説明

露光装置、それを用いたデバイスの製造方法

【課題】原版に対する熱および振動の影響を抑えるのに有利な露光装置を提供する。
【解決手段】この露光装置は、原版Mの外周部を引き付けて保持する保持枠20と、パターン24に対する光の照射領域を変更しつつ保持枠20を移動可能とする駆動部22とを含む原版保持部5を有する。ここで、保持枠20は、移動方向に対して前後となる両方の側面に、原版Mと保持枠20とに囲まれた空間25に存在する気体を空間から排出可能とする貫通部26を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、それを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、半導体デバイスや液晶表示装置などの製造工程であるリソグラフィー工程において、原版(レチクルやマスク)のパターンを、投影光学系を介して感光性の基板(表面にレジスト層が形成されたウエハやガラスプレートなど)に転写する装置である。この露光装置は、原版を移動可能に保持する原版ステージを備えるものが一般的である。この原版ステージに原版を保持する機構としては、例えば、真空吸着や静電吸着などを利用するものや、押し付け力を発生させるアクチュエータなどを利用するものなどがある。いずれの機構においても、重力による原版の脱落防止の観点から、原版の保持面は、重力方向の下面とすることが望ましい。
【0003】
この原版は、内側の有効面積を最大限に活用して形成された回路パターンを有し、この回路パターンの全面が露光光により照射されるため、一般にその外周部を保持面として矩形の保持枠で保持される。ここで、原版に露光光が照射されると、回路パターンにて露光光の一部が吸収されることにより、光エネルギーが熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーは、原版の熱変形を引き起こし、原版自体および保持枠を介した固体伝熱、周辺の空気を介した対流熱伝達、あるいは輻射伝熱により周囲環境へと拡散する。例えば、原版と保持枠とに囲まれた空間に滞留している気体は、これらの熱伝達によって加熱され、原版の位置決めを実施するアライメント計測系などの計測精度を低下させたり、原版から投影光学系に向かう光にゆらぎを発生させたりする可能性がある。また、原版自体の熱変形も、直接結像性能に影響を及ぼす可能性がある。そこで、特許文献1は、原版(レチクル)近傍に気体の流路を設けることで、原版に蓄積された熱の回収速度を向上させ、周囲環境の乱れを低減させる露光装置を開示している。この露光装置では、原版とこの原版に設けられる付着防止膜(ペリクル)との間に温調流体を強制導入することで原版の熱変形を抑制する。このとき、温調流体は、付着防止膜の固定枠(ペリクルフレーム)に直接設置された配管から導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−353127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す温調流体を導入する配管は、原版と物理的に結合されているため、温調流体の導入に伴う配管自体の振動あるいは配管を介して伝達してきた外部振動によって、その振動が原版に伝達される。例えば、原版に伝達される振動が数百〜数千Hz程度の周波数を有する場合には、解像度に影響する指標であるMSD(Moving Standard Deviation:移動標準偏差)の悪化を招く。また、温調流体の供給量と回収量との不均一に起因する流体振動または圧力変動も、原版に影響を及ぼし、これにより付着防止膜を破損する可能性もある。また、本来、付着防止膜は、原版にパーティクルが付着するのを抑止するものであるが、付着防止膜の内側に温調流体を導入することで、パーティクルの付着が却って促進される可能性もある。さらに、配管の実装の観点からすると、原版ステージ周辺での配管の引き回しが複雑となり、また、原版ステージへの力学的負荷が増大する。また、このような構成によると、原版の交換時には配管を着脱しなければならないので、原版の搬送機構の冗長化を招き、さらにはパーティクルの発生原因ともなり得る。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、原版に対する熱および振動の影響を抑えるのに有利な露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、照明系からの光を原版に形成されたパターンに照射し、投影光学系を介してパターンの像を基板上に投影して基板に露光する露光装置であって、原版の外周部を引き付けて保持する保持枠と、パターンに対する光の照射領域を変更しつつ保持枠を移動可能とする駆動部とを含む原版保持部を有し、保持枠は、移動方向に対して前後となる両方の側面に、原版と保持枠とに囲まれた空間に存在する気体を空間から排出可能とする貫通部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原版に対する熱および振動の影響を抑えるのに有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るマスクステージの構成を示す図である。
