説明

非接触ICラベル及び情報識別システム

【課題】データの読み取りの効率を向上し、データ読取装置の薄型化及びコスト低減を図ることが可能な非接触ICラベル及び情報識別システムを提供する
【解決手段】磁性シート11と、磁性シート11の一方の面側に配置された第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15と、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15に接続されるICチップ16とを備えた非接触ICラベル2において、第1アンテナ部14と第2アンテナ部15とが、回転方向を同じくした円偏波で動作することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯及びSHF帯で用いられる非接触ICラベル及び情報識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RFIDタグ(非接触ICラベル)とリーダ(データ読取装置)等との間で、無線通信による情報のやりとりが行われている。しかし、このRFIDタグを金属製の被接着体に取り付けたときには通信性能が低下してしまうので、この問題点を解決するために、様々なRFIDタグの構成が検討されている。
例えば、13.56MHz帯の電波を用いる電磁誘導方式のRFIDタグでは、アンテナと被接着体の間に高透磁率の磁性体(磁性シート)を設け、アンテナと被接着体との間にロスの少ない磁束のルートを確保することで、金属製の被接着体に取り付けても通信性能を維持できるRFIDタグを実現している。
【0003】
また、UHF帯及びSHF帯で用いられる電波方式のRFIDタグでは、アンテナと被接着体との間に誘電体また空気層を設けることで、アンテナと被接着体との隙間を確保し、被接着体の影響を抑える方法が一般的に用いられており、また、特許文献1にはアンテナと被接着体との間に磁性体を設ける構成も開示されている。
【0004】
現在、上記のUHF帯及びSHF帯で用いられる電波方式のRFIDタグは、その多くが直線偏波で動作する。このため、RFIDタグのIDデータを読み取る際には、データ読取装置を接近させる角度によって、データ読み取りの距離及び速度に差異が出てしまう。従って、現在は、円偏波で動作するパッチアンテナを用いたデータ読取装置を採用することによって、データ読み取り時の角度依存性を低減しており、読み取り効率を高め、利便性を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−309811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の円偏波で動作するパッチアンテナの構造は立体的であり、また高価である。このため、データ読み取りの効率を維持したままデータ読取装置の薄型化及びコスト低減は困難であった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、データ読み取りの効率を向上すると共に、データ読取装置の薄型化及びコスト低減を図ることが可能な非接触ICラベル及び情報識別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る非接触ICラベルは、磁性シートと、前記磁性シートの一方の面側に配置された複数のアンテナ部と、前記複数のアンテナ部に接続されるICチップとを備えた非接触ICラベルにおいて、前記複数のアンテナ部のうち少なくとも一対が、回転方向を同じくした円偏波で動作することを特徴とする。
【0009】
上記複数のアンテナ部のうち少なくとも一対がアレイアンテナとして働き、各々のアンテナ部からの円偏波の電波が空中で合成される。合成後の電波も各々のアンテナ部から円偏波と同じ回転方向を有する円偏波となるため、この電波に指向性はなく、データ読み取りの際の角度依存性を非接触ICラベル側で低減できる。
【0010】
また、本発明に係る非接触ICラベルは、前記複数のアンテナ部として、第1アンテナ部と第2アンテナ部とを備え、これら第1アンテナ部と第2アンテナ部とが回転方向を同じくした円偏波で動作することが好ましい。
【0011】
第1アンテナ部と第2アンテナ部とによる回転方向を同じくした円偏波の電波から、空中合成によって一つの円偏波の電波が生成される。この電波に指向性はないため、データ読み取りの際の角度依存性を非接触ICラベル側で低減でき、データ読み取りの効率をさらに向上できる。
【0012】
さらに、前記第1アンテナ部と前記第2アンテナ部とが、前記磁性シートの一方の面側において、前記ICチップとの接続箇所からそれぞれ異なる方向に延在していてもよい。
【0013】
前記第1アンテナ部と前記第2アンテナ部とを、ICチップの接続箇所からそれぞれ異なる方向、即ち、磁性シートの一方の面側の対角位置に配置することによって、容易に回転方向を同じくした円偏波で動作するように設けることができる。従って、空中合成によって指向性のない一つの円偏波の電波が生成され、データ読み取りの際の角度依存性を非接触ICラベル側で確実に低減でき、データ読み取りの効率を向上できる。
