説明

非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤

【課題】本発明の目的は、非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞の接着を抑制できる非イオン性SHCL用点眼剤、とりわけ、非イオン性SHCLの装用時に点眼可能であって非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞の接着を抑制できる点眼剤を提供することである。
【解決手段】ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で配合することにより、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一般に、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に適用される点眼剤については、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に適用される点眼剤は、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。従来、ケトチフェン及びその塩は、抗アレルギー効果の付与を目的として点眼剤に使用されているが(特許文献1−2参照)、これらがシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに及ぼす影響については報告されていない。ましてや、従来技術からは、特定量以上のケトチフェン及び/又はその塩が、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者の眼組織に及ぼす影響については、推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−175771号公報
【特許文献2】特開2004−315365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと略記する)のレンズ表面は、角膜上皮細胞の接着性が著しく高いという全く新しい知見を得た。このような角膜上皮細胞の接着性が高いコンタクトレンズは、コンタクトレンズの装用時(装用中)にレンズに角膜細胞が接着して角膜上でレンズが動く度に、又はレンズを外す際等に、眼組織から該細胞を剥離させて、角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを発生させる恐れがあり、ひいてはコンタクトレンズ使用者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させることにもなる。更に、SHCLは、他のソフトコンタクトレンズに比して比較的長期に亘って連続装用される場合が多いことを考慮すると、長期間の連続装用によって生じる角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着は、重大な眼疾患又は眼粘膜症状を引き起こす一因にもなりかねない。
【0007】
そこで、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を抑制できる非イオン性SHCL用点眼剤、とりわけ、非イオン性SHCLの装用時(装用中)に点眼可能であって非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞接着を抑制できる点眼剤の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、0.01w/v%以上のケトチフェン及び/又はその塩を使用することにより、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を著しく抑制できることを見出した。更に、本発明者は、界面活性剤単独では非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制できないものの、0.01w/v%以上のケトチフェン及び/又はその塩と共に、界面活性剤を用いることによって、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着抑制効果が相乗的に著しく高められることを見出した。そして更に、0.01w/v%以上のケトチフェン及び/又はその塩と共に、アズレンスルホン酸及び/又はその塩を用いることによっても、格段顕著に、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着抑制効果を向上できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用点眼剤を提供する。
項1. ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で含有することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項2. ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項3. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項4. 更に界面活性剤を含有する、項1乃至3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項5. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項4に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項6. 界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項4又は5に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項7. 更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含有する、項1乃至6のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項8. アズレンスルホン酸類として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項7に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【0010】
また、本発明は、下記に掲げる、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。
項9. ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法。
項10. ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、項9に記載の接着抑制方法。
項11. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項9又は10に記載の接着抑制方法。
項12. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤が、更に界面活性剤を含むものである、項9乃至11のいずれかに記載の接着抑制方法。
項13. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項12に記載の接着抑制方法。
項14. 界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項12又は13に記載の接着抑制方法。
項15. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤が、更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含むものである、項9乃至14のいずれかに記載の接着抑制方法。
項16. アズレンスルホン酸類として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項15に記載の接着抑制方法。
【0011】
また、本発明は、下記に掲げる、点眼剤に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法を提供する。
項17. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法。
項18. ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、項17に記載の付与方法。
項19. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項17又は18に記載の付与方法。
項20. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、更に界面活性剤を配合する、項17乃至19のいずれかに記載の付与方法。
項21. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項20に記載の付与方法。
項22. 界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項20又は21に記載の付与方法。
項23. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を配合する、項17乃至22のいずれかに記載の付与方法。
項24. アズレンスルホン酸類として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項23に記載の付与方法。
【0012】
更に、本発明は、下記に掲げる使用をも提供する。
項25. 0.01w/v%以上の、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤の製造のための使用。
