説明

静電チャック部材および静電チャック装置

【課題】 吸着面側の電界強度を強めた静電チャック部材およびそれを用いた静電チャック装置を提供する。
【解決手段】 静電チャック部材は、絶縁性材料よりなる絶縁層1と、該絶縁層を介して電位差を生じさせるための該絶縁層の一面に設けた電極パターンを有する第1の電極層2および他面に設けた電極パターンを有する第2の電極層3と、これら2つの電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜4、5とよりなり、そして前記第1の電極層のパターン状電極21と第2の電極層のパターン状電極31とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在するように配置されている。この静電チャック部材を、基材上に第2電極層が基材側に位置するように貼着して静電チャック装置を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック部材およびそれを用いた静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャック装置は、真空中で吸着機能を発揮し、且つ取り扱いが簡便であるために、IC製造工程において必要不可欠なものとなっている。とりわけ、プラスチックフィルムと銅箔で構成される静電チャック装置用電極シートは、安価に製造できるため、これを用いた静電チャック装置は広く普及している。
【0003】
IC製造工程で使用される静電チャック装置は、単極型のものが一般的であり、この静電チャック装置では、半導体ウェハを電極と見做して、誘電体を介して電圧を印加することにより高い吸着力が発現する。
【0004】
近年、プラスチックあるいはガラス等の絶縁性材料を固定するために静電チャック装置を利用することが試みられている。この場合、単極型静電チャック装置では静電吸着力を発現し難いので、電気的に絶縁された2つ以上の電極面を内蔵する双極型静電チャックを用いることが行われている。その様な双極型静電チャックは、同一面に電気的に絶縁された2つ以上の電極面が配設された構造を有しており、双方の電極間に数千ボルトの電位差を印加することによって絶縁性材料を静電的に吸着させている(例えば、特許文献1および2)。
【0005】
この種の双極型静電チャックにおいては、電極間の絶縁は、接着剤あるいは粘着剤などの有機材料(以下、接着剤等と記載)を充填することにより確保することがあるが、電極パターン作製時の不具合、接着剤等に存在する異物、接着剤等を充填する工程で混入する異物や気泡が原因となって、短期間で絶縁破壊による故障が発生するという問題があった。
【0006】
また、静電チャック装置を加熱して使用する際には、接着剤等の絶縁材料の絶縁抵抗値が著しく低下して電極間のリーク電流が増大したり、初期には異常がなくても、電極材に銅や銀を始めとする金属を使用する場合には、電極周辺の電場の作用などの影響でイオン化した電極材が次第に接着剤層等の絶縁材料の内部に溶出し、終には絶縁破壊を生じるといういわゆるエレクトロマイグレーションの問題があった。
【0007】
これらの点を改善する目的で、絶縁層の一面に第1の電極層を設け、他面に第2の電極層を設けた静電チャック装置用電極シートが提案されている(特許文献3参照)。この特許文献に具体的に開示された電極シートは、第1の電極層がパターン電極であって、第2の電極層は絶縁層の全面に設けられた、電極パターンのない、いわゆるベタ電極よりなるものである。このような電極シートを用い、それを土台となる基材(以下、「基材」という)の上に第2の電極層が基材側に位置するように貼着されて構成された静電チャック装置においては、第1の電極層の電極の裏側の部分、すなわち、ガラスなどの被吸着体側から第1の電極層の櫛型電極の陰となる部分において、第1の電極層と第2の電極層とが最も接近しているので、電界が被吸着体とは反対側に最も強く形成されて逃げやすく、したがって、被吸着体側に発生させるべき静電吸着力が弱くなり、静電吸着力を効果的に発現させることができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−54602号公報
【特許文献2】特開2000−21961号公報
