説明

静電塗装装置および静電塗装方法

【課題】空気の帯電列に着目し、シェーピングエアを利用して塗料の帯電量増大を図るとともに、被塗物と塗装機の間に形成する電界の強度を増大することによって、塗着効率のさらなる向上を図ることができる静電塗装装置および静電塗装方法を提供する。
【解決手段】塗料を霧化させるための霧化部たるベルカップ4aと、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部たるエアノズル7と、を有する塗装ガン4と、該塗装ガン4(または塗装ガン4に付設される電極)に高電圧を印加する高電圧発生装置5と、該高電圧発生装置5により印加する高電圧を制御する制御装置6と、を備える静電塗装装置1であって、高電圧発生装置5は、正極性の高電圧を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置および静電塗装方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体等に塗装を施すための塗装方法として、静電塗装が知られている。
静電塗装は、被塗物と塗装機との間に電界を形成し、被塗物と塗料との間に電位差を生じさせることによって、塗料にクーロン力を作用させつつ被塗物に塗着させるものであり、均一な塗膜が形成でき、また、塗着効率にも優れているため、広く採用されている。
従来の静電塗装装置および静電塗装方法に係る技術は、例えば、以下に示す特許文献1等に開示され、公知となっている。
【0003】
特許文献1に開示された従来技術では、複数のコンデンサと複数のダイオードとを縦属接続してなる負極性出力の多段縦属型倍電圧整流回路(例えば、コッククロフト・ウォルトン回路等)を用いて、荷電電極に負極性の高電圧を印加する構成としている。
このように、従来採用されている静電塗装装置および静電塗装方法では、被塗物側をアースに接続し(即ち、電位を「0」とし)、塗装機側に負極性の高電圧を印加して、静電塗装を行う構成としている。
【0004】
塗装機に負極性の高電圧を印加すると、例えば、ベルカップの縁部(尖端部)において、負極コロナが生じる。負極コロナは、正極コロナに比して低い電圧で生じること、また、全路破壊に至る電圧が正極コロナに比して高く、火花放電に移行しにくいこと、等の特徴がある。
このことから、従来、静電塗装を行う際に高電圧発生装置により発生させる高電圧の態様としては、負極性の高電圧がより適していると考えられてきた。このため、従来の静電塗装装置では、高電圧発生装置によって、塗装機に負極性の高電圧を印加する構成が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−170522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の静電塗装装置の構成では、塗料には負極性の電荷が与えられる。そして噴霧された塗料は、シェーピングエアに接しながら拡散する。
ここで、空気(即ち、シェーピングエア)の特性に着目すると、図9に示す如く、帯電列表において、空気は最も正極性に帯電しやすい物質に挙げられている。
つまり、負極性に帯電した塗料が空気(シェーピングエア)に接触するとき、空気によって電荷が中和されて、帯電量の低下が生じていると考えられる。
【0007】
近年、環境負荷低減のさらなる強化が望まれており、静電塗装の分野では、さらなる塗着効率の向上を図る技術へのニーズが高まっている。塗着効率の向上を図るためには、塗料の帯電量を増大させることが有効である。
【0008】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、空気の帯電列に着目し、シェーピングエアを利用して塗料の帯電量増大を図るとともに、被塗物と塗装機の間に形成する電界の強度を増大することによって、塗着効率のさらなる向上を図ることができる静電塗装装置および静電塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、塗料を霧化させるための霧化部と、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部と、を有する塗装ガンと、該塗装ガンまたは前記塗装ガンに高電圧を印加する高電圧発生装置と、該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、を備える静電塗装装置であって、前記高電圧発生装置は、正極性の高電圧を発生するものである。
【0011】
請求項2においては、前記エア噴出部から噴出させるシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させる帯電手段を有するものである。
【0012】
請求項3においては、前記帯電手段は、負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材により構成する、前記エア噴出部にエアを供給するためのエア供給手段とするものである。
【0013】
請求項4においては、前記制御装置は、前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧が設定されるとともに、前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧を、所定のパルス幅、パルス間隔、振幅でパルス状に切り換え可能とするものである。
【0014】
請求項5においては、塗料を霧化させるための霧化部と、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部と、を有する塗装ガンと、該塗装ガンまたは前記塗装ガンに高電圧を印加する高電圧発生装置と、該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、を備える静電塗装装置による静電塗装方法であって、前記高電圧発生装置によって、正極性の高電圧を発生させて、被塗物と前記塗装ガンとの間に電界を形成するとともに、前記塗装ガンにより噴霧する塗料に、正極性の電荷を印加して、静電塗装するものである。