【図3】従来の露光装置にてマスク下部に滞留した気体の流れを説明する図である。
【図4】第2実施形態に係るマスクステージの構成を示す図である。
【図5】第3実施形態に係るマスクステージの構成を示す図である。
【図6】第3実施形態に係る透過板を支持する支持部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る露光装置について説明する。図1は、本実施形態に係る露光装置1の構成を示す概略図である。この露光装置1は、マスク(原版)と被処理基板であるガラスプレート(基板)とを同期走査させ、マスクに形成されたパターンをガラスプレートに露光する走査型露光装置とする。露光装置1は、まず、照明光学系2と、拡大光学系3と、アライメント計測系4と、所定のパターンが形成されたマスクMを保持するマスクステージ5と、投影光学系6と、感光剤が塗布されたガラスプレートPを保持する基板ステージ7と、制御部8とを備える。
【0012】
照明光学系(照明系)2は、不図示の光源を有し、マスクステージ5に保持されたマスクMに対してスリット状の露光光を照射し、マスクMに形成されたパターン像を、投影光学系6を介してガラスプレートP上(基板上)へ投影させる。光源としては、例えばHgランプが採用されるが、i線、h線、g線などのHgランプの出力波長の一部を用いる場合もある。拡大光学系3は、照明光学系2から照射された露光光の光束を拡大させる。アライメント計測系4は、マスクMとガラスプレートPとにそれぞれ形成された位置決め用のアライメントマークを観察する。この場合、照明光学系2がマスクMに対して露光光を照射するときに、露光光が遮られることがないように、アライメント計測系4は、その一部または全体を駆動可能な構成を有し、適宜、露光光の光束外に退避することが可能である。マスクステージ(原版保持部)5は、マスクMを保持し、かつXY平面内で移動可能とする。なお、このマスクステージ5の構成および作用については、以下で詳説する。投影光学系6は、基板ステージ7上のガラスプレートPに対してパターン像を投影し、その内部に、平板型透過素子9と、反射ミラー10と、凹面ミラー11と、凸面ミラー12とを含む。平板型透過素子9は、投影光学系6の入射側および出射側に配置され、投影光学系6などの結像性能を補助的に改善するために設置する光学薄体である。平板型透過素子9の材質としては、露光光に対して内部吸収がほぼゼロとなる石英ガラスなどが採用可能である。反射ミラー10、凹面ミラー11および凸面ミラー12は、パターン像を反射する部材であり、その材質は、線膨張係数の小さいガラスである。ここで、投影光学系6の投影倍率を等倍とすると、露光装置1は、マスクMに対する露光光の照射領域を変更させつつマスクMとガラスプレートPとをX軸方向に同期走査させて露光を行うことで、マスクM上のパターンをガラスプレート上に転写することができる。基板ステージ(基板保持部)7は、ガラスプレートPを、例えば真空吸着により保持し、かつXY平面内で移動可能とする。また、制御部8は、露光装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部8は、例えばコンピュータなどで構成され、露光装置1の各構成要素に回線を介して接続されて、プログラムなどに従い各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部8は、少なくともマスクステージ5の動作を制御する。なお、制御部8は、露光装置1の他の部分と一体で構成してもよいし、露光装置1の他の部分とは別の場所に設置してもよい。
【0013】
次に、マスクステージ5の構成について詳説する。図2は、マスクステージ5の構成を示す概略断面図である。マスクステージ5は、図2(a)に示すように、マスクMを引き付けて保持する保持枠20と、この保持枠20が固定され、マスクステージ定盤(以下「定盤」という)21を基準平面としてXY方向に移動可能である駆動部22とを含む。また、定盤21の中央部には、マスクMと光学的に対向可能となるように、投影光学系6の光入射部が位置している。
【0014】
