説明

非水電解質二次電池

【課題】正極活物質層のエッジ部分を絶縁テープで被覆するが、このエッジ部分の厚さが厚くならないようにすると共に正極活物質層のエッジ部分で副反応が生成しないようにし、それによって正極活物質層のエッジ部分での短絡故障の発生を抑制すると共に保存特性に優れる非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池の正極極板11Aは、集電タブ11a、金属箔の露出部11f及び金属箔の露出部11fに隣接する正極活物質層11bの表面が絶縁テープ25aで被覆されており、前記絶縁テープ25aは糊材層26の形成領域と未形成領域とを有し、前記正極活物質層11bの表面は前記絶縁テープ25aの糊材層26の未形成領域で被覆されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、更に詳しくは、集電タブの形成領域が絶縁テープで覆われて保護されている正極極板を有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機に代表される携帯端末などの各種の電子機器などにおいては、その電源として様々なタイプの電池が使用されている。加えて、近年の環境保護運動の高まりを背景として二酸化炭素ガス等の排出規制が強化されており、自動車業界ではガソリン、ディーゼル油、天然ガス等の化石燃料を使用する自動車だけでなく、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の開発が活発に行われている。加えて、近年の化石燃料の価格の急激な高騰はこれらのEVやHEVの開発を進める追い風となっている。
【0003】
このような用途に使用される二次電池には、リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池、ニッケル−カドミウム蓄電池やニッケル−水素蓄電池などに代表されるアルカリ蓄電池が知られている。その中でもリチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池は、例えば、作動電圧が高く(3V以上)、水溶液系電池に比べて理論エネルギー密度が高く、しかも自己放電が少なく、さらに作動温度範囲が広く、耐漏液性も優れている、などの優れた特性を有していることから、その用途が拡大されて来ている。
【0004】
非水電解質二次電池は、例えば円筒状のものであれば、正極極板と負極極板とがセパレータを介して巻回された円筒状の巻回電極体を作製し、この円筒状の巻回電極体を円筒状の電池外装体内に挿入すると共に非水電解液を注入し、正極ないし負極端子が形成された封口体によって電池外装体の開口を密閉状態に封止することにより組み立てられている。また、角形のものであれば、円筒状の巻回電極体を押し潰して偏平状の巻回電極体とし、この偏平状の巻回電極体を角形の電池外装缶内に挿入すると共に電池外装体の開口部を正極ないし負極端子が形成された封口体で封止し、封口体に設けられた電解液注入孔から非水電解液を注入した後、この注入孔を封止することにより組み立てられている。
【0005】
このような巻回電極体を備える非水電解質二次電池は、正極活物質あるいは負極活物質層の形成領域と未形成領域との段差部分(エッジ部分)や集電タブの取り付け部等、巻回電極体を形成した際に局所的に加圧力が大きくなる部分やバリ等が生じやすい箇所(以下、「短絡想定位置」という。)での短絡の発生率が大きくなる。このため、このような短絡想定位置に絶縁テープを貼着し、短絡想定位置での対向電極との接触による短絡を未然に防止することが行われている(下記特許文献1及び2参照)。
【0006】
ここで下記特許文献1に従来例として記載されている非水電解質二次電池の正極極板及び負極極板の構成について図6を用いて説明する。なお、図6Aは下記特許文献1に開示されている正極極板の平面図であり、図6Bは同じく負極極板の平面図である。
【0007】
下記特許文献1に開示されている正極極板51は、正極活物質層52の一部を取り除いた正極芯体露出部53に正極タブ54の一端側が接続されており、この正極活物質層52のエッジ部分、正極タブ54及び正極芯体露出部53の表面が糊材層を有する絶縁テープ55で被覆されている。同じく負極極板56は、負極活物質層57の一部を取り除いた負極芯体露出部58に負極タブ59の一端側が接続されており、この負極活物質層57のエッジ部分、負極タブ59及び負極芯体露出部58の表面が糊材層を有する絶縁テープ60で被覆されている。
【0008】
このような構成とすると、糊材層を有する絶縁テープ55及び60によって、正極活物質層52のエッジ部分、正極芯体露出部53と正極タブ54との間、負極活物質層57のエッジ部分、負極芯体露出部58と負極タブ59との間に生じる段差を滑らかにすることができる。そのため、下記特許文献1に開示されている発明では、正極タブ54ないし負極タブ59を裁断する際に生じるバリや、正極タブ54と正極芯体露出部53との間の段差、負極タブ59と負極芯体露出部58との間の段差、正極活物質層52ないし負極活物質層57のエッジ部分の段差等に起因する他方の電極との間の短絡の発生を抑制することができるという効果を生じるものである。
【特許文献1】特開2003−132875号公報
