説明

静電潜像の評価方法・静電潜像評価装置・光走査装置・画像形成装置

【課題】従来技術では極めて困難であった、感光体の表面に生じている電荷分布あるいは電位分布をミクロンオーダーで高分解能の計測を可能にする方法及び装置を提供する。
【解決手段】感光体試料17に対して、荷電粒子ビームを照射する照射手段2と、該照射によって得られる荷電粒子の信号を検出する検出手段5と、感光体試料17の電荷分布の状態を測定する測定手段としての画像処理手段51と、感光体試料17に複数の潜像パターンを形成するための露光手段3と、露光手段3の光源の発光を制御する発光制御手段としてのLD駆動部21及び制御手段20と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光体に形成される静電潜像を評価するための方法及び装置、該評価方法を適用した光走査装置、該光走査装置を有する複写機、プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、これらのうち少なくとも1つを備えた複合機等の画像形成装置に関する。
本発明は、感光体の静電特性の計測装置、表面電荷分布の測定装置、表面電位分布の測定装置、相反則不軌現象の計測装置に応用することができる。
【背景技術】
【0002】
電子ビームによる静電潜像の観察方法としては、特許文献1などがある。また試料としては、LSIチップや静電潜像を記憶・保持できる試料に限定されている。
すなわち、暗減衰を生じる通常の感光体は、測定することができない。通常の誘電体は電荷を半永久的に保持することができるので、電荷分布を形成後、時間をかけて測定を行っても、測定結果に影響を与えることはない。しかしながら、感光体の場合は、抵抗値が無限大ではないので、電荷を長時間保持できず、暗減衰が生じて時間とともに表面電位が低下してしまう。
感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい数十秒である。従って、帯電・露光後に走査電子顕微鏡(SEM)内で観察しようとしても、その準備段階で静電潜像は消失してしまう。
【0003】
そこで、本出願人は、暗減衰を有する感光体試料であっても静電潜像を測定する方式を、特願2002−103355、特願2003−43587にて提案した。
試料表面に電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、入射電子によって、発生した2次電子はこの電界によって引き戻され、検出器に到達する量が減少する。従って、電界強度が強い部分は暗く、弱い部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じたコントラスト像を検出することができる。
従って、露光した場合には、露光部が黒、非露光部が白となり、これより形成された静電潜像を測定することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平03−49143号公報
【特許文献2】特開平03−29867号公報
【特許文献3】特許第3009179号公報
【特許文献4】特開平11−184188号公報
【特許文献5】特開2004−77714号公報
【特許文献6】特開2003−295696号公報
【特許文献7】特開2003−305881号公報
【特許文献8】特開2005−166542号公報
【特許文献9】特開2003−241403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、感光体には、感光体に与えられる総露光エネルギー密度は同じでも、光量と露光時間の関係が異なると潜像形成状態が異なる相反則不軌の現象がある。
一般的に露光エネルギー一定の場合、光量が強いほど、感度(潜像深さ)が低下し、トナー付着量に変化をもたらし、その結果として画像濃度の違いとして現れる。光量が強いとキャリアの再結合量が増大し、表面に到達するキャリア量が減少することが、原因と考えられている。これがマルチビーム走査光学系の場合、図15に示すように、顕著に画像濃度むらとなって現れてくる。
【0006】
また、周辺画像によっても相反則不軌現象が生じることがわかってきた。すなわち、隣接あるいは近接する領域が露光部であるか非露光部であるかによっても、潜像状態が影響して、トナー付着量が変化する。
相反則不軌現象は、感光体の特性値中でも、CGL膜厚やキャリア移動度、量子効率、キャリア発生量に依存する。このため、相反則不軌の起きにくい感光体、走査光学系を含めた作像システムを提供することが望ましいが、従来の計測手法では、空間分解能が数ミリ程度しか得られなく、メカニズムを解析するのに十分な精度が得られなかった。
【0007】