【0015】
請求項6においては、前記エア噴出部から噴出するシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させるものである。
【0016】
請求項7においては、負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材により構成する、前記エア噴出部にエアを供給するためのエア供給手段によって、前記エア噴出部より噴出するシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させるものである。
【0017】
請求項8においては、前記制御装置において、前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧を設定するとともに、前記制御装置によって、所定のパルス幅、パルス間隔、振幅で、前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧をパルス状に切り換えて、前記被塗物と前記塗装ガンとの間に、前記高電圧発生装置により前記第一の印加電圧を定常的に印加したときに形成される電界の強度および範囲に比して、高強度かつ広範囲の電界を形成するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0019】
請求項1においては、塗料に正極性の電荷を付与して静電塗装を行うことができる。
これにより、塗料がシェーピングエアに接触して、帯電量が低下することを防止できる。
【0020】
請求項2においては、シェーピングエアに対して、正極性の電荷を積極的に帯電させることができる。
これにより、塗料をシェーピングエアに接触させることによって、帯電量を増大させることができる。
【0021】
請求項3においては、シェーピングエアに対して、より効果的に正極性の電荷を帯電させることができる。
これにより、塗料をシェーピングエアに接触させることによって、より効果的に帯電量を増大させることができる。
【0022】
請求項4においては、従来に比して高強度でかつ広範囲の電界を形成することができる。これにより、塗料粒子に作用するクーロン力を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【0023】
請求項5においては、塗料に正極性の電荷を付与して静電塗装を行うことができる。
これにより、塗料がシェーピングエアに接触して、帯電量が低下することを防止できる。
【0024】
請求項6においては、シェーピングエアに対して、正極性の電荷を積極的に帯電させることができる。
これにより、塗料をシェーピングエアに接触させることによって、帯電量を増大させることができる。
【0025】
請求項7においては、シェーピングエアに対して、より効果的に正極性の電荷を帯電させることができる。
これにより、塗料をシェーピングエアに接触させることによって、より効果的に帯電量を増大させることができる。
【0026】
請求項8においては、従来に比して高強度でかつ広範囲の電界を形成することができる。これにより、塗料粒子に作用するクーロン力を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置が備える高電圧発生装置を示す模式図。
【図3】誘導帯電の発生状況を示す模式図、(a)本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置(正極性の電圧を印加した場合)における誘導帯電の状況を示す模式図、(b)従来の静電塗装装置(負極性の電圧を印加した場合)による誘導帯電の状況を示す模式図。
【図4】静電塗装状況を示す模式図、(a)本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置(正極性の電圧を印加した場合)による静電塗装状況を示す模式図、(b)従来の静電塗装装置(負極性の電圧を印加した場合)による静電塗装状況を示す模式図。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置(正極性の電圧を印加した場合)による静電塗装状況を示す模式図。
【図6】本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置による静電塗装の状況を示す模式図。
【図7】印加電圧の時間変化と放電電流の時間変化の関係を示す図、(a)従来の静電塗装装置の場合を示す図、(b)本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置の場合を示す図。
【図8】従来の静電塗装装置による電界の形成状況を示す模式図、(a)電圧Vを定常的に印加した場合を示す模式図、(b)電圧Vを定常的に印加した場合を示す模式図。
【図9】帯電列表を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明に係る静電塗装装置の第一の実施形態について、図1および図2を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第一の実施形態である静電塗装装置1は、被塗物たるワーク2に静電塗装を行うための装置であって、ロボット3、塗装ガン4、高電圧発生装置5、制御装置6、エアノズル7・7等からなる構成としている。ここで、ワーク2は接地(アースGに接続)されており、電位を「0」としている。
【0029】
ロボット3は、ワーク2に対して、塗装ガン4を所望する速度および姿勢で変位させることができる多関節型ロボットであり、アーム3a、基台部3b等からなる構成としている。そして、アーム3a先端の手先部3cにおいて、塗装ガン4を支持している。