【特許文献3】特開2005−64105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来提案されている2層電極構造の静電チャック用電極シートにおける上記のような問題点を解決することを目的としてなされたものである。したがって、本発明の目的は、吸着面側の電界強度を強めた静電チャック部材、およびそれを用いた静電チャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の静電チャック部材は、絶縁性材料よりなる絶縁層と、該絶縁層を介して電位差を生じさせるための該絶縁層の一面に設けた電極パターンを有する第1の電極層および他面に設けた電極パターンを有する第2の電極層と、これら2つの電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜とよりなり、前記第1の電極層側の絶縁性薄膜が吸着面となるものであって、前記第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在するように配置されたことを特徴とする。
【0010】
本発明において、第2の電極層のパターン状電極の、第1の電極層のパターン状電極と重なり合わない部分の面積は、第1の電極層のパターン状電極が存在しない部分(非パターン部分)の面積と同一であってもよく、また小さくてもよい。また、第2の電極層のパターン状電極は、櫛型パターンを有することが好ましい。
本発明においては、第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とは、電極層面に対して垂直方向から見て、少なくとも互いに重なり合わない部分が存在するように配置すればよいが、両者のパターン電極の互いに重なり合う部分ができるだけ少なくなるように配置するのが好ましい。
【0011】
本発明の静電チャック装置は、上記の静電チャック部材を基材上に第2の電極層が基材側に位置するように貼着してなることを特徴とする。また、本発明の他の態様の静電チャック装置は、上記の静電チャック部材における第2の電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜を、絶縁性材料よりなる基材としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の静電チャック部材は、第1の電極層と第2の電極層が絶縁層を介して設けられ、そして、第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在するように配置されているので、両電極間に電位差が生じるように電圧が印加された場合、第1の電極層のパターン状電極の陰となる部分においては、電界が殆ど形成されなくなり、したがって、被吸着体側に発生させるべき静電吸着力が強くなって静電吸着力を効果的に発現させることができる。また、両電極間には、高絶縁性の絶縁層が介在するため、万一パターン状電極に異状があったり、異物や気泡が混入しても、その影響を受けることがない。
【0013】
したがって、本発明の静電チャック部材は、絶縁性材料に対して高い吸着力を発現し、且つ絶縁破壊に対する耐久性が高く、さらには高温環境での使用も可能である。特に、ガラスあるいはプラスチック等の絶縁性材料よりなる被吸着体を吸着する用途に関して利用価値が極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面を参照して説明する。図1は、本発明の静電チャック部材の一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)はA−A線断面を模式的に示す図である。また、図2は、図1の静電チャック部材における絶縁層の表裏両面に設けられた電極層を示す図であって、(a)は、第1の電極層のパターン状電極を示し、(b)は、第2の電極層のパターン状電極を示す。
【0015】
図1において、絶縁性材料よりなる絶縁層1の両面に、図2(a)に示す櫛型電極21よりなる電極パターンを有する第1の電極層2および図2(b)に示す櫛型電極31よりなる電極パターンを有する第2の電極層3が設けられており、それら電極層の表面が、絶縁性薄膜4および5によって被覆されている。この静電チャック部材10において、第1の電極層の櫛型電極21と第2の電極層の櫛型電極31とは、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わないように配置されている。すなわち、第1の電極層の櫛型電極の櫛歯部分は、第2の電極層の櫛型電極が存在しない部分(非パターン部分)の上方に位置するように配置されている。
【0016】
図3は、本発明の静電チャック部材における電極層の他の一例を示す図であって、(a)は、第1の電極層のパターン状電極を示し、(b)は、第2の電極層のパターン状電極を示す。この図に示す電極層を設けた静電チャック部材は、第1の電極層の櫛型電極22と第2の電極層の櫛型電極32とが、絶縁層1を介して相互の櫛歯部分が直交するように設けられた構造のものとなっており、第1の電極層の櫛型電極22と第2の電極層の櫛型電極32とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在している。
