説明

電縫管の製造方法

【課題】 ワーク部材の端部の溶断を防止できる電縫管の製造方法の提供。
【解決手段】 平板状の鋼板1を管状に曲げて加工したワーク部材2を形成すると共に、その両縁部4,5同士を軸方向に亘って外側から溶接して接合するようにした電縫管11の製造方法において、ワーク部材2の端部2a,2bの両縁部4,5に耐溶着性を有するシールド部材6,7を面一状態で接続し、該シールド部材6,7と両縁部4,5に跨って溶接を行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状の鋼板を管状に曲げて加工したワーク部材を形成すると共に、その両縁部同士を溶接して接合するようにした電縫管の製造方法の技術が公知となっている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−301232号公報
【特許文献2】特開平09−2160942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発明にあっては、ワーク部材における溶接の開始位置または終了位置を端部に設定すると、溶接による大きな熱応力が端部に集中して変形等が発生し易いという問題点があった。
さらに、溶接の接合強度が低いため、溶接後の電縫管を縮径または拡径して塑性変形させた際に溶接ビードに変形等が生じる虞がある。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ワーク部材の端部の溶断を防止できる電縫管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1記載の発明では、平板状の鋼板を管状に曲げて加工したワーク部材を形成すると共に、その両縁部同士を軸方向に亘って外側から溶接して接合するようにした電縫管の製造方法において、上記ワーク部材の端部の両縁部に耐溶着性を有するシールド部材を接続し、該シールド部材と両縁部に跨って上記溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明では、ワーク部材の端部の両縁部に耐溶着性を有するシールド部材を接続し、該シールド部材と両縁部に跨って溶接を行うため、溶接による大きな熱応力が端部に集中する虞がなく、これにより、変形等を防止できる。
また、シールド部材は耐溶接性を有するため、シールド部材とワーク部材とが溶着する虞もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
以下、実施例1を説明する。
図1、2は実施例1のワーク部材の形成を説明する図、図3は実施例1の溶接装置を説明する平面図、図4は図3のS4−S4線における断面図(一部断面を省略)である。
図5は実施例1の溶接装置とワーク部材の配置を説明する平面図、図6〜8は実施例1のワーク部材の両縁部同士の溶接を説明する図、図9は実施例1の電縫管を示す平面図である。
【0009】
先ず、実施例1の電縫管の製造装置を説明する。
実施例1の電縫管の製造方法では、前工程S1と後工程S2がこの順序で行われる。
【0010】
<前工程>
先ず、前工程S1では、図1に示すような平板状の鋼板1を図示しない公知のロール成形装置を用いて管状に曲げて加工し、図2に示すようなワーク部材2を形成する。
【0011】
<後工程>
次に、後工程S2では、図3、4に示す溶接装置3を用いてワーク部材2の両縁部4,5同士(図2参照)を接合する。
具体的には、実施例1の溶接装置3は、所定間隔を置いて対向配置される一対のシールド部材6,7と、シュリンク型8と、溶接トーチ9等が備えられている。
【0012】
シールド部材6は、異径の先端部6aと基端部6bとの間に段部6cを有する略円柱状に形成される他、その基端部6bは図示しない駆動装置(油圧式シリンダ等)のロッド6dに接続され、このロッド6dの伸縮により軸方向(図中矢印方向)に移動可能に設けられている。
また、シールド部材6は、銅系または銀系の合金製で、耐溶着性及び耐アーク性(請求項の耐溶接性)、耐消耗性、高導電性、低接触抵抗等に優れる特性を備えている。
【0013】