尚、本実施形態では、静電塗装装置1を構成するロボット3が多関節型ロボットである場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成するロボットの態様をこれに限定するものではない。
【0030】
塗装ガン4は、ワーク2に向けて塗料を噴霧して、ワーク2に塗料を塗布することができる塗装装置であって、ベルカップ4a、ガン本体4b等からなる構成としている。
塗装ガン4は、ベルカップ4aをエアモータ等の駆動手段(図示せず)により回転させて、ベルカップ4aの内面に展延させた液状の塗料を遠心力により微粒化させることができる回転霧化型の塗装装置である。
また、ガン本体4bには、高電圧発生装置5が電気的に接続されており、塗料を供給するための手段である塗料供給チューブ8や、シェーピングエアを供給するための手段であるエア供給チューブ9・9等、も接続されている。
【0031】
尚、本実施形態では、静電塗装装置1を構成する塗装ガン4が回転霧化型である場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成する塗装ガンの形式をこれに限定するものではなく、ヘッドが回転しない形式の塗装ガンであってもよく、その他の種々の態様とすることが可能である。
また、本実施形態で示す塗装ガン4は、当該塗装ガン4の外部に高電圧発生装置5が設けられる態様としているが、本発明に係る静電塗装装置を構成する塗装ガンの態様をこれに限定するものではなく、高電圧発生装置が、塗装ガンのガン本体に内蔵される態様であってもよく、その他の種々の態様とすることが可能である。
さらに、塗装ガン4に塗料を供給するための手段の態様は、ガン本体4bに塗料配管を接続する態様に限定するものではなく、例えば、ガン本体に塗料を充填したカートリッジ型の容器を装填し、当該容器から塗料を供給する態様であってもよく、その他の種々の態様とすることが可能である。
【0032】
エアノズル7は、塗料の拡散パターンを調整するシェーピングエアを噴出するためのノズル部であり、該エアノズル7には、エアを供給するための手段であるエア供給チューブ9・9を接続している。そして、エアノズル7の噴出部の形状や、エア供給チューブ9・9から供給するエアの供給圧力等を適宜調整することによって、塗料の拡散パターンを調整する。
【0033】
また、エアノズル7は、ベルカップ4aの背面に向けてシェーピングエアを噴出することができるように、ガン本体4bの前端面において、ベルカップ4aに噴出方向を向けて配置されており、エアノズル7から噴出させるシェーピングエアの拡散パターンを、ベルカップ4aを取り囲むようなパターンとしている。
尚、本実施形態では、シェーピングエアを噴出するためのエア噴出部がノズル状の態様である場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成するエア噴出部の態様をこれに限定するものではなく、例えば、エア噴出部を、リング状のエア噴出部を形成する、所謂シェーピングエアリングの態様とすることも可能である。
【0034】
高電圧発生装置5は、昇圧部21と、電圧を発生させることができる電源部22を備え、電源部22により発生させた電圧を、昇圧部21により昇圧して、正極性である数十kV程度の静電高電圧を発生させることができる装置である。
尚、以下の説明では、高電圧発生装置5により印加する静電高電圧の値を電圧Vとして規定し、電圧Vを印加したときに生じる放電電流の値を電流Iとして規定する。また、放電電流Iが流れることによって形成される静電界を電界Eとして規定する。
【0035】
そして、高電圧発生装置5は、ケーブルにより塗装ガン4と電気的に接続しており、塗装ガン4に対して正極性の高電圧である電圧Vを印加することができる。
高電圧発生装置5によって、塗装ガン4に正極性の電圧Vを印加すると、アースGに接地された(即ち、電位が0Vである)ワーク2からベルカップ4aの尖端部に向けて放電電流Iが流れる。
そして、ワーク2からベルカップ4aに向かって電位の勾配を有する静電界たる電界Eが形成され、この電界Eを利用して、ワーク2に対する静電塗装を行うことができる。
【0036】
尚、本実施形態では、静電塗装装置1を構成する高電圧発生装置5の接続先が塗装ガン4であって、塗装ガン4に電圧Vを印加する場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置の態様をこれに限定するものではなく、高電圧発生装置の接続先が、塗装ガンの周囲の電界を形成するために当該塗装ガンに付設される電極であって、高電圧発生装置により、当該電極に電圧を印加する態様であっても良い。このような形態の静電塗装装置では、当該電極とワークの間に電界を形成し、当該電界によって塗料粒子を帯電させることができる。
【0037】
また、高電圧発生装置5には、制御装置6が、接続されている。
制御装置6は、高電圧発生装置5によって発生させる静電高電圧(即ち、電圧V)をコントロールすることができる。
【0038】
次に、本発明の一実施形態に係る静電塗装装置1を構成する高電圧発生装置5について、図2を用いて説明をする。
図2に示す如く、高電圧発生装置5は、昇圧部21と、電源部22と、低電圧ケーブル23等を備えている。
【0039】
昇圧部21は、電源部22によって発生する電圧を昇圧するための部位であり、高電圧トランス24や、高電圧発生用の整流器および倍率器であって複数のコンデンサやダイオード等の組合せによって構成されたコッククロフト・ウォルトン式昇圧回路(以下、CW回路と記載する)25を備えている。
【0040】
