説明

非架橋型難燃性樹脂組成物およびこれを用いた絶縁電線

【課題】 十分な難燃性を有して、なお柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた絶縁電線用に適した非架橋型難燃性樹脂組成物およびそれで被覆した絶縁電線を提供すること。
【解決手段】 プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体1〜100重量部、アクリル・シリコーン重合体0.01〜20重量部、および難燃剤1〜150重量部を含有してなる非架橋型難燃性樹脂組成物およびそれで被覆した絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非架橋型難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線に関する。さらに詳しくは、自動車部品、電気・電子機器部品などに用いられる絶縁電線の絶縁被覆材として好適な、柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた非架橋型難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線の絶縁被覆材としては、一般に、難燃性に優れた塩化ビニル樹脂が広く用いられており、これに耐摩耗性や引張強さ、引張伸びなどの機械的特性、柔軟性および加工性などの各種必要特性に応じて、可塑剤や安定剤などの添加剤が適宜配合され、また、これら添加剤の種類や配合量が調整されてきた。
【0003】
しかしながら、塩化ビニル樹脂は、それ自身難燃性を備える反面、分子鎖中にハロゲン元素を有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時の燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題がある。
【0004】
このような背景から、近年、ベース樹脂にポリエチレンまたはポリプロピレンなどを用い、難燃剤として水酸化マグネシウムなどの金属水和物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性樹脂組成物が開発されてきたが、このノンハロゲン系難燃性樹脂組成物は、難燃剤として金属水和物を多量に添加する必要があるため、耐摩耗性などの機械的特性が著しく低下するという欠点があった。
【0005】
このような欠点を補うため、例えば、特許文献1には、複数のポリオレフィン系樹脂やゴムなどをベース樹脂として用い、さらに、このベース樹脂中に特定の官能基を特定量含有させることにより、ベース樹脂と金属水和物との親和性を高め、耐摩耗性などの機械的特性を向上させる技術が提案されている。
【0006】
また、絶縁電線用難燃性樹脂組成物として、機械的特性、柔軟性及び加工性を改善する試みとして、特許文献2には、プロピレン系樹脂を含む非架橋型ベース樹脂中に、金属水和物、複数種の酸化防止剤および金属酸化物を含有する非架橋型難燃性樹脂組成物が提案されている。同文献には、ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線との混在による電線束中のノンハロゲン系絶縁電線の絶縁被覆材や、電線束に巻回される塩化ビニル系などのワイヤーハーネス保護材の基材との接触状態でのノンハロゲン系絶縁電線の絶縁被覆材の劣化を抑制できることが記載されている。
【0007】
本願発明者は、かかる現状に鑑み、先にプロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂にエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体と難燃剤を配合することによって十分な難燃性を有しかつ柔軟性と耐傷つき性のバランスに優れた非架橋型難燃性樹脂組成物を提案した。(特願2005−342881号)本発明者らは更に鋭意研究を進めた結果、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂に、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体とともに、アクリル・シリコーン重合体を添加し、難燃剤として水酸化マグネシウムなどの金属水和物を添加することにより耐傷付き性がさらに改善されたさ非架橋型難燃性樹脂組成物が得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
【特許文献1】特許第3280099号公報
【特許文献2】特開2005−15760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、従来公知の絶縁電線用難燃性樹脂組成物においては、柔軟性を上げようとすると絶縁被覆材表面が傷付き易くなって、製品寿命を縮める結果となり、表面の耐傷付き性を上げようとすると柔軟性が低下して、電線の施工性が低下するという問題があることを見出した。このような問題を解決する方法を提案するのが、本発明の目的である。
すなわち、本発明は、十分な難燃性と、優れた耐傷付き性を有し、かつ柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれ、かつ絶縁電線用に適した非架橋型難燃性樹脂組成物を提供するものである。
本発明はまた、このような非架橋型難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体1〜100重量部、アクリル・シリコーン重合体0.01〜20重量部、および難燃剤1〜150重量部を含有してなる非架橋型難燃性樹脂組成物を提供する。
【0011】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含量が5〜40重量%である前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、チューブラー方式による高圧重合法で得られたものである前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、エチレン・アクリル酸メチル共重合体である前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記アクリル・シリコーン重合体の平均粒径が200μm以下である前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記アクリル・シリコーン重合体がアクリル変性ポリオルガノシロキサンである前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記した非架橋型難燃性樹脂組成物が、さらに非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部の金属酸化物および/または酸化防止剤を含有する非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
