説明

非水電解液二次電池用正極板、非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池用正極板の製造方法、並びに電池パック

【課題】出入力特性と、非水電解液二次電池用正極板、非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池用正極板の製造方法、並びに電池パックを提供すること。
【解決手段】集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板において、前記電極活物質層を、電極活物質粒子と、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物と、から構成するとともに前記電極活物質粒子と集電体、および電極活物質粒子同士を、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物によって固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に用いられる正極板、非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池用正極板の製造方法、並びに電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時にいわゆるメモリ効果と呼ばれる完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象が無いことから、携帯機器、ノート型パソコン、ポータブル機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
現在、地球温暖化防止の対策として、世界規模でCO2排出抑制の取り組みが行われているなかで、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO2削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力として非水電解液二次電池を利用することができれば、ガソリンに依存する必要がなく、CO2削減に大いに寄与することができ、地球温暖化防止に大いに貢献することができる。一方で、次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力として非水電解液二次電池が利用されるためには、ガソリンに並ぶ出力特性が要求されている。
【0004】
現在、各種の提案がされている非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び非水電解液から構成される。正極板としては、金属箔などの集電体表面に、正極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。また負極板としては、銅やアルミニウムなどの集電体表面に、グラファイト等の負極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。
【0005】
上記正極板または負極板である電極板を製造するには、まず、正極活物質粒子または負極活物質粒子である電極活物質粒子、樹脂製バインダー、あるいはさらに、必要に応じて導電材やその他の材料を用い、溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状の電極活物質層形成液を調製する。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥させて集電体上に塗膜を形成し、プレスすることにより電極活物質層を備える電極板が形成される(たとえば、特許文献1、または特許文献2)。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される電極活物質粒子は、該液に分散する粒子状の金属化合物であって、それ自体だけでは、集電体表面に塗布され、乾燥させ、プレスされても該集電体表面に固着され難く、集電体からすぐに剥離してしまう。そこで、電極活物質層を形成する場合には、樹脂製バインダーを電極活物質層形成液に添加し、樹脂製バインダーにより、電極活物質粒子を集電体上に固着させるとともに、電極活物質粒子同士を固着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、特許文献2に提案されている方法により、電極活物質層を形成した場合には、高出入力特性が必要とされる分野における要求を満足できる程度までインピーダンスを下げることができない。
【0009】
また、電池充電時には、正極に電圧が印加されると、正極では電子が欠乏した状態になり、負極には外部回路を経て電子が送り込まれる。その際、正極活物質中のアルカリ金属原子は電子を奪われアルカリ金属イオンになる。次いで、上記アルカリ金属イオンは、電解液を通って負極に引き寄せられる。正極は、電子が欠乏した状態が継続するので収蔵されているアルカリ金属原子が電子を奪われ新たなアルカリ金属イオンが発生する。すると、またアルカリ金属イオンは負極に移動する。負極に移動したアルカリ金属イオンは、負極表面で電子を与えられ、元の電気的に中性なアルカリ金属原子に戻り負極に収蔵される。放電時は、負極中のアルカリ金属原子がイオン化されアルカリ金属イオンが発生し、このアルカリ金属イオンが電解液を通して、正極に移動し、正極から電子をもらってアルカリ金属原子に戻り正極活物質に吸蔵される。
【0010】
また、上記の如く負極にグラファイト等が使用される一般的な非水電解液二次電池では、最初の充電時に(初期充電時)に、非水電解液に含まれている溶媒や溶質(アルカリ金属イオン)と負極活物質とが反応し、負極の表面にSEI(Solid Electrolyte Interface)被膜が形成される。そして、この形成されたSEI被膜によって負極活物質が非水電解液を還元することを防止している。
【0011】
しかしながら、このSEI被膜の形成は、非水電解液に含まれている溶媒のみならず、その反応に、非水電解液を通って負極に引き寄せられるアルカリ金属イオンが消費される。そして、SEI被膜の形成に消費されたアルカリ金属イオンは、その後の充放電反応に寄与することができず、初期充放電効率は低下することとなる。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、非水電解液二次電池用正極板において、出入力特性および、初期充放電効率に優れた正極板を提供することを目的とし、また、かかる正極板を用いることによって出入力特性および、初期充放電効率に優れた非水電解液二次電池を実現すること、およびかかる正極板を製造する方法、並びに、出入力特性および、初期充放電効率に優れた非水電解液二次電池を備える電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、前記電極活物質層が、電極活物質粒子と、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物と、を含有しており、前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記金属酸化物によって固着され、前記金属酸化物のアルカリ金属イオン放出電位が、前記電極活物質粒子のアルカリ金属イオン放出電位よりも低いことを特徴とする。
【0014】
また、前記金属酸化物が、リチウム複合酸化物であってもよい。また、前記金属酸化物が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される1種以上の金属と、リチウムとの複合酸化物であってもよい。
【0015】
また、前記電極活物質層は、隣り合うアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいてもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明は、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、前記正極板が上記の特徴を有する非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の方法は、電極活物質粒子と、加熱されることで前記電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低く、且つアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物が前記電極活物質となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、前記金属元素含有化合物として、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、およびチタンのいずれかから選択される金属を含有する金属塩を1種以上と、リチウム塩とを用いることとしてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するための本発明は、収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、前記非水電解液二次電池が、上記の特徴を有する非水電解液二次電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の非水電解液二次電池用正極板(以下、単に「電極板」ともいう)は、電極活物質粒子と集電体、および電極活物質粒子同士を、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物によって固着させている。これにより、正極板のインピーダンスを低下させることができ、出入力特性を向上させることができる。さらに、この金属酸化物は、上記の作用効果に加え、電極活物質粒子よりも、アルカリ金属イオン放出電位が低い。したがって、初期充電時には、金属酸化物から先にアルカリ金属イオンが放出され、このアルカリ金属イオンがSEI被膜の形成に消費される。したがって、電極活物質粒子から放出されるアルカリ金属イオンはSEI被膜の形成に何ら消費されないことから、初期充放電効率の向上を図ることができる。
