説明

非極性有機溶媒中の新規なポリチオフェン−ポリアニオン錯体

本発明は、非極性有機溶媒に可溶かつ分散可能である新規なポリチオフェンポリアニオン錯体、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性有機溶媒に可溶または分散可能である新規なポリチオフェン−ポリアニオン錯体、およびその使用に関する。
【0002】
導電性ポリマーは、ますます経済的意義を増している。なぜなら、ポリマーは加工性、重量および化学修飾による特性の制御された調整に関して金属よりも有利な点を有するからである。公知のπ共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p−フェニレン−ビニレン)である。導電性ポリマーの層は、例えばコンデンサの高分子対電極としての、または電子回路基板の完全接触(Durchkontaktierung)のための種々の産業上の用途を有する。導電性ポリマーは、化学的または電気化学的な、酸化的手段によって単量体前駆体、例えば任意に置換されたチオフェン、ピロールおよびアニリンならびにそれらのそれぞれの誘導体(これらはオリゴマー状であってもよい)から調製される。とりわけ化学的酸化重合は広く行われている。なぜなら、化学的酸化重合は液体媒体中および種々の基材上で成し遂げるには技術的に簡単だからである。
【0003】
特に重要かつおよび産業上利用されるポリチオフェンは、例えば特許文献1に記載されているポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)(PEDOTまたはPEDT)であり、これはエチレン−3,4−ジオキシチオフェン(EDOTまたはEDT)を化学的に重合させることにより調製され、かつその酸化された形態において非常に高い電気伝導率を有する。多くのポリ(アルキレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、とりわけポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、ならびにその単量体単位、合成および応用例の概観は非特許文献1によって与えられる。具体的な産業上の重要性は、例えば特許文献2に開示されているように、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を伴うPEDOTの分散液によって得られている。これらの分散液から、例えば帯電防止コーティングとしてまたは有機発光ダイオードにおける正孔注入層としてなど多数の用途が見出されている透明な導電性膜を得ることが可能である。
【0004】
EDTは、PSSの水溶液の中で重合され、PEDT/PSS錯体を形成する。電荷相殺のための対イオンとして高分子アニオンを含有するカチオン性ポリチオフェンは、当該技術分野では、ポリチオフェン/ポリアニオン錯体と呼ばれることも多い。ポリカチオンとしてのPEDTおよびポリアニオンとしてのPSSの高分子電解質の特性に起因して、この錯体は真の溶液ではなく、むしろ分散液である。どの程度ポリマーまたはそのポリマーの部分が溶解または分散するかは、当該ポリカチオンおよび当該ポリアニオンの質量比、当該ポリマーの電荷密度、環境の塩濃度ならびに周囲の媒体の性質に依存する(非特許文献2)。それらの過渡状態は流体である可能性がある。それゆえ、本願明細書中では、用語「分散した」と「溶解した」との間で明確な区別はされない。同様に、「分散液」と「溶液」との間、または「分散剤」と「溶媒」との間で明確な区別はされない。そうではなく、これらの用語は、本願明細書中では等価に使用される。
【0005】
先行技術では、極性溶媒中でのポリチオフェン−ポリアニオン錯体の調製だけがこれまで可能であった。特許文献3は、非常に極性の溶媒の中でのみ実施可能なポリチオフェン−ポリアニオン錯体の調製を記載する。なぜなら、例として記載されるポリアニオン、ポリスチレンスルホン酸およびポリ(メタ)アクリル酸は、水または低級アルコールなどの極性溶媒にのみ可溶であるからである。水中でのPEDTの重合だけが具体的に記載されている。このプロセスにおける短所は、溶媒の選択が極性溶媒に限定されており、すなわち非極性溶媒はポリチオフェン−ポリアニオン−錯体についてのこの調製プロセスでは使用することができないということである。
【0006】
特許文献4および特許文献5は、無水または低含水溶媒中でのポリチオフェン−ポリアニオン錯体の調製を記載する。この場合、この含水溶媒は別の水混和性有機溶媒と交換される。この目的のために、第2の溶媒が加えられ、次いで例えば蒸留によって水が除去される。この手順は、蒸留に起因して2段階プロセスが使用される必要があるという短所を有する。さらに、加えられた溶媒は水混和性でなければならず、この加えられた溶媒は同様に極性溶媒に限定されることになる。
【0007】
Otaniらは、特許文献6に、PEDOTなどの導電性ポリマーが最初に乾燥され、次いで有機溶媒に分散されるプロセスを記載する。記載される有機溶媒は、とりわけ5以上の誘電率を有する有機溶媒である。例としては、イソプロピルアルコールおよびγ−ブチロラクトンが挙げられる。このプロセスも、再溶解のために、極性溶媒が必要とされるという短所を有する。このプロセスの別の短所は、その導電性ポリマーが最初に合成され、その後再溶解されなければならないということである。Otaniらは、ポリチオフェン−ポリアニオン錯体はまったく開示していない。
【0008】
2002年に、H.Okamuraら(非特許文献3)は、スチレンおよびスチレンスルホン酸のブロック共重合体の合成を記載した。それら2つのコモノマーの比率は変えられ、この共重合体はテトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、ジメチルホルムアミド、メタノールおよび水に可溶であるということが見出された。しかしながら、ヘキサン、トルエンまたはベンゼンなどの脂肪族または芳香族の炭化水素に対する当該共重合体の溶解性は、まったく見出されなかった。例えばポリチオフェン/ポリアニオン錯体などの導電性ポリマーとの錯体はまったく調製されておらず、膜の電気伝導率または抵抗も検討されていない。このように、Okamuraらが記載したポリマーは、トルエンなどの非常に非極性な溶媒中でのポリマー錯体の溶解性を確実にするためには適していない。
【0009】
一連の研究も、チオフェン単量体への側鎖基の結合および引き続く重合、またはチオフェン単位と溶解性を増進するための単位とのブロック共重合体を調製することにより、ポリチオフェンの溶解性がどのようにして成し遂げられるかを記載する。
【0010】
例えば、Luebbenらは、非特許文献4に、PEDOTおよびポリエチレングリコールのブロック共重合体の調製を記載する。この研究で使用される対イオンは、過塩素酸アニオンおよびp−トルエンスルホン酸である。このポリマーは、炭酸プロピレンおよびニトロメタンなどの極性の有機溶媒に可溶である。10−4S/cm〜1S/cmの電気伝導率が測定される。しかしながらこのブロック共重合体は、それが非常に極性の溶媒にのみ可溶であるという短所を有する。さらに、選択される対イオンは膜形成に寄与せず、そのためこれらのブロック共重合体を用いても導電性膜は形成され得ない。
【0011】
さらなる刊行物は、溶解性に寄与する側鎖基をチオフェン上へ導入することによる、有機ポリチオフェン溶液の調製を記載する。例えば、Yamamotoらは、非特許文献5において、電荷を帯びていない分子として有機溶媒中に可溶であるPEDOTのヘキシル誘導体の調製を記載する。ヨウ素を用いたドーピングまたは酸化も記載されている。しかしながら、ドーピングされたまたは酸化されたチオフェンの有機溶液から導電性膜が製造できるかどうかに関しては示されていない。このアプローチのさらなる短所は、当該ポリマーの分子量が低く、それゆえ膜形成特性が非常に悪いということである。上で引用した刊行物では、2400g/molおよび8500g/molの分子量(M)が達成されている。ポリチオフェンは膜形成性ポリマーおよび導電性ポリマーとして同時に機能するため、これら2つの特性を互いに独立に確立することはできない。原理上は、この方法は、当該チオフェン上での側鎖の導入が溶解性という特性だけでなくその分子の電気特性にも影響を及ぼすという短所を内包する。
【0012】
それゆえ、導電性膜を製造することができる、非極性溶媒中の電気伝導性ポリチオフェンの分散液に対するニーズが存在していた。このニーズは、そのような分散液はこれまで非常に極性の溶媒中でのみ入手可能であったということに基づく。より具体的には、良好な膜形成特性を有しかつ電気伝導率を呈する、非極性溶媒中の分散液に対するニーズが存在する。多くのコーティング系が非極性溶媒に基づいているため、非極性溶媒に溶解または分散した導電性のポリチオフェンに対する大きなニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第339 340(A2)号明細書
【特許文献2】欧州特許第0440 957(B1)号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0440957(A2)号明細書
【特許文献4】欧州特許第1373356(B1)号明細書
【特許文献5】国際公開第2003/048228号パンフレット
【特許文献6】特開2005−068166号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】L.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater.、2000年、第12巻、481−494頁
【非特許文献2】V.Kabanov、Russian Chemical Reviews、2005年、第74巻、3−20頁
【非特許文献3】Okamuraら、Polymer、2002年、第43巻、3155−3162頁
【非特許文献4】Luebbenら、Polymeric Materials:Science & Engineering、2004年、第91巻、979頁
【非特許文献5】Yamamotoら、Polymer、2002年、第43巻、711−719頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、非極性溶媒に可溶で、かつ導電性膜を製造することができるポリチオフェンの分散液を調製することが本発明の目的であった。合成において使用される溶媒が同時に完成した分散液の溶媒であり、そのため溶媒の交換が必要とはされないような分散液を調製することが、本発明のさらなる目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明において、驚くべきことに、任意に置換されたポリチオフェンおよびポリアニオンの錯体であって、当該ポリアニオンが共重合体を含む錯体がこの問題を解決するということが見出された。
【0017】
本発明は、それゆえ、任意に置換されたポリチオフェンおよびポリアニオンを含む錯体であって、当該ポリアニオンが一般式(I)および(II)の繰り返し単位、または一般式(I)および(III)の繰り返し単位、または一般式(II)および(III)の繰り返し単位、または一般式(I)、(II)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体
【化1】