【特許文献2】特開2005−235414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような構成を採用すると、正極極板51側において、正極活物質層52、糊材層を有する絶縁テープ55及びセパレータが接触する部分の近傍において、セパレータ中に副反応生成物と思われる堆積物の存在が確認されている(上記特許文献1の段落[0007]〜[0008]参照)。このセパレータ中の堆積物は非水電解質二次電池の保存特性の低下の原因となる。このような副反応が生じる原因としては、絶縁テープの糊材層が正極活物質層の表面にしみ出し、本来の充放電反応を阻害しているためと考えられている。また、正極活物質のエッジ部分は、正極活物質層と絶縁テープ及び糊材層が重なっているので正極極板で最も厚い箇所となり、巻回電極体を形成した際には他の部分よりも圧力が強く印加される状態となる。そのため、正極活物質層のエッジ部分と対向しているセパレータは圧縮されてしまうので、これも上記保存特性の低下に繋がっているものと考えられている。
【0010】
このような問題点を解決するため、上記特許文献1に開示されている発明では、絶縁テープの粘着剤層として特定の組成からなるものを用いると共に、絶縁テープが正極活物質層及び負極活物質層の表面を被覆しないようにしている。しかしながら、正極活物質層及び負極活物質層のエッジ部分に絶縁テープを被覆しないと、この正極活物質層及び負極活物質層のエッジ部分の段差に起因する短絡発生を抑制することができなくなる。そこで、上記特許文献2に開示されている発明では、糊材層を有する絶縁テープとして幅方向の両端側の厚さが薄くなっている異形断面の絶縁テープを使用し、少なくとも正極活物質層のエッジ部分を異形断面の絶縁テープの厚さが薄い部分で被覆し、正極芯体露出部は異形断面の絶縁テープの厚さが厚い部分で被覆するようにしている。そのため、特許文献2に開示されている発明では、正極活物質のエッジ部分の厚さを薄くすることができると共に、正極活物質のエッジ部分と正極芯体露出部の厚さの差が小さくなるので、負極極板及びセパレータと共に巻回電極体を作製しても、正極極板のエッジ部分の加わる圧力が小さくなるため、セパレータの圧縮が少なくなるという効果を奏するものである。
【0011】
しかしながら、上記特許文献2に開示されている発明では、正極活物質層のエッジ部分は厚さが薄いにしても糊材層を有する異形断面の絶縁テープで被覆しているため、糊材層の存在による副反応が生成する可能性がある。加えて、異形断面の絶縁テープは、普通に市販されているものではないため、非常に高価となるという問題点も存在している。このように、従来の技術は、何れも一長一短があり、正極活物質層のエッジ部分における上述の問題点を一挙に解決することができなかった。
【0012】
本発明は、上述の従来技術の問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、その目的は、正極活物質層のエッジ部分を絶縁テープで被覆するが、このエッジ部分の厚さが厚くならないようにすると共に正極活物質層のエッジ部分で副反応が生成しないようにし、それによって正極活物質層のエッジ部分での短絡故障の発生を抑制すると共に保存特性に優れる非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、金属箔の表面に正極活物質層が形成された正極極板及び負極活物質層が形成された負極極板を有し、前記正極極板及び負極極板は、共に前記金属箔の露出部が形成されていると共に前記金属箔の露出部に集電タブが取り付けられており、前記正極極板及び負極極板の間にセパレータを介在させて互いに巻回した巻回電極体を非水電解液と共に電池外装体内に配置した非水電解質二次電池において、前記正極極板は、前記集電タブ、前記金属箔の露出部及び前記金属箔の露出部に隣接する前記正極活物質層の表面が絶縁テープで被覆されており、前記絶縁テープは糊材層の形成領域と未形成領域とを有し、前記正極活物質層の表面は前記絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の非水電解質二次電池によれば、集電タブ、金属箔の露出部及び金属箔の露出部に隣接する正極活物質層の表面は絶縁テープで被覆されているので、集電タブを裁断する際に生じるバリや、正極活物質層のエッジ部分の段差に起因する短絡発生を抑制することができる。加えて、本発明の非水電解質二次電池おいては、正極活物質層の表面は絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されているので、従来例のような絶縁テープの糊材層の存在による副反応が生じることが無くなり、しかも、従来例の糊材層が存在している絶縁テープで被覆した場合と比すると糊材層分だけ厚さを薄くすることができる。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、従来例のような絶縁テープの糊材層の存在に起因する副反応が生じ難くなり、しかも、巻回電極体を作製した際のセパレータの圧縮が少なくなるので、保存特性に優れる非水電解質二次電池が得られる。
【0015】
