説明

非真円形穴加工方法および非真円形穴加工装置

【課題】高速かつ高精度でワークを加工できる非真円形穴加工方法を提供すること。
【解決手段】非真円形穴加工方法は、シリンダブロックに既に形成された断面非真円形状のボアと同一形状のボアを、シリンダブロックに形成する。すなわち、既に形成されたボア軸線上に複数の測定点を設定し、これら複数の測定点それぞれでのボアの内径形状を測定して、内径形状データとして取得する内径形状データ取得工程と、内径形状データを周波数解析し、0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析内径形状パラメータとして算出する分析内径形状パラメータ算出工程と、前記内径形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析内径形状パラメータ記憶工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非真円形穴加工方法および非真円形穴加工装置に関する。詳しくは、既に形成された断面非真円形状の穴と同一形状の穴を、ワークに形成する非真円形穴加工方法および非真円形穴加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の製造工程では、エンジンのシリンダブロックのボアを切削加工し、その後、シリンダヘッドやクランクケース等をシリンダブロックに組み付けることが行われる。
ここで、ボアに収容されるピストンは断面真円形状であるため、ボアの断面形状が真円に近い状態になるように切削加工している。
【0003】
ところが、シリンダブロックのボアを断面真円形状に加工したとしても、シリンダヘッドやクランクケース等が組み付けられると、ボアの形状が変形してしまう。このようにボアが変形すると、エンジンの使用時におけるボアとピストンとの摺動抵抗が増加する要因になり、エンジンが所望の性能を発揮できないおそれがある。
【0004】
そこで、シリンダブロックのボアを加工する際、シリンダヘッドを模したダミーヘッドを取り付けてボアの加工を行い、ボアの加工が終了すると、ダミーヘッドを取り外していた。
しかしながら、シリンダブロックのボア加工の都度、ダミーヘッド等の取り付け、取り外しを行うと、生産性が大幅に低下する、という問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、以下のような手法が提案されている(特許文献1参照)。
すなわち、まず、ダミーヘッドをシリンダブロックに装着して、工作機械によりボアを断面真円形状に加工する。
【0006】
次に、シリンダブロックからダミーヘッドを取り外す。すると、ダミーヘッドの組付けによる応力が解消されるので、ボアの形状が変形して断面非真円形となる。この断面非真円形状のボアの全体形状を測定して、NCデータを生成しておく。
このNCデータは、具体的には、ダミーヘッドを取り外して断面非真円形状となったボアに対して、ボアの軸線に沿って所定間隔おきに測定点を設定し、各測定点でのボアの断面形状を測定したものである。
【0007】
その後、生成したNCデータに基づいて、ダミーヘッドを装着せずに、未加工のシリンダブロックのボーリング加工を行って、非真円形状のボアを形成する。
このようにすれば、シリンダブロックにダミーヘッドを取り付けずにボアを加工しても、シリンダヘッドを装着すると、ボアが真円形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−313619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シリンダブロックからダミーヘッドを取り外した際のボア変形量は、必ずしも均一ではないため、各測定点でのボアの断面形状は互いに異なる。よって、各測定点での断面形状をそのままNCデータに変換すると、データ量が膨大となってデータを処理しきれず、工作機械の加工速度が低下する。
さらに、実測した断面形状には高次のノイズが含まれるので、このノイズを含んでNCデータを生成すると、工作機械のモータが振動する、という問題がある。この問題を解決するため、データをフィルタリングする必要があるが、フィルタリング方式によっては、カットオフ周波数付近で位相がずれてしまい、加工精度が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、高速かつ高精度でワークを加工できる非真円形穴加工方法および非真円形穴加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非真円形穴加工方法は、加工するワークの形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出工程と、前記分析形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析形状パラメータ記憶工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の非真円形穴加工方法は、既に形成された断面非真円形状の穴の形状を測定し、既に形成されかつ測定されたこの穴と同一形状の他の穴を、ワークに形成する非真円形穴加工方法であって、前記既に形成された穴の軸線上に複数の測定点(例えば、後述の測定点M1〜M4)を設定し、前記複数の測定点それぞれでの当該穴の内径形状を測定して、内径形状データとして取得する内径形状データ取得工程と、前記内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出工程と、前記分析形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析形状パラメータ記憶工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