説明

静水圧処理方法及び静水圧加圧装置

【課題】高圧容器内の処理室における上下方向の温度差を許容範囲内に納めつつ処理を行い、天然の生物に由来する食品や医療材料等を加圧処理を好適に行うことができる静水圧処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の発静水圧処理方法は、円筒状の高圧容器2内に設けられた処理室9で水を主成分とする圧力媒体を用いて処理物Wを加圧処理する静水圧処理方法であって、薄肉の断熱材で構成される円筒部材20を処理物Wを囲うように処理室9内に配置しておき、円筒部材20の内部を上昇する圧力媒体の流れと円筒部材20の外部を下降する圧力媒体の流れからなる圧力媒体の対流を形成しつつ、処理物Wを加圧処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を主成分とする液体を300MPa以上の高圧に加圧することによって、天然の生物に由来する食品や医療材料等を加圧処理する方法に関するものであって、特に、処理時の温度管理が問題となるような加圧処理に関し、処理室内における上下方向の温度差を許容範囲内に納めつつ処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の分野では高付加価値化の観点および保存期間の長期化などの観点から、従来の加熱殺菌処理に代わって、数百MPaの高圧処理を施して、熱による食品成分の変性を最小限に留めつつ殺菌を行い、風味などを損なわない高圧処理技術が注目を浴びている。一方、再生医療に使用される自己組織再生のための足場材(Scaffold)をミニブタ等の人以外の生物の組織から製造する技術で必要とされる「細胞質の死滅化処理」においても、高圧処理技術の適用が検討されている。
かかる高圧処理技術では、従来は300MPa程度までの処理圧力が使用されてきたが、最近では、アボカドなどの果物や食肉類の高圧処理では、処理圧力が300MPa以上(例えば、600MPa)に高圧化すると共に装置も500リットル以上に大型化する傾向にあり、再生医療用の足場材の製造では1000MPa程度の高い処理圧力の適用が検討されている。
【0003】
このような「食品の分野」、「再生医療の分野」における高圧処理技術の適用においては、加圧処理時における温度制御(圧力媒体の温度制御)は非常に重要なものとなってくる。例えば、食品、医薬品を加圧処理する際には、処理物によっては加圧温度の上限値が決まっていたり、同じバッチの処理であれば高圧容器内の位置に寄らず同一温度かつ同じ履歴での処理が必要である。一部の再生医療で使用される足場材の処理では、処理過程で処理品の温度が37℃以上にならないように温度管理をする必要がある。
従来より、高圧処理を行う装置としては、増圧機やポンプを接続して圧力媒体を内部に送入し加圧を行うタイプや高圧容器内にピストンもしくはプランジャーを押込むことにより高圧容器内の液状の圧力媒体を直接加圧するピストン型が存在するが、いずれの装置においても、高圧容器の外面に熱媒ジャッケットを装着して圧力媒体を処理温度に保持することが行われている。また、特許文献1や特許文献2に開示された技術により、圧力媒体の温度をコントロールすることも行われている。
【0004】
特許文献1では、高圧容器の上蓋に冷却機構をまた下蓋に加熱機構を設けて、圧力媒体を所定の温度に制御する方法が提案されている。この技術は、冷却された圧力媒体液体は沈み易く、加熱された圧力媒体液体は浮き上がり易いことを利用したものと思われ、液体の自然対流を効率良く利用して高圧容器内の温度がジャケット部の熱媒による温度に制御しやすくするような配慮がなされている。
特許文献2には、圧力容器内で処理物を断熱的に加圧および減圧するときの処理物の温度変化を抑制するために、水の凍結体を高圧容器内で処理物と共存させて氷の相変化による潜熱により、圧力媒体の断熱的な加圧による圧縮熱によって処理品が加熱されるのを抑制する方法が提案されている。この方法は、水の温度圧力状態図から明らかなように、大気圧下で凍っていた氷が加圧すると融解し、これに伴って吸熱して温度低下することを利用するものであり、水の特異な現象を巧みに利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−187069号公報