【0017】
図4は、本発明の静電チャック部材における電極層の更に他の一例を示す図であって、(a)は、第1の電極層のパターン状電極を示し、(b)は、第2の電極層のパターン状電極を示す。この図の場合、第1の電極層における櫛型電極23は、櫛歯が中央で連結した構造のパターンを有している。また、第2の電極層の櫛型電極33は、櫛歯の一部が幅広のものとなっている。これらの電極層を絶縁層の表裏両面に設けた構造の静電チャック部材においても、第1の電極層の櫛型電極23と第2の電極層の櫛型電極33とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在している。
【0018】
図5は、本発明の静電チャック部材を用いて作製された静電チャック装置の一例の模式的断面図である。この静電チャック装置は、上記図1に示す構造の静電チャック部材10が、基材7の上に接着剤層6によって、第2の電極層が基材側に位置するように貼着されて構成されており、そして第1の電極層側の絶縁性薄膜4が吸着面を形成している。
【0019】
図6は、本発明の静電チャック装置の他の態様の一例の模式的断面図である。この静電チャック装置は、上記図1に示す構造の静電チャック部材10における絶縁性薄膜5の代わりに、絶縁性材料よりなる基材71によって第2の電極層の表面が覆われた構造になっており、第1の電極層2側に存在する絶縁性薄膜4が吸着面を形成している。
【0020】
上記図5および図6に示す構造の静電チャック装置は、第1の電極層2と第2の電極層3との間に電圧が印加されると、両電極間には絶縁層1を介して電位差が生じることになる。したがって、第1の電極層の櫛型電極の陰となる部分においては、電界が殆ど形成されなくなり、したがって、被吸着体側に発生させるべき静電吸着力が強くなって静電吸着力を効果的に発現させることができる。
【0021】
次に、本発明の静電チャック部材を構成する各層について説明するが、静電チャック部材を構成する絶縁性薄膜、第1の電極層、第2の電極層および絶縁層の積層は、各種材料を接着剤を用いて貼り合わせる方法、各種材料を接着剤を用いないで貼り合わせる方法、蒸着、スパッタリング、めっき、溶射、エアロゾルデポジションなどにより直接各層を形成する方法など、適宜の方法によって実施すればよく、何ら限定されるものではない。
【0022】
第1の電極層と第2の電極層との間に介在させる絶縁層を構成する絶縁性材料としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス材料、ポリイミドなどの有機高分子材料、シリコーン化合物などの無機高分子材料等、材質は何ら限定されるものではない。該絶縁性材料としてプラスチックフィルムを使用する場合は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド、ポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等のフィルムが好ましい。特に、高耐熱性であるポリイミドフィルムは、高温時においてもリーク電流が増大せず、エレクトロマイグレーション発生の危険性が極めて小さいので、好ましく使用することができる。また、絶縁層は、上記材質が2層以上積層されたものであってもよい。
【0023】
絶縁層の厚さは何等限定されるものではないが、1〜300μmの範囲が好ましく、入手のし易さ、取り扱いの簡便さを考慮すると厚さ12.5〜300μmの範囲が好適である。絶縁層の厚さが1μmより薄いと、絶縁性が不足し、数千ボルトの電位差の電圧で絶縁破壊が生じるため、好ましくない。また、厚さが300μmより厚い場合には吸着力が低下するので、好ましくない。絶縁層は、例えば前記絶縁性材料を溶剤に溶解して直接第2の電極層上に塗布して形成してもよいし、その他の方法で直接第2の電極層上に形成してもよい。また、絶縁層は、前記絶縁性材料からなるフィルムを第2の電極層上に積層して形成してもよい。また、フィルムの場合は、2つ以上積層して形成してもよい。
【0024】
上記絶縁層の一面には電極パターンを有する第1の電極層が、また他面には電極パターンを有する第2の電極層が設けられるが、本発明においては、第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とが、互いに重なり合わないように配置されていることが必要である。その場合、第2の電極層のパターン状電極の形状および面積は、第1の電極層のパターン状電極が存在しない部分の形状および面積と同一であってもよく、また小さくてもよい。また、パターン状電極の形状は、櫛歯形であることが好ましい。
