説明

静磁波発振装置の固定構造

【課題】信号線や電源線を経由して伝わる振動を除去するための静磁波発振装置の固定構造を提供する。
【解決手段】永久磁石もしくは電磁石等により加えられた磁界の強さに依存して共振周波数が変化する静磁波素子を用いて所望の発振周波数を得る静磁波発振装置であって、外部と接続する信号線と、前記外部と接続する電源線と、前記静磁波発振装置を実装するための筐体に固定された支持材と、該支持材に固定され前記信号線または前記電源線を固定する緩衝材とを有し、前記信号線や前記電源線を経由して前記静磁波発振装置に伝達される振動を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェリ磁性共鳴を利用した静磁波素子と静磁波を励起する手段を有する静磁波発振装置を固定する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放送伝送用移動端末においては、伝送周波数として、マイクロ波帯の周波数が使用される。日本においては、放送事業用として総務省から割り当てられている周波数は、例えば3.4[GHz]〜3.6[GHz]、6.87[GHz]〜7.125[GHz]、10.25[GHz]〜10.45[GHz]、12.95[GHz]〜13.25[GHz]というように、マイクロ波帯の中でも広い周波数範囲で飛び飛びに設定されている。実際の使用に際しては、これらの各周波数帯がそれぞれさらに細かいチャネルに細分化されており、利用者はそれぞれに割り当てられたチャネルを用いて伝送を行う。
【0003】
上記の伝送装置で使用されるマイクロ波帯の信号は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)のように発振周波数を変化させることができる発振装置により生成される。しかし、その発振装置には、隣接するチャネルとの混信防止および伝送品質の確保が必要であること、および、割り当てられた複数のチャネルの中から、特定のチャネルを選択して切り替えて使用する必要があることから、位相雑音特性が非常に良好で、かつ広帯域で周波数を変化させることができる静磁波発振装置が使用されることが多い。
静磁波発振装置は、GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)非磁性単結晶基板上に、フェリ磁性体であるYIG(イットリウム・鉄・ガーネット)薄膜を液相エピタキシャル成長させた静磁波素子に強い磁界を印加すると、磁気スピンが共鳴し共振子として動作することを利用した発振装置である。このときの共振周波数は、印加する磁界の強さを変えることで、マイクロ波帯の周波数で2〜3オクターブの広帯域にわたり可変することができる。
【0004】
図2によって、従来の静磁波素子用発振装置について説明する。図2は、従来の静磁波素子用発振装置の一例を示す断面図である。200は静磁波発振装置、7は静磁波素子、8はフタ(蓋)、9は外部ヨーク、10はソコ(底)、11は上部磁極、12は下部磁極、13は粗調整用電極コイル、14は微調整用電極コイル、15は磁界、16は空隙、17は発振回路基板、18は銅板、19は永久磁石である。
図2において、例えば、永久磁石19により発生される磁界15(図中では模式的に複数の点線で表す。)を、永久磁石19の一方の極に付けた下部磁極12と、永久磁石19の他方の極にソコ10、外部ヨーク9、およびフタ8を経由して取付けた上部磁極11との間の空隙16(矢印が示す間隔)に集中させる。そして、空隙16内を通過するように設置した銅板18上に固定した発振回路基板17上に静磁波素子7を配置する。この静磁波素子7による共振信号を前記発振回路基板17に取り出すことにより静磁波発振装置200を形成する。
このとき、静磁波発振装置200の発振周波数は、静磁波素子7に印加される磁界の強さに依存する。このため、磁界の強さが不安定だと発振周波数が変動してしまう。そこで、静磁波素子7は、静磁波発振装置200内で最も磁界の強さが安定している場所、即ち、空隙16の中心に配置される。
【0005】
静磁波発振装置200は、上述の通り広い周波数範囲で発振させる必要がある。しかし、その基準となる発振周波数の磁界は、永久磁石19によって生成される。この基準となる磁界をもとに、外部から印加される制御用の電圧を磁力に変換し、磁界の強さを変化させることで発振周波数を制御する。
電圧を磁力に変換するには、電磁コイルを用いるのが一般的であり、図2の従来例においても、粗調整用電磁コイル13および微調整用電磁コイル14の2種類の電磁コイルを用い、各々に印加される電圧を制御する。この結果、それぞれのコイルに流れる電流値を調整し、コイルにより発生される磁界の強さを変化させ、発振周波数を制御している。
