説明

電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔、およびその製造方法

【課題】 高い静電容量が得られ、静電容量の経時変化の少ない、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を提供する。
【解決手段】 電解コンデンサ用のアルミニウム陰極箔を製造するにあたって、金属膜形成工程において、粗面化したアルミニウム基材6にTi皮膜7を蒸着により形成した後、カーボン微粒子定着工程において、カーボン微粒子2を有機系のバインダーに分散したものを塗布し、加熱する。金属膜形成工程の後、カーボン微粒子定着工程の前に、Ti皮膜7の上層側にカーボン皮膜を形成するカーボン層形成工程を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い静電容量を得る電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法としては、アルミニウム基材にTiを蒸着処理する手法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
その代表的な製造方法としては、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、粗面化したアルミニウム基材上に、Tiの微粒子を蒸着する方法(例えば、特許文献1、2、3参照)、雰囲気ガスとして窒素を使用し、陽極アーク蒸着法によりイオン化し、TiN皮膜を得る方法(例えば、特許文献4、5参照)、Tiを蒸着する際、基材への入射角度を変化させて、多孔質のTiやTiN膜を生成させる方法(例えば、特許文献6、7参照)が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらのTiやTiNをアルミニウム基材に蒸着処理した陰極箔(以下、Ti蒸着箔という)は、高い静電容量が得られるにもかかわらず、Tiの表面に酸化皮膜が徐々に成長するため、静電容量の低下(経時変化)が大きいという問題点を有している(例えば、非特許文献1参照)。
一方、電気二重層コンデンサには、カーボン微粒子や活性炭をアルミニウム基材に塗布した、極めて実表面積の(静電容量の)大きな電極箔(以下、カーボン塗布箔と呼ぶ)が使用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
カーボンそのものは、化学的に安定で酸化皮膜を生成しないため、電解コンデンサ用の陰極材料としては理想的な材料であり、塗布による製造方法は、安価で生産性も高く、工業的にも優れている。
【特許文献1】特許第1674572号公報
【特許文献2】特許第1636763号公報
【特許文献3】特許第1631296号公報
【特許文献4】特許第2687299号公報
【特許文献5】特許第2864477号公報
【特許文献6】特許第3168587号公報
【特許文献7】特許第3475193号公報
【非特許文献1】永田伊佐也著,「電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ」,日本蓄電器工業株式会社,平成9年2月24日,P344〜345,P20〜23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常、電解コンデンサの駆動用電解液には、水分が含まれるため、充放電等により、わずかでも逆電圧が印加された場合、カーボン塗布箔の場合、カーボン塗布材とアルミニウム基材との間に、アルミニウムの酸化皮膜が生成して絶縁状態となり、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔としては使用できないという問題点を有する。
【0006】
このように、Ti蒸着箔、カーボン塗布箔共に、高い静電容量が得られるにもかかわらず、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔としては、特性的に不十分である。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、静電容量が高く、かつ、静電容量の経時変化の少ない電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔では、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜が形成され、該金属膜の上層側には、カーボン微粒子が定着されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記金属膜の表面にカーボン皮膜が形成され、該カーボン皮膜の表面に前記のカーボン微粒子が定着されている構成を採用してもよい。
【0010】