また、昇圧部21は、高電圧トランス24の一次巻線24aのセンター相(以下、CT相と呼ぶ)に接続される入力端子21a、一次巻線24aのドライブA相(以下、DA相と呼ぶ)に接続される入力端子21b、一次巻線24aのドライブB相(以下DB相と呼ぶ)に接続される入力端子21cを備えている。さらに、昇圧部21は、CW回路25の全発生電流値を示す電流フィードバック信号(以下、IM信号と呼ぶ)を出力するための出力端子21d、CW回路25によって昇圧した後の高電圧値を示す電圧フィードバック信号(以下、VM信号と呼ぶ)を出力するための出力端子21f、CW回路25を接地するための接地端子21g、CW回路25によって昇圧した高電圧を出力するための高電圧出力端子21h等を備えている。
そして、出力端子21hを、ケーブル等により、塗装ガン4と接続して、高電圧発生装置5により、塗装ガン4に電圧を印加する構成としている。
【0041】
高電圧発生装置5が備えるCW回路25は、図2中の二点鎖線囲み内に示す従来の負極性の高電圧を発生させる高電圧発生装置55のCW回路65と比較して、ダイオードの極性(取付方向)を全て逆向きとしており、これにより、正極性の高電圧を発生させる構成としている。
つまり、高電圧発生装置5は、従来の高電圧発生装置55のCW回路65を改良して容易に得ることができる。
【0042】
高電圧トランス24は、一次巻線24a、二次巻線24bを備えており、二次巻線24b側にCW回路25が接続されている。
【0043】
電源部22は、塗装ガン4等に印加するための高電圧のもととなる電圧を発生させるための部位であり、直流電源27、増幅器28、CPU29、RAM30、リレー31、プッシュプル発振装置32、電圧センサ33、電流センサ34、バンドパスフィルタ35・36・37等を備えている。
【0044】
また電源部22は、直流電源27により発生する出力電圧をCPU29からの指令値に応じて増幅器28によって調整して、作動電圧を生成する。ここで生成される作動電圧は、該作動電圧の供給ライン上に設けられた電圧センサ33および電流センサ34により測定される値がCPU29にフィードバックされることによって、作動電圧を指令値に一致させるように調整されている。
【0045】
また、増幅器28に対するCPU29からの指令値は、前述したIM信号やVM信号がCPU29にフィードバックされて、CPU29により各フィードバック信号やRAM30に記憶されている条件等に基づいて演算を行うことによって求めている。
このIM信号およびVM信号等は、バンドパスフィルタ35・36・37等を介してCPU29に入力される。
【0046】
また電源部22は、一次巻線24aの各ドライブ相に入力するためのドライブ信号を、CPU29からの指令値に応じて、プッシュプル発振装置32によって生成する。
また、プッシュプル発振装置32に対するCPU29からの指令値は、前述したIM信号やVM信号がCPU29にフィードバックされて、CPU29により各フィードバック信号やRAM30に記憶されている条件等に基づいて演算を行うことによって求めている。
【0047】
さらに電源部22は、作動電圧の供給ライン上にリレー31を備えている。そして、CPU29により各フィードバック信号やRAM30に記憶されている条件等に基づいて行った演算結果から異常が検出された場合には、即座にリレー31を作動させて、作動電圧の供給を遮断する。これにより、例えば、高電圧発生装置5から異常な高電圧が出力させること等を確実に防止するようにしている。
【0048】
また、電源部22は、一次巻線24aのCT相に対する作動電圧を出力するための出力端子22a、一次巻線24aのDA相に対するドライブ信号を出力するための出力端子22b、一次巻線24aのDB相に対するドライブ信号を出力するための出力端子22cを備えている。さらに、電源部22は、CPU29に対してIM信号を入力するための入力端子22d、CPUに対してリーク電流フィードバック信号を入力するための入力端子22e、CPUに対してVM信号を入力するための入力端子22f、電源部22を接地するための接地端子22g等を備えている。
【0049】
低電圧ケーブル23は、昇圧部21と電源部22とを電気的に接続するための各種ケーブルの束であり、CT入力線(CT)23a、DA入力線(DA)23b、DB入力線(DB)23c、IM信号線(IM)23d、リーク電流フィードバック線(LIM)23e、VM信号線(VM)23f、コモン線(COM)23g等によって構成されている。
【0050】
尚、本実施形態では、CW回路25を備える構成の高電圧発生装置5を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成する高電圧発生装置の態様をこれに限定するものではなく、正極性の高電圧を発生することができ、塗装ガン等に印加し得る態様のものであればよい。
【0051】
次に、塗料粒子の帯電状況および静電塗装装置による静電塗装状況について、図3および図4を用いて説明をする。
図3(b)に示す如く、従来の静電塗装装置51では、従来の高電圧発生装置55によって、負極性の高電圧が塗装ガン4に印加されている。
このため、ベルカップ4aから噴霧される塗料である塗料粒子xは、ベルカップ4aの周囲に存在する、該ベルカップ4aから放出される負極性の電荷の影響により、ベルカップ4aから離れるときに誘導帯電が生じて、負極性に帯電した状態で放出される。
【0052】
また、図4(b)に示す如く、誘導帯電により負極性に帯電された塗料粒子xは、空気(シェーピングエア)中に存在する正極性の電荷によって電気的に中和される。
従って、従来の静電塗装装置51を用いた静電塗装方法では、塗料粒子xの最終的な負極性の帯電量が減少してしまう。
【0053】
一方、図3(a)に示す如く、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1では、高電圧発生装置5によって、正極性の高電圧が塗装ガン4に印加されている。
このため、ベルカップ4aから噴霧される塗料粒子xは、ベルカップ4aの周囲に存在する、該ベルカップ4aから放出される正極性の電荷の影響により、ベルカップ4aから離れるときに誘導帯電が生じて、正極性に帯電した状態で放出される。
【0054】