(式中、
、R、R、R、Rは、各々独立に、H、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカル、好ましくはHであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカル、好ましくはC〜C18−アルキルラジカルであり、
Dは直接の共有結合または任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカルであり、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカル、好ましくはHであり、
xは0〜4の整数、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1であり、
Mは、HまたはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Na、Kまたは別のカチオン、好ましくはHである)
を含むことを特徴とする錯体を提供する。
【0018】
一般式(II)は、置換基Rが当該芳香環にx回結合することができるというように理解されるべきである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、当該錯体のポリアニオンは、式(II)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体である。
【0020】
本発明のなおさらに好ましい実施形態では、このポリアニオンは、式(IIa)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体
【化2】

(式中、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、好ましくはHまたは任意に置換されたC〜C−アルキルラジカル、より好ましくはメチルラジカルまたはH、最も好ましくはHであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜C20−アルキルラジカル、より好ましくは任意に置換されたC〜C12−アルキルラジカルである)
である。
【0021】
ポリマー全体の中での一般式(I)、(II)および(III)の繰り返し単位の比率は、それぞれ、a、bおよびcである。a、bおよびcは質量%であり、それらは0〜100%の間にある。aおよびbは0〜50%の間にあることが好ましく、かつaおよびbがともに0%になることはない。cの比率は、20〜100%の間にあることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に従って製造したOLEDのダイオード挙動。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に関しては、C〜C18−アルキルは、直鎖状もしくは分枝状のC〜C18−アルキルラジカル、例えばメチル、エチル、n−またはイソプロピル、n−、iso−、sec−またはtert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシルまたはn−オクタデシルを表し、C〜C30−アルキルは、直鎖状もしくは分枝状のC〜C30−アルキルラジカルを表し、これには、上述のC〜C18アルキルラジカルに加えて、n−ノナデシル、n−エイコサニル、n−ヘンエイコサニル、n−ドコサニル、n−トリコサニル、n−テトラコサニル、n−ペンタコサニル、n−ヘキサコサニル、n−ヘプタコサニル、n−オクタコサニル、n−ノナコサニルまたはn−トリアコンタニルなどのアルキルラジカルが含まれる。本発明に関しては、C〜C18−アルコキシラジカルは、上に列挙されたC〜C18−アルキルラジカルに対応するアルコキシラジカルを表す。本発明に関しては、C〜C12−シクロアルキルはシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルなどのC〜C12−シクロアルキルラジカルを表し、C〜C14−アリールはフェニルまたはナフチルなどのC〜C14−アリールラジカルを表し、C〜C18−アラルキルはベンジル、o−、m−、p−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−キシリルまたはメシチルなどのC〜C18−アラルキルラジカルを表す。本発明に関しては、C〜C−ヒドロキシアルキルは、置換基としてヒドロキシル基を有するC〜C−アルキルラジカルを意味すると理解され、このC〜C−アルキルラジカルは、例えばメチル、エチル、n−またはイソプロピル、n−、iso−、sec−またはtert−ブチルであってもよく、C〜C−アルキレンラジカルはメチレン、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレンまたはn−ペンチレンを意味すると理解される。上記の一覧は、本発明を例として記載する役割を果たすが、排他的なものであるとみなされるべきではない。
【0024】
本発明に関しては、当該ポリアニオンは、2000〜5000000g/mol、好ましくは10000〜1000000g/mol、および最も好ましくは40000g/mol〜600000g/molである重量平均分子量(M)を有する。
【0025】
当該ポリアニオンの分子量は、ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)を用いて決定することができる。この目的のために、当該ポリマーは、溶媒(例えばクロロホルムまたはテトラヒドロフラン)の中に溶解され、GPCカラムに通される。使用される基準の標品は、同じ溶媒中でのポリスチレンであってもよい。使用される検出器は、UV検出器または屈折率検出器であってもよい。
【0026】
当該ポリアニオンは、対応する単量体から調製することができる。当該ポリマーの中の繰り返し単位の比は、使用される単量体の比によって決定することができるが、これらの記載される比は、異なる反応速度のため、同一である必要はない。重合は、フリーラジカル、アニオン性またはカチオン性の開始剤によって開始することができる。加えて、遷移金属錯体が開始を担うことができる。ポリマーの調製のための合成方法は、H.−G.Eliasによるハンドブック「Makromolekuele(高分子)」、第1巻に記載されている。
【0027】
上に詳細に画定されたポリアニオンに加えて、本発明の錯体は、一般式(IV)の繰り返し単位を含む任意に置換されたポリチオフェン
【化3】

(式中、
およびRは、各々独立に、H、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルもしくは任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカルであるか、または
およびRは一緒に、任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、1以上の炭素原子がOもしくはSから選択される1以上の同一のまたは異なるヘテロ原子で置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル(好ましくはC〜C−ジオキシアルキレンラジカル、任意に置換されたC〜C−オキシチアアルキレンラジカルもしくは任意に置換されたC〜C−ジチアアルキレンラジカル)、または少なくとも1つの炭素原子がOもしくはSから選択されるヘテロ原子で任意に置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキリデンラジカルである)
を含む。
【0028】
好ましい実施形態では、一般式(IV)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(IV−a)および/または一般式(IV−b)の繰り返し単位を含むポリチオフェン
【化4】

(式中、
Aは、任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカルであり、
YはOまたはSであり、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、好ましくは直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C14−アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルであり、
yは、0〜8の整数、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1であり、
複数のRラジカルがAに結合されている場合、このRラジカルは同じであってもよいし異なっていてもよい)
である。
【0029】
一般式(IV−a)は、置換基RがアルキレンラジカルAにy回結合することができるというように理解されるべきである。
【0030】
さらなる好ましい実施形態では、一般式(IV)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(IV−aa)および/または一般式(IV−ab)の繰り返し単位を含むポリチオフェン
【化5】

(式中、Rおよびyは、各々、上で定義されたとおりである)
である。
【0031】
なおさらなる好ましい実施形態では、一般式(IV)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(IV−aaa)および/または一般式(IV−aba)のポリチオフェンを含むポリチオフェンである。
【化6】

