説明

非破壊検査方法及び非破壊検査システム

【課題】 人体に影響を与えることなく安全に、且つ容易に放射性雰囲気にあり、また多くの狭隘部での検査を行う必要がある原子力設備等の診断を行うことができる非破壊検査システムを提供する。
【解決手段】 固定された設備としての放射線源である原子炉1を近傍に有するとともに閉鎖された空間に設置されている設備である検査対象物6に対する非破壊検査システムであって、原子炉1から放射される放射線を入射させて平行な放射線として出射させる筒状部材であるコリメータ8と、コリメータ8を介して検査対象物である検査対象物6の所定の領域を透過した放射線7を検出する放射線検出器5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非破壊検査方法及び非破壊検査システムに関し、特に放射線を利用した原子炉設備の診断に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所における原子炉格納容器内の設備等、高放射性雰囲気における設備、例えば冷却水を流通させる配管の亀裂の発生、減肉の程度等を診断する際、従来においては、図15に示すように、原子炉1の稼動を停止した状態で作業員2が原子炉格納容器3内に入って所定の作業を行っていた。すなわち、作業員2は放射線源4と放射線検出器5とを携帯して診断対象となる設備、例えば原子力設備の冷却水を流通させる配管である検査対象物6の設置場所まで行き、そこで所定の診断部位を挟んで放射線源4と放射線検出器5とを対向させることにより前記診断部位の状態を示す画像情報を得ていた。すなわち、放射線源4から放射する放射線を前記診断部位に透過させ、この透過した放射線を利用して所定の画像情報を得る、いわゆる非破壊検査を行っていた。
【0003】
なお、原子炉構造物の診断方法を開示する公知文献として、例えば特許文献1を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―175563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如き設備診断においては作業員2が放射線源4と放射線検出器5とを携帯して所定の診断作業に向かわなければならないので、常に被爆の危険を伴っていた。また、診断対象が原子炉格納容器3内にある検査対象物6が配管等の設備である場合であって、当該原子炉格納容器3内に作業員2が入って所定の作業をする場合には、作業員2の安全を確保するため、通常原子炉1の運転を停止してこれを行っている。この結果、原子炉1の稼働率の低下の原因となっていた。
【0006】
さらに、従来技術において放射線検出器5としてはフィルムやイメージプレートが汎用されているが、いずれにしても後で現像を必要としていた。すなわち、リアルタイムで設備診断結果を得ることができなかった。リアルタイムで設備診断結果を得るためには、シンチレーションCCDカメラ、X線イメージインテンシファイアー、フラットパネルX線センサ等を使用して所望の非破壊検査システムを構築すれば良い。これらは、検査対象物をリアルタイムで平面画像として撮像したり、オンライン計測したりすることができるからである。ただ、既存のものを利用しようとすると用途によっては新たな問題が発生する。例えば、原子力設備の配管等の設備検査を行う場合、当該原子炉設備の配管を非破壊検査の検査対象物としなければならない。この場合の非破壊検査は多くの配管等が入り込んで配設されている狭隘な場所で行う必要があり、放射線検出部を可及的に小型化する必要がある。これに対し原子炉格納容器内等の狭隘な場所で、ある程度の検査領域を指定して効率良くリアルタイムの非破壊検査を行うのに好適な放射線の検出装置は存在せず、その出現が待望されていた。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、人体に影響を与えることなく安全に、且つ容易に放射性雰囲気にあり、また多くの狭隘部での検査を行う必要がある原子力設備等の診断を行うことができる非破壊検査方法及び非破壊検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、固定された設備又はこの設備に接触することにより放射線を照射する放射線源を近傍に有するとともに閉鎖された空間に設置されている設備である検査対象物に対する非破壊検査方法であって、前記放射線源から放射される放射線のうち前記検査対象物の所定の領域を透過した放射線を放射線検出手段により撮像することを特徴とする非破壊検査方法にある。
【0009】
本態様によれば、特別な放射線源を用意しなくても検査対象物の放射線による透過画像を得ることができる。この結果、作業員が放射線源を携帯することなく、所定の非破壊検査を行うことができ、かかる非破壊検査を安全且つ簡易に実施することができる。
【0010】
本発明の第2の形態は、第1の態様に記載する非破壊検査方法であって、前記放射線源から放射される放射線はコリメート手段により平行な放射線として前記検査対象物の所定の領域を透過させるようにしたことを特徴とする非破壊検査方法にある。
【0011】
本態様によれば、検査対象物の所定の領域には、コリメートされた放射線が入射するので前記所定領域において効率よく放射線を透過させることができる。この結果、検査対象物に対応する高精度の放射線透過による画像を得ることができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、固定された設備又はこの設備に接触することにより放射線を照射する放射線源を近傍に有するとともに閉鎖された空間に設置されている設備である検査対象物に対する非破壊検査システムであって、前記放射線源から放射される放射線を入射させて平行な放射線として出射させる筒状部材であるコリメート手段と、前記コリメート手段を介して前記検査対象物の所定の領域を透過した放射線を検出する放射線検出手段とを有することを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0013】
本態様によれば、特別な放射線源を用意しなくても検査対象物の放射線による透過画像を得ることができる。この結果、作業員が放射線源を携帯することなく、所定の非破壊検査を行うことができ、かかる非破壊検査を安全且つ簡易に実施することができる。