また、図4(a)に示す如く、噴霧された塗料粒子xの周囲には、ベルカップ4aから放出され、あるいは、空気(シェーピングエア)中に存在する正極性の電荷のみが存在しているため、塗料粒子xには次々と正極性の電荷が付与され、効果的に正極側への帯電が進行する。つまり、塗料粒子xは、空気中に存在する正極性の電荷によって、正極側への帯電の進行が助長される。
従って、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1を用いた静電塗装方法では、シェーピングエア内に存在している正極性の電荷によって、帯電を妨げられることがなく、さらに、シェーピングエア内に存在する正極性の電荷を有効に利用して、塗料粒子xの帯電量を増大させるようにしている。
【0055】
電界中の塗料粒子xに作用するクーロン力Fは、塗料粒子xの帯電量をq、電界(強度)をEとするとき、F=qEとして表される。
つまり、帯電量qが増大すると、塗料粒子xには、従来に比してより大きいクーロン力Fが作用するため、ワーク2により強い力で引き付けられ、その結果、塗着効率を向上させることができる。
【0056】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1は、塗料を霧化させるための霧化部たるベルカップ4aと、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部たるエアノズル7と、を有する塗装ガン4と、該塗装ガン4(または塗装ガン4に付設される電極)に高電圧を印加する高電圧発生装置5と、該高電圧発生装置5により印加する高電圧を制御する制御装置6と、を備える静電塗装装置1であって、高電圧発生装置5は、正極性の高電圧を発生するものである。
このような構成により、塗料に正極性の電荷を付与して静電塗装を行うことができる。
【0057】
また、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1を用いた静電塗装方法は、塗料を霧化させるための霧化部たるベルカップ4aと、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部たるエアノズル7と、を有する塗装ガン4と、該塗装ガン4(または塗装ガン4に付設される電極)に高電圧を印加する高電圧発生装置5と、該高電圧発生装置5により印加する高電圧を制御する制御装置6と、を備える静電塗装装置1による静電塗装方法であって、高電圧発生装置5によって、正極性の高電圧を発生させて、被塗物たるワーク2と塗装ガン4(より詳しくは、ベルカップ4a)との間に電界Eを形成するとともに、塗装ガン4により噴霧する塗料に、正極性の電荷を印加して、静電塗装するものである。
このような構成により、塗料がシェーピングエアに接することによる帯電量の低下を防止できる。
【0058】
次に、本発明に係る静電塗装装置の第二の実施形態について、図5を用いて説明をする。
図5に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第二の実施形態である静電塗装装置11では、エアノズル7に対して、エア供給チューブ19・19によってエアを供給する構成としている。
【0059】
帯電列表における帯電列の乖離がより大きい素材同士を接触させることにより、各素材により多くの電荷を生じさせることができることが知られている。
フッ素樹脂(PTFE)は、帯電列において(図9参照)、負極性に帯電しやすい素材として例示されており、また、空気に対して帯電列が十分に乖離している素材である。
【0060】
従来、エアノズル7に対してシェーピングエアを供給するチューブは、エアを供給する機能さえ満足すればよいため、その素材やその素材の帯電列等は意識されておらず、例えば、ポリアミド合成繊維系のチューブ等が無意識に採用される場合が多かった。
ポリアミド合成繊維は、帯電列において(図9参照)、空気と同じ正極性に帯電しやすい素材として例示されており、空気に対する帯電列の乖離がフッ素樹脂(PTFE)等に比して小さい。このため、エアノズル7に対するシェーピングエアを、ポリアミド合成繊維を素材とするチューブで供給した場合には、シェーピングエアを正極性に帯電させる効果が小さい。
【0061】
そこで、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11が備えるエア供給チューブ19・19は、その素材として意識的にフッ素樹脂(PTFE)を採用しており、この点において、本発明に係る静電塗装装置の第一の実施形態に係る各静電塗装装置1が備えるエア供給チューブ9・9と相違している。尚、エア供給チューブ19・19以外のその他の構成は静電塗装装置1と共通であるため、説明は省略する。
【0062】
図5に示す如く、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11では、高電圧発生装置5によって、塗装ガン4に正極性の高電圧を印加している。
また、フッ素樹脂(PTFE)で構成されるエア供給チューブ19・19内を通過させて、エアノズル7にシェーピングエアを供給することにより、積極的にシェーピングエアを正極性に帯電させることができる。これにより、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11を用いた静電塗装方法では、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1を用いた場合に比して、より多くの正極性の電荷をシェーピングエア中に拡散させることができる。
【0063】
このため、正極性に帯電して噴霧された塗料粒子xが、噴霧直後にシェーピングエアに接触すると、シェーピングエア内により多く存在する正極性の電荷によって、正極性に帯電することがより強力に促進される。
つまり、静電塗装装置11では、シェーピングエア内に正極性の電荷を積極的に発生させて、これを有効に利用することによって、塗料粒子xの帯電量をさらに増大させるようにしている。