項26. 0.01w/v%以上の、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための点眼剤の製造のための使用。
項27. ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、項25又は26のいずれかに記載の使用。
項28. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項25乃至27のいずれかに記載の使用。
項29. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤が、更に界面活性剤を含有する、項25乃至28のいずれかに記載の使用。
項30. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項29に記載の使用。
項31. 界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項29又は30のいずれかに記載の使用。
項32. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤が、更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含有する、項25乃至31のいずれかに記載の使用。
項33. アズレンスルホン酸類として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項32に記載の使用。
【0013】
更に、本発明は、下記に掲げる、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞接着を抑制するための剤をも提供する。
項34. 0.01w/v%以上の、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞接着を抑制するための剤。
項35. ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、項34に記載の剤。
項36. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項34又は35に記載の剤。
項37. 更に界面活性剤を含有する、項34乃至36のいずれかに記載の剤。
項38. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項37に記載の剤。
項39. 界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項37又は38に記載の剤。
項40. 更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含有する、項34乃至39のいずれかに記載の剤。
項41. アズレンスルホン酸類として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項40に記載の剤。
【0014】
更に、本発明は、下記に掲げる角膜上皮細胞接着抑制物質のスクリーニング方法を提供する。
項32. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞の接着を抑制できる角膜上皮細胞接着抑制物質をスクリーニングする方法であって、
(a)被験物質の存在下で非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを角膜上皮細胞と接触させる工程、
(b)非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞の接着量を測定する工程、及び
(c)前記工程(b)の測定結果に基づき、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞接着の抑制が認められた被験物質を、上記角膜上皮細胞接着抑制物質として選択する工程
を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの使用による角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを改善することできる。
【0016】
また、SCL装用時には角膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、非イオン性SHCLの長期間の連続装用を繰り返すと、重症になるまで放置してしまうことがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、このような悪影響についても改善でき、高い安全性をもって非イオン性SHCLを長期間連続装用することをも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞の接着性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1−3及び比較例1−2)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図3】試験例2において、試験液(実施例3−5及び比較例2−4)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図4】試験例3において、試験液(実施例6−9)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図5】試験例4において、試験液(実施例10−11及び比較例6−7)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(I) 非イオン性SHCL用点眼剤
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を含有する。ケトチフェンは、4,9−ジヒドロ−4−(1−メチル−4−ピペリジリデン)−10H−ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2−b]チオフェン−10−オンとも称される化合物である。ケトチフェン及びその塩は、抗アレルギー剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0019】
本発明で使用されるケトチフェン類の内、ケトチフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくは有機酸塩、更に好ましくは多価カルボン酸塩、より更に好ましくはフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはフマル酸塩が挙げられる。これらのケトチフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、ケトチフェン類として、ケトチフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明に使用されるケトチフェン類として、好ましくはケトチフェンの塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩、更に好ましくはケトチフェンの多価カルボン酸塩、より更に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩(フマル酸ケトチフェン)が挙げられる。
【0021】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、ケトチフェン類の配合割合は、該点眼剤の総量に対してケトチフェン類が総量で0.01w/v%以上となるように設定されていればよい。このような配合割合でケトチフェン類を含むことによって、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを抑制することが可能になる。非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるとの観点から、ケトチフェン類の配合割合として、好ましくは0.01〜1w/v%、より好ましくは0.02〜0.7w/v%、更に好ましくは0.03〜0.5w/v%、特に好ましくは0.05〜0.1w/v%となる濃度が例示される。
【0022】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、上記ケトチフェン類成分に加えて、更に界面活性剤を含有していてもよい。このように、界面活性剤を含むことによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層有効に奏させ得る。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0023】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、上記本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0024】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE-POPブロックコポリマー類;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、POE-POPブロックコポリマー;より好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が用いられる。これらの好ましい界面活性剤によれば、眼粘膜に対する高い安全性を備えさせ、且つ非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層向上せしめ得ることが可能になる。