本発明は、従来技術では極めて困難であった、感光体の表面に生じている電荷分布あるいは電位分布をミクロンオーダーで高分解能の計測を可能にする方法及び装置を提供することを目的とし、特には感光体上の静電潜像を評価する装置を提供することを目的とする。
また、高画質な光走査装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
なお、ここで述べる表面電荷は、厳密には、試料内に空間的に散らばっていることは周知の通りである。このため、表面電荷とは、電荷分布状態が、厚さ方向に比べて面内方向に大きく分布している状態を指すことにする。また、電荷は、電子だけでなく、イオンも含める。
また表面に導電部があり、導電部分に電圧が印加されて、それにより、試料表面あるいはその近傍が電位分布を生じている状態であってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための、請求項1記載の発明は、表面電荷分布あるいは表面電位分布を有する感光体試料に対して、荷電粒子ビームを照射し、該照射によって得られる検出信号により、前記感光体試料の静電潜像を計測する方法において、前記感光体試料に複数の潜像パターンを形成し、前記計測方法により計測した静電潜像を画像として取り込み、各潜像パターンを抽出して、その複数の潜像パターンのばらつきを評価することを特徴とする静電潜像の評価方法である。
【0009】
請求項2記載の発明は、感光体試料に対して、荷電粒子ビームを照射する照射手段と、該照射によって得られる荷電粒子の信号を検出する検出手段と、前記感光体試料の電荷分布の状態を測定する測定手段と、前記感光体試料に複数の潜像パターンを形成するための露光手段と、該露光手段の光源の発光を制御する発光制御手段と、を有することを特徴とする静電潜像評価装置である。
【0010】
請求項3記載の発明では、請求項2記載の静電潜像評価装置において、前記測定手段により取得した複数の潜像パターンの静電潜像を各々の潜像パターン毎に抽出する抽出手段と、各潜像パターンの潜像面積を算出する算出手段と、該算出手段により算出された潜像面積を比較する比較手段と、を有することを特徴とする。
請求項4記載の発明では、請求項3記載の静電潜像評価装置において、前記露光手段の像面光量、点灯時間、ビーム径を固定して、複数の潜像パターンを形成する露光制御手段を有し、前記算出手段はそのときの潜像パターン面積の分散を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明では、請求項2記載の静電潜像評価装置において、前記感光体試料に対する潜像パターンの形成が真空チャンバ内で行われ、前記露光手段は前記真空チャンバの外部に配置されていることを特徴とする。
請求項6記載の発明では、請求項2記載の静電潜像評価装置において、前記露光手段は、複数光源からの光ビームを光偏向手段により偏向走査する走査光学系と、前記光偏向手段からの走査ビームを検知する同期検知手段を有していることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明では、請求項6記載の静電潜像評価装置において、複数の潜像パターンを形成するために、前記光偏向手段の異なる光偏向面で走査することを特徴とする。
請求項8記載の発明では、光偏向手段を含む光学走査素子を介して光源から出射される複数の光ビームを感光体に走査する光走査装置において、周辺潜像パターンに応じて、前記感光体に照射する露光エネルギー密度を変える露光制御手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の発明では、請求項8記載の光走査装置において、前記露光制御手段は、近傍領域が露光されていない孤立ドットの潜像形成では、近傍領域が露光される潜像形成に比べて露光エネルギー密度を低く設定するように、露光条件を制御することを特徴とする。
請求項10記載の発明では、画像形成装置において、請求項8又は9記載の光走査装置を用いて感光体に対して走査を行うことにより潜像を形成し、現像して可視化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光走査装置の設計パラメータや露光条件と潜像形成条件の因果関係を明確化することができるため、高画質かつ高安定な光走査装置を提供することが可能となる。
複数の潜像パターンを形成し、そのときの潜像パターン面積比率を計測することで、帯電むらや感光体感度、静電特性、静電疲労などによる潜像パターンのばらつき度合いがわかり、帯電・感光体・露光から潜像形成に至る潜像形成能力を把握することができる。
そして設計にフィードバックすることにより、各工程のプロセスクォリティが向上するため、高画質、高耐久、高安定、省エネルギー化が実現できる。
この結果、画像濃度むらの発生原因と対策を実施することができ、出力画像品質を向上させることができる。