前記難燃剤が、金属水和物および/またはポリリン酸アンモニウムである前記した非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
本発明はまた、前記した非架橋型難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、十分な難燃性を有して、なお柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた絶縁電線用に適した非架橋型難燃性樹脂組成物が提供される。
また本発明によって、十分な難燃性を有して、なお柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた非架橋型難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体1〜100重量部、アクリル・シリコーン重合体0.01〜20重量部、および難燃剤1〜150重量部を含有してなる非架橋型難燃性樹脂組成物を提供する。
【0021】
本発明において、非架橋型ベース樹脂中のプロピレン系重合体とは、プロピレンを50重量%以上含有する重合体をいう。プロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレン単量体以外の他の単量体1種または2種以上とのランダム共重合体またはブロック共重合体であってもよい。他の単量体としては、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、非共役ポリエンなどが挙げられる。
【0022】
上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1テトラデセンなどが挙げられる。また、上記非共役ポリエンとしては、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
【0023】
また、上記プロピレン系樹脂の、JIS K7210−1999に準拠して測定(温度230℃、荷重2160g下で測定)されるメルトフローレート(MFR)が、樹脂組成物の流動性および機械的特性の観点から、0.1〜60g/10分、好ましくは0.1〜10g/10分、特に好ましくは0.1〜5の範囲内にあるものが望ましい。
【0024】
本発明のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合によって得られる共重合体である。(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。本発明における(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸エステルを挙げることができる。中でもアクリル酸メチルが好適に使用される。エチレン・アクリル酸メチル共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の最も好ましい例である。
【0025】
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、柔軟性および耐傷付き性のバランスの改善効果を充分発揮させるためには、(メタ)アクリル酸エステルの含量が、5〜40重量%、好ましくは15〜30重量%であり、またJIS K7210−1999に準拠して(温度190℃、荷重2160g)測定したMFRが、0.1〜100g/10分、好ましくは0.1〜50g/10分、特に好ましくは0.1〜10のものを使用するのが望ましい。
【0026】
本発明のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の中でも、下記(a)の性状を有するものが好ましい。
(a)共重合体の融点(T℃)(示差走査熱量計(DSC)において最大吸熱ピークを示す温度)(JIS K7121−1987、ISO3146による)と極性モノマー単位含有量(Xモル%)が式
−3.0X+125≧T≧−3.0X+109
好ましくは、式
−3.0X+125≧T≧−3.0X+112
を満足すること。
【0027】
上記のような性状のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、同一モノマー単位含有量のランダム性良好な共重合体に比較して、耐熱性に優れている一方、透明性もほぼ同等のものであり、適度な不均一性を有するランダム共重合体と位置づけることができる。このような共重合体は、例えば高圧ラジカル重合法において、チューブラー方式によるかあるいはオートクレーブ方式で多段重合するかによって製造することができる。とくにチューブラー方式によると上記性状の共重合体を得やすいので好ましい。これら製法の一例として、例えば特開昭62−273214号や特許第3423308号の各公報に紹介された方法を挙げることができる。
【0028】
チューブラー方式により製造されたエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、通常のオートクレーブ方式によって製造されるランダム性良好な共重合体より不均一性が高く、同一不飽和エステル単位含有量のもので比較して融点が高いので、本発明のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の好ましい態様である。
【0029】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物において、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは8〜47重量部の割合で含まれていることが好ましい。
【0030】
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、上記割合で含まれていると、得られる非架橋型難燃性樹脂組成物は、柔軟性と耐傷付き性がともに良好で、そのバランスにすぐれた組成物となる。
【0031】
本発明において、アクリル・シリコーン重合体としては、アクリル変性ポリオルガノシロキサン、または、複合ゴム系グラフト共重合体が具体的に挙げられる。