【0006】
静磁波素子7に印加される磁界の強さは、空隙16の距離によっても変化する。この変化量は非常に大きく、実験では5[GHz]/1[mm]の変動が確認されている。
放送伝送用のチャネルは、18[MHz]毎に設定されているため、空隙16が3[μm]程度変化すると、隣接チャネルと干渉してしまう。空隙16の距離が変化する要因としては、温度による筐体材質の体積膨張または収縮、外部から印加される振動または衝撃などがある。静磁波発振装置200は、従来、PLL(Phase Locked Loop)回路等を用い一定の周波数になるようにして使用されている。このため、前者の変動要因のように、ゆっくりした変動では、周波数を一定に保つことができる。しかし、後者のような瞬間的な変化に対しては、PLL回路では対応が難しい。従って、例えば、特許文献1や特許文献2のように、静磁波発振装置を緩衝材等で保護する構造や、伝送装置への取り付け方法を工夫する等の方法が採られてきた。
【0007】
図3によって、従来の静磁波発振装置の固定構造について説明する。図3は、従来の静磁波発振装置を実装した伝送装置の一例を示す断面図である。図2と同じ参照番号のものは、同一のものなので、説明を省略する。300は伝送装置、32は伝送装置筺体、33は静磁波素子発振装置固定用緩衝材、35は信号線、36は電源線である。信号線35は、例えば、同軸ケーブルである。
図3において、静磁波発振装置200は、静磁波素子発振装置固定用緩衝材33を介して伝送装置筐体32に固定される。一方、静磁波発振装置200からのマイクロ波出力を伝送装置300に供給するために、静磁波発振装置200には信号線35が接続され、静磁波発振装置200を動作させるために電源線36が接続される。
静磁波発振装置200に加わる振動や衝撃は、伝送装置300全体が動くことにより、静磁波発振装置200も共に動くことで印加される場合と、静磁波発振装置200自体は動かないものの、伝送装置300に加わった振動や衝撃が、信号線35や電源線36等を経由して静磁波発振装置200に印加される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−191752号公報
【特許文献2】特開2005−191754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の静磁波発振装置が実装されている伝送装置と共に動く振動や衝撃については、緩衝材での保護や、伝送装置への取り付け方法などにより対策されている。
一方、信号線や電源線を伝わる振動や衝撃については、信号線や電源線が硬い場合には振動を伝達しやすいため、柔らかい材質が使用される。しかし、柔らかい材質を使用すると信号線や電源線自体が揺れやすくなり、その揺れが静磁波発振装置に伝わり、静磁波発振装置が振動してしまう。
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、信号線や電源線を経由して伝わる振動を除去するための静磁波発振装置の固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の静磁波発振装置の固定構造は、永久磁石もしくは電磁石等により加えられた磁界の強さに依存して共振周波数が変化する静磁波素子を用いて所望の発振周波数を得る静磁波発振装置であって、外部と接続する信号線と、前記外部と接続する電源線と、前記静磁波発振装置を実装するための筐体に固定された支持材と、該支持材に固定され前記信号線または前記電源線を固定する緩衝材とを有し、前記信号線や前記電源線を経由して前記静磁波発振装置に伝達される振動を吸収するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静磁波発振装置に直接接続される信号線や電源線を経由して、伝送装置筐体から静磁波発振装置に伝わる振動を、緩衝材を用いて抑えることができる。この結果、静磁波発振装置に振動が伝達されることを防ぐことが可能となり、信号線や電源線を経由した振動による発振周波数の変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の静磁波発振装置を実装した伝送装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】従来の静磁波素子用発振装置の一例を示す断面図である。