【0014】
ここで、検査対象物の所定の領域には、コリメートされた放射線が入射するので前記所定領域において効率よく放射線を透過させることができる。この結果、検査対象物に対応する高精度の放射線透過による画像を得ることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載する非破壊検査システムにおいて、さらに、前記放射線検出手段を水平方向、垂直方向、又は水平方向及び垂直方向に移動させて前記放射線検出手段が前記領域の全部を撮像するように走査させる走査手段と、前記放射線検出手段による前記走査の結果を得る複数の領域の画像を合成して前記検査対象物の前記領域の全部の画像を合成する画像合成手段とを有することを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0016】
本態様によれば、複数枚の画像を合成して一枚の画像を得ているので、放射線検出手段をその分小型化することができる。この結果、例えば原子炉格納容器内の配管の間等、狭隘な場所にある検査対象物であっても、良好に所望の広い領域の画像を得ることができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第3又は第4の態様に記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線源、前記コリメート手段の軸、前記放射線検出手段が一直線上に並ぶように前記コリメート手段と放射線検出手段とを同期させて前記検査対象物の周囲を移動させるように構成したことを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0018】
本態様によれば、コリメート手段と放射線検出手段とが同期して移動するので、検査対象物の放射線画像を得たい領域が移動しても、常に最適な透過放射線により高画質の画像を得ることができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、第3乃至第5の態様の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線検出手段はオンライン撮像により前記所定の画像を得るものであることを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0020】
本態様によれば、リアルタイムで検査対象物の所定領域の放射線透過画像を得ることができ、当該非破壊検査システムの完全自動化に資することができる。ここで、オンライン撮像に適用し得る放射線検出手段としては放射線イメージセンサカメラやフラットパネルを好適に適用し得る。
【0021】
本発明の第7の態様は、第3乃至第6の態様の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線検出手段は、放射線の検出感度が相対的に高感度と相対的に低感度の少なくとも2種類を備えていることを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0022】
本態様によれば、感度が異なる複数種類の放射線透過画像が得られるので、全体の形状を把握する際に利用する画像及び厚肉部と薄肉部との境界部分を良好に把握する際に利用する画像を同時に得ることができる。この結果、得られた放射線透過画像を用途に応じて適切に使い分けることができ、最適な検査情報を得ることができる。
【0023】
本発明の第8の態様は、第3乃至第7の態様の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線検出手段は長手方向に沿って列状に配設されて棒状に形成されており、さらに前記放射線検出手段を支持して前記設備の間の狭隘部に連通した空間内に前記放射線検出手段を配置するための支持部材と、前記放射線検出手段と前記支持部材との間に設けられて前記支持部材に対する前記放射線検出手段の角度を変更することができる接続部とを有することを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0024】
本態様によれば、狭隘部に放射線検出手段を挿入する際には、放射線検出手段の長手方向と支持部材の長手方向とが一致するように支持部材に対する放射線検出手段の角度を調整することによって放射線検出手段を支持部材とともに狭隘部を通し、放射線検出手段が狭隘部に連通した空間内に位置するようになった後、支持部材に対して放射線検出部が所定の角度をなすように支持部材に対する放射線検出部の角度を変更できる。この結果、狭隘部に連通した空間内にある検査対象物について、その狭隘部に対応する検査対象物の領域以外の領域を撮像することができる。
【0025】
本発明の第9の態様は、第3乃至第8の態様の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線源は原子炉であることを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0026】
本態様によれば、原子炉を放射線源としているので、非破壊検査を良好に行うための強い放射線を得ることができる。
【0027】
本発明の第10の態様は、第3乃至第8の態様の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、前記放射線源は、原子炉の冷却水が流通する配管の冷却水であり、前記検査対象物は前記冷却水が流通する前記配管を除く他の配管であることを特徴とする非破壊検査システムにある。
【0028】
