説明

静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、静電アクチュエータの製造方法

【課題】静電アクチュエータを構成する電極間隙間の封止を、封止材のための特別なスペースを各隙間毎に用意することなく、従来の封止構造及び封止方法よりも簡易に行える静電アクチュエータを提案する。
【解決手段】電極として作用する弾性変形可能な複数の振動板5が底面に形成されたキャビティプレート3と、各振動板5に対向する複数の電極部17および各電極部17から延びる電極リード部18がそれぞれ電極用溝16内に形成された電極基板4とを有し、キャビティプレート3の底面と電極用溝16とにより形成された隙間15を備えてなる静電アクチュエータであって、電極リード部18の表面に絶縁膜20が形成され、キャビティプレート3の底面が絶縁膜20に密着接合されて隙間15が封止されている静電アクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対向する電極間に電圧を印加することにより発生する静電気力を駆動源とする静電型アクチュエータ、及びそれを備えた液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのインクジェットヘッド等には、半導体の微細加工技術を用いて形成された微小構造のアクチュエータが用いられている。この微小構造のアクチュエータとしては、その駆動源として静電気力を利用した静電駆動方式のものが知られている。
【0003】
この形式のインクジェットヘッドは、インクノズルに連通しているインク室の底面が弾性変形可能な振動板として形成されている。振動板は静電アクチュエータを構成する一対の電極の一方を構成しており、この振動板に、静電アクチュエータを構成する一対の電極の他方を構成する電極部が対向配置されている。これらの対向する電極間の隙間は封止された状態となっている。対向する電極間に電圧を印加すると、これらの間に発生する静電気力によってインク室の底面(振動板)が基板の側に静電吸引あるいは静電反発されて振動する。このインク室の底面の振動に伴って発生するインク室の内圧変動によりノズルからインク液滴が吐出される。
【0004】
対向する電極間に繰り返し電圧を印加してインクジェットヘッドを駆動している間に、電極の表面、すなわち、対向しているインク室底面および電極部の表面に水分が付着すると、これらの極性分子の帯電によって、静電吸引特性あるいは静電反発特性が低下する恐れがある。また、電極部の表面に吸着した極性分子が相互に水素結合して、インク室底面が電極部側に貼り付いたままの状態(スティッキング状態)となり、動作不能となる恐れもある。
【0005】
このような弊害を回避するために、静電アクチュエータを構成する振動板と電極部との間の隙間を気密封止することが従来から行われている。そこでは、接着剤を封止材としたものや(例えば特許文献1等)、酸化膜を堆積させて封止材としたたものがある(例えば特許文献2等)。また、電極間の空隙を犠牲層を用いて形成し、その気密封止をインク室底面に形成した耐腐食膜によって行っているものもある(例えば特許文献3等)。
【特許文献1】特開平10−304685号公報
【特許文献2】特開2002−1972号公報
【特許文献3】特開2004−98425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2等の場合には、各隙間毎に封止材のためのスペースが必要となり、組み立て時には、接着剤を塗布したり酸化膜を堆積させるため製造工程が煩雑となる。また、特許文献3の場合も、気密封止に複雑な工程が必要とされていた。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、静電アクチュエータを構成する電極間隙間の封止を、封止材のための特別なスペースを各隙間毎に用意することなく、従来の封止構造及び封止方法よりも簡易に行える静電アクチュエータを提案するものである。また併せて、その静電アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出装置をも提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電アクチュエータは、電極として作用する弾性変形可能な複数の振動板が底面に形成されたキャビティプレートと、各振動板に対向する複数の電極部および各電極部から延びる電極リード部がそれぞれ電極用溝内に形成された電極基板とを有し、前記キャビティプレートの底面と前記各溝とにより形成された隙間を備えてなる静電アクチュエータであって、前記電極リード部の表面に絶縁膜が形成され、前記キャビティプレートの底面が前記絶縁膜に密着接合されて前記隙間が封止されているものである。