【0014】
また、本発明に係る情報識別システムは、上記の非接触ICラベルと、直線偏波によって動作し、前記非接触ICラベルへ電波を発信するデータ読取装置とを備えることを特徴とする。
【0015】
データ読取装置から発信された電波によって、非接触ICラベルが作動され、データ読取装置へ円偏波の電波が返信される。このため、データ読取装置へ返信された電波には指向性はなく、データ読取装置に直線偏波で動作されるものを用いても、データ読み取りの効率を低下させることがない。従って、データ読取装置の薄型化及びコスト低減を達成することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明に係る情報識別システムは、上記の非接触ICラベルと、円偏波によって動作し、前記非接触ICラベルへ電波を発信するデータ読取装置とを備えていてもよい。
【0017】
データ読取装置から発信された電波によって、非接触ICラベルが作動され、データ読取装置へ円偏波の電波を返信する。このため、データ読取装置へ返信された電波には指向性はないが、データ読取装置においても円偏波で動作するものを用いることによって、データの読み取りの効率をさらに向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上記アンテナ部が円偏波で動作することによって、非接触ICラベル側でデータ読み取りの際の角度依存性を低減できるため、データ読み取りの効率を向上でき、また、データ読取装置の薄型化及びコスト低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る情報識別システムを模式的に示す側面図である。
【図2】非接触ICラベルを模式的に示す平面図であって、(a)は、第1アンテナエレメント及び第2アンテナエレメントの配置を配置Aとした図であり、(b)は配置Bとした図である。
【図3】磁性シートの構造を模式的に示す側面図である。
【図4】非接触ICラベルとデータ読取装置を用いた実験の様子を模式的に示す図である。
【図5】磁性シートの厚さが100μmである場合の非接触ICラベルとデータ読取装置との間の通信距離を測定した実験の結果を示すグラフである。
【図6】磁性シートの厚さが250μmである場合の非接触ICラベルとデータ読取装置との間の通信距離を測定した実験の結果を示すグラフである。
【図7】第1アンテナエレメント及び第2アンテナエレメントにおける電界の様子を解析によって示した図であって、(a)から(d)は、電界の経時変化を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1から図3を参照して、本発明の実施形態に係る情報識別システム1について説明する。
情報識別システム1は、ID情報を有する非接触ICラベル2と、ID情報を読み取るデータ読取装置Rとを備えており、このデータ読取装置Rから電波を発信し、非接触ICラベル2を作動させた後、非接触ICラベル2より返信される電波をデータ読取装置Rで受信することによって、ID情報を読み出す。
【0021】
データ読取装置Rは、直線偏波のアンテナを有する電波送受信装置である。
【0022】
非接触ICラベル2は、磁性シート11と磁性シート11の一方の面側に設けられた通信部12とを有している。
【0023】
磁性シート11は、磁性粒子、または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとによる複合材等の公知の材料からなる部材であり、矩形状をなしている。
以下、磁性シート11の短手方向を第1の方向Dと称し、長手方向を第2の方向Eと称する。
【0024】
そして、この磁性シート11の構造は、図3に示すように、複数の薄い円盤状の磁性合金が磁性シート11の厚さ方向(図3のZ方向)に互いに重なるように、その外周面を第1の方向D(図3のX方向)と第2の方向E(図3のY方向)に向けた状態で配置されている。
【0025】
このような構造によって、この磁性シート11においては、X方向及びY方向へは磁束(磁界)が透過するが、電界の透過は少ない。一方、Z方向へは磁束(磁界)の透過は少ないが、電界は透過する。従って、磁性シート11は電界と磁界とに対して異方性を有しており、即ち、この磁性シート11の物性値は、誘電率と透磁率との二つの主たるパラメータによって決定される。
【0026】
通信部12は、データ読取装置Rとの間で電波の送受信を行うものであり、外形は矩形状をなし、外形寸法は磁性シート11よりも小さく設定されている。
【0027】
また、この通信部12は、図示しない基材13と、この基材13の一方の面側に一体に設けられた第1アンテナ部14、第2アンテナ部15及びICチップ16と、これら第1アンテナ部14、第2アンテナ部15及びICチップ16とを接続する回路部17とを有する。そして、これら全てを覆うように磁性シート11の一方の面側が接着されている。 このとき、磁性シート11と通信部12とは、これらの中心を一致させて磁性シート11の一方の面側に通信部12が配置されている。
