説明

静電チャック

【課題】LCDパネルのような電気的絶縁体からなる大型のワークであっても確実に吸着支持することができ、ワークの搬送操作等に的確に使用することができる静電チャックを提供する。
【解決手段】電気的絶縁体からなるワーク20を吸着支持する静電チャック15であって、正負の電圧が印加されるプラス側の電極12aとマイナス側の電極12bとが、内層に形成されたチャック本体10を備え、前記プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bが、前記チャック本体10の吸着面に対して占める面積比が60%〜90%に設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電チャックに関し、より詳細にはLCDパネルに利用されるガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークを吸着支持するための静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャックは半導体ウエハなどの処理装置においてワークを吸着支持して搬送する機構として広く用いられ、最近は液晶パネル等の絶縁体の搬送用としても用いられている。この静電チャックによりワークを吸着支持する吸着力を発生させる機構には、(1)ワークと静電チャックとの間で作用するクーロン力を利用するもの、(2)ワークと静電チャックの接触界面で生じるジョンソン・ラーベック力によるもの、(3)静電チャックにより不均一電界を発生させ、ワークとの間で生じるグラジエント力を利用するものが知られている。
【0003】
図10に、クーロン力(a)、ジョンソン・ラーベック力(b)、グラジエント力(c)による作用を摸式的に示した。クーロン力は、チャック本体10を構成する誘電体層が高抵抗(体積抵抗率1013Ω・cm程度以上)である場合に支配的であり、ジョンソン・ラーベック力はチャック本体10がある程度の電気伝導性(体積抵抗率10〜1012Ω・cm程度)を有している場合に支配的となる。クーロン力による作用は、チャック本体10の電極12とワーク20との間で作用する長距離力であるのに対して、ジョンソン・ラーベック力は、チャック本体10とワーク20との接触界面で誘起される電荷による吸引力によることから、半導体ウエハなどの導体の吸着作用としてはクーロン力よりもはるかに強く作用する(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
これに対して、グラジエント力による吸着方法は、吸着対象物がガラス基板のような電気的絶縁体からなるものを吸着する方法として提案された(たとえば、特許文献2、3参照)。このグラジエント力による作用は、静電チャックの表面に不均一電界を発生させてワークを吸着支持するものであり、正負の対となる電極を、パターン幅およびパターン間隔を数mm以下のファインパターンに形成し、誘電体層の表層近傍に電極12を形成してワークにグラジエント力が作用するように形成される。
【特許文献1】特開2005−166820号公報
【特許文献2】特開2005−223185号公報
【特許文献3】特開2006−49852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラジエント力を利用してワークを吸着支持する方法は、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークを吸着する方法に利用されるが、グラジエント力による吸着作用はさほど大きな吸着力が得られるものではない。このため、小型のワークについてはグラジエント力の作用によってワークを吸着支持することは可能であるが、一辺が1メートルもあるLCDパネルのような大型の重いガラス基板を搬送するような場合には、吸着力が十分に得られないという問題がある。
【0006】
グラジエント力による吸着力は、電極に印加する電圧を高電圧とすることによって大きくできるから、電極に高電圧を印加してワークを吸着するようにすることは可能である。しかしながら、LCDパネルのような基板の表面に回路が形成されているワークを取り扱う場合には、電極に高電圧を印加すると回路が絶縁破壊したり、アーク放電によってワークが損傷したりするという問題が生じる。
一方、印加電圧を下げると、グラジエント力が低下し、搬送時にワークが位置ずれして搬送エラーが生じるといった問題や、ワークの位置ずれによってガラス基板の表面に形成された回路に高電圧が発生して回路を損傷させるという問題が生じる。
【0007】
また、大判のLCDパネル等のワークを大気中で高速搬送したような場合には、空気との接触によってワークが帯電しやすく、また、絶縁体であるガラス基板などの帯電は内部から発生する場合が多く、イオナンザーのように外部からイオンを照射して中和するような除電手段は有効でないために、帯電した状態でワークを静電チャックに搬送すると、静電チャックによる吸着力が打ち消されるように作用し、ワークが位置ずれしてワークの搬送エラーが生じるといった問題が生じる。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、LCDパネルのような電気的絶縁体からなる大型のワークであっても確実に吸着支持することができ、ワークの搬送操作等に的確に使用することができる静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
