説明

静電型トランスデューサ

【課題】従来に比べて小型化が可能な静電型トランスデューサを提供する。
【解決手段】静電型トランスデューサ1は、支持基板10と、支持基板10の一表面側に形成された固定板部20と、固定板部20の厚み方向の一表面側に対向配置され固定板部20の厚み方向に変位可能なばね構造部40を介して固定板部20に支持された可動板部30とを備える。固定板部20には、当該固定板部20と可動板部30との間の空間60に連通する複数の穴部21が設けられており、固定板部20が固定電極25を兼ねているので、固定電極25が穴部21の内面に沿って延在している。また、可動板部30には、固定板部20の各穴部21に1つずつ遊挿される複数の突部31が連続一体に設けられており、可動板部30が可動電極35を兼ねているので、可動電極35が突部31に延在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型トランスデューサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロマシニング技術などを利用して形成される静電型トランスデューサが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ここにおいて、上記特許文献1に開示された静電型トランスデューサ1’は、図9に示すように、シリコン基板10a’上にシリコン酸化膜からなる絶縁膜10b’が形成された支持基板10’と、支持基板10’の一表面側において支持基板10’に支持された固定板部20’と、固定板部20’に対向配置され可動電極35’を兼ねる可動板部30’と、固定板部20’における可動板部30’側に形成された金属薄膜からなる固定電極25’とを備え、固定板部20’に、固定板部20’と可動板部30’との間の空間に連通する複数の小孔21’が貫設され、支持基板10’に、固定板部20’と可動板部30’との間の空間60’に連通する開孔部11’が形成されている。なお、固定板部20’は剛性が高くなるように設計され、可動板部30’は剛性が低くなるように設計されている。
【0004】
上述の静電型トランスデューサ1’では、固定電極25’と可動電極35’とを電極とするコンデンサが形成されるから、可動板部30’が音波を受波することにより固定電極25’と可動電極35’との間の距離が変化し、コンデンサの静電容量が変化する。したがって、固定電極25’と可動電極35’との間に直流バイアス電圧を印加しておけば、固定電極25’と可動電極35’との間には音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、音波の音圧によって生じる可動板部30’の振動エネルギを電気信号に変換する音響センサとして用いることができる。
【0005】
また、上述の静電型トランスデューサ1’は、固定電極25’と可動電極35’との間に電圧を印加すると、固定電極25’と可動電極35’との間に発生する静電引力によって可動板部30’が固定板部20’に近づく向きに変位するので、固定電極25’と可動電極35’との間に印加する電圧を変化させることで可動板部30’を振動させることにより、音波を発生させることができるから、スピーカとして用いることができる。ここにおいて、出力される音圧を大きくするには、振動板部30’の変位量を大きくすればよい。
【0006】
ところで、直流バイアス電圧を印加して音響センサとして用いる静電型トランスデューサでは、開放端電圧(開放端出力電圧)をE〔V〕、可動板部30’で受波する音波の音圧をP〔Pa〕とすると、電圧感度〔dB〕は下記数1で表されることが知られている。
【0007】
【数1】

【0008】
ここにおいて、開放端電圧Eは、固定電極25’と可動電極35’との間に印加する規定の直流バイアス電圧をVb〔V〕、規定の直流バイアス電圧Vbを印加している初期状態におけるコンデンサの静電容量(以下、センサ容量ともいう)をC〔F〕、固定電極25’と可動電極35’との間の距離が変化したときの静電容量の変化量(以下、センサ容量変動分ともいう)をΔC〔F〕とすると、開放端電圧Eと直流バイアス電圧Vbとの関係は、下記数2で表される。
【0009】
【数2】

【0010】
上述の数1、数2から、静電型トランスデューサを音響センサとして用いる場合の電圧感度を向上させる一手段として、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合(つまり、ΔC/C)を増加させることが有効であることが分かる。
【0011】
ここで、上述のコンデンサについて、説明を簡単にするために、平面視形状が正方形状の微小要素(平行平板コンデンサ)で考え、図10に示すように、微小要素の1辺の長さをa〔m〕、規定の直流バイアス電圧を印加している初期状態における固定電極25’と可動電極35’との間の距離をg〔m〕、初期状態からの可動電極35’の固定電極25’に近づく向きへの変位方向を正方向としたときの可動電極35’の変位量をx〔m〕とし、固定電極25’と可動電極35’との間の空間に存在する媒質(空気)の誘電率をε、初期状態における微小要素の静電容量(以下、センサ容量ともいう)をC〔F〕、可動電極35’の変位量がxの変位状態での微小要素の静電容量をC’〔F〕とすると、静電容量C,C’はそれぞれ下記数3,数4で表される。
