説明

非水電解質二次電池

【課題】充電状態で高温保存しても、容量低下の少ない非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極と、を有する電極体と、非水溶媒と電解質塩とを有する非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、前記正極上に、基材と、粘着作用を有する主剤を有する糊材と、からなる絶縁粘着テープが貼り付けられており、前記糊材を、赤外分光光度計を用いて、最大ピーク強度が透過率で5〜20%となるように測定した吸光度スペクトルにおいて、3040〜2835cm−1におけるC−H伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C−H)、1870〜1560cm−1におけるC=O伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C=O)とするとき、I(C=O)/I(C−H)で示されるピーク強度比が0.01以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の高機能化・小型化および軽量化が急速に進展している。これらの端末の駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
特に、帯状の正負電極を、セパレータを介して渦巻状に巻回してなる渦巻電極体を用いた非水電解質二次電池は、正負電極の対向面積が大きいため、大電流を取り出しやすい。このため、渦巻電極体を用いた非水電解質二次電池は、上記移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。また、大容量、大電流、高電圧が必要な機器に対しては、複数の電池を直列や並列に接続し、パック電池(組電池)に加工されたものが利用される。
【0004】
渦巻電極体に用いる正極は、箔状の正極芯体上に、正極活物質層を形成することにより作製される。また、正極外部端子と接続するための正極集電タブが、正極活物質層を形成していない芯体露出部に取り付けられる。
【0005】
正極集電タブが取り付けられた正極を用いて渦巻電極体を作製する場合、正極集電タブのバリがセパレータを突き破って負極と接触して内部短絡を引き起こすという問題があった。この問題を解決するため、正極集電タブ上に絶縁粘着テープを貼り付けてバリを覆い隠すことが行われている。また、負極の負極活物質層と正極の芯体露出部がセパレータを介して対向する部分は短絡が発生すると激しく反応することもあり、このような部分の正極上に絶縁粘着テープを貼り付けることもある。
【0006】
非水電解質電池に取り付ける絶縁粘着テープに関する技術としては、下記特許文献1、2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−132875号公報
【特許文献2】特開2006−286337号公報
【0008】
特許文献1は、フッ素系の樹脂からなる基材と、天然ゴム、イソブチルゴム、スチレンブタジエンゴムから選ばれる少なくとも一種の粘着材と、フタロシアニンを成分とする有機物、チタン及びアルミニウムの金属粉や酸化物から選ばれる顔料と、から構成される粘着テープを、正極板の活物質層と接触しないようにして正極リードを被覆する技術である。この技術によると、微小ショートによる電圧不良や電池容量の低下を抑制できるとされる。
【0009】
特許文献2は、電極体を保護し、又は絶縁し、あるいは巻解けの防止のいずれかの機能を有する、基材層とゴム系樹脂層とを有する薄板状部材を電極体に取り付ける技術である。この技術によると、高電位で使用しても、サイクル特性に優れた電池が得られるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、本発明者らが特許文献1の構成を用いて非水電解質二次電池を多数作製し、電池を高温下に保存したところ、保存後電池の残存容量や電圧にばらつきが生じた。そして、このような電池を複数直列接続してパック電池を形成したとき、パック電池内で1本の電池でも容量ばらつきが生じると、パック電池内の電池に過充電電池や過放電電池が発生し、そのパック電池の性能は著しく低下した。本発明者らがこの不具合の原因を調査したところ、非水電解質二次電池に使用する絶縁粘着テープに原因があり、非水電解質二次電池を高温環境で保存した場合には、正極に貼り付けた絶縁テープ近傍の負極活物質上やセパレータの微多孔中に、電池特性に悪影響を及ぼす副反応生成物が堆積し、これにより電池の保存特性が低下することを知った。本発明者らがさらに研究を行ったところ、絶縁粘着テープの糊材に含まれる特定の官能基が、電池内副反応に関与していることを知った。
【0011】
