説明

非水電解質電池及び電池システム

【課題】極めてハイレートの充電がされる条件においても、安全性に優れた電池又は電池システムを提供する。
【解決手段】正極合剤に炭酸リチウムが含有され、非水電解質にビフェニルが含有され、外装容器内の内圧上昇に応じて作動する電流遮断手段が備えられた非水電解質電池である。急速な過充電に対応して炭酸リチウムが分解ガスを発生し、電流遮断機構を作動させる。また、ビフェニルが重合して電極表面に抵抗被膜を形成することにより、過充電深度の進行を抑制すると共に、前記抵抗被膜によって生じる発熱が炭酸リチウムの分解とこれに伴うガス発生を促進し、相乗して電流遮断機構を早期に作動させるので、電池の過充電深度が低い段階にて充電を停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電時の安全性に優れた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HEV(ハイブリッド車)用など、電池容量が大きく、高出力の電池システムの開発が盛んである。また、従来のニッケル水素電池に替えてリチウム電池等の非水電解質電池をかかる電池システムに採用することが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1、2にみられるように、非水電解質電池の過充電に対応する技術が多数開示されている。しかしながら、従来用いられてきた小型民生用の非水電解質電池の容量は、特許文献1〜3の記載からもわかるように、せいぜい1.5Ah程度であり、急速充電のレベルも高々4It未満である。しかしながら、HEV用、非常用、電力貯蔵用などの用途には、極めて大容量、高出力の非水電解質電池が用いられるため、従来想定していなかった使用条件に対応する必要がある。
【0004】
例えば、制御システムの故障等により充電が終了すべき場合であるにもかかわらず充電電流が流れ続けた場合を想定すると、単電池に収納されている電極材料や電解質材料の絶対量が大きいため、蓄熱効果も相まって、電池が短時間のうちに電池電圧や電池温度の急激な上昇を伴う極度の過充電状態に陥り、電池システムの安全性が損なわれることとなる。
【0005】
例えば、HEV用途において、下りの坂道が続き、ハイブリッドシステムに回生(充電)され続けた場合や、乗用車に搭載した電池システムの制御回路の故障により電池が過充電状態となった場合、さらにその乗用車が衝突事故等による衝撃によって電池の内部短絡を引き起こした場合、非常用電源システムの制御回路の故障により過充電状態となった電池を作業員が交換しようとする場合、電力貯蔵システムの制御回路の故障により電池が過充電状態となり、さらに地震等の災害を被った場合等を想定すると、必ずしも安全性が十分に保たれているとはいえない。
【0006】
従って、仮に制御システムが故障しても、電池が過充電状態とならないよう、早期に充電電流を遮断することのできる電池又は電池システムが求められていた。
【0007】
特許文献1には、正極活物質(LiCoO)に対して0.5〜20重量%の炭酸リチウムを添加した正極を備え、電池内圧の上昇に応じて作動する電流遮断手段を備えた直径14mm、高さ50mm円筒型の非水電解質二次電池が記載され、「電流1.5Aで過充電状態にすることによって電池の急速な温度上昇を伴う発熱や比較的急速な破損が生じるといった電池の損傷品の発生率を調査した」(段落0032参照)ことが記載され、「リチウム複合酸化物を主体とする正極に炭酸リチウムを添加すると、過充電で電池内圧がそれほど上昇する前での急激な温度上昇を伴う発熱や比較的急速な破損が起こらず、そして、比較的緩やかに電池内圧が上昇することにより電流遮断手段が確実に作動し、充電電流を遮断させる。理由については明らかではないが、正極での炭酸リチウムが電気化学的に分解されて炭酸ガスを発生することから、何らかの形で過充電中での異常反応を炭酸ガスが抑制し、また発生した炭酸ガスにより電流遮断手段を確実に作動させるために、急激な温度上昇を伴う発熱や比故的急速な破損を防止したものと思われる。」(段落0015参照)と記載されている。
【0008】
特許文献2には、正極活物質にLiMnを用い、負極に球状黒鉛を用い、電解質に添加剤として2.5重量%のビフェニルを配合した18650型の非水系再充電可能電池が記載され、「10ボルトで3アンペアの能力のある電源を使用して、45℃の周囲温度で過充電試験を実施した」(段落0038参照)ことが記載され、「少量の添加剤ビフェニル、3−クロロチオフェン、およびフランが、ある種の特定な電池系に対して、そのサイクル寿命特性に悪影響を与えずに、過充電保護を与えることが確認できる。」(段落0046参照)と記載されている。
【0009】
特許文献3には、「高いエネルギー密度を得ることができ。かつ充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池を提供すること」を目的として、リチウムコバルト複合酸化物粉末95重量部に対して炭酸リチウム粉末5重量部を混合している正極と、人造黒鉛を用いた負極と、2,4−ジフルオロアニソール(DFA)を0.1〜15.8重量%含ませた電解液を用いた、直径14mm、高さ65mmの円筒型二次電池が記載され、400mAの電流で充放電サイクル試験を行ったことが記載されている(実施例2−12〜2−16参照)。