図2(b)は、マスクMと保持枠20との形状を示す斜視図である。マスクMは、照射された露光光の出射面に、クロムなどの遮光物質を用いて予め描画された回路パターン23を有する。この回路パターン23は、描画面積を最大限とするように、その外周部に位置するマスクMの保持領域24を除く有効面積の全面に描画される。露光処理時には、この回路パターン23の全面をステップ・アンド・スキャン方式で照明されるため、回路パターン23を遮蔽するような部材が存在してはならない。したがって、保持枠20は、例えば内抜きされたような、矩形の枠体形状を有する。また、保持枠20は、重力によるマスクMの脱落防止の観点から、マスクMの保持領域24が重力方向の下面となるように吸着部(圧着部)を有する。この保持枠20の形状から、結果的にマスクMの光出射面側にはマスクMと保持枠20とに囲まれた空間25が形成されることになる。なお、保持枠20におけるマスクMの保持機構としては、例えば、真空吸着や静電吸着などを利用するものや、押し付け力を発生させるアクチュエータなどを利用するものが採用可能であるが、本発明では、特に限定するものではない。
【0015】
ここで、本実施形態の保持枠20は、走査駆動時(同期走査時)の移動方向(走査方向)の前後の側面、例えばX軸方向の両方の側面に、貫通部26を有する。この貫通部26は、空間25とマスクステージ5の周辺部とを連通するものであり、駆動部22の走査駆動に伴い、空間25内の気体を外部へ自然に排出可能とする。この場合、貫通部26の形状は、図2(b)に示すように複数の孔を並べて配置した形状としてもよいし、またはスリットとしてもよい。このように、貫通部26の形状や設置数は、特に限定するものではないが、保持枠20の剛性や、装置使用時の通気性などを考慮して決定することが望ましい。例えば、貫通部26の形状がスリットである場合、図2(c)に示すように、貫通部26の開口幅(開口高さ)をHとし、貫通部26の流れ方向の長さ(厚さ)をLとし、また、駆動部22の駆動速度をVとし、動粘性係数をνとする。このとき、平板層流境界厚さの観点から、開口幅Hは、以下の(数1)で現される関係を満たすことが望ましい。さらに、貫通部26の貫通領域近傍に、マスクステージ5の周辺部から空間25へのパーティクルなどの流入を抑止するフィルターを設置してもよい。
【0016】
【数1】

【0017】
また、保持枠20は、マスクMを保持する側とは反対の側に、マスクMを透過または反射した光を透過可能としつつ、空間25の開口面を遮蔽する透過板(透過部材)27を備える。この透過板27は、予め保持枠20に固定してもよいし、または、露光装置1内で保持枠20とは別に相対的に移動もしくは着脱可能としてもよい。例えば、アライメント計測系4によりマスクMの表面を計測する際に透過板27が障害となる場合には、透過板27を一時的に移動させた後に計測を実施し、再度透過板27を所定の位置に戻した後に露光処理を実施する構成もあり得る。
【0018】
駆動部22は、例えば、図2(a)に示すように、保持枠20をその側面から固定し移動可能とする。なお、本実施形態においては、保持枠20と駆動部22とを便宜上区別しているが、予め一体として構成されていてもよい。あるいは、駆動部22は、保持枠20を微動位置決め可能な構成を有するものであってもよい。また、駆動部22の駆動機構としては、例えば、定盤21を基準としたリニアモータなどが採用可能である。なお、スキャン駆動に伴う気流の攪乱を抑制するため、保持枠20、駆動部22、および透過板27などの移動可能な構成要素の底面は、略同面とすることが望ましい。また、マスクステージ5の位置は、光計測装置28により計測される。例えば、X軸方向にマスクステージ5が移動する際には、光計測装置28は、図2(a)に示すようにX軸方向に沿った位置に設置することが望ましい。光計測装置28としては、例えばエンコーダ方式やレーザ干渉方式のものが採用可能である。
【0019】
次に、本実施形態に係る露光装置1の特徴であるマスクステージ5の作用について説明する。一般に、露光処理時にマスクに対して露光光が照射されると、回路パターンにて露光光の一部が吸収されることにより、光エネルギーが熱エネルギーに変換される。したがって、この熱エネルギーは、マスクの熱変形を引き起こし、マスク自体および保持枠を介した固体伝熱、周辺の空気を介した対流熱伝達、あるいは輻射伝熱により周囲環境へと拡散する可能性がある。特にステップ・アンド・スキャン方式を採用する露光装置では、図2(a)に示す空間25のような空間に存在する気体がマスクにより加熱され、この気体が、マスクステージ(駆動部)の走査駆動に伴い漏出し、周囲環境を乱す可能性が高い。