【0032】
本発明に関しては、接頭辞「ポリ」は、複数の同一または異なる繰り返し単位が当該ポリチオフェンの中に存在するということを意味すると理解されたい。当該ポリチオフェンは全部でn個の一般式(IV)の繰り返し単位を含み、ここでnは2〜2000、好ましくは2〜100の整数であってよい。一般式(IV)の繰り返し単位は、ポリチオフェン内で各々、同じであってもよいし異なっていてもよい。各々が同一の一般式(IV)の繰り返し単位を含むポリチオフェンが好ましい。
【0033】
末端基に、当該ポリチオフェンは、各々Hを有することが好ましい。
【0034】
特に好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチアチオフェン)またはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン、すなわち式(IV−aaa)、(IV−aba)または(IV−b)の繰り返し単位から構成されるホモポリチオフェンである。
【0035】
さらに特に好ましい実施形態では、一般式(IV)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、式(IV−aaa)および(IV−aba)、(IV−aaa)および(IV−b)、(IV−aba)および(IV−b)または(IV−aaa)、(IV−aba)および(IV−b)の繰り返し単位から構成される共重合体であり、式(IV−aaa)および(IV−aba)、ならびに(IV−aaa)および(IV−b)の繰り返し単位から構成される共重合体が好ましい。
【0036】
本発明に関しては、C〜C−アルキレンラジカルAは、メチレン、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレンまたはn−ペンチレンであり、C〜C−アルキレンラジカルは、上記のものに加えてn−ヘキシレン、n−ヘプチレンおよびn−オクチレンである。本発明に関しては、C〜C−アルキリデンラジカルは、少なくとも1つの二重結合を含む上に列挙したC〜C−アルキレンラジカルである。本発明に関しては、C〜C−ジオキシアルキレンラジカル、C〜C−オキシチアアルキレンラジカルおよびC〜C−ジチアアルキレンラジカルは、上に列挙したC〜C−アルキレンラジカルに対応するC〜C−ジオキシアルキレンラジカル、C〜C−オキシチアアルキレンラジカルおよびC〜C−ジチアアルキレンラジカルである。C〜C18−アルキル、C〜C12−シクロアルキル、C〜C14−アリール、C〜C18−アラルキル、C〜C18−アルコキシおよびC〜C−ヒドロキシアルキルは、各々、上で定義されたとおりである。上記の一覧は、本発明を例として記載する役割を果たすが、排他的なものであるとみなされるべきではない。
【0037】
上記のラジカルの可能なさらなる置換基としては、多くの有機基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボキシレート、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基、およびカルボキシアミド基が挙げられる。
【0038】
一般式(IV)のポリチオフェンおよびその誘導体の調製のための単量体前駆体を調製するためのプロセスは当業者に公知であり、例えばL.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater. 12(2000) 481−494およびその中で引用される文献に記載されている。
【0039】
本発明に関しては、上に列挙されたチオフェンの誘導体は、例えば、これらのチオフェンの二量体または三量体を意味するものと理解される。単量体前駆体のより高分子量の誘導体、すなわち四量体、五量体なども誘導体として可能である。これらの誘導体は、同一のまたは異なる単量体単位のいずれからも形成されてよく、かつ純粋な形態で使用されてもよく、または互いとの混合物および/もしくは上述のチオフェンとの混合物で使用されてもよい。本発明に関しては、これらのチオフェンおよびチオフェン誘導体の酸化形態または還元形態もまた、用語「チオフェンおよびチオフェン誘導体」に包含されるが、ただしそれは、それらの重合によって上に列挙したチオフェンおよびチオフェン誘導体の場合と同じ導電性ポリマーが形成される場合に限る。
【0040】
当該分散液または溶液は、少なくとも1つの高分子結合剤をさらに含んでもよい。適切な結合剤は、高分子有機結合剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリルエステル、酢酸ビニル/アクリルエステルおよびエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂またはセルロース誘導体である。
【0041】
当該任意に置換されたポリチオフェンはカチオン性であり、「カチオン性」は、当該ポリチオフェン主鎖上に存在する電荷のみに関する。Rラジカル上の置換基に従って、上記ポリチオフェンは、構造単位に正電荷および負電荷を有していてもよく、この場合この正電荷はポリチオフェン主鎖上に存在し、負電荷は、スルホネートまたはカルボキシレート基によって置換されたRラジカル上に存在してもよい。その場合、このポリチオフェン主鎖の正電荷は、Rラジカル上に存在するアニオン性基によって一部または完全に飽和していてもよい。全体で見ると、これらの場合のポリチオフェンは、カチオン性であってもよく、電荷を帯びていなくてもよく、またはアニオン性でさえあってもよい。とはいうものの、本発明に関しては、それらはすべてカチオン性ポリチオフェンと考えられる。なぜなら、このポリチオフェン主鎖上の正電荷が重要だからである。正電荷は式には示されていない。なぜなら、その正確な数および位置を明確に記述することができないからである。正電荷の数は、しかしながら、少なくとも1でありかつ多くともnである(ここでnはこのポリチオフェン内の(同一のまたは異なる)繰り返し単位の総数である)。
【0042】
本発明のポリチオフェン/ポリアニオン錯体は、水非混和性である溶媒に可溶または分散可能である。適切な溶媒としては特に、当該反応条件下で不活性である以下の有機溶媒が挙げられる:芳香族炭化水素(トルエンおよびキシレンなど)、脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンなど)、脂肪族カルボン酸エステル(酢酸エチルなど)、塩素化炭化水素(ジクロロメタンおよびジクロロエタンなど)、脂肪族エーテルおよび芳香環を含む脂肪族エーテル(ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランなど)。脂肪族および芳香族炭化水素が特にが好ましい。
【0043】
一般式(IV)の任意に置換されたポリチオフェンは、一般式(V)の任意に置換されたチオフェンの酸化重合によって調製することができる。
【化7】

式中、RおよびRは、各々上で定義されたとおりである。
【0044】
一般式(V)の任意に置換されたチオフェンについては、一般式(IV)の任意に置換されたポリチオフェンと同じ範囲の好ましい選択肢が当てはまる。
【0045】
この酸化重合については、チオフェンの酸化重合に適している酸化剤を使用することができ、そしてそれらは当業者に公知である。これらは、例えばJ.Am.Chem.Soc.、85、454(1963)に記載されている。本発明に関しては、使用される酸化剤は、H、KCr、アルカリ金属およびアンモニウムのペルオキソ二硫酸塩(例えばペルオキソ二硫酸ナトリウムまたはペルオキソ二硫酸カリウム)、アルカリ金属過ホウ素酸塩、過マンガン酸カリウム、銅塩(テトラフルオロホウ酸銅など)、またはセリウム(IV)塩またはCeOであってもよい。無機酸の鉄(III)塩、例えばFeCl、Fe(ClO、ならびに有機酸および有機ラジカルを有する無機酸の鉄(III)塩などの安価でかつ取扱いが容易な酸化剤が好ましい。
【0046】
有機ラジカルを含む無機酸の鉄(III)塩の例としては、C〜C20−アルカノールの硫酸モノエステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸の鉄(III)塩が挙げられる。有機酸の鉄(III)塩の例としては、以下のものが挙げられる:メタンスルホン酸、およびドデカンスルホン酸などのC〜C20−アルカンスルホン酸の鉄(III)塩、2−エチルヘキシルカルボン酸などの脂肪族C〜C20−カルボン酸の鉄(III)塩、トリフルオロ酢酸またはペルフルオロオクタン酸などの脂肪族ペルフルオロカルボン酸の鉄(III)塩、シュウ酸などの脂肪族ジカルボン酸の鉄(III)塩、および特にベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸などのC〜C20−アルキル基によって任意に置換された芳香族スルホン酸の鉄(III)塩、およびカンファースルホン酸などのシクロアルカンスルホン酸の鉄(III)塩。
【0047】
本発明に関しては、C〜C20−アルカノールは、1〜20個の炭素原子のアルキルラジカルを有する一価アルコールを表し、C〜C20−アルカンスルホン酸は、1〜20個の炭素原子のアルキルラジカルを有する一塩基性スルホン酸を表し、C〜C20−カルボン酸は1〜20個の炭素原子のアルキルラジカルを有する一塩基性カルボン酸を表す。
【0048】
驚くべきことに、一般式(V)の任意に置換されたチオフェンの重合については、使用される酸化剤の、反応媒体すなわち非極性溶媒に対する低い溶解度しか必要とはされないということが、本発明において見出された。例えば、トシル酸鉄(III)は、トルエンには実質的に不溶性である。しかしながら、EDTは、トルエン中でトシル酸鉄(III)によって重合し、PEDTを与える。
【0049】
それゆえ、本発明はさらに、当該ポリアニオンの存在下で一般式(IV)の任意に置換されたポリチオフェンを調製するためのプロセスであって、一般式(V)の任意に置換されたチオフェン
【化8】