これによれば、電極部端子部に気密封止用のスペースを各隙間毎に用意することなく、上記隙間を封止できるので、静電アクチュエータを小型化できる。また、絶縁膜を利用して気密封止を行っているため、気密性が高く、従って静電アクチュエータの信頼性が高まる。
【0009】
なお、前記電極基板の前記電極用溝の前記電極リード部に対応する部分が、前記電極部に対応する部分より隆起していることが好ましい。これによれば、封止部の絶縁膜を薄くすることができる。
また、前記電極基板の前記電極用溝の前記電極リード部に対応する部分において、各溝が連通していることが好ましい。これによれば、前記電極用溝を確実に封止することができ、気密性が高く、信頼性の高い静電アクチュエータが実現できる。
また、前記絶縁膜が、前記電極リード部から前記電極部まで一体形成されていることが好ましい。これによれば、気密封止を行うための前記電極リード部表面の絶縁膜の形成と同時に、各振動板に対向する複数の電極部表面に絶縁膜が一体形成できるので、前記振動板表面に絶縁膜を形成する必要がない。従って、製造工程の簡略化が可能となる。
また、前記電極リード部から前記電極部まで形成されている前記絶縁膜が、SiO2より比誘電率の高い材料であることが好ましい。これによれば、前記電極部に形成された絶縁膜の比誘電率を上げることにより、静電アクチュエータの発生圧力を向上させることができるため、静電アクチュエータの微小化、高密度化が可能となる。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドは、上記の静電アクチュエータにおける前記キャビティプレートの前記振動板を、容積変化を利用して吐出液を吐出させる圧力室の底壁としているものである。これにより、振動板の変動による圧力変動を利用して、インクなどの液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドを、小型化でき信頼性も高めることができる。なお、本発明の液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを備えたものである。
【0011】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、ガラス基板にエッチングマスクを適用して、複数の電極用溝と、前記各電極用溝と連通し後から接合されるキャビティプレートから開放される位置に引き出した調整用バイパス溝とを、エッチングするエッチング工程と、前記ガラス基板の全面にITOを成膜し、成膜したITOをパターニングして前記電極用溝に電極部と該電極部から延びる電極リード部及び端子部とを形成する工程と、前記電極リード部のみ開口したマスクを用いて、前記電極リード部上に絶縁膜を成膜する工程と、前記絶縁膜を研磨してその頂面高さを前記ガラス基板の頂面高さに合わせる工程と、前記絶縁膜が研磨された前記ガラス基板と、電極として作用する振動板を形成するキャビティプレートとを陽極接合する工程と、前記調整用バイパス溝を介して前記各隙間内の水分の除去を行った後、前記調整用バイパス溝の開放部を封止する工程とを備える。
この方法によれば、電極リード部において絶縁膜とキャビティプレートとの陽極接合により、ガラス基板の電極用溝とキャビティプレートとにより形成された隙間が封止されるため、封止用のスペースを各隙間毎に特に用意することなく、静電アクチュエータを小型化できる。また、絶縁膜を利用して気密封止を行っているため、樹脂や接着剤を用いた従来の封止より気密密性が高まり、信頼性が向上する。
【0012】
また、本発明の静電アクチュエータの製造方法は、ガラス基板にエッチングマスクを適用して、複数の電極部用溝および端子部用溝と、前記電極部用溝と前記端子部用溝の間にそれらの溝より深さの浅い電極リード部用溝と、各電極部用溝と連通し後から接合されるキャビティプレートから開放される位置に引き出した調整用バイパス溝とを、エッチングするエッチング工程と、前記ガラス基板の全面にITOを成膜し、成膜したITOをパターニングして前記電極部用溝に電極部を、前記電極リード部用溝に電極リード部を、前記端子部用溝に端子部をそれぞれ形成する工程と、前記電極部及び前記電極リード部が形成された前記ガラス基板の全面に絶縁膜を成膜し、成膜した絶縁膜をパターニングして前記電極部および前記電極リード部以外の絶縁膜を除去する工程と、前記電極リード部の前記絶縁膜を研磨してその頂面高さを前記ガラス基板の頂面高さに合わせる工程と、前記絶縁膜が研磨された前記ガラス基板と、電極として作用する振動板を形成するキャビティプレートとを陽極接合する工程と、前記調整用バイパス溝を介して前記各隙間内の水分の除去を行った後、前記調整用バイパス溝の開放部を封止する工程とを備える。
この方法によれば、前述の方法と同様な効果を有する他、電極部及び前記電極リードへの絶縁膜の形成により、キャビティプレートの底面に絶縁膜を形成する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施形態1.