【0015】
本発明によれば、レーザーパワー、LD点灯時間、ビーム径固定の条件で、複数の潜像パターンを形成し、そのときの潜像パターン面積比率を算出することにより、光ビームスポット径と像面光量や点灯時間が一定でも、周辺の潜像画像パターンにより潜像面積すなわちトナー付着量の影響を評価することができ、トナー付着量を一定にするための露光条件に必要なパラメータを適切に設定することが可能となる。
複数の潜像パターンを形成するために露光光学系を真空外部に配置したことにより、光走査装置の、ポリゴンモータなど偏向器の振動や電磁場の影響を抑制することが可能となる。この結果、電子ビームの軌道に影響を与えないようにすることができ、計測精度が向上する。
【0016】
本発明によれば、露光手段として、複数光源による走査光学系を用いることにより2次元の潜像画像パターンを形成することが可能となる。これにより、様々な2次元の潜像画像パターンを形成することが可能となり、実際のトナー像との対応が容易になる。この結果、出力画像品質を向上させることができる。
異なる偏向面で走査して、潜像パターンを形成することにより、相反則不軌現象によって起こる画像濃度への影響を解析することが可能となる。ひいては帯電・露光及び現像時間を適切に設定することが可能となる。この結果、画像濃度むらの発生原因と対策を実施することができ、出力画像品質を向上させることができる。
【0017】
本発明によれば、複数の光ビームを有する光走査装置において、周辺画像パターンに応じて、感光体に照射する露光エネルギー密度を変えることにより、周辺潜像パターンの状態に関わらず、均質な静電潜像を形成することが可能となる。
隣接ドットが露光されていない孤立ドットの潜像形成は、隣接ドットが露光される潜像形成に比べて露光エネルギー密度を低く設定するように、露光条件を制御することにより、隣接ドットが露光されていない孤立潜像と隣接ドットが露光されている潜像の面積をそろえることが可能であり、しいては、高画質な光走査装置を提供することが可能となる。
上記光走査装置を用いて潜像を形成し、現像して可視化することを特徴とする画像形成装置を用いることにより、画像濃度むらの起きにくい作像システムとすることで、高画質な画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に本発明の実施形態に係る静電潜像評価装置の構成を示す。静電潜像評価装置1は、荷電粒子ビームを照射する照射手段としての荷電粒子照射部2と、露光手段としての露光部3、試料設置部4、1次反転荷電粒子や2次電子などを検出する検出手段としての検出器5等を有している。
ここでいう、荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。以下電子ビームを照射する実施例で説明する。
【0019】
電子ビーム照射部2は、電子ビームを発生させるための電子銃6と、電子ビームを制御するための、サプレッサ電極7、引き出し電極(エキストラクタ)8と、電子ビームのエネルギーを制御するための加速電圧9と、電子銃6から発生された電子ビームを集束させるためのコンデンサレンズ10と、電子ビームをON/OFFさせるためのビームブランカ(ビームブランキング電極)11と、仕切り弁12と、電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャ(可動絞り)13と、スティグメータ(非点補正)14と、ビームブランカ11を通過した電子ビームを走査させるための走査レンズ(偏向電極)15と、走査レンズ15を再び集光させるための対物レンズ(静電対物レンズ)16からなる。それぞれのレンズ等には、図示しない駆動用電源が接続されている。
図1において、符号17は感光体試料(以下、単に「試料」ともいう)を、18は電圧印加手段を、19は入射窓を、20は制御手段(マイクロコンピュータ)を、21はLD駆動部を、GNDはグラウンドを、それぞれ示している。
なお、イオンビームの場合には、電子銃の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。
【0020】
露光部3の詳細は光走査装置の実施形態として説明することができ、これを図2(a)に示す。
露光部3は、感光体に関して感度を持つ波長のLD(レーザーダイオード)などの光源(複数光源)22、コリメートレンズ23、アパーチャ24、集光レンズ25などからなり、試料17上に所望のビーム径、ビームプロファイルを生成することが可能となっている。
また、制御手段20及びLD駆動部21により適切な露光時間、露光エネルギーを照射できるようになっている。制御手段20及びLD駆動部21は、発光制御手段でもあり、露光制御手段でもある。