静電チャックにより、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークを吸着する際に、グラジエント力による吸着作用を利用できることについては知られているが、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークに対してもクーロン力による吸着力が作用する。本発明者は、このクーロン力による吸着作用が、電極パターンの形態によって電気的絶縁体からなるワークの吸着、とくに大型のワークの吸着に有効に作用することを見出した。本発明は、このクーロン力による吸着作用を効果的に発現させることにより、電気的絶縁体からなるワークを効果的に吸着支持することができる静電チャックを提供するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、電気的絶縁体からなるワークを吸着支持する静電チャックであって、正負の電圧が印加されるプラス側の電極とマイナス側の電極とが、内層に形成されたチャック本体を備え、前記プラス側の電極とマイナス側の電極が、前記チャック本体の吸着面に対して占める面積比が60%〜90%に設けられていることを特徴とする。
また、前記電極が、前記チャック本体の吸着面に対して占める面積比が70%〜80%であることがとくに有効である。
また、前記チャック本体は、吸着面の面積が、0.6m以上である場合、すなわち0.6m以上の面積を有する大型のワークを吸着する装置として効果的に利用できる。
【0011】
また、前記チャック本体は、体積抵抗率が10×13Ω・m以上の誘電体によって形成されていることにより、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークを効果的に吸着支持することができる。
【0012】
また、前記プラス側の電極とマイナス側の電極とが、平行パターンに形成されて櫛歯状に入り組んだ配置に設けられていることが有効である。
また、前記プラス側の電極とマイナス側の電極が、チャック本体の厚さ方向に離間した層配置に設けられていることにより、電極間の電気的短絡等の問題を回避しながら、チャック本体の吸着面における電極の面積比を容易に大きく設定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る静電チャックは、プラス側の電極とマイナス側の電極が、前記チャック本体の吸着面に対して占める面積比を60%〜90%に設けたことによって、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークに効果的にクーロン力を発現させることが可能となり、これによって大型のワークであっても確実に吸着支持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付図面とともに詳細に説明する。
(電極パターンの例)
図1〜3は、静電チャックのチャック本体10に形成した電極12a、12bの例を示す。図示した電極12a、12bは、いずれも櫛歯状に形成したもので、プラス側の電極12aとマイナス側の12bがともに平行パターンに形成され、電極パターンを横断する方向(図のA−A線方向)で、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bが交互に配置されている。プラス側の電極12aは共通の接続パターン13aを介してプラス側の高圧電源に接続され、マイナス側の電極12bは共通の接続パターン13bを介してマイナス側の高圧電源に接続される。
【0015】
図1(b)、図2(b)は、セラミック基板(誘電体層)によって形成されるチャック本体10の内層に電極12a、12bが形成され、電極12a、12bがそれぞれプラス側の電源(+V2ボルト)、マイナス側の電源(−V1ボルト)に接続され、チャック本体10が金属からなるベースプレート14に支持されることを示す。静電チャック15は、チャック本体10とベースプレート14とからなる。
チャック本体10は吸着対象であるワークの平面形状および大きさに合わせて形成される。図1〜3では、平面形状が正方形のワークを吸着する例として、吸着面が正方形に形成されたチャック本体10を示す。
【0016】
図1〜3に示す電極パターンのうち、図1に示す電極パターンが最も狭幅に形成され、図3に示す電極パターンが最も広幅に形成されている。図3に示す電極パターンは、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bが縦横方向に交互に配置した例を示す。
本発明においては、チャック本体10に形成する電極12a、12bがチャック本体10の吸着面内で占める面積比が静電チャックの特性を規定する重要なパラメータとなる。図1は、電極12a、12bがチャック本体10の吸着面内で占める面積の割合が50%(パターン幅と電極間隔の比が1:1)、図2は、電極12a、12bが占める面積の割合が75%(パターン幅と電極間隔の比が3:1)、図3は、電極12a、12bが占める面積の割合が83%(パターン幅と電極間隔の比が5:1)の例を示す。
【0017】
前述したように、グラジエント力によってガラス基板等のワークを吸着する力は、静電チャックの表面に不均一電界を発生させることによって生じるから、グラジエント力による作用を増大させるには、電極パターンはできるだけ微細にかつ高密度に形成するのがよい。すなわち、図1〜3に示す例では、図1に示す電極パターンとする場合が、最もグラジエント力による作用が大きくあらわれる。