【0021】
また、本発明の非水電解液二次電池によれば、出入力特性、及び初期充放電効率が図られた非水電解液二次電池を提供することができる。
【0022】
また本発明の非水電解液二次電池用正極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)によれば、容易な方法、且つ、汎用の材料で、出入力特性、および初期充放電効率の向上が図られた、非水電解液二次電池用正極板を製造することができる。
【0023】
また、本発明の電池パックによれば、上記の作用効果が図られた電池パックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の非水電解液二次電池用正極板の断面図である。
【図2】アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図3】アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示さない金属酸化物を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図4】本発明の非水電解液二次電池の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の電池パックの一例を示す断面分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の非水電解液二次電池用正極板について図1(a)、(b)を用いて具体的に説明する。図1(a)、(b)は本発明の非水電解液二次電池用正極板の断面図である。なお、以下の説明において、特に断りがない場合には、本発明の非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に説明する。
【0026】
(非水電解液二次電池用正極板)
図1(a)、(b)に示すように、本発明の非水電解液二次電池用正極板10は、集電体1と、集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備え、電極活物質層2は、電極活物質粒子21と、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22と、を含有している。
【0027】
(集電体)
本発明に用いられる集電体1は、一般的に非水電解液二次電池用正極板の集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔などの単体又は合金から形成された集電体を好ましく用いることができる。なお、本発明に用いられる集電体1は、必要に応じて電極活物質層2の形成が予定される面(集電体の表面)において表面加工処理がなされている集電体であってもよい。その表面に表面加工処理がなされている集電体1としては、導電性物質が集電機能を有する材料の表面に積層された集電体、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理がなされた集電体等が挙げられる。すなわち、本発明の集電体1は、集電機能を有する材料のみから形成される集電体のみならず、その表面に導電性を担保するための物質が積層されたものや、何らかの表面処理がなされたものも含まれる。また、本発明でいう集電体の表面とは、集電機能を有する材料のみから形成される集電体1にあっては、集電機能を有する材料の表面をいい、集電機能を有する材料の表面の全体に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、該表面加工処理面や、導電性物質の表面をいう。また、集電機能を有する材料の表面の一部に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、表面加工処理面や、導電性物質の表面、または、これらの表面加工処理又は導電性物質が積層されていない部分(つまり、集電機能を有する材料表面)をいう。
【0028】
集電体1の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜100μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0029】
(電極活物質層)
本発明における電極活物質層2は、電極活物質粒子21と、集電体1と電極活物質粒子21、および電極活物質粒子21同士を固着させるためのアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22と、を含有している。
【0030】
電極活物質層2の層厚について特に限定はなく、正極板に求められる電気容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができ、一般的には、300nm以上200μm以下程度である。特に、本発明は、金属酸化物の存在により、電極活物質層2の層厚を上げることなく高容量化に対する要請を満たすことができ、電極活物質層2の層厚をさらに薄くすることも可能である。
【0031】
また、電極活物質層2は、電解液が浸透可能な程度に空隙が存在していることが好ましく、空隙率が10%以上70%以下であることが好ましい。
【0032】
以下に、本発明における電極活物質層2中に含有される物質について具体的に説明する。
【0033】
<電極活物質粒子>
電極活物質粒子21は、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す活物質としての機能を有し、且つアルカリ金属イオン放出電位が、後述するアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物22よりも高いとの条件を満たす限り、一般的に非水電解液二次電池用正極板において用いられる充放電可能な電極活物質粒子を適宜選択して用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池における、電極活物質粒子21の具体的な例としては、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO2、Li4Ti512、LiFePO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.80Co0.15Al0.052、などのリチウム遷移金属複合酸化物などの電極活物質粒子を挙げることができる。また、ナトリウムイオン二次電池における、電極活物質粒子21の具体的な例としては、NaCoO2、NaNi0.3Mn0.72、NaNi0.1Cr0.92などの電極活物質粒子を挙げることができる。
【0034】
本発明に用いられる電極活物質粒子21の粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。
【0035】
なお、本発明及び本明細書に示す電極活物質粒子21の粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒子径(体積中位粒径:D50)である。また、電極活物質層中に含有された電極活物質粒子21の粒子径は、測定された電子顕微鏡観察結果のデータを、粒子認識ツールを用いて識別し、認識された粒子の画像から取得した形状データをもとに粒度分布のグラフを作成し、この粒度分布のグラフから算出することができる。粒度分布のグラフは、例えば、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて作成可能である。
【0036】
<アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物>
図1に示すように、本発明の正極板10を構成する電極活物質層2には、集電体1と電極活物質粒子21、および電極活物質粒子同士を固着させるための、いわば結着剤として機能するアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22が含有されていることを特徴とするとともに、この金属酸化物22のアルカリ金属イオン放出電位が、電極活物質粒子21のアルカリ金属イオン放出電位よりも低いことを特徴とする。以下、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22を、単に金属酸化物22という場合がある。