シールド部材7は、シールド部材6と同素材で、異径の先端部7aと基端部7bとの間に段部7cを有する略円柱状に形成される他、その基端部7bは図示しない駆動装置(油圧式シリンダ等)のロッド7dに接続され、このロッド7dの伸縮により軸方向(図中矢印方向)に移動可能に設けられている。
【0014】
シュリンク型8は、シールド部材7の周囲を囲むように配置される他、それぞれシールド部材7の外周との間にワーク部材2の板厚分の隙間を有する押圧面を備え、且つ、軸周り方向に回転可能な略円柱状の押圧ローラ8aが該シールド部材7の両側と下方にそれぞれ設けられている。
また、シュリンク型8の上方には、開口部8bがシールド部材6側に切欠された状態で延設されると共に、この開口部8bの基端側に臨んだ状態で上方には溶接トーチ9が配置されている。
また、溶接トーチ9と隣接して開口部8bに臨んだ状態で刃状の規制部材10が配置されている。
さらに、シュリンク型8の貫通孔8cの内径寸法L1は、後述の製造すべき電縫管11の外径よりも大きく、シールド部材6側に行くにつれて狭くなるように僅かに傾斜状に形成される一方、シールド部材6の両側に配置された回転ローラ8a同士の中心部間寸法L2は後述の製造すべき電縫管11の外径と一致するように設定されている。
【0015】
溶接トーチ9は、公知のプラズマ溶接機の溶接トーチであり、プラズマアークによる高温エネルギーで被溶接材料を溶融して再凝固させて溶接を行うものである。
【0016】
このような溶接装置3を用いてワーク部材2の両縁部4,5同士を接合するには、先ず、図5に示すように、ワーク部材2の両縁部4,5を溶接トーチ9側に向けて配置し、その両端部2a,2bの内側にそれぞれ対応するシールド部材6,7の先端部6a,7aを挿入して面一状態で接続する。
【0017】
この際、ワーク部材2の端部2bの内側にシールド部材7の先端部7aを嵌合して、シールド部材7のロッド7dを伸長してワーク部材2をシュリンク型8の中心孔8cに押し込むことにより、ワーク部材2の端部2aをシールド部材6の先端部6aを嵌合させる。
この際、ワーク部材2の両端部2a,2bをそれぞれ対応する段部6c,7cに当接させて位置決めできる。
【0018】
また、ワーク部材2の一端部2a側は、シュリンク型8の傾斜状の中心孔8cに当接して両縁部4,5同士間が近接した状態となる一方、他端部2b側の両縁部4,5同士間には極僅かな隙間L3が形成され、ここに規制部材10の刀状の先端が図示しない駆動装置により挿入配置される。
さらに、溶接トーチ9の直下には、シールド部材6の基端部6bが配置され、これにより、ワーク部材2の一端部2aと溶接トーチ9の溶接開始位置との間には所定の距離L4が設けられることとなる。
【0019】
次に、両シールド部材6,7のロッド6d,7dを同期駆動させて、ワーク部材2を図5の矢印方向に移動させると共に、溶接トーチ9によりプラズマアーク9a(図6の一点鎖線で図示)を放射させることにより、ワーク部材2の両縁部4,5を軸方向に亘って溶接して接合する。
【0020】
この際、図6に示すように、ワーク部材2は、下方の押圧ローラ8aに支承されつつ、両側の押圧ローラ8aで押圧されて挟まれることにより、両縁部4,5を完全に密着させて溶接を行うことができる。
また、規制部材10が隙間L3に挿入して溶接中のワーク部材2の周方向の位置ずれを防止できるようになっている。
【0021】
また、図7に示すように、溶接の開始時において、溶接トーチ9はプラズマアーク9aをシールド部材6の基端部6bからワーク部材2の一端部2aの両縁部4,5に跨って放射する。
これにより、溶接による熱応力が大きい溶接開始位置はシールド部材6の基端部6bとなるため、ワーク部材2の一端部2aの両縁部4,5が変形するのを防止できる。
また、シールド部材6は耐溶接性を有するため、ワーク部材2の両縁部4,5にのみ溶接ビードX1(図9参照)が形成されると同時に、シールド部材6とワーク部材2が溶着されることもない。
【0022】
また、図8に示すように、溶接の終了時において、溶接トーチ9はプラズマアーク9aをワーク部材2の他端部2bの両縁部4,5からシールド部材7の基端部7bに跨って放射する。
これにより、溶接による熱応力が大きい溶接終了位置はシールド部材7の基端部7bとなるため、ワーク部材2の他端部2bの両縁部4,5が変形するのを防止できる。