【0026】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、非イオン性SHCL用点眼剤の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、より好ましくは0.01〜0.3w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%が例示される。
【0027】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記ケトチフェン類に対する上記界面活性剤の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるという観点から、上記ケトチフェン類の総量1重量部当たり、上記界面活性剤の総量が、好ましくは1〜1000重量部、更に好ましくは3〜600重量部、特に好ましくは3〜200重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0028】
更に、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、更に、アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含有してもよい。このように、アズレンスルホン酸類を含むことによって、ケトチフェン及び/又はその塩による非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を著しく増強させ得る。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能なアズレンスルホン酸類の内、アズレンスルホン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機塩基との塩及び/又は無機塩基との塩、より好ましくは無機塩基との塩、更に好ましくはアルカリ金属塩、特に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。これらのアズレンスルホン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤にアズレンスルホン酸類を配合する場合、アズレンスルホン酸及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。アズレンスルホン酸類として、好ましくはアズレンスルホン酸の塩、より好ましくはアズレンスルホン酸の有機塩基との塩及び/又は無機塩基との塩、更に好ましくはアズレンスルホン酸の無機塩基との塩、より更に好ましくはアズレンスルホン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはアズレンスルホン酸のナトリウム酸塩(アズレンスルホン酸ナトリウム)が挙げられる。
【0030】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤にアズレンスルホン酸類を配合する場合、該アズレンスルホン酸類の配合割合については、該アズレンスルホン酸類の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて適宜設定できる。アズレンスルホン酸類の配合割合の一例として、非イオン性SHCL用点眼剤の総量に対して、該アズレンスルホン酸類が総量で、0.004w/v%以上、好ましくは0.004〜0.1w/v%、より好ましくは0.005〜0.05w/v%、更に好ましくは0.01〜0.02w/v%が例示される。
【0031】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記ケトチフェン類に対する上記アズレンスルホン酸類の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるという観点から、上記ケトチフェン類の総量1重量部当たり、上記アズレンスルホン酸類の総量が、好ましくは0.1〜200重量部、更に好ましくは0.2〜100重量部、特に好ましくは0.5〜40重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0032】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、上記成分に加えて、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びクエン酸緩衝剤である。特に好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等)、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)、アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該点眼剤の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0034】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜8.5、より好ましくは6.0〜8.0、更に好ましくは6.0〜7.5となる範囲が挙げられる。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤をかかるpH範囲となるように調整すれば、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に保持させ、且つ眼粘膜に対する刺激を低減して高い安全性を備えることができる。
【0035】
また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、アズレン、グアイアズレン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0037】
また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコール等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
香料又は清涼化剤:メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0038】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、例えば、精製水、生理食塩水等の水性担体等に、上記所望量のケトチフェン類、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加し、常法に準じて調製される。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは35%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の好適な適用対象の一例として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0040】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0041】
非イオン性SHCL用点眼剤の使用形態には、非イオン性SHCLを装着した眼(装用中の眼)に直接点眼する形態に加えて、非イオン性SHCLを装着する前に眼に点眼する形態が包含される。
【0042】
従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時−9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。後述の試験例で示すように、本発明者の研究によって非イオン性SHCLは角膜上皮細胞を著しく接着することが確認されており、更にSHCLは通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いことが分かっている。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
【0043】
また、角膜上皮細胞はアレルゲンに対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー症状等を発症させ易くする畏れがある。従って、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー症状を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー症状の予防剤)として好適に用いられる。
【0044】
また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、ケトチフェン類に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の緩和剤としても有用である。
【0045】
(II) 非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果の付与方法、及び点眼剤の製造のための使用
前述するように、0.01w/v%以上のケトチフェン類を配合した非イオン性SHCL用点眼剤を使用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0046】
従って、本発明は、更に別の観点から、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で含有する非イオン性SHCL用点眼剤と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用点眼剤に、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用点眼剤に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法を提供する。
【0047】
また本発明は、更に別の観点から、0.01w/v%以上の、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤の製造のための使用を提供する。また本発明は、0.01w/v%以上の、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための点眼剤の製造のための使用を提供する。