【0010】
しかし、いずれの文献にも、正極に炭酸リチウムを混合することと、電解液添加剤としてビフェニルを選択して添加することの組み合わせについては記載がない。
【特許文献1】特開平4−328278号公報
【特許文献2】特開平9−106835号公報
【特許文献3】国際公開第01/022519号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
過充電に対する安全性に優れた非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、負極、過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物を含有する正極合剤を備えた正極及びビフェニルを含有する非水電解質が外装容器内に収納されてなる非水電解質電池である。
【0013】
また、本発明の非水電解質電池は、前記外装容器内の内圧上昇に応じて作動する電流遮断手段を備えたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、前記非水電解質電池を一個又は複数個備えてなる電池部と電圧監視及び制御手段を備えた電池システムである。
【発明の効果】
【0015】
過充電に対する安全性に優れた非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、正極合剤が過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物を含有することにより、急速な過充電に対応して分解ガスを発生し、電流遮断機構を作動させる効果を発現する。
【0017】
ここで、過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物としては、炭酸無機化合物、蓚酸無機化合物、又は、硝酸無機化合物が好ましく、中でも炭酸無機化合物が好ましい。炭酸無機化合物としては、例えば炭酸リチウムが挙げられる。
【0018】
例えばコバルト酸リチウム等の正極活物質粉末中には微量の炭酸リチウムが不可避的に存在するが、本発明において前記効果を発現させるためには、正極合剤中の炭酸リチウムの量は前記不可避量を超えて含有することが必要である。具体的には、正極合剤中に占める炭酸リチウムの量は1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、4重量%以上が最も好ましい。正極合剤が含有する炭酸リチウムの量は10重量%以下とすることにより、電池のエネルギー密度が低下する虞を低減できるため、好ましい。
【0019】
また、本発明は、非水電解質がビフェニル類を含有することにより、急速な過充電が開始された場合にビフェニル類が重合して電極表面に抵抗被膜を形成することにより、過充電深度の進行を抑制すると共に、前記抵抗被膜が形成された電極を通じて充電電流が流れることで生じる発熱が正極合剤中の炭酸リチウムの分解とこれに伴うガス発生を促進し、相乗して電流遮断機構を早期に作動させる効果を発現する。このようにして、電池の過充電深度が低い段階にて充電を停止させることができる。非水電解質が含有するビフェニル類の量は2重量%以上とすると、前記効果が確実に発現するため好ましい。非水電解質が含有するビフェニル類の量は10重量%以下とすることにより、電池の内部抵抗が大きなものとなる虞を低減できるため好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0020】
ここで、ビフェニル類としては、限定されるものではないが、ビフェニル又はビフェニルを構成する水素原子の一部がフッ素原子で置換された構造の化合物を例示できる。
【0021】
本発明に係る非水電解質電池が備える正極は、正極合剤が過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物を含有したものである限りにおいて、限定されるものではない。
【0022】
正極活物質としては周知の材料を周知の処方で用いることができる。例えば、LiCoOや前記Coの一部がNi,Mnその他の遷移金属あるいはホウ素で置換されたα−NaFeO構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnに代表されるスピネル型結晶構造を有する化合物、LiFePO、LiFeSOあるいは前記Feの一部がCo,Mn等で置換されたポリアニオン型化合物等を用いることができる。正極にはさらに、CuO、CuO、AgO、CuS、CuSOなどのI族金属化合物、TiS、SiO、SnOなどのIV族金属化合物、V、V12、VOx、Nb、Bi、SbなどのV族金属化合物、CrO、Cr、MoO、MoS、WO、SeOなどのVI族金属化合物、MnO、MnなどのVII 族金属化合物、Fe、FeO、Fe、FePO、Ni、NiO、CoO、CoOなどのVIII族金属化合物等が添加されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等を用いてもよい。