なお、本発明の非水電解質二次電池においては、負極極板の構成として、正極極板の場合と同様の構成を採用し得るが、負極極板は副反応が生成し難いので従来例の場合と同様の構成を採用してもよい。また、本発明の非水電解質二次電池は、円筒状の巻回電極体や偏平状の巻回電極体に対しても適用可能である。
【0016】
なお、本発明の非水電解質二次電池においては、正極活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y(y=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiNiCoMn(x+y+z=1)、又はLiFePOなどの一種単独もしくは複数種を混合して使用することができる。なお、これらのリチウム遷移金属複合酸化物においては、遷移金属の一部が部分的にZr、Mg、Al、Ti等の異種元素で置換されているものであってもよい。
【0017】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、負極活物質としては炭素質材料からなるものを用いることができる。負極活物質としての炭素材料は、デンドライトが成長することがないために安全性が高く、更に初期効率に優れ、電位平坦性も良好であり、また、密度も高いという優れた性質を有している。この負極活物質としての炭素材料は、非水電解質二次電池用として広く用いられている人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛質材料が好ましい。
【0018】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、非水溶媒系電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類が特に好ましい。
【0019】
具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,4−ジオキサンなどを挙げることができる。
【0020】
なお、本発明における非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPFが特に好ましい。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0021】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記正極極板は、前記金属箔の両面に前記正極活物質層が形成されていると共に前記集電タブが形成されている面とは反対側の面にも金属箔の露出部が形成されており、前記反対側の面の前記金属箔の露出部及び前記金属箔の露出部に隣接する前記正極活物質層の表面も前記絶縁テープで被覆されており、前記反対側の面の前記正極活物質層の表面は前記絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されていることが好ましい。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池によれば、金属箔の両面に正極活物質層を形成したので、正極極板の両面で電極反応が進行するため、大電流出力が可能となると共に電池容量も大きくなる。また、本発明の非水電解質二次電池によれば、集電タブが形成されている面とは反対側の面にも金属箔の露出部を形成し、この金属箔の露出部及び金属箔の露出部に隣接する正極活物質層の表面は絶縁テープで被覆されているので、集電タブが形成されている面とは反対側の面においても正極活物質層のエッジ部分の段差に起因する短絡発生を抑制することができる。
【0023】
加えて、本発明の非水電解質二次電池おいては、集電タブが形成されている面とは反対側の面の正極活物質層の表面は絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されているので、従来例のような絶縁テープの糊材層の存在による副反応が生じることが無くなり、しかも、従来例の糊材層が存在している絶縁テープで被覆した場合と比すると糊材層分だけ厚さを薄くすることができる。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、従来例のような絶縁テープの糊材層の存在に起因する副反応が生じ難くなり、しかも、巻回電極体を作製した際のセパレータの圧縮が少なくなるので、保存特性に優れる非水電解質二次電池が得られる。
【0024】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記正極極板の金属箔の露出部は前記正極極板の巻き始め端部と巻終り端部との中間に形成されていることが好ましい。
【0025】
非水電解質二次電池の電池容量を大きくするためには、活物質層が形成される極板の金属箔の厚さを薄くし、極板巻回時の巻回径を小さくして、限られた電池体積内に多くの活物質を仕込むように設計がなされる。しかし、極板の巻き始め部分に金属箔の露出部があり、露出部に集電タブが形成されるときに、このような設計で電池を製造すると、金属箔が巻き取りテンションに耐えることができなくなり、極板破断することがある。本発明のように正極極板の金属箔の露出部が巻回電極体の巻き始め端部と巻終り端部との中間に形成されていると、極板巻き取り時に巻き始めの径を小さくしても、極板破断を抑制できるため、電池容量の大きい非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の非水電解質二次電池を実施例及び比較例を用いて説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池の一例として円筒形の非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの円筒形の非水電解質二次電池に特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【0027】