【0037】
本発明において、電極活物質粒子21と集電体1、および電極活物質粒子同士21が、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22によって固着される、という場合には、以下の2つの態様を含む。第1の固着態様は、被固着物間(例えば、電極活物質粒子21と集電体1との間、電極活物質粒子21間、あるいは導電材を使用する場合には、導電材と電極活物質粒子21間、導電材粒子間など)に、金属酸化物22が介在して両者を固着させる態様である。第2の固着態様は、被固着物同士が直接接触し、接触部分を囲んで金属酸化物22が存在することによって、被固着物同士を固着させる態様である。本発明では、電極活物質層中において、上記の第1の固着態様、および第2の固着態様の何れかの態様、又は双方の態様が存在している。特に、電極活物質層中に含まれる電極活物質粒子21の粒子径が小さくなるほど、第2の固着態様が増える傾向にある。
【0038】
金属酸化物22は、電極活物質層中に上記の第1の固着態様、あるいは第2の固着態様で被固着物間を固着させるような形状で存在していればよく、金属酸化物22の大きさ、形状について特に限定されることはない。例えば、金属酸化物22が、微小な粒子状であって、多数の微小な粒子状の金属酸化物22が、電極活物質粒子21の1つ、又は2つ以上の集合体の全面又は一部を取り囲むように存在していてもよい。
【0039】
特に、図1(b)に示すように、電極活物質層2は、隣り合う金属酸化物22同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいることが好ましい。この構成により、出入力特性を向上させることができる。上述のとおり、本発明における金属酸化物22は、電極活物質粒子21を集電体1上に固着させるためのものであり、図1(b)に示すように、金属酸化物22同士の少なくとも一部において、互いに結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含ませることで、電極活物質層2の膜密着性が向上するものと推察される。そして、この膜密着性の向上が出入力特性の向上に寄与するものと思われる。
【0040】
また、電極活物質層2の膜密着性を向上させるという観点からは、隣り合う金属酸化物22同士の結晶格子が連続する部分は、電極活物質層2に有意に存在することがより望ましい。尚、本発明において結着物質同士の結晶格子が連続するか否かは、透過型電子顕微鏡で電極活物質層における隣り合う結着物質の断面の結晶格子を観察することによって確認することができる。
【0041】
本発明の電極活物質層において、隣り合う金属酸化物22同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成するためには、後述する本発明の製造方法に従い本発明の正極板を製造することが望ましい。即ち、本発明の製造方法は、電極活物質層形成液を集電体上に塗布して塗膜を形成し、加熱などの手段を実施することによって該塗膜から電極活物質層を形成する。その際、該集電体上において、電極活物質粒子の周囲に存在する金属元素含有化合物が熱分解、酸化などの反応を起こして、電極活物質粒子の周囲に結着物質である金属酸化物が生成される。このとき、隣接する結着物質同士(あるいはその前駆体)の一部が接合していると、該接合部分において、両者の結晶成長が同時に進行し易い。上記接合部分において結晶成長が同時に進行する結果、本発明の電極活物質層において、隣り合う結着物質同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成される。
【0042】
また、金属酸化物22が非粒子状であって、電極活物質粒子21と集電体1との間、電極活物質粒子21間を、空隙を残して充填する連続体であってもよい。あるいは、金属酸化物22が、電極活物質粒子21の2つ以上の集合体を包囲する膜状、ひだ状、またはこぶ状の連続的な被覆層を形成していてもよい。また、金属酸化物22の表面は、走査型電子顕微鏡レベルで観察した際に、例えば、滑らかな状態で観察されるもの、無数の突起が密集しているもの、粒子間のあるもの、あるいはこれらの組合せなどであってもよく、その表面状態について何ら限定されることはない。つまり、本発明における金属酸化物22は、電極活物質粒子21の少なくとも一部を包囲し、かつ金属酸化物22同士が繋がり、あるいは金属酸化物22が連続体であり、加えて、金属酸化物22のうち集電体1の近傍の金属酸化物22が集電体1の表面に繋がることによって電極活物質層2を構成するものであればよい。
【0043】
本発明の正極板10を構成するアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物は、上記の電極活物質粒子21よりもアルカリ金属イオン放出電位が低い。したがって、初期充電時に電極活物質粒子21から放出されるアルカリ金属イオンはSEI被膜の形成に消費されることなく、初期充放電効率を向上させることができる。
【0044】
以下に、前記の作用効果を奏するメカニズムについて、更に具体的に説明する。本発明の正極板10は、集電体1と電極活物質粒子21、及び電極活物質粒子21同士を固着させるための金属酸化物22が、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22であることから、初期充電時に、電極活物質層2を構成する電極活物質粒子21と、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22からアルカリ金属イオンが放出される反応がおきる。ここで、本発明は、このアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22のアルカリ金属イオン放出電位が、電極活物質粒子21のアルカリ金属イオン放出電位よりも低いので、初期充電開始直後にあっては、電極活物質粒子21がアルカリ金属イオンを放出すよりも早く、集電体1と電極活物質粒子21、及び電極活物質粒子21同士を固着しているアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22がアルカリ金属イオンを放出する。
【0045】
上記のように、初期充電時には、負極活物質のSEI被膜の形成にアルカリ金属イオンが消費されることから、本発明においては、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物22から放出されるアルカリ金属イオンが、初期充電時におけるSEI被膜の形成に消費されることとなる。そうすると、本発明の正極板10は、初期充電時に電極活物質粒子から放出されたアルカリ金属イオンはSEI被膜の形成に全く消費されず、例えば、電極活物質粒子21のみから電極活物質層が形成されている正極板と比べて、初期充放電効率の向上が実現されたと考えることができる。
【0046】
つまり、本発明は、集電体1と電極活物質粒子21、及び電極活物質粒子21同士を、アルカリ金属イオン脱離反応を示し、且つ電極活物質粒子21よりもアルカリ金属イオン放出電位の低い金属酸化物22で固着させることによって、出入力特性と、初期充放電効率を向上させている。
【0047】
なお、金属酸化物22のアルカリ金属イオン放出電位が、電極活物質粒子21よりも、高い場合には、初期充電時に電極活物質粒子から先にアルカリ金属イオンが放出され、この放出されたアルカリ金属イオンがSEI被膜の形成に消費される。そうすると、例えば、電極活物質粒子21のみから電極活物質層が形成されている正極板と同様に、初期充放電効率は低下することなり、本発明の如く初期充放電効率の向上が実現されたと考えることができない。
【0048】
上記のように、所謂結着物質としても機能する金属酸化物22には、電極活物質粒子21よりも先に、SEI被膜の形成に消費されるアルカリ金属イオンを放出させる役割を担わせることで、初期充放電効率の向上を図っている。したがって、金属酸化物22は、少なくともアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物であればよく、この金属酸化物が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す物質であることは、本発明において必ずしも必要とはされない。
【0049】
なお、金属酸化物22から放出されるアルカリ金属イオンは、SEI被膜の形成に消費されるものの、金属酸化物22から放出されるアルカリ金属イオンの全てが消費されるとは限らない。つまり、一旦金属酸化物22から放出されるアルカリ金属イオンによってSEI被膜が形成された場合には、金属酸化物から放出されるそれ以上のアルカリ金属イオンは消費されない。ここで、金属酸化物22が、アルカリ金属イオン脱離反応のみを示し、アルカリ金属イオン挿入反応を示さない場合には、金属酸化物22から放出され、SEI被膜の形成に消費されなかったアルカリ金属イオンを後の充放電反応に寄与させることができなくなる。このような点を考慮すると、金属酸化物22が、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示し、活物質としての機能を奏する金属酸化物22であることがより好ましい。アルカリ金属イオン脱離反応に加え、アルカリ金属イオン挿入反応を示す金属酸化物22を採用することで、正極板10の電気容量は、「電極活物質粒子21の電気容量」+「初期充電後の金属酸化物22の電気容量」となり増加する。