【0025】
第1の電極層および第2の電極層は、各種金属箔、導電性フィルム、導電性ペースト等を用い、蒸着、貼着、塗布、エッチング等によって形成することができる。材質および厚さは何ら制限されるものではないが、膜厚は、長期に亘って導電性が確保できる範囲内であれば薄い方が好ましく、厚さ150μm以下、とりわけ35μm以下の金属箔、例えば銅箔が好適である。厚さが150μmより厚くなると、パターンの作製が困難であるため好ましくない。
【0026】
被吸着物および基材に対する絶縁性を確保するために、第1の電極層および第2の電極層はそれぞれ絶縁性薄膜で被覆する。また、放電が起こるのを防止するために、第1の電極層および第2の電極層の端縁は外部に露出しないように絶縁性薄膜で封入された状態になっていることが必要である。
【0027】
絶縁性薄膜の好適な材料としては、前述の第1の電極層−第2の電極層間の絶縁に使用される絶縁性材料と同様のものが使用され、また、絶縁性アルミナを始めとする各種無機材料、エポキシ樹脂組成物を始めとする高分子材料等もあげることができる。
【0028】
第1の電極層上に設ける絶縁性薄膜の膜厚は、1〜300μmの範囲に設定される。被吸着物から電極層までの距離が1μmより小さいと機械的強度が不足するため耐久性がなく、300μmより大きいと吸着力が低下する。25〜150μmの範囲に設定することがさらに望ましいが、実使用に際しては、静電チャック装置として所望する機能と使用する材料の特性によって適宜決定すればよい。また、第2の電極層上に設ける絶縁性薄膜の膜厚は、基材との間で絶縁性が確保できればよいので、適宜設定すればよい。
【0029】
なお、絶縁性薄膜は、単一層構成、複数材料の積層構造の何れも使用できる。積層構造の場合、絶縁性が確保された状態となっていれば、導電性材料が内包されていても構わない。
【0030】
本発明の静電チャック装置は、基材上に上記の静電チャック部材を貼着して形成される。その場合、静電チャック部材の第2の電極層が基材側に位置するように貼着して、第1の電極層を被覆する絶縁性薄膜が吸着面を形成するようにする。基材としては、特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム基材等の金属基材を使用することができる。また、本発明の他の静電チャック装置は、上記の静電チャック部材における第2の電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜を絶縁性材料よりなる基材としたものである。この場合も、第1の電極層を被覆する絶縁性薄膜が吸着面となる。絶縁性材料よりなる基材としては、特に限定されるものではなく、前記絶縁性薄膜について説明した絶縁性材料からなるものを使用することができる。
【0031】
本発明において、上記の静電チャック部材や、上記の静電チャック装置の基材には、必要に応じてガス噴射、冷媒等による温度調節、リフターピン装置、検出器設置などのために穴加工や溝加工を施してもよく、温度調節用のヒーターなど、付属機器を内蔵させてもよい。
【0032】
本発明の静電チャック部材を構成する各層の積層は、上記のように適宜の方法によって実施すればよいが、それら各層の積層および静電チャック部材と基材の貼着に接着剤を用いる場合、接着剤としては、非導電性の接着剤が好ましい。高い絶縁信頼性を確保するためには、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂等で構成される接着剤が好適である。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに柔軟性を付与するためにNBRを始めとする各種エラストマーを配合してもよく、熱伝導性を向上させるために金属粉やアルミナを始めとする各種無機フィラーを分散させてもよい。接着特性を向上させるためにカップリング剤を添加することも有効である。また、接着剤は液状、固体の何れの性状でもよい。なお、電極層に接する部分以外であれば、高い絶縁性を必要としないため、接着剤等を選定するに当って何ら制限は無く、場合によっては導電性の接着剤等を使用しても構わない。
【0033】
上記の接着剤を用いる場合、形成される接着剤層の厚さは、層間接着力が確保できる範囲内であれば薄い方が好ましい。具体的には100μm以下、より好ましくは1〜50μmである。
【0034】
