説明

非水系顔料インク

【課題】開放系での保存に対して安定であり、インクジェット記録システムに使用した場合には吐出安定性に優れた非水系顔料インクを提供する。
【解決手段】顔料と顔料分散剤と非水系溶剤とを含む非水系顔料インクにおいて、前記顔料分散剤が、構成モノマーとして、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1);アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2);および芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3);を含むアクリル系ポリマーであって、全構成モノマーのうち、前記モノマー(M1)が75〜85モル%含まれ、前記モノマー(M2)が7〜10モル%含まれ、かつ、前記モノマー(M3)が8〜16モル%含まれる、非水系顔料インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系顔料インクに関し、特にインクジェット記録システムへの使用に適した非水系顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能、という特徴を有し最近急速に普及している。
【0003】
このインクジェット記録システムに用いられるインクの色材としては、顔料を利用したものと染料を利用したものに大別される。このうち、高画質印刷に必要な耐光性、耐候性および耐水性に優れていることから、顔料を色材とするインクが増加する傾向にある。
【0004】
溶剤からみると、インクは大きく、水系タイプインクと非水系タイプインクに分けられる。水系タイプインクは、水系溶剤と水がインクの媒体であるので、ここに顔料を微細に分散させ且つその安定性を確保することは極めて困難である。
このような観点から、顔料をカプセル化して水系媒体に分散させることを可能とした水系顔料インク提案されている(特許文献1、2)。しかし、水系であるが故に、耐水性が悪いという問題は否めない。
【0005】
これに対し、揮発性溶剤を主体とする溶剤系インクや不揮発性溶剤を主体とするオイル系インクのように、インク用溶媒として水を使用しない非水系インクが注目されている。非水性インクは水系インクに比べると乾燥性が良く、印刷適性にも優れている。
【特許文献1】特開平9−151342号公報
【特許文献2】特開平11−140343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この非水系インクは、非水系の溶剤、顔料、顔料分散剤等から構成される。汎用されている顔料分散剤はポリマーであるため、顔料分散剤の配合によりインクの粘度が高くなりがちである。さらに、普通紙での印刷濃度が高い印刷物を得るには、比表面積が大きくDBP吸油量の高い顔料を使用する必要があるが、そのような顔料の使用は、顔料分散体の粘度を高くすることになる。
こうしたことから、インクの溶剤としては、粘度の低い溶剤を使用する必要性が生じる。しかし、粘度の低い溶剤は、一般的に揮発性が高いので、開放系でインクが放置された場合、特にインクジェットの吐出ヘッドのノズル近傍においてインクの著しい粘度上昇を引き起こし、ノズルの目詰まりやインク滴の飛翔乱れを引き起こす。
【0007】
そこで本発明は、開放系での保存に対して安定であり、インクジェット記録システムに使用した場合には吐出安定性に優れた非水系顔料インクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の側面によれば、顔料と顔料分散剤と非水系溶剤とを含む非水系顔料インクにおいて、前記顔料分散剤が、構成モノマーとして、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1);アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2);および芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3);を含むアクリル系ポリマーであって、全構成モノマーのうち、前記モノマー(M1)が75〜85モル%含まれ、前記モノマー(M2)が7〜10モル%含まれ、かつ、前記モノマー(M3)が8〜16モル%含まれる、非水系顔料インクが提供される。
【0009】
本発明の第二の側面によれば、上記本発明に係る水系顔料インクを用いて印刷された印刷物が提供される。
【0010】
本発明の第三の側面によれば、構成モノマーとして、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1);アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2);および芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3);を含むアクリル系ポリマーからなる非水系顔料インク用顔料分散剤であって、全構成モノマーのうち、前記モノマー(M1)が75〜85モル%含まれ、前記モノマー(M2)が7〜10モル%含まれ、かつ、前記モノマー(M3)が8〜16モル%含まれる、非水系顔料インク用顔料分散剤が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る非水系顔料インク(以下、単に「インク」と記す場合もある。)は、顔料分散剤として、複数の特定の(メタ)アクリル酸誘導体(M1)〜(M3)を構成モノマーとするアクリル系ポリマーを使用し、このポリマーは、芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3)を含むことを特徴とする。芳香環または多環系脂環は、立体的な嵩高さを与えるため、アクリル系ポリマーのポリマー鎖同士が互いに絡みにくくなり、その結果、この顔料分散剤を用いて顔料を分散させた際に、顔料分散体(顔料と顔料分散剤と希釈溶剤とを含む分散体))の粘度上昇を抑制することができると考えられる。したがって、本発明に係るインクでは、インクの粘度調整のために、非水系溶剤として粘度の低い、揮発性の高い溶剤を使用する必要がないため、開放系での放置特性に優れたインクを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るインクは、必須成分として、顔料と顔料分散剤と非水系溶剤とを含む。
顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0013】
顔料の平均粒径は、分散性と保存安定性の観点から300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。ここで、顔料の平均粒径は、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500により測定された値である。
インク中の顔料の含有量は、通常0.01〜20重量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から1〜15重量%であることが好ましく、5〜10重量%であることが一層好ましい。
【0014】
顔料分散剤(以下、単に「分散剤」ともいう。)は、モノマーとして炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1)と、アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2)と、芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3)とを含むアクリル系ポリマーである。ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸誘導体」は、アクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体を意味する。
【0015】
モノマー(M1)に含まれる炭素数12以上のアルキル基としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、ドコサニル基等が挙げられる。このエステル部分のアルキル鎖は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
【0016】
モノマー(M1)としては、具体的には、ドデシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル(メタ)アクリレート、および、イソステアリル(メタ)アクリレートのような分岐鎖アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、インクの凝固点低下と顔料分散体(顔料と顔料分散剤と希釈溶剤とを含む分散体)の低粘度化を両立する観点から、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)および/またはドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)を使用することが好ましく、両者を併用することがより好ましい。
【0017】
アルキル鎖長が炭素数12以上であるモノマー(M1)が含まれていることにより、このインクを用いて、印刷濃度の高い印刷印刷物を提供することができる。モノマー(M1)は、全構成モノマーのうち、インクの保存安定性を確保し、さらには普通紙への印刷物濃度を確保する観点から、75〜85モル%含まれていることが好ましく、75〜80モル%であることがより好ましい。
【0018】
なお、アルキル鎖長の炭素数が12未満のアルキル(メタ)アクリレートを一部に使用することもでき、たとえば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレートのような分岐鎖(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の比較的短鎖のアルキル(メタ)アクリレートを用いることも可能であるが、これらのモノマーは非極性溶剤中で重合する場合にポリマーが析出しやすく、かつ、臭気が強く皮膚刺激性も高いため、必要な場合に限って、必要最少量を使用することが望ましい。
【0019】
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2)としては、3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体が好ましく用いられる。アミノ基は、顔料吸着能の高い官能基であるため好ましく、さらに3級アミノ基は溶液中で安定に存在することができる点から好ましい。この3級アミノ基の置換基は、顔料への接近のしやすさの観点から、立体的にあまり嵩高い基ではないことが好ましい。
こうした観点から、モノマー(M2)として具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどをそれぞれ単独で、または複数種を組み合わせて好ましく使用できる。
【0020】
モノマー(M2)は、インクの経時増粘性を回避し、かつ、顔料の分散安定性(インクの保存安定性)を確保する観点から、全構成モノマー中に7〜10モル%含まれていることが好ましい。
【0021】
芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3)は、ベンゼン環、縮合多環式芳香環(ナルタレン環、アントラセン環等)、2環系脂環(ビシクロアルカン、ビシクロアルケン等)、3環系脂環などの嵩高い置換基を含む化合物である。具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、およびイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらはそれぞれ単独で、または複数種を組み合わせて好ましく使用できる。
【0022】
モノマー(M3)は、顔料分散体の粘度を下げて低揮発性の非水系溶剤の使用を可能とし、その結果、開放系での保存安定性に優れたインクを提供する観点から、全構成モノマー中に8〜16モル%含まれていることが好ましい。モノマー(M3)が16モル%を超えて含まれても、低粘度化の効果はそれ以上向上せず、かえって保存安定性が低下することから好ましくない。
【0023】
このモノマー(M3)とモノマー(M1)のモル比(M3)/(M1)は0.1〜0.2であることが好ましい。このように、両者の量比が制御されることにより、分散剤の油中安定化に必要な長鎖アルキル基同士の絡み合いが適切に抑制され、その結果、顔料分散体の粘度低下と保存安定性の両立を図ることができる。
【0024】
顔料分散剤であるアクリル系ポリマーは、これらの(M1)〜(M3)以外のモノマーとして、これらと共重合しうる他のモノマーを一部に含むこともできる。たとえば、他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、スチレン、α−メチルスチレン、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、α−オレフィン、N−メチルピロリドン、またはスチレンマクロモノマー等が使用できる。これらは、単独で用いられるほか、2種以上を組み合わせて用いることもできる。なかでも、カルボキシ基および/またはグリシジル基を含むモノマーを併用することが好ましい。
【0025】
アクリル系ポリマーの分子量(重量平均分子量)は、インクの吐出性の観点から15000〜35000程度であることが好ましく、20000〜30000程度であることがより好ましい。
【0026】
上記の各モノマーは、公知のラジカル共重合法により重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。
この場合、重合後のアクリル系ポリマーの分子量を上記好ましい範囲とするために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
【0027】
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日本油脂(株)製)等の過酸化物など、公知の熱重合開始剤を使用することができる。
溶液重合に用いる重合溶媒には、たとえば石油系溶剤(アロマフリー(AF)系)などを使用できる。この重合溶媒は、そのままインクの非水系溶剤として使用できる溶媒(後述)のなかから1種以上を選択することが好ましい。
【0028】
重合温度については、アクリル系モノマーがグリシジル基を有する場合に、このグリシジル基の重合時の開環を防止するために、あまり高温ではないほうが好ましく、65℃以下程度で重合させることが好ましい。この観点からは、油溶性低温型アゾ系重合開始剤である、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65、和光純薬工業(株)製)の使用が適している。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤も用いることができる。
重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0029】
インク中の顔料分散剤の配合量は、顔料分散性の観点から、重量比で、顔料1部に対し0.05〜1.0部程度であることが好ましく、0.1〜0.7部であることがより好ましい。
インク総量に対しては、顔料分散剤は、0.5〜10重量%程度含まれていることが好ましく、1〜5重量%であることが一層好ましい。
【0030】
非水系溶剤とは、非極性有機溶剤および極性有機溶剤であって、50%留出点が150℃以上の溶剤をいう。50%留出点は、JIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定される、重量で50%の溶剤が揮発したときの温度を意味する。
たとえば、非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、日本石油(株)製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、Isopar H、Isopar L、Isopar M、Exxsol D40、Exxsol D80、Exxsol D100、Exxsol D130、Exxsol D140」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、日本石油(株)製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」等を好ましく挙げることができる。
【0031】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤、およびこれらの混合溶剤を用いることができる。より具体的には、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなどのエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどのアルコール系溶剤;イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などの高級脂肪酸系溶剤;ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、が好ましく挙げられる。