【特許文献2】特開平8−214793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の如く、「食品の分野」、「再生医療の分野」における高圧処理技術の適用においては、加圧処理時における温度制御(圧力媒体の温度制御)は非常に重要なものである。その一方で、かかる高圧処理技術(高圧でかつ短時間での処理)を行おうとすると、水の圧縮熱による温度上昇もかなり大きく(例えば10℃以上と)なり、かつ高圧容器内の上部と下部での温度分布も大きくなって、同一のバッチで処理を行っても、処理品が高圧容器内のどこに置かれていたかにより、温度履歴が変わり、時によっては品質に大きなバラツキを生じることが現場の実績として挙がってきている。
【0007】
例えば、図5(a)は、従来からのピストン型高圧装置(最高圧力800MPa、内径80mm)の装置で、25℃の水を800MPaまで加圧したときの、容器内部の上部(容器下蓋上面から380mm)、中部(同120mm)および下蓋上面の温度変化を示したものである。昇圧時間は2分40秒、800MPaでの保持時間は2分、大気圧までの減圧時間は昇圧時と同じ2分40秒である。
図5(b)は、図5(a)から昇圧過程での上下方向の温度分布の発生状況を100MPaごとに示したものである。温度の実測が困難な高圧容器の最上部(ピストン下面の直下の温度)は図のようにかなり高く、容器内の上端部と下端部の温度差は最高圧力の800MPaに到達した時には、上端部は下端部よりも12.5℃も高くなっていることが判る。保持している2分間に25℃のままの容器(円筒体)から放熱するために、温度は低下するが、中部では放熱量が大きいが、下端部では放熱量は極めて少なく、また上部でも中部ほどには放熱していないことが判る。
【0008】
特許文献1、特許文献2の技術は、このような問題に対応するものとはなっていないのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、本発明は、高圧容器内の処理室における上下方向の温度差を許容範囲内に納めつつ処理を行い、天然の生物に由来する食品や医療材料等を加圧処理を好適に行うことができる静水圧加圧処理方法及び静水圧加圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる静水圧加圧方法は、円筒状の高圧容器内に設けられた処理室で水を主成分とする圧力媒体を用いて処理物を加圧処理する静水圧処理方法であって、薄肉の断熱材で構成される円筒部材を前記処理物を囲うように処理室内に配置しておき、円筒部材の内部を上昇する圧力媒体の流れと円筒部材の外部を下降する圧力媒体の流れからなる圧力媒体の対流を形成しつつ、処理物を加圧処理することを特徴とする。
「食品の分野」、「再生医療の分野」における高圧処理技術の適用する際には、処理物によっては、厳密な温度管理が必要であり、同じバッチの処理であれば高圧容器内の位置に寄らず同一の温度かつ同じ履歴での処理が必要である。高圧容器内ではパスカルの原理により高圧容器内のどの部位でも同じとなるが、温度については、昇圧時の圧縮熱による温度上昇や減圧時の膨張による温度低下が管理温度から外れる可能性があり、さらに高圧容器部材を通じての放熱量が高圧容器内の部位により異なるために温度分布を生じてしまうという問題がある。
【0010】
本発明の静水圧加圧方法によれば、断熱性の高い円筒部材を配置することにより、圧力媒体が円筒部材の径内側で上昇し、円筒部材の径外側に沿って下降する自然対流が促進され、処理室内での上下温度分布の発生が軽減され、圧力媒体温度の均一化が図れる。
好ましくは、前記処理室の上部に氷が内部封入された冷却体を設けておき、前記円筒部材の内部を上昇してきた圧力媒体を強制的に冷却しつつ、前記処理物を加圧処理するとよい。
また好ましくは、前記処理室の下部に水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体を設けておき、前記円筒部材の内部を下降してきた圧力媒体を強制的に加熱しつつ、前記処理物を加圧処理するとよい。