【0012】
【数3】

【0013】
【数4】

【0014】
上述の数3,数4から、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合は、下記数5で表される。
【0015】
【数5】

【0016】
上述の数3,数4,数5から、変位量xが大きくなるほど、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合が大きくなることが分かる。
【0017】
ところで、この種の静電型トランスデューサでは、可動板部の残留応力を低減して可動板部のコンプライアンスを大きくすることが重要であり、上記特許文献2には、可動板部を可動板部の外周方向において並設された複数のアームを介して支持基板に支持することで、可動板部の残留応力を低減してコンプライアンスを大きくしてなる静電型トランスデューサが開示されている。
【特許文献1】特表2004−506394号公報(段落〔0021〕−〔0022〕および図1)
【特許文献2】特表2005−535152号公報(段落〔0015〕−〔0023〕および図1−図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献1に開示された図9に示す構成の静電型トランスデューサ1’や上記特許文献2に開示された静電型トランスデューサを音響センサとして用いるような場合には、より一層の小型化が期待されているが、市販のエレクトレットコンデンサマイクロホンに比べて電圧感度が低く、所望の電圧感度により小型化が制限されるので、電圧感度の向上が望まれている。また、上述の静電型トランスデューサをスピーカとして用いる場合にも、より一層の小型化を図るために、出力される音波の音圧の向上が望まれている。
【0019】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来に比べて小型化が可能な静電型トランスデューサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明は、固定板部と、固定板部の厚み方向の一表面側に対向配置された可動板部とを備え、固定板部に設けられた固定電極と可動板部に設けられた可動電極とでコンデンサが形成された静電型トランスデューサであって、可動板部が、固定板部の厚み方向に変位可能なばね構造部を介して固定板部に支持され、固定板部は、当該固定板部と可動板部との間の空間に連通する穴部が設けられるとともに、固定電極が穴部の内面に沿って延在し、可動板部は、固定板部の穴部に遊挿される突部が設けられ、可動電極が突部に延在していることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、可動板部が、固定板部の厚み方向に変位可能なばね構造部を介して固定板部に支持されているので、可動板部の残留応力を低減できて可動板部のコンプライアンスを大きくすることができ、しかも、固定板部は、当該固定板部と可動板部との間の空間に連通する穴部が設けられるとともに、固定電極が穴部の内面に沿って延在し、可動板部は、固定板部の穴部に遊挿される突部が設けられ、可動電極が突部に延在しているので、固定板部および可動板部の平面サイズを大きくすることなく、固定電極と可動電極との間に形成されるコンデンサに関して、静電容量を大きくすることができるとともに、可動板部の変位量に対する静電容量の変化量を大きくすることができ、従来に比べて小型化を図ることができる。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ばね構造部は、前記厚み方向に直交する面内で前記可動板部を全周に亘って囲むように配置され、コルゲート板状に形成されてなることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、前記ばね構造部を前記突部と同時に形成することが可能となり、製造プロセスの簡略化による低コスト化を図れる。
【0024】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記穴部は前記固定板部の厚み方向に貫設された貫通孔からなることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、前記固定板部と前記可動板部との間の空間と前記固定板部における前記可動板部側とは反対側の空間とを前記穴部を介して連通させることができ、前記固定板部の厚み方向への空気の流動が可能となるので、例えば高周波用の音響センサとして用いる場合の感度特性を向上でき、例えば高周波用のスピーカとして用いる場合の出力特性を向上できる。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明では、従来に比べて小型化が可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施形態1)