の非真円形穴加工方法は、シリンダブロック(例えば、後述のシリンダブロック60)に形成された断面非真円形状のボア(例えば、後述のボア61)と同一形状のボア(例えば、後述のボア61A)を、他のシリンダブロック素材(例えば、後述のシリンダブロック60A)に形成する非真円形穴加工方法であって、製品シリンダヘッドを模したダミーヘッド(例えば、後述のダミーヘッド70)を前記シリンダブロック素材に装着して、ボーリング加工によりボアを形成し、ボアを形成した後に、前記シリンダブロックから前記ダミーヘッドを取り外す準備工程と、前記ボアの軸線上に複数の測定点(例えば、後述の測定点M1〜M4)を設定し、前記複数の測定点それぞれでの前記ボアの内径形状を測定して、内径形状データとして取得する内径形状データ取得工程と、前記内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出工程と、前記分析形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析形状パラメータ記憶工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、内径形状データを周波数解析し、0次からn次までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出したので、従来に比べて、データ量を大幅に低減できるから、高速でワークを加工できる。
また、高次のノイズを含む複雑な内径形状データの中から低次の周波数成分のみを抽出して、この抽出した低次の周波数成分のみで分析形状パラメータを生成したので、高次のノイズを除去して非常にシャープなフィルタ効果を有するとともに、位相が崩れるのを抑制できる。ここで、位相が崩れるとは、図12のボード線図に示すように、加工ヘッドに接続されたシャフトについて、先端側つまり加工ヘッド側の位相が、基端側つまり駆動側の位相よりも遅れることである。よって、この分析形状パラメータに基づいて加工装置を駆動すると、振動を低減できるから、高精度でワークを加工できる。
【0015】
この場合、加工ヘッド(例えば、後述の加工ヘッド10)の駆動周波数と当該加工ヘッドのゲインおよび位相遅れとの関係をプロットしたボード線図を生成し、当該ボード線図をボード線図マップとして加工装置の電子記憶媒体に記憶するボード線図記憶工程と、前記加工ヘッドの使用駆動周波数の0次からn次までの周波数成分を求め、前記ボード線図に基づいて、当該周波数成分毎のゲインおよび位相遅れを誤差パラメータとして算出する誤差パラメータ算出工程と、前記分析形状パラメータ算出工程で算出した0次からn次までの周波数成分の振幅値および位相値を、前記誤差パラメータ算出工程で算出した周波数成分毎のゲインおよび位相遅れで補正して合成した後に反転させて、当該反転させたデータの振幅を前記加工ヘッドに突没可能に設けられた加工工具の突出量とし、当該突出量と前記加工工具の回転角との関係を示す突出量マップを生成する合成内径形状マップ生成工程と、前記突出量マップに従って前記加工工具を突出させて、未加工のワークにボーリング加工を施すボーリング工程と、を備えることが好ましい。
【0016】
この場合、前記n次は、4次であることが好ましい。
【0017】
この発明によれば、ボード線図からゲインおよび位相遅れを求めて、誤差パラメータとする。そして、この誤差パラメータを用いて、0次からn次までの周波数成分の振幅値および位相値を補正した。よって、加工ヘッドの機械的特性を考慮して、ボーリング加工できる。
【0018】
この場合、前記形状データは、コンピュータ上の仮想空間にて、理想的な形状のワークを生成し、その後、当該ワークの温度を変化させて、当該ワークの理想的な形状からの変化をシミュレートし、このシミュレートした形状に基づいて生成したデータであることが好ましい。
【0019】
この発明によれば、実際にワークの温度を変化させてワークの形状を測定することなく、ワークの形状データを得ることができる。
【0020】
本発明の非真円形穴加工装置(例えば、後述の非真円形穴加工装置1)は、加工するワークの形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出手段(例えば、後述の上位コンピュータ52)と、前記分析形状パラメータ算出手段で算出された分析形状パラメータを記憶する分析形状パラメータ記憶手段(例えば、後述の上位コンピュータ52)と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の非真円形穴加工装置は、既に形成された断面非真円形状の穴の形状を測定し、既に形成されかつ測定されたこの穴と同一形状の他の穴を、ワークに形成する非真円形穴加工装置であって、前記既に形成された穴の軸線上に複数の測定点を設定し、前記複数の測定点それぞれでの当該穴の内径形状を測定して、内径形状データとして取得する内径形状データ取得手段(例えば、後述の真円度測定器51)と、前記内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出手段と、前記分析形状パラメータ算出手段で算出された分析形状パラメータを記憶する分析形状パラメータ記憶手段と、を備えることを特徴とする。
【0022】
この場合、加工ヘッドの駆動周波数と当該加工ヘッドのゲインおよび位相遅れとの関係をプロットしたボード線図を、ボード線図マップとして記憶するボード線図記憶手段(例えば、後述の上位コンピュータ52)と、前記加工ヘッドの使用駆動周波数の0次からn次までの周波数成分を求め、前記ボード線図に基づいて、当該周波数成分毎のゲインおよび位相遅れを誤差パラメータとして算出する誤差パラメータ算出手段(例えば、後述の同期コントローラ42)と、前記分析形状パラメータ算出手段で算出した0次からn次までの周波数成分の振幅値および位相値を、前記誤差パラメータ算出手段で算出した周波数成分毎のゲインおよび位相遅れで補正して合成した後に反転させて、当該反転させたデータの振幅を前記加工ヘッドに突没可能に設けられた加工工具の突出量とし、当該突出量と前記加工工具の回転角との関係を示す突出量マップを生成する合成内径形状マップ生成手段(例えば、後述の同期コントローラ42)と、前記突出量マップに従って前記加工工具を突出制御する加工工具制御手段(例えば、後述の同期コントローラ42)と、を備えることが好ましい。