【0028】
基材13は、PET等の樹脂からなるフィルム状の部材である。
【0029】
第1アンテナ部14は、データ読取装置Rとの間で電波の送受信を行うものであり、第1接続パッド21と、この第1接続パッド21に電気的に接続される第1アンテナエレメント23とを有している。
【0030】
第1接続パッド21は磁性シート11の厚さ方向から見て正方形状をなす部材であり、基材13の一方の面側に銀ペーストインキを印刷することによって基材13と一体に設けられ、基材13の中心近傍において回路部17に電気的に接続されている。
【0031】
また、図2(a)に示すように、この第1アンテナエレメント23は第1接続パッド21に連続するように、この第1接続パッド21に電気的に接続されている。そして、基材13の他方の面側から見た場合、第1アンテナエレメント23は、第1の方向一方側D1(図2の紙面上側)、及び第2の方向一方側E1(図2の紙面左側)に向かって延在する矩形状をなすアルミニウムの薄膜等よりなる部材である。
【0032】
第2アンテナ部15は、第1アンテナ部14と同様に、データ読み取り装置との間で電波の送受信を行うものであり、第2接続パッド22と第2アンテナエレメント24とを有している。そして、第2接続パッド22は、磁性シート11の厚さ方向から見て正方形状をなす部材であり、基材13の一方の面側に銀ペーストインキを印刷することによって基材13と一体に設けられ、基材13の中心近傍において回路部17に電気的に接続されている。
【0033】
第2アンテナエレメント24は第2接続パッド22に連続するようにこの第2接続パッド22に電気的に接続され、基材13の他方の面側から見た場合、第1の方向他方側D2(図2の紙面下側)、及び第2の方向他方側E2(図2の紙面右側)に向かって延在する矩形状をなすアルミニウムの薄膜等よりなる部材である。
【0034】
従って、第1アンテナ部14と第2アンテナ部15とは、基材13の一方の面側に回路部17を挟んで対角位置に配置されていることとなる。
【0035】
なお、図2(b)には、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の延在方向が、上記の図2(a)とは逆になる場合を示している。即ち、基材13の他方の面側から見た場合、第1アンテナエレメント23は基材13の中心近傍から第1の方向一方側D1(図2の紙面上側)、及び第2の方向他方側E2(図2の紙面右側)に向かって延在し、また、第2アンテナエレメント24は基材13の中心近傍から第1の方向他方側D2(図2の紙面下側)、及び第2の方向一方側E1(図2の紙面左側)に向かって延在している。
【0036】
ここで、図2(a)に示す第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の配置を「配置A」と称し、図2(b)に示す配置を「配置B」と称する。
【0037】
ICチップ16は、基材13の一方の面側に配置されていると共に、不図示の電気接点から電波方式により電波のエネルギーを供給することで、記憶された情報をこの電気接点から外部に電波として伝達させる公知の電子部品である。また、ICチップ16は、上記電気接点に電気的に接続される回路部17を介して、第1接続パッド21及び第2接続パッド22、即ち、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15に接続されている。
【0038】
回路部17は、所定の形状に蛇行させた配線により形成されており、その外形は、第1の方向Dを短手方向とし、第2の方向Eを長手方向とした略矩形状をなしている。
【0039】
また、回路部17は、ICチップ16の内部インピーダンスと、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15のアンテナインピーダンスを整合させるためのインダクタンス値、及び抵抗値で構成されたインピーダンス整合回路となっている。そして、この回路部17は、第1アンテナ部14と第2アンテナ部15とによって第1の方向Dに挟まれるように配置され、回路部17の第2の方向一方側E1の端部おいてICチップ16の不図示の電気接点に電気的に接続されている。
【0040】
さらに、回路部17は、第1接続パッド21、第2接続パッド22と同様に、基材13の一方の面側に銀ペーストインキを印刷することによって基材13と一体に設けられるものである。
【0041】
以上のような情報識別システム1によれば、非接触ICラベル2が、基材13に銀ペーストインキが印刷されることで、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15と回路部17とがいわゆる薄型のダイポールアンテナの構造を形成する。また、磁性シート11が設けられることによって、データ読取装置Rとの間で電波の送受信を行いICチップ16の情報を読み出すことが可能となる。