【0032】
本発明において、アクリル変性ポリオルガノシロキサンのベースポリマーであるポリオルガノシロキサンは、下記の一般式(I)で示される。
【0033】
【化1】

【0034】
上記式(I)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基であり、ハロゲンのような置換基を有することができる。より具体的には、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチルなどのアルキル基、フェニル、トリル、キシリル、ナフチルなどのアリール基、あるいはこれらの基における水素原子の1個以上がハロゲンで置換したハロゲン置換体などを例示することができる。
【0035】
上記式(I)中、Yは、ラジカル反応性基または−SH基を持つ有機基であって、具体的にはビニル、アリル、γ−アクリロキシプロピル、γ−メタクリロキシプロピルなどのラジカル反応性基や、γ−メルカプトプロピルなどの−SH基を持つ有機基を例示することができる。
【0036】
また上記式(I)中、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチルなどの低級アルキル基または
−SiRで示される基である。ここにR、RおよびRは、それぞれ独立にR、RおよびRで示したようなハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基、Yで示したようなラジカル反応性基または−SH基を持つ有機基を表す。
【0037】
上記式(I)中、mは10,000以下、好ましくは500〜8,000の整数であり、nは1以上、好ましくは1〜500の整数である。また、m個の重合単位におけるR、R、n個の重合単位におけるR3、Yは、それぞれ同一でも異なるものであってもよい。上記式(I)で示されるポリオルガノシロキサンには若干の分岐があってもよい。
【0038】
このようなポリオルガノシロキサン(P1)は、上記のような基を有する鎖状もしくは環状の低分子量ポリオルガノシロキサンやアルコキシシランを用いて、加水分解や重合、平衡化の手段を用いて製造することができる。また、分岐を有するポリオルガノシロキサンは、原料としてトリアルコキシシランやテトラアルコキシシランなどを重合時に少量使用することにより得ることができる。加水分解、重合、平衡化は、公知の技術により水中に乳化した状態で行うことができる。例えば上記のような基を有する低分子量ポリオルガノシロキサンあるいはこの低分子量ポリオルガノシロキサンとアルコキシシランとの混合溶液を、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸等のスルホン酸を用い、ホモジナイザー等を用いて、水と緊密に混合させながら重合させる方法によってポリオルガノシロキサン(P1)を微粒子の状態で得ることができる。
【0039】
本発明で用いられるアクリル変性ポリオルガノシロキサンは、上記ポリオルガノシロキサン(P1)に、(i)(メタ)アクリル酸エステル(M1)、または(ii)70重量%以上かつ100重量%未満の量の(メタ)アクリル酸エステル(M1)と30重量%以下かつ0重量%を超える量の共重合可能な他の単量体(M2)との混合物(M3)をグラフト共重合させることによって得ることができる。グラフト共重合させる際の上記ポリオルガノシロキサン(P1)とグラフトモノマーとの重量比[(P1)/(M1)または(M3)]は、5/95〜95/5である。
【0040】
上記(メタ)アクリル酸エステル(M1)としては、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、アルコキシアルキルエステルなどであり、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−メトキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ラウリル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−エトキシエチルなどのメタクリル酸エステルを例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中では特にメタクリル酸メチルを少なくとも一成分として使用することが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル(M1)と共重合可能な他の単量体(M2)としては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン系化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の不飽和アミド、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸のような不飽和カルボン酸等の二重結合を1個有する単量体、さらにはエチレングリコールジメタクリレート、プロピオングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多不飽和単量体を代表例として挙げることができる。これらは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
アクリル変性ポリオルガノシロキサンは、上記のようにして得られるポリオルガノシロキサン(P1)の乳化液に、(i)(メタ)アクリル酸エステル(M1)、または(ii)(メタ)アクリル酸エステル(M1)とこのエステル(M1)と共重合可能な他の単量体(M2)との混合物(M3)を加え、ラジカル開始剤の存在下でグラフト共重合することによって得ることができる。
【0043】
ラジカル開始剤としては、通常の乳化重合で使用されるラジカル開始剤たとえば過硫酸塩や有機過酸化物などを使用することができる。
【0044】
ポリオルガノシロキサン(P1)と(i)(メタ)アクリル酸エステル(M1)、または(ii)(メタ)アクリル酸エステル(M1)と共重合可能な他の単量体(M2)との混合物(M3)の使用比率は、(P1)/[(M1)または(M3)]重量比で5/95〜95/5、好ましくは40/60〜80/20の範囲である。重合終了後は、塩析、凝固させることによってアクリル変性ポリオルガノシロキサンを分離、回収することができる。
【0045】
本発明で用いられる複合ゴム系グラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分とからなる複合ゴムに、ビニル系単量体がグラフトされた共重合体である。
【0046】