の酸化重合が、上記の鉄(III)塩の群から選択される酸化剤を0.5〜10mol/mol、好ましくは1〜3mol/molの量で使用して、非極性溶媒中で実施されることを特徴とするプロセスを提供する。
【0050】
およびRは、各々、上で定義されたとおりである。
【0051】
好ましい酸化剤は、脂肪族および芳香族スルホン酸の鉄(III)塩、より好ましくはp−トルエンスルホン酸鉄(III)である。1モルのチオフェンあたり1〜3molのp−トルエンスルホン酸鉄(III)のモル比が特に好ましい。使用される溶媒は、上に列挙された水非混和性溶媒であってもよい。
【0052】
本発明に関しては、これらの上述の有機酸のFe(III)塩の混合物を使用することも可能である。上述のFe(III)塩は、任意に、他の酸化剤と組み合わせて触媒として使用されてもよい。式(V)の任意に置換されたチオフェンの酸化重合については、チオフェン1モルあたり2.25当量の酸化剤が理論上必要とされる(例えばJ.Polym.Sc.Part A Polymer Chemistry 第26巻、1287頁(1988)を参照)。しかしながら、より多いまたはより少ない当量の酸化剤も使用してよい。
【0053】
本発明はなおさららに、少なくとも一般式(IIa)および(III)の繰り返し単位を含み、
【化9】