以下、本実施形態の静電型トランスデューサ1について図1〜図3を参照しながら説明する。
【0028】
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、固定板部20と、固定板部20の厚み方向の一表面側(図1(a)における上面側)に対向配置された可動板部30とを備え、固定板部20に設けられた固定電極25と可動板部30に設けられた可動電極35とでコンデンサが形成されたものであり、例えば、音響センサとして使用することができるが、他の用途(例えば、スピーカ、圧力センサなど)として使用することもできる。
【0029】
ここにおいて、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、支持基板10と、支持基板10の一表面側に形成された上述の固定板部20と、固定板部20の厚み方向の一表面側に対向配置され固定板部20の厚み方向に変位可能なばね構造部40を介して固定板部20に支持された可動板部30とを備え、固定板部20が上述の固定電極25を兼ね、可動板部30が上述の可動電極35を兼ねている。
【0030】
また、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、固定板部20に、当該固定板部20と可動板部30との間の空間60に連通する複数の穴部21が設けられており、固定板部20が固定電極25を兼ねているので、固定電極25が穴部21の内面に沿って延在している。また、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、可動板部30に、固定板部20の各穴部21に1つずつ遊挿される複数の突部31が連続一体に設けられており、上述のように可動板部30が可動電極35を兼ねているので、可動電極35が突部31に延在している。また、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、固定電極25,35それぞれと電気的に接続されたパッド26,36を備えている。したがって、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、固定電極25および可動電極35と回路基板などに設けられた外部回路とをボンディングワイヤなどを介して電気的に接続することができる。
【0031】
支持基板10は、シリコン基板10aと、当該シリコン基板10a上に形成されたシリコン酸化膜からなる絶縁膜10bとで構成されている。ところで、上述の固定板部20の穴部21は厚み方向に貫通しており、支持基板10には、厚み方向に貫通し固定板部20の各穴部21と連通する1つの開孔部11が形成されている。ここで、開孔部11においてシリコン基板10aに形成されている部分は、アルカリ系溶液(例えば、TMAH水溶液、KOH水溶液など)を用いた異方性エッチングにより形成されており、固定板部20から離れるにつれて開口面積が徐々に大きくなっている。なお、開孔部11は、例えば誘導結合プラズマ型のエッチング装置を用いたドライエッチングにより形成してもよく、アルカリ系溶液を用いた異方性エッチングにより形成する場合に比べて支持基板10の他表面における開口面積を小さくすることができるので、支持基板10の平面サイズの小型化を図れる。ここで、支持基板10の外周形状は矩形状である。
【0032】
固定板部20は、不純物(例えば、ボロンなど)をドーピングすることで導電性を付与したポリシリコン膜により構成されており、例えばCVD法などを利用して支持基板10の上記一表面側に不純物をドーピングしたポリシリコン膜を成膜した後で、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して上述の穴部21を形成すればよい。ここにおいて、固定板部20は、ポリシリコン膜に限らず、不純物をドーピングすることで導電性を付与したアモルファスシリコン膜により構成してもよい。また、本実施形態では、固定板部20が固定電極25を兼ねているが、固定板部20と固定電極25とを互いに異なる材料により形成する場合には、固定板部20を、例えば、ノンドープのポリシリコン膜、ノンドープのアモルファスシリコン膜、シリコン窒化膜などにより構成し、固定電極25を、金属膜(例えば、白金膜とクロム薄膜との積層膜)により構成してもよく、この場合には、固定板部20の厚み方向において可動板部30に対向する一表面側に形成する固定電極25を各穴部21の内面に延在させればよい。要するに、固定板部20における上記一表面と各穴部21の内面とに跨って固定電極25を形成すればよい。ここで、固定電極25を構成する金属膜の材料は白金やクロムに限らず、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、金などを採用してもよい。なお、固定板部20は、剛性を高くすることが望ましいから、上述のシリコン基板10aとは別の厚みが数百μmのシリコン基板を用いるようにし、支持基板10と接合するようにしてもよい。
【0033】