このように放射性を帯びた冷却水であれば、これを当該非破壊システムの放射線源として利用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば放射性雰囲気にもともと存在する放射線源から照射される放射線を直接又はコリメート手段で平行にして検査対象物の所定の領域に入射させているので、格別な放射線源を用意することなく、もともと存在する放射線源を利用して非破壊検査の放射線源とすることができる。同時にコリメート手段は放射線を平行に揃えるので、放射線雰囲気において四方八方に照射されている放射線の影響を可及的に低減し、透過放射線による検査対象物の良好な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る非破壊検査システムを概念的に示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る非破壊検査システムを示す概略図である。
【図3】本発明の第1の実施例をその動作時の状態で示す概略斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施例における放射線選出手段の移動軌跡を示す概略図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る非破壊検査システムを示す概略図である。
【図6】検出対象物に対する検査の対象となる画像の全領域と一ショットで撮れる画像の領域との関係を示す説明図である。
【図7】図6に示す検出対象物の実際の放射線写真を示す図で、(a)は感度が低い場合、(b)は感度が高い場合である。
【図8】本発明の第3の実施例に示す非破壊検査システムを示す概略図である。
【図9】図8に示す放射線検出部を抽出・拡大して示す概略正面図である。
【図10】図8に示す放射線検出部を狭隘部の上方の空間内に挿入した際の態様を示す概略斜視図である。
【図11】図8に示す非破壊検査システムの動作時の状態を示す概略斜視図である。
【図12】図8に示す非破壊検査システムの拡大図で,(a)はその正面図、(b)はその上面図である。
【図13】本発明の第4の実施例に係る非破壊検査システムの放射線検出部を抽出・拡大して示す概略正面図である。
【図14】本発明の第5の実施例に係る非破壊検査システムの放射線検出部を抽出・拡大して示す概略正面図である。
【図15】従来技術に係る非破壊検査システムを概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態を概念的に示す模式図である。同図に示すように、当該非破壊検査システムは、固定された設備である原子炉1を放射線源として利用するもので、原子炉1の近傍の閉鎖された空間である原子炉格納容器3内に設置されている配管を検査対象物6とするものである。
【0032】
ここで、コリメータ8は原子炉1から放射される放射線7を入射させて平行な放射線7Aとして出射させる筒状部材である。このコリメータ8は鉛等の放射線遮蔽性を有する材料で円筒状に形成してあり、その軸線が検査対象物6の検査する領域に向けてある。ここで、コリメータ8の形状は筒状であれば良く、円筒状に限定するものではない。また、コリメータ8の横断面形状は放射線検出器5の受光面の形状に合わせて最も合理的な形状(より大きな線量の放射線を入射させ得る形状)とするのが望ましい。
【0033】
放射線検出器5はコリメータ8を介して検査対象物6の所定の領域を透過した放射線7Aを検出するものであり、リアルタイムで検査対象物6の放射線画像を撮像し得るように構成してある。かかる放射線検出器5は放射線イメージセンサカメラやフラットパネルで好適に構成することができる。
【0034】
ここで、放射線検出器5は水平方向、垂直方向、又は水平方向及び垂直方向に移動させて検査対象物6の所定の領域を複数に分割して撮像するよう走査する構成としても良い。この場合には放射線検出器5自体を小型化することが可能になるため、原子力設備の配管等、狭隘な場所に在る検査対象物6の検査に好適である。放射線検出器5で検査対象物6を走査する場合には放射線源である原子炉1、コリメータ8の軸、放射線検出器5が一直線上に並ぶようにコリメータ8と放射線検出器5とを同期させて検査対象物6の周囲を移動させるように構成する。かかる分割画像の撮像及び走査機構の詳細は各実施例で具体的に説明する。
【0035】
なお、放射線源は原子炉1に限定する必要はなく、原子炉格納容器3内等の閉鎖された空間に配設されている検査対象物6を透過して放射線検出器5で検出し得る十分な放射線量を放射しているものであれば構わない。他に、例えば原子炉1の冷却水が流通する配管の冷却水も放射線源とすることができる。
【0036】
かかる本実施形態によれば、固定された設備である原子炉1を放射線源として照射される放射線7をコリメータ8でコリメートし、平行な放射線7Aとすることができる。そこで、放射線7Aを検査対象物6に照射してその所定の領域を透過させることで放射線検出器5に透過領域の画像を得る。
【0037】
なお、放射線源から十分な線量の放射線が得られる場合等にはコリメータ8で放射線をコリメートする必要は必ずしもない。ただ、高画質の画像を得るにはコリメータ8でコリメートしたほうが勿論好ましい。
【0038】
次に、上記実施の形態をさらに具体化した実施例について説明する。なお、以下の各実施例において同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
<第1の実施例>
図2は第1の実施例に係る非破壊検査システムを示す概略図である。同図において放射線源は示していないが、当該非破壊検査システムが設置されている場所が、例えば原子炉格納容器内等、原子炉や配管を流れる冷却水等を放射線源として利用し得る放射性雰囲気となっている。
【0040】
図2に示すように、本実施例に係る非破壊検査システムは、コリメート部10と、コリメート部10でコリメートされた放射線を受けて検査対象物の一部を撮像する機能を有する撮像部20と、コリメート部10及び撮像部20のそれぞれに接続されてコリメート部10及び撮像部20を制御する制御部30と、撮像部20に接続されて得られた検査対象物の一部の画像をそれぞれ組み合わせて検査対象物全体の画像を得る画像合成部40とを具備している。
【0041】
コリメート部10は、入射した放射線を平行な放射線として出射させる筒状の部材であるコリメータ8と、コリメータ8に接続された棒状部材12を伸縮させてコリメータ8の鉛直方向の位置(高さ)を調整することができる支持部13と、支持部13の下方に設けられて水平方向に移動するための移動手段15とからなり、コリメータ8を三次元的に自在に配置することができるようになっている。コリメータ8は、構造物の狭隘部内に入ることができる程度に小型化されている。