(式中、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、好ましくはHであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜C20−アルキルラジカル、より好ましくは任意に置換されたC〜C12−アルキルラジカルである)
繰り返し単位(IIa)の質量比率は、2%〜80%、好ましくは2%〜50%であり、
繰り返し単位(III)の質量比率は、5%〜98%、好ましくは50〜98%である、共重合体を提供する。
【0054】
本願明細書中で列記されたC〜C18−アルキルラジカルおよび列記されたC〜C30アルキルラジカルの画定は、これらのアルキルラジカルの上述の画定に対応する。
【0055】
一般式(IIa)および(III)の繰り返し単位は、当該共重合体内で各々同じであってもよいし異なっていてもよい。いずれも同一の一般式(IIa)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体が好ましい。
【0056】
本発明に関しては、本発明の共重合体は2000〜5000000g/mol、好ましくは10000〜1000000g/mol、より好ましくは40000g/mol〜600000g/molである分子量を有する。
【0057】
一般式(IIa)および(III)の繰り返し単位の質量比率は、元素分析およびH NMRによって比較された。元素分析では、算出されたまたは見出された百分率が比較される。H NMRスペクトルでは、特定の繰り返し単位についての特徴的なシグナルが互いに考慮される。
【0058】
本発明の共重合体は、水非混和性である溶媒に可溶または分散可能である。適切な溶媒は上に列挙された溶媒であり、好ましい溶媒は芳香族または脂肪族の炭化水素である。
【0059】
本発明はさらに、導電性膜またはコーティング系の製造のための、または有機発光ダイオードにおける正孔注入層としての本発明の錯体の使用を提供する。
【0060】
以下の実施例は、本発明を例示的に説明する働きをするが、決して限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0061】
実施例1:4−ドデシルアセトフェノンの合成
塩化アルミニウム(227.114g=1.7mol)を、アルゴン下で塩化メチレン(800ml)の中に懸濁させ、0℃に冷却した。これに、100mlの塩化メチレンに溶解した無水酢酸(89.872g=0.88mol)を30分間かけてゆっくり滴下した。この混合物を約15分間撹拌し、次いでCHCl(0℃)に溶解したドデシルベンゼン(99.267g=0.4mol)を、冷却しながら30分間かけて滴下した。この反応液を、冷却せずにさらに一晩撹拌した。得られた橙黄色の反応溶液を、1.5リットルの砕氷へとゆっくり注ぎ込み、この水相から分離し、この水層を捨てた。この有機相を、500mlの約10%塩酸、飽和炭酸ナトリウム溶液および飽和塩化ナトリウム溶液で各々2回振盪することにより抽出した。この有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒をロータリー・エバポレーター上で留去した。得られた褐色の固体をメタノールから再結晶した。この結晶化は4℃で一晩成し遂げられた。
【0062】
収量:106.669g=0.37mol=理論の92.4%。
【0063】
分析:250MHz、CDCl;δ=0.90(dd,3H,J=5.7,6.9Hz),1.28(m,18H),1.56−1.60(m,2H),2.61(s,3H),2.65(t,2H,J=7.3Hz),7.27(d,2H,J=8.2Hz),7.89(d,2H,J=8.2Hz)。
【0064】
実施例2:(p−ドデシルフェニル)メチルカルビノールの合成
4−ドデシルアセトフェノン(106.669g=0.37mol)を最初にメタノール(1.1リットル)に入れ、アルゴン下で0℃に冷却した。これに、5分間隔で、合計10回に分けてNaBH(20.39g=0.54mol)を加えた。激しい気体の発生が弱まった後、氷浴を取り除き、この反応溶液をさらに室温で一晩撹拌した。この溶液を乾固するまで濃縮し、白色の結晶性の残渣を1リットルのヘキサンに取り込んだ。得られた懸濁液を、各回500mlの約10%塩酸で2回振盪することにより抽出し、これにより、残っていた固体は完全に溶解した。この有機相を500mlの飽和塩化ナトリウム溶液で2回振盪することにより抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別し、次いでロータリー・エバポレーター上で濃縮し、−20℃で結晶化させた。この結晶を濾別し乾燥した。
【0065】
収量:100.032g=0.35mol=理論の93.4%。
【0066】
分析:250MHz、CDCl;δ=0.90(dd,3H,J=5.4,6.9Hz),1.20−1.35(m,18H),1.51(d,3H,J=6.3Hz),1.54−1.65(m,2H),1.81(d,1H,J=1.9Hz),2.60(t,2H,J=7.9Hz),4.86(m,1H),7.20(d,2H,J=7.9Hz),7.31(d,2H,J=7.9Hz)。
【0067】
実施例3:p−ドデシルスチレンの合成
水分離器および還流冷却器を取り付けた2リットルの丸底フラスコに、最初に1.2リットルのトルエンを入れ、次いで(p−ドデシルフェニル)メチルカルビノール(50.082g=0.173mol)およびp−トルエンスルホン酸一水和物(0.679g=3.6mmol)を入れた。この混合物を絶えず撹拌しながら還流状態まで加熱し、さらなる水が分離しなくなるまで煮沸を維持した。いったんこの反応混合物を室温まで冷却し、有機相を、各回500mlの水で2回、および250mlの飽和塩化ナトリウム溶液で1回振盪することにより抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリー・エバポレーター上で溶媒を留去した。黄色油状物を得た。その後、2回の処理単位を合わせた。400gのシリカゲル60でのカラムクロマトグラフィで、ヘキサンを用いて溶離液として用いてこの粗生成物を精製し、100mlの画分サイズを選択した。