【0042】
ここで、配置Aの場合では、第1接続パッド21から第1アンテナエレメント23へ伝達した電流は、磁性シート11の一方の面側から見た場合に左回りに回転する円偏波、即ち、左旋円偏波となって、第1アンテナエレメント23内を伝播する。同様に、第2アンテナエレメント24内においても左旋円偏波が伝播する。
【0043】
一方、配置Bの場合では、第1接続パッド21から第1アンテナエレメント23へ伝達した電流は、磁性シート11の一方の面側から見た場合に右回りに回転する円偏波、即ち、右旋円偏波となって、第1アンテナエレメント23内を伝播する。同様に、第2アンテナエレメント24内においても右旋円偏波が伝播する。
【0044】
なお、円偏波とは、垂直偏波と水平偏波とが位相が90°ずれた状態で合成されたものであり、偏波面が回転しながら伝播する。
【0045】
ここで、円偏波の回転方向は、回路部17と第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15との接続部、即ち、第1接続パッド21及び第2接続パッド22が配置される位置を基点とした第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の延在方向によって決定されるものである。
【0046】
このように、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15において生成された円偏波は、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15がアレイアンテナとして働き、各々からの円偏波が空中合成される。そしてこの合成された円偏波についても、各々の円偏波と同じ回転方向を有する円偏波の電波となるため、この電波に指向性はなく、非接触ICラベル2側でデータ読み取り時の角度依存性を低減できる。
【0047】
本実施形態に係る情報識別システム1においては、円偏波で動作する非接触ICラベル2によって、この非接触ICラベル2側でデータ読取時の角度依存性を低減できる。従って、データの読み取り効率を向上でき、また、データ読取装置Rにパッチアンテナを採用せず直線偏波で動作するものを使用することが可能となり、データ読取装置Rの薄型化及びコスト低減が達成できる。
【0048】
さらに、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15が配置Aの場合には、電流は左旋円偏波となっているため、データ読取装置Rに左旋円偏波で動作するものを用いることによって、データ読み取り効率をさらに向上できる。一方、配置Bの場合には右旋円偏波で動作するものを用いることによって、さらなるデータ読み取り効率の向上を達成できる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細を説明したが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
例えば、本実施形態においては、第1接続パッド21、第2接続パッド22及び回路部17は、基材13に銀ペーストインキを印刷することによって基材13に一体に設けられているが、アルミまたは銅等の薄膜をエッチングすることによって、基材13表面にこれらを形成してもよい。
【0050】
また、第1アンテナエレメント23、第2アンテナエレメント24の形状は本実施形態のものに限定されず、例えば、磁性シート11の厚さ方向から見た際に、円形状、楕円形状、多角形状等をなしていてもよい。さらに、第1アンテナエレメント23、第2アンテナエレメント24形状が互いに異なっていてもよい。
【0051】
そして、第1アンテナ部14、第2アンテナ部15は、第1の方向D、又は第2の方向Eの互いに異なる方向に配置されていればよく、本実施形態の配置に限定されない。具体的には、回路部17を第1の方向D、又は第2の方向Eから挟むように配置する等も可能である。
さらに、第1アンテナ部14、第2アンテナ部15の二つアンテナ部を設けることに限定されず、複数設けてもよい。この場合、少なくとも一対のアンテナ部が回転方向を同じくする円偏波で動作するように複数設ける必要がある。
【0052】
そして、磁性シート11と、第1アンテナ部14及び第2アンテナ部15との間には、樹脂の部材や空気層を設けてもよい。
【0053】
なお、非接触ICラベル2を実際に用いる場合には目視または機械読み取りのための文字や図形等の情報を基材13上に記載してもよい。またこれらの情報が記載されたフィルムや紙類を基材13に設けてもよいし、プリンタ等によってこれらの情報を記載しても構わない。
【実施例1】
【0054】
ここで、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の円偏波特性を確認する実験を行なった。以下、図4及び図5を参照して説明する。
【0055】
(実験)
実験には、下記に示す機材、及び材料を使用した。
・磁性シート11:大同特殊鋼(株)製 NRC010(厚さ100μm)及びNRC025(厚さ250μm)