【0023】
本発明に係る非水電解質電池が備える負極は、何ら限定されるものではなく、負極活物質としては、スピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム、リチウム金属、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウム、およびウッド合金などのリチウム含有合金、さらに、以下のような炭素材料が挙げられる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、無定形炭素、繊維状炭素、粉末状炭素、石油ピッチ系炭素、石炭コークス系炭素がある。これら炭素材料は、直径あるいは繊維径が0.01〜10ミクロン、繊維長が数μmから数mmまでの粒子あるいは繊維が好ましい。特に上記炭素材料が、X線回折等による分析結果;格子面間隔(d002)0.33から0.35nm、a軸方向の結晶子の大きさLa20nm以上、c軸方向の結晶子の大きさLc20nm以上、真密度2.00〜2.25g/cmのグラファイトは高容量を示すことから好ましい。しかしながら、もちろんこれらの範囲に限定されるものではない。
【0024】
さらに、炭素材料にはスズ酸化物や珪素酸化物といった金属酸化物の添加や、リンやホウ素を添加し改質を行うことも可能である。また、グラファイトとリチウム金属、リチウム含有合金などを併用することや、あらかじめ電気化学的に還元することによって、本発明に用いる炭素質材料にあらかじめリチウムを挿入することも可能である。
【0025】
正極や負極には、その電極合剤に必要に応じて導電剤や結着剤やフィラー等を添加することができる。導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば何でも良い。通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維や金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。これらの中で、導電性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。その添加量は1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0026】
上記結着剤としては、通常、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース等といった熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。また、多糖類の様にリチウムと反応する官能基を有する結着剤は、例えばメチル化するなどしてその官能基を失活させておくことが望ましい。その添加量としては、1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0027】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、アエロジル、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は0〜30重量%が好ましい。
【0028】
さらに、高容量化を目的として、硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲン元素を添加することも可能である。添加されたカルコゲン元素は電極材料が有するジスルフィド基のS−S結合に付加し、更なる充放電容量を与える。カルコゲン元素の添加量は0〜30重量%が好ましい。
【0029】
電気化学的活性物質の集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば何でもよい。例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。負極用集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。これらの材料については表面を酸化処理することも可能である。これらの形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体等が用いられる。厚みは特に限定はないが、1〜500μmのものが用いられる。これらの集電体の中で、正極には耐酸化性に優れているアルミニウム箔が、負極には還元場において安定であり、且つ電導性に優れ、安価な銅箔、ニッケル箔、鉄箔、およびそれらの一部を含む合金箔が好ましい。さらに、電気化学的活性物質層と集電体との密着性が優れている粗面表面粗さが0.2μmRa以上の箔であることが望ましい。このような粗面を得る目的で電解箔は優れている。
【0030】