図2において、符号26は折り返しミラーを、27は光偏向手段としてのポリゴンミラーを、28は第1走査レンズを、29は第2走査レンズ(長尺レンズ)を、30は同期検知手段を、それぞれ示している。
【0021】
ラインのパターンを形成するために、露光部3の光学系にガルバノミラーや図2(a)に示すポリゴンミラーを用いたスキャニング機構を付けても良い。
スキャニング機構を付けることにより、感光体の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。
また、所定の位置に潜像パターンを形成するために、図2(a)に示すように、光偏向手段からの走査ビームを検知する同期検知手段を有しても良い。試料17の形状は、平面であっても曲面であっても良い。
また試料が、円筒形状の感光体を測定する場合は図3のような構成を採ることができる。図3において、符号31は反射ミラーを、32は除電部を示している。
まず、感光体試料17に電子ビームを照射させる。加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料17に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、試料17はマイナスの一様帯電を生じることができる。加速電圧と照射時間を適切に行うことにより、所望の帯電電位を形成することができる。
この後、静電潜像が観察できるように入射電子量を下げる。
【0022】
次に露光部3により感光体試料17に、露光を行う。露光部3の光学系は、所望のビーム径及びビームプロファイルを形成するように調整されている。必要露光エネルギーは、感光体特性によって決まるファクタであるが、通常、2〜6mJ/m2程度である。感度が低い感光体では、十数mJ/m2必要なこともある。帯電電位や必要露光エネルギーは、感光体特性やプロセス条件に合わせて設定すると良い。
これにより、感光体試料17に静電潜像を形成することができる。
感光体試料17を電子ビームで走査し、放出される2次電子をシンチレータ(検出器5)で検出し、電気信号に変換してコントラスト像を観察する。
【0023】
このようにすると、帯電部が2次電子検出量が多く、露光部が2次電子検出量が少ない明暗のコントラスト像が生じる。暗の部分を露光による潜像部とみなすことができる。1回露光した場合の明暗の境界を1ビームスポット潜像の潜像径Dとすることができる。また、暗部の面積を1ビームスポット潜像による潜像面積Sとすることができる。
場所を変えて複数回露光した場合の暗部の面積も同様に潜像面積とすることができる。
試料表面に電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、入射電子によって、発生した2次電子はこの電界によって押し戻され、検出器5に到達する量が減少する。従って、電荷リーク箇所は、露光部が黒、非露光部が白となり、表面電荷分布に応じたコントラスト像を測定することができる。
【0024】
図7(a)は、検出器5の荷電粒子捕獲器34と、試料17との間の空間における電位分布を、等高線表示で説明図的に示したものである。試料17の表面は、光減衰により電位が減衰した部分を除いては負極性に一様に帯電した状態であり、荷電粒子捕獲器34には正極性の電位が与えられているから、「実線で示す電位等高線群」においては、試料17の表面から荷電粒子捕獲器34に近づくに従い「電位が高く」なる。
従って、試料17における「負極性に均一帯電している部分」である図のQ1点やQ2点で発生した2次電子el1、el2は、荷電粒子捕獲器34の正電位に引かれ、矢印G1や矢印G2で示すように変位し、荷電粒子捕獲器34に捕獲される。
一方、図7(a)において、Q3点は「光照射されて負電位が減衰した部分」であり、Q3点近傍では電位等高線の配列は「破線で示す如く」であり、この部分電位分布では「Q3点に近いほど電位が高く」なっている。換言すると、Q3点の近傍で発生した2次電子el3には、矢印G3で示すように、試料17側に拘束する電気力が作用する。このため2次電子el3は、破線の電位等高線の示す「ポテンシャルの穴」に捕獲され、荷電粒子捕獲器24に向って移動しない。
【0025】
図7(b)は、上記「ポテンシャルの穴」を模式的に示している。
即ち、荷電粒子捕獲器34により検出される2次電子の強度(2次電子数)は、強度の大きい部分が「静電潜像の地の部分(均一に負帯電している部分 図7(a)の点Q1やQ2に代表される部分)」に対応し、強度の小さい部分が「静電潜像の画像部(光照射された部分 図7(a)の点Q3に代表される部分)」に対応することになる。
従って、2次電子検出部である検出器5で得られる電気信号を、図1に示す信号処理手段50で適当なサンプリング時間でサンプリングすれば、前述の如く、サンプリング時刻:Tをパラメータとして、表面電位分布:V(X,Y)を「サンプリングに対応した微小領域」ごとに特定でき、図1に示す測定手段としての画像処理手段51により上記表面電位分布(電位コントラスト像):V(X,Y)を2次元的な画像データとして構成し、これをアウトプット装置で出力すれば、静電潜像が可視的な画像として得られる。