【0050】
アルカリ金属イオン脱離反応に加え、アルカリ金属イオン挿入反応を示す金属酸化物22(充放電可能な金属酸化物22)としては、例えば、リチウムイオン二次電池用正極板に用いる場合にあっては、リチウム複合酸化物を用いることができる。中でも、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される1種以上の金属と、リチウムとの複合酸化物であるLiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO2、Li4Ti512、LiFePO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.80Co0.15Al0.052、などのリチウム遷移金属複合酸化物などを好ましく用いることができる。なお、本発明は、金属酸化物22が、少なくとも電極活物質粒子21よりもアルカリ金属イオン放出電位が高い金属酸化物であることを条件とするものであり、用いられる電極活物質粒子21に応じて使用可能な金属酸化物22は異なる。また、本発明において、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物には、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物も当然に含まれる。
【0051】
本発明における、電極活物質粒子21、および金属酸化物22のアルカリ金属イオン放出電位とは、アルカリ金属イオン脱離反応に相当する酸化が始まる電位を意味する。そして、このアルカリ金属イオン放出電位は、電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー:CV)法により確認することができる。電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー:CV)法とは、電極活物質の適切な電圧範囲(例えば、A1(V)〜A2(V))を、走査速度:1mV/秒で、A1(V)からA2(V)まで掃引したのち、再びA1(V)まで戻す作業を3回繰り返しアルカリ金属イオン挿入脱離反応の有無を確認する試験である。なお、適切な電圧範囲とは、サイクリックボルタンメトリー試験において、試験に用いられるアルカリ金属イオンの挿入脱離反応を示すピークの有無が確認できる程度の電圧範囲を意味する。
【0052】
具体的に、電極活物質粒子21、及び金属酸化物22がLiMn24である場合を例に挙げてアルカリ金属イオン(リチウムイオン)放出電位について説明する。電極活物質粒子21、金属酸化物22がLiMn24である場合には、走査速度:1mV/秒で適切な電圧範囲である3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3回程度繰り返す。このとき、図2に示すように、約3.75V付近からLiMn24のアルカリ金属イオン(リチウムイオン)脱離反応に相当する酸化が始まり約3.9V付近に酸化ピークが、約4.1V付近にアルカリ金属イオン(リチウムイオン)挿入反応に相当する還元ピークが出現し、アルカリ金属イオンの挿入脱離反応の有無を確認することができる。本発明におけるアルカリ金属イオン放出電位は、アルカリ金属イオン脱離反応に相当する酸化が始まる電位であることから、活物質がLiMn24である場合には、3.75Vがアルカリ金属イオン放出電位となる。同様にして、他の活物質についてもアルカリ金属イオン放出電位の確認を行うことができる。
【0053】
上記の方法にしたがって算出された金属酸化物のアルカリ金属イオン放出電位を以下に示す。
Li4Ti512・・・1.3V
LiFeO2・・・3.0V
LiFePO4・・・3.1V
LiNi0.80Co0.15Al0.052・・・3.3V
LiNiO2・・・3.5V
LiCoO2・・・3.6V
LiNi1/3Mn1/3Co1/32・・・3.65V
LiMn24・・・3.75V
【0054】
このような、アルカリ金属イオン放出電位の大小に基づいて、電極活物質粒子と、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物の組み合わせを決定することができる。具体的には、電極活物質粒子21を選択し、アルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物として、該選択された電極活物質粒子よりもリチウム放出電位の低い金属酸化物を選択すればよい。
【0055】
なお、本発明の正極板を構成する金属酸化物22としては、上記に挙げた物質以外であっても(1)アルカリ金属イオン脱離反応を示すものであり、(2)集電体1と電極活物質粒子21、および電極活物質粒子21同士を固着させることができ、(3)さらに電極活物質粒子21よりもアルカリ金属イオン放出電位が低いものであること、という3つの条件を満たすものであればよく、上記に挙げた物質に限定されるものではない。例えば、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどの金属元素の1種の金属酸化物、または2種以上の金属元素を含む複合金属酸化物であって、上記3つの条件を満たすものであれば、本発明の金属酸化物22として用いることができる。
【0056】
また、金属酸化物22は、非晶質の金属酸化物22であってもよく、結晶性の金属酸化物22であってもよい。なお、非晶質の金属酸化物とは、金属酸化物、あるいは当該金属酸化物を含む試料を、X線回折装置で解析し、当該金属酸化物のピークが検出されなかった場合を意味する。また、結晶性の金属酸化物とは、金属酸化物、あるいは当該金属酸化物を含む試料を、X線回折装置で解析し、当該金属酸化物のピークが検出された場合を意味する。
【0057】
また、電極活物質層2に含有される全ての金属酸化物22が、集電体1と電極活物質粒子21との固着、及び電極活物質粒子21同士の固着に寄与されている必要はない。例えば、電極活物質粒子21と固着している金属酸化物22が、集電体1、又は電極活物質粒子21と固着しないように存在していても良い。
【0058】
(配合比率)
本発明において、電極活物質層2中に含有される電極活物質粒子21と金属酸化物22との配合比率について特に限定されることはなく、使用される電極活物質粒子21の種類や大きさ、金属酸化物22に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。
【0059】
一方で、結着物質として作用する金属酸化物22の含有量が少なすぎる場合には、集電体1と電極活物質粒子22、および電極活物質粒子22同士の固着力を所望の程度まで上げることができなくなるおそれが生じうる。したがって、この点を考慮すると、電極活物質粒子21の質量比率を100質量部としたときに、金属酸化物22の質量比率が、1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0060】
また、本発明は、いわゆる結着物質として樹脂製のバインダーを用いることを禁止するものではなく、樹脂製のバインダーと金属酸化物22とを併せて用い、これらの結着物質によって被固着物間を固着させることとしてもよい。なお、いわゆる結着物質として樹脂製のバインダーと金属酸化物22を併せて用いる場合において、結着物質の全質量(樹脂製のバインダーの全質量+金属酸化物22の全質量)に対して、金属酸化物22が占める割合が多くなるほど、出入力特性は向上し、また電池全体の容量も増大する。このような点を考慮すると、いわゆる結着物質の全質量に対し、金属酸化物22の占める割合は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましい。無論、当該範囲以外である場合であっても、金属酸化物22が含有されている分だけ、出入力特性は向上することは言うまでもない。また、金属酸化物22がアルカリ金属イオン挿入脱離反応を示す金属酸化物である場合には、この分だけ全体の電池容量が増大する。
【0061】
また、電極活物質層中に含有されている金属酸化物がアルカリ金属イオン脱離反応を示すか否かについては、上述のCV法により確認することができる。即ち、電極活物質層を削ってサンプルを作成し、該サンプルの組成分析を実施することにより、サンプル中に、いかなる金属酸化物が含有されているかを推定することができる。そして、推定された金属酸化物よりなる膜を、ガラスなどの基板上に形成し、これをサイクリックボルタンメトリー試験に供することにより、当該金属酸化物がアルカリ金属イオン脱離反応を示すか示さないかを確認することができる。具体的には、金属酸化物22がアルカリ金属イオン脱離反応を示す場合には、図2に示すように、脱離反応に相当する酸化ピークが出現する。一方、アルカリ金属イオン脱離反応を示さない金属酸化物にあっては、図3に示すように、脱離反応に相当する酸化ピークが出現しない。
【0062】
(その他の材料)