(静電アクチュエータおよびそれを適用したインクジェットヘッド)
以下、本発明の実施形態に係る静電アクチュエータについて、それを適用したインクジェットヘッドを基に説明する。図1は本実施形態のインクジェットヘッドの分解斜視図、図2は図1のインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図、図3は図1のインクジェットヘッドを説明する平面透視図である。
このインクジェットヘッド1は、ノズルプレート2、キャビティプレート3、及び電極基板(ガラス基板)の3つのプレートが積層された3層構造となっている。
【0014】
キャビティプレート3は、例えばシリコン基板であり、プレートの表面には底壁が振動板5として機能するインク室(圧力室または吐出室ともいう)6と、インク室6の後部に設けられたインク供給口を形成することになるオリフィス8と、各々のインク室6にインクを供給するためのインクリザーバ10とがエッチングによって形成されている。また、キャビティプレート3の下面には絶縁膜22が成膜されている。
【0015】
キャビティプレート3の上側に接合されるノズルプレート2は、キャビティプレート3と同様に、例えばシリコン基板である。ノズルプレート2において、インク室6の上面を規定している部分には各インク室6に連通する複数のインクノズル21が形成されている。ノズルプレート2をキャビティプレート3に接合することにより、上記のインク室6と、オリフィス8と、インクリザーバ10のそれぞれが区画形成される。
【0016】
インクリザーバ10の底面を規定する部分には、インクリザーバ10にインクを供給するための孔12aが設けられており、基板接合後、後述する電極基板4に設けられた孔12bと共にインク供給孔12を形成する。インク供給孔12には、不図示の接続チューブを介して不図示のインクタンクに接続される。インク供給孔12から供給されたインクはインクリザーバ10に貯えられ、オリフィス8を経由して各インク室6に供給される。
【0017】
キャビティプレート3の下側に接合される電極基板4は、シリコンと熱膨張率が近いホウ珪酸ガラス基板である。この電極基板4において、各々の振動板5に対向する部分には複数の電極用溝16が形成されており、その溝16内に電極部17、電極リード部18及び端子部19からなる個別電極が形成されている。電極用溝16の電極リード部18に対応する部分は該溝の他より浅く形成されており、ここではそれを電極用溝隆起部16aと称することとする。なお、個別電極は、通常、ITOで一体形成されている。
【0018】
また、電極基板4には、キャビティプレート3との接合時に使用される調整用バイパス溝23も設けられている。調整用バイパス溝23は、その溝連通部23aを介して各電極用溝16と連通している。これらの調整用バイパス溝23および溝連通部23aの内部には、ITOなどの導電体は形成しない。
【0019】
電極基板4にキャビティプレート3を接合することにより、キャビティプレート3の底面と、電極基板4の電極用溝16とにより隙間15が形成され、その隙間15を挟んで振動板5と電極部17とが対向配置される。なお、この隙間15は、キャビティプレート3と電極基板4の電極リード部18に形成した絶縁膜20との密着接合と、調整用バイパス溝23の封止材24による封止とにより、封止されている。
【0020】
上記インクジェットヘッド1における静電アクチュエータは、一時的に各インク室6内の圧力を上昇させて、対応するインクノズル21からインク滴を吐出させるために、各インク室6毎にそれぞれ形成されている。静電アクチュエータは微少な隙間をもって対向する一対の電極を有しており、本実施形態では、一方の電極はインク室6の底に形成された弾性変形可能な振動板5であり、他方の電極は、電極基板4の電極用溝16内に形成された電極部17である。
【0021】
振動板5は薄肉とされており、面外方向、すなわち、図2において上下方向に弾性変形可能となっている。振動板5の底面51にはヘキサメチルジシラザン((CH3)3SiNHSi(CH3)3、以下単にHMDSと呼ぶ)を用いて有機珪素化合物からなる疎水膜が形成されている。この振動板5に対向する電極部17の表面にも、HMDSを用いて有機珪素化合物からなる疎水膜が形成されている。