【0011】
さらに好ましくは、前記処理室の下部に上昇流発生手段を配置しておき、圧力媒体を処理物の下方から上方へ強制的に対流させつつ、前記処理物を加圧処理するとよい。
このようにすることで、処理室内での圧力媒体の対流が一層強化され、処理室内での上下温度分布の均一化が図れる。
本発明にかかる静水圧加圧装置は、処理物を格納可能な処理室が内部に形成された円筒体とこの円筒体の軸方向両端部に着脱可能な状態で嵌合する上蓋及び下蓋とを備え、且つ前記処理室に水を主成分とする圧力媒体が供給される高圧容器と、薄肉の断熱材で構成されると共に、前記処理室内で処理物を取り囲むように配備される円筒部材と、前記処理室内であって上蓋の下方に配設され且つ氷が内部封入された冷却体、及び/又は、前記処理室内であって下蓋の上方に配設され且つ水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体と、を有することを特徴とする。
【0012】
この静水圧加圧装置によれば、圧力媒体が円筒部材の径内側で上昇し、円筒部材の径外側に沿って下降する自然対流が促進され、処理室内での上下温度分布の発生が軽減され、圧力媒体温度の均一化が図れる。
好ましくは、前記処理室内の下部に、圧力媒体を上方へ強制的に移動させる上昇流発生手段が設けられているとよい。
なお、前記上蓋に代えて、前記円筒体の軸方向上端部から挿入される加圧ピストンを設けた静水圧加圧装置としてもよい。この場合、前述の冷却体は、前記処理室内であって加圧ピストンの下方に配設されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の静水圧処理方法及び静水圧加圧装置によれば、高圧容器内の処理室における上下方向の温度差を許容範囲内に納めつつ処理を行い、天然の生物に由来する食品や医療材料等を加圧処理を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態にかかる静水圧加圧装置の正面断面図である。
【図2】第2実施形態にかかる静水圧加圧装置の正面断面図である。
【図3】圧力媒体である水の圧力−温度状態図である。
【図4】第1実施形態及び第2実施形態の変形例である。
【図5】従来の静水圧加圧装置での処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る静水圧加圧装置の一実施形態を示している。
この静水圧加圧装置1は、水を主成分とする(例えば、水、或いは水にプロピレングリコールのような凍結抑制剤を混合した液体など)圧力媒体を用いるCIP装置に適用したものであって、高圧容器2を核として構成される。
【0016】
この高圧容器2は、軸方向両端部が開放状となっている円筒体3と、この円筒体3の軸方向両端部に着脱可能な状態で嵌合する上蓋4、下蓋5(上下一対の蓋体)とを有している。上蓋4及び下蓋5は短円柱状に形成されている。
円筒体3に対して上蓋4及び下蓋5が嵌合する部分には、高圧容器2内の内圧を封止するため、リング形のシール部材6が設けられている。このシール部材6は、ゴムなどの弾性材により形成されたOリングとすることが可能である。
下蓋5には、高圧容器2の内外を連通させる状態で下部通路7が設けられており、この下部通路7は圧力媒体供給源8に接続されて、容器内へ圧力媒体を導入したり排出したりできるようになっている。従って、これら円筒体3と上蓋4・下蓋5とによって、その内部に高圧処理を実施するための処理室9が形成されることになる。
【0017】
また、高圧処理中、この高圧容器2のまわりには、円筒体3の軸方向に沿って上下の蓋体3,4をも含めるような状態で窓枠状のプレス枠体(図示せず)が嵌められる。このプレス枠体が嵌められることで、高圧容器2は上下の蓋体相互が対向押圧される状態に把持固定され、これら蓋体3,4を介して容器2内の軸方向で発生する荷重が保持されるようになる。
高圧容器2の処理室9においては、下蓋5上に複数段の棚から構成される処理物用ケーシング10が配置されており、この処理物用ケーシング10の各棚には複数個の処理物Wが載置されている。処理物用ケーシング10の上端部には、圧力媒体の流れを整流するための整流板11が取り付けられている。この整流板11としては、複数の孔が開口された平板などが採用可能である。