【0042】
棒状部材12はコリメータ8を保持することができるものであれば特に限定されず、支持部13は棒状部材12を鉛直方向に伸縮させてコリメータ8の鉛直方向の位置を調整することができるものであれば特に限定されない。
【0043】
移動手段15は、上部に載置されるコリメータ8、棒状部材12及び支持部13を水平方向に自在に移動させることができるものであれば特に限定されない。本実施例の移動手段15は、複数のローラ16とそのローラ16を駆動するための駆動手段(図示しない)とからなる。
【0044】
一方、撮像部20は、検査対象物の一部を透過したX線を受け、そのX線を対応する電気信号に変換する放射線カメラである放射線検出器5と、放射線検出器5に接続された棒状部材22を伸縮させて放射線検出器5の鉛直方向の位置(高さ)を調整することができる支持部23と、支持部23の下方に設けられて水平方向に移動するためのローラ26及びこれを駆動するための駆動手段(図示しない)からなる移動手段25とからなり、放射線検出器5を三次元的に自在に配置することができるようになっている。これら、棒状部材22、支持部23、移動手段25で走査手段を構成している。
【0045】
放射線検出器5は、構造物の狭隘部内に入ることができる程度に小型のもので、放射線を検出し、その放射線を対応する電気信号に変換することができるものであれば特に限定されない。放射線検出器5としては、例えばシンチレータとCCDカメラとを組み合わせたものなどが挙げられ、このように構成される放射線検出器5は小型で軽量であるという特徴がある。したがって、このような小型で軽量の放射線検出器5を用いることにより棒状部材22がたわんでしまうのを防止することができるので、より正確に検査対象物の一部の画像を得ることができる。
【0046】
制御部30は、コリメート部10及び撮像部20の動作を制御するものである。詳細は後述するが、具体的には、検査対象物の一部を撮像する際にコリメータ8の軸線と放射線検出器5とが一直線上で所定の距離を隔てて並ぶようにコリメート部10及び撮像部20の位置を制御すると共に、検査対象物の一部を撮像した後コリメータ8及び放射線検出器5を移動させてその検査対象物の他の一部分を撮像するようにコリメート部10及び撮像部20の位置を制御する。
【0047】
ここで、検査対象物の一部を撮像する際にコリメータ8と放射線検出器5とが上述のような所定の位置関係を維持するように制御する方法は特に限定されない。例えば、制御部30は以下に説明するようにして制御する。まず、ある地点を基準点としたデカルト座標を設定し、そのデカルト座標において、コリメート部10及び撮像部20が水平方向に移動した距離と、コリメート部10の棒状部材12及び撮像部20の棒状部材22が伸縮した状態における長さとに基づいて、コリメータ8及び放射線検出器5のそれぞれが位置する座標を求める。次に、それらの座標からコリメータ8と放射線検出器5との距離を算出し、その距離が上述した所定の間隔となるように移動手段15、25及び支持部13、23を制御する。また、コリメータ8及び放射線検出器5にレーザー距離測定器などを取り付け、それを用いてコリメータ8と放射線検出器5との距離を測定し、その距離が上述した所定の間隔となるように移動手段15、25及び支持部13、23を制御してもよい。なお、制御部30としては、このような制御を行うことができるものであれば特に限定されず、例えば一般的なパーソナルコンピュータや専用計算機などが挙げられる。
【0048】
画像合成部40は、放射線検出器5によって変換された検査対象物の一部の画像に対応する電気信号を複数組み合わせて、検査対象物全体の画像を合成することができるものである。具体的には、画像合成部40は、隣接する検査対象物の一部の画像同士を重複領域がないように重ね合わせ、最終的に検査対象物全体の画像を合成するものである。ここで、検査対象物全体の画像を合成する方法は特に限定されず、既存の様々な方法を用いることができる。画像合成部40としては、このような機能を有するものであれば特に限定されず、一般的なパーソナルコンピュータや専用計算機であってもよく、制御部30の機能を兼ねたものであってもよい。
【0049】
次に、本実施例に係る非破壊検査システムを用いて構造物の狭隘部に連通した空間内にある検査対象物を検査する際の態様について図3を参照して詳しく説明する。図3は本実施例に係る非破壊検査システムを用いて構造物の狭隘部に連通した空間内にある検査対象物を検査する際の動作時の状態を示す概略斜視図である。
【0050】
図3に示すように、検査対象となる円柱状の検査対象物100は、2つの障害物200の間に形成される狭隘部210の上方の空間内に配置されている。なお、図示しないが、検査対象物100には狭隘部210側からしか検査装置などが近づけないようになっている。そこで、本実施例では、このような検査対象物100を挟むように、狭隘部210内を通してその空間内にコリメータ8及び放射線検出器5を配置し、以下に説明するようにして検査対象物全体の画像を得る。
【0051】
まず、コリメータ8及び放射線検出器5を検査対象物100の所定の一部を撮像することができる位置に移動させ、その部分を撮像する。本実施例では、図4に示すように、検査対象物100の左下の一部を撮像することができる位置にそれらを移動させ、その部分を撮像している。図4(a)は放射線検出器5側から見た際の放射線検出器5の移動軌跡を示す概略図であり、図4(b)は上方から見た際のコリメータ8と放射線検出器5の移動軌跡を示す概略図である。
【0052】
ここで、検査対象物100の一部を撮像する際には、コリメータ8と放射線検出器5との鉛直方向の位置(高さ)は等しく、それらの間の距離D(図3参照)は一定となっており、さらに放射線検出器5の受光面5Cはコリメータ8を介して照射されるX線に対して垂直になるように配置されている。以下の動作においても同様に、撮像する際には、コリメータ8と放射線検出器5の鉛直方向の位置(高さ)は等しく、それらの間の距離Dは一定であり、さらに放射線検出器5の受光面5Cはコリメータ8から照射されるX線に対して垂直になるように調整される。