【0022】
振動板5と電極部17との間には電圧印加装置25が接続されている。電圧印加装置25の一方の出力は各電極部17につながる端子部19に接続され、他方の出力はキャビティプレート3に形成された共通電極端子13に接続されている。キャビティプレート3はシリコン性であり導電性をもつため、この共通電極端子13から振動板(共通電極として作用)5に電圧を供給することができる。また、より低い電気抵抗で振動板5に電圧を供給する必要がある場合には、例えば、キャビティプレート3の一方の面に金等の導電性材料の薄膜を蒸着やスパッタリングで形成すれば良い。本例では、キャビティプレート3と電極基板4との接続に陽極接合を用いているので、キャビティプレート3の流路形成面側に導電膜を形成してある。
【0023】
このように構成したインクジェットヘッド1においては、電圧印加装置25からの駆動電圧が対向する電極間に印加されると、電荷によるクーロン力が発生し、振動板5は電極基板4の電極部17側へ撓み、インク室6の容積が拡大する。次に、電圧印加装置25からの駆動電圧を解除して対向する電極間の電荷を放電すると、振動板5はその弾性復帰力によって復帰し、インク室6の容積が急激に収縮する。この時発生する内圧変動により、インク室6に貯留されたインクの一部が、インク室6に連通しているインクノズル21から記録紙に向かって吐出する。
【0024】
実施形態2.
(静電アクチュエータの電極部隙間封止構造)
次に、静電アクチュエータの対向する電極部分の隙間封止構造について詳細に説明する。図4は本発明の実施形態2に係る静電アクチュエータを適用したインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図、図5は図4のA−A方向における電極用溝1つ分の断面模式図、図6は電極基板4の電極リード部分18を中心とした平面模式図である。なお、図4〜6において、図1〜3と同じ符号は同一物または相当物を表している。
【0025】
図4に示すように、電極基板4の電極用溝16とキャビティプレート3とにより形成された隙間15は、電極部17と端子部19をつないでいる電極リード部18の上に形成された絶縁膜20に、キャビティプレート3が陽極接合などにより密着接合されて封止されている。この構成は図5の断面図からよく理解できるであろう。図5に示すように、電極リード部18は、絶縁膜20によりキャビティプレート3に対して完全に絶縁された状態とされ、その絶縁膜20にキャビティプレート3の底面が密着接合されている。
【0026】
また、図4に示すように、電極用溝16の電極リード部18に対応する部分は、該溝16の他の部分、すなわち電極部17や端子部19に対応する部分より隆起した電極用溝隆起部16aとなっているため、薄い絶縁膜20で封止が可能となる。
【0027】
また、図6に示すように、電極基板4の電極用溝16の電極リード部18に対応する部分においては、電極用溝16間の隔壁(ガラス隔壁)を無くして、各溝16を連通させている。電極用溝16間の隔壁と電極リード部18の隙間が狭い場合、絶縁膜を形成する際に、ボイドが発生しやすい。上記実施例のように電極用溝16間の隔壁(ガラス隔壁)を無くすことで、電極用溝16と電極リード部18の隙間を拡げることができ、ボイド発生のない良好な絶縁膜を形成することができる。
【0028】
上記構造における各部の寸法は例えば次の通りである。電極部17の電極用溝深さ:300nm、電極リード部18の電極用溝深さ:150nm、個別電極(電極部17、電極リード部18及び端子部19)のITO膜厚:100nm、絶縁膜20の膜厚:50nm、絶縁膜22の膜厚:100nm、隙間15:200nm。
【0029】
上記のような静電アクチュエータの電極部隙間封止構造により、隙間15毎に封止材のためのスペースを特別に用意することなく、隙間15は、各電極リード部18に対応する絶縁膜20とキャビティプレート3との密着接合と、調整用バイパス溝23の1箇所の解放部における封止材24による封止とにより完全に封止される。
【0030】
実施形態3.