【0068】
(カルビノール)=0(ヘキサン)
(副生成物)=0.70(ヘキサン)
(n−ドデシルスチレン)=0.50(ヘキサン)。
【0069】
収量:97.934g=0.36mol。
【0070】
分析:250MHz、CDCl;δ=0.90(t,3H,J=6.6Hz),1.20−1.4(m,18H),1.60(m,2H),2.60(t,2H,J=7.55Hz),5.22(d,1H,J=7.85Hz),5.73(d,1H,J=17.6Hz),6.71(q,1H),7.15(d,2H,J=8.0Hz),7.35(d,2H,J=7.9Hz)。
【0071】
実施例4:p−スチレンスルホン酸の銀塩の合成
500mlの丸底フラスコに、最初に400mlの水を入れ、室温で撹拌しながら、その中で45.046gのp−スチレンスルホン酸ナトリウム(45.046g=0.200mol)を溶解させた。遮光を確実にするために、このフラスコの周りにアルミニウム箔を巻いた。この溶液を0℃に冷却し、34.225gの硝酸銀(34.225g=0.200mol)と少しずつ混合すると、すぐにピンク色の沈殿物が生成した。その後の操作はすべて、できる限り遮光して行った。この混合物を0℃でさらに30分間撹拌し、この固体をD2ガラスフリットを用いて濾別した。得られた濾過ケーキを150mlの氷水で3回洗浄し、乾燥のために少量のジエチルエーテルで繰り返しスラリー化した。このクリーム色の固体を500mlのアセトニトリルの中に取り込み、D4ガラスフリットを用いて不溶分を濾別した。この溶液を乾固するまで濃縮し、得られた固体を冷凍庫の中で一晩保存した。
【0072】
収量:47.890g=0.165mol=理論の82.5%。
【0073】
実施例5:p−スチレンスルホン酸エチルの合成
アルミニウム箔を巻いた250mlの丸底フラスコに、最初に、390mlのアセトニトリル中の47.890gのスチレン−4−スルホン酸の銀塩(47.890g=0.165mol)を入れ、大きいスターラーバーを用いて撹拌しながらおよび35.77gの臭化エチル(35.77g=0.33mol)と混合した。同様にアルミニウム箔を巻いた還流冷却器をこのフラスコに取り付け、アルゴンを満たした風船をこのフラスコに取り付けた。この反応混合物を70℃で5時間撹拌し、室温まで冷却した後、生成した臭化銀をD4フリットに通して濾過し、濾液をロータリー・エバポレーター上で濃縮した。残留した油状物を400mlのジクロロメタン(DCM)を用いて取り込み、高さ5cmのシリカゲル層を設けたD4フリットに通して濾過した。このフィルター材料を、各回50mlのDCMを用いて繰り返し抽出し、溶媒を留去した。黄色の非常に粘性の高い油状物を得た。
【0074】
収量:29.457g=0.139mol=理論の84.2%。
【0075】
分析(NMR):250MHz、CDCl;δ=1.30(t,3H,J=7.3Hz),4.12(q,2H,J=7.3Hz),5.46(d,1H,J=11.1Hz),5.96(d,1H,J=17.7Hz),6.77(dd,1H,J=11.1,17,4Hz),7.65(d,2H,J=8.2Hz),7.86(d,2H,J=8.2Hz)。
【0076】
実施例6:ポリ(p−スチレンスルホン酸エチル−co−p−ドデシルスチレン)の合成
アルゴン雰囲気下で、500mlフラスコに、最初に溶媒としてのジクロロエタン(250g)を入れた。35.0gのパラ−ドデシルスチレン(35.0g=128.45mmol;調製は実施例3に記載した)および7.28gのパラ−スチレンスルホン酸エチル(7.28g=34.30mmol;調製は実施例5に記載した)を加えた後、この混合物を、ガス注入管を用いてアルゴンで飽和させた。この目的のために、アルゴンをこの混合物に15分間通した。この時間の間、この混合物を60℃に加熱した。使用したフリーラジカル開始剤はアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)であり、これを、アルゴンで飽和させた後、少量のジクロロエタンに溶解させてセプタムを通して加えた。この重合溶液に、アルゴンをさらに5分間パージした。次いで、完結するまで60℃で一晩重合させた。このわずかに粘いポリマー溶液を冷却した後、このポリマーを、撹拌しながらメタノールの中で沈殿させた。この沈殿後に得られたポリマーをテトラヒドロフラン(THF)に再溶解し、再度メタノール中で沈殿させた。単離した白色ポリマーを高真空下で乾燥した。
【0077】
収量:18g=理論の42.6%。
【0078】
分析(GPC):分子量(対 THF中のPS):120000g/mol、多分散性D(M/M):1.5。
【0079】
分析(NMR):250MHz、CDCl3;δ=0.88(3H),1.20−1.30(−CH2−,−CH−),1.40−1.45(3H,−CH3エステル)1.45−1.55(2H),2.50−2.60(2H),4.0−4.1(2H,−CH2−エステル),6.0−7.0(4H),7.3−7.6(4H,−CH−エステル)。
【0080】
スルホン化度を決定するためにNMR分光法分析を使用することができる。この目的のために、0.88ppm(ドデシル基のCH末端)および4.0〜4.1ppm(エチルエステルのCH)のピークを互いに対して考慮する。これにより、1:5.6のドデシルスチレン:スチレンスルホン酸エチルの積分補正された比が得られ、この比はこのポリマーのスルホン化度=21.09%に対応する。
【0081】
分析−元素分析(EA):
【表1】