なお、図1は各実施例及び比較例に共通する円筒形の非水電解質二次電池の内部構造を示す正面図である。図2Aは実施例1で使用した正極極板の平面図であり、図2Bは図2AのIIB-IIB線の拡大断面図である。図3Aは比較例1で使用した正極極板の平面図であり、図3Bは図3AのIIIB−IIIB線の拡大断面図である。図4Aは実施例2で使用した正極極板の平面図であり、図4Bは図4AのIVB-IVB線の拡大断面図である。図5Aは比較例2で使用した正極極板の平面図であり、図5Bは図5AのVB-VB線の拡大断面図である。
【0028】
最初に各実施例及び比較例に共通する非水電解質二次電池の一例として、円筒形の非水電解質二次電池を図1を用いて説明する。この円筒形の非水電解質二次電池10は、正極極板11と負極極板12とがセパレータ13を介して渦巻状に巻回された巻回電極体14を用いている。巻回電極体14は、上下にそれぞれ絶縁板15及び16が配置され、負極端子を兼ねる有底で円筒形の電池外装缶17の内部に収容されている。この電池外装缶17は例えば表面にニッケルめっきをした鉄製のものが使用されている。
【0029】
そして、負極極板12の集電タブ12aが電池外装缶17の内側底部に溶接され、正極極板11の集電タブ11aは、絶縁板15に形成された開孔15aを通して安全弁18を兼ねる正極端子19の底板部に溶接されている。そして、電池外装缶17の内部には図示しない非水電解液が注入されており、電池外装缶17の開口部はガスケット20を介して安全弁18を兼ねる正極端子19によって密閉されている。
【0030】
[正極極板の作製]
正極極板11は次のようにして作製した。まず、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、正極導電剤としてアセチレンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)粉末を、正極活物質:アセチレンブラック:PVdF=94:3:3の質量比でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入、混練してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔製の正極芯体の両面にドクターブレード法により塗布した後、乾燥させて、正極芯体の両面に正極活物質層を形成した。その後、圧縮ローラを用いて圧縮し、正極極板11を作製した。作製された正極極板11は長さ688.5mm、幅56.8mm、厚さ148μmであった。なお、各実施例及び比較例の正極集電タブの取り付け状態の詳細については後述する。
【0031】
[負極極板の作製]
また、負極極板12は次のようにして作製した。まず、負極活物質としての黒鉛粉末と、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)(スチレン:ブタジエン=1:1)のディスパージョンを水に分散させ、更に、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加して負極活物質合剤スラリーを調製した。なお、この負極活物質合剤スラリーの乾燥質量比は、黒鉛:SBR:CMC=95:3:2とした。この負極活物質合剤スラリーを厚みが8μmの銅箔製の負極芯体の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥した後、圧縮ローラで圧縮して負極極板12を作製した。作製された負極極板12は長さ737.0mm、幅58.3mm、厚さ143μmであった。なお、各実施例及び比較例の負極集電タブの取り付け状態の詳細については後述する。
【0032】
[非水電解液の調製]
非水電解質としては、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)とをそれぞれ15:10:75 (体積比、20℃)となるように混合した混合溶媒にLiPFを1モル/リットルとなるように溶解したものを用いた。
【0033】
[巻回電極体の作製]
このようにして作製された正極極板には、後述するように、正極集電タブ及び絶縁テープを取り付け、また、負極極板には負極集電タブ及び絶縁テープを取り付け、正極極板と負極極板との間にポリエチレン製微多孔膜を挟んで互いに絶縁した状態で巻回して巻回電極体14を作製した。この巻回電極体を円筒形の電池外装缶17内に挿入した後、電解液を注入して電池外装缶17の開口部を封口することにより、直径18mm、高さ65mm、設計容量2600mAhの各実施例及び比較例に共通する円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0034】