例えば、捕獲される2次電子の強度を「明るさの強弱で表現」すれば、静電潜像の画像部分は暗く、地の部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じた明暗像として表現(出力)することができる。勿論、表面電位分布が知れれば、表面電荷分布も知ることができる。
【0026】
光ビーム1個による潜像画像パターンとLD発光パターンの関係を図4に示す。
光源発光条件の横軸は時間軸であり、縦軸は、LDが発光されるタイミングを指す。(a)は1ドット孤立パターンの潜像画像であり、LD制御としては、同期信号を検知後、光ビームが潜像画像領域に到達するまで、ディレイをかけて、ON信号のときLD光源は、適切な露光量とデューティ(露光時間)を設定して、感光体に適切な露光エネルギー密度を照射する。これにより潜像が形成される。同様に(b)は1ドット毎にON/OFFを繰り返す1by1の場合、(c)は、1ドットラインのときの潜像画像形成パターンとLD発光パターンである。
このように帯電した感光体試料に光ビームを走査させることにより、感光体の面内方向に分布し時間的にずれのある複数の潜像パターンを形成させ、数十ミクロンのビーム径に比べて十分小さい分解能で静電潜像を計測することが可能となり、静電潜像を評価することが可能となる。
【0027】
露光部3の走査光学系は、ポリゴンモータなど偏向器の振動や電磁場の影響が電子ビームの軌道に影響を与えないように真空チャンバの外に配置すると良い。電子ビーム軌道位置から遠ざけることにより、外乱の影響を抑制することが可能となる。走査光学系は、光学的に透明な入射窓19より入射させることが望ましい。
図5は、静電潜像評価装置の変形例の断面図である。図5に示すように、真空チャンバ33の鉛直軸に対して45°の位置に、真空チャンバ内部に対して光源が外部から入射可能な入射窓19を配置し、真空チャンバ外部に走査光学系を配置した構成となっている。図5において、走査光学系(露光手段)34は、光源部、走査レンズ、同期検知手段、光偏向器(図中のポリゴンスキャナ35)等を有している。
走査光学系を保持する光学ハウジング36は、走査光学系全体をカバー37で覆い、真空チャンバ内部へ入射する外光(有害光)を遮光する構成をとっても良い。
【0028】
走査レンズはfθ特性を有しており、光偏光器が一定速度で回転しているときに、光ビームは像面に対して略等速に移動する構成となっている。また、ビームスポット径も略一定に走査可能な構成となっている。
走査光学系は、真空チャンバ33に対して離れて配置するので、ポリゴンスキャナ等の光偏向器を駆動する際に発生する振動は、直接真空チャンバに伝播されることの影響は少ない。さらに、図5では図示していないが、構造体38と除振台39との間にダンパを挿入すれば更に効果の高い防振効果を得ることができる。
図5において、符号40は折り返しミラーを、41は外部遮光筒を、42はラビリンス部を、43は遮光部材を、44は内部遮光筒を、45は電子銃を、46は検出器を、47は試料を、48は真空試料ステージ部を、49は走査ビームを、それぞれ示している。
潜像実験を行う場合、必要な書込密度から、走査周波数と線速を決定し、ビームスポット径、露光エネルギー等をパラメータとすることで、各種の評価を行うことができる。
【0029】
次に2ビームを走査させたときの潜像画像パターンの実施例を図6に示す。(a)は1ドット格子の場合、(b)は2ドット孤立の場合、(c)は2by2の場合、(d)は2ドットラインの場合である。
このように複数の光ビームを走査させることにより、2次元の潜像画像パターンを形成することが可能となる。
2ビーム間隔は、2ビーム光源部を基準面あるいは一方の光軸に対して、回転させることで、適切に間隔を調整可能な構成となっている(図2(b))。
これにより、様々な潜像画像パターンを形成することが可能となり、実際のトナー像との対応が容易になる。
【0030】
次に3ビーム以上の画像パターンを形成させたときの実施例を図8に示す。
例えば2ミリ角の測定領域で、1200dpi解像度(約21um)の潜像を形成する場合、100×100ドットの潜像パターンを形成することが可能である。
このように複数のLDと画像パターンにより様々な潜像画像を形成させることが可能となり、より実機に近い状態での潜像状態を計測することが可能となる。この結果、従来の現像後のトナー付着量にばらつきがあった場合に、それが、現像・転写・定着の過程で起きた現象なのか、現像以前の潜像状態で既にばらついているかの判別をすることが可能となる。
その結果、プロセス条件や光学パラメータの最適化に役立つことができる。