【0064】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11においては、エアノズル7から噴出させるシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させる帯電手段を有しており、また、該帯電手段を、負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材(本実施形態では、フッ素樹脂(PTFE))により構成したエア供給手段であるエア供給チューブ19・19とすることにより、シェーピングエアをより効果的に正極性に帯電させることができる。
【0065】
さらに、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11を用いた静電塗装方法は、エアノズル7から噴出するシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させるものであり、また、負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材(本実施形態であるフッ素樹脂(PTFE))によりエア供給チューブ19・19を構成して、該エア供給チューブ19・19によりエアノズル7に供給するシェーピングエアを、積極的に正極性に帯電させるものである。
これにより、塗料がシェーピングエアに接することによって、より効果的に帯電量を増大させることができる。
【0066】
尚、本実施形態では、エア供給チューブ19・19をフッ素樹脂(PTFE)で構成する場合を例示しているが、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11を構成するエア供給チューブの素材をこれに限定するものではなく、負極性に帯電しやすい素材として例示されており、また、空気に対して帯電列が十分に乖離している素材であればよいため、例えば、シリコンや塩化ビニール等を素材として採用してもよく、図9の帯電列表に示す、より負極性に帯電しやすい素材を選ぶのが好適である。
また、本実施形態では、エア供給チューブ19・19をフッ素樹脂(PTFE)等で構成する場合を例示しているが、エアノズル7の全体あるいは一部をさらにフッ素樹脂(PTFE)等で構成して、さらに積極的にシェーピングエアに正極性の電荷を印加することも可能である。
さらに、本実施形態では、シェーピングエアを正極性に帯電させるための帯電手段を、エア供給チューブ19により構成する場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置における帯電手段の構成をこれに限定するものではなく、例えば、正極性の電荷を発生させる針状電極等を別途シェーピングエアの流れ中に配設する構成とすることも可能である。
【0067】
次に、本発明に係る静電塗装装置の第三の実施形態について、図6〜図8を用いて説明をする。
図6に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第三の実施形態である静電塗装装置41は、制御装置46を備えている。
制御装置46は、高電圧発生装置5によって発生させる静電高電圧(即ち、電圧V)をパルス状に変化させることができる制御装置であり、この点において、本発明に係る静電塗装装置の第一および第二の実施形態に係る各静電塗装装置1・11が備える制御装置6と相違している。尚、制御装置46以外のその他の構成は静電塗装装置1と共通であるため、説明は省略する。
【0068】
また、本実施形態では、制御装置46以外のその他の構成が本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1と共通である場合を例示しているが、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11と共通である構成(即ち、エア供給チューブ19を備える構成)とすることも可能である。
【0069】
制御装置46は、高電圧発生装置5によって発生させる正極性の静電高電圧(即ち、電圧V)をコントロールするための装置であり、高電圧発生装置5に対してパルス条件を含む信号を出力することができる。
静電塗装装置41では、制御装置46から出力される指令信号に基づいて、高電圧発生装置5によって発生させる電圧Vをパルス状に切り換える構成としている。
尚、ここで言う「パルス状」とは、最大値か最小値のどちらかをとるように周期的に振幅が変化する状態を言い、矩形波状や正弦波状の変化等を含む概念である。
また、ここで言う「パルス条件」とは、パルス波形を決定するための各要素であって、振幅(電圧差)とパルス周期(パルス幅およびパルス間隔)を含んでいる。
【0070】
制御装置46は、ロボット3と接続されており、該ロボット3から塗装ガン4の動作状態(変位位置、姿勢、変位速度等)を示す信号がリアルタイムで入力される構成としている。
また、制御装置46には、ワーク2の仕様や塗装条件(使用する塗料の種類、噴霧量、等の各種条件)に係る情報が予め記憶されており、ワーク2の仕様や塗装条件に係る情報と塗装ガン4の動作状態を示す信号に基づいて、制御装置46によって、静電塗装状況を判断するとともに、そのときの最適なパルス条件をリアルタイムで演算して求める構成としている。
そして、制御装置46は、リアルタイムで求めたそのときの最適なパルス条件に係る指令信号を、高電圧発生装置5に出力する構成としている。
【0071】
尚、ここで言う「塗料の種類」とは、含有成分の相違により帯電性能や導電率が異なる塗料を、種類が異なる塗料として扱う概念であり、例えば、クリア塗料とベース塗料を異なる種類の塗料として扱うようにしている。
【0072】
尚、本実施形態では、制御装置46によって、そのときの静電塗装状況に応じてリアルタイムで指令信号を求める場合を例示しているが、あるいは、塗装開始から塗装終了までの一連の静電塗装工程に応じたパルス条件を予め制御装置46にティーチングしておき、ティーチング内容に従って、制御装置46により高電圧発生装置5に指令信号を出力する態様とすることも可能である。