本発明に係る電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法では、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜を蒸着等により形成する金属膜形成工程と、前記金属膜の上層側に、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布した後、加熱処理を行うカーボン微粒子定着工程とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記金属膜形成工程の後、前記カーボン微粒子定着工程の前に、前記金属膜の上層側にカーボン皮膜を蒸着等により形成してもよい。
【0012】
本発明において、金属膜としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wを用いることができるが、上記金属のうち、Ti以外のZr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wはいずれも、融点が高く、比較的高価であるため、Tiが工業的にもっとも取り扱いやすいという利点がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い静電容量が得られると共に、静電容量の経時変化を抑制することができ、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔およびその製造方法として極めて有益なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
[実施の形態1]金属膜にカーボン微粒子定着
図1は、カーボン塗布箔でのカーボン微粒子とアルミニウム基材との接触状況、および、化成処理を行った場合に生成する絶縁性の酸化皮膜を示す模式図である。
図2は、本発明に係る陰極箔で、粗面化したアルミニウム基材、Ti皮膜、およびカーボン微粒子の接合状況を示す模式図である。
【0016】
本発明の実施の形態1に係る電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔では、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜が形成され、この金属膜の上層側には、多数のカーボン微粒子が定着されている。
【0017】
このような電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造工程では、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうちいずれかの金属膜を蒸着等により形成する金属膜形成工程と、金属膜の上層側に、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布した後、加熱処理を行うカーボン微粒子定着工程とを行う。
【0018】
本発明の実施の形態1では、まず、基材にアルミニウムを使用するが、この目的は、電解コンデンサの陰極箔の基材として、駆動用電解液と反応しないという点と、電解コンデンサの組立や使用において豊富な実績を有する点にある。基材のアルミニウムには、粗面化したアルミニウム材を使用した方が、後述するように、Tiとカーボンの接合強度の面から優れている。
【0019】
次に、本発明の実施の形態1では、最初にTi皮膜等の金属膜を蒸着等により形成し、次に、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布するが、この目的は、Ti皮膜を介して、アルミニウムとカーボン微粒子とを化学的に接合することにある。
【0020】
アルミニウムを基材としたカーボン塗布箔の問題点は、アルミニウムとカーボンとの接着が、塗布材に含まれるバインダーによるファンデルワールス力によるもので、アルミニウムを酸化した場合に生成する酸化皮膜の生成力、つまりイオン結合力より弱いことにある。また、カーボン塗布材(カーボン微粒子+バインダー)は、アルミニウム基材を完全には覆っておらず、駆動用電解液は、アルミニウム基材とカーボン塗布材との界面に一部浸透する。
【0021】
このため、図1に示すように、アルミニウム基材1の表面にカーボン微粒子2およびバインダー3を備えたカーボン塗布箔では、水分を含む駆動用電解液中で電圧が印加されると、アルミニウム基材の表面に絶縁性の酸化皮膜4が生成して膨張する。その際、膨張による応力が、塗布材に含まれるバインダーによるファンデルワールス結合力を上回るため、剥離したバインダーを図1に符号5で示すように、カーボン塗布材の剥離が起って、駆動用電解液の浸透、酸化皮膜の生成と新たな応力の発生が連鎖的にくり返し発生し、最終的に電気的な接触が絶たれてしまう。
【0022】
しかるに本形態では、図2に示すように、粗面化したアルミニウム基材6の表面にTi膜7等の金属膜を蒸着しているため、Ti原子等の金属原子と基材のアルミニウムとが反応する。その界面には、Tiとアルミニウムとの合金層(図2、符号10)で示すように、合金接合が生じ、また、後述するとおり、金属皮膜上に塗布された有機系のバインダーは加熱処理すると、炭化してカーボン8に変化し、金属と導電性の炭化物(Tiと炭化したバインダーとの導電性の化合物層9)を生成して化学的に接合する。
【0023】