【0018】
処理室9内には、高圧容器2の内壁から所定隙間を空けた状態で、処理物用ケーシング10(すなわち処理物W)を取り囲むように、円筒状の円筒部材20が配備されている。この円筒部材20は、高圧容器の内径によって厚みが1〜10mm程度の薄肉であって、ポリエチレン、ポリスチレン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などで形成された断熱材からなる。
円筒部材20の下端部は、下蓋5から浮いた状態で高圧容器2内に配設されると共に、円筒部材20の上端部は、上蓋4から所定隙間だけ離れた状態で高圧容器2内に配設されている。円筒部材20と下蓋5との隙間及び円筒部材20と上蓋4との隙間を介して、圧力媒体が円筒部材20の内外を自由に流動可能となっている。
【0019】
圧力媒体の昇圧過程では、水などの圧力媒体はその圧縮熱によって温度上昇する一方で、高圧容器2自体の温度は初期の温度のままであるので、高圧容器2の内壁に近い液体は冷却されて密度差が生じ、図1に示すように、「円筒体3の内壁と円筒部材20との隙間」→「円筒部材20の下端部の隙間」→「円筒部材20の内側」→「円筒部材20の上端側」といった流れ(自然対流)が発生する。円筒部材20は断熱性の高い部材で構成されているため、円筒部材20の内外における熱伝達は可及的に抑制され、円筒部材20の内外での温度差は維持されることとなり、結果として、円筒部材20の内部で上昇して円筒部材20の外面に沿って下降するループ状の強力な自然対流が発生し、処理室9の上下方向の温度分布の発生が軽減される。
【0020】
なお、円筒部材20がない場合には、処理室9の中央部で上昇流が発生し、一方で高円筒体3の内壁近傍では下降流が発生するものの、中央の上昇流は上方に進むにつれて遅く、また円筒体3内面近傍の下降流は円筒体3の下端部に近くなるにつれて遅くなるという現象を生じて、次第に上部に高温の流体が滞留し、同時に、下部には低温の流体が滞留して、「上部が高温、下部が低温」という顕著な温度分布が発生する。この温度差は、ピストン直圧型の装置についての前記の実験例と同じである。本実施形態に示す断熱性の高い円筒部材20を配置することによってこの傾向が確実に緩和される。
【0021】
ところで、このような断熱性の高い材料から成る円筒部材20を処理室9に配置することは、処理室9の利用容積を減らしてしまうこととなりかねないので、円筒部材20はできるだけ断熱性の高い材料でかつ薄肉の構成とすることが好ましい。
なお、PTFEのような樹脂材料は加圧により圧縮されるので、その径Dは圧力Pに対して、D=Di×P/(0.4×E),Diは無加圧時の直径、Eはヤング率となり、高圧容器2の内径が圧力により拡大することもあって、容器内面の隙間は大きくなって断熱材からなる円筒の外側を下降する液体の流路が広くなって好都合である。
【0022】
このように、静水圧処理を実現する高圧容器2の内部に、薄肉断熱材で構成される円筒部材20を配置することにより、特に300MPa以上の超高圧力を使用しての食品の処理や医療材料などの処理における、昇圧時の圧縮熱の発生に伴う温度上昇および温度分布の発生の抑制が可能となり、1バッチの処理における高圧容器2内部の処理品の温度のバラツキの発生が改善され、処理品の品質管理が容易となるなど工業的な食品の処理・加工の大形装置での実用化に資するところ極めて大きい。
また、一部の再生医療で使用される足場材(Scaffold)の処理では、処理過程で処理品の温度が37℃以上にならないように温度管理をする必要があり、従来の水のみを用いた処理で25℃から処理を開始すると、急速に600MPa以上に昇圧すると37℃以上になってしまうために緩速での昇圧が必要で処理時間が長くなるという問題があった。このような問題も、圧力媒体を強制的に自然対流させる本発明の技術によって解消され、今後の医療分野の発展に資するところも極めて大きい。
[第2実施形態]
図3は、本発明に係る静水圧加圧装置の第2実施形態を示している。
【0023】
前述した第1実施形態の静水圧加圧装置1では、強制的とはいえ、自然対流に依存するために、処理品が多量に装入された状態で均熱化が十分図られないことがある。