上記電極活物質層2は、電極活物質粒子21、金属酸化物22のみから構成されていてもよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させて形成してもよい。たとえば、本発明によれば、カーボンブラック等の導電性の炭素材料に例示される導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、活物質粒子の種類などによっては、導電材を使用することとしてもよい。
【0063】
(非水電解液二次電池用正極板の製造方法)
次に、本発明の非水電解液二次電池用正極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある)について説明する。本発明の製造方法は、電極活物質粒子と、加熱されることで電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低く、且つアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、塗布工程で形成された塗膜を、金属元素含有化合物が金属酸化物となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
【0064】
本発明の製造方法によれば、上述した本発明の正極板を歩留まり良く製造することができる。以下、具体的に説明する。
【0065】
(塗布工程)
塗布工程は、電極活物質粒子と、加熱されることで電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低く、且つアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物とが含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する工程である。
【0066】
<電極活物質層形成液の調製>
電極活物質層形成液の調製に用いられる電極活物質粒子は、上記で説明した電極活物質粒子と同様のものを使用することができ、ここでの説明は省略する。なお、本発明の製造方法において、用いられる電極活物質粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができることも上述と同様である。
【0067】
また、電極活物質層形成液中には、加熱されることで電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低く、且つアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物が添加される。
【0068】
金属元素含有化合物は、電極活物質粒子と集電体、および電極活物質粒子同士を固着させるいわゆる結着物質としての機能を発揮する金属酸化物の前駆体である。したがって、電極活物質層形成液中に添加された状態で基板上に塗布され、加熱されることで、電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低い金属酸化物を生成することができるものであれば、いかなる金属元素含有化合物であってもよい。
【0069】
使用する結着物質前駆体から生成される金属酸化物が、アルカリ金属イオン脱離反応を示すか否かは、予備実験において、金属元素含有化合物を含有する溶液を基板上に塗布してこれを加熱することによって結着物質を形成し、上述するサイクリックボルタンメトリー法により確認することができる。
【0070】
上記金属元素含有化合物としては、リチウム元素含有化合物と、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄またはチタンから選択されるいずれかの金属元素を含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上とを好ましく用いることができる。金属元素含有化合物は、当該化合物内に炭素が含まれていない、無機金属元素含有化合物であってもよいし、あるいは当該化合物内に炭素が含まれて構成される有機金属元素含有化合物であってもよい。本発明および本明細書において、無機金属元素含有化合物及び有機金属含有化合物をあわせて、単に金属元素含有化合物という場合がある。
【0071】
また金属元素含有化合物としては、リチウム元素あるいはコバルト等の他の金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、硝酸塩は広範囲の種類の集電体に対して製膜性がよいので、好ましく使用される。
【0072】
例えば、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を固着させるための金属酸化物としてLiCoO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びCo元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物としては、例えば、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びりん酸リチウム等が挙げられ、また、Co元素含有化合物としては、例えば、塩化コバルト(II)六水和物、蟻酸コバルト(II)二水和物、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、しゅう酸コバルト(II)二水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)アンモニウム六水和物、亜硝酸コバルト(III)ナトリウム、及び硫酸コバルト(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びCo元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Co=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0073】
また例えば、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を固着させるための金属酸化物としてLiNiO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びNi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Ni元素含有化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)三水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、次亜りん酸ニッケル(II)六水和物、及び硫酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びNi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ni=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0074】
また例えば、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を固着させるための金属酸化物としてLiMn24を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びMn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Mn元素含有化合物としては、例えば、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Mn=X:1)は、特に限定されないが、0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0075】
また例えば、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を固着させるための金属酸化物としてLiFeO2を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びFe元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Fe元素含有化合物としては、例えば、塩化鉄(II)四水和物、クエン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、しゅう酸鉄(II)二水和物、硝酸鉄(III)九水和物、乳酸鉄(II)三水和物、及び硫酸鉄(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びFe元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Fe=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0076】