・ICチップ16:NXP社製 UCODE G2iL
・第1アンテナエレメント23、第2アンテナエレメント24:厚さ12μmのアルミニウムの薄膜
・基材13:厚さ50μmのPETフィルム
・回路部17、第1接続パッド21、第2接続パッド22:自社製。基材13上に銀ペーストインキでパターンを印刷(厚さ8μm)
・データ読取装置R1:950MHz帯RFID用リーダライタ 三菱電機社製、RF−RW002(最大出力1W 30dBm)
・読取アンテナA:950MHz帯RFID用アンテナ 三菱電機社製
RF−ATCP001(左旋円偏波 最大利得6dBi)
・固定減衰器T:ヒロセ電機製 AT−103(減衰量 3dB)
・金属板W:ステンレス製(250mm×250mm×0.5mm)
【0056】
(サンプルの作成)
磁性シート11の大きさは、第1の方向Dの長さ(以下、単に「幅」と称する)を45mm、第2の方向Eの長さ(以下、単に「長さ」と称する)を125mmとし、厚さを100μmと250μmの2種類とした。第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24は、幅を5mm、10mm(磁性シート11の厚さが100μmの時のみ)及び15mmと3段階に変え、長さを20mm、30mm及び40mmと3段階に変えた。即ち、合計9種類の第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24を用いた。
第1接続パッド21及び第2接続パッド22は1辺が5mmの正方形状とし、第1接続パッド21と第2接続パッド22との第1の方向Dの間隔を6mmとした。
【0057】
(実験手順)
図4に示すように、ステンレス製の金属板W上に、上記のいずれかの厚さの磁性シート11を配置した。そして、この磁性シート11上の図2に示す位置同様に、上記のいずれかの大きさの第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24を配置し、さらにその上に回路部17と第1接続パッド21及び第2接続パッド22とを基材13の一方の面上に印刷することによって配置した。このとき、第1アンテナエレメント23は第1接続パッド21に電気的に接続されるように、また第2アンテナエレメント24は第2接続パッド22に電気的に接続されるように配置されている。
【0058】
基材13の他方の面側には、不図示の発泡スチロールを載置すると共に、第1アンテナエレメント23と第1接続パッド21とが、また、第2アンテナエレメント24と第2接続パッド22とが確実に接続されるように、金属板Wから発泡スチロールまでをまとめてバンドで固定した。
【0059】
そして、発泡スチロール側から読み取りアンテナを近づけ、電波方式によりICチップ16に記憶されたID情報を読み取った。そして、読取アンテナAが非接触で通信部12から情報を読み取ることができる距離の最大値(通信距離)を求めた。
なお、発泡スチロール及び基材13は、通信距離の測定結果にはほとんど影響を与えないことが分かっている。
【0060】
1つの仕様の測定が終わると、バンドを取り外し、磁性シート11と基材13との間に挟まれた第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24を取り外し、大きさの仕様が異なる第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24を磁性シート11と基材13との間に挟んでバンドで固定し、測定を行った。
【0061】
そして、図2に示す第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の配置A及び配置Bのそれぞれにおいて、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の幅を5mm、10mm(磁性シート11の厚さが100μmの時のみ)及び15mmの3段階に、長さを20mm、30mm及び40mmの3段階に、磁性シート11の厚さを100μm及び250μmの2段階に変え、通信距離の測定を繰り返した。
【0062】
実験に使用したデータ読取装置R1及び読取アンテナAは、本発明の非接触ICラベル2の読み取りに適したUHF帯高出力リーダライタ及びアンテナである。
データ読取装置R1の最高出力は1W(30dBm)であるが、実験環境の都合上データ読取装置R1と読取アンテナAとを結ぶ同軸ケーブル上に−3dBの固定減衰器Tを接続し、データ読取装置R1の出力を0.5W(27dBm)に減衰させて実験を行なった。
なお、実験に使用した読取アンテナAは左旋円偏波で動作するパッチアンテナである。
【0063】