複合ゴムのポリオルガノシロキサン成分を構成するオルガノシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられる。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどが挙げられる。
【0047】
また、複合ゴムのポリアルキル(メタ)アクリレート成分を構成するアルキル(メタ)アクリレート成分としては、具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、およびヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、好ましくはn−ブチルアクリレートが挙げられる。
【0048】
複合ゴムは、乳化重合によって生成させることができ、ポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分とは相互に絡み合った一体構造を有している。
【0049】
この複合ゴムの代わりに、ポリオルガノシロキサンゴムおよびポリアルキル(メタ)アクリレートゴムのいずれか1種あるいはこの両者の単純混合物をゴム源として、これにビニル系単量体がグラフトされた共重合体を用いても、後述するように、本発明における難燃性エチレン系共重合体組成物は得られない。複合ゴムにおいて、ポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分との組成比は特に規定しないが、難燃性の観点からポリオルガノシロキサン成分が40重量%を超えることが好ましい。
【0050】
上記の複合ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体としては特に制限はないが、メチルメタクリレート、スチレン等が好適である。これらは、単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。複合ゴム系グラフト共重合体における複合ゴムとビニル系単量体との組成比は特に規定しないが、分散性と柔軟性の観点から、複合ゴム70〜95重量%、ビニル系単量体30〜5重量%であることが好ましい。
【0051】
本発明において、アクリル・シリコーン重合体は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜6.5重量部の割合で用いられる。アクリル・シリコーン重合体の配合量が20重量部を超えても、配合量に見合う耐傷付き性の向上は見込めず、コスト高になるとみられる。一方、この配合量が0.01重量部未満になると耐傷付き性の改善が期待できない。
【0052】
なお、本発明において、アクリル・シリコーン重合体の粒径については特に制限がないが、平均粒径が200μm以下のアクリル・シリコーン重合体を使用することが特に好ましい。
【0053】
本発明において、難燃剤としては、金属水和物および/またはポリリン酸アンモニウムが用いられる。
【0054】
本発明において、金属水和物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水和珪酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基または結晶水を有する化合物などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用して用いてもよい。これらのうち、特に好ましいのは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。これらは難燃効果、耐熱効果が高く、経済的にも有利だからである。
【0055】
この際、金属水和物の粒径は、種類によって異なり、特に制限はないが、上記水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの場合、平均粒径(d50)が0.5〜5.0μmの範囲内にあることが望ましい。平均粒径が0.5μm未満では、粒子同士の二次凝集が起こり、機械的特性が低下する傾向が見られるからであり、平均粒径が5.0μmを越えると、機械的特性が低下し、絶縁被覆材として用いた場合に、外観荒れなどが生じる傾向が見られるからである。
【0056】
また、本発明において、金属水和物は、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。なお、表面処理された金属水和物を用いる場合、予め表面処理剤により表面処理された金属水和物を組成物中に配合してもよいし、未処理状態の金属水和物を表面処理剤とともに組成物中に配合して表面処理を行っても良く、特に限定されるものではない。
【0057】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物において、金属水和物は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、1〜150重量部、好ましくは40〜100重量部の割合で含まれていることが好ましい。
【0058】
本発明において、ポリリン酸アンモニウムは、式(NH)n+23n+1(n≧2)で示されるものであって、ベースポリマーに対する相容性を考慮すると、nが20〜1000程度のものが好ましい。このようなポリリン酸アンモニウムとして、エキソリット(Exolit)422(クラリアント社製)、エキソリット700(クラリアント社製)、スミセーフP(住友化学工業社製)、フォスチェック(Phos−Check)P/30、フォスチェックP/40などの商品名の市販品を使用することができる。また、ポリリン酸アンモニウムは、加水分解を受け易いためその改良のために、あるいは難燃性や分散性を向上させるために、これを熱硬化性樹脂で被覆したもの、マイクロカプセル化したものあるいはメラミンモノマーや他の窒素化合物で被覆したもの、窒素含有化合物を共重合したものなどが知られており、例えばエキソリット462(クラリアント社製)、スミセーフPM(住友化学工業社製)、テラージュ(TERRAJU)C60(チッソ社製)、テラージュ(TERRAJU)C80(チッソ社製)、エキソリットAP750(クラリアント社製)などの商品名の市販品を使用する事ができる。
【0059】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物において、ポリリン酸アンモニウムは、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、1〜150重量部、好ましくは10〜50重量部の割合で含まれていることが好ましい。