一方、クーロン力は、電極パターンの面積が大きいほど、言い換えれば静電チャックの吸着面に占める電極の面積が広いほど大きくなる。図1〜3に示す電極パターンでは、図3に示す電極パターンの場合がクーロン力による作用が最も大きくあらわれる。
【0018】
(電極の面積比率と単位面積あたりの吸着力)
図4は、静電チャックに形成する電極の吸着面に対する面積比によってガラス基板に作用する吸着力がどのように変化するかを測定した結果を示すグラフである。図4では、静電チャックにより吸着支持するガラス基板として、1辺が0.45mの正方形(G1)、1辺が0.8mの正方形(G2)、1辺が1.2mの正方形(G3)の基板について示す。図4の測定結果は、プラス側の電極とマイナス側の電極間に4000ボルトの電圧を印加した場合で、ワークの単位面積あたりに作用する吸着力を示す。
【0019】
図4に示すグラフから、まず、電極の面積比率が50%程度の場合には、ガラス基板G1、G2、G3ともに、単位面積あたりの吸着力には大きな差がないこと、すなわち、図1に示すような、電極12a、12bが吸着面の50%程度を占めるパターンとした場合は、ガラス基板の大きさには依存しない吸着力が作用することがわかる。ガラス基板に作用するグラジエント力は、単位面積あたりに一定の吸着力としてあらわれる。したがって、電極の面積比率が50%程度の場合には、ガラス基板にはグラジエント力が支配的に作用し、ガラス基板の大きさには依存しない吸着力が作用するものと考えられる。
【0020】
次に、電極の面積比率が60〜80%程度の範囲では、ガラス基板の大きさに依存して吸着力が大きく異なることが特徴的である。
すなわち、電極の面積比率が60%程度を超えるようになると、小型のガラス基板G1については、単位面積あたりの吸着力が面積比率50%のときよりも大きく減少する。これは、図2に示すように、電極の面積比率が60%程度を超えるようになると、電極のパターン幅が電極間の間隔にくらべて広くなるから、本来、電極を細幅で高密度に形成することによって発現するグラジエント力を発現するパターンの形態から外れてしまい、グラジエント力が低減したものと考えられる。
【0021】
一方、中型のガラス基板G2と大型のガラス基板G3については、電極の面積比率が60%〜80%になると、急激に単位面積あたりの吸着力が大きくなり、面積比率が増大するにしたがって吸着力が大きくなる。小型のガラス基板G1についてはこの領域で吸着力が減少する傾向になることと合わせ考えると、電極のパターンが広幅になることによってクーロン力による吸着力が増大し、この電極の面積比率の領域では、ガラス基板G2、G3についてはクーロン力が支配的となると考えられる。
【0022】
電極の面積比率が80%を超えると、ガラス基板G1については、単位面積あたりの吸着力がさらに減少する一方、ガラス基板G2、G3については吸着力が徐々に増大する。この領域ではガラス基板G1についてみると、電極はガラス基板の大きな領域を占めるから、クーロン力が支配的になるが、ガラス基板の面積自体が他のガラス基板G2、G3と比較して小さいことから、電極自体が占める絶対的な面積が小さく、十分な吸着力が得られないものと考えられる。
【0023】
図5は、静電チャックの吸着面内における電極の面積比率を50%とした場合(P50)、75%とした場合(P75)、85%とした場合(P85)について、ガラス基板の大きさによって吸着力がどのように変化するかを測定した結果を示すグラフである。グラフの横軸は正方形のガラス基板の一辺の長さ、縦軸は、ガラス基板全体に作用する吸着力を示す。
図5から、静電チャックに形成される電極の面積比率が50%の場合(P50)は、ガラス基板の大きさが大きくなると徐々に増大するが、これはガラス基板の吸着力がガラス基板の面積とともに増大することを示している。すなわち、単位面積あたりの吸着力が均等であることを示す。
【0024】
一方、電極の面積比率が75%の場合(P75)と面積比率が85%の場合(P85)には、ガラス基板の大きさが一辺0.5m程度の場合には、面積比率が50%の場合(P50)と吸着力は同程度であるが、ガラス基板の大きさが一辺0.8m(面積0.6m)程度以上になると、明らかに吸着力の差があらわれることがわかる。
【0025】
図4および図5の結果から、一辺の大きさが0.8m程度以上の正方形のガラス基板については、静電チャック15のチャック本体10に形成する電極の面積比を60%〜90%に設定することにより、ガラス基板に作用する吸着力を効果的に増大させることができ、とくに電極の面積比が70%〜80%の範囲では、吸着力が大きく増大することがわかる。すなわち、大判のワークについてはクーロン力による吸着力を利用して吸着する構成となるように電極パターンを形成することが有効であることがわかる。
ガラス基板に作用する吸着力を増大させることができれば、電極に印加する電圧を下げることができるから、LCDパネル等のように基板に回路が形成されているワークを吸着支持して搬送するような場合に、高電圧によってワークが損傷するといった問題を効果的に防止することができる。
【0026】