ここで、読み取りの対象が左旋円偏波または右旋円偏波で動作していれば、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の配置A及び配置Bによって通信距離に差が出るはずである。即ち、左旋円偏波の配置Aでは通信距離が伸びて、対する右旋円偏波の配置Bでは通信距離が低下してしまった場合には、通信距離が伸びた配置Aでは読取アンテナAから見て左旋円偏波で動作していると推察される。反対に通信距離が低下してしまった配置Bでは読取アンテナAから見て右旋円偏波で動作していると推察される。第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメントの円偏波特性はこのような方法及び考え方で確認を行なった。
【0064】
(結果)
図5に磁性シート11の厚さを100μにした時の実験結果をそれぞれ示す。
図5(a)に示すように、磁性シート11の厚さが100μmと薄く、また第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の第1の方向Dの長さ(以下、単に「アンテナ幅」と称する)も最も小さい5mmであるため、全般的に通信距離の値が低い。第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の配置に関する通信距離の差であるが、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の第2方向の長さ(以下、単に「アンテナ長」と称する)が20mmの場合のみ配置Aと配置Bとに格差がみられるものの、他のアンテナ長については、配置Aと配置Bとの格差は少ない。
【0065】
図5(b)はアンテナ幅を10mmとした場合の実験結果であり、全てのアンテナ長で同一の通信距離であった。また、全てのアンテナ長で配置Aが配置Bと比べ通信距離が伸びており、アンテナ幅が5mmの時と比べるとその格差は広がっている。
【0066】
図5(c)はアンテナ幅が最も広い15mmとした場合の実験結果であり、アンテナ幅が10mmの時と比べると、配置Bでアンテナ長が20mm以外は、配置A、配置B共に全てのアンテナ長で通信距離が伸びており、また全てのアンテナ長で配置Aと配置Bとの格差も明確である。
【0067】
次に、図6に磁性シート11の厚さを250μにした時の実験結果はそれぞれ示す。
図6(a)はアンテナ幅を5mmとした場合の実験結果であり、全てのアンテナ長で配置Aは、磁性シート11の厚さが100μmの結果と比べて通信距離が大幅に伸びていることが分かる。これに対して配置Bでは通信距離の伸びは少ない、また全てのアンテナ長で配置Aと配置Bとの格差も明確である。
【0068】
図6(b)はアンテナ幅が最も広い15mmとした場合の実験結果であり、全てのアンテナ長で配置Aは、磁性シート11の厚さが100μmの結果と比べ通信距離が大幅に伸びていることが分かる。また配置Bも同様に通信距離が伸びており、全てのアンテナ長で配置Aと配置Bとの格差も明確である。
【0069】
このように、アンテナ長、アンテナ幅及び磁性シート11の厚さを大きくすることによって通信距離は伸びることが確認できるが、それぞれの同一の実験条件において比較した場合では、配置Aの方が配置Bと比べ通信距離が伸びていることが確認できた。
【0070】
そして上述の実験結果から、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24は読取アンテナAから見て左旋円偏波で動作しているといえる。また反対に、通信距離が低い配置Bの第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24は読取アンテナAから見て右旋円偏波で動作しているといえる。
【0071】
なお、空気中において電界の作用で動作している半波長ダイポールアンテナ型の一般的なRFIDタグ(非接触ICラベル)では、通信距離に及ぼす影響はアンテナエレメントのアンテナ長が支配的であり、アンテナエレメントのアンテナ幅はその帯域を広げる程度の作用しかないことが一般に知られている。今回行った実験の構成では、この傾向とは異なり、通信距離に及ぼす影響はアンテナ幅の要素が大きく、このアンテナ幅を広げることにより通信距離を改善できることも確認された。
【0072】
そして、磁性シート11の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失等)を好適なものにすることと、回路部17のインピーダンス、磁性シート11の厚さ、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の大きさを最適化することで、通信距離を更に向上できると推察される。
【0073】
さらに、磁性シート10の厚さが100μm以上で、かつ、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24のアンテナ幅がそれぞれ5mm以上であれば、アンテナ長を小さくしても通信距離の著しい低下はないことから、通信距離をある程度維持したまま、非接触ICラベル2を第2の方向Eについて小型化することもできる。この小型化により非接触ICラベル2の製造コストを低減することができる。
【0074】