本発明は、上記に知見に基づき完成されたものであって、電池特性に悪影響を及ぼす副反応が起こらない絶縁粘着テープを用いてなる非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、正極と、負極と、を有する電極体と、非水溶媒と電解質塩とを有する非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、前記正極上に、基材と、粘着作用を有する主剤を有する糊材と、からなる絶縁粘着テープが貼り付けられており、前記糊材を、赤外分光光度計を用いて、最大ピーク強度が透過率で5〜20%となるように測定した吸光度スペクトルにおいて、3040〜2835cm−1におけるC−H伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C−H)、1870〜1560cm−1におけるC=O伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C=O)とするとき、I(C=O)/I(C−H)で示されるピーク強度比が0.01以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明者らが鋭意研究した結果、絶縁粘着テープを構成する糊材に、炭素−酸素二重結合(カルボニル基)が含まれている場合に、副反応生成物が生成することを知った。このメカニズムを以下に示す。
【0014】
充電状態の正極活物質と、非水電解質と、が反応すると、カチオンラジカルが生じる。このカチオンラジカルが、糊材に含まれる炭素−酸素二重結合を攻撃し、有機酸を生成させる。この有機酸が、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物に含まれる遷移金属(Co,Ni,Mn等)の溶出を促進し、絶縁粘着テープ近傍の負極またはセパレータ上に遷移金属化合物を堆積させる。この堆積物は導電性を持っており、正負極間を微小短絡させる。
【0015】
上記本発明の構成では、正極に貼り付ける絶縁粘着テープの糊材は、赤外分光光度計を用いて、最大ピーク強度が透過率で5〜20%となるように測定した吸光度スペクトルにおいて、3040〜2835cm−1におけるC−H伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C−H)、1870〜1560cm−1におけるC=O伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C=O)とするとき、I(C=O)/I(C−H)で示されるピーク強度比が0.01以下に規制されており、炭素−酸素二重結合(カルボニル基)がほとんど存在していない。このため、上述した問題が生じることがない。よって、充電状態で保存したときの保存特性が飛躍的に向上する。
【0016】
なお、このような問題は、絶縁粘着テープを負極側や渦巻電極体の最外周(巻解け防止)に貼り付けた場合には生じず、正極に貼り付ける場合に固有の問題である。
【0017】
この絶縁粘着テープは、正極集電タブ上や、正極活物質層と正極芯体露出部との境界等に貼り付けられる。
【0018】
ここで、糊材には、粘着作用を有する主剤が必須成分として含まれるが、着色を行う顔料やその他の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0019】
上記構成において、前記正極は、正極芯体上に正極活物質層が形成されており、且つ、前記正極芯体上に正極活物質層が形成されていない芯体露出部を有し、前記絶縁粘着テープは、前記芯体露出部と、前記正極活物質層の一部と、を覆うように貼り付けられている構成とすることができる。好ましくは、前記芯体露出部には、正極集電タブが取り付けられ、前記絶縁粘着テープは、前記正極集電タブと前記芯体露出部とが重なる部分と、前記芯体露出部と、前記正極活物質層の一部と、を覆うように貼り付けられている構成とすることができる。
【0020】
この構成によると、絶縁粘着テープが正極活物質層を覆うように貼り付けた部分は、絶縁粘着テープの主剤が直接正極活物質層と接触することになるので、本発明の効果が大きい。また、正極集電タブが絶縁粘着テープに覆われると、正極集電タブのバリに起因する内部短絡の発生を防止できる。
【0021】
上記基材としては、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレートからなる群より選択された少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0022】
上記主剤としては、ゴムを用いることが好ましい。より好ましくは、ブチルゴムを用いる。
【0023】
上記構成において、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、Li1−b(Mは、Co,Ni,Mnの少なくとも一種、Xは、Ti,Zr,Mg、Al,Snの少なくとも一種、0≦a≦1.1、0≦b≦0.03)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物を有する構成とすることができる。
【0024】
上述したように、本発明の構成によると、正極活物質から遷移金属の溶出が防止されるため、上記式で示される化合物を正極活物質として用いると、遷移金属の溶出のおそれがない非水電解質電池を実現できる。
【発明の効果】
【0025】
以上に説明したように、上記本発明によると、電池特性に悪影響を及ぼす副反応を起こすことなく、集電タブのバリ等による内部短絡を抑制できるので、非水電解質二次電池の保存特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明にかかる電池の断面部分解体斜視図である。
【図2】図2は、本発明に用いる正極を示す図である。