【0053】
次に、検査対象物100の他の一部を撮像することができる位置にコリメータ8及び放射線検出器5を移動させる。本実施例では、図4(a)に示すl1だけコリメータ8及び放射線検出器5を上方に平行移動させる。なお、コリメータ8及び放射線検出器5を移動させる際に、それらを同時に移動させるようにしてもよいし、何れか一方ずつ個別に移動させるようにしてもよい。そして、その部分を撮像する。
【0054】
ここで、本実施例では、コリメータ8及び放射線検出器5は、検査対象物100の一部を撮像する際に、上述したように、コリメータ8と放射線検出器5の鉛直方向の位置(高さ)は等しく、それらの間の距離は一定であり、さらに放射線検出器5の受光面5Cはコリメータ8から照射されるX線に対して垂直になるように配置されるので、放射線検出器5により得られる検査対象物100の一部の画像のそれぞれは、放射線検出器5に対して常に同じ距離を隔てて配置されたコリメータ8から、放射線検出器5の受光面5Cに対して垂直方向から照射された放射線を受けて得られるものとなる。したがって、これらの検査対象物100の一部の画像を合成することにより得られる検査対象物100全体の画像は、検査対象物100に沿って一定距離を隔てて配置された板状のX線源からその受光面5Cに対して垂直方向に照射されたX線を受けて得られるものと等しくなる。その結果、検査対象物100全体の正確な画像を得ることができる。
【0055】
その後、制御部30により、検査対象物100の全体を撮像したか否かが判断され、検査対象物100全体を撮像していない場合には、検査対象物100全体を撮像するまで上述した動作が繰り返される。なお、かかる一連の走査を行う過程で、コリメータ8及び放射線検出器5を検査対象物100の他の一部を撮像することができる位置に移動させる必要があるが、その移動順序としては例えば図4(a)及び図4(b)に示すl2〜l7のような移動順序が挙げられる。このように移動させることにより効率的に検査対象物100全体の画像を得ることができる。
【0056】
そして、検査対象物100全体を撮像した場合には、画像合成部40により検査対象物100全体の画像を合成する。
【0057】
以上、説明したように、本実施例に係る非破壊検査システムによれば、小型の放射線検出器5を用いて検査対象物100の一部をそれぞれ撮像して、最終的に合成して検査対象物100全体の画像を得ることができるので、構造物の狭隘部210に連通した空間内に配置された検査対象物100全体を撮像することができると共に、正確な検査対象物100全体の画像を得ることができる。
【0058】
<第2の実施例>
図5は第2の実施例に係る非破壊検査システムを示す概略図である。同図に示すように、本実施例に係る非破壊検査システムでは、低感度と高感度の2種類の感度で所定の画像を撮像する放射線検出器5A,5Bで放射線検出器5を形成してある。一方、コリメート部10も放射線検出器5A,5Bに対応させてコリメータ8A,8Bを2個設けてある。このように、コリメータ8A,8Bを放射線検出器5A,5Bに対応させて設けることは必須ではないが、上述の如くコリメータ8A,8Bを設けることにより放射線検出器5A,5Bの受光面の形状にそれぞれ合致するよう最も合理的に放射線をコリメートすることができる。
【0059】
この結果、撮像部21は、コリメート部10のコリメータ8A,8Bでそれぞれコリメートされて検査対象物100の一部を透過した放射線を受けてその放射線量に対応する電気信号に変換する2個の放射線検出器5A,5Bを有する。そして、2個の放射線検出部5A,5Bは一体となって棒状部材22に支持されており、棒状部材22を伸縮させて放射線検出器5A,5Bの鉛直方向の位置(高さ)を支持部材23で調整するとともに、支持部23の下方に設けられて駆動手段(図示せず)で駆動されるローラ26を介して移動手段25により水平方向に移動させられる。本実施例においても第1の実施例と同様に、これら棒状部材22、支持部23及び移動手段25で走査手段を形成しており、これらの移動の組み合わせで放射線検出器5A,5Bを一体的に水平及び垂直方向に移動させて放射線検出器5A,5Bが検査対象物100の所定の検査領域の全体を走査するようになっている。このときの走査の軌跡を図5中に矢印101で示す。このときコリメータ8A,8Bも放射線検出部5A,5Bに同期して移動するように構成してある。
【0060】
ここで、放射線検出器5A,5Bは検査対象物100をリアルタイムで撮像し得るものであれば特別な制限はないが、第1の実施例と同様に、シンチレーションCCDカメラ、X線イメージインテンシファイアー、フラットパネルX線センサ等で好適に構成することができる。また、放射線検出器5A,5Bは相対的に低感度と高感度の2種類の感度で検査対象物100の検査領域の一部をそれぞれ撮像するように構成してあるが、感度を変える方法に特別な制限はない。例えばカメラの場合にはシャッタ時間を変えることで容易に感度を調整することができる。また、放射線検出器5A,5B自体の感度が低感度のものと高感度のものを使用することによっても感度を調整し得る。これは、例えば素子としてCCDを用いた場合、素子の厚さを変えることにより容易に調整することができる。さらに、放射線検出器5A,5Bのゲインを調整することによっても感度を調整することができる。
【0061】
本実施例における制御部30及び画像合成部40の機能は第1の実施例のものと本質的に変わるものではない。ただ、本実施例における制御部30は2個の放射線検出器5A,5Bで個別に得られた複数画像を合成して検査対象物100の所定の領域に対応する低感度と高感度の一枚づつの画像が得られるように制御する。
【0062】
図6は検出対象物(エルボ)100に対する検査の対象となる画像の全領域と一ショットで撮れる画像の領域との関係を示す説明図である。同図中太い点線で示した領域102が、同図中細い点線で示した一ショット領域103を合成して1枚の画像に合成される。上述の如き走査により各一ショット領域103の画像が放射線検出器5A、5Bでそれぞれ撮像される。この結果得られる図6に示す検査対象物(エルボ)の実際のX線写真を図7に示す。図7(a)が感度が低い場合(撮影時間が40秒)、図7(b)が感度が高い場合(撮影時間が60秒)である。感度が低い図7(a)に示す場合には全体の形状が明確に把握され、感度が高い図7(b)に示す場合には全体の薄肉部と厚肉部との境界が明確に把握されることが分る。