【0031】
ところで、トナーの付着量と相関のある潜像面積は、帯電むらや感光体感度、静電特性、静電疲労などの条件で微妙に変わってくる。それを評価するための尺度として潜像パターン毎の面積ばらつきを算出すると良い。
n個の潜像パターンを形成したときの潜像面積のばらつき度合いを算出する方法を示す。
n:潜像パターン数、<S>:平均潜像面積、Si:i番目の潜像面積とする。そのときの解析フローを図12に示す。N=12の潜像パターン例を図13に示す。
解析フローは下記の通りである。
(1)上記方式により複数の潜像パターンを形成する。
(2)上記方法により静電潜像を計測し、潜像画像を取り込む。ここで、静電潜像を計測するのは、図1に示す画像処理手段51である。
(3)2値化処理や輪郭抽出などの画像処理により、各潜像パターンを抽出する。潜像パターンの抽出は抽出手段としての制御手段20により行われる。
取り込み画像に濃度むらや異常信号などノイズが多い場合には、平滑化や背景分離などの処理を行っても良い。
(4)複数の潜像毎に潜像面積Siを計測する。
潜像面積は、2値化処理や輪郭抽出などの画像処理により、抽出された領域内の画素データ数をカウントすることで、算出できる。また、各潜像パターンを楕円形状と近似して、長軸と短軸の径を算出して、楕円面積を算出しても良い。潜像面積を算出するのは、図1に示す算出手段としての潜像面積算出手段52である。
(5)平均の潜像面積<S>を算出する。
(6)潜像面積のばらつきを算出する。
【0032】
潜像面積のばらつき度合いを算出する方法として、平均の潜像面積<S>と各潜像パターンとを比較して面積差や面積比率を算出すると良い。
この場合、ばらつきの算出は、比較手段としての制御手段20により行われる。上記信号処理手段50、画像処理手段51、潜像面積算出手段52も制御手段20が兼ねるようにしてもよい。
また、潜像面積の分散や標準偏差を計算する方法をとっても良い。潜像面積標準偏差は次式のように表される。
【0033】
【数1】

【0034】
露光条件としては、光ビームスポット径、像面光量、点灯時間あるいはデューティが一定であれば、本来同じ潜像が形成されることが理想的であるが、実際には異なる。
帯電条件や感光体条件条件の影響のほかに、露光条件側としては、相反則不軌の影響がある。
すなわち、光を当てるタイミング時間差や潜像画像パターンによっても変わってくる。
これらを評価するためには、露光条件の帯電電位、像面光量、デューティ、ビーム径固定の条件で、複数の潜像パターンを形成し、そのときの潜像パターン面積のばらつき度合い、を算出することで、帯電露光から潜像形成に至る潜像形成能力を評価することができる。
【0035】
画像濃度むらとして影響を与えないためには、光ビームスポット径が30〜80μmの場合で、潜像面積標準偏差が10%以下であることが望ましい。
この潜像パターン評価は、1ドットの場合だけに限らず、2by2など複数の露光でひとつの潜像パターンを形成する評価にも同様に適用できることはいうまでもない。
また、1ドット格子の潜像画像のときのLD発光条件を図9に示す。
条件1は、LD1とLD2を同じ光偏向面で走査させたときの画像パターンであり、条件2は、光偏向面第1面では、LD1のみ点灯させ、LD2ではOFF、光偏向面第2面では、LD1はOFFで、LD2のみ点灯させている実施例である。
実際の画像形成装置に搭載されている光走査装置でも、光ビームの発光タイミングが光偏向面の違いで異なることがあり、その条件での静電潜像を計測することができる。
これにより相反則不軌現象の解析と評価をすることが可能となる。
【0036】
図10(a)に示すように、半導体レーザを含む光源ユニット22から射出した光ビームは、コリメートレンズ23、シリンダレンズ25、折り返しミラー26を介してポリゴンミラー27で偏向走査され、走査レンズ28、29、折り返しミラー55により被走査媒体としての感光体17上に結像される。
各発光点の発光信号を制御する画像処理装置内のバッファメモリには、各発光点に対応する1ライン分の印字データが蓄えられている。ポリゴンミラー27の偏向反射面1面毎に上記印字データが読み出され、被走査媒体上の走査線上で印字データに対応して光ビームが点滅し、走査線に従って静電潜像が形成される。
マルチビーム走査ユニットの実施例を図10(b)、(c)に示す。
図10(b)に示す構成例では、4個の光源が配列された半導体レーザアレイ22が、コリメートレンズ23の光軸垂直方向に配置されている。
図10(c)に、発光点をx軸方向と、y軸方向に平面に配置した面発光レーザからなる光走査装置の光源部の構成例を示す。この構成例は、水平方向(主走査方向)に3個、垂直方向(副走査方向)に4個、計12個の発光点を有する面発光レーザ22を用いた例である。この構成例を、図10(a)に示す光走査装置に適用することにより、一つの走査線上を水平方向に配置した3つの光源により走査し、垂直方向4本の走査線を同時に走査するように構成することができる。