そこで、第2実施形態の静水圧加圧装置1は、自然対流による圧力媒体の流れを助長するような手段を備えるものとなっている。例えば、処理室9内であって上蓋4の下方に配設され且つ氷が内部封入された冷却体21を設けたり、処理室9内であって下蓋5の上方に配設され且つ水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体22を設けたり、処理室9の下部に配置される上昇流発生手段23により、圧力媒体を処理品の下方から上方へ強制的に対流させたりするようにしている。
【0024】
他の構成に関しては、整流板11を処理物用ケーシング10の下端部に設けるようにしている点が若干異なるものの、第1実施形態と略同様であるため、部材に付する番号は同じとし、その説明は省略する。
詳しくは、図2に示すように、処理室9の下部すなわち下蓋5の上面であって、円筒部材20の内側に、攪拌ファン装置23(上昇流発生手段)を設置して処理物用ケーシング10の中側に上昇流を発生させるようにしてもよい。
なお、撹拌ファン装置の駆動は、処理品用ケーシングの下端部と下蓋5の上面の間で、脱着が容易なプラグイン方式の電極から給電可能として電動モータで駆動する、或いは、ゼンマイ駆動方式で回転するファンを設置するなどの方法が採用可能である。
【0025】
また、昇圧時の圧縮熱は、処理室9の上方にたまる傾向があることから、上蓋4の下面近傍に、氷と水とを混合したものを内部に収納した樹脂袋、すなわち冷却体21を配置するようにしてもよい。水と氷の圧力および温度に係る状態変化は非常に特異で、図3の温度圧力状態図に示すように、0℃の氷(水と共存状態)を加圧すると、約200MPaまでの圧力では、融解熱(吸熱)を周囲から吸収しつつ融解し、氷と水が共存した状態であれば、200MPaで約−22℃まで温度低下し、それ以上の圧力では氷が共存した状態で水の一部が固化して発熱反応により温度上昇する。
【0026】
したがって、処理物Wおよび高圧容器2の初期温度が25℃の状態から加圧すると、圧力媒体と処理品は圧縮熱により温度上昇(200MPaで30℃、800MPaで49℃)し上昇流となった圧力媒体は、処理室9の上部に溜まるようになるが、上蓋4の下面近傍に配置された冷却体21により冷却されて均熱化する方向で作用する。特に、25℃程度の圧力媒体と冷却体21(水−氷の共存物が封入された樹脂袋)との温度は、それぞれ図3に示したように変化し、袋の中の水と氷が共存している状態であれば、常に圧力媒体は冷却体21によって冷却される。
【0027】
冷却体21で冷却された圧力媒体は、円筒部材20の外壁に沿って下降するため、円筒部材20により発生する自然対流のループでの流れ(第1実施形態で説明済み)が更に助長される。この冷却体21に封入された氷は、一度使用した後は基本的にはすべて水の状態になってしまう。そのため、処理品を取出す際に、冷却体21を一旦処理室9から外部に取出して、大気圧下で冷凍処理し固液共存状態とした上で再使用する。
さらに、水よりも加圧による圧縮熱による温度上昇が顕著なシリコンオイルを封入した樹脂製の袋を加熱体22として、処理室9の下部であって下蓋5の上面に配置すると、昇温時、処理室9の下部に滞留しがちな低温の圧力媒体が、この加熱体22で加熱されて、処理室9内の均熱化が促進されるようになる。加熱体22の内部に封入される物質としては、シリコンオイルに限定されず、食用油であるオリーブ油やキャノーラ油、ごま油、コーン油、サフラワー油、サラダ油、菜種油などが採用可能である。
【0028】
なお、加熱体22内に封入されるシリコンオイルは、減圧時には膨張による吸熱現象を生じて温度低下するが、温度変化に拘らず、液体状態のままであるので、そのまま再使用が可能である。ただし、次回の使用に際しては適当な温度に調整しておくことが、プロセスの再現性確保の観点から好ましい。
以上、本実施形態では、3つの方策(攪拌ファン装置23、冷却体21、加熱体22)を同時に適用したものを説明したが、それらのいずれか2つ又はいずれか1つを用いてもよい。また、図2では、処理物用ケーシング10に撹拌ファン装置を配置した構造を示したが、自然対流のループが上記のような方向で生じる構造であればよく、撹拌ファン装置の配置は、処理物用ケーシング10の上部であって上蓋4の下面であってもよい。処理物用ケーシング10の内側に限定されるものでもない。