また例えば、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士を固着させるための金属酸化物としてLi4Ti512を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びTi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoO2を生成する場合と同様であり、また、Ti元素含有化合物としては、例えば、四塩化チタン、及びチタンアセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びTi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ti=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0077】
上述する電極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜5mol/L、特に0.1〜2mol/Lが好ましい。上記濃度を0.01mol/L以上とすることにより、集電体と該集電体表面で生成される電極活物質層とを良好に密着させることができ、活物質粒子の固着が図られる。また、上記濃度を、5mol/L以下とすることにより、上記電極活物質層形成液を集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜を形成することができる。
【0078】
また、上記電極活物質層形成液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、導電材、あるいは、電極活物質層形成液の粘度調整剤である有機物、その他の添加剤を配合してもよい。金属元素含有化合物を溶解させるための溶媒は、該金属元素含有化合物を溶解することができるものであればよく、従来公知の溶媒を適宜選択して用いることができる。例えば、水、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0079】
電極活物質層形成液を集電体上に塗布する方法について特に限定はなく、一般的な塗布方法を適宜選択して用いることができる。例えば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に電極活物質層形成液を塗布することができる。また、集電体の表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、上記の方法以外に手動で塗布することも可能である。なお、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層の成膜性をさらに改善することができる。
【0080】
また、電極活物質層形成液の塗布量について特に限定はないが、加熱後の厚みが、上記で説明した電極活物質層の厚みとなるような範囲で塗布されていることが好ましい。
【0081】
(加熱工程)
加熱工程は、上記で説明した塗布工程において形成された塗膜を加熱して溶媒を蒸発させるとともに、金属元素含有化合物から金属酸化物を生成する工程である。
【0082】
該加熱工程により、集電体と電極活物質粒子、及び電極活物質粒子同士は、該電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低い金属酸化物によって固着される。
【0083】
加熱工程における加熱温度については、用いられる金属元素含有化合物から金属酸化物を生成することができる温度であればよく、したがってこれらの種類に応じて適宜設定することができる。具体的には、例えば、金属元素含有化合物が熱分解される温度以上の温度で加熱することにより、金属酸化物を生成することができる。
【0084】
また、例えば、金属元素含有化合物が熱分解する温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、加熱方法について特に限定されることはない。例えば、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。
【0085】
また、上記加熱工程における加熱雰囲気についても、特に限定されず、正極板を製造するために用いられる材料や加熱温度、金属元素の酸素ポテンシャルなどを勘案して適宜決定することができる。例えば、空気雰囲気である場合には、特別な雰囲気の調整が必要なく、簡易に加熱工程を実施することができる点で好ましい。特に集電体としてアルミ箔を用いる場合には、空気雰囲気下において加熱工程を実施しても、該アルミ箔が酸化するおそれがないので、好ましく加熱工程を実施することができる。
【0086】
一方、集電体として銅箔を用いる場合には、空気雰囲気下で加熱工程を実施すると酸化してしまい、望ましくない。したがって、かかる場合には、不活性ガス雰囲気下、あるいは還元ガス雰囲気下あるいは不活性ガスと還元ガスの混合ガス雰囲気下で加熱することが好ましい。なお、酸素ガスが充分に含有されない雰囲気下で加熱工程を実施する場合において、電極活物質層中に金属酸化物からなる電極活物質を生成する場合には、金属元素含有化合物中における金属元素の酸化は、電極活物質層形成液中に含有される化合物中の酸素と金属元素とが結合することによって実現される必要があるので、使用する化合物中に酸素元素が含有される化合物を用いる必要がある。
【0087】
本発明の製造方法において、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気は、特に特定の雰囲気に限定されず、従来公知のこれらの雰囲気下において適宜本発明の製造方法を実施することができるが、たとえば、不活性ガス雰囲気としてはアルゴンガス、窒素ガス、還元ガス雰囲気としては、水素ガス、一酸化炭素ガス、あるいは上記不活性ガスと上記還元ガスを混合したガス雰囲気などが挙げられる。
【0088】
(非水電解液二次電池)
次に、図4を用いて本発明の非水電解液二次電池について説明する。なお、図4は、本発明の非水電解液二次電池100の一例を示す概略図である。図4に示すように、本発明の非水電解液二次電池100は、集電体1の一方面側に電極活物質層2が設けられてなる正極板10、及び、これに組合される集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる負極板50と、正極板10と負極板50との間に設けられるセパレータ70とから構成され、これらが、外装81、82で構成される容器内に収容され、かつ、容器内に非水電解液90が充填された状態で密封された構成をとる。
【0089】
ここで、本発明の非水電解液二次電池は、正極板として上記で説明した非水電解液二次電池用正極板10を必須の構成として用いられている点に特徴を有する。本発明の非水電解液二次電池は、この要件を具備するものであれば他の要件について特に限定はなく、従来公知の負極板、非水電解液、容器を適宜選択して用いることができ、図4に示す形態に限定されるものではない。なお、本発明の非水電解液二次電池用正極板については、上記で説明した通りであり、詳細な説明は省略する。
【0090】
(正極板)
本発明の非水電解液二次電池は、正極板として、上述する本発明の正極板を用いることを特徴とする。本発明の正極板は、上述のとおり、過充電状態で充電が行われた場合であっても、電極活物質粒子21の結晶構造が崩れることがなく、放電容量が低下することや、発火が生ずることはない。また、出入力特性が高く、電池容量も高い。したがって、かかる正極板を用いることによって、本発明の非水電解液二次電池においても当該正極板の性能が発揮される。
【0091】
(負極板)
負極板は、従来公知の非水電解液二次電池用負極板を適宜選択して使用することができる。一般的に、従来公知の負極板としては、集電体として厚み5〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔等を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極板における電極活物質層形成液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。上記負極板における電極活物質層形成液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質、あるいは、Li4Ti512等の金属酸化物、金属リチウム及びその合金、スズ、シリコン、及びそれらの合金等、アルカリ金属イオンを吸蔵放出可能な材料などの負極活物質粒子、および樹脂製バインダー、必要に応じて導電材などの他の添加剤が分散混合されることが一般的であるが、これに限定されない。
【0092】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液90は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池に用いる場合には、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0093】
上記リチウム塩の例としては、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C654、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiOSO2CF3、LiOSO225、LiOSO249、LiOSO2511、LiOSO2613、及びLiOSO2715等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0094】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、及び鎖状エーテル類等が挙げられる。