本発明の電極材料を用いた電池の外装材としては、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属缶を用いることが可能であるが、重量エネルギー密度の観点から、金属箔と樹脂フィルムの金属樹脂複合剤が好ましい。金属箔の例として、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、SUS、チタン、金、銀等、ピンホールのない箔であれば何れでもかまわないが、好ましく軽量且つ安価なアルミニウム箔が好ましい。また、樹脂フィルムとしては外面にはポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム等の突き刺し強度が優れた樹脂フィルムを、内面にはポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等の熱可塑性であって融着可能なフィルムが好ましい。耐溶剤性の観点からこのような樹脂フィルムの開口部を熱可塑性樹脂で封止することが望ましい。
【0031】
本発明の電極材料を用いた電池のセパレータはポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリイミド系、及びフッ素樹脂系の微孔膜や不織布を用いることが可能である。それらの中で、濡れ性の悪い微孔膜には界面活性剤等の処理を施すことが必要となる。
【0032】
上記セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0033】
本発明に係る非水電解質電池に用いる非水電解質は、ビフェニル類を含有する限りにおいて、限定されるものではない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル;テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、メチルジグライムなどのエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジオキサランまたはその誘導体;スルホラン、スルトンまたはその誘導体などの単独またはそれら2種以上の混合溶媒に、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のLi、Na、またはKの1種を含む無機イオン塩、LiN(CFSO、LiN(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n−CNClO、(n−CNI、(CN−maleate、(CN−benzoate、(CN−phtalateなどの四級アンモニウム塩、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウムなどの有機イオン塩等を1種又は2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0034】
上記の電解液は、電極間に本発明のセパレータを挟み込み積層したり、巻き込んだりした後に上記電解液を注液することが可能である。注液法としては、常圧で注液することも可能であるが真空含浸方法や加圧含浸方法も可能である。
【0035】
本発明電池の非水電解質として、イオン液体やリチウム伝導性の固体電解質(−20〜60℃にあって固体あるいは固形状である)を用いることもできる。この固体電解質は上記塩を含む高分子で構成される。これらを含む高分子電解質としては、該リチウム塩を溶解させたポリエチレンオキサイド誘導体か少なくとも該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体か少なくとも該誘導体を含むポリマー、ポリフォスファゼンや該誘導体、イオン解離基を含むポリマー、リン酸エステルポリマー誘導体、さらにポリビニルピリジン誘導体、ビスフェノールA誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオライド、フッ素ゴム等に非水電解液を含有させた高分子マトリックス材料(ゲル電解質)及び無機固体電解質等のイオン伝導性化合物からなるものが用いられる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
N−メチルピロリドンを溶媒とする正極ペーストを帯状のアルミニウム製集電体の両面に塗布し、乾燥後、プレスして、正極を作製した。ここで、前記正極ペーストは、前記溶媒以外に、正極活物質であるLiCo0.33Ni0.33Mn0.33、導電材であるアセチレンブラック、結着剤であるポリフッ化ビニリデン及び炭酸リチウムを含有しており、前記正極活物質、導電材及び結着剤の固形物換算質量比は91:5:4であり、これに炭酸リチウムを加えた全固形物中に占める炭酸リチウムの質量比が4%である。
【0037】
負極活物質である炭素材料としてのハードカーボン及び結着剤であるポリフッ化ビニリデンが92:8の固形物換算質量比で含有しているN−メチルピロリドンを溶媒とする負極ペーストを、帯状の銅製集電体の両面に塗布し、乾燥後、プレスして、負極を作製した。
【0038】
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を等体積比で混合した混合溶媒に電解質塩としてLiPFを1モル/リットルの濃度で混合し、さらに、これに対して、添加剤として、2重量%のビフェニルを添加して非水電解質を調整した。