【0023】
この場合、前記n次は、4次であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、上述の効果と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、内径形状データを周波数解析し、0次からn次までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出したので、従来に比べて、データ量を大幅に低減できるから、高速でワークを加工できる。
また、高次のノイズを含む複雑な内径形状データの中から低次の周波数成分のみを抽出して、この抽出した低次の周波数成分のみで分析形状パラメータを生成したので、高次のノイズを除去して非常にシャープなフィルタ効果を有するとともに、位相が崩れるのを抑制できる。よって、この分析形状パラメータに基づいて加工装置を駆動すると、振動を低減できるから、高精度でワークを加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る非真円形穴加工装置の概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置のカムの突出量を示す模式図である。
【図3】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置のカム角度と切削バイトの突出量との関係を示す図である。
【図4】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置の同期コントローラの動作を示すブロック線図である。
【図5】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置を用いてシリンダブロックのボアをボーリング加工する手順を示すフローチャートである。
【図6】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置を用いてボーリング加工されるシリンダブロックを示す断面図である。
【図7】前記実施形態に係るシリンダブロックの変形した状態を説明するための図である。
【図8】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置のボア内径形状の測定からボーリング加工までの詳細な手順を示すフローチャートである。
【図9】前記実施形態に係るシリンダブロックの測定点で測定したボアの内径形状を示す模式図である。
【図10】前記実施形態に係るシリンダブロックの1つの測定点で測定したボアの内径形状を示す断面図である。
【図11】前記実施形態に係るシリンダブロックの1つの測定点で測定したボアの内径形状を、回転軸を横軸として表した図である。
【図12】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置のボード線図である。
【図13】前記実施形態に係るシリンダブロックのボアの内径形状を構成する周波数成分を示す図である。
【図14】前記実施形態に係る非真円形穴加工装置により生成した突出量マップを用いた比例補間処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非真円形穴加工装置1の概略構成図である。
非真円形穴加工装置1は、例えば、ワークとしての自動車エンジンのシリンダブロックのボアに加工ヘッド10を挿入し、ボーリング加工を行う。
この非真円形穴加工装置1は、加工ヘッド10を回転させる回転駆動機構20と、この回転駆動機構20を進退させる進退機構30と、これらを制御する制御装置40と、ワークのボアの内径形状を測定する真円度測定器51と、この真円度測定器51の測定結果を解析して制御装置40に出力する上位コンピュータ52と、を備える。
また、上位コンピュータ52には、ワークのシミュレーション解析を行うCAEシステム54、および、ワークの設計を行うCADシステム53が接続されている。
【0028】
回転駆動機構20は、円筒形状のアーバ21と、アーバ21の内部に収納されたシャフト22と、アーバ21を回転駆動するアーバモータ23と、シャフト22を回転駆動するシャフトモータ24と、アーバモータ23を収容するハウジング25と、を備える。
ここで、アーバ21の回転軸とシャフト22の回転軸とは、同軸である。
【0029】
ハウジング25には、アーバモータ23のほか、アーバ21を回転可能に保持するベアリング251と、アーバ21の回転速度および回転角を検出する第1ロータリエンコーダ252と、進退機構30が螺合されるナット部253と、が設けられている。
【0030】
シャフトモータ24には、シャフト22の回転速度および回転角を検出する第2ロータリエンコーダ241が設けられている。
【0031】
進退機構30は、送りねじ機構であり、ねじが刻設された軸部31と、この軸部31を回転駆動する進退モータ32と、軸部31の回転速度および回転角を検出する第3ロータリエンコーダ33と、を備える。軸部31は、ハウジング25のナット部253に螺合されている。
この進退機構30によれば、進退モータ32を駆動することにより軸部31が回転し、回転駆動機構20を進退させることができる。
【0032】
加工ヘッド10は、アーバ21に一体に連結される円筒形状のアーバ11と、アーバ11の内部に収納されてシャフト22に一体に連結されるシャフト12と、アーバ11の外周面に突没可能に設けられた切削バイト13と、を備える。