[実施例1の正極極板]
実施例1の非水電解質二次電池用の正極極板11Aとしては、図2A及び図2Bに示すように、アルミニウム箔からなる正極芯体11cの巻き終わり側に正極活物質層11bが形成されていない第1の正極芯体露出部11dを形成すると共に、正極芯体11cの巻始め端部11eとの間に正極活物質層11bが形成されていない第2の正極芯体露出部11fを形成し、この第2の正極芯体露出部11fの一方側の面に正極集電タブ11aを取り付けたものを用いた。なお、第1の正極芯体露出部11d及び第2の正極芯体露出部11fは、共に正極芯体11cの両面に形成されている。
【0035】
更に、実施例1で使用した絶縁テープ25aは、厚さ25μmのポリイミドフィルムであり、幅方向の片面の中央部にのみ厚さ8μmのゴム系糊材層26が形成されており、幅方向の両側には糊材層26が形成されていない。そして、実施例1の正極極板11Aは、図2Bに示したように、絶縁テープ25aの糊材層26が形成されている部分で正極タブ11aの表面及び露出している第2の正極芯体露出部11fの表面を被覆し、この第2の正極芯体露出部11fに隣接する正極活物質層11bの表面の一部は絶縁テープ25aの糊材層26が形成されていない部分で被覆されている。また、負極極板12としては、従来例のものと同様に、巻き始め側に負極活物質層が形成されていない負極芯体露出部を形成し、この負極芯体露出部に負極タブを取り付け、負極タブ、負極芯体露出部及び負極芯体露出部の近傍の負極活物質層の表面を幅方向の片側全面に厚さ8μmの糊材層26が形成されている厚さ25μmのポリイミドフィルムからなる絶縁テープで被覆したものを用いた。
【0036】
[比較例1の正極極板]
比較例1の非水電解質二次電池用の正極極板11Bを図3A及び図3Bを用いて説明するが、比較例1の正極極板11bで使用した絶縁テープ25bは、従来例のものと同様に、幅方向の片側全面に厚さ8μmの糊材層26が形成されている厚さ25μmのポリイミドフィルムからなるものであり、比較例1の正極極板11Bのその他の構成は実施例1の正極極板11Aと同様である。そのため、図3A及び図3Bにおいては図2A及び図2Bと同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明を省略する。また、負極極板としては実施例1で使用したものと同様のものを使用した。
【0037】
[電池特性の測定]
実施例1及び比較例1の非水電解質二次電池のそれぞれについて、25℃において、1It=2600mAの定電流で電池電圧が4.20Vとなるまで充電し、その後4.20Vの定電圧で電流が1/50It=52mAとなるまで充電し、満充電状態とした。この満充電状態の電池を実施例1及び比較例1についてそれぞれ30個ずつ60℃の環境下で30日間保存し、保存前後の電池電圧を測定した、それぞれの測定値の平均値及び保存後の電圧のバラツキを表1に示した。なお、保存後の電圧のバラツキは、保存後に最も電圧が高い電池と最も電圧が低い電池との間の電圧差を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示した結果から、以下のことが分かる。すなわち、正極活物質層の表面を被覆する絶縁テープの糊材層を無くした実施例1の電池では、60℃保存試験後の電池電圧の低下量が糊材層が存在する比較例1の電池よりも低減されていると共に、電池電圧のバラツキも少なくなっている。このような実施例1の電池の良好な効果は、正極活物質上に位置する絶縁テープに糊材層が形成されていないため、正極活物質の表面に糊材層が存在する場合の副反応が抑制されたこと、及び、正極活物質層と絶縁テープとが重なっている部分の厚さが糊材層の部分の厚さ(両面で8μm×2=16μm)だけ薄くなったため、正極活物質層と絶縁テープとが重なっている部分で対向しているセパレータへの印加圧力が低下していることによるものと考えられる。
【0040】
[実施例2の正極極板]
実施例1の正極極板11Aとしては、正極芯体11cの巻き終わり側の第1の正極芯体露出部11dと巻き始め端部11eとの間に正極活物質層11bが形成されていない第2の正極芯体露出部11fを形成し、この第2の正極芯体露出部11fの一方側の面に正極集電タブ11aを取り付けたものを用いた例を示した。しかしながら、正極集電タブ11aは巻き始め端部11e側に設けることも可能である。このような正極集電タブ11aを巻き始め端部11e側に形成した実施例2の正極極板11Cを図4A及び図4Bを用いて説明する。なお、図4A及び図4Bにおいては図2A及び図2Bに示したものと同一の構成部分には同一の参照符号を付与して説明する。
【0041】
実施例2の非水電解質二次電池用の正極極板11Cは、アルミニウム箔からなる正極芯体11cの巻き終わり側に正極活物質層11bが形成されていない第1の正極芯体露出部11dを形成すると共に、正極芯体11cの巻始め端部11e側に正極活物質層11bが形成されていない第2の正極芯体露出部11gを形成し、この第2の正極芯体露出部11gの一方側の面に正極集電タブ11aを取り付けたものを用いた。なお、第1の正極芯体露出部11d及び第2の正極芯体露出部11gは、共に正極芯体11cの両面に形成されている。
【0042】