固定板部20は、上述の各穴部21の開口形状が矩形状(本実施形態では、正方形状)であり、複数の穴部21が二次元アレイ状に配置されているが、穴部21の開口形状および配置は特に限定するものではなく、穴部21の開口形状は、例えば、多角形状(例えば、六角形状)でもよいし、円形状でもよい。
【0034】
本実施形態では、上述のように固定板部20が固定電極25を兼ねているので、固定板部20上に固定電極25と電気的に接続される上述のパッド26を形成してある。なお、上述のように固定板部20と固定電極25とを互いに異なる材料により形成する場合には、寄生容量を小さくするために、固定電極25とパッド26とを適宜パターニングされた金属配線を介して電気的に接続することが望ましい。
【0035】
可動板部30は、不純物(例えば、ボロンなど)をドーピングすることで導電性を付与したポリシリコン膜により構成されており、例えばCVD法などの成膜技術および犠牲層エッチング技術などを利用して形成すればよい。ここにおいて、可動板部30は、ポリシリコン膜に限らず、不純物をドーピングすることで導電性を付与したアモルファスシリコン膜により構成してもよい。また、本実施形態では、可動板部30が可動電極35を兼ねているが、可動板部30と可動電極35とを互いに異なる材料により形成する場合には、可動板部30を、例えば、ノンドープのポリシリコン膜、ノンドープのアモルファスシリコン膜、シリコン窒化膜などにより構成し、可動電極35を、金属膜(例えば、白金膜とクロム薄膜との積層膜)により構成してもよく、この場合には、可動板部30の厚み方向において固定板部20に対向する一表面側に形成する可動電極35を各突部31の外周面に延在させればよい。要するに、可動板部30における上記一表面と各突部31の外周面とに跨って可動電極35を形成すればよい。ここで、可動電極35を構成する金属膜の材料は白金やクロムに限らず、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、金などを採用してもよい。なお、可動板部30として上述のシリコン基板10aとは別のシリコン基板を用いてもよいが、可動板部30は、当該可動板部30の厚み方向の両側の圧力差により変形する必要があるので、剛性を低くするために厚みを薄くすることが望ましい。
【0036】
可動板部30における突部31は、可動板部30の厚み方向に直交する断面が矩形状(本実施形態では、正方形状)である四角柱状に形成されている。ここにおいて、突部31は、固定板部20の上記一表面側に例えばシリコン酸化膜もしくはシリコン窒化膜からなる犠牲層を介して可動板部30用のポリシリコン膜を形成する際に、犠牲層表面に各突部31に対応する凹部を形成しておき、当該犠牲層表面側にポリシリコン膜をCVD法などによって成膜することによって形成することができる。犠牲層は、可動板部30となるポリシリコン膜を成膜した後に、支持基板10の開孔部11および固定板部20の穴部21を通してエッチングすればよいが、本実施形態では、犠牲層の一部を、ばね構造部40と固定板部20との間に介在する絶縁部50として残すように犠牲層をエッチングする。したがって、固定板部20と可動板部30との間の距離を絶縁部50の厚みによって規定することができる。なお、可動板部30における突部31の突出寸法は、絶縁部50の厚み寸法よりも大きく設定してあるので、上述の犠牲層を形成する犠牲層形成工程では、各突部31に対応する上記凹部の深さ寸法が、犠牲層のうち固定板部20の上記一表面上に形成される部位の厚み寸法よりも大きくなるように、例えば、開孔部11を形成する以前の支持基板10の上記一表面側に、各穴部21を有する固定板部20を形成した後、シリコン酸化膜からなる犠牲層を常圧CVD法などの段差被覆性の低い成膜方法で成膜すればよい。
【0037】
ここにおいて、可動板部30の突部31の突出寸法は必ずしも絶縁部50の厚み寸法よりも大きく設定する必要はなく、例えば、可動板部30の自重や残留応力による変形により突部31が穴部21に遊挿されるように設定してもよいし、上述のパッド26,36を利用して固定電極25と可動電極35との間に規定の直流バイアス電圧を印加した状態で突部31が穴部21に遊挿されるように設定してもよい。
【0038】
なお、突部31の形状は四角柱状の形状に限らず、例えば、多角柱状(例えば、六角柱状)、円柱状、角錐状、円錐状、角錐台状、円錐台状、図4(a)に示すような平板の薄板状の形状(平面視形状が直線状)もよいし、同図(b)に示すように湾曲した薄板状の形状(平面視形状が曲線状)の形状でもよいし、同図(c)に示すような中空を有する四角柱状の形状に形成してもよい。ただし、突部31の形状は穴部21の形状に対応する形状に形成する必要がある。
【0039】