【0033】
アーバ11の先端側には、アーバ11の回転軸に交差する方向に延びる貫通孔111が形成されている。
切削バイト13は、棒状であり、貫通孔111に挿入されて、図示しない付勢手段により、シャフト12に向かって付勢されている。
【0034】
図2に示すように、シャフト12には、切削バイト13を突出する方向に押圧するカム121が設けられている。
カム121は、例えば、真円形状であり、シャフト12は、この真円形の中心からずれた位置に設けられている。これにより、シャフト12の回転中心からカム121の周縁までの距離は、連続的に変化する。
なお、カム121の形状は、真円形状に限らないが、コストを低減するため、真円形状が好ましい。
【0035】
このカム121の周縁には、切削バイト13の基端縁が当接する。したがって、アーバ11に対するシャフト12の角度を変化させることで、カム121の周縁のうち切削バイト13に当接する部分が変化し、切削バイト13のアーバ11の外周面からの突出量が変化する。
【0036】
図2(a)は、カム121の突出量がtである状態を示す模式図であり、図2(b)は、切削バイト13の突出量がゼロである状態を示す模式図である。
図2中、カム121の回転中心からカム121の周縁のうちシャフト12から最も遠い部分に至る直線を、カム121の基準線Qとし、切削バイト13の中心軸を通る直線を、切削バイト13の基準線Rとする。そして、カム121の基準線Qと切削バイト13の基準線Rとの成す角度を、カム角度とする。
【0037】
切削バイト13の突出量がtとなる状態では、カム角度はαである。このαを初期角度とする。一方、切削バイト13の突出量がゼロとなる状態では、カム角度は(α+β)である。
カム121の半径をCrとし、カム121の中心から回転中心までのオフセット寸法をCoとすると、カム121の回転中心から切削バイト13の基端縁までの最大寸法L1および最小寸法L2は、以下の式(1)、(2)で表される。
【0038】
L1=Co×cos(α)+Cr ・・・(1)
L2=Co×cos(α+β)+Cr ・・・(2)
【0039】
以上より、カム角度のストロークはβ(揺動角)となり、切削バイト13の突出量のストロークはtとなり、以下の式(3)が成立する。
【0040】
t=L1−L2=Co×{cos(α)−cos(α+β)} ・・・(3)
【0041】
この式(3)に基づいて、カム角度と切削バイト突出量との関係を図3に示す。
図3中実線で示すように、切削バイト13の突出量は、カム角度の変化に対して、非線形つまり円弧状に変化する。一方、図3中破線で示すように、理想的なカムでは、切削バイトの突出量は直線状(リニア)に変化する。よって、切削バイトの突出量を直線状(リニア)に変化させた場合に比べて、切削バイト13の突出量の誤差は、カム角度α(初期角度)とカム角度(α+β)との中間付近で最も大きくなる。
【0042】
したがって、切削バイト13をΔtだけ突出させたい場合には、この突出量(Δt)に対応するカム角度(α+Δβ)を、カム角度の指令値とする。これにより、容易に突出量を直線状(リニア)に変化させることができる。
具体的には、例えば、突出量(Δt)と、カム角度の指令値(α+Δβ)とが対応付けられた突出量カム角度対応テーブル90(図1参照)を生成して、予め主制御装置41のメモリ91に記憶させておき、後述の同期コントローラ42により、この指令値(α+Δβ)を呼び出せるようにする。なお、これに限らず、突出量カム角度対応テーブル90を、同期コントローラ42自体に記憶させてもよいし、また、上位コンピュータ52から同期コントローラ42に出力させてもよい。
【0043】
図1に戻って、制御装置40は、アーバ21およびシャフト22を同期して回転させつつ、アーバ21の回転角の位相に対してシャフト22の回転角の位相を進角化または遅角化することにより、切削バイト13のアーバ11の外周面からの切削バイト13の突出量を調整することができる。
この制御装置40は、主制御装置41、同期コントローラ42、第1サーボアンプ43、第2サーボアンプ44、および第3サーボアンプ45を備える。
【0044】
主制御装置41は、上位コンピュータからの出力に従って、第1サーボアンプ43および第3サーボアンプ45を介して、アーバモータ23および進退モータ32を駆動し、ワークに対する切削バイト13の切削速度および軸線上の位置を制御する。すなわち、主制御装置41は、いわゆるNC(数値)制御装置と同様の動作をする装置である。この主制御装置41は、突出量カム角度対応テーブル90を記憶したメモリ91を備えている。
【0045】
前記同期コントローラ42は、ワークのボアに対する切削バイト13の向き(すなわちアーバ21の回転角)と、ワークのボアに対する切削バイト13の軸線上の位置(すなわち進退機構30の軸部31の回転角)とに応じて指令信号を出力する。これにより、第2サーボアンプ44を介してシャフトモータ24を駆動し、切削バイト13の突出寸法(すなわちアーバ11の外周面からの切削バイト13の突出量)を調整する。
【0046】
具体的には、アーバ21の回転角および加工ヘッド10の進退方向の位置(すなわち切削バイト13のワークのボアに対する軸線上の位置)と、切削バイト13の突出量との関係を示すマップが、上位コンピュータからの出力に基づいて生成され、このマップは、同期コントローラ42により、当該同期コントローラ42内のメモリに記憶される。
マップとは、パラメータを配列したものである。すなわち、上述のマップは、図14に示すように、加工ヘッド10の進退方向の位置(すなわち切削バイト13のワークのボアに対する軸線上の位置)毎に、アーバ21の回転角および切削バイト13の突出量との関係を示すボアの断面2次元データを求め、軸線方向に配列したものである。
【0047】