これにより18.77%というスルホン化度が得られる。
【0082】
これより、スルホン化度については以下のようになる:
【表2】

【0083】
実施例7(本発明):ポリ(p−スチレンスルホン酸−co−p−ドデシルスチレン)の合成
15.0gのポリ(p−スチレンスルホン酸エチル−co−p−ドデシルスチレン)(調製は実施例6に記載した)を50mlのジクロロエタンおよび100mlのトルエンに溶解し、100℃に加熱した。この加熱の間、この溶液をアルゴンで脱気した。60gの臭化トリメチルシリル(TMSBr)(60g=16.33mmol)を、5分間にわたってセプタムを通して加えた。この黄色溶液を100℃での還流下で60時間撹拌し、次いで濃縮し、ポリマーをメタノール/水の中で沈殿させた。沈殿後に得られたポリマーを、その後テトラヒドロフラン(THF)に再溶解し、メタノールの中で再沈殿させた。単離した黄色がかったポリマーを高真空下で乾燥した。
【0084】
収量:10g。
【0085】
分析(EA):
【表3】

これにより、20.8%というスルホン化度(完全加水分解として算出)が得られる。
【0086】
分析(NMR):250MHz、CDCl;δ=0.88(3H),1.20−1.40(−CH2−,−CH−),1.45−1.55(2H),2.50−2.60(2H),6.0−7.0(4H),7.3−7.6(エステルの芳香族−CH−)。
【0087】
このエステルの加水分解度を決定するためにNMR分光法分析を使用することができる。この目的のために、0.88ppmのピーク(ドデシル基のCH末端)および4.11ppmのピーク(エチルエステルのCH)(これは、今の場合、ほとんど見分けることができない)が互いに対して考慮される(1:53.3)。これにより、約86.7というこのエステルの加水分解度が得られる。
【0088】
分析(GPC):
試料をテトラヒドロフランに溶解した。使用した較正標品はポリスチレンであった。使用した検出器はUV検出器および屈折率検出器(RI)であった。
【0089】
【表4】