【0037】
ところで、上記潜像画像面積は、露光条件としては、光ビームスポット径と像面光量や点灯時間が一定でも、周辺の潜像画像パターンにより潜像径が異なることがわかってきた。特に周辺に潜像画像パターンで影響することがわかってきた。これは、周辺電位が高いか低いかが、その場所の電界強度に影響を与え、すなわちトナー付着量が異なってくるためである。
従って、光ビームスポット径と露光エネルギー密度が一定でも、周辺と中心では、潜像径や潜像面積が厳密には異なってくる。これを解決するためには、周辺の画像パターンを考慮して、その位置の露光エネルギー条件を適切に設定することが望ましい。
【0038】
図11は、露光点灯時間と潜像面積の関係を示す。像面光量とビーム径及び帯電・感光体条件は一定であるとする。(a)は、周辺が露光されていない孤立ドットの潜像であり、(b)は1by1で露光されている潜像である。LD点灯時間が一定の場合には、(b)の状態に比べて、(a)の方が他に比べて潜像が深く形成されて、潜像面積が大きく形成される。従って、同じ潜像面積とするためには、点灯時間を短くして孤立1ドットの露光エネルギー密度を低く設定しておくと良い。あるいはPM変調で像面光量を小さくしても良い。
このように潜像パターンの潜像径が一定となるように露光エネルギーをドット毎に変えることにより、高画質な光走査装置を提供することができる。
これは、1200dpiや2400dpiといった高密度な条件であると顕著に表れてくる。従って、高密度あるいは小径化光走査装置に特に有効であり、高精度でかつ高速の光走査が可能となる。
【0039】
以下に、この発明の画像形成装置の実施形態(レーザプリンタ)を、図14に基づいて説明する。レーザプリンタ100は像担持体111として「円筒状に形成された光導電性の感光体」を有している。像担持体111の周囲には、帯電手段としての帯電ローラ112、現像装置113、転写ローラ114、クリーニング装置115が配備されている。
この実施の形態では「帯電手段」として、オゾン発生の少ない接触式の帯電ローラ112を用いているが、コロナ放電を利用するコロナチャージャを帯電手段として用いることもできる。また、光走査装置117が設けられ、帯電ローラ112と現像装置113との間で「レーザビームLBの光走査による露光」を行うようになっている。
【0040】
図14において、符号116は定着装置、118は給紙カセット、119はレジストローラ対、120は給紙コロ、121は搬送路、122は排紙ローラ対、123は排紙トレイを示している。画像形成を行うときは、光導電性の感光体である像担持体111が時計回りに等速回転され、その表面が帯電ローラ112により均一に帯電され、光走査装置117のレーザビームによる光書込による露光により静電潜像が形成される。形成された静電潜像は所謂「ネガ潜像」であって画像部が露光されている。
【0041】
この静電潜像は現像装置113により反転現像され、像担持体111上にトナー画像が形成される。転写紙を収納した給紙カセット118は画像形成装置100本体に着脱可能で、図のごとく装着された状態において、収納された転写紙の最上位の1枚が給紙コロ120により給紙される。給紙された転写紙は、その先端部をレジストローラ対119に挟持される。レジストローラ対119は、像担持体111上のトナー画像が転写位置へ移動するのにタイミングをあわせて転写紙を転写部へ送りこむ。送りこまれた転写紙は、転写部においてトナー画像と重ね合わせられ、転写ローラ114の作用によりトナー画像を静電転写される。
トナー画像を転写された転写紙は定着装置116でトナー画像を定着されたのち、搬送路21を通り、排紙ローラ対122により排紙トレイ123上に排出される。
トナー画像が転写されたのち、像担持体111の表面はクリーニング装置115によりクリーニングされ、残留トナーや紙粉等が除去される。
本発明による静電潜像評価装置による評価に基づいて設計された光走査装置及び潜像担持体を用いることにより、解像力に優れて高精彩、かつ高耐久で信頼性の高い画像形成装置を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電潜像評価装置の概要構成図である。
【図2】(a)は光走査装置の実施形態の概要平面図で、(b)は光源部の斜視図である。
【図3】静電潜像評価装置の変形例の概要構成図である。
【図4】1ビームの光源発光条件と潜像パターンの関係を示す図である。
【図5】静電潜像評価装置の別の変形例の概要構成図である。
【図6】2ビームを走査させたときの潜像画像パターンを示す図である。
【図7】2次電子による電荷分布・電位分布検出の原理モデル図である。