そして、同期コントローラ42は、第1ロータリエンコーダ252で検出したアーバ21の回転速度および回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)、ならびに、第3ロータリエンコーダで検出した軸部31の回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)に基づいて、前記同期コントローラ42内のメモリに記憶された、切削バイト13の突出量の関係を示すマップを参照して、第2サーボアンプ44を介して、シャフトモータ24を駆動する。
このとき、第2サーボアンプ44により、第2ロータリエンコーダ241で検出したシャフト22の回転速度および回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)に応じて、シャフトモータ24をフィードバック制御する。
【0048】
以上の同期コントローラ42によるシャフト22の制御について、図4を参照しながら説明する。
図4は、同期コントローラ42の動作を示すブロック線図である。
アーバ21とシャフト22とを完全に同期させる場合、まず、アーバ21の回転速度に、シャフト22の回転速度を検出する第2ロータリエンコーダ241の分解能(PG2)を乗算するとともに、シャフト22の回転速度に、アーバ21の回転速度を検出する第1ロータリエンコーダ252の分解能(PG1)を乗算し、両者の差分を算出する。
このような乗算を行ったのは、第1ロータリエンコーダ252の分解能(PG1)と、第2ロータリエンコーダ241の分解能(PG2)とが異なるので、これら分解能比を考慮して、分解能を合わせるためである。
【0049】
次に、算出した差分を速度誤差として算出するとともに、この速度誤差を積分して位置誤差とする。
次に、アーバ21の回転速度からフィード・フォワード量を求めて、速度誤差および位置誤差を加算して、シャフトモータ24への速度指令とする。
すると、アーバとカムとの位相差が保持されて、切削バイト13の突出量は一定となる。
【0050】
一方、アーバ21とシャフト22との位相をずらす場合、まず、加工ヘッド10を進退させる軸部31の回転角を取得すると、制御装置により、加工ヘッド10の進退方向の位置(すなわち切削バイト13のボアに対する軸線上の位置)が算出されて、マップ切替え器にて、この算出された加工ヘッド10の進退方向の位置に応じて、上述のアーバ21の回転角および切削バイト13の突出量との関係を示すマップ(ボアの2次元断面データ)を切り替える。
また、マップアドレス変換器は、アーバ21の回転速度と回転角を取得すると、アーバ21の回転位置を求める。
次に、マップアドレス変換器は、上述のマップを参照して、アーバ21の回転角に応じた切削バイト13の突出量データを呼び出して、前回のデータとの差分を抽出し、この差分を変化量(すなわち速度)として、シャフトモータ24の回転速度指令に加算する。
【0051】
次に、以上のように構成される非真円形穴加工装置1を用いて、自動車エンジンのシリンダブロックのボアをボーリング加工する手順について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0052】
まず、ステップS1において、図6(a)に示すように、シリンダブロック素材であるシリンダブロック60に、ダミーヘッド70をボルト71により装着する。ダミーヘッド70は、製品シリンダヘッドを模した形状および材質からなり、中央部には、非真円形穴加工装置1の加工ヘッド10が挿入可能な孔が形成されている。
【0053】
次に、ステップS2において、シリンダブロック60を所定の位置に配置し、非真円形穴加工装置1により、ボア61を所望の真円度に加工する。
【0054】
次に、ステップS3において、シリンダブロック60から、ボルト71の締付けを解除して、ダミーヘッド70を取り外す。すると、図6(b)に示すように、シリンダブロック60のボア61の内径が、図6(a)の状態から多少変形することになる。これは、ダミーヘッド70の組付けによる応力が解除されるからである。
【0055】
具体的には、図7(a)に示すように、シリンダブロック60には、4つのボア61が一直線上に並んで形成されている。各ボア61の周囲には、ボルト71が螺合されるボルト穴72が形成されている。
シリンダブロック60からダミーヘッド70を取り外すと、ダミーヘッド70による押圧力が除去されるため、ボア61のダミーヘッド側の内径形状は、図7(b)に示すように、楕円形に変形する。また、ボルト穴72のねじ山とボルト71のねじ山との間に作用する応力が除去されるため、ボア61のクランクシャフト側の内径形状は、図7(c)に示すように、四角形に変形する。
【0056】
よって、以下、ボアの内径形状を周波数解析するステップ(分析内径形状パラメータ算出工程)においては、4次までの周波数解析をする例を記載した。これは、4次までの周波数解析であればシリンダブロックのボアの変形をほぼ再現できるからである。
すなわち、4次成分は四角形状の成分を表し、3次成分は三角形状の成分を表し、2次成分は楕円形状の成分を表すので、0次〜4次までの周波数解析を行って余弦波で表し、これら余弦波を合成することで、シリンダブロックのボアの変形を再現でき、高次のノイズを除去できる。
【0057】
また、断面2次元形状(X,Y)を、通常のNCデータ形式で点群(X,Y)として記憶すればデータ量が膨大になるが、本発明のように余弦波を用いて曲線デ一タ形式で記憶することで、データ量をかなり低減できデータ処理を高速化できる。
換言すれば、シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付ける際のシリンダブロックのボアの変形を解消するように断面非真円形状の穴を形成するには、0次〜4次までの周波数分析を行えばよく、データ量も少なくて済む。
【0058】