【0090】
実施例8(本発明):ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(p−スチレンスルホン酸−co−p−ドデシルスチレン)錯体の合成
50mlの丸底フラスコに、最初に、12.5gのトルエンおよび1gの実施例7からのポリ(p−スチレンスルホン酸−co−p−ドデシルスチレン)を入れ、10分間撹拌した。その後、0.3g(2.1mmol)のエチレンジオキシチオフェン(Clevios M V2、H.C.Starck GmbH)を加えた。その後、1.33gのトシル酸鉄(III)(2.3mmol)を加え、この混合物を室温で24時間撹拌した。このあと、撹拌機のスイッチを切り、得られた分散液を10分後に傾瀉した。さらに48時間後、この混合物を0.45μmの細孔径を有するフィルターに通して濾過した。
【0091】
分析:固形分含量
固形分含量を決定するために、この試料2gを100℃で16時間乾燥した。出発時の重量および乾燥含有量を使用して固形分含量を8.11%と決定した。
【0092】
実施例9(本発明):比抵抗の測定およびOLEDにおける当該錯体の使用
実施例8から得たポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(p−スチレンスルホン酸−co−p−ドデシルスチレン)錯体の本発明の配合物を使用して、有機発光ダイオード(OLED)を構築した。OLEDの製造の手順は、以下のとおりであった:
ITOでコーティングした基体の調製(ITO=酸化インジウムスズ)
ITOでコーティングしたガラス(Merck Balzers AG、FL、部品番号253 674 XO)を50mm×50mmの小片(基体)へと切断した。その後この基体を、3% Mucasol水溶液中、超音波浴の中で15分間洗浄した。この後、この基体を蒸留水でリンスし、遠心分離機の中で遠心乾燥した。このリンスおよび乾燥操作を10回繰り返した。コーティングの直前に、上記ITOでコーティングしたスライドをUV/オゾン反応器(PR−100、UVP Inc.、英国、ケンブリッジ)の中で10分間洗浄した。
【0093】
正孔注入層の付与
約5mlの、実施例8で得た本発明の分散液を濾過した(Millipore HV、0.45μm)。洗浄したITOでコーティングした基体をスピンコーターの上に置き、上記濾過した溶液をその基体のITOでコーティングした側に分散させた。その後、30秒間にわたって1500rpmでこのプレートを回転させることにより、上澄み溶液を振り落とした。この後、このようにコーティングした基体を、ホットプレート上で、130℃で15分間乾燥した。層の厚さは500nmであった(Tencor、Alphastep 500)。
【0094】
すべてのさらなるプロセス工程は、純粋なN雰囲気(不活性ガスグローブボックスシステム、M.Braun、ガルヒング(Garching))の中で実施した。上記コーティングした基体をこの雰囲気の中に移した。まず、実施例8で得た分散液でコーティングした基体を、ホットプレートの上で、180℃で5分間、後乾燥した。シャドーマスクを通して0.5mmの間隔で長さ2.5cmのAg電極を設けることにより(プロセス工程4と同様)、実施例8で得た分散液の電気伝導率を別々の層の上で測定した。電気比抵抗を得るために、電位計を用いて測定した表面抵抗率に層の厚さを乗じた。これらの層の比抵抗は約100000000ohm・cmであった。
【0095】
エミッター層の付与
白色の高分子エミッターの1重量%キシレン溶液5mlを濾過し(Millipore HV、0.45μm)、乾燥した正孔注入層の上に分散させた。その後、蓋を閉じてこのプレートを30秒間にわたって2500rpmで回転させることにより、このエミッターの上澄み溶液を振り落とした。この後、この層を、ホットプレートの上で180℃で10分間乾燥した。全体の層の厚さは585nmであった。
【0096】
金属カソードの付与
金属電極を、カソードとしてこのエミッター層に付与した。この目的のために、上記基体を、エミッター層を下向きにして、直径2.5mmの孔を含むシャドーマスクの上に置いた。p=10−3Paの圧力にある2つの気相堆積ボート(Aufdampfschiffchen)から、5nm厚のBa層、次いで200nm厚のAg層を気相堆積により連続的に付与した。気相堆積速度はBaについては10Å/s、およびAgについては20Å/sであった。絶縁した金属電極は、4.9mmの面積を有していた。
【0097】
OLEDの特性解析
有機LEDの2つの電極を、電気リード線を介して電圧ソースへと(接点)接続した。正極をITO電極に接続し、負極を、薄い可撓性のAuワイヤを介して当該金属電極に接続した。電圧に対するOLED電流およびエレクトロルミネセンス強度(これは、フォトダイオード(EG&G C30809E)を用いて検出される)の依存性を記録した。その後、この構成物を通してI=60μAの一定電流を流して電圧および光強度を時間の関数としてモニターすることにより寿命を測定した。
【0098】
結果
このように製造したOLEDは、有機発光ダイオードの典型的なダイオード挙動を呈した(図1を参照)。12ボルトの印加電圧Uで、順電流Iは0.57A/cmであり、ルミネセンスLは9.2cd/mである。寿命(出発のルミネセンスの半分へのルミネッセンスの減少によって定義される)は、60μAの一定のダイオード電流では60時間である。
【0099】
このように、実施例8から得た本発明の分散液に基づく無水PEDOT含有溶液の本質的な適正が実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意に置換されたポリチオフェンおよびポリアニオンを含む錯体であって、前記ポリアニオンは、一般式(I)および(II)の繰り返し単位、または一般式(I)および(III)の繰り返し単位、または一般式(II)および(III)の繰り返し単位、または一般式(I)、(II)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体
【化1】

(式中、
、R、R、R、Rは、各々独立にH、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカルであり、
Dは直接の共有結合または任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカルであり、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルであり、
xは0〜4の整数であり、
Mは、HまたはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Na、Kまたは別のカチオンである)
を含むことを特徴とする、錯体。
【請求項2】
前記ポリアニオンは、式(II)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
前記ポリアニオンは、式(IIa)および(III)の繰り返し単位を有する共重合体
【化2】

(式中、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカルである)
を含む、請求項2に記載の錯体。
【請求項4】
前記ポリアニオンの分子量は2000〜5000000g/molである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項5】
前記任意に置換されたポリチオフェンは、一般式(IV)の繰り返し単位
【化3】

(式中、
およびRは、各々独立にH、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルもしくは任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカルであるか、または
およびRは一緒に、1以上の炭素原子がOもしくはSから選択される1以上の同一のまたは異なるヘテロ原子で置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル(好ましくはC〜C−ジオキシアルキレンラジカル、任意に置換されたC〜C−オキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜C−ジチアアルキレンラジカル)、または少なくとも1つの炭素原子がOもしくはSから選択されるヘテロ原子で任意に置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキリデンラジカルである)
を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項6】
前記任意に置換されたポリチオフェンは、一般式(IV−aaa)および/または一般式(IV−aba)の繰り返し単位
【化4】

を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項7】
前記錯体は、芳香族または脂肪族炭化水素、脂肪族カルボン酸エステル、塩素化炭化水素、脂肪族エーテルまたは芳香環を含む脂肪族エーテルからなる群から選択される水非混和性溶媒に可溶または分散可能である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項8】
少なくとも一般式(IIa)および(III)の繰り返し単位
【化5】

(式中、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルであり、
は、Hまたは任意に置換されたC〜C30−アルキルラジカルである)
を含み、
前記繰り返し単位(IIa)の質量比率は2%〜80%であり、
前記繰り返し単位(III)の質量比率は5%〜98%である、
ことを特徴とする共重合体。
【請求項9】
前記ポリアニオンの存在下で請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の錯体を調製するためのプロセスであって、前記一般式(V)の任意に置換されたチオフェン
【化6】

の酸化重合は非極性溶媒中で酸化剤を使用して実施され、前記チオフェンおよび前記酸化剤は、0.5〜10のモル比で使用され、かつRおよびRは、各々、請求項5で画定されるとおりであることを特徴とする、プロセス。
【請求項10】
導電性膜またはコーティング系の製造のための、または有機発光ダイオードにおける正孔注入層としての請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の錯体の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−523427(P2011−523427A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507861(P2011−507861)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054650
【国際公開番号】WO2009/135752
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510050269)エイチ・シー・スタルク・クレビオス・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (12)
【Fターム(参考)】