説明

電線被覆用樹脂組成物およびその製造方法、絶縁電線

【課題】高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた電線被覆用樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、1〜3%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された難燃化剤100〜250質量部、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量部以上である樹脂100質量部、有機過酸化物0.1〜0.5質量部を含有してなることを特徴とする電線被覆用樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れ、電子機器用電線などの被覆材などの用途に好適なハロゲンフリーの電線被覆用樹脂組成物およびその製造方法、並びに、電線被覆用樹脂組成物を用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器用電線にはUL認定が必要である。このような電線の難燃性は、UL94に示されたVW−1燃焼試験方法により、非常に高い難燃性が要求される。
このような電子機器用電線の被覆材として用いられる電線被覆用樹脂組成物としては、高い難燃性を有するとともに、焼却処分の際に有害なハロゲン化合物を発生することがないハロゲンフリーの電線被覆用樹脂組成物が検討されている。
ハロゲンフリーの電線被覆用樹脂組成物としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと記す。)やエチレン−エチルアクリレート共重合体などのポリオレフィン系樹脂に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの難燃化剤、メラミンシアヌレート、ヒドロキシスズ酸亜鉛などの難燃助剤を配合したものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなポリオレフィン系樹脂からなるハロゲンフリーの電線被覆用樹脂組成物は、多量に水酸化アルミニウムなどの難燃化剤を含むため、この樹脂組成物からなる電線の被覆材は、ポリ塩化ビニル樹脂からなる被覆材よりも耐外傷性に劣るという問題があった。
そこで、カップリングモディファイアとして、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された水酸化アルミニウムと有機過酸化物を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−294036号公報
【特許文献2】特表2005−520903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カップリングモディファイアとして、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された水酸化アルミニウムと有機過酸化物を用いる方法では、耐外傷性についての明確な効果が確認されていなかった。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた電線被覆用樹脂組成物およびその製造方法、並びに、電線被覆用樹脂組成物を用いた絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1〜3%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された難燃化剤100〜250質量部、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量部以上である樹脂100質量部、有機過酸化物0.1〜0.5質量部を含有してなることを特徴とする電線被覆用樹脂組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、前述した本発明に係る電線被覆用樹脂組成物が導体上に被覆されてなることを特徴とする絶縁電線を提供する。
【0008】
また、本発明は、難燃化剤とβ−カルボキシアクリル酸エチルとを混合し、この混合物に、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量%以上であるオレフィン樹脂と有機過酸化物を加えて混練して動的架橋を行うことを特徴とする電線被覆用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電線被覆用樹脂組成物によれば、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた絶縁電線を提供することができる。
【0010】
本発明の電線被覆用樹脂組成物の製造方法によれば、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた絶縁電線用途の電線被覆用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
「電線被覆用樹脂組成物」
本発明の電線被覆用樹脂組成物およびその製造方法、並びに、電線被覆用樹脂組成物を用いた絶縁電線の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明の電線被覆用樹脂組成物は、1〜3%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された難燃化剤100〜250質量部、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量部以上である樹脂100質量部、有機過酸化物0.1〜0.5質量部を含有してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の電線被覆用樹脂組成物に用いられる樹脂としては、アイソタクチックポリプロピレンあるいはアタクチックポリプロピレンが挙げられ、例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなど)との共重合体、アタクチックポリプロピレン重合体を主成分とするポリプロピレン系樹脂などが挙げられ、各種の市販品の中から適宜選択して用いることができる。これらのポリプロピレン系樹脂は1種類でも良いし、2種類以上混合して使用することができる。