接着剤による積層方法に関しても何ら制限は無いが、取り扱い性の簡便さ、および積層後の厚さ精度を確保するためには、常温において固体の接着剤が剥離性フィルムに所定の厚さで塗布された、いわゆるドライフィルムを用いて転写して使用することが望ましい。また、予め常温固体の接着剤が片面もしくは両面に塗布された接着剤付きプラスチックフィルムを使用してもよい。さらにまた、例えばポリイミドフィルムの片面もしくは両面に、銅箔が直接積層された構造のものを使用して、ポリイミドフィルム上に接着剤等を介さずに電極層を設けてもよい。
【0035】
本発明の静電チャック部材を用いた静電チャック装置の第1の電極層−第2の電極層間に電位差が生じるように電圧を印加すると、第1の電極層側の絶縁性薄膜上に被吸着体が吸着されるようになる。電圧印加方式は、第1の電極層と第2の電極層の間に電位差を生じさせることができるものであれば何れの方式も適用できる。すなわち、吸着面側に配置した第1の電極層と基材側に配置した第2の電極層の間に異なる極性の電圧を印加する方法、第1の電極層を接地して(アース極)、第2の電極層に+または−の電圧を印加する方法、第2の電極層を接地して、第1の電極層に+または−の電圧を印加する方法のいずれを用いてもよい。しかしながら、第1の電極層を接地して、第2の電極層に直流電圧を印加する方法が最も好ましい。これらの方式を採れば、使用中に被吸着体と吸着面の間に異物が存在したり、あるいは吸着面に瑕疵が生じた場合にも、絶縁破壊の発生を防ぐことが可能である。
【0036】
以下、より詳細な具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0037】
(例1)(静電チャック装置の製作)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商標名:カプトン200H、厚さ50μm)の両面に、厚さ20μmの接着剤フィルムを介して、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業社製、商標名:TQ−VLP)を積層する。続いてエッチングによって一方の銅箔面に、幅5mmの導電性部分と幅5mmの絶縁性部分が交互に配置されたエリアが90×90mmである櫛型電極(図2(a)に示す形状)よりなる櫛型パターンを有する第1の電極層を形成する。また、他方の銅箔面に、同様にしてエリアが90×90mmである櫛型電極(図2(b)に示す形状)よりなる櫛型パターンを有する第2の電極層を形成するが、その場合、第2の電極層の櫛型電極(導電性部分)が、ポリイミドフィルムに対して垂直方向から見て、第1の電極層の櫛型電極(導電性部分)と重ならないようにエッチングを施す。すなわち、第1の電極層の導電性部分が第2の電極層の絶縁性部分に位置するように櫛型電極を形成する。その後、さらに両方の電極層上にそれぞれ厚さ20μmの接着剤フィルムを介してポリイミドフィルム(カプトン200H)を積層し、シート状静電チャック部材を得る。
【0038】
このシート状静電チャック部材を所定の寸法に裁断した後、第2の電極層側を、厚さ20μmの接着剤フィルムを用いて5×100×100mmのアルミニウム基材に貼着し、静電チャック装置を製作する。
【0039】
なお、上記の貼着に使用した接着剤フィルムは、次の通りのものである。レゾールフェノール樹脂(昭和高分子社製、商標名:ショウノールCKM−908A)とNBR(日本ゼオン社製、商標名:Nipol 1001)との重量比1:1の組成物を接着剤として用いる。この組成物をメチルエチルケトンに溶解して固形分が30重量%の接着剤塗料を調製し、離型性ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の片面に塗布した後、150℃で3分間加熱乾燥して、厚さ20μmの接着剤フィルムを作製する。
【0040】
また、ポリイミドフィルム上あるいは銅箔上への接着剤フィルムの積層、および接着剤フィルム上への銅箔あるいはポリイミドフィルムの積層は、全て150℃の高温連続ラミネーションで実施する。
【0041】
シート状静電チャック部材とアルミニウム基材の貼り合わせは、150℃/30分間の真空プレスで行い、真空プレス作業後に接着剤の熱硬化を完了させるために通風オーブン内で150℃/12時間の熱処理を施す。
【0042】
(例2)
第1の電極層および第2の電極層の櫛型デザインを、導電性部分が幅2mm、絶縁性部分が幅2mmに変更する以外は、例1と同様の材料および作業条件によって、静電チャック装置を製作する。
【0043】
(例3)
第1の電極層および第2の電極層の櫛型デザインを、導電性部分が幅10mm、絶縁性部分が幅10mmに変更する以外は、例1と同様の材料および作業条件によって、静電チャック装置を製作する。
【0044】
(例4)