(静電アクチュエータの電極部隙間封止構造)
次に、静電アクチュエータの対向する電極部分の別の隙間封止構造について詳細に説明する。図7は、本発明の実施形態3に係る静電アクチュエータを適用したインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図である。
図7に示すように、電極基板4の電極用溝16とキャビティプレート3とにより形成された隙間15は、電極部17と端子部19をつないでいる電極リード部18の上に形成された絶縁膜20に、キャビティプレート3が陽極接合などにより密着接合されて封止されている。また、絶縁膜20は、電極リード部18から電極部17にかけて一体形成されており、静電アクチュエータの気密封止の機能を有するとともに、振動板5が電極部17側に静電引力により撓んだ際の絶縁膜としての機能を有している。これによれば、気密封止を行うための前記電極リード部表面の絶縁膜の形成と同時に、各振動板に対向する複数の電極部表面にも絶縁膜が一体形成できるので、前記振動板表面に絶縁膜を形成する必要がない。また、絶縁膜20には、SiO2、あるいはSiO2より比誘電率の高い材料、例えば、HfSiO、HfAlON などを利用する。これによれば、電極部17に形成された絶縁膜20の比誘電率を上げることにより、静電アクチュエータの発生圧力を向上させることができるため、静電アクチュエータの微小化、高密度化が可能となる。
上記構造における各部の寸法は例えば次の通りである。電極部17の電極用溝深さ:400nm、電極リード部18の電極用溝深さ:150nm、個別電極(電極部17、電極リード部18及び端子部19)のITO膜厚:100nm、電極リード部の絶縁膜20の膜厚:50nm、電極部17の絶縁膜20の膜厚:100nm、隙間15:200nm。
【0031】
実施形態4.
(静電アクチュエータの製造方法)
実施例1
続いて、本発明に係る静電アクチュエータの製造方法をインクジェットヘッドの製造方法を例に挙げて説明する。図8〜図9は本発明に係る静電アクチュエータを適用したインクジェットヘッドの製造方法の実施例1を示す工程図である。
【0032】
(1)電極基板4の素材であるガラス基板の表面を研磨し、その表面にエッチングマスクとなるCr/Au膜を成膜する。
(2)Cr/Au膜に対して、電極部17および端子部19を形成するための電極用溝16と、各電極用溝16と連通する調整用バイパス溝23を形成するためのパターニングを施す。
(3)ガラス基板4の全体をエッチング液につけて、各電極用溝16と調整用バイパス溝23を150nm程度エッチングを行う。
(4)ガラス基板4から電極リード部18のCr/Au膜を除去する。
(5)その後、ガラス基板4をさらに150nm程度エッチングを行う。これにより、電極用溝16の電極部17に対応する部分(電極部用溝)及び端子部19に対応する部分(端子部用溝)と調整用バイパス溝23が300nmの深さにエッチングされるとともに、電極リード部18に対応する電極用溝隆起部(電極リード部用溝)16aが150nmの深さにエッチングされる。
(6)ガラス基板4のエッチングされた側の面の全面に、スパッタなどによりITOを成膜する。
(7)ITOをパターニングして、電極用溝16内以外のITOを除去する。
(8)電極リード部18のみ開口したメタルマスクを使用して、電極リード部18に絶縁膜20を成膜する。なお、この成膜は、絶縁膜20がガラス基板の最も高い部分より突出するまで行う。これによれば、メタルマスクを用いて、成膜したい部分のみ成膜しているので、成膜後にパターニングの工程が不要となり、製造工程が簡略化できる。また、絶縁膜20にはSiO2 などを利用する。
(9)絶縁膜20を研磨し、その頂面高さをガラス基板4の頂面高さに一致させる。
(10)絶縁膜20が形成されたガラス基板4に、キャビティプレート(ここでは振動板などが未加工のもの、底面には絶縁膜要)3を、陽極接合により接合する。この陽極接合によって、ガラス基板4の電極用溝16とキャビティプレート3の底面との間に隙間15が形成される。同時に、電極リード部18においては、絶縁膜20とキャビティプレート3の底面とが密着して接合され、その部分が封止される。
その後、図3で示しているように、調整用バイパス溝23を利用して各隙間15内の水分の除去を行った後、調整用バイパス溝23を、樹脂などの封止材24で封止する。
(11)更に、キャビティプレート3にエッチングを施して、振動板5を備えたインク室6、インクリザーバ10等を形成する。その後は図示していないが、そのキャビティプレート3にノズルプレート2を接合して、インクジェットヘッド1とする。
【0033】
実施例2
図10は本発明に係る静電アクチュエータを適用したインクジェットヘッドの製造方法の実施例2を示す工程図である。なお、実施例2は、実施例1とは(1)〜(7)の工程は同じであるため、ここでは(8)以降だけを説明する。
【0034】