ところで、上述のばね構造部40は、固定板部20の厚み方向に変位可能な板ばねであり、外周形状が円形状の可動板部30と連続一体に形成されている。要するに、本実施形態では、可動板部30には、4つのばね構造40が連続一体に形成されている。ここにおいて、4つのばね構造部40は、可動板部30の厚み方向に沿った中心軸に対して回転対称性を有するように配置されており、一端部が可動板部30に連結され、他端部が上述の絶縁部50と連結されている。ここで、ばね構造部40は、当該ばね構造部40および可動板部30の基礎となるポリシリコン膜を成膜した後で、当該ポリシリコン膜をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを利用してパターニングすることで可動板部40と同時に形成することができるので、ばね構造部40のコンプライアンスを上げるように寸法や平面形状を設計すればよい。なお、本実施形態では、上述のように可動板部30が導電性を付与したポリシリコン膜により構成されており、ばね構造部40も導電性を付与したポリシリコン膜により構成されているので、ばね構造部40の他端部において絶縁部50に重なる部位上に上述のパッド36を形成してある。
【0040】
ここで、上述のコンデンサについて、説明を簡単にするために、平面視形状が正方形状の微小要素で考え、図3に示すように、微小要素の1辺の長さをa〔m〕、突部31の正方形状の断面における各辺の長さをb〔m〕、穴部21への突部31の挿入寸法をc〔m〕、初期状態での固定板部20の厚み方向における固定電極25と可動電極35との間の距離(以下、第1のギャップ長という)をg〔m〕、互いに対向する穴部21の内側面と突部31の外側面との間の距離(以下、第2のギャップ長という)をd〔m〕、初期状態からの可動電極35の固定電極25に近づく向きへの変位方向を正方向としたときの可動電極35の変位量をx〔m〕とし、固定電極25と可動電極35との間の空間60に存在する媒質(空気)の誘電率をε、初期状態における微小要素の静電容量(以下、センサ容量ともいう)をCcomb〔F〕、可動電極35の変位量がxの変位状態での微小要素の静電容量をCcomb’〔F〕とすると、静電容量Ccomb,Ccomb’はそれぞれ下記数6,数7で表される。
【0041】
【数6】

【0042】
【数7】

【0043】
上述の数6,数7から、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合は、下記数8で表される。
【0044】
【数8】

【0045】
ここで、一例として、上記数6、数7における各パラメータの値を、例えば、a=10×10−6〔m〕、b=2×10−6〔m〕、c=1×10−6〔m〕、d=3×10−6〔m〕、g=3×10−6〔m〕、x=5×10−9〔m〕とすると、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合は、ΔCcomb/Ccomb=0.00228となる。
【0046】
これに対して、穴部21および突部31がない場合には、微小要素のサイズを同じとして、上記数3,数4における各パラメータの値を、a=10×10−6〔m〕、g=3×10−6〔m〕、x=5×10−9〔m〕とすると、センサ容量に対するセンサ容量変動分の割合は、ΔC1/C1=0.00167となる。
【0047】
要するに、本実施形態の構成の静電型トランスデューサ1では、固定板部20に穴部21を設けて固定電極25が穴部21の内面に沿って延在し、可動板部30から突設され固定板部20の穴部21に遊挿される突部31に可動電極35を延在させていることにより、固定電極25と可動電極35との間に形成されるコンデンサに関して、従来に比べて、静電容量を大きくすることができるとともに、可動板部30の変位量に対する静電容量の変化量を大きくすることができ、電圧感度が向上するので、平面サイズ(チップサイズ)の小型化を図ることができる。
【0048】
また、上記一例では、第1のギャップ長gと第2のギャップ長dとがg=dの関係にある場合について例示したが、両ギャップ長g,dの関係がg>dとなるように設計し、a=10×10−6〔m〕、b=2×10−6〔m〕、c=1×10−6〔m〕、g=3×10−6〔m〕、d=0.5×10−6〔m〕、x=5×10−9〔m〕)とすると、ΔCcomb/Ccomb=0.00282となる。したがって、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、g>dとすることで、d=gとなるように設計する場合に比べて、可動板部30の変位量に対する静電容量の変化量を大きくすることができ、電圧感度を更に高めることができる。
【0049】
以上説明した本実施形態の静電型トランスデューサ1では、可動板部30が、固定板部20の厚み方向に変位可能なばね構造部40を介して固定板部20に支持されているので、可動板部30の残留応力を低減できて可動板部30のコンプライアンスを大きくすることができ、しかも、固定板部20は、当該固定板部20と可動板部30との間の空間60に連通する穴部21が設けられるとともに、固定電極25が穴部21の内面に沿って延在し、可動板部30は、固定板部20の穴部21に遊挿される突部31が設けられ、可動電極35が突部31に延在しているので、固定板部20および可動板部30の平面サイズを大きくすることなく、固定電極25と可動電極35との間に形成されるコンデンサに関して、静電容量を大きくすることができるとともに、可動板部30の変位量に対する静電容量の変化量を大きくすることができ、音響センサや圧力センサなどとして用いる場合には感度の向上を図れ、スピーカとして用いる場合には出力音圧の向上を図れるから、従来に比べて小型化および低コスト化を図れる。