【図8】3ビーム以上を走査させたときの潜像画像パターンを示す図である。
【図9】発光タイミングの異なる露光条件と潜像パターンを示す図である。
【図10】(a)は光走査装置の実施形態の斜視図、(b)、(c)は光源部の斜視図である。
【図11】発光タイミングの異なる露光条件と潜像パターンを示す図である。
【図12】潜像面積算出のフローチャートである。
【図13】N=12の場合の潜像パターン図である。
【図14】画像形成装置の実施形態の概要構成図である。
【図15】ビームスポット径と潜像径の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 静電潜像評価装置
2 照射手段
3 露光手段
5 検出手段
17 感光体試料
20、21 発光制御手段
20 抽出手段
20 比較手段
20、21 露光制御手段
22 光源
27 光偏向手段
30 同期検知手段
51 測定手段
52 算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電荷分布あるいは表面電位分布を有する感光体試料に対して、荷電粒子ビームを照射し、該照射によって得られる検出信号により、前記感光体試料の静電潜像を計測する方法において、
前記感光体試料に複数の潜像パターンを形成し、前記計測方法により計測した静電潜像を画像として取り込み、各潜像パターンを抽出して、その複数の潜像パターンのばらつきを評価することを特徴とする静電潜像の評価方法。
【請求項2】
感光体試料に対して、荷電粒子ビームを照射する照射手段と、該照射によって得られる荷電粒子の信号を検出する検出手段と、前記感光体試料の電荷分布の状態を測定する測定手段と、前記感光体試料に複数の潜像パターンを形成するための露光手段と、該露光手段の光源の発光を制御する発光制御手段と、を有することを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項3】
請求項2記載の静電潜像評価装置において、
前記測定手段により取得した複数の潜像パターンの静電潜像を各々の潜像パターン毎に抽出する抽出手段と、各潜像パターンの潜像面積を算出する算出手段と、該算出手段により算出された潜像面積を比較する比較手段と、を有することを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項4】
請求項3記載の静電潜像評価装置において、
前記露光手段の像面光量、点灯時間、ビーム径を固定して、複数の潜像パターンを形成する露光制御手段を有し、前記算出手段はそのときの潜像パターン面積の分散を算出することを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項5】
請求項2記載の静電潜像評価装置において、
前記感光体試料に対する潜像パターンの形成が真空チャンバ内で行われ、前記露光手段は前記真空チャンバの外部に配置されていることを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項6】
請求項2記載の静電潜像評価装置において、
前記露光手段は、複数光源からの光ビームを光偏向手段により偏向走査する走査光学系と、前記光偏向手段からの走査ビームを検知する同期検知手段を有していることを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項7】
請求項6記載の静電潜像評価装置において、
複数の潜像パターンを形成するために、前記光偏向手段の異なる光偏向面で走査することを特徴とする静電潜像評価装置。
【請求項8】
光偏向手段を含む光学走査素子を介して光源から出射される複数の光ビームを感光体に走査する光走査装置において、
周辺潜像パターンに応じて、前記感光体に照射する露光エネルギー密度を変える露光制御手段を有することを特徴とする光走査装置。
【請求項9】
請求項8記載の光走査装置において、
前記露光制御手段は、近傍領域が露光されていない孤立ドットの潜像形成では、近傍領域が露光される潜像形成に比べて露光エネルギー密度を低く設定するように、露光条件を制御することを特徴とする光走査装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の光走査装置を用いて感光体に対して走査を行うことにより潜像を形成し、現像して可視化することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−233376(P2008−233376A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70836(P2007−70836)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】