【0039】
セパレータとして帯状のポリエチレン製微多孔膜を介して前記帯状正極及び帯状負極を偏平に捲回することにより極群を作製し、外装容器である角形電槽に収容し、前記非水電解質を注液、含浸し、初期充放電サイクル工程を経て、設計容量6Ahの非水電解質電池を作製した。
【0040】
なお、前記角形電槽には、正極端子及び負極端子の他、内圧が300〜900kPaの範囲のときに電槽に設けられた電極端子と電槽内の発電要素との電気的接続を遮断しうる電流遮断手段が設けられ、さらに、内圧が900kPaを超えた場合に電槽内のガスを外部へ排気しうる圧力解放弁が設けられている。正極端子は、前記電流遮断手段を介して正極と電気的に接続され、負極端子は電流遮断手段を介することなく負極と電気的に接続されている。前記電流遮断手段は、正極と電気的に接続された部材とその上方に設置された金属薄膜とがスポット溶接されてなり、内圧上昇によって前記金属薄膜が上方に膨れ上がることにより、前記スポット溶接部が断絶され、これによって正極と正極端子との導通が遮断されるものである。
【0041】
(実施例2)
非水電解質におけるビフェニルの添加量を4重量%としたことを除いては、実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。
【0042】
(比較例1〜16)
正極における炭酸リチウムの量及び非水電解質における添加剤の種類と量を表1に示す通りの処方としたことを除いては、実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。なお、表1において横線で示した欄は、炭酸リチウム又は添加剤を含有しないことを示す。表1において用いた記号の意味は次の通りである。
BP : ビフェニル
TOL : トルエン
DFA : 2,4−ジフルオロアニソール
【0043】
(過充電試験1)
実施例1,2、比較例1〜16に係る非水電解質電池に対して過充電試験を行った。全ての電池は、供試前、0.2ItA、4.2V、10時間の定電流定電圧充電により充電末状態とした。温度20℃にて、それぞれの電池に対して、通電された積算電気量を知ることのできる直流電源を用いて、15V、6Aの直流を印可した。電池温度が150℃を超えるか、又は、電池温度が150℃を超えなかったものについては電流遮断手段が作動することをもって試験の終了とした。
【0044】
(過充電試験2)
別途用意した実施例1,2、比較例1〜16に係る非水電解質電池に対して過充電試験を行った。全ての電池は、供試前、0.2ItA、4.2V、10時間の定電流定電圧充電により充電末状態とした。温度20℃にて、それぞれの電池に対して、通電された積算電気量を知ることのできる直流電源を用いて、15V、200Aの直流を印可した。電池温度が150℃を超えるか、又は、電池温度が150℃を超えなかったものについては電流遮断手段が作動することをもって試験の終了とした。
【0045】
表1に、過充電試験1及び過充電試験2の評価結果をA、B及びCの記号で示した。記号A、B、Cの意味は次の通りである。
A : 電流遮断手段が作動し、圧力解放弁の作動には至らなかった
B : 電流遮断手段が作動したが、圧力解放弁も作動した
C : 電池温度が150℃を超えるに至った
【0046】
また、それぞれの過充電試験の結果、電池温度の上昇が150℃を超えなかった、評価結果がA又はBの電池については、通電された積算電気量の値に基づき、試験終了時におけるそれぞれの電池の充電深度をSOC%にて示した。なお、SOC100%は過充電試験供試前の状態と対応している。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例11〜16の結果から、添加剤を含有しない非水電解質を用いた場合、正極合剤中の炭酸リチウムの含有量が1重量%以下であると、過充電試験の結果、電池温度が150℃を超えるに至った。正極合剤中の炭酸リチウムの含有量を2重量%以上とすることにより、過充電試験1の結果においては、電流遮断手段が作動し、圧力解放弁の作動には至らないものとすることができたものの、15V200Aを印加する過充電試験2の結果においては、電流遮断手段は作動させることができたものの、内圧が上昇しすぎ、圧力解放弁の作動に至った。
【0049】
添加剤としてビフェニル、トルエン又は2,4−ジフルオロアニソールを添加した非水電解質を用いる一方、炭酸リチウムを含有させなかった正極を用いた比較例5〜10の電池においては、添加剤の量を最大4重量%としても、過充電試験の結果、電池温度が150℃を超えるに至った。
【0050】
正極合剤が炭酸リチウムを含有すると共に、非水電解質が添加剤を含有している実施例1,2及び比較例1〜4の結果から、正極合剤が炭酸リチウムを含有し、非水電解質に用いる添加剤の種類がビフェニルである場合に限り、15V200Aを印加する過充電試験2を行っても、電池温度が150℃を超えることがなく、圧力解放弁が作動する状態未満に内圧上昇を抑えることができ、電流遮断手段を安全に作動させることができた。
【0051】