【0032】
なかでも、インクジェット記録システムに使用した際、ヘッドを開放状態で放置した場合でもヘッドのノズル近傍でのインクの増粘を低減させてヘッドのクリーニングを容易にする観点から、低揮発性の溶剤を使用することが好ましい。ここで、低揮発性溶剤とは、10mlのガラス容器に溶剤5gを入れ、70℃環境下で17時間、蓋をせずにそのまま開放放置した後の溶剤の重量減少率が1.0重量%以下のものをいう。
これらの非水系溶剤は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
以上の各成分に加え、インクには、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。
具体的には、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインクに含有させることができる。
【0034】
インクの粘度を調整するために、インクに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インクの増粘助剤として用いることができる。
【0035】
酸化防止剤を配合することにより、インク成分の酸化を防止し、インクの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0036】
防腐剤を配合することにより、インクの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0037】
さらに、インクにポリオキシエチレンアルキルアミン(酸化エチレン付加脂肪族アミン:C2n+1N[(EO)H][(EO)H])を添加することにより、吐出安定性をより向上させ、かつ、普通紙への印刷においてより高い印刷濃度を得ることができる。上記一般式において、EOはオキシエチレン基を表し、xとyはそれぞれ独立に、0以上の整数であって、両者が共に0であることはない。
【0038】
上記式のアルキルアミンとしては、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等が用いられる。なかでも、さらなる吐出安定性と低温保存安定性の確保の点から、ラウリルアミンであることが好ましい。
高い吐出安定性と普通紙での高濃度化、および低温環境下での保存安定性の観点から、酸価エチレンの付加モル数(上記一般式におけるxとyの合計量)は2〜8であることが好ましく、3〜7であることがより好ましい。
ポリオキシエチレンアルキルアミンを配合する場合のインク中への配合量は、高い吐出安定性と普通紙での高濃度化の観点から、1.0〜5.0重量%であることが好ましい。
【0039】
インクは、たとえば、顔料と、顔料分散剤と、非水系溶剤とを含む顔料分散体をまず調製し、さらに非水系溶剤およびその他の任意の成分を加えて製造することができる。顔料分散体を調製する際の非水系溶剤(あるいは希釈溶剤)は、インクに含まれる非水系溶剤と同じであることが好ましく、さらには分散剤を上述のように溶液重合により合成する場合には、その重合溶媒と同じであることが好ましい。
顔料と分散剤と非水系溶剤とを含む顔料分散体は、これら3者を混合し、ボールミル、ビーズミル等の任意の分散手段を用いて顔料を分散させることにより、好ましく得ることができる。
【0040】
インクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0041】
次に、本発明に係る印刷物は、上記の本発明のインクを用いて印刷されたものである。本発明に係るインクを用いることにより、インクジェット記録システムを使用した際にも開放系におけるヘッドのノズル近傍でのインクの増粘を低減させることができる。その結果、ヘッドのクリーニングを容易にしてノズルの不吐出およびインク滴の飛翔乱れを防止し、白スジ等の発生のない鮮明な画像を得ることができる。さらに、本発明に係る顔料分散剤を使用することにより、顔料が印刷用紙の内部に入り込みにくく、用紙表面に留まりやすくなるため、印刷濃度の高い印刷物を得ることができる。
【0042】
印刷方法は、特に限定されないが、インクジェット記録装置を用いて行われることが好ましい。インクジェットプリンタは、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本発明に係るインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにする。
本発明に係るインクは、低温環境下でも良好に使用することができ、かつインクジェット記録システムに使用した場合には吐出安定性にも優れている。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<顔料分散剤の合成>
500ml四つ口フラスコに、ラウリルメタクリレート(日本油脂(株))、ベヘニルメタクリレート(日本油脂(株))、ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業(株))、グリシジルメタクリレート(和光純薬工業(株))、およびジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(日立化成工業(株))を、それぞれ表1に示す各量(g)で入れて混合し、さらに重合開始剤としてV−65(和光純薬工業(株))1.5g、連鎖移動剤としてステアリルメルカプタン(和光純薬工業(株))1.2g、AF7(AFソルベント7号、ナフテン系溶剤、新日本石油(株))230.9gを加え、61℃±3℃の条件下で、還流させながら5時間反応を行って、顔料分散剤A溶液(固形分30重量%)を得た。反応後に、重合禁止剤としてメトキノン(p−メトキシフェノール)を微量(0.002g)添加した。