図3は、従来の露光装置におけるマスクステージ100の構成を示す概略断面図であり、マスク101の下部に滞留した気体102の流れを説明する図である。図3(a)〜図3(e)では、この滞留した気体102の流れを時系列で示しており、マスクステージ100は、マスクステージ定盤103上を駆動部104によりX軸方向で紙面右側から左側へ走査駆動されている状態にある。まず、図3(a)に示すように、マスク101を保持しつつ駆動部104に固定された保持枠105と、マスク101とで囲まれた空間106には、加熱された気体102が滞留している。この状態から、図3(b)〜図3(e)に示すように駆動部104が徐々に移動すると、空間106内に滞留していた気体102は、投影光学系107およびマスクステージ定盤103と、保持枠105との隙間から周囲環境へ漏れ、拡散する。このように、加熱された気体102が周囲環境に拡散すると、周辺の各構成要素に熱の影響が生じる。具体的には、例えば、アライメント計測系の計測精度を低下させたり、または、特に計測光路上の熱ゆらぎに対する敏感度がより高いレーザ干渉方式の光計測装置を採用した場合、この光計測装置の計測精度を低下させたりする。また、マスク101から投影光学系107に向かう光にゆらぎを発生させたりする可能性がある。また、マスク101自体の熱変形も、直接結像性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0020】
そこで、本実施形態の露光装置1では、マスクステージ5における保持枠20は、図2を用いて上述したように貫通部26を有する。この貫通部26の設置により、例えば、駆動部22がX軸方向に走査駆動すると、一方の側の貫通部26からその周囲の気体が流入し、空間25内に存在していた気体は、他方の側の貫通部26からその周囲へ流出する。したがって、空間25内の気体は、滞留したまま加熱が促進されることがなく、露光処理中にある程度加熱されても空間25の外部に排出されるため、過度に加熱されることがない。これにより、上記のような熱影響を極力抑えることができる。また、露光装置1の内部、例えばマスクステージ5の周囲に、空調装置29を設置してもよい。この空調装置29は、少なくともマスクMの近傍を通過しつつ、所定の方向、例えば駆動部22の走査方向とは反対方向に気体を供給するのが望ましい。これにより、空間25から流出した気体を露光装置1の外部に効率良く排出することができ、マスクステージ5が存在する空間全体の環境を、より好適に維持することができる。
【0021】
また、マスクステージ5は、空間25の下部に設置された透過板27を有するので、空間25内に存在する気体が投影光学系6や定盤21上へ漏出することを抑止できる。さらに、この透過板27は、マスクMとは別体であるため、マスクMの交換による影響を受けない上、マスクMの構成を特殊なものとする必要がない。
【0022】
さらに、本実施形態の貫通部26は、例えば、空間25に強制的に温調気体を導入させたり、空間25内の気体を強制的に排除させたりするための外部装置(温調装置や排気装置)から接続されるような配管を有しない。したがって、配管自体の振動あるいは配管を介して伝達してきた外部振動が、マスクMに伝達されることがない。これにより、マスクMに対する振動の影響を抑止し、また、マスクMに付着防止膜(ペリクル)を設置している場合には、振動による付着防止膜の破損も抑止できる。さらに、上記のような配管を設置していないことから、配管の引き回し、配管の接続によるマスクMへの力学的負荷、マスクMの交換時の配管の着脱およびそれに伴うパーティクルの発生など、露光装置1に対する種々の負荷を軽減させることができる。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、マスクMに対する熱および振動の影響を抑えるのに有利な露光装置を提供することができる。
【0024】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る露光装置について説明する。上記の第1実施形態では、マスクステージ5の保持枠20に貫通部26を設置したが、空間25内に滞留した気体を効率良く外部に排出させるためには、貫通部26を介して空間25を通過する気体の流れを一定の方向とするのが望ましい。例えば、マスクステージ5の周囲かつ側方から空調装置29を用いて気体の流れを発生させる場合、気体は、空調装置29からの主たる流れ方向に沿いつつ空間25を通過するのがよい。そこで、本実施形態では、保持枠20にて、ある軸方向の両側面に設置された2箇所の貫通部の形状または構成を、空間25を通過する気体の流れが一定の方向となるものとする。すなわち、本実施形態の貫通部は、上記ある軸方向の一方の側から気体が向かう方向(第1方向)に対して、他方の側から気体が向かう方向(第2方向)の圧力損失が大きくなるような形状および構成とする。