なお、本実施形態では4次の周波数解析までの例を示したが、穴の形状に応じて50次でも、100次でも、更に高次でもよい。例えば、断面非真円形状の穴の形状の1周分を1°毎に通常のNCデータ形式で表現する場合、720個のパラメータが必要になるが、50次の曲線データ形式で表現する場合、101個のパラメータでよい。すなわち、半径誤差(0次)、50個のn次振幅および、50個のn次位相である。このように、50次までの周波数解析を実行しても、曲線データ形式で記憶することで、データ量を低減でき、データ処理を高速化できる。
【0059】
そこで、ステップS4において、ダミーヘッド70を取り外した後のシリンダブロック60のボア61の軸線上の所定間隔おきに内径形状を測定し、上位コンピュータ52に内径形状データとして記憶する。
【0060】
ステップS5において、内径形状データに基づいて周波数解析を行い、分析内径形状パラメータを算出する。
【0061】
次に、ステップS6において、算出した分析内径形状パラメータを非真円形穴加工装置1の同期コントローラ42に入力して、合成内径形状マップを生成する。
【0062】
そして、ステップS7において、先ず、既にボーリング加工を行ったシリンダブロック60とは別の、新たなシリンダブロック素材であるシリンダブロック60Aを所定の位置に配置する。次いで、同期コントローラ42の制御下に、生成された合成内径形状マップに基づいたボーリング加工をシリンダブロック60Aに施す。
【0063】
ステップS8において、ダミーヘッド70と異なり、実際の製品として用いられる製品シリンダヘッド80を用意し、図6(c)に示すように、ボーリング加工が施された新たなシリンダブロック60Aに、製品シリンダヘッド80をボルト81により装着する。すると、シリンダブロック60Aのボア61Aの内径形状は、シリンダブロック60のボア61と同様の真円度となる。
【0064】
次に、上述のステップS4のボア内径形状の測定からステップS7のボーリング加工までの詳細な手順について、図8のフローチャートを参照しながら説明する。
【0065】
ステップS11(S4)では、例えば、全気筒について、真円度測定器51により、ボアの軸線上に所定間隔おきに4つの測定点M1〜M4を設定し、各測定点M1〜M4でのボアの内径形状を測定する。
具体的には、全気筒について、空気マイクロセンサ、近接センサ、レーザセンサなどのセンサをボアに挿入し、回転させながら軸線に沿って移動して、各測定点でのボアの内径形状を測定して、内径形状データとする。
なお、所定間隔おきに測定した例を示したが、非等間隔、例えば、シリンダブロックのシリンダヘッド側の数箇所や、逆に、シリンダブロックのクランクシャフト側の数箇所を測定してもよい。
【0066】
図9は、各測定点M1〜M4で測定したボアの内径形状R1〜R4を示す模式図である。
図9に示すように、各測定点M1〜M4でのボアの内径形状R1〜R4は、互いに異なり、楕円形、三角形、四角形状や、偏心した真円など、非真円形状となっている。
【0067】
図10は、測定点M1〜M4のうちの1つ、ここでは、測定点M2で測定したボアの内径形状R2を示す断面図である。図11は、図10のボアの内径形状R2を、回転角を横軸として表した図である。
図10および図11中、ボアの変形量をゼロとした場合のボアの内周面の位置を基準線L0とし、この基準線L0よりもΔLだけ内側をL1とし、基準線L0よりもΔLだけ外側をL2とする。
図10および図11に示すように、測定したボアの内径形状には、ΔL程度の凹凸があり、さらに、高次のノイズが含まれていることが判る。
【0068】
ステップS12では、上位コンピュータ52により、各測定点M1〜M4のボアの内径形状を周波数解析することで、真円に対する誤差のn次成分を抽出し、それぞれの振幅および位相を求めて、振幅・位相についての分析内径形状パラメータ(A,P)を生成する。
【0069】
具体的には、以下の式(4)〜(7)に従って、基準線L0からの突出量を角度θの関数x(θ)で表し、以下の式に従ってフーリエ変換を行い、n次成分の振幅Aおよび位相Pを求める。
ここで、振幅Aは、基準線である真円に対する半径の誤差を表し、振幅Aは、基準線である真円からの偏心を表し、振幅Aは、楕円形状の成分を表し、振幅Aは、三角形状の成分を表し、振幅Aは、四角形状の成分を表す。また、Pは不要である。

【0070】
これらn次成分の分析内径形状パラメータ(A,P)を、フーリエ逆変換して、基準線L0からの突出量を角度θの関数T(θ)で表すと、式(8)のようになる。
【0071】

【0072】
次に、式(8)中のk値を、図12に示す非真円形穴加工装置1のボード線図に従って、以下の手順で求める。
このボード線図は、シャフトモータ24から切削バイト13の先端までのねじり剛性による特性を示すものであり、以下の手順で作成される。
すなわち、シャフトモータ24に対して一定の周波数および振幅の正弦波信号を与える。そして、第2ロータリエンコーダ241により、シャフト22の基端側の回転角を検出し、図示しないセンサにより、切削バイト13の先端の変位を検出する。これら2つの出力をフーリエ変換し、各周波数成分について、シャフトモータ24に対する切削バイト13の先端側の振幅比および位相差を求めて、プロットする。
【0073】
図12のボード線図によれば、500Hz付近では、共振周波数が存在し、位相が大きくずれて、挙動が不安定になることが判る。よって、使用可能な周波数領域は、200〜300Hz付近までになる、と判断できる。
よって、駆動機構の応答性の限界を考慮すると、切削加工するのに必要かつ最小の値として、k=4が実用的であることが判る。
【0074】
よって、式(8)中において、k=4として、A×cos(θ+P)、A×cos(2θ+P)、A×cos(3θ+P)、A×cos(4θ+P)の4つの周波数の波形をプロットすると、図13のようになる。
【0075】
ステップS13では、上位コンピュータ52により、図12のボード線図に基づいて、ゲイン・位相についてのゲイン・位相マップを生成し、このゲイン・位相マップを同期コントローラ42に出力する。
