説明

非水電解質二次電池

【課題】負極抵抗の増大による電池性能の劣化を抑制しつつ、マンガン成分が負極活物質表面に析出するのを防ぐ。
【解決手段】マンガン系酸化物を含む正極21,23と、セパレータ25と、負極22,24とを有する発電要素を備えた非水電解質二次電池は、イオン化傾向がマンガンよりも小さい金属であって、セパレータ25中に設けられており、その内部をイオンが移動可能なマンガンイオン捕捉金属26と、イオン化傾向がマンガンよりも大きい金属であって、マンガンイオン捕捉金属26と電気的に接続され、かつ、発電要素と電気的に絶縁されており、マンガンイオンがマンガンイオン捕捉金属26に接触した場合、マンガンイオン捕捉金属26を介してマンガンイオンに電子を供給する電子供給金属27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンガン系リチウム金属酸化物を含有する陽極(正極)、陰極(負極)及び電解質を含むマンガン系リチウムイオン二次電池において、Mn(マンガン)捕捉剤を陰極活物質粒子(負極活物質粒子)の一部または全部に被覆させることによって、マンガン成分が陰極活物質(負極活物質)表面に析出するのを防ぎ、析出されたマンガン成分と電解液との分解反応を抑制し、電池の保存性能に優れたマンガン系リチウムイオン二次電池を提供する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−527089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、Mn捕捉剤を陰極活物質粒子の一部または全部に被覆するので、リチウムイオンの挿入・離脱が阻害され、負極抵抗の増大による電池性能の劣化を招くおそれがある。
【0005】
本発明は、負極抵抗の増大による電池性能の劣化を抑制しつつ、マンガン成分が負極活物質表面に析出するのを防ぐ技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による非水電解質二次電池は、マンガン系酸化物を含む正極と、セパレータと、負極とを有する発電要素を備えている。この非水電解質二次電池は、イオン化傾向がマンガンよりも小さい金属であって、セパレータ中に設けられており、その内部をイオンが移動可能なマンガンイオン捕捉金属と、イオン化傾向がマンガンよりも大きい金属であって、マンガンイオン捕捉金属と電気的に接続され、かつ、発電要素と電気的に絶縁されており、マンガンイオンがマンガンイオン捕捉金属に接触した場合、マンガンイオン捕捉金属を介してマンガンイオンに電子を供給する電子供給金属とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子供給金属からマンガンイオン捕捉金属を介してマンガンイオンに電子を供給して還元させることによって、マンガンイオンが負極活物質表面に到達する前に、マンガンを析出させることができる。また、マンガンイオン捕捉金属の内部はイオンが移動可能であり、リチウムイオンの挿入・離脱が阻害されないため、マンガンイオンを捕捉する手段を設けることによって、負極抵抗の増大による電池性能の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施の形態における非水電解質二次電池の外観を示す上面図である。
【図2】負極タブ側から見た場合の一実施の形態における非水電解質二次電池の断面図である。
【図3】金属箔タブ側から見た場合の一実施の形態における非水電解質二次電池の断面図である。
【図4】本実施の形態における非水電解質二次電池と、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池との性能を比較するための第1の実験結果を示す図である。
【図5】本実施の形態における非水電解質二次電池と、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池との性能を比較するための第2の実験結果を示す図である。
【図6】電子供給金属を電池の発電要素と一体化させずに、外付けとした場合の非水電解質二次電池の外観を示す上面図である。
【図7】電子供給金属を外付けとした場合の非水電解質二次電池を負極タブ側から見た場合における断面図である。
【図8】電子供給金属を外付けとした場合の非水電解質二次電池、および、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池に対して、第1の実験を行った場合の実験結果を示す図である。
【図9】電子供給金属を外付けとした場合の非水電解質二次電池、および、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池に対して、第2の実験を行った場合の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施の形態における非水電解質二次電池1の外観を示す上面図である。非水電解質二次電池1は、例えばリチウムイオン二次電池である。充放電反応が進行する発電要素は、電池外装材であるラミネートフィルム2の内部に封止されている。ラミネートフィルム2からは、正極タブ3および負極タブ4とともに、金属メッシュタブ5および金属泊タブ6が突出している。金属メッシュタブ5および金属箔タブ6間は、導線7で接続されている。
【0010】
図2は、負極タブ4側から見た場合の一実施の形態における非水電解質二次電池1の断面図である。また、図3は、金属箔タブ6側から見た場合の一実施の形態における非水電解質二次電池1の断面図である。
【0011】
非水電解質二次電池1の発電要素は、複数の単電池層が積層されて構成されている。各単電池層は、正極集電体21の両面に正極活物質層23が形成されてなる正極と、セパレータ25と、負極集電体22の両面に負極活物質層24が形成されてなる負極とにより構成されている。この際、一の正極の片面の正極活物質層23と一の正極に隣接する一の負極の片面の負極活物質層24とが、セパレータ25を介して向き合うように、正極、セパレータ25、負極がこの順に積層されている。