この場合、Ti皮膜とカーボンとの接合面積はなるべく大きい方が、駆動用電解液による酸化の影響が小さくできるので、アルミニウム基材は、化学的、電気化学的に粗面化したエッチング箔や、機械的に粗面化したアルミニウム材を用いることが好ましい。
【0024】
また、図2に示すように、Ti膜等の金属膜も、蒸着の際の真空度を高めたり、電場をかけてイオン化するなどの方法により、均一な膜状のものとすることが望ましく、特に、粗面化したアルミニウム材への付き回りを改善すると良い結果が得られる。
【0025】
さらに、本発明の実施の形態1では、加熱処理を行うが、その目的は、図2に示すカーボン微粒子2とTi膜7との化学的な接合にある。
【0026】
カーボン塗布材に使用される有機系のバインダーには、例えば、フェノール系の樹脂を有機溶媒で希釈したものが使用されている。
【0027】
電気二重層コンデンサ用の電極を作成する場合、加熱処理は、バインダーが若干炭化し、導電性を有すると共に、バインダーそのものが持つアルミニウムとの接着性が保持できる温度、より具体的には200〜300℃程度の比較的低い温度で行われる。
【0028】
しかしながら、本形態の場合、有機系バインダーを完全に炭化させ、生成した炭素とTi等の金属との化学反応による接合を目的とするので、カーボン塗布材の酸化反応や、Ti膜等の金属膜の酸化や窒化が起こらない範囲で、高温で加熱処理した方が良く、具体的には、300〜450℃の範囲で、最適な条件を見いだせばよい。
【0029】
[実施の形態2]金属膜上にカーボン皮膜を形成し、カーボン微粒子定着
本発明の実施の形態2では、実施の形態1の金属膜の表面にカーボン皮膜が形成され、当該カーボン皮膜の表面に前記多数のカーボン微粒子が定着されている。すなわち、本発明の実施の形態2に係る電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔では、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜が形成されているとともに、前記金属膜の表面にカーボン皮膜が形成され、該カーボン皮膜の表面に前記多数のカーボン微粒子が定着されている。
【0030】
このような電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法では、実施の形態1に係る製造方法において、前記金属膜形成工程の後、前記カーボン微粒子定着工程の前に、前記金属膜の上層側にカーボン皮膜を形成するカーボン層形成工程を行う。
すなわち、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造工程において、粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜を蒸着等により形成する金属膜形成工程と、前記金属膜の上層側にカーボン皮膜を形成するカーボン層形成工程と、該カーボン皮膜の表面に、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布した後、加熱処理を行うカーボン微粒子定着工程とを行う。
【0031】
このように本形態では、最初にTi皮膜等の金属膜を蒸着したのち、カーボン皮膜を蒸着した上、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布し加熱処理するため、カーボン蒸着の際、カーボン原子とTi蒸着皮膜などの金属膜との反応を促進でき、化学的な接合をより完全なものとすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0033】
[実施例1−1〜1−10]Ti真空蒸着とカーボン微粒子定着の検討
まず、金属膜形成工程において、市販の陰極用エッチング箔を10cm幅にスリットしたコイルを、真空蒸着装置にセットし、真空度5×10-4Torr(0.065Pa)まで真空引きした後、表1に示す条件で、Tiを片面蒸着する。
次に、カーボン微粒子定着工程においては、Tiを蒸着した面に、市販のフェノール樹脂系バインダーを使用したカーボン塗布材を約10μm厚で塗布した後、加熱処理し、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0034】
(比較例1)
上記のエッチング箔の代わりに0.5mm厚の平滑箔を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0035】
(従来例1)
実施例1−1と同じエッチング箔を用い、真空度5×10-4Torr中でTiを2g/m蒸着し、カーボン塗布および加熱処理は行わず、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0036】
(従来例2)
比較例1と同じ0.5μm厚の平滑箔を用い、蒸着は行わず、カーボン塗布は実施例1−1と同様にし、加熱処理は200℃30分として電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0037】
(従来例3)