逆に、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24のアンテナ長を大きくすることで、多少ではあるが通信距離の改善を図ることもできる。さらに上述のように、磁性シート11の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失等)を変えることにより、アンテナ長をさらに大きくすること(40mm以上等)で、さらなる通信距離が得られる可能性もある。即ち、アンテナ長≒通信距離と推察される。
このように、磁性シート11の厚さと、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24のアンテナ幅と、アンテナ長とを目的の通信距離に合わせて設計することが可能となる。
【実施例2】
【0075】
次に、図7には、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24における電界の様子を確認するために、非接触ICラベル2を3次元電磁界シミュレータ(ANSOFT社製 HFSS)によって解析を行なった結果を説明する。
なお、図7は通信部12を磁性シート11の他方の面側から、磁性シート11の厚さ方向に見た図となっているため、実際には、図2(a)に示す配置Aと同じ配置である。
【0076】
また、本解析においては使用した解析モデルは、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の表面における電界の様子を見やすくするために、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24のアンテナ幅を大きくしており、実施形態において説明したものとは多少異なっている。
【0077】
解析結果からは、第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24各々が、各々の中心から少しずれた位置を中心として、電界が右回りに回転していることが確認できる。即ち、本解析では右旋円偏波となっていることがわかる。
なお、解析においては、磁性シート11の他方の面側から磁性シート11の厚さ方向に見て右旋円偏波となっているので、図2と同様に見た場合には左旋円偏波である。
【0078】
また、図には示さないが、回路部17と第1アンテナエレメント23及び第2アンテナエレメント24の配置を配置Bとした場合には、円偏波の回転方向が逆回転となることが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
1…情報識別システム、2…非接触ICラベル、11…磁性シート、12…通信部、13…基材、14…第1アンテナ部、15…第2アンテナ部、16…ICチップ、17…回路部、21…接続パッド、22…第2接続パッド、23…第1アンテナエレメント、24…第2アンテナエレメント、D…第1の方向、E…第2の方向、D1…第1の方向一方側、D2…第1の方向他方側、E1…第2の方向一方側、E2…第2の方向他方側、R…データ読取装置、R1…データ読取装置、W…金属板、A…読取アンテナ、T…固定減衰器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性シートと、
前記磁性シートの一方の面側に配置された複数のアンテナ部と、
前記複数のアンテナ部に接続されるICチップとを備えた非接触ICラベルにおいて、
前記複数のアンテナ部のうち少なくとも一対が、回転方向を同じくした円偏波で動作することを特徴とする非接触ICラベル。
【請求項2】
前記複数のアンテナ部として、第1アンテナ部と第2アンテナ部とを備え、
これら第1アンテナ部と第2アンテナ部とが回転方向を同じくした円偏波で動作することを特徴とする請求項1に記載の非接触ICラベル。
【請求項3】
前記第1アンテナ部と前記第2アンテナ部とが、前記磁性シートの一方の面側において、前記ICチップとの接続箇所からそれぞれ異なる方向に延在することを特徴とする請求項2に記載の非接触ICラベル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の非接触ICラベルと、
直線偏波によって動作し、前記非接触ICラベルへ電波を発信するデータ読取装置とを備えることを特徴とする情報識別システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の非接触ICラベルと、
円偏波によって動作し、前記非接触ICラベルへ電波を発信するデータ読取装置とを備えることを特徴とする情報識別システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−252442(P2012−252442A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123312(P2011−123312)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】