【0025】
図4は、本実施形態に係るマスクステージ5の構成を示す概略断面図である。まず、図4(a)に示すマスクステージ5は、第1例としての貫通部30を有する。なお、図4において、第1実施形態に係る図2に示す構成と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する。この貫通部30は、第1実施形態の貫通部26の形状を変更し、その形状を、ある一方の方向に開いたテーパ形状とすることで流抵抗に異方性を持たせるものである。この形状により、駆動部22の往復速度が等しい場合には、貫通部30の拡大方向に対する気体の流量が小さく、縮小方向に対する気体の流量が大きくなる。この流量の相違は、貫通部30における局所的な圧力分布、または剥離現象による。この図4(a)に示す例では、X軸方向を走査方向とし、かつ、空調装置29による気体の流れ方向は、X軸方向において走査方向とは反対方向となる紙面右側から左側への方向とする。この場合、貫通部30のテーパ形状は、紙面右側の気体の流入側の開口を広くし、紙面左側の気体の流出側を狭くすることが望ましい。これにより、紙面右側から左側への気体の圧力損失が小さくなるため、空間25内の気体は、左側の貫通部30から流出しやすくなる。
【0026】
一方、図4(b)に示すマスクステージ5は、第2例としての貫通部31を有する。この貫通部31は、第1実施形態の貫通部26の構成を変更し、気体の流れ方向をある一定の方向、例えば上記第1方向に限定する逆止弁32を含む。この逆止弁32としては、例えば、その開閉が電気的手段により制御され、気体の流量を適宜調節可能なものであってもよいし、駆動部22のスキャン駆動による気体の流体力によって自然に開閉するものであってもよい。この場合も、上記第1例と同様に、空間25内の気体は、左側の貫通部31から流出しやすくなる。
【0027】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る露光装置について説明する。図5は、本実施形態に係るマスクステージ5の構成を示す概略断面図である。なお、図5において、第1実施形態に係る図2に示す構成と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する。一般にマスクMの位置は、駆動部22の駆動による微動位置決めにより決定される。したがって、保持枠20などのマスクMの周辺の部材は、この微動位置決めに影響が出ないよう外部からの力学的負荷を極力受けないようにすることが望ましい。そこで、本実施形態では、図5に示すように、透過板27を、保持枠20とは直接接触させず、駆動部22に支持させることにより、保持枠20に対する透過板27からの力学的負荷を低減させる。このような構成は、特に透過板27を露光装置1内で保持枠20とは別に移動もしくは着脱可能とするような場合に有効となる。
【0028】
さらに、事実上光学系の一部となる透過板27は、熱影響を受けると変形が生じ、光学性能に影響する可能性がある。そこで、以下のような構成により、透過板27に対する熱影響を抑える。図6は、保持枠20における透過板27を支持する支持部(接続部)の構成を示す概略断面図である。まず、図6(a)に示す保持枠20は、透過板27に対する熱伝達を抑止して、透過板27の変形を抑える支持部33を有する。この支持部33としては、例えば、透過板27を柔軟に支持する弾性部材34や、透過板27に発生した変形を力学的に補正可能とするアクチュエータ(形状補正機構)35などが採用可能である。一方、図6(b)に示す保持枠20は、透過板27を第1実施形態と同様に支持しつつ、透過板27の温度を調節可能な温度調節部36を有する。この温度調節部36としては、例えば、ペルチェ素子が採用可能である。このペルチェ素子は、吸熱面と発熱面とを有する熱移動素子であり、吸熱面を透過板27の表面に接触させることで冷却させ、発熱面を空間25に露出させることで不要な熱を発散させて、透過板27に対する熱影響を低減させることができる。
【0029】
なお、上記実施形態の露光装置1は、ステップ・アンド・スキャン方式を採用するものとしているが、本発明は、これに限定するものではない。例えば、マスクステージ5と基板ステージ7とを同期走査させないステップ・アンド・リピート方式の露光装置においても、マスクMの交換時などにマスクステージ5が移動する際の気体の流れにより、保持枠20が貫通部26を有することは有利となり得る。
【0030】