実施例1−1と同じエッチング箔を用い、蒸着は行わず、カーボン塗布は実施例1−1と同様にし、加熱処理は200℃30分として電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0038】
このようにして製造した電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔についての評価は、次の2項目について行った。
【0039】
評価の第1項目は、作製後湿度35%の常温大気中で、1日放置した陰極箔と、3ヶ月放置した陰極箔のセンター部分の静電容量をJEITA法に準じて測定すると共に、その容量変化率A(1日放置後の静電容量値から、3ヶ月放置後の静電容量値を引いた値を、1日放置後の静電容量値で除した値、以下同じ。)から評価を行った。
【0040】
評価の第2項目は、作製後湿度35%の常温大気中で、1日放置した陰極箔をアジピン酸アンモニウム20g/dm、65℃中で、0.5V5分間印加して化成を行い、作製後湿度35%の常温大気中で、1日放置した陰極箔と、0.5V5分間印加して化成を行った陰極箔のセンター部分の静電容量をJEITA法に準じて測定すると共に、その容量変化率B(1日放置後の静電容量値から、0.5V5分印加後の静電容量値を引いた値を、1日放置後の静電容量値で除した値、以下同じ。)から評価を行った。
【0041】
なお、市販の陰極用エッチング箔には、製造後3ヶ月放置し、容量の安定したものを用い、その静電容量は、約80μF/cmであった。
【0042】
上記の容量変化率A、Bについて算出した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すとおり、従来例1のTi蒸着箔(陰極用エッチング箔にTi微粒子を蒸着したもの)は、静電容量の経時変化(容量変化率A)が大きく、一方、従来例2、3のカーボン塗布箔は、化成後の容量変化(容量変化率B)が大きい。これに対して、実施例1−1〜1−10は、カーボン塗布箔に近い静電容量の経時変化(容量変化率A)を示し、かつ、化成後の容量変化(容量変化率B)も大幅に改善されている。
【0045】
Tiの蒸着皮膜厚は、厚い方が、容量変化率が小さくなる傾向を示すが、2μm以上では静電容量が下がっており(実施例1−5)、実施例1−1〜1−10で使用した陰極用エッチング箔では、エッチングされた面が平滑化するためと推定され、使用する基材により適宜最適値を設定すればよい。
【0046】
同様に、実施例1−1〜1−10で使用したカーボン塗布材では、炭化が始まると思われる300℃以上で、化成後の容量変化(容量変化率B)が小さくなっているが、400℃以上では、静電容量が低下してきており、カーボン塗布材の酸化等が起こっていると考えられ、この傾向は、使用するカーボン塗布材の性質により変化すると推定される。
【0047】
[実施例2−1〜2−10]アルゴン中でのTiスパッタリングとカーボン微粒子定着の検討
まず、金属膜形成工程において、市販の陰極用エッチング箔を10cm幅にスリットしたコイルを、直流スパッタリング装置にセットし、真空度5×10-4Torr(0.065Pa)まで真空引きした後、アルゴンを5×10-2Torr(6.5Pa)となるように導入し、表2に示す条件で、Tiを片面スパッタリングする。
次に、カーボン微粒子定着工程においては、Tiをスパッタリングした面に、市販のフェノール樹脂系バインダーを使用したカーボン塗布材を約10μm厚で塗布した後、加熱処理し、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0048】
(従来例4)
実施例2−1と同じエッチング箔を用い、真空度5×10−4Torrまで真空引きした後、アルゴンを5×10−2Torrとなるように導入し、Tiを2g/m蒸着し、カーボン塗布および加熱処理は行わず、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作製した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すとおり、実施例2−1〜2−9についても、カーボン塗布箔に近い、静電容量の経時変化(容量変化率A)を示し、化成後の容量変化(容量変化率B)も改善されている。
【0051】
実施例1−1と実施例2−4とを比較すると、同一Ti皮膜厚では、スパッタリングの方が、静電容量変化率Bは小さく、Tiの付き回りがよいためと判断されるが、スパッタリングでは、Ti皮膜厚を厚くすることが難しいため、更に、Ti皮膜を厚手化するためには、イオンプレーティング等の方法を取るとよい。
【0052】
[実施例3−1〜3−10]Ti蒸着とカーボン蒸着、カーボン微粒子定着の検討
まず、金属膜形成工程において、市販の陰極用エッチング箔を10cm幅にスリットしたコイルを、真空蒸着装置にセットし、真空度5×10-4Torr(0.065Pa)まで真空引きした後、表3に示す条件で、Tiを片面蒸着する。
次に、カーボン層形成工程では、真空度5×10-4Torr(0.065Pa)の条件下で、Ti蒸着面にカーボンを片面蒸着した。