(8)ITOがパターニングされ個別電極(電極部17、電極リード部18および端子部19)が形成された側の面の全面に絶縁膜20を成膜する。なお、この成膜は、絶縁膜20がガラス基板4の最も高い部分より突出するまで行う。絶縁膜20にはSiO2、あるいはSiO2より比誘電率の高い材料、例えば、HfSiO、HfAlON などを利用する。
(9)絶縁膜20をパターニングして、電極部17および電極リード部18以外の場所の絶縁膜20を除去する。(8)〜(9)の工程において、気密封止を行うための電極リード部18表面の絶縁膜20の形成と同時に、各振動板5に対向する複数の電極部17表面に絶縁膜20が一体形成できるので、振動板5表面に絶縁膜22を形成する必要がない。従って、実施例1と比べて、キャビティプレート3の製造工程の削減が可能となる。
(10)電極リード部18の絶縁膜20を研磨し、その頂面高さをガラス基板4の頂面高さに一致させる。
(11)絶縁膜20が形成されたガラス基板4に、キャビティプレート(ここでは振動板などが未加工のもの、その底面に絶縁膜は不要)3を、陽極接合により接合する。この陽極接合によって、ガラス基板4の電極用溝16とキャビティプレート3の底面との間に隙間15が形成される。同時に、電極リード部18においては、絶縁膜20とキャビティプレート3の底面とが密着して接合され、その部分が封止される。
その後、図3で示しているように、調整用バイパス溝23を利用して各隙間15内の水分の除去を行った後、調整用バイパス溝23を、樹脂などの封止材24で封止する。
(12)更に、キャビティプレート3にエッチングを施して、振動板5を備えたインク室6、インクリザーバ10等を形成する。その後は図示していないが、そのキャビティプレート3にノズルプレート2を接合して、インクジェットヘッド1とする。
【0035】
実施形態5.
(静電アクチュエータを適用した液滴吐出装置)
図11は図1で説明したインクジェットヘッド1を組み込んだ液滴吐出装置であるインクジェットプリンタの概略構成図である。図11において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行うインクジェットヘッド1とで主に構成される。また、図示していないが、インクジェットヘッド1にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、インクジェットヘッド1が保持されている。送りネジ104が回転することによって、インクジェットヘッド1がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
一方、ドラム101は、ベルト105などを介してモータ106により回転駆動される。また、プリント制御手段107は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104及びモータ106を駆動させ、ここでは図示していない発振駆動回路を駆動させてインクジェットヘッド1の振動板を駆動させて、プリント紙110に印刷を行わせる。
【0036】
なお、上記の例は、本発明の静電アクチュエータをインクジェットプリンタに適用した例であるが、本発明の静電型アクチュエータはそれ以外にも適用できる。例えば、特開平7−54259号公報に開示されているようなマイクロメカニカル装置、静電型アクチュエータを用いた表示装置、マイクロポンプ等に対して同様に適用できる。また、吐出液は、インクに限らず各種の液滴を吐出させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1に係るインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図。
【図3】図1のインクジェットヘッドを説明する平面透視図。
【図4】実施形態2に係るインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図。
【図5】図4のA−A方向における電極用溝1つ分の断面模式図。
【図6】図4における電極基板の電極リード部を中心とした平面模式図。
【図7】実施形態3に係るインクジェットヘッドの個別電極長手方向に沿う断面図。
【図8】実施形態4における実施例1のインクジェットヘッドの製造工程図。
【図9】図8の続きの製造工程図。
【図10】実施形態4における実施例2のインクジェットヘッドの製造工程図。
【図11】実施形態5に係るインクジェットプリンタの概略構成図。
【符号の説明】
【0038】