ここで、過充電試験2終了時におけるSOC%を比べると、実施例1,2の電池ではSOC%の値が小さく、15V200Aの急速充電条件下において、充電深度の浅い段階で電流遮断機構が作動したことがわかる。また炭酸リチウムにトルエン又は2,4−ジフルオロアニソールを添加したものに関してはビフェニルほどの効果は得られないものの電流遮断時のSOC%は炭酸リチウム単体のものに比べ大きく低下しており、ハイレート時の過充電による早急な電流遮断は可能であり、安全性は向上することがわかる。
【0052】
電流遮断手段を安全に作動させるために内圧を上昇させる作用は、主に正極合剤が含有している炭酸リチウムによるガス発生の効果であるが、電解液がビフェニルを含有することにより、ビフェニルが重合して電極表面に高抵抗の被膜が形成されることで、充電反応の進行を抑制すると共に、前記高抵抗被膜が形成されることにより、充電電流により電極が発熱し、一層炭酸リチウムの分解を相乗的に促進する結果となり、ガス発生を促進し、電流遮断手段が作動されやすくする。上記試験に用いた非水電解質に対する添加剤であるビフェニル、トルエン及び2,4−ジフルオロアニソールの中で、ビフェニルは重合熱が最も大きいことが知られており、また、ビフェニルは重合に伴ってそれ自体がガス発生する。このように、発熱量が大きいという一見安全性に逆行するかのような性質を有するビフェニルを選択して炭酸リチウムと組み合わせて用いることによって、過充電時においても電池温度が過度に上昇することを抑え、安全機構である電流遮断手段の作動を促進する結果となった。
【0053】
また、比較的緩やかな過充電条件である過充電試験1終了時におけるSOC%の値はいずれも200%を超えているのに対し、33ItAという極めて過酷な急速充電条件を採用した過充電試験2終了時におけるSOC%の値は、特に実施例電池において低いものとなっていることからわかるように、ビフェニルと炭酸リチウムを組み合わせて用いる本発明の構成により、過酷な充電条件の印加が、本発明の効果をより顕著に引き出したことは、極めて興味深い。
【0054】
本発明の非水電解質電池を一個又は複数個備えてなる電池部と電圧監視及び制御手段を備えた電池システムを構成することができる。
【0055】
図1は、本発明電池の外装容器5内部の接続状態及び本発明電池を用いた電池システムの構成を示す概念図である。図1には、電池部が非水電解質電池を一個備えた場合の電池システムを例示した。前記したように、正極端子1が、電池の状態を検知して電気的導通を遮断しうる電流遮断手段4を介して発電要素6を構成している正極と電気的に接続されていると共に、前記正極は、前記電流遮断手段4を介することなく補助端子3と電気的に接続されている。なお、本実施例においては、負極端子2は前記電流遮断手段4を介することなく発電要素6を構成している負極と電気的に接続されている。なお、本実施例電池はHEV用であるため、正極はアルミニウム製の外装容器5とも電気的に接続されている。
【0056】
図1に例示した本発明の電池システムにおいては、正極端子1と負極端子2との間に設けられた電圧監視及び制御手段8が、端子間電圧の急変動又は電圧値を検出することにより電流遮断手段4が作動したと判断し、切換器7を制御して負極端子2と補助端子3との間に負荷抵抗9を接続することにより、発電要素を放電させる。
【0057】
前記電圧監視及び制御手段においては、CS(電圧検出システム)が電池部の電圧信号を検知して電池制御部(BMU=Battery Management Unit)に伝達する。電池制御部は、例えばセルバランサーを制御して電池の強制放電制御を行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
極めて安全性に優れた電池を提供できる本発明の技術は、大型で高出力用途の電池が使用されるHEV用電池、非常用電源システム、電力貯蔵システム等の技術領域において特に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る電池システムの一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0060】
1 正極端子
2 負極端子
3 補助端子
4 電流遮断手段
5 正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物を含有する正極合剤を備えた正極及びビフェニル類を含有する非水電解質が外装容器内に収納されてなる非水電解質電池。
【請求項2】
前記外装容器内の内圧上昇に応じて作動する電流遮断手段を備えた請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
請求項2記載の非水電解質電池を一個又は複数個備えてなる電池部と電圧監視及び制御手段を備えた電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−277106(P2008−277106A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118814(P2007−118814)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】