【0029】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、図4に示すように、上蓋4に代えて、円筒体3の軸方向上端部から挿入される加圧ピストン12を設けた静水圧加圧装置1に対しても、氷が内部封入された冷却体21、水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体22、圧力媒体を上方へ強制的に移動させる上昇流発生手段23のいずれか1つ、または2つを設けるようにしても何ら問題はない。3つとも採用してもよい。氷が内部封入された冷却体21を設ける場合には、その設置場所は、処理室9内であって加圧ピストン12の下方とするのが好適である。
【符号の説明】
【0030】
1 静水圧加圧装置
2 高圧容器
3 円筒体
4 上蓋
5 下蓋
6 シール部材
7 下部通路
8 圧力媒体供給源
9 処理室
10 処理物用ケーシング
11 整流板
12 加圧ピストン
20 円筒部材
21 冷却体
22 加熱体
23 上昇流発生手段
W 処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の高圧容器内に設けられた処理室で水を主成分とする圧力媒体を用いて処理物を加圧処理する静水圧処理方法であって、
薄肉の断熱材で構成される円筒部材を前記処理物を囲うように処理室内に配置しておき、円筒部材の内部を上昇する圧力媒体の流れと円筒部材の外部を下降する圧力媒体の流れからなる圧力媒体の対流を形成しつつ、処理物を加圧処理することを特徴とする静水圧処理方法。
【請求項2】
前記処理室の上部に氷が内部封入された冷却体を設けておき、前記円筒部材の内部を上昇してきた圧力媒体を強制的に冷却しつつ、前記処理物を加圧処理することを特徴とする請求項1に記載の静水圧処理方法。
【請求項3】
前記処理室の下部に水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体を設けておき、前記円筒部材の内部を下降してきた圧力媒体を強制的に加熱しつつ、前記処理物を加圧処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の静水圧処理方法。
【請求項4】
前記処理室の下部に上昇流発生手段を配置しておき、圧力媒体を処理物の下方から上方へ強制的に対流させつつ、前記処理物を加圧処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静水圧処理方法。
【請求項5】
処理物を格納可能な処理室が内部に形成された円筒体とこの円筒体の軸方向両端部に着脱可能な状態で嵌合する上蓋及び下蓋とを備え、且つ前記処理室に水を主成分とする圧力媒体が供給される高圧容器と、
薄肉の断熱材で構成されると共に、前記処理室内で処理物を取り囲むように配備される円筒部材と、
前記処理室内であって上蓋の下方に配設され且つ氷が内部封入された冷却体、及び/又は、前記処理室内であって下蓋の上方に配設され且つ水よりも圧縮熱による温度上昇が大きい液状材料が内部封入された加熱体と、
を有することを特徴とする静水圧加圧装置。
【請求項6】
前記処理室内の下部に、圧力媒体を上方へ強制的に移動させる上昇流発生手段が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の静水圧加圧装置。
【請求項7】
前記上蓋に代えて、前記円筒体の軸方向上端部から挿入される加圧ピストンを設けたことを特徴とする請求項5又は6に記載の静水圧加圧装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201445(P2010−201445A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48047(P2009−48047)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】