吸着面に使用するポリイミドフィルムを、カプトン200Hに代えてユーピレックス75S(宇部興産社製、厚さ75μm)とする以外は、例1と同様の材料および作業条件によって、静電チャック装置を製作する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の静電チャック部材の一例の模式図であって、(a)は平面図、(b)は断面を模式的に示す図である。
【図2】図1の静電チャック部材における電極層を示す図であって、(a)は第1の電極層のパターン状電極の平面図、(b)は第2の電極層のパターン状電極の平面図である。
【図3】本発明の静電チャック部材における電極層の他の一例を示す図であって、(a)は第1の電極層のパターン状電極の平面図、(b)は第2の電極層のパターン状電極の平面図である。
【図4】本発明の静電チャック部材における電極層の更に他の一例を示す図であって、(a)は第1の電極層のパターン状電極の平面図、(b)は第2の電極層のパターン状電極の平面図である。
【図5】本発明のシート状静電チャック部材を用いた静電チャック装置の一例の模式的断面図である。
【図6】本発明の静電チャック装置の他の態様の一例の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…絶縁層、2…第1の電極層、3…第2の電極層、4…絶縁性薄膜、5…絶縁性薄膜、6…接着剤層、7…基材、10…静電チャック部材、21,22,23…櫛型電極、31,32,33…櫛型電極、71…基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料よりなる絶縁層と、該絶縁層を介して電位差を生じさせるための該絶縁層の一面に設けた電極パターンを有する第1の電極層および他面に設けた電極パターンを有する第2の電極層と、これら2つの電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜とよりなり、前記第1の電極層側の絶縁性薄膜が吸着面である静電チャック部材であって、前記第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在するように配置されたことを特徴とする静電チャック部材。
【請求項2】
第2の電極層のパターン状電極の、第1の電極層のパターン状電極と重なり合わない部分の面積が、第1の電極層のパターン状電極が存在しない部分の面積と同一であるか、又は小さいことを特徴とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項3】
第1の電極層の電極パターンおよび第2の電極層の電極パターンが櫛型であることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項4】
絶縁性材料よりなる絶縁層が厚さ1〜300μmのポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項5】
第1の電極層および第2の電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜が厚さ1〜300μmのポリイミドフィルムよりなることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項6】
第1の電極層のパターン状電極および第2の電極層のパターン状電極が厚さ150μm以下の金属箔よりなることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項7】
請求項1に記載の静電チャック部材を、基材上に第2の電極層が基材側に位置するように貼着してなることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項8】
絶縁性材料よりなる絶縁層と、該絶縁層を介して電位差を生じさせるための該絶縁層の一面に設けた電極パターンを有する第1の電極層および他面に設けた電極パターンを有する第2の電極層と、前記第1の電極層の表面を被覆する絶縁性薄膜と、前記第2の電極層の表面を被覆する絶縁性材料よりなる基材とよりなり、前記絶縁性薄膜が吸着面である静電チャック部材であって、前記第1の電極層のパターン状電極と第2の電極層のパターン状電極とが、電極層面に対して垂直方向から見て、互いに重なり合わない部分が存在するように配置されたことを特徴とする静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−319958(P2007−319958A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150953(P2006−150953)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】