【0048】
これらの方法及び使用において、使用するケトチフェンの塩の種類、ケトチフェン及び/又はその塩の非イオン性SHCL用点眼剤中の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、非イオン性SHCL用点眼剤の製剤形態や適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「(I) 非イオン性SHCL用点眼剤」と同様である。
【0049】
(III) 非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞接着を抑制するための剤
前述するように、0.01w/v%以上のケトチフェン類を配合した点眼剤を使用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0050】
従って、本発明は、更に別の観点から、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で含有する、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制剤を提供する。
【0051】
該剤において、使用するケトチフェンの塩の種類、ケトチフェン及び/又はその塩の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、該剤の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「(I) 非イオン性SHCL用点眼剤」と同様である。
【0052】
(IV) 非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制できる物質のスクリーニング方法
前述するように、本発明者によって、角膜上皮細胞が非イオン性SHCLに対して特異的に著しく接着するという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制できる角膜上皮細胞接着抑制物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)乃至(c)工程を包含する方法である:
(a)被験物質の存在下で非イオン性SHCLを角膜上皮細胞と接触させる工程、
(b)非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着量を測定する工程、及び
(c)前記工程(b)の測定結果に基づき、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞接着の抑制が認められた被験物質を、上記角膜上皮細胞接着抑制物質として選択する工程。
【0053】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記角膜上皮細胞接着抑制物質の候補物質である。また、候補物質は、非イオン性SHCL用点眼剤に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0054】
また、上記(a)工程において、使用される角膜上皮細胞については、その由来は特に制限されず、脊椎動物等の任意の生物に由来するものが用いられ得るが、ヒト、ウサギ、マウス、ラット等の哺乳動物に由来するものが特に好ましい。
【0055】
上記(a)工程において、被験物質の存在下で非イオン性SHCLを角膜上皮細胞と接触させるには、被験物質、非イオン性SHCL及び角膜上皮細胞を所定時間共存させればよい。上記(a)工程の具体的実施態様として、角膜上皮細胞が生育できる(或いは死滅しない)ように調製された培養溶液(細胞増殖用培地、緩衝液等)に、予め被験物質で処理した非イオン性SHCLと適当量の角膜上皮細胞とを添加する方法、或いは該培養溶液に、適当量の被験物質と、非イオン性SHCL、及び適当量の角膜上皮細胞を添加する方法が例示される。ここで、前者の方法に用いられる、予め被験物質で処理した非イオン性SHCLを作製する方法としては、具体的には、先ず、水や緩衝剤等の液性担体に被験物質を適当量添加することにより調製された被験溶液中に、例えば1〜40℃で12〜36時間程度、非イオン性SHCLを浸漬させる方法等が挙げられる。ここで、被験物質は、添加される被験溶液中又は培養溶液中において段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を工程(a)に供することが望ましい。また、上記培養溶液中の角膜上皮細胞の添加量は、特に制限されるものではないが、例えば最終濃度が1×10〜1×10cells/mL程度となるように設定することが望ましい。
【0056】
上記工程(a)は、上記の如く、被験物質、非イオン性SHCL及び角膜上皮細胞を共存させた状態で、例えば5%CO2の好気的条件下で32〜42℃で12〜72時間程度保持すればよい。
【0057】
上記(b)工程において、(a)工程で接触させた非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着量を測定する。非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞接着量の測定は、非イオン性SHCLに接着した角膜上皮細胞数を公知の方法により計測すればよく、例えば、市販の細胞数測定キット(Cell Counting Kit;(株)同仁化学研究所製)等により測定される。
【0058】
上記(c)工程において、上記(b)工程の測定結果に基づき、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞接着の抑制が認められる被験物質を選択するには、スクリーニングに供した被験物質の内、上記(b)工程において非イオン性SHCLに角膜上皮細胞が接着されていないもの、或いは非イオン性SHCLに接着した角膜上皮細胞数が少ないものを選択すればよい。また、本(c)工程において、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着の抑制が認められる被験物質を正確に選ぶために、被験物質を添加しないこと以外は上記(a)工程及び(b)工程と同条件で、非イオン性SHCLと角膜上皮細胞とを接触させて測定した場合の非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着量と比較してもよい。即ち、被験物質を添加しなかった場合に比して、細胞接着量が少ない場合には、該被験物質が非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制していると判定される。
【0059】
斯くして選ばれた被験物質が、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制できる物質(角膜上皮細胞接着抑制物質)として選択される。
【0060】
本スクリーニング方法により得られる角膜上皮細胞接着抑制剤は、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制するために、非イオン性SHCL用点眼剤に配合することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、試験例、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0062】
参考試験例1:各種SCLの角膜上皮細胞の接着性評価
表1に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0063】
【表1】

【0064】
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLづつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生存細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生存細胞数の割合(コントロール群に対する生存細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
【0065】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズA及びBは、イオン性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCや非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズDまたはEと比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズC、D及びEには細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズA及びBの表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
【0066】
試験例1:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(1):
表2に示す試験液(実施例1−3及び比較例1−2)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0067】
【表2】

【0068】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表2に示す試験液(実施例1−3及び比較例1−2)10mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、いずれの試験液でも浸漬処理していないレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、下式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。その結果、比較例2で処理しても、細胞接着抑制効果は殆ど認められないことが明らかとなった。