得られた顔料分散剤A溶液10gを120℃のホットプレートで5時間加熱した後に得られたポリマーは2.6g(収率87%)であり、その重量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は、26000であった。
【0044】
表1に示す構成モノマーを使用して、同様の方法で、顔料分散剤B〜Hの溶液(いずれも固形分30重量%のAF7溶液)を得た。ジシクロペンタニルメタクリレートは日立化成工業(株)製、イソボニルメタクリレートはアルドリッチ社製、それ以外のモノマーは和光純薬工業(株)製のものを用いた。
ポリマーの反応収率は、いずれも85〜94%であった。
【0045】
【表1】

【0046】
<実施例1>
250mlのポリプロピレン製容器に、上記の顔料分散剤A溶液を45.0g、黒色顔料S170(デグサ社製カーボンブラック、一次粒子径17nm)27.0g、パルミチン酸イソオクチル(日光ケミカルズ(株))31.5g、AF7(上記同)31.5gを混合し、ジルコニアビーズ(直径0.5mm)450gを入れて、ロッキングミル((株)セイワ技研)により60分間分散したのち、ジルコニアビーズを濾別して顔料分散体を得た。
【0047】
得られた顔料分散体135gに、非水系溶剤として、表2に示す溶剤を加え、内容物を3.0μmおよび0.8μmのメンブランフィルターで濾過してゴミおよび粗大粒子を取り除き、実施例1のインクを得た。インク中の顔料含有量は8重量%であった。
【0048】
<実施例2〜4、比較例1〜4>
表2に示す組成で、上記実施例1と同様にして、各インクを調製した。得られたインクは全て、インクジェットインクとしての適正範囲の顔料粒径を備えていた。
【0049】
<粘度測定>
上記得られた各顔料分散体およびインクの粘度(23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度)を、ハーケ社製応力制御式レオメータRS75(コーン角度1°、直径60mm)を用いて測定した。
【0050】
<間欠吐出性能>
インクジェット記録装置として「HC5500」(理想科学工業(株))を使用し、間欠吐出性能を次のように評価した。HC5000は、300dpiのライン型インクジェットヘッド(各ノズルが約85μm間隔で並ぶ)を使用し、主走査方向(ノズルが並んでいる方向)に直交する副走査方向に用紙を搬送して、印字を行うシステムである。
【0051】
各インクを、インクジェット記録装置に装填して25℃で1時間放置し、その後クリーニング動作を行なわずに、液滴6plで150dpi相当のベタ画像を印刷して印字状態を評価した。印字欠けが全くないものをA、印字欠けが一部あるもの(不吐出ノズルが5本より少ない)をB、印字欠けが著しいもの(不吐出ノズルが5本以上)をCとした。
以上の結果を、同じく表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例のインクでは、開放状態で放置後、クリーニング動作を行なわなくても吐出性が良好であることが確認できた。
これに対し、比較例のインクでは、顔料分散体の粘度が高いため、インク粘度を適正な範囲とするために、非水系溶剤として揮発性の高いナフテン系溶剤(AF4)を使用した。その結果、インクの間欠吐出性能は不良であった。比較例1のインクは、シクロヘキシルメタクリレートを含む顔料分散剤を使用しているが、顔料分散体の本発明の効果は得られなかった。したがって、シクロヘキシル環は、モノマー(M3)の嵩高い官能基としての作用を奏なさいことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と顔料分散剤と非水系溶剤とを含む非水系顔料インクにおいて、
前記顔料分散剤が、構成モノマーとして、
炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1);
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2);および
芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3);
を含むアクリル系ポリマーであって、
全構成モノマーのうち、前記モノマー(M1)が75〜85モル%含まれ、前記モノマー(M2)が7〜10モル%含まれ、かつ、前記モノマー(M3)が8〜16モル%含まれる、非水系顔料インク。
【請求項2】
前記モノマー(M3)が、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、およびイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の非水系顔料インク。
【請求項3】
請求項1または2記載の非水系顔料インクを用いて印刷された印刷物。
【請求項4】
構成モノマーとして、
炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(M1);
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M2);および
芳香環または多環系脂環を有する(メタ)アクリル酸誘導体(M3);
を含むアクリル系ポリマーからなる非水系顔料インク用顔料分散剤であって、
全構成モノマーのうち、前記モノマー(M1)が75〜85モル%含まれ、前記モノマー(M2)が7〜10モル%含まれ、かつ、前記モノマー(M3)が8〜16モル%含まれる、非水系顔料インク用顔料分散剤。

【公開番号】特開2009−144119(P2009−144119A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325674(P2007−325674)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】