【0050】
また、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、固定板部20の穴部21が固定板部20の厚み方向に貫設された貫通孔からなるので、固定板部20と可動板部30との間の空間60と固定板部20における可動板部30側とは反対側の空間(本実施形態では、支持基板10の開孔部11)とを穴部21を介して連通させることができ、固定板部20の厚み方向への空気の流動が可能となるので、穴部21がアコースティックホールとして機能し、例えば高周波用の音響センサとして用いる場合に感度特性を向上でき、例えば高周波用のスピーカとして用いる場合の出力特性を向上できる。
【0051】
ここにおいて、本実施形態の静電型トランスデューサ1をスピーカとして用いる場合には、上述のパッド26,36を介して固定電極25と可動電極35との間に駆動電圧を印加すれば、固定電極25と可動電極35との間に静電力(静電引力)が作用して可動板部30が固定板部20に近づく向きに変位するので、固定電極25と可動電極35との間に印加する駆動電圧を変化させることにより、可動板部30を振動させて音波を出力することができる。本実施形態の静電型トランスデューサ1をスピーカとして用いる場合、固定電極25と可動電極35との間に作用する静電力Fは、固定電極25と可動電極35との間の静電エネルギをU、固定電極25と可動電極35との間の静電容量をC〔F〕、固定電極25と可動電極35との間に印加する駆動電圧をV〔V〕、初期状態からの可動板部30の変位量をx〔m〕とすれば、下記数9で表される。
【0052】
【数9】

【0053】
ここで、上述の微小要素で考えると、初期状態から可動板部30が固定板部20の厚み方向に沿って固定板部20側にx〔m〕だけ変位した状態での微小要素における静電力Fcombは、上記数7、数9から、下記数10で表される。
【0054】
【数10】

【0055】
これに対して、穴部21および突部31がない場合には、微小要素のサイズを同じとして、初期状態から可動板部30が固定板部20の厚み方向に沿って固定板部20側にx〔m〕だけ変位した状態での微小要素における静電力F1は、上記数4、数10から、下記数11で表される。
【0056】
【数11】

【0057】
ここで、一例として上記数10、数11の各パラメータの値を、a=6×10−6〔m〕、b=2×10−6〔m〕、d=1×10−6〔m〕、g=4×10−6〔m〕とすると、初期状態(つまり、x=0〔m〕)において微小要素に作用する静電力についてみれば、Fcomb/F1=2.76となる。したがって、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、固定電極25と可動電極35との間に駆動電圧V〔V〕を印加したときに、固定電極25と可動電極35との間に作用する静電力を従来に比べて大きくすることができ、出力音圧の向上を図れる。
【0058】
ところで、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、上述のように固定板部20が固定電極25を兼ね、可動板部30が可動電極35を兼ねているので、固定電極25と可動電極35との短絡を防止するために、例えば、図5(a)に示すように可動板部30における固定板部20側の一表面上の全体に亘って絶縁膜80を形成してもよいし、同図(b)に示すように可動板部30の周部において固定板部20側の一表面上に絶縁膜80を形成してもよいし、同図(c)に示すように固定板部20における穴部21の内側面に絶縁膜80を形成してもよい。なお、図5(a)〜(c)における絶縁膜80は、厚み寸法を適宜設定することにより、可動板部30の過度な変位を規制するストッパとしての機能を持たせることもできる。
【0059】
(実施形態2)
本実施形態の静電型トランスデューサ1の基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、可動板部30の厚み方向の両側それぞれに固定板部20が対向して設けられており、可動板部30における厚み方向の両面から突部31が突設されている点などが相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、図6における上側の固定板部20に設けられた固定電極(以下、第1の固定電極という)25と可動板部30に設けられた可動電極35とで構成された第1のコンデンサと、同図における下側の固定板部20に設けられた固定電極(以下、第2の固定電極という)25と可動板部30に設けられた可動電極35とで構成された第2のコンデンサとを有しており、可動板部30が厚み方向に変位すると可動板部30の厚み方向において第1の固定電極25と可動電極35との間の距離が変化して第1のコンデンサの静電容量が変化するとともに、第2の固定電極25と可動電極35との間の距離が変化して第2のコンデンサの静電容量が変化する。ここで、本実施形態の静電型トランスデューサ1を例えば、音響センサとして用いる場合には、第1のコンデンサおよび第2のコンデンサそれぞれの静電容量変化を電気信号に変換して取り出すために、各コンデンサそれぞれにバイアス電圧を印加する。