【0063】
<第3の実施例>
図8は第3の実施例に係る非破壊検査システムを示す概略図である。同図に示すように、本実施例に係る非破壊検査システムでは、第2の実施例と同様に、低感度と高感度の2種類の感度で所定の画像を撮像する放射線検出器51A,51Bで放射線検出器51を形成してある。さらに、相対的に低感度と高感度との2種類のグループに分けられた放射線検出器51A,51Bは棒状に形成されており、その幅方向中央部にはリアルタイムで画像を取り込むことができる放射線検出センサであるCdTe素子511が長手方向に沿って列状に複数配置されている。具体的には、CdTe素子511が、放射線検出器51A,51Bの幅方向中央部に長手方向に沿ってそれぞれ1列に並んで複数配置されている。
【0064】
ここで、放射線検出器51A,51Bとしては、構造物の狭隘部内に挿入することができる程度に小型のもので、リアルタイムでX線を検出して検査対象物の一部の画像に対応する電気信号に変換することができるものであれば特に限定されない。なお、放射線検出器51A,51Bの長手方向の長さは任意に設定することができる。
【0065】
接続部24は、放射線検出器51A,51Bと棒状部材22との間に設けられて棒状部材22に対する放射線検出器51A,51Bの角度を調整することができるような構成となっている。
【0066】
接続部24は、図9に示すように、放射線検出器51A,51Bの回動軸として放射線検出器51A,51Bを回動させることができるものであれば特に限定されない。接続部24としては、例えば放射線検出器51A,51Bと棒状部材22とを繋ぎ、かつ図示しない駆動モータなどの駆動手段によって放射線検出器51A,51Bを回動させて、棒状部材22に対する放射線検出器51A,51Bの角度を自在に変更することができる自在継手などが挙げられる。
【0067】
一方、本形態におけるコリメータ8はその横断面形状を、放射線検出器51A,51Bが形成する棒状に対応する形状としてあり、しかもこのコリメータ8は図9に示す接続部24と同様の機構の接続部14を介して棒状部材12に繋がれている。この結果、コリメータ8の棒状部材12に対する角度を放射線検出器51A,51Bの棒状部材22に対する角度に合わせて調整することにより放射線検出器51A,51Bに向けて最適な状態にコリメートされた放射線を照射することができる。
【0068】
本実施例における制御部30及び画像合成部40の機能も第1の実施例のものと本質的に変わるものではない。ただ、本実施例における制御部30は棒状部材22に対して放射線検出器51A,51Bが所定の角度をなすように接続部24を回動駆動させる制御も行うとともに、これに同期するように棒状部材12に対してコリメータ8が所定の角度をなすように接続部14を回動駆動させる制御も行う。
【0069】
次に、本実施例に係る非破壊検査システムを用いて構造物の狭隘部に連通した空間内にある検査対象物の所定の領域を検査する際の動作について図10乃至図12を参照してさらに詳細に説明する。ここで、図10は本実施例における撮像部を狭隘部の上方の空間内に挿入した際の状態を示す概略斜視図、図11は本実施例に係る非破壊検査システムを用いて構造物の狭隘部に連通した空間内にある検査対象物を検査する際の動作時の状態を示す概略斜視図である。また、図12は、図8に示す非破壊検査システムの拡大図で,(a)はその正面図、(b)はその上面図である。
【0070】
先ず、検査対象となる円柱状の検査対象物100は、図10に示すように、2つの障害物200の間に形成される狭隘部210の上方の空間内に配置されている。ここで、図示はしないが、検査対象物100には狭隘部210側からしか検査装置等が接近できないような構造となっている。そこで、本実施例では、このような検査対象物100を挟むように、狭隘部210内を通してその空間内に撮像部50の放射線検出器51A,51Bを配置し、以下に説明するようにして検査対象物100の所定の領域の画像を得る。
【0071】
まず、放射線検出器51A,51Bと棒状部材22とのなす角が180°となるように、すなわち放射線検出器51A,51Bの長手方向と棒状部材22の長手方向とが一致するように放射線検出器51A,51Bを回動させ、その状態で狭隘部210内に放射線検出器51A,51Bを下方から挿入する。この際に、放射線検出器51A,51Bと棒状部材22とは一直線上に配置されることになるので、狭隘部210内を容易に通過することができる。このとき、コリメータ8も同様の姿勢となっている。
【0072】
そして、放射線検出器51A,51Bが狭隘部210の上方の空間内に占位した時点で棒状部材22に対して放射線検出器51A,51Bが所定の角度をなすように放射線検出器51A,51Bを回動させる。本実施例では、図11に示すように、棒状部材22と放射線検出器51A,51Bとがなす角度が90°となるように放射線検出器51A,51Bを回動させる。このとき、コリメータ8も同様の姿勢となるように、接続部14を介して回動させる。この結果、コリメータ8は放射線検出部51A,51Bに向けて最適な状態にコリメートされた放射線を照射することができる。
【0073】
ここで、例えば撮像部50として、棒状部材22の端部に第2の実施例に示す放射線検出器5A,5Bを取付けたものを用いると、図12(a)及び図12(b)に示すように、狭隘部210の直上に位置して狭隘部210の幅Wに対応した幅を有する検査対象物100の領域R2しか撮像することができない。
【0074】
これに対して、本実施例の撮像部50を用いると、上述したように、棒状部材22に対する放射線検出器51A,51Bの角度が90°となるように放射線検出器51A,51Bを回動させて、検査対象物100の領域R2に隣接する領域R1を撮像することができる位置に、放射線検出器51A,51Bを占位させることができる。その結果、詳細は後述するが、検査対象物100の領域R2以外に、第1,2の実施例に係る撮像部20,21では撮像することができなかった検査対象物100の領域R1を撮像することができることになる。