【図3】図3は、テープ1の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】図4は、テープ2の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、テープ3の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図6】図6は、I(C=O)/I(C−H)と30日保存後の残存容量のバラツキとの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明に用いる正極の芯体露出部形成位置の変形例を示す図である。
【図8】図8は、本発明に用いる正極の絶縁粘着テープ貼り付け位置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明は下記の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
(実施の形態)
図1を参照にして、実施の形態にかかる電池を説明する。図1は、本発明にかかる電池の断面部分解体斜視図であり、図2は、正極集電タブが取り付けられ、絶縁粘着テープが貼り付けられた正極を示す図である。
【0029】
図1に示すように、本発明にかかる電池は、正極3と負極4とセパレータ5とを備える電極体2が、円筒形の外装缶1内に挿入されている。外装缶1の開口部は封口板6により封口されている。また、負極4は負極集電タブ4aを介して外装缶1と電気的に接続されており、正極3は正極集電タブ3aを介して封口体6と電気的に接続されている。すなわち、外装缶1が負極外部端子を兼ね、封口体6が正極外部端子を兼ねる構造である。また、外装缶1内には、非水電解質が注液されている。
【0030】
図2に示すように、正極3は、正極芯体上に正極活物質層3dが形成されてなる。そして、正極芯体の一方の端部と、中間部には、正極活物質層3dが形成されていない芯体露出部3b,3cが設けられている。そして、中間部の芯体露出部3bには、正極集電タブ3aが取り付けられている。そして、正極集電タブ3aと芯体露出部3bとが重なる部分と、芯体露出部3bと、正極活物質層3dの一部と、を覆うように、絶縁粘着テープ3eが貼り付けられている。
【0031】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
〈絶縁保護テープ〉
ポリイミドからなる基材と、接着作用を有するブチルゴムからなる主剤に添加剤や顔料等が添加された糊剤と、を有する絶縁保護テープ1〜3を用意した。絶縁保護テープ1〜3の糊剤を、赤外分光光度計(パーキンエルマージャパン製Spectrum-One+Auto IMAGE)を用いて、最大ピーク強度が5〜20%となるようにして吸光度スペクトルを測定した。この結果を図3〜5に示す。なお、テープ1〜3は、糊材に含まれる顔料が、それぞれ異なっている。
【0033】
また、この吸光度スペクトルにおける、3040〜2835cm−1におけるC−H伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C−H)、1870〜1560cm−1におけるC=O伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C=O)とするとき、I(C=O)及びI(C=O)/I(C−H)で示されるピーク強度比を算出した。この結果を下記表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1及び図3〜5から、ピーク強度I(C=O)及びピーク強度比I(C=O)/I(C−H)は、ともに、テープ1<テープ2<テープ3の関係にあることがわかった。
【0036】
これらの絶縁粘着テープ1〜3を用いて、以下に示す方法により、実施例1、比較例1、2に係る非水電解質二次電池を組み立てた。また、絶縁粘着テープを用いることなく、参考例1に係る非水電解質二次電池を組み立てた。
【0037】
(実施例1)
〈正極の作製〉
正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、を質量比90:5:5で混合し、溶剤としてのN−メチルピロリドンに上記混合物を分散させて正極活物質スラリーとなした。この正極活物質スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極芯体に塗布し、芯体露出部3b,3cを有する正極活物質層3dを形成した。この後、乾燥、圧延し、所望のサイズに切断した。この後、中間部の芯体露出部3bに正極集電タブ3aを取り付け、さらに正極集電タブ上に絶縁粘着テープ3eとしての上記テープ1を図2に示すように貼り付け、正極3を作製した。この絶縁粘着テープは、芯体露出部3bよりも縦が2.7mm、横が2.5mm大きく、基材厚みが25μmのものを用いた。
【0038】
〈負極の作製〉
負極活物質としての黒鉛粉末と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースと、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムと、を質量比95:3:2で混合し、溶剤としての水に上記混合物を分散させて負極活物質スラリーとなした。この負極活物質スラリーを厚み8μmの銅箔からなる負極集電体に塗布し、芯体露出部を有する負極活物質層を形成した。この後、乾燥、圧延し、所望のサイズに切断した。この後、芯体露出部に負極集電タブ4aを取り付け、負極4を作製した。
【0039】
〈非水電解質の作製〉