上記実施形態では、正方形状のガラス基板を吸着支持する静電チャックについて測定した結果に基づいて説明したが、クーロン力による吸着力はワークの形状や材質に依存するものではない。正方形以外のたとえば円形のワークを吸着する静電チャックについてもまったく同様に適用することができる。すなわち、吸着対象とするワークがガラス基板のような電気的絶縁体からなるものであり、クーロン力、グラジエント力による作用によって吸着支持するワークを対象とする場合で、0.6m以上の吸着面積を備える静電チャックを構成する場合には、吸着面に対する電極の面積比率を60%〜90%、好ましくは70%〜80%とすることによって好適な吸着力を備えた静電チャックとして提供することができる。
【0027】
(電極の他の形成例)
上述したように、本発明に係る静電チャックでは、電極が静電チャックのチャック本体の吸着面に対して占める面積比率が60%〜90%と大きな面積を占めている。電極の面積比率を大きくするには、図3に示すように、電極部分を広幅とし電極間の間隔を狭くするように設計すればよい。このように、一つ一つの電極領域を吸着面内で大きなブロック状とすることで、電極の面積比率を大きくすることは可能であるが、一つ一つの電極領域を極端に大きくとらないように設計する場合には、電極間の間隔を狭くしなければならない。しかしながら、電極間の間隔を狭くすると、静電チャックを作製する際に電極間で電気的に短絡するおそれがあるし、電極に高電圧を印加した際に電極間で放電するというおそれがある。
【0028】
静電チャックに形成する電極パターンのパターン幅をあまり大きくとらないようにし、なおかつ電極の面積比率を大きくするには、図6に示すように、チャック本体10の内層に複数層に電極12a、12bを形成する方法が有効である。なお、図ではベースプレートを省略している。
図6(a)は、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bとをチャック本体10の内層で別層に形成し、それぞれプラス電源とマイナス電源に接続した例である。図6(b)は、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bとを2層構造とし、チャック本体10の平面を2つに区分(たとえば、左右に2分割)し、一半部と他半部にそれぞれ電極12a、12bを配置した例である。
【0029】
このように、複数層に電極12a、12bを形成する構成とすると、電極の層間距離を確保することによって電極間の電気的短絡を防止することができ、チャック本体10を平面方向から見た場合には電極間が近接して配置され、電極の面積比を実質的に大きくすることができる。図6(b)の例では、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bを形成する領域では、平面配置が重複するように配置してもよい。
【0030】
チャック本体10は、アルミナ等のセラミックグリーンシートを積層し、チャック本体10に形成する電極のパターンにしたがってタングステンペースト等の導体ペーストを印刷し、グリーンシートを積層して平板状に焼成して形成する。したがって、適宜の形状に電極パターンを印刷したグリーンシートを積層して焼成することによって、図6に示す電極12a、12bが複数層に形成されたチャック本体10を形成することができる。
なお、チャック本体10を構成する誘電体層はワークのデチャック性等を考慮して、適当な抵抗値となるように設定される。誘電体層の抵抗値は、セラミックグリーンシートを調製する際に、主材となるセラミック材料に抵抗値を調節する材料を適宜加えることによって調整される。
【0031】
図7は、チャック本体10に形成する電極のさらに他の例を示す。前述したように、ガラス基板等の電気的絶縁体からなるワークを吸着する際にクーロン力をより効果的に発現させるには、電極の面積を大きくすることが有効である。図7は、チャック本体10の内層に形成する電極12a、12bを端面形状が波形となるように形成した例である。このように電極12a、12bを平坦面とせず折曲した形状とすることにより、同一の平面領域内における電極12a、12bの表面積を増大させることができ、これによってクーロン力による吸着作用を向上させることができる。
【0032】
(帯電したワークを吸着支持する方法)
LCDパネルのような大判のガラス基板を処理する装置では、高速でワークを搬送した際に、ワークが空気と接触してワークが帯電することがある。また、イオンエッチング等のドライエッチングプロセスによりワークが帯電することがある。このような場合に、ワークが帯電したまま静電チャックに搬送されると、ワークの帯電が静電チャックによる静電吸着力を打ち消すように作用し、静電チャックの吸着力が弱められるという現象が生じる。
【0033】
このような問題を解消する方法として、図8に示すように、静電チャックに形成するプラス側の電極12aとマイナス側の電極12bのパターン幅を変えることによって解消することが可能である。
ワークがプラスに帯電する場合には、マイナス側の電極パターンをプラス側の電極パターンよりも広幅としてプラス側の電極よりも面積を大きくし、プラス側の電極12aとマイナス側の電極12bによって生じるクーロン電荷をアンバランスさせ、ワーク20が帯電していることによる影響を打ち消すことによって、所要の吸着力が得られるようにすることができる。
【0034】