【0012】
正極活物質層23は、正極活物質を含む。正極活物質は、放電時にイオンを吸蔵し、充電時にイオンを放出する。正極活物質は、Mn(マンガン)系酸化物を含み、例えば、Li(リチウム)・Mn系複合酸化物である。
【0013】
負極活物質層24は、負極活物質を含む。負極活物質は、放電時にイオンを放出し、充電時にイオンを吸蔵する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されず、例えば、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti23、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/34もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などを用いることができる。
【0014】
正極集電体21および負極集電体22は、導電性材料から構成されている。集電体21、22を構成する材料に特に制限はなく、例えば、金属や導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用される。
【0015】
セパレータ(電解質層)25は、正極と負極を隔離するとともに、電解質を保持し、正極および負極間のリチウムイオンの移動媒体としての機能を有する。電解質としては、例えば、液体電解質やゲル電解質を用いることができる。セパレータ25は、正極および負極間でリチウムイオンが移動できるように、多数の孔を有する多孔質状となっている。
【0016】
本実施の形態における非水電解質二次電池1は、マンガンイオンを捕捉して、マンガンを析出させるマンガンイオン捕捉金属として、金属メッシュ26を備える。金属メッシュ26は、多数の孔を有する多孔質状となっている。マンガンイオンを還元させるための電子は、後述する電子供給金属27から供給される。
【0017】
金属メッシュ26を構成する金属は、マンガンよりもイオン化傾向が小さい金属であり、例えば、Ni(ニッケル)である。ただし、金属メッシュ26の構成金属がNiに限定されることはなく、Zn(亜鉛)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Cd(カドミウム)、Co(コバルト)、Sn(錫)、Pb(鉛)等を用いることもできる。マンガンよりもイオン化傾向が小さい金属を選択することにより、金属メッシュ26自身が溶解して不純物となるのを防ぐことができる。
【0018】
金属メッシュ26は、正極活物質層23および負極活物質層24と接触しないように、セパレータ25内に挿入されている。換言すると、金属メッシュ26は、その両面がセパレータ25に挟まれている。上述したように、正極、セパレータ25、および、負極により構成される単電池層は複数積層されているが、金属メッシュ26は、単電池層を構成する全てのセパレータ25内に挿入されている。各金属メッシュ26の一端は、金属メッシュタブ5と接続されている。
【0019】
本実施の形態における非水電解質二次電池1では、マンガンイオンを還元させるために必要な電子の供給源として、電子供給金属27が設けられている。電子供給金属27は、マンガンよりもイオン化傾向が大きい金属であり、例えば、Li(リチウム)である。電子供給金属27は、セパレータ30を介して、非水電解質二次電池1の発電要素と絶縁されている。
【0020】
マンガンイオンの還元動作について説明する。電子供給金属27は、金属箔タブ6と接続されており、さらに導線7を介して金属メッシュ26と接続されている。電子供給金属27よりもイオン化傾向が低いマンガンイオンが金属メッシュ26に到達すると、電子供給金属27から、導線7および金属メッシュ26を介して、マンガンイオンに電子が供給される。これにより、マンガンイオンは還元されて、マンガンとして金属メッシュ26に析出する。すなわち、マンガンイオンが負極に到達する前に、マンガンとして金属メッシュ26に析出するので、負極にマンガンが析出するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0021】
<第1の実験結果>
図4は、本実施の形態における非水電解質二次電池1と、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池との性能を比較するための第1の実験結果を示す図である。本実施の形態における非水電解質二次電池1と、従来の非水電解質二次電池とをそれぞれ満充電(SOC=100%)させた状態で所定日数経過させた後、放電を行って放電容量を測定し、その後再び満充電させて、所定日数保管する。このように、放電容量測定と、満充電保管とを繰り返して、保管日数に対する容量維持率の関係を求めた。容量維持率は、所定日数保管前の標準放電容量に対する所定日数保管後の放電容量の比率(%)を表している。
【0022】
図4において、本実施の形態の二次電池の結果を白塗りの四角形で示し、従来の二次電池の結果を黒塗りの菱形で示している。図4に示すように、本実施の形態における非水電解質二次電池1によれば、従来の非水電解質二次電池よりも容量維持率が高く、特に、保管日数が長くなった場合における両者の差が顕著となる。
【0023】
<第2の実験結果>
図5は、本実施の形態における非水電解質二次電池1と、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池との性能を比較するための第2の実験結果を示す図である。本実施の形態における非水電解質二次電池1および従来の非水電解質二次電池に対して、充電および放電を1サイクルとする充放電サイクルを複数回行い、サイクル回数に対する容量維持率の関係を求めた。ただし、放電時には、電池の電圧が2.5Vとなるまで放電を行い、充電時には、電池の電圧が4.2Vとなるまで充電を行った。
【0024】