1 インクジェットヘッド、2 ノズルプレート、3 キャビティプレート、4 電極基板(ガラス基板)、5 振動板、6 インク室、8 オリフィス、10 インクリザーバ、12,12a,12b インク供給孔、13 共通電極端子、15 キャビティプレートと電極用溝とにより形成される隙間、16 電極用溝、16a 電極用溝隆起部、17 電極部、18 電極リード部、19 端子部、20 絶縁膜、21 インクノズル、22 絶縁膜、23 調整用バイパス溝、23a 溝連通部、24 封止材、25 電圧印可装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極として作用する弾性変形可能な複数の振動板が底面に形成されたキャビティプレートと、各振動板に対向する複数の電極部および各電極部から延びる電極リード部がそれぞれ電極用溝内に形成された電極基板とを有し、前記キャビティプレートの底面と前記各溝とにより形成された隙間を備えてなる静電アクチュエータであって、
前記電極リード部の表面に絶縁膜が形成され、前記キャビティプレートの底面が前記絶縁膜に密着接合されて前記隙間が封止されている、ことを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記電極基板の前記電極用溝の前記電極リード部に対応する部分が、前記電極部に対応する部分より隆起していることを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
前記電極基板の前記電極用溝の前記電極リード部に対応する部分において、各溝が連通していることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記絶縁膜が、前記電極リード部から前記電極部まで一体形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記絶縁膜が、酸化膜、またはSiO2より比誘電率の高い材料である、ことを特徴とする請求項4記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の静電アクチュエータを備え、該静電アクチュエータにおける前記キャビティプレートの前記振動板を、容積変化を利用して吐出液を吐出させる圧力室の底壁としている、ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。
【請求項8】
ガラス基板にエッチングマスクを適用して、複数の電極用溝と、前記各電極用溝と連通し後から接合されるキャビティプレートから開放される位置に引き出した調整用バイパス溝とを、エッチングするエッチング工程と、
前記ガラス基板の全面にITOを成膜し、成膜したITOをパターニングして前記電極用溝に電極部と該電極部から延びる電極リード部及び端子部とを形成する工程と、
前記電極リード部のみ開口したマスクを用いて、前記電極リード部上に絶縁膜を成膜する工程と、
前記絶縁膜を研磨してその頂面高さを前記ガラス基板の頂面高さに合わせる工程と、
前記絶縁膜が研磨された前記ガラス基板と、電極として作用する振動板を形成するキャビティプレートとを陽極接合する工程と、
前記調整用バイパス溝を介して前記各隙間内の水分の除去を行った後、前記調整用バイパス溝の開放部を封止する工程と、
を備えたことを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記エッチング工程において、前記電極用溝の前記電極リード部を前記溝の他の部分より浅くする、ことを特徴とする請求項8記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板にエッチングマスクを適用して、複数の電極部用溝および端子部用溝と、前記電極部用溝と前記端子部用溝の間にそれらの溝より深さの浅い電極リード部用溝と、各電極部用溝と連通し後から接合されるキャビティプレートから開放される位置に引き出した調整用バイパス溝とを、エッチングするエッチング工程と、
前記ガラス基板の全面にITOを成膜し、成膜したITOをパターニングして前記電極部用溝に電極部を、前記電極リード部用溝に電極リード部を、前記端子部用溝に端子部をそれぞれ形成する工程と、
前記電極部及び前記電極リード部が形成された前記ガラス基板の全面に絶縁膜を成膜し、成膜した絶縁膜をパターニングして前記電極部および前記電極リード部以外の絶縁膜を除去する工程と、
前記電極リード部の前記絶縁膜を研磨してその頂面高さを前記ガラス基板の頂面高さに合わせる工程と、
前記絶縁膜が研磨された前記ガラス基板と、電極として作用する振動板を形成するキャビティプレートとを陽極接合する工程と、
前記調整用バイパス溝を介して前記各隙間内の水分の除去を行った後、前記調整用バイパス溝の開放部を封止する工程と、
を備えたことを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−260195(P2008−260195A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104121(P2007−104121)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】