【0069】
【数1】

【0070】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例2の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、フマル酸ケトチフェン濃度が0.01w/v%以上である実施例1−3で処理した場合には、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制率が顕著に高い値を示すことが判明した。しかしながら、フマル酸ケトチフェン濃度が0.001w/v%である比較例1で処理しても、細胞接着抑効果は殆ど認められなかった。以上の結果から、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制は、特定量以上のケトチフェン及び/又はその塩、即ち0.01w/v%以上のケトチフェン及び/又はその塩によって可能になることが明らかとなった。
【0071】
試験例2:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(2):
表3に示す試験液(実施例3−5及び比較例2−4)及び表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を上記試験例1と同様の方法で評価した。
【0072】
【表3】

【0073】
その結果、上記試験例1と同様、比較例2で処理しても細胞接着抑制効果は殆ど認められないことが明らかとなった。また、各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例2の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。得られた結果を図3に示す。図3に示すように、界面活性剤自体には細胞接着抑制効果が殆ど無いことが明らかとなった(比較例3−4)。一方、フマル酸ケトチフェンに界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を組み合わせて用いると、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制率が相乗的に著しく高められることが明らかとなった(実施例4−5)。
【0074】
試験例3:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(3):
表4に示す試験液(実施例6〜9及び比較例5)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0075】
【表4】

【0076】
表1に示すレンズB(非イオン性SHCL)を、表4に示す試験液(実施例6〜9及び比較例5)5mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で18時間振盪処理を行った。各試験液から取り出したレンズBを生理食塩水で十分に洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が950μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(8×10cell/ml)を50μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で72時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、いずれの試験液でも浸漬処理していないレンズBを生理食塩水で洗浄したものを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズBに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で72時間静置した(ブランク群)。上記試験例1と同様の方法で、生存細胞数の計測及び細胞接着抑制率(%)の算出を行った。
【0077】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、実施例6の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。実施例6〜9について得られた結果を図4に示す。アズレンスルホン酸ナトリウム単独(比較例5)の細胞接着抑制率は、フマル酸ケトチフェン単独(実施例6)よりもはるかに低い値を示した(図4では省略)。一方、フマル酸ケトチフェンにアズレンスルホン酸ナトリウムを組み合わせて用いると、例えば実施例7及び8において、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制率がフマル酸ケトチフェン単独の場合(実施例6)よりも2倍以上になるなど、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果が相乗的に著しく高められることが明らかとなった。
【0078】
試験例4:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(4):
表5に示す試験液(実施例10−11及び比較例6−7)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0079】
【表5】

【0080】
表1に示すレンズB(非イオン性SHCL)を、表5に示す各試験液8mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズBを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が950μL入った24ウェルプレートにレンズの凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を50μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で2日間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、いずれの試験液でも浸漬処理していないレンズBを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズBに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下でサンプル群と同時間静置した(ブランク群)。上記試験例1と同様の方法で、生存細胞数の計測及び細胞接着抑制率(%)の算出を行った。
【0081】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例6における細胞接着抑制率を100とした場合の実施例10の細胞接着抑制率の相対比、及び比較例7における細胞接着抑制率を100とした場合の実施例11の細胞接着抑制率の相対比をそれぞれ求めた。結果を図5に示す。図5から明らかなように、pH5〜6程度の酸性条件下でも、フマル酸ケトチフェンにポリソルベート80を組み合わせて用いることにより、またフマル酸ケトチフェンにアズレンスルホン酸ナトリウムを組み合わせて用いることにより、著しく高い角膜上皮細胞接着抑制効果が奏されることが確認された。
【0082】
製剤例
表6に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例12−26)が調製される。
【0083】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のケトチフェン類を0.01w/v%以上の割合で含有することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項2】
ケトチフェン類としてフマル酸ケトチフェンを含む、請求項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項3】
非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、請求項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項4】
更に界面活性剤を含有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項5】
更にアズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のアズレンスルホン酸類を含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項6】
非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞の接着を抑制できる角膜上皮細胞接着抑制物質をスクリーニングする方法であって、
(a)被験物質の存在下で非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを角膜上皮細胞と接触させる工程、
(b)非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞の接着量を測定する工程、及び
(c)前記工程(b)の測定結果に基づき、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの角膜上皮細胞接着の抑制が認められた被験物質を、上記角膜上皮細胞接着抑制物質として選択する工程
を含むスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−120922(P2010−120922A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112177(P2009−112177)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】