【0095】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される電池の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して用いることができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板をセパレータを介して積層して固定し、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電解液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池が製造される。
【0096】
(電池パック)
次に、図5を用いて本発明の非水電解液二次電池100を用いて構成される電池パック200について説明する。なお、図5は、本発明の電池パック200の一例を示す概略分解図である。
【0097】
図5に示すように電池パック200は、非水電解液二次電池100が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。また、非水電解液二次電池の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が設けられている。
【0098】
保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38a、および、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子と非水電解液二次電池100とを導通させるための配線回路などが搭載されている。
【0099】
電池パック200は、本発明の正極板10が用いられた非水電解液二次電池100を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜選択することができる。図示しないが、電池パック200は、非水電解液二次電地100と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを適宜備えていてもよい。
【0100】
なお、本発明の正極板10を用いた本発明の非水電解液二次電池100は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を非水電解液二次電池に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。なお、上記で説明したいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の正極板10、あるいは本発明の非水電解液二次電池100の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0101】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部または%は質量基準である。
【0102】
(実施例1)
Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:5gを純水:5gに加えたものとTi(O−i−C372(C61432:16gを混合しリチウムイオン挿入脱離反応を示すリチウム複合酸化物を生成する原料液とした。次いで、上記原料液10gに、平均粒径4μmの正極活物質LiMn24:10gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)1.2g、炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF)0.25g、シランカップリング剤(KBM403):2gと、樹脂ヒドロキシエチルセルロース:0.2gを純水:9.8gに溶解した増粘剤水溶液:10gと、溶媒(メタノール)を混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。
【0103】
次いで、集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調整した電極活物質層形成液を、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が46g/m2となる量で、当該集電体の一面側にアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。その後、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から20分かけて450℃まで加熱し、集電体上に正極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。そして上記正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、これを実施例1の正極板とした。なお、マイクロメーターを用いて実施例1の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、24μmであった。
【0104】
(実施例2)
実施例1の原料液を、Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:10gと、Co(NO32・6H2O[分子量:290.9]:30gと、メタノール:20gを加えたものを混合した原料液に変更し、この原料液を8g用い、且つ最終的に得られる電極活物質層の電極質量が65g/m2となる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した以外は全て実施例1と同様にして、実施例2の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、なお、マイクロメーターを用いて実施例2の電極活物質の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、34μmであった。
【0105】
(実施例3)
樹脂材料としてPVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が0.1%となるようNMP溶媒に混合させて調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1の正極板を浸漬させ、電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1の正極板を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する実施例3の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて実施例3の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、25μmであった。
【0106】
(実施例4)
樹脂材料としてPVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が5%となるようNMP溶媒に混合させて調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1の正極板を浸漬させ、電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1の正極板を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する実施例4の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて実施例4の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、25μmであった。
【0107】
(比較例1)
正極活物質の原料として平均粒径4μmのLiMn24粉末:10g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック):1.2g、及び結着材としてPVDF(クレハ社製、KF#1320):0.9gを有機溶媒であるNMP(三菱化学社製):10gに溶解したPVDF樹脂溶液を分散させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間攪拌して、スラリー状の電極活物質層形成液を調製した。
【0108】