【0014】
上記のポリプロピレン系樹脂と混合して用いられる樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、水添スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合樹脂、アクリルゴム、エチレン−アクリルゴムなどが挙げられる。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂100質量部中のアイソタクチックポリプロピレンあるいはアタクチックポリプロピレンの配合量は、30質量部以上の範囲とし、30質量部以上、80質量部以下が好ましい。アイソタクチックポリプロピレンあるいはアタクチックポリプロピレンの配合量が30質量部未満では、得られる電線被覆用樹脂組成物の引張破断強度が低下し、結果として、耐外傷性が劣化する。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂中におけるアイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの配合比(質量比)は、常にアイソタクチックポリプロピレンの配合量が多くなるようにし、55:45〜80:20が好ましく、60:40〜70:30がより好ましい。
アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの配合比(質量比)が55:45未満では、得られる電線被覆用樹脂組成物の引張破断強度が低下し、結果として、耐外傷性が劣化する。一方、アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの配合比(質量比)が80:20を超えると、得られる電線被覆用樹脂組成物の引張破断伸びが劣化する。
【0017】
難燃化剤としては、難燃性付与効果が大きい水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、これらの中でも水酸化マグネシウムが好適である。この水酸化マグネシウムとしては、その平均粒子径が0.7〜1.3μmのものが好ましい。
【0018】
また、本発明の電線被覆用樹脂組成物では、難燃化剤が、その1〜3質量%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理されている。これにより、難燃化剤のポリプロピレン系樹脂に対する親和性が高められ、分散性が向上する。
難燃化剤に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量が1質量%未満では、難燃化剤のオレフィン樹脂に対する親和性が改善されず、分散性も向上しない。一方、難燃化剤に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量が3質量%を超えると、β−カルボキシアクリル酸エチルの凝集体が架橋して異物として残る。
【0019】
また、難燃化剤の配合量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、100〜250質量部の範囲とする。
難燃化剤の配合量が100質量部未満であると、電線被覆用樹脂組成物の難燃性が悪くなる。一方、難燃化剤の配合量が250質量部を超えると、電線被覆用樹脂組成物の耐水性が悪化する。
【0020】
有機過酸化物としては、1分間半減期温度が150〜180℃のものが用いられ、例えば、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシレン−3、ジアルファークミルパーオキサイドなどが挙げられる。
これらの有機過酸化物は、炭酸カルシウムに表面処理されたものを、難燃化剤とともに添加するか、あるいは、液状のまま添加してもよい。
【0021】
この有機過酸化物の配合量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1〜0.5質量部の範囲とする。
有機過酸化物の配合量が0.1質量部未満であると、樹脂の架橋が十分ではなく、得られる電線被覆用樹脂組成物の引張破断強度が低下し、結果として、耐外傷性が劣化する。一方、有機過酸化物の配合量が0.5質量部を超えると、ポリプロピレン系樹脂の分解により分子量が低下し、物性が低下し、結果として、電線被覆用樹脂組成物の耐水性が悪化する。
【0022】
本発明の電線被覆用樹脂組成物では、前述した必須成分以外に、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、帯電防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤、無機充填剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0023】
このような本発明の電線被覆用樹脂組成物は、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた絶縁電線を提供することができる。
また、本発明の電線被覆用樹脂組成物は、塩素などのハロゲン元素が含まれないので、これらを焼却処分する際に、有害なハロゲン含有ガスが発生することがない。
【0024】
「電線被覆用樹脂組成物の製造方法」
本発明の電線被覆用樹脂組成物の製造方法は、難燃化剤とβ−カルボキシアクリル酸エチルとを混合し、この混合物に、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量%以上である樹脂と有機過酸化物を加えて混練して動的架橋を行うことを特徴とする。
【0025】
以下、詳細に説明する。
まず、難燃化剤に対して所定量のβ−カルボキシアクリル酸エチルを添加し、攪拌・混合処理を行い、これらの混合物を得る。
次いで、この混合物を40℃〜75℃にて、10分〜40分乾燥する。
その後、ヘンシェルミキサー、アトマイザーなどにより、乾燥した混合物を粉砕する。