【図3】従来の静磁波発振装置を実装した伝送装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、永久磁石もしくは電磁石等により加えられた磁界の強さに依存して共振周波数が変化する静磁波素子を用いて所望の発振周波数を得る静磁波発振装置において、外部から信号線や電源線を経由して前記静磁波発振装置に伝達される振動を吸収するように、前記外部から前記信号線および前記電源線の少なくとも一方を固定したものである。
【0014】
以下に本発明の一実施形態について、図面等を用いて説明する。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を説明するためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素若しくは全要素をこれと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であり、これらの実施形態も本願発明の範囲に含まれる。
なお、各図の説明において、従来の技術を説明した図2と図3を含め、同一の機能を有する構成要素には同一の参照番号を付し、重複を避けるため、できるだけ説明を省略する。
【0015】
以下、本発明の一実施例を図1によって説明する。図1は、本発明の静磁波発振装置を実装した伝送装置の一実施例を示す断面図である。100は伝送装置、34は緩衝材、37は緩衝材34を固定する支持材である。
図1の伝送装置100において、静磁波発振装置200は、図3と同様に、静磁波素子発振装置固定用緩衝材33を介して伝送装置筐体32に固定される。また、静磁波発振装置200からのマイクロ波出力を伝送装置100に供給する等のために、静磁波発振装置200に信号線35が静磁波発振装置200外部から接続される。かつ、静磁波発振装置200には、静磁波発振装置200を動作させるための電源を供給するための電源線36が静磁波発振装置200外部から接続される。
緩衝材34は、信号線35および電源線36を固定する。この緩衝材34は、伝送装置筐体32間に固定された支持材37に取り付けられる。緩衝材34の材質は、弾性係数の小さい柔らかい材質が好ましい。しかし、支持材37と緩衝材34の材質、厚み、および面積は、信号線35および電源線36を経由する振動と、伝送装置筐体2から伝わる振動の両者を吸収させるために、吸収したい共振周波数により調整する。
また、緩衝材34と支持材37とは、上記実施例では、1箇所であるが、何か所でも良いし、材質、厚み、および面積も同一である必要はない。さらに、信号線35と電源線36を別々の緩衝材で押えても良い。
【0016】
本発明によれば、静磁波発振装置に直接接続される信号線や電源線を経由して、伝送装置筐体から静磁波発振装置に伝わる振動を、緩衝材を用いて抑えることにより、静磁波発振装置に振動が伝達されることを防ぐ事が可能となり、信号線や電源線を経由した振動による発振周波数の変動を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0017】
7:静磁波素子、 8:フタ、 9:外部ヨーク、 10:ソコ、 11:上部磁極、 12:下部磁極、 13:粗調整用電極コイル、 14:微調整用電極コイル、 15:磁界、 16:空隙、 17:発振回路基板、 18:銅板、 19:永久磁石、 32:伝送装置筺体、 33:静磁波素子発振装置固定用緩衝材、 34:緩衝材、35:信号線、 36:電源線、 37:支持材、 100:伝送装置、 200:静磁波発振装置、 300:伝送装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石もしくは電磁石等により加えられた磁界の強さに依存して共振周波数が変化する静磁波素子を用いて所望の発振周波数を得る静磁波発振装置であって、
外部と接続する信号線と、前記外部と接続する電源線と、前記静磁波発振装置を実装するための筐体に固定された支持材と、該支持材に固定され前記信号線または前記電源線を固定する緩衝材とを有し、
前記信号線や前記電源線を経由して前記静磁波発振装置に伝達される振動を吸収することを特徴とした静磁波発振装置の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−235209(P2012−235209A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100966(P2011−100966)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】