ステップS14では、上位コンピュータ52により、1つの気筒についての分析内径形状パラメータ(A,P)を同期コントローラ42に出力する。
【0076】
ステップS15では、同期コントローラ42により、ゲイン・位相マップを参照して、使用回転数に応じた誤差パラメータ(Δa,Δp)を求める。
【0077】
つまり、図12のボード線図に示すように、使用可能領域内でシャフトモータ24を駆動しても、ゲインおよび位相がずれて、加工誤差が生じてしまう。そこで、使用回転域でのn次周波数を求め、そこからゲインと位相遅れを求めて、誤差パラメータ(Δa,Δp)を求める。
【0078】
例えば、図12から、シャフトモータ24の回転数を3000rpmとすると、4次成分の周波数は、3000/60×4=200Hzとなり、ゲインは+6dB程度、位相は−27°程度と読み取れる。
よって、この場合、切削バイトの突出量は約27°遅れて、約2倍(106/20≒2、20Log10(2)≒6dB)の振幅で動作することになるため、振幅補正Δa=0.5、位相補正Δp=+27として、4次の分析内径形状パラメータを補正する。同様に、3次〜1次の分析内径形状パラメータの補正を行う。
【0079】
ステップS16では、同期コントローラ42により、分析内径形状パラメータ(A,P)を誤差パラメータ(Δa,Δp)で補正し、フーリエ逆変換する。
ステップS17では、同期コントローラ42により、フーリエ逆変換したデータを、図3のカム誤差マップにより修正し、切削バイト13の突出量に変換して、回転角と切削バイト13の突出量との関係を表す突出量マップ(合成内径形状マップ)を生成する。
【0080】
ステップS18では、同期コントローラ42により、切削バイト13の突出量マップに基づいて、比例補間処理により、ボーリング加工するための詳細な突出量マップを生成する。
これは、図14(a)に示すように、突出量マップの切削バイト13の先端の軌跡をR1A〜R4Aとすると、実際の切削バイト13の軌跡Sは、螺旋状であり、この軌跡S同士の間隔は、軌跡R1A〜R4Aの間隔よりも狭くなるため、詳細な突出量マップが必要になるのである。
【0081】
具体的には、例えば、図14(b)に示すように、互いに上下に隣り合う軌跡R1A、R2Aの間に位置する軌跡S上の点S1の位置を求める。
点S1を通る直線Vを引き、この直線Vと各軌跡R1A、R2Aとの交点を点V1、V2とする。
さらに、点V1と点V2との高さ方向の間隔をΔZ、点V1と点V2との水平方向の間隔をΔRとし、点V2から点S1まで高さ方向の間隔をδzとし、点V2から点S1までの水平方向の間隔をδrとして、以下の式(9)に従って、点S1の位置を求める。
【0082】
ΔR:δr=ΔZ:δz ・・・(9)
【0083】
ステップS19では、同期コントローラ42により、アーバ21の回転角度および加工ヘッド10の進退方向の位置に基づいて、記憶したマップに従い、切削バイト13の突出量を求める。
ステップS20では、同期コントローラ42により、切削バイト13の突出量に従って、アーバ21とシャフト12、22との位相を調整しながら非真円形加工する。
ステップS21は、全気筒について加工が完了したか否かを判定し、この判定がYESの場合は終了し、NOの場合はステップS14に戻る。
【0084】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)従来では、例えば、1度ステップのX−Yテーブルでボアの形状を加工しようとすると、1つのボアの形状につき、360ラインのGコード命令が必要になる。
しかしながら、本発明では、A0〜A4、P1〜P4の合計9個のパラメータで1つのボアの形状を表現できるので、従来に比べて、データ量を大幅に低減できるから、高速でボアをボーリング加工できる。
また、高次のノイズを含む複雑な内径形状データの中から低次の周波数成分のみを抽出して、この抽出した低次の周波数成分のみで分析内径形状パラメータを生成したので、高次のノイズを除去して非常にシャープなフィルタ効果を有するとともに、位相が崩れるのを抑制できる。よって、この分析内径形状パラメータに基づいて非真円形穴加工装置1を駆動すると、振動を低減できるから、高精度でワークを加工できる。
【0085】
(2)A0〜A4、P1〜P4を個別に編集することで、非真円形穴加工装置1による加工形状を自由に調整できる。
【0086】
(3)測ピッチを加工ピッチよりも大きく設定し、測定ピッチで測定したボアの形状データに基づいて、比例補間処理により、加工ピッチでの突出量マップ(合成内径形状マップ)を生成した。よって、データ量をさらに低減できるうえに、加工にかかる時間や労力を削減できる。
例えば、エンジンのボア長が100〜150mm程度で、加工ピッチを0.1mmとし測定ピッチを5mmとすると、加工ピッチでボアの形状を測定した場合に比べて、データ量を1/50にできる。
【0087】
(4)誤差パラメータ(Δa,Δp)を用いて、分析内径形状パラメータ(A,P)を補正したので、加工ヘッド10の機械的特性を考慮して、ボーリング加工できる。
【0088】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0089】
本実施形態では、シリンダブロック60およびダミーヘッド70を用いて、実際にボアを変形させて、このボアの内径形状を測定したが、これに限らず、CADシステム53およびCAEシステム54を用いて、仮想空間上でボアを変形させて、ボアの内径形状を算出してもよい。
【0090】
すなわち、図1に示すように、まず、CADシステム53により、コンピュータ上の仮想空間において、所望の真円度のボアが形成されたシリンダブロックの3次元モデルを生成する。その後、CAEシステム54により、コンピュータ上の仮想空間において、CADシステム53で生成したシリンダブロックにシリンダヘッドを組み付けて、シリンダヘッドの押圧力によりシリンダブロックのボアがどのように変形するのかをシミュレートし、この状態で、所望の真円度のボアを加工する。次に、シリンダヘッドを取り外して、ボアの内径形状を算出する。