図5に示す実験結果から分かるように、本実施の形態における非水電解質二次電池1によれば、充放電サイクルを複数回行った場合における容量維持率が従来の非水電解質二次電池よりも高く、特に、サイクル回数が多くなるほど、両者の差が顕著となっている。
【0025】
<変形構成例>
図6は、電子供給金属を電池の発電要素と一体化させずに、外付け(電池外装材の外部に配置)とした場合の非水電解質二次電池1Aの外観を示す上面図である。図7は、電子供給金属を外付けとした場合の非水電解質二次電池1Aを負極タブ4側から見た場合における断面図である。
【0026】
この場合、電池の発電要素は、電池外装材であるラミネートフィルム2によって封入されており、電子供給金属27およびセパレータ30は、ラミネートフィルム2の外部であって、別の電池外装材60によって封入されている。電池外装材60は、例えば、ラミネートフィルムである。電子供給金属27と接続されている金属箔タブ6は、導線7を介して、金属メッシュタブ5と接続されている。
【0027】
このような構成であっても、電子供給金属27を電池の発電要素と一体化させた構成と同じく、電子供給金属27から金属メッシュ26を介して、マンガンイオンに電子を供給して、マンガンを金属メッシュ26に析出させることができる。
【0028】
図8は、電子供給金属27を外付けとした場合の非水電解質二次電池1A、および、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池に対して、上述した第1の実験を行った場合の実験結果を示す図である。この場合も、図4に示す実験結果と同じような結果が得られている。すなわち、電子供給金属27を外付けとした場合の非水電解質二次電池1Aの容量維持率は、従来の非水電解質二次電池の容量維持率よりも高く、特に、保管日数が長くなった場合における両者の差が顕著となっている。
【0029】
図9は、電子供給金属27を外付けとした場合の非水電解質二次電池1A、および、マンガンイオン捕捉金属および電子供給金属が設けられていない従来の非水電解質二次電池に対して、上述した第2の実験を行った場合の実験結果を示す図である。この場合も、図5に示す実験結果と同じような結果が得られている。すなわち、電子供給金属27を外付けとした場合の非水電解質二次電池1Aにおいても、充放電サイクルを複数回行った場合における容量維持率が従来の非水電解質二次電池よりも高く、特に、サイクル回数が多くなるほど、両者の差が顕著となっている。
【0030】
以上、一実施の形態における非水電解質二次電池は、マンガン系酸化物を含む正極と、セパレータと、負極とを有する発電要素を備えており、イオン化傾向がマンガンよりも小さい金属であって、セパレータ中に設けられており、その内部をイオンが移動可能なマンガンイオン捕捉金属26と、イオン化傾向がマンガンよりも大きい金属であって、マンガンイオン捕捉金属26と電気的に接続されていて、かつ、発電要素と電気的に絶縁されており、マンガンイオンがマンガンイオン捕捉金属26に接触した場合、マンガンイオン捕捉金属26を介してマンガンイオンに電子を供給する電子供給金属27とを備える。このような構成により、マンガンイオンがマンガンイオン捕捉金属に接触すると、電子供給金属からマンガンイオンに電子を供給して還元させることによって、マンガンイオンが陰極に到達する前に、マンガンを析出させることができる。また、マンガンイオン捕捉金属の内部はイオンが移動可能であるため、マンガンイオン捕捉金属を設けることによる電池性能の劣化を抑制することができる。
【0031】
特に、一実施の形態における非水電解質二次電池によれば、マンガンイオン捕捉金属はマンガンよりもイオン化傾向が小さいので、マンガンイオン捕捉金属自身が溶解して不純物となるのを防ぐことができる。また、電子供給金属はマンガンよりもイオン化傾向が大きいので、電子供給金属に電圧を印加することなく、電子供給金属からマンガンイオンに電子を供給させることができる。すなわち、電子供給金属に電圧を印加するための電圧源を必要としない。
【0032】
さらに、電子供給金属27を、発電要素を封入している電池外装材2の外部に配置する構成とした場合には、電子供給金属27を発電要素と一体化させる構成に限定されることがないので、電池設計の自由度が増える。
【0033】
本発明は、上述した一実施の形態に限定されることはない。例えば、上述した説明では、単極型二次電池を例に挙げて説明したが、双極型二次電池であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1、1A…非水電解質二次電池
21…正極集電体
22…負極集電体
23…正極活物質層
24…負極活物質層
25…セパレータ
26…金属メッシュ
27…電子供給金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン系酸化物を含む正極と、セパレータと、負極とを有する発電要素を備えた非水電解質二次電池であって、
イオン化傾向がマンガンよりも小さい金属であって、前記セパレータ中に設けられており、その内部をイオンが移動可能なマンガンイオン捕捉金属と、
イオン化傾向がマンガンよりも大きい金属であって、前記マンガンイオン捕捉金属と電気的に接続され、かつ、前記発電要素と電気的に絶縁されており、マンガンイオンが前記マンガンイオン捕捉金属に接触した場合、前記マンガンイオン捕捉金属を介して前記マンガンイオンに電子を供給する電子供給金属と、
を備えることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記発電要素は、電池外装材によって封入されており、
前記電子供給金属は、前記電池外装材の外部に配置されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−228119(P2011−228119A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96760(P2010−96760)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】