【0061】
本実施形態の静電型トランスデューサ1では、可動板部30が音波を受けて振動した際に第1のコンデンサから取り出される電気信号と第2のコンデンサから取り出される電気信号とは互いに逆位相となるから、それぞれの電気信号の差分をとる差動増幅回路を後段に設ければ、音波に対して出力される電気信号(電圧)が大きくなり、感度が向上することになる。また、本実施形態の静電型トランスデューサ1は、可動板部30の厚み方向の両側から音波を受波することができるので、いわゆる双指向性を持った音響センサとして使用することができる。
【0062】
(実施形態3)
本実施形態の静電型トランスデューサ1の基本構成は実施形態1と略同じであって、図7に示すように、固定板部20の厚み方向の両側それぞれに可動板部30が対向配置されている点などが相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、図7における上側の可動板部(以下、第1の可動板部という)30に設けられた可動電極(以下、第1の可動電極という)35と固定板部20に設けられた固定電極25とで構成された第1のコンデンサと、同図における下側の可動板部(以下、第2の可動板部という)30に設けられた可動電極(以下、第2の可動電極という)35と固定板部20に設けられた固定電極25とで構成された第2のコンデンサとを有しており、第1の可動板部30が厚み方向に変位すると固定電極25の厚み方向において固定電極25と第1の可動電極35との間の距離が変化して第1のコンデンサの静電容量が変化し、一方、第2の可動板部30が厚み方向に変位すると固定電極25の厚み方向において固定電極25と第2の可動電極35との間の距離が変化して第2のコンデンサの静電容量が変化する。
【0064】
ここで、本実施形態の静電型トランスデューサ1を例えば、音響センサとして用いる場合には、第1のコンデンサおよび第2のコンデンサそれぞれの静電容量変化を電気信号に変換して取り出すために、各コンデンサそれぞれにバイアス電圧を印加しておけば、第1の可動板部30および第2の可動板部30それぞれで音波を受けて、各音波それぞれを電気信号に変換して出力することができ、いわゆる双指向性を持った音響センサとして使用することができる。
【0065】
(実施形態4)
本実施形態の静電型トランスデューサ1の基本構成は実施形態1と略同じであって、図8に示すように、シリコン基板を用いて固定板部20が形成されており、固定板部20の厚み寸法が実施形態1に比べて大きく、固定板部20において固定板部20と可動板部30との間の空間60に連通するように設ける穴部21の深さ寸法が固定板部20の厚み寸法に比べて小さくなっている点や、ばね構造部40の形状などが相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0066】
固定板部20は、可動板部30側の部位に不純物(例えば、ボロンなど)を高濃度にドーピングして導電性を付与することで固定電極25を形成してあるが、固定電極25は金属膜により形成してもよい。
【0067】
ばね構造部40は、固定板部20の厚み方向に直交する面内で可動板部30を全周に亘って囲むように配置され、コルゲート板状に形成されており、コンプライアンスが高い構造となっている。ここにおいて、ばね構造部40は、可動板部30と連続一体に形成されている。なお、本実施形態では、絶縁部50は環状に形成されている。
【0068】
ところで、固定板部20の可動板部30側の表面には、ばね構造部40の干渉を防止するために、複数の環状の逃がし凹部22が形成されており、ばね構造部40が固定板部20に衝突したり吸着されるのを防止することができる。ここにおいて、逃がし凹部22の開口幅(幅寸法)は穴部21の開口幅よりも大きく設定されている。
【0069】
したがって、上述のばね構造部40を形成するにあたって、固定板部20において穴部21および逃がし凹部22を形成した表面側に犠牲層を成膜してから、当該犠牲層の表面側に可動板部30およびばね構造部40の基礎となるポリシリコン膜を成膜し、その後、犠牲層の不要部分をエッチング除去する製造プロセスを採用するようにすれば、ばね構造部40を突部31と同時に形成することが可能となり、製造プロセスの簡略化による低コスト化を図れる。なお、実施形態におけるばね構造部40を他の実施形態1〜3に適用してもよい。
【0070】
また、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、固定板部20の穴部21が当該固定板部20の厚み方向に貫通していないので、製造時に、上述のように固定板部20において穴部21および逃がし凹部22を形成した表面側に犠牲層を成膜してから、当該犠牲層の表面側に可動板部30およびばね構造部40の基礎となるポリシリコン膜を成膜し、その後、犠牲層の不要部分をエッチング除去する製造プロセスを採用するために、上記ポリシリコン膜の成膜後に、可動板部30に、当該可動板部30の厚み方向に貫通する複数の微細孔37(図8(a)参照)を形成し、犠牲層をエッチングするエッチャントを微細孔37から導入するようにしている。また、固定板部25と可動板部35との間の空間60を気密空間とするために可動板部30における固定板部20側とは反対の表面側に各微細孔37を閉塞する封止部38を設けてある。なお、犠牲層エッチング技術を利用せずに、互いに異なるシリコン基板を個別に加工して形成した固定板部20と可動板部30とを接合するような製造プロセスを採用する場合には、微細孔37および封止部38は不要である。なお、空間60内は、例えば、不活性ガス雰囲気としてもよいし、真空雰囲気としてもよい。