また、上記実施形態では、保持枠20に透過板27を設置する構成としているが、透過板27の設置は、必須ではない。上記のとおり、透過板27は、空間25内に存在する気体が投影光学系6や定盤21上へ漏出することを抑止できる点で有利である。これに対して、例えば、保持枠20に透過板27を設置せず、貫通部27を設置するのみでも、空間25内に存在する気体を外部へ排出できる点で有利となり得る。
【0031】
(デバイスの製造方法)
次に、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 露光装置
2 照明光学系
5 マスクステージ
6 投影光学系
20 保持枠
22 駆動部
23 回路パターン
24 保持領域
25 空間
26 貫通部
M マスク
P ガラスプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明系からの光を原版に形成されたパターンに照射し、投影光学系を介して前記パターンの像を基板上に投影して前記基板を露光する露光装置であって、
前記原版の外周部を引き付けて保持する保持枠と、前記パターンに対する前記光の照射領域を変更しつつ前記保持枠を移動可能とする駆動部とを含む原版保持部を有し、
前記保持枠は、移動方向に対して前後となる両方の側面に、前記原版と前記保持枠とに囲まれた空間に存在する気体を前記空間から排出可能とする貫通部を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記貫通部は、前記側面を貫通する孔またはスリットであることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記貫通部の一方は、前記保持枠の移動に伴い、前記原版保持部の周囲から前記空間へ気体を流入させ、
前記貫通部の他方は、前記空間から前記原版保持部の周囲へ、前記空間に存在する前記気体を流出させることを特徴とする請求項1または2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記基板を移動可能に保持する基板保持部を有し、
前記原版保持部と前記基板保持部とを同期走査させて露光処理を実施する場合、
前記貫通部は、走査方向に対して反対方向となる前記気体の第1方向の流れの圧力損失が、前記走査方向となる前記気体の第2方向の流れの圧力損失よりも小さくなる形状または構成を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記貫通部は、前記第1方向の前記気体の流入側の開口が広く、流出側の開口が狭いテーパ形状を有することを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記貫通部は、前記気体の流れの方向を前記第1方向とする逆止弁を有することを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項7】
前記保持枠または前記駆動部に支持され、前記投影光学系に向かう前記空間の面を、前記光を透過可能として遮蔽する透過部材を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記透過部材は、前記保持枠に対して相対的に移動可能であることを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項9】
前記透過部材は、弾性部材を介して支持されることを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項10】
前記透過部材は、形状補正機構を介して支持されることを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項11】
前記透過部材は、その表面に、前記透過部材の温度を調節する温度調節部を有することを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項12】
前記原版保持部の周囲に設置され、前記原版保持部の周囲環境の温度を調節する空調装置を有し、
前記空調装置は、前記原版の周囲を通過しつつ、所定の方向に気体を供給することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
その露光した基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26500(P2013−26500A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160982(P2011−160982)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】