エチレンカーボネートと、プロピレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、を体積比25:5:70(1気圧、25℃条件)で混合した混合溶媒に、溶質としてのLiPFを1.0M(モル/リットル)の割合で溶解し、非水電解質を作製した。
【0040】
〈電極体の作製〉
上記正極3と上記負極4とを、ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して渦巻状に巻回し、電極体を作製した。
【0041】
〈電池の組み立て〉
円筒形外装缶に上記電極体を挿入し、負極集電タブ4aと缶底とを接続した後、正極集電タブ3aと封口体とを接続し上記非水電解質を注液した。その後、円筒形外装缶の開口部を、ガスケットを介して封口体6によりカシメ封口して、電池径(直径)18mmで高さ65mmの実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
(比較例1)
絶縁保護テープとして上記テープ2を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
(比較例2)
絶縁保護テープとして上記テープ3を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
(参考例1)
絶縁保護テープを貼り付けなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして参考例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
(充電保存試験)
上記実施例1、比較例1、2、参考例1と同様にして、非水電解質二次電池をそれぞれ200個作製した。これらの電池について、定電流0.7It(1750mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧で電流が0.02It(42mA)となるまで充電した。これらの電池の25℃における電圧を測定した。この後、定電流1.0It(2500mA)で電圧が3.0Vとなるまで放電し、この放電容量(初期容量)を測定した。
【0046】
この後、これらの電池について、定電流0.7It(1750mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧で電流が0.02It(50mA)となるまで充電した。この後、これらの半数の電池(それぞれ100個)については60℃の恒温槽で7日間保存し、残りの半数の電池(それぞれ100個)については60℃の恒温槽で30日間保存した。保存後の電池を25℃となるまで冷却した後、電池電圧を測定した。この後、電池を定電流1.0Itで電圧が3.0Vとなるまで放電し、この放電容量(残存容量)を測定した。その後、定電流0.7It(1750mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧で電流が0.02It(50mA)となるまで充電し、再度定電流1.0It(2500mA)で電圧が3.0Vとなるまで放電し、この放電容量(復帰容量)を測定した。
そして、下記式により、残存容量率、復帰容量率を算出した。これらの結果を下記表2,3に示す。
【0047】
残存容量率(%)=残存容量÷初期容量×100
復帰容量率(%)=復帰容量÷初期容量×100
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
上記表2,3において、保存後電圧バラツキ幅とは、保存後の電池(それぞれ100個)の電圧の最大値と最小値との差(V)を意味し、残存容量バラツキ幅とは、残存容量の最大値と最小値の差が、初期容量に占める割合を意味する。
【0051】
上記表2、3から、実施例1、比較例1、2、参考例1いずれも、保存期間が7日間の場合より保存期間30日間のほうが、保存後電圧バラツキ幅が大きく、残存容量率が小さく、残存容量バラツキ幅が大きく、復帰容量率が小さいことがわかる。
【0052】
このことは、充電状態での高温保存期間が長いほど、電池性能に悪影響を及ぼす副反応が進行するためと考えられる。
【0053】
実施例1、比較例1、2、参考例1の、30日保存後の残存容量バラツキ幅と、糊剤のピーク強度比I(C=O)/I(C−H)との関係を、図6に示す。なお、参考例1は、テープを使用していないので、同図において、I(C=O)/I(C−H)は0としてプロットしている。図6から、I(C=O)/I(C−H)が0.1から0.5の範囲では、残存容量バラツキ幅が線形に増加し、且つ、I(C=O)/I(C−H)が0から0.1の範囲(テープ1を用いた実施例1と、テープを使用していない参考例1)では、残存容量バラツキ幅に変化がないことがわかる。
【0054】
このことは、次のように考えられる。ピーク強度比I(C=O)/I(C−H)が大きくなることは、糊材に含まれる炭素−酸素二重結合が増加することを意味する。充電状態の正極活物質と、非水電解質とが反応すると、カチオンラジカルが生じるのであるが、このカチオンラジカルが、糊材に含まれる炭素−酸素二重結合を攻撃し、有機酸を生成させ、この有機酸が正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物に含まれる遷移金属(Co,Ni,Mn等)の溶出を促進し、絶縁粘着テープ近傍の負極またはセパレータ上に導電性の遷移金属化合物を堆積させ、正負極を微小短絡させる。炭素−酸素二重結合が増加すると、上記の反応が進行し易くなり、残存容量が低下し易くなるとともに、残存容量のバラツキも大きくなる。これに対し、ピーク強度比I(C=O)/I(C−H)が0.01以下である場合には、炭素−酸素二重結合がほとんど含まれないので、上述した問題が発生しない。