【0060】
本発明において、非架橋型難燃性樹脂組成物には、さらに金属酸化物および/または酸化防止剤が含まれていてもよい。
さらに含有していてよい金属酸化物としては、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉛(Pb)、スズ(Sn)などの金属の酸化物、前記金属の合金の酸化物などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用して用いてもよい。これらのうち、特に好ましいのは、亜鉛(Zn)の酸化物である。
【0061】
本発明の金属酸化物が含有される場合には、その含有量は非架橋型難燃性樹脂組成物中の非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部であることが望ましい。
【0062】
また、本発明において、非架橋型難燃性樹脂組成物にさらに含有していてよい酸化防止剤としては、酸化防止剤として知られているものから選択することができるが、より好ましいのは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤である。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3',3煤C5,5'5煤|ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a煤|(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピノキ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上併用して用いてもよい。
【0063】
また、イオウ系酸化防止剤としては、イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、キサントゲン酸塩系化合物などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用して用いてもよい。なお、本発明にいうイミダゾール系化合物はイオウ(S)原子を含んでいる。
【0064】
上記イミダゾール系化合物としては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾールなどやこれらの亜鉛塩などが挙げられる。
【0065】
また、上記チアゾール系化合物としては、2−メルカプトベンズチアゾール、ジ−2−ベンズチアゾ−ルジスルフィド、2−メルカプトベンズチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンズチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンズチアゾール、2−(4'−モルホリノジチオ)ベンズチアゾールなどが挙げられる。
【0066】
また、上記スルフェンアミド系化合物としては、N−シクロヘキシル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミド、N,N'−ジシクロヘキシル−2−ベンズチアゾールスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0067】
また、上記チウラム系化合物としては、テトラメチルチウラムモノスルファイド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドなどが挙げられる。
【0068】
また、上記ジチオカルバミン酸塩系化合物としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0069】
また、上記キサントゲン酸塩系化合物としては、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛などが挙げられる。
上記イオウ系酸化防止剤のうち、特に好ましいのは、イミダゾール系化合物である。
【0070】
本発明の酸化防止剤が含有される場合には、その含有量は非架橋型難燃性樹脂組成物中の非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部であることが望ましい。
【0071】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物のJIS K7210−1999に準拠して、温度190℃、荷重10kgで測定したメルトフローレート(MFR)は、0.1〜50g/10分、好ましくは1〜25g/10分であることが好ましい。
【0072】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物中には、必要に応じて、当該組成物の物性を損なわない範囲で他の添加剤が配合されていてもよい。具体的には、無機充填剤、上述した酸化防止剤以外の他の酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックスなど)、カーボンやその他の着色用顔料など、一般的に樹脂成形材料に使用される添加剤などが配合されていてもよく、特に限定されるものではない。
【0073】
例えば、添加剤として無機充填剤を配合した場合には、難燃剤である金属水和物の配合量を減少させることもできるし、他の特性を付与することもできる。このような無機充填剤としては、具体的には、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、クレー、珪藻土、タルク、珪砂、ガラス粉、酸化鉄、グラファイト、炭化珪素、窒化珪素、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カーボンブラック、雲母、ガラス板、セリサイト、パイロフィライト、黒鉛、シラスパルーン、ガラスパルーン、軽石、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー、グラファイト繊維、シリコンカーバイト繊維、アスベスト、ワラストナイトなどが挙げられる。
【0074】
また、本発明に係る非架橋型難燃性樹脂組成物においては、各種物性を高めるために一般的に用いられる官能基を非架橋型ベース樹脂に導入することもできる。本発明の基本的特性である難燃性、耐熱特性を妨げるものではないからである。具体的な官能基としては、カルボン酸基または酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などが挙げられる。
【0075】