また、シールド部材7は耐溶接性を有するため、ワーク部材2の両縁部4,5にのみ溶接ビードX1が形成されると同時に、シールド部材7とワーク部材2が溶着されることもない。
【0023】
また、シールド部材6,7の先端部6a,7aがワーク部材2の両端部2a,2bの内側に重ねられるため、両端部2a,2bの内側に裏ビードが形成されにくくなり、好適となる。
【0024】
最後に、溶接装置3からワーク部材2を取り外すことにより、図9に示すような所望の電縫管11を得る。
なお、電縫管11の用途は適宜設定でき、排気管等の密封性を有する管体に用いて好適となる。
また、電縫管11は良好な溶接により両縁部4,5の接合強度に優れ、特に電縫管11を縮径または拡径して塑性変形しても溶接ビードX1に亀裂が生じることがなく、好適となる。
【0025】
次に、効果を説明する。
以上、説明したように、実施例1の電縫管11の製造方法にあっては、平板状の鋼板1を管状に曲げて加工したワーク部材2を形成すると共に、その両縁部4,5同士を軸方向に亘って外側から溶接して接合するようにした電縫管11の製造方法において、ワーク部材2の端部2a,2bの両縁部4,5に耐溶着性を有するシールド部材6,7を接続し、該シールド部材6,7と両縁部4,5に跨って溶接を行うため、ワーク部材2の端部2a,2bの溶断を防止できる。
また、シールド部材6,7は耐溶接性を有するため、シールド部材6,7とワーク部材2とが溶着する虞もない。
【0026】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、溶接装置3の詳細な構成は適宜設定でき、例えば、実施例1では溶接トーチ9、シュリンク型8、及び規制部材10を固定側とし、ワーク部材2を移動側としたが、これら両者は相対移動すれば良い。
【0027】
また、実施例1では、前工程と後工程を別々にしたが、連続的に行っても良く、この場合、帯状の鋼板をアンコイラから引き出しながら連続的に電縫管を形成して所定長さに切断し、アンコイラの引き出し開始または終了時にワーク部材にシールド部材を設ける。
さらに、実施例1では各シールド部材6,7を一体的に形成したが、プラズマアーク9aが当たる部位のみを非溶接性を有する素材で形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1のワーク部材の形成を説明する図である。
【図2】実施例1のワーク部材の形成を説明する図である。
【図3】実施例1の溶接装置を説明する平面図である。
【図4】図3のS4−S4線における断面図(一部断面を省略)である。
【図5】実施例1の溶接装置とワーク部材の配置を説明する平面図である。
【図6】実施例1のワーク部材の両縁部同士の溶接を説明する図である。
【図7】実施例1のワーク部材の両縁部同士の溶接を説明する図である。
【図8】実施例1のワーク部材の両縁部同士の溶接を説明する図である。
【図9】実施例1の電縫管を示す平面図である。
【符号の説明】
【0029】
X1 溶接ビード
1 鋼板
2 ワーク部材
3 溶接装置
4、5 両縁部
6、7 シールド部材
6a、7a 先端部
6b、7b 基端部
6c、7c 段部
6d、7d ロッド
8 シュリンク型
8a 押圧ローラ
8b 開口部
8c 中心孔
9 溶接トーチ
9a プラズマアーク
10 規制部材
11 電縫管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鋼板を管状に曲げて加工したワーク部材を形成すると共に、その両縁部同士を軸方向に亘って外側から溶接して接合するようにした電縫管の製造方法において、
前記ワーク部材の端部の両縁部に耐溶接性を有するシールド部材を接続し、該シールド部材と両縁部に跨って前記溶接を行うことを特徴とする電縫管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−208120(P2009−208120A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53867(P2008−53867)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】