【0071】
しかして、本実施形態の静電型トランスデューサ1を圧力センサとして用いる場合、可動板部30が圧力を受けると、可動板部30の厚み方向の両側の圧力差に応じて可動板部30が変位し、固定電極25と可動電極35との間の静電容量が変化する。
【0072】
以上説明した本実施形態の静電型トランスデューサ1では、実施形態1と同様、可動板部30が、固定板部20の厚み方向に変位可能なばね構造部40を介して固定板部20に支持されているので、可動板部30の残留応力を低減できて可動板部30のコンプライアンスを大きくすることができ、しかも、固定板部20は、当該固定板部20と可動板部30との間の空間60に連通する穴部21が設けられるとともに、固定電極25が穴部21の内面に沿って延在し、可動板部30は、固定板部20の穴部21に遊挿される突部31が設けられ、可動電極35が突部31に延在しているので、固定板部20および可動板部30の平面サイズを大きくすることなく、固定電極25と可動電極35との間に形成されるコンデンサに関して、静電容量を大きくすることができるとともに、可動板部30の変位量に対する静電容量の変化量を大きくすることができ、音響センサや圧力センサなどとして用いる場合には感度の向上を図れ、スピーカとして用いる場合には出力音圧の向上を図れるから、従来に比べて小型化および低コスト化を図れる。
【0073】
また、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、固定板部20と可動板部30との間の空間60を気密空間としてあるので、当該空間60に外部から異物や水分などが侵入するのを防止することができ、固定電極25と可動板部35との短絡、可動板部30の動作不良や振動特性の変化を防止することができるから、信頼性を高めることができる。
【0074】
なお、実施形態2〜4においても、上述の図5(a)〜(c)で説明した絶縁膜80を設けてもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態1を示し、(a)は概略断面図、(b)は一部破断した概略斜視図である。
【図2】同上における要部を示し、一部破断した概略斜視図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】同上における要部の他の構成例の説明図である。
【図5】同上における要部の他の構成例の説明図である。
【図6】実施形態2を示す概略断面図である。
【図7】実施形態3を示す概略断面図である。
【図8】実施形態4を示し、(a)は概略断面図、(b)は一部破断した要部概略斜視図である。
【図9】従来例を示す概略断面図である。
【図10】同上の動作説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 静電型トランスデューサ
10 支持基板
11 開孔部
20 固定板部
21 穴部
25 固定電極
30 可動板部
31 突部
35 可動電極
40 ばね構造部
50 絶縁部
60 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定板部と、固定板部の厚み方向の一表面側に対向配置された可動板部とを備え、固定板部に設けられた固定電極と可動板部に設けられた可動電極とでコンデンサが形成された静電型トランスデューサであって、可動板部が、固定板部の厚み方向に変位可能なばね構造部を介して固定板部に支持され、固定板部は、当該固定板部と可動板部との間の空間に連通する穴部が設けられるとともに、固定電極が穴部の内面に沿って延在し、可動板部は、固定板部の穴部に遊挿される突部が設けられ、可動電極が突部に延在していることを特徴とする静電型トランスデューサ。
【請求項2】
前記ばね構造部は、前記厚み方向に直交する面内で前記可動板部を全周に亘って囲むように配置され、コルゲート板状に形成されてなることを特徴とする請求項1記載の静電型トランスデューサ。
【請求項3】
前記穴部は前記固定板部の厚み方向に貫設された貫通孔からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の静電型トランスデューサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−259061(P2008−259061A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100971(P2007−100971)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】