【0075】
かかる状態で、原子炉等の放射線源から放射され、コリメータ8でコリメートされた放射線を検査対象物100に照射することにより領域R1の一部を撮像する。本実施例では、図12(a)に示すように、検査対象物100の領域R1の下方の一部を撮像する。
【0076】
次に、検査対象物100の領域R1の他の一部を撮像することができる位置に放射線検出器51A,51Bを移動させる。本実施形態では、図12(a)に示すように、放射線検出器51A,51Bを上方に僅かに平行移動させる。なお、放射線検出器51A,51Bを移動させる際に、それらを同時に移動させるようにしてもよいし、何れか一方ずつ個別に移動させるようにしてもよい。そして、所定の部分を撮像する。
【0077】
ここで、検査対象物100の一部を撮像する際には、コリメータ8と放射線検出器51A,51Bとの鉛直方向の位置(高さ)は等しく、それらの間の距離はDとなっており、さらに放射線検出器51A,51Bの長手方向がコリメータ8から放射線検出器51A,51Bへ向かう方向に対して垂直となるようにコリメータ8と放射線検出器51A,51Bの位置が調整される。したがって、これらの検査対象物100の一部の画像を合成することにより得られる検査対象物100の領域R1の画像は、検査対象物100の領域Rの正確な画像を得ることができる。
【0078】
その後、制御部30により、検査対象物100の領域R1全体を撮像したか否かが判断され、検査対象物100の領域R1全体を撮像していない場合には、検査対象物100全体を撮像するまで上述した処理が繰り返される。
【0079】
一方、検査対象物100全体を撮像した場合には、画像合成部40により検査対象物100の領域R1全体の画像を、低感度及び高感度毎に合成する。
【0080】
なお、検査対象物100の領域R2に隣接する領域R3についても、棒状部材22に対する放射線検出器51A,51Bの角度が−90°となるように放射線検出器51A,51Bを回動させ、同様に撮像・画像合成をすることによって検査対象物100の領域R3全体の画像を合成することができる。
【0081】
以上、説明したように、本実施例に係る非破壊検査システムによれば、狭隘部210に挿入する際には、放射線検出器51A,51Bの長手方向と棒状部材22の長手方向とが一致するように放射線検出器51A,51Bを回動させることによって放射線検出器51A,51Bを棒状部材22から延長される棒状となるような姿勢に保持した状態で狭隘部210を通し、放射線検出器51A,51Bが狭隘部210の上方の空間内に占位した後、棒状部材22に対する放射線検出器51A,51Bの角度が90°となるように放射線検出器51A,51Bを回動させることができるので、狭隘部210に連通した空間内にある検査対象物100について、その狭隘部210に対応する検査対象物100の領域R2以外の領域R1,R3を撮像することができる。
【0082】
<第4の実施例>
図13は本発明の第4の実施例に係る非破壊検査システムの放射線検出器を抽出・拡大して示す概略正面図である。本実施例は図8及び図9に示す放射線検出器51A,51Bの素子の並びを変更したものである。すなわち放射線検出器51Aを構成する低感度の素子と放射線検出器51Bを構成する高感度の素子とを交互に並べることにより全体を棒状に形成している。なお、図中の符号は錯綜を避けるため放射線検出器51A,51Bの「51」を省略し、「A」、「B」のみを示している。すなわち、「A」が51A,「B」が51Bを表している。
【0083】
かかる本実施例によれば1回目の走査において、図13(a)に示す状態で上下方向に放射線検出器51A,51Bを移動させて検査対象物の所定の領域を撮像する。次に2回目の走査においては図13(b)に示すように、図中右方向に素子の1ピッチ分dだけ水平移動させた位置で同様に上下方向に放射線検出器51A,51Bを移動させて検査対象物の1ピッチ分dだけずれた領域を撮像する。
【0084】
この結果、1回目の走査画像の奇数列、2回目の走査画像の偶数列を選択して合成すれば低感度の画像が得られ、1回目の走査画像の偶数列、2回目の走査画像の奇数列を選択して合成すれば高感度の画像が得られる。
【0085】
<第5の実施例>
図14は本発明の第5の実施例に係る非破壊検査システムの放射線検出器を抽出・拡大して示す概略正面図である。本実施例は図8及び図9に示す放射線検出器51A,51Bをもう一組追加したものである。すなわち、撮像部60の放射線検出器61A,61B及び放射線検出器62A,62Bは、棒状部材22と同一方向に並列に配置されている2つの棒状の部材となっており、それぞれ放射線検出器61A,62Aが低感度用、放射線検出器61B,62Bが高感度用として形成してある。各放射線検出器61A,61B及び放射線検出器62A,62BはCdTe素子611を長手方向に沿って列状に複数配置することにより構成してあり、接続部64の駆動によりそれぞれの基端部を介して回動可能に構成してある。すなわち、放射線検出器61A,61B及び放射線検出器62A,62Bの長手方向が共に水平になるように放射線検出器61A,61B及び放射線検出器62A,62Bを制御部30の制御に基づき接続部64で独立に回動させることができるようになっている。
【0086】
このような撮像部60を構成することにより、最初は棒状部材22の軸線の延長上で垂直上方に伸びる棒状となっている放射線検出器61A,61B及び放射線検出器62A,62Bをそれぞれ時計方向及び反時計方向に回動させて水平に開くことができる。この結果、狭隘部210の上方の空間内にある検査対象物100のより広い領域を一度で撮像することができ、より効率的に検査対象物100の所定の領域全体の画像を得ることができる。
【0087】
なお、本実施例の場合も、放射線検出器61A,61B,62A,62Bの素子配列を図13に示す第4の実施例と同様に構成することができる。この場合には、接続部64の左右両側で第4の実施例と同様の撮像を行うことができる。
【0088】
<他の実施例>
上記第3の実施例では撮像部50を低感度と高感度とに分けたが、必ずしもこのように分ける必要はない。放射線検出器を第3の実施例と同様に棒状に形成するだけでも狭隘部の検査に有用な非破壊検査システムを構築することができる。この場合、コリメータ8は必ずしも必要がない場合がある。
