることを特徴とする電線弛度測定方法。
【請求項2】
プレハブ架線工法によって一方の支持物と他方の支持物との間に敷設された電線の弛みを測定する電線弛度測定装置であって、
上下方向に目盛りが付与された上下方向に延びるスライド用レールと、
前記スライド用レールの両端部を支持し、前記支持物に固定可能な固定具と、
前記スライド用レールに対して昇降可能に取付けられる可動台と、
前記可動台に取付けられ水平方向の回動によって前記他方の支持物の基準点と前記電線の弛みの最下点を観測可能な高さ水準観測器と、
を備えたことを特徴とする電線弛度測定装置。
【請求項3】
前記固定具は、前記支持物を構成する鋼材に対して吸着可能な磁石を有することを特徴とする請求項2に記載の電線弛度測定装置。
【請求項4】
前記スライド用レールは、軸方向に複数に分割可能であること特徴とする請求項2または3に記載の電線弛度測定装置。
【請求項5】
前記スライド用レールには、前記固定具に前記スライド用レールを垂直に固定するための水準器が設けられていることを特徴とする請求項2ないし4にいずれか1項に記載の電線弛度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−239628(P2011−239628A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110958(P2010−110958)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】