【0073】
ここで、静電塗装装置による電界Eの形成状況について、説明をする。
図7(a)に示す如く、静電塗装を行う場合において、塗装ガン4に印加する電圧として従来から一般的に採用されてきた第一の電圧Vを電圧Vとして規定し、電圧Vを定常的に印加したときに生じる放電電流Iの値を電流Iと規定する。また、塗装ガン4に印加する電圧として従来から一般的に採用されている電圧Vに比して低い第二の電圧Vを電圧Vとして規定し、電圧Vを定常的に印加したときに生じる放電電流Iの値を電流Iと規定する。
そして、電圧Vを印加するときと電圧Vを印加するときの各放電電流I・Iの差をΔI(即ち、ΔI=I−I)と規定する。
【0074】
一方、図7(b)に示す如く、静電塗装装置41では、高電圧発生装置5によって塗装ガン4に印加する電圧Vの値は、従来と同じ各電圧V・Vとしつつ、制御装置46から出力される信号に従って、各電圧V・Vをパルス状に切り換えて印加するようにしている。
また、パルス状に各電圧V・Vを切り換えて印加すると、このときに生じる放電電流Iは尖鋭部を有する略三角波のパルス状に変化する。そして、このとき生じる放電電流Iのピーク値をピーク電流Iとして規定する。
【0075】
各電圧V・Vを切り換えて印加するパルスの態様は、各電圧V・Vの電圧差である振幅ΔV、高圧側の電圧Vを印加する一単位の時間であるパルス幅tと、低圧側の電圧Vを印加する一単位の時間であるパルス間隔t、によって規定することができる。また、このように規定すると、パルス周期Tは、T=t+tと表すことができる。
【0076】
そして、このピーク電流Iは、制御装置46から出力される信号に従って、パルス条件を調整することによって、定常的に電圧Vを印加するときの放電電流Iに比して大きい値とすることができる。
即ち、静電塗装装置41により静電塗装を行えば、高電圧発生装置5により発生させる電圧Vの値は従来と同じ各電圧V・Vとしながら、より高い放電電流I(ピーク電流I)を得ることが可能になる。
【0077】
ピーク電流Iが放電電流Iに比して高くなる原因は、定常的に各電圧V・Vを印加している場合には、電界Eの領域が既に電子で満たされているため大きな電子の流れが生じないが、一方、各電圧V・Vをパルス状に切り換えて印加する場合には、電界Eの領域に急激な電子の流れが生じるため、定常的に各電圧V・Vを印加している場合に比して大きな電流が流れるものと考えられる。
【0078】
また、電界Eの強度は、放電電流Iの強さに応じて変化するため、従来に比して高いピーク電流Iが流れたときには、より高い強度を有する電界Eを形成することができる。
ここで、各電圧V・Vをパルス状に印加するときの放電電流Iの差をΔI(即ち、ΔI=I−I)として規定する。
【0079】
次に、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置41を用いて、印加電圧をパルス状に変化させた場合における静電塗装の状況について、説明をする。
図8に示す如く、高電圧発生装置5により、従来のように定常的な電圧Vを塗装ガン4に印加する(図7(a)参照)と、ワーク2とベルカップ4aの間で、図8(a)に示すような電気力線で表される電界Eが形成される。尚、電気力線の間隔がより密になっている部分においては、電界Eの強度がより強くなっている。
【0080】
電界Eの有効範囲Wは、塗装ガン4から噴霧される塗料の拡散パターン等を考慮して、全ての塗料粒子xが電界Eの有効範囲Wに包含されながらワーク2に到達できる範囲となるように、電圧Vを設定している。
尚、ここで言う「電界の範囲」とは、塗料を塗着させるために必要なクーロン力Fを付与し得る強度を有する電界の範囲を意味しており、電界が存在する範囲を意味しているものではない。
【0081】
また、高電圧発生装置5により、定常的に電圧Vを塗装ガン4に印加する(図7(a)参照)と、ワーク2とベルカップ4aの間で、図8(b)に示すような電気力線で表される電界Eが形成される。
印加電圧が低い(例えば、電圧Vを印加する)場合、電界Eの有効範囲Wに比してさらに電界Eの有効範囲Wが狭くなっている。また電界Eでは、電気力線の間隔が、電界Eの電気力線の間隔に比してより疎になっており、電界Eの強度は電界Eに比して弱くなっている。
【0082】
一方、静電塗装装置41を用いて、制御装置46および高電圧発生装置5により、パルス状に各電圧V・Vを切り換えて塗装ガン4に印加する(図7(b)参照)と、ワーク2とベルカップ4aの間で、図6に示すような電界Eが形成される。
電界Eの有効範囲Wは、電界Eの有効範囲Wに比して、さらに広範囲となっている。また電界Eでは、電気力線の間隔が、電界Eの電気力線の間隔に比してより密になっており、電界Eの強度は、電界Eに比してより高くなっている。
つまり、静電塗装装置41では、制御装置46から出力される信号に従って、パルス条件(即ち、パルス幅t、パルス間隔t、振幅ΔV)を変更することによって、電界Eの強度や有効範囲Wを調整するようにしている。
【0083】
ワーク2とベルカップ4aの間に形成される電界Eの強度が増大すると、塗料粒子xが電界Eから取得する正極性の電荷が増えるため、塗料粒子xの帯電量qも増大する。
このため、電界Eを通過して塗着される塗料粒子xには、電界Eの強度の増大および帯電量qの増大による相乗効果によって、従来に比してより大きいクーロン力Fが作用するため、ワーク2により強い力で引き付けられ、その結果、塗着効率を向上させることができる。
【0084】
このように、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置41を用いて静電塗装を行えば、低圧側の電圧Vを低く設定することにより、振幅ΔVを増大させることができるため、電圧Vをさらに高電圧化しなくても、容易に塗着効率の向上を図ることができる。
【0085】