本発明に係る非架橋型難燃性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定はなく、公知の製造方法を適宜選択して用いることができる。例えば、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、および難燃剤と、必要に応じて、他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0076】
次に、本発明に係る非架橋型難燃性樹脂組成物の作用について詳細に説明する。
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物は、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、および難燃剤を含有するもので、燃焼時にハロゲン系ガスを発生することなく、十分な難燃性、耐摩耗性、引張強さ、引張伸びなどの機械的特性、柔軟性および加工性を有するとともに、長期にわたって劣化することがなく、耐熱特性に優れる。この際各成分が本発明における特定の配合割合の範囲にあると、柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた非架橋型難燃性樹脂組成物が得られる。
【0077】
特に、この非架橋型難燃性樹脂組成物をノンハロゲン系絶縁電線の絶縁被覆材として用いた場合であって、このノンハロゲン系絶縁電線が、電線束中の塩化ビニル系絶縁電線、あるいは、電線束の外周を覆う塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材などと接触する態様で使用される場合には、ノンハロゲン系絶縁電線の絶縁被覆材が著しく劣化することなく、柔軟性と耐傷付き性のバランスを維持しながら、長期にわたって十分な耐熱特性が発揮される。
【0078】
ここで本発明において非架橋型難燃性樹脂組成物がすぐれた柔軟性と耐傷付き性のバランスを示すために重要な点は、エチレン・クリル酸エステル共重合体が、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂に対して、前記した割合で含まれていることである。とくに、チューブラー方式による高圧重合法で得られたエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂に対して、前記した割合で含まれている非架橋型難燃性樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0079】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物にさらに、金属酸化物および/または酸化防止剤が含有されている場合、柔軟性と耐傷付き性のバランスを維持しながら、長期にわたって材料が劣化することなく難燃特性を示すので、好ましい態様である。
【0080】
本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線は、上述した非架橋型難燃性樹脂組成物を絶縁被覆材の材料として用いたものである。このノンハロゲン系絶縁電線の構成としては、導体の外周に直接、絶縁被覆材が被覆されていてもよいし、導体とこの絶縁被覆材との間に、他の中間部材、例えば、シールド導体や他の絶縁体などが介在されていてもよい。
【0081】
また、導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、絶縁被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0082】
上記ノンハロゲン系絶縁電線の製造方法としては、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて溶融混練した本発明に係る非架橋型難燃性樹脂組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができ、特に限定されるものではない。
【0083】
一方、ワイヤーハーネスは、上記ノンハロゲン系絶縁電線単独からなる単独電線束または上記ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束が、ワイヤーハーネス保護材により被覆されてなる。
【0084】
ここで、本発明に言う、塩化ビニル系絶縁電線は、塩化ビニル樹脂組成物を絶縁被覆材の材料として用いたものである。ここで、塩化ビニル樹脂とは、塩化ビニル単量体を主成分とする樹脂をいい、この樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であってもよいし、他の単量体との共重合体であってもよい。具体的な塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体などが挙げられる。
【0085】
なお、塩化ビニル系絶縁電線の絶縁被覆材以外の構成や電線の製造方法については、上述したノンハロゲン系絶縁電線とほぼ同様である。
【0086】
また、前記単独電線束とは、上記ノンハロゲン系絶縁電線のみがひとまとまりに束ねられた電線束をいう。一方、混在電線束とは、上記ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含み、これら絶縁電線が混在状態でひとまとまりに束ねられた電線束をいう。この際、単独電線束および混在電線束に含まれる各電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0087】
また、前記ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。
【0088】
前記ワイヤーハーネス保護材を構成する基材として、ノンハロゲン系樹脂組成物、塩化ビニル樹脂組成物または当該塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物を用いる。
【0089】
ノンハロゲン系樹脂組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィンに、ノンハロゲン系難燃剤などの各種添加剤を添加してなるポリオレフィン系難燃性樹脂組成物や、上述した本発明に係る非架橋型難燃性樹脂組成物などを用いることができる。
【0090】
また、塩化ビニル樹脂組成物としては、上述した塩化ビニル系絶縁電線材料として説明したものを用いることができる。
また、塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物としては、上記ポリオレフィンにハロゲン系難燃剤などの各種添加剤を添加したものなどが挙げられる。