更に、実施例2で使用した絶縁テープ25cは、厚さ25μmのポリイミドフィルムであり、幅方向の片面の中央部及び一方側の端部には厚さ8μmのゴム系糊材層26が形成されており、幅方向の他方側の端部には糊材層26が形成されていない。そして、実施例2の正極極板11Cは、図4Bに示したように、絶縁テープ25cの糊材層26が形成されている部分で正極タブ11aの表面及び露出している第2の正極芯体露出部11gの表面を被覆し、この第2の正極芯体露出部11gに隣接する正極活物質層11bの表面の一部は絶縁テープ25cの糊材層26が形成されていない部分で被覆されている。また、負極極板12としては、実施例1のものと同様のものを使用した。
【0043】
[比較例2の正極極板]
比較例2の非水電解質二次電池用の正極極板11Dを図5A及び図5Bを用いて説明する。比較例2の正極極板11Dで使用した絶縁テープ25dは、従来例のものと同様に、幅方向の片側全面に厚さ8μmの糊材層26が形成されている厚さ25μmのポリイミドフィルムからなるものであり、比較例2の正極極板11Dのその他の構成は実施例2の正極極板11Cと同様である。そのため、図5A及び図5Bにおいては図4A及び図4Bと同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明を省略する。なお、負極極板12としては、実施例1のものと同様のものを使用した。
【0044】
実施例2の正極極板11Cを使用した非水電解質二次電池及び比較例2の正極極板11Dを使用した非水電解質二次電池を用い、実施例1及び比較例1の場合と同様にして、満充電状態で60℃の環境下に30日間保存し、保存前後の電池電圧を測定したところ、実質的に実施例1及び比較例1の電池の場合と同様の傾向が得られた。
【0045】
なお、上記各実施利及び比較例においては、円筒状の巻回電極体を使用した円筒状の非水電解質二次電池について説明したが、円筒状の巻回電極体を押し潰した偏平状の巻回電極体を使用した角形非水電解質二次電池の場合においても同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】各実施例及び比較例に共通する円筒形の非水電解質二次電池の内部構造を示す正面図である。
【図2】図2Aは実施例1で使用した正極極板の平面図であり、図2Bは図2AのIIB-IIB線の拡大断面図である。
【図3】図3Aは比較例1で使用した正極極板の平面図であり、図3Bは図3AのIIIB−IIIB線の拡大断面図である。
【図4】図4Aは実施例2で使用した正極極板の平面図であり、図4Bは図4AのIVB-IVB線の拡大断面図である。
【図5】図5Aは比較例2で使用した正極極板の平面図であり、図5Bは図5AのVB-VB線の拡大断面図である。
【図6】図6Aは従来例の正極極板の平面図であり、図6Bは同じく負極極板の平面図である。
【符号の説明】
【0047】
10:非水電解質二次電池 11、11A〜11D:正極極板 11a:正極集電タブ 11b:正極活物質層 11c:正極芯体 11d:第1の正極芯体露出部 11e:巻始め端部 11f、11g:第2の正極芯体露出部 12:負極極板 12a:負極集電タブ 13:セパレータ 14:巻回電極体 15:絶縁板 15a:開口 16:絶縁板 17:電池外装缶 18:安全弁 19:正極端子 20:ガスケット 25a〜25d:絶縁テープ 26:糊材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の表面に正極活物質層が形成された正極極板及び負極活物質層が形成された負極極板を有し、
前記正極極板及び負極極板は、共に前記金属箔の露出部が形成されていると共に前記金属箔の露出部に集電タブが取り付けられており、
前記正極極板及び負極極板の間にセパレータを介在させて互いに巻回した巻回電極体を非水電解液と共に電池外装体内に配置した非水電解質二次電池において、
前記正極極板は、前記集電タブ、前記金属箔の露出部及び前記金属箔の露出部に隣接する前記正極活物質層の表面が絶縁テープで被覆されており、
前記絶縁テープは糊材層の形成領域と未形成領域とを有し、
前記正極活物質層の表面は前記絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極極板は、前記金属箔の両面に前記正極活物質層が形成されていると共に前記集電タブが形成されている面とは反対側の面にも金属箔の露出部が形成されており、前記反対側の面の前記金属箔の露出部及び前記金属箔の露出部に隣接する前記正極活物質層の表面も前記絶縁テープで被覆されており、前記反対側の面の前記正極活物質層の表面は前記絶縁テープの糊材層の未形成領域で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記金属箔の露出部は前記正極極板の巻き始め端部と巻終り端部との中間に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−55906(P2010−55906A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218889(P2008−218889)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】