【0026】
次いで、混合物に、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量%以上である樹脂と、有機過酸化物とを加えて、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロールなどにより、これらを混練して、動的架橋を行い、電線被覆用樹脂組成物を得る。
ここで、動的架橋とは、オレフィン樹脂の融点よりも高い温度で、上記の材料を混練し、混練中に高剪断の元でアイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンを架橋することを意味する。
具体的には、この混練による動的架橋では、混練物を160℃〜180℃にて、1分以上加熱する。
【0027】
本発明の電線被覆用組成物の製造方法によれば、高い難燃性、電気絶縁性、耐外傷性に優れた絶縁電線用途の電線被覆用樹脂組成物を提供することができる。
【0028】
「絶縁電線」
本発明の絶縁電線は、前述した電線被覆用樹脂組成物からなる絶縁体または絶縁体とシースを有するもので、導体上もしくは絶縁体上に周知の押出被覆法により前記電線被覆用樹脂組成物を被覆して絶縁体あるいはシースを形成したものである。
また、本発明の絶縁電線は、本発明の電線被覆用樹脂組成物からなる絶縁体または絶縁体とシースを有するので、耐外傷性に優れている。
さらに、本発明の絶縁電線は、塩素などのハロゲン元素が含まれないので、これらを焼却処分する際に、有害なハロゲン含有ガスが発生することがない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
表1(実施例1〜4)および表2(比較例1〜3)に示す配合組成(単位:質量部)の樹脂組成物を配合した。
表1および表2において、各配合成分は以下の市販品を用いた。
アイソタクチックポリプロピレン(表1、表2中「アイソタクチックPP」と記す)として、E111G(商品名、プライムポリマー社製)を用いた。
アタクチックポリプロピレン(表1、表2中「アタクチックPP」と記す)として、タフレセンT1712(商品名、住友化学社製)を用いた。
水添スチレン−ブタジエンゴムとして、ダイナロン1320P(商品名、JSR社製)を用いた。
水酸化マグネシウムとして、キスマ5L(商品名、協和化学社製)を用いた。
2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシレン−3として、カヤヘキサYD−E85(商品名、化薬アクゾ社製)を用いた。
ジアルファークミルパーオキサイドとして、パーカドックスBC−FF(商品名、化薬アクゾ社製)を用いた。
β−カルボキシアクリル酸エチルとして、C−800(商品名、ルーブリゾール社製)を用いた。
【0031】
次いで、この樹脂組成物の配合物をバンバリーミキサーにより180℃にて5分間混練した。
その際、表1および表2中に記した各配合成分に加え、加工助剤としてオレフィン樹脂100質量部に対し5質量部のステアリン酸および2質量部の酸化防止剤を添加した。
混練後、押出機にて、AWG26(7/0.16TA)の導体上に押出被覆を行い、絶縁厚0.3mmの被覆を形成した。
得られた絶縁電線について、以下の評価を行った。
【0032】
(引張破断強度)
引張破断強度が10MPa以上であれば合格とした。
(引張破断伸び)
引張破断伸びが300%以上であれば合格とした。
(耐外傷性)
耐外傷性試験の条件として、速度100mm/minにて、先端径が0.3mmのダイアモンド圧子による引掻き試験を行った。このダイアモンド圧子による傷付き開始荷重が1000gf以上であれば合格とした。
【0033】
引張破断強度および引張破断伸びは、UL1581(PHYSICAL PROPERTIES TESTS OF INSULATION AND JACKET)に記載の方法に従って測定した。
結果を表1、2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1に示す本発明に係る実施例1〜4は、十分な引張破断強度と引張破断伸び、十分な耐外傷性を達成することができた。
【0037】
一方、表2に示す比較例1では、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が25質量部であり、引張破断伸びが不合格となった。
比較例2では、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシレン−3が0.05質量部であり、引張破断伸びが不合格となった。
比較例3では、β−カルボキシアクリル酸エチルが7質量部であり、引張破断強度および耐外傷性が不合格となった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜3%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された難燃化剤100〜250質量部、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量部以上である樹脂100質量部、有機過酸化物0.1〜0.5質量部を含有してなることを特徴とする電線被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電線被覆用樹脂組成物が導体上に被覆されてなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
難燃化剤とβ−カルボキシアクリル酸エチルとを混合し、この混合物に、アイソタクチックポリプロピレンおよびアタクチックポリプロピレンの総量が30質量%以上であるオレフィン樹脂と有機過酸化物を加えて混練して動的架橋を行うことを特徴とする電線被覆用樹脂組成物の製造方法。



【公開番号】特開2009−40973(P2009−40973A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210200(P2007−210200)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】