【0091】
なお、基材に用いられるこれらの樹脂組成物は、必要に応じて、シラン系架橋剤などの架橋剤や電子線照射などにより架橋されていてもよい。
【0092】
また、このワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0093】
ここで、前記ワイヤーハーネスは、上述した電線束の種類とワイヤーハーネス保護材の種類により、次のような組み合わせのワイヤーハーネスを含んでいる。
すなわち、前記ワイヤーハーネスは、ノンハロゲン系絶縁電線単独からなる単独電線束を塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、ノンハロゲン系絶縁電線単独からなる単独電線束をノンハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、ノンハロゲン系絶縁電線単独からなる単独電線束をハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束を塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束をノンハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束をハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネスを含んでいる。
【0094】
本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線、このノンハロゲン系絶縁電線を電線束中に含んだ前記ワイヤーハーネスによれば、ノンハロゲン系絶縁電線が、電線束中の塩化ビニル系絶縁電線、あるいは、電線束の外周を覆う塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材や当該塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材以外のハロゲン系ワイヤーハーネス保護材などと接触する形態で使用された場合でも、絶縁被覆材が著しく劣化することなく、長期にわたって十分な耐熱特性が発揮される。
【0095】
そのため、本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線を、自動車のエンジン回りなど、熱源に近い環境下で使用すれば、長期にわたり高い信頼性を確保することができる。
【0096】
本発明の特定の構成成分と特定の配合割合によって得られる非架橋型難燃性樹脂組成物は、燃焼時にハロゲン系ガスを発生することなく、十分な難燃性、耐摩耗性、引張強さ、引張伸びなどの機械的特性、柔軟性および加工性を有するとともに、長期にわたって劣化することがなく耐熱特性に優れるだけでなく、耐傷付き性にもすぐれており、とくに柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた組成物である。そのために、絶縁電線被覆用に好適に使用できるものである。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明を実施例、比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって、何ら制限されるものではない。
尚、実施例及び比較例において用いた原料及び得られた樹脂組成物の物性評価方法は下記のとおりである。
【0098】
1.原料
(1)プロピレン系重合体
(1−1)PP1
プロピレン単独重合体、商品名F113G、株式会社プライムポリマー製、MFR(JIS K7210−1999、230℃、2160g荷重):3.0g/10分、密度:910kg/m
(1−2)PP2
プロピレンブロック共重合体、商品名E150GK、株式会社プライムポリマー製、MFR(JIS K7210−1999、230℃、2160g荷重):0.6g/10分、密度:900kg/m
【0099】
(2)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(EMA1)
アクリル酸メチル含量:25重量%、MFR(JIS K7210−1999、190℃、2160g):0.4g/10分、融点(JIS K7121−1987、ISO3146):90℃
【0100】
(3)アクリル・シリコーン重合体
(3−1)AS1
アクリル変性ポリオルガノシロキサン(商品名シャリーヌ R−170S、日信化学工業株式会社製、平均粒径30μm)
(3−2)AS2
シリコーン/アクリル複合ゴム(商品名メタブレン SX−005、三菱レイヨン株式会社製、平均粒径100μm)
(4)水酸化マグネシウム
(4−1)商品名キスマ5L、協和化学工業株式会社製(水マグ1)
(4−2)商品名MAGSEEDS W−H5、神島化学工業株式会社製(水マグ2)
(5)酸化防止剤
(5−1)フェノール系酸化防止剤
商品名イルガノックス1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製
(5−2)イオウ系酸化防止剤
商品名ノクラックMB、大内新興化学工業株式会社製
(6)酸化亜鉛
商品名 微細酸化亜鉛、堺化学工業株式会社製
(7)金属不活性化剤
商品名 アデカスタブCDA−1、旭電化工業株式会社製
【0101】
2.物性測定方法
(1)メルトフローレート(MFR)
別段の記載がない限り、JIS K7210−1999に準拠して、それぞれに記載する温度および荷重で測定した。
(2)引張特性
JIS K6760−1995に準拠して測定した。
試験片:JIS K6301 3号ダンベル 1mm厚
(3)曲げ剛性率
JIS K7106−1995(1mm厚)に準拠して測定した。
(4)硬度(ショアD)
JIS K7215−1986に準拠
(5)酸素指数3mm
JIS K7201−1976に準拠して測定した。難燃性の指標として評価した。
(6)脆化温度
JIS K7216−1980に準拠して測定した。
【0102】
(7)耐傷付き性(学振磨耗)
綿帆布10号を用い、荷重を300gおよび600gとし、接触面積4cm、往復速度60回/分、往復回数100回の条件で、シート表面に傷付け処理を行った後、表面を目視で観測し、下記基準で判定した。
◎:傷は観察されない
○:傷は僅かに観察される
△:傷が観察される
×:傷が観察され、磨耗粉が発生する
【0103】
(実施例1〜12)