【0089】
また、上記実施例では、放射線検出器51A,51B等の構成要素としてCdTe素子511,611を例に挙げて説明したがこれに限るものではない。放射線検出器51A,51B等はリアルタイムで放射線を検出して検査対象物100を撮像することができるものであれば特に限定されない。例えば、放射線検出器51A,51B、61A,61B、62A,62Bとして、CsIからなるシンチレータとCCDカメラとを組み合わせたものを放射線検出器(51A,51B)乃至(62A,62B)の長手方向に列状に配置してもよい。
【0090】
さらに、上記実施例では、放射線検出器(51A,51B)乃至(62A,62B)の長手方向の長さは一定となっていたが、これが伸縮自在となっていてもよい。例えば、放射線検出器(51A,51B)乃至(62A,62B)の長手方向の長さを伸ばすことができれば、撮像することができる検査対象物100の領域R1を大きくすることができるという効果を奏する。
【0091】
上記実施例では、接続部24,64を用いて、棒状部材22に対する放射線検出器(51A,51B)乃至(62A,62B)の角度を変更したが、これに限定されない。例えば支持部材とこれらの構成要素との間に屈曲可能な部材を設け、その部材を屈曲させることによって、棒状部材22に対する放射線検出器(51A,51B)乃至(62A,62B)の角度を変更するようにしても良い。
【0092】
なお、本発明においては放射線源から放射されている放射線であればその種類を問わず利用できる。すなわち、X線、γ線のみならず中性子線も利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は放射能線雰囲気の設備の診断を行う必要がある原子炉の保守、点検を行う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 原子炉
3 原子炉格納容器
5,5A 放射線検出器
7,7A 放射線
8,8A コリメータ
20,21,50,60 撮像部
51A,51B,61A,61B,62A,62B 放射線検出器
30 制御部
40 画像合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された設備又はこの設備に接触することにより放射線を照射する放射線源を近傍に有するとともに閉鎖された空間に設置されている設備である検査対象物に対する非破壊検査方法であって、
前記放射線源から放射される放射線のうち前記検査対象物の所定の領域を透過した放射線を放射線検出手段により撮像することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載する非破壊検査方法であって、
前記放射線源から放射される放射線はコリメート手段により平行な放射線として前記検査対象物の所定の領域を透過させるようにしたことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項3】
固定された設備又はこの設備に接触することにより放射線を照射する放射線源を近傍に有するとともに閉鎖された空間に設置されている設備である検査対象物に対する非破壊検査システムであって、
前記放射線源から放射される放射線を入射させて平行な放射線として出射させる筒状部材であるコリメート手段と、
前記コリメート手段を介して前記検査対象物の所定の領域を透過した放射線を検出する放射線検出手段とを有することを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項4】
請求項3に記載する非破壊検査システムにおいて、
さらに、前記放射線検出手段を水平方向、垂直方向、又は水平方向及び垂直方向に移動させて前記放射線検出手段が前記領域の全部を撮像するように走査させる走査手段と、
前記放射線検出手段による前記走査の結果を得る複数の領域の画像を合成して前記検出対象物の前記領域の全部の画像を合成する画像合成手段とを有することを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線源、前記コリメート手段の軸、前記放射線検出手段が一直線上に並ぶように前記コリメート手段と放射線検出手段とを同期させて前記検査対象物の周囲を移動させるように構成したことを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線検出手段はオンライン撮像により前記所定の画像を得るものであることを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線検出手段は、放射線の検出感度が相対的に高感度と相対的に低感度の少なくとも2種類を備えていることを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線検出手段は長手方向に沿って列状に配設されて棒状に形成されており、
さらに前記放射線検出手段を支持して前記設備の間の狭隘部に連通した空間内に前記放射線検出手段を配置するための支持部材と、
前記放射線検出手段と前記支持部材との間に設けられて前記支持部材に対する前記放射線検出手段の角度を変更することができる接続部とを有することを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線源は原子炉であることを特徴とする非破壊検査システム。
【請求項10】
請求項3乃至請求項8の何れか一つに記載する非破壊検査システムにおいて、
前記放射線源は、原子炉の冷却水が流通する配管の冷却水であり、前記検査対象物は前記冷却水が流通する前記配管を除く他の配管であることを特徴とする非破壊検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−203808(P2010−203808A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47181(P2009−47181)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】