次に、カーボン微粒子定着工程においては、Tiとカーボンを蒸着した面に、市販のフェノール樹脂系バインダーを使用したカーボン塗布材を約10μm厚で塗布した後、加熱処理を行って、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作成し、静電容量と容量変化率を評価した。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示すとおり、実施例3−1〜3−10についても、カーボン塗布箔に近い、静電容量の経時変化(容量変化率A)を示し、化成後の容量変化(容量変化率B)も大幅に改善されている。
【0055】
また、カーボン蒸着を行った場合は、行わない場合と比較して、化成時の容量変化(容量変化率B)が改善される傾向が見られている。
【0056】
[実施例4−1〜4−17、3−1、3−4、3−6]金属蒸着とカーボン蒸着、カーボン微粒子定着の検討
まず、金属膜形成工程において、市販の陰極用エッチング箔を10cm幅にスリットしたコイルを、真空蒸着装置にセットし、真空度5×10-4Torr(0.065Pa)まで真空引きした後、表4に示す条件で、Ti等の金属膜を片面蒸着する。
次に、カーボン層形成工程では、金属膜上にカーボンを片面蒸着した。
次に、カーボン微粒子定着工程においては、各金属膜、およびカーボン膜を蒸着した面に、市販のフェノール樹脂系バインダーを使用したカーボン塗布材を約10μm厚で塗布した後、加熱処理を行って、電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔を作成し、静電容量と容量変化率を評価した。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示すとおり、実施例4−1〜4−17、3−1、3−4、3−6についても、カーボン塗布箔に近い、静電容量の経時変化(容量変化率A)を示し、化成後の容量変化(容量変化率B)も改善されている。
【0059】
なお、上記実施例では、Ta、Mo、Wの容量変化率Bが全体的にやや悪めの傾向を示すが、これらの金属の融点が非常に高いため、蒸着皮膜の均一性が悪く粒子化していることによると思われ、蒸着皮膜の均一性を改善すれば、Ti皮膜を蒸着した場合と大差ない結果が得られると推定される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】カーボン塗布箔でのカーボン微粒子とアルミニウム基材との接触状況、および、化成処理を行った場合に生成する絶縁性の酸化皮膜を示す模式図である。
【図2】本発明に係る陰極箔で、粗面化したアルミニウム基材、Ti皮膜、およびカーボン微粒子の接合状況を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 アルミニウム基材
2 カーボン微粒子
3 バインダー
4 絶縁性の酸化皮膜
5 剥離したバインダー
6 粗面化したアルミニウム基材
7 Ti蒸着皮膜
8 炭化したバインダー
9 Tiと炭化したバインダーとの導電性の化合物層
10 Tiとアルミニウムとの合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜が形成され、該金属膜の上層側には、カーボン微粒子が定着されていることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔。
【請求項2】
請求項1において、前記金属膜の表面にカーボン皮膜が形成され、該カーボン皮膜の表面に前記のカーボン微粒子が定着されていることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記金属膜が、Ti膜であることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔。
【請求項4】
粗面化したアルミニウム材の表面にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、またはWのうち、いずれかの金属膜を形成する金属膜形成工程と、
前記金属膜の上層側に、カーボン微粒子を有機系のバインダーに分散したものを塗布した後、加熱処理を行うカーボン微粒子定着工程とを有することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記金属膜形成工程の後、前記カーボン微粒子定着工程の前に、
前記金属膜の上層側にカーボン皮膜を形成するカーボン層形成工程を行うことを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、前記金属膜が、Ti膜であることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム陰極箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−95865(P2007−95865A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281252(P2005−281252)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】