加圧ニーダーを用いて温度180℃で、表1に記載した成分を、表1に記載の割合で混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、表1に記載の物性を測定した。測定結果を表1に記載した。MFRは、190℃、荷重10kgで測定した値である。
【0104】
【表1】

【0105】
(比較例1)
実施例1において、プロピレン系重合体(PP2)に代えてプロピレン系重合体(PP1)を使用し、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例1と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0106】
(比較例2)
実施例2において、プロピレン系重合体(PP2)に代えてプロピレン系重合体(PP1)を使用し、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例2と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0107】
(比較例3)
実施例5において、プロピレン系重合体(PP2)に代えてプロピレン系重合体(PP1)を使用し、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例5と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0108】
(比較例4)
実施例1において、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例1と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0109】
(比較例5)
実施例2において、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例2と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0110】
(比較例6)
実施例5において、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例5と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0111】
(比較例7)
実施例8において、アクリル・シリコーン重合体(AS1)除いたほかは同様にして樹脂組成物を得て、実施例8と同様にして物性を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0112】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の非架橋型難燃性樹脂組成物は、燃焼時にハロゲン系ガスを発生することなく、十分な難燃性、耐摩耗性、引張強さ、引張伸びなどの機械的特性、柔軟性および加工性を有するとともに、長期にわたって劣化することがなく耐熱特性に優れるだけでなく、耐傷付き性にもすぐれており、とくに柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた組成物であるので、絶縁電線被覆用に好適に使用できる非架橋型難燃性樹脂組成物である。
本発明によって提供される非架橋型難燃性樹脂組成物は、十分な難燃性を有して、なお柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた、絶縁電線用に好適な非架橋型難燃性樹脂組成物である。
また本発明によって、十分な難燃性を有して、なお柔軟性と耐傷付き性のバランスにすぐれた非架橋型難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体1〜100重量部、アクリル・シリコーン重合体0.01〜20重量部、および難燃剤1〜150重量部を含有してなる非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量が、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、5〜80重量部である請求項1に記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量が、プロピレン系重合体からなる非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、8〜47重量部である請求項1または2に記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含量が5〜40重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含量が15〜30重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、チューブラー方式による高圧重合法で得られたものである請求項1〜5のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、エチレン・アクリル酸メチル共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
前記アクリル・シリコーン重合体の平均粒径が200μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
前記アクリル・シリコーン重合体がアクリル変性ポリオルガノシロキサンである請求項1〜8のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
非架橋型難燃性樹脂組成物が、さらに非架橋型ベース樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部の金属酸化物および/または酸化防止剤を含有する請求項1〜9のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
難燃剤が金属水和物および/またはポリリン酸アンモニウムである請求項1〜10のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の非架橋型難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線。

【公開番号】特開2008−189701(P2008−189701A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22421(P2007−22421)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】