ワークの帯電を打ち消すようにして静電チャックにより吸着支持する他の方法として、図9に示すように、プラス側の電極が接続される電源と、マイナス側の電極が接続される電源にそれぞれ電流計A2、A1を設け、電流計A2、A1の電流i2、i1をモニターしながら、プラス側の電極とマイナス側の電極に印加する電源電圧+V2、−V1を、電流i2=i1となるように調節することにより、帯電したワークを安定して吸着支持することができる。帯電したワークが静電チャック上に搬送されてきた際に、電流計A2、A1の電流が一致するように電源電圧+V2、−V1を調節することにより、ワークの帯電を打ち消すように電極に電荷が供給され、静電チャックによる本来の吸着力を得ることができる。
【0035】
このように、電極の面積比率をプラス側の電極とマイナス側の電極とで変えるようにする方法、プラス側の電極とマイナス側の電極に供給する電流値が一致する(i1=i2)ように制御する方法によって、帯電したワークであっても静電チャックに確実に吸着支持できるのは、ワークを吸着する吸着力がクーロン力に起因することによる。ガラス基板のような電気的絶縁体は、半導体などとくらべて帯電しやすい性質があるから、ワークの帯電を打ち消すようにして吸着支持できるようにすることは、電気的絶縁体からなるワークを吸着支持する静電チャックとして有効である。なお、ワークの帯電を防止するように電極パターンのパターン幅をプラス側の電極とマイナス側の電極で変える場合も、前述した実施形態と同様に、電極の吸着面に対する面積比を60%〜90%、好ましくは70%〜80%とするのが良い。
【0036】
なお、上記実施形態の静電チャック15は、ベースプレート14に誘電体層としてセラミック基板からなるチャック本体10を接着して形成したものであるが、チャック本体10にクッション性をもたせるために、ベースプレート14にシリコーンゴムを接着し、シリコーンゴムの表面に、銅パターンからなる電極を形成した電極フィルムと、ポリエステルフィルム等の絶縁フィルムからなる誘電体層とを積層するように接着して形成した静電チャックも用いられる。このような、クッション性をもたせたチャック本体を備える静電チャックは、LCDパネル等の大判のワークの吸着支持に有効であり、本発明は、このようなクッション性を有するチャック本体を備えた静電チャックについても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】静電チャックに形成する電極の平面配置(a)と断面配置(b)を示す説明図である。
【図2】静電チャックに形成する電極の平面配置(a)と断面配置(b)を示す説明図である。
【図3】静電チャックに形成する電極の平面配置を示す説明図である。
【図4】吸着面積が異なる3種のワークについて、電極の面積比に対する単位面積あたりの吸着力を測定した結果を示すグラフである。
【図5】電極の面積比を変えた場合の、ガラス基板の大きさに対する吸着力について測定した結果を示すグラフである。
【図6】静電チャックに形成する電極の他の形成例を示す断面図である。
【図7】静電チャックに形成する電極のさらに他の形成例を示す断面図である。
【図8】帯電したワークを吸着支持する方法を示す電極の平面配置(a)と断面配置(b)を示す説明図である。
【図9】帯電したワークを吸着支持する他の方法を示す説明図である。
【図10】クーロン力(a)、ジョンソン・ラーベック力(b)、グラジエント力(c)によりワークを吸着支持する作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10 チャック本体
12、12a、12b 電極
13a、13b 接続パターン
14 ベースプレート
15 静電チャック
20 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁体からなるワークを吸着支持する静電チャックであって、
正負の電圧が印加されるプラス側の電極とマイナス側の電極とが、内層に形成されたチャック本体を備え、
前記プラス側の電極とマイナス側の電極が、前記チャック本体の吸着面に対して占める面積比が60%〜90%に設けられていることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記電極が、前記チャック本体の吸着面に対して占める面積比が70%〜80%であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記チャック本体は、吸着面の面積が、0.6m以上であることを特徴とする請求項1または2記載の静電チャック。
【請求項4】
前記チャック本体は、体積抵抗率が10×13Ω・m以上の誘電体によって形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の静電チャック。
【請求項5】
前記プラス側の電極とマイナス側の電極とが、平行パターンに形成されて櫛歯状に入り組んだ配置に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の静電チャック。
【請求項6】
前記プラス側の電極とマイナス側の電極が、チャック本体の厚さ方向に離間した層配置に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の静電チャック。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−41993(P2008−41993A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215631(P2006−215631)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】