即ち、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置41において、制御装置46は、高電圧発生装置5により印加する正極性の高電圧として、静電塗装に適した印加電圧である第一の電圧Vと、該第一の電圧Vに比して低い印加電圧である第二の電圧Vが設定されるとともに、各電圧V・Vを、所定のパルス幅t、パルス間隔t、振幅ΔVでパルス状に切り換え可能とするものである。
【0086】
また、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置41を用いた静電塗装方法は、制御装置46において、高電圧発生装置5により印加する高電圧として、静電塗装に適した正極性の電圧である第一の電圧Vと、該第一の電圧Vに比して低い電圧である第二の電圧Vを設定するとともに、制御装置46によって、所定のパルス幅t、パルス間隔t、振幅ΔVで、各電圧V・Vをパルス状に切り換えて、ワーク2と塗装ガン4との間に、高電圧発生装置5により電圧Vを定常的に印加したときに形成される電界Eの強度および有効範囲Wに比して、高強度かつ広範囲(有効範囲W)である電界Eを形成するものである。
このような構成により、塗料粒子xに作用するクーロン力Fを増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 静電塗装装置(第一の実施形態)
2 ワーク
4 塗装ガン
4a ベルカップ
4b ガン本体
5 高電圧発生装置
6 制御装置
7 エアノズル
11 静電塗装装置(第二の実施形態)
19 エア供給チューブ
41 静電塗装装置(第三の実施形態)
46 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を霧化させるための霧化部と、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部と、を有する塗装ガンと、
該塗装ガンまたは前記塗装ガンに高電圧を印加する高電圧発生装置と、
該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、
を備える静電塗装装置であって、
前記高電圧発生装置は、
正極性の高電圧を発生する、
ことを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記エア噴出部から噴出させるシェーピングエアを、
積極的に正極性に帯電させる帯電手段を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記帯電手段は、
負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材により構成する、前記エア噴出部にエアを供給するためのエア供給手段とする、
ことを特徴とする請求項2記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧が設定されるとともに、
前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧を、所定のパルス幅、パルス間隔、振幅でパルス状に切り換え可能とする、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項5】
塗料を霧化させるための霧化部と、霧化した塗料の拡散パターンを制御するためのシェーピングエアを噴出させるエア噴出部と、を有する塗装ガンと、
該塗装ガンまたは前記塗装ガンに高電圧を印加する高電圧発生装置と、
該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、
を備える静電塗装装置による静電塗装方法であって、
前記高電圧発生装置によって、
正極性の高電圧を発生させて、
被塗物と前記塗装ガンとの間に電界を形成するとともに、
前記塗装ガンにより噴霧する塗料に、
正極性の電荷を印加して、静電塗装する、
ことを特徴とする静電塗装方法。
【請求項6】
前記エア噴出部から噴出するシェーピングエアを、
積極的に正極性に帯電させる、
ことを特徴とする請求項5記載の静電塗装方法。
【請求項7】
負極性に帯電しやすく、空気に対する帯電列の乖離がより大きい素材により構成する、前記エア噴出部にエアを供給するためのエア供給手段によって、
前記エア噴出部より噴出するシェーピングエアを、
積極的に正極性に帯電させる、
ことを特徴とする請求項6記載の静電塗装方法。
【請求項8】
前記制御装置において、前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、
静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、
該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧を設定するとともに、
前記制御装置によって、
所定のパルス幅、パルス間隔、振幅で、前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧をパルス状に切り換えて、
前記被塗物と前記塗装ガンとの間に、
前記高電圧発生装置により前記第一の印加電圧を定常的に印加したときに形成される電界の強度および範囲に比して、高強度かつ広範囲の電界を形成する、
ことを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載の静電塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255278(P2011−255278A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130283(P2010−130283)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】