このようにすれば、実際にシリンダブロックにシリンダヘッドを組み付けて、ボアをボーリング加工して、ダミーヘッドを取り外し、ボアの内径を測定する必要がなくなる。
【0091】
また、CAEシステム54を用いて、コンピュータ上の仮想空間において、CADシステム53で生成したシリンダブロックにシリンダヘッドを組み付けて、このシリンダブロックをエンジン運転時の温度まで加温し、この状態で、所望の真円度のボアを加工して、その後、シリンダヘッドを取り外して、ボアの内径形状を算出してもよい。
このようにすれば、実際にシリンダブロックにダミーヘッドを組み付けて、エンジン運転時の温度まで暖めて、その後、ボアをボーリング加工して、ダミーヘッドを取り外し、ボアの内径を測定する必要がなくなる。
なお、CADシステム53およびCAEシステム54を用いてボアの内径形状を算出した場合には、このボアの内径形状のデータを、そのまま、内径形状データとして上位コンピュータ52に記憶させる。
【0092】
また、本実施形態では、非真円形穴加工装置1に工具として切削バイト13を設け、この切削バイト13で非真円形穴の内周面を切削加工したが、工具の種類は、これに限らない。すなわち、研磨加工具など、アーバ21に突没させて用いる工具であれば、どのようなものでもよい。
【0093】
また、本実施形態では、ワークであるシリンダブロックを固定し、この状態で、加工ヘッド10を回転させてボアを加工したが、これに限らない。すなわち、加工ヘッドを回転させずに、ワークであるシリンダブロックを回転させて、ボアを加工してもよい。このような加工にも、本発明を適用することができる。
【0094】
また、本実施形態では、ワークであるシリンダブロックに形成された穴の内周面を加工したが、これに限らず、ワークの外周面を加工してもよい。すなわち、例えば、エンジンのカムシャフトのカム部およびジャーナル部、ピストン、ロータリーエンジンのロータ、クランクシャフトのピン部およびジャーナル部などが挙げられる。本発明をこれらの加工に適用しても、従来に比べてデータ量を大幅に低減できるから、高速で断面所望の理想形状のワークを加工でき、例えば、熱膨張を考慮した加工を高速で実行できる。
【符号の説明】
【0095】
1 非真円形穴加工装置
10 加工ヘッド
42 同期コントローラ(合成内径形状マップ生成手段、誤差パラメータ算出手段、加工工具制御手段)
51 真円度測定器(内径形状データ取得手段)
52 上位コンピュータ(分析形状パラメータ算出手段、分析形状パラメータ記憶手段、ボード線図記憶手段)
60 シリンダブロック
60A シリンダブロック
61 ボア
61A ボア
70 ダミーヘッド
M1〜M4 測定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既に形成された断面非真円形状の穴の軸線上に設定された複数の測定点それぞれでの当該穴の内径形状を測定して取得した内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出工程と、
前記分析形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析形状パラメータ記憶工程と、を備えることを特徴とする非真円形穴加工方法。
【請求項2】
シリンダブロックに形成された断面非真円形状のボアの軸線上に設定された複数の測定点それぞれでの前記ボアの内径形状を測定して取得した内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出工程と、
前記分析形状パラメータを、加工装置の電子記憶媒体に記憶させる分析形状パラメータ記憶工程と、を備えることを特徴とする非真円形穴加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非真円形穴加工方法において、
前記n次は、4次であることを特徴とする非真円形穴加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載の非真円形穴加工方法において、
前記形状データは、コンピュータ上の仮想空間にて、理想的な形状のワークを生成し、その後、当該ワークの温度を変化させて、当該ワークの理想的な形状からの変化をシミュレートし、このシミュレートした形状に基づいて生成したデータであることを特徴とする非真円形穴加工方法。
【請求項5】
既に形成された断面非真円形状の穴の軸線上に設定された複数の測定点それぞれでの当該穴の内径形状を測定して取得した内径形状データを周波数解析し、当該0次からn次(nは自然数)までの周波数成分の振幅値および位相値を分析形状パラメータとして算出する分析形状パラメータ算出手段と、
前記分析形状パラメータ算出手段で算出された分析形状パラメータを記憶する分析形状パラメータ記憶手段と、を備えることを特徴とする非真円形穴加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載の非真円形穴加工装置において、
前記n次は、4次であることを特徴とする非真円形穴加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−64247(P2012−64247A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285359(P2011−285359)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2009−156788(P2009−156788)の分割
【原出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】