【0055】
以上のことから、ピーク強度比I(C=O)/I(C−H)を0.01以下に規制することにより、テープを使用しない場合とほぼ同等の優れた保存特性が得られることがわかった。また、糊材に含まれる炭素−酸素二重結合量を示すピーク強度I(C=O)も小さいことが好ましく、このためピーク強度I(C=O)を0.01以下に規制することが好ましい。
【0056】
(追加事項)
上記実施例では、一方の芯体露出部3cは一方の端部に設け、他方の芯体露出部3bは中間部に設ける例を用いて説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、正極芯体露出部が両端部に設けられている構成であってもよい。
【0057】
また、上記実施例では、絶縁粘着テープ3eを、正極集電タブ3aと芯体露出部3bとが重なる部分と、芯体露出部3bと、正極活物質層3dの一部と、を覆うように貼り付けられている例を用いて説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、絶縁粘着テープ3eを、芯体露出部3b,3cと、正極活物質層3dとの境界を覆うように貼り付けてもよい。
【0058】
なお、絶縁粘着テープのサイズは、絶縁粘着テープを貼り付ける位置や使用する基材材料等により適宜設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上に説明したように、本発明によれば、充電状態で保存しても容量低下の少ない非水電解質二次電池を実現できるので、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0060】
1 外装缶
2 電極体
3 正極
3a 正極集電タブ
3b,3c 芯体露出部
3d 正極活物質層
3e 絶縁粘着テープ
4 負極
4a 負極集電タブ
5 セパレータ
6 封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、を有する電極体と、非水溶媒と電解質塩とを有する非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、
前記正極上に、基材と、粘着作用を有する主剤を有する糊材と、からなる絶縁粘着テープが貼り付けられており、
前記糊材を、赤外分光光度計を用いて、最大ピーク強度が透過率で5〜20%となるように測定した吸光度スペクトルにおいて、3040〜2835cm−1におけるC−H伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C−H)、1870〜1560cm−1におけるC=O伸縮振動に帰属されるピーク強度をI(C=O)とするとき、I(C=O)/I(C−H)で示されるピーク強度比が0.01以下である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記正極は、正極芯体上に正極活物質層が形成されており、且つ、前記正極芯体上に正極活物質層が形成されていない芯体露出部を有し、
前記絶縁粘着テープは、前記芯体露出部と、前記正極活物質層の一部と、を覆うように貼り付けられている、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解質二次電池において、
前記芯体露出部には、正極集電タブが取り付けられ、
前記絶縁粘着テープは、前記正極集電タブと前記芯体露出部とが重なる部分と、前記芯体露出部と、前記正極活物質層の一部と、を覆うように貼り付けられている、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の非水電解質二次電池において、
前記基材は、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレートからなる群より選択された少なくとも一種である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の非水電解質二次電池において、
前記主剤は、ゴムからなる、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の非水電解質二次電池において、
前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、Li1−b(Mは、Co,Ni,Mnの少なくとも一種、Xは、Ti,Zr,Mg、Al,Snの少なくとも一種、0≦a≦1.1、0≦b≦0.03)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物を有する、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−138632(P2011−138632A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296245(P2009−296245)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】