次いで、集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調製した電極活物質層形成液を、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が82g/m2となるように塗布し、オーブンを用いて、120℃の空気雰囲気下で20分乾燥させて、電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、120℃にて12時間、真空乾燥させて、比較例1の正極板を得た。なお、なお、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、なお、マイクロメーターを用いて比較例1の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、48μmであった。
【0109】
(比較例2)
Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:2gと、Mn(CH3COO)2・4H2O[分子量:245.09]:9gと、メタノール:11gを加えたものを混合しリチウムイオン挿入脱離反応を示すリチウム複合酸化物を生成する原料液とした。次いで、上記原料液6.5gに、平均粒径8μmの正極活物質LiCoO:10gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)1.2g、炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF)0.25g、シランカップリング剤(KBM403):2gと、樹脂ヒドロキシエチルセルロース:0.2gを純水:9.8gに溶解した増粘剤水溶液:10gと、溶媒(メタノール)を混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。
【0110】
次いで、集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調製した電極活物質層形成液を、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が50g/m2となる量で、当該集電体の一面側にアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。その後、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から60分かけて450℃まで加熱し、集電体上に正極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。そして上記正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、これを比較例2の正極板とした。なお、マイクロメーターを用いて比較例2の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、29μmであった。
【0111】
(電池特性評価)
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を加えて、当該溶質であるLiPF6の濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。正極板として上述のとおり作製した実施例および比較例を作用極として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、下記充放電試験に供した。
【0112】
(初期充電試験)
試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.2Vに達するまで定電流(1000μA)で定電流充電し、当該電圧が4.2Vに達した後は、電圧が4.2Vを上回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。なお、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。
【0113】
(初期放電試験)
その後、満充電された試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.2V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(1000μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、実施例及び比較例の正極板の初期放電容量(μAh)を求めた。
【0114】
(初期充放電効率(%)の算出)
初期充放電効率%={(初期充電容量)÷(初期放電容量)}×100より算出した上記実施例および比較例の結果を表1に示す。
【0115】
<直流抵抗値の測定>
実施例、及び比較例の試験セルを用い、放電レート1Cの条件で放電試験を実施した場合において、放電開始後10秒後の電圧値(V1)(mV)を測定した。さらに、放電レート10Cの条件で放電試験を実施した場合についても、放電開始後10秒後の電圧値(V10)(mV)を測定した。そして、これらの測定値(V1,V10)と、放電レート1C、10Cそれぞれに対応する定電流値(I1,I10)(mA)に基づき、次に示す式1により、直流抵抗値(Ω)を測定した。直流抵抗値(Ω)の測定結果を表1に併せて示す。
【0116】
【数1】

【0117】
【表1】

【0118】
上記の表からも分かるように、本発明の実施例1〜4の正極板は、何れも電極活物質粒子のアルカリ金属イオン放出電位よりも、金属酸化物のアルカリ金属イオン放出電位が低いため、金属酸化物を使用しない比較例1、電極活物質粒子のアルカリ金属イオン放出電位よりも金属酸化物のリチウム放出電位が高い比較例2に比べて、初期充放電効率の向上が図られたことが確認された。
【0119】
また、実施例1〜4は、金属酸化物を使用しない比較例1と比較して直流抵抗値が低く、出入力特性においても優れた効果を得ることが確認された。
【符号の説明】
【0120】
1、55・・・集電体
2、54・・・電極活物質層
10・・・非水電解液二次電池用正極板
21・・・電極活物質粒子
22・・・金属酸化物
32・・・正極端子
33・・・負極端子
34・・・保護回路基板
35・・・外部接続コネクタ
36a、36b・・・樹脂容器
37・・・端部ケース
38a、38b・・・外部接続窓
50・・・負極板
70・・・セパレータ
81、82・・・外装
90・・・非水電解液
100・・・非水電解液二次電池
200・・・電池パック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
前記電極活物質層が、電極活物質粒子と、アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物と、を含有しており、
前記電極活物質粒子と前記集電体、および前記電極活物質粒子同士は、前記金属酸化物によって固着され、
前記金属酸化物のアルカリ金属イオン放出電位が、前記電極活物質粒子のアルカリ金属イオン放出電位よりも低いことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板。
【請求項2】
前記金属酸化物が、リチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項3】
前記金属酸化物が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される1種以上の金属と、リチウムとの複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項4】
前記電極活物質層は、隣り合う前記アルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項5】
正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
前記正極板が請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項6】
電極活物質粒子と、加熱されることで前記電極活物質粒子よりもアルカリ金属イオン放出電位が低く、且つアルカリ金属イオン脱離反応を示す金属酸化物となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を、前記金属元素含有化合物が前記金属酸化物となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板の製造方法。
【請求項7】
前記金属元素含有化合物として、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、およびチタンのいずれかから選択される金属を含有する金属塩を1種以上と、リチウム塩とを用いることを特徴とする請求項6に記載の非水電解液二次電池用正極板の製造方法。
【請求項8】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
前記非水電解液二次電池が、請求項5に記載の非水電解液二次電池であることを特徴とする電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−94352(P2012−94352A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240196(P2010−240196)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】