説明

非金属基板の割断装置及び方法

【課題】 レーザでスクライブした基板を割断すると、切断面に傷がないため、極めて強度の高い製品が仕上がる。しかし、微小な傷がついてしまうと、破断強度が低下してしまうことがあった。
【解決手段】 非金属基板を、割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する装置及び方法であって、基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段と、基板の第二の部分を割断後に保持する第二の基板保持手段と、
記割断予定線の始端から終端に向かって、基板の表面にスクライブ線を形成する手段と、
スクライブ線を形成する手段に追従させて、スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与する手段とを備え、
基板の第一の部分を第一の基板保持手段で保持したまま、割断された基板の第二の部分とを、所定の間隔を保って保持できる機構を備えたことを特徴とする、非金属基板の割断装置及び方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやセラミックスなどの非金属基板を割断するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイや半導体チップなどの製造工程では、製造効率を上げるために、1つのウエハーや基板(以下、基板)にいくつもの製品を形成した後、所定の大きさに分割する方法が採用されている。前記フラットパネルディスプレイや半導体チップは、ガラス、セラミックス、シリコンなどの、脆性の非金属基板から形成されており、前記非金属基板の分割(以下、割断)は、次の様に行われている。
【0003】
まず、基板表面にスクライブ線を形成する。スクライブ線とは、非金属基板(以下、被割断基板)における割断予定線上に連続して形成される浅い亀裂である。
【0004】
次いで、形成した前記スクライブ線の両側に曲げモーメントを付与し、浅い亀裂を基板の板厚方向に伸展させることで割断予定線を境に、被割断基板が割断される。
【0005】
前記スクライブ線の形成法の一つに、レーザスクライブ法がある。
【0006】
レーザスクライブ法では、被割断基板に対して割断予定線を設定し、次に、前記割断予定線の一端に、微小な初期亀裂を形成する。続いて、割断予定線を辿る様に前記被割断基板のその始端から終端まで、所定の照射範囲を伴ったレーザ光により所定の時間で基板表面を加熱し、続いて前記レーザ光の加熱終了部分に追随して、前記被割断基板表面にミストを噴霧し、前記被割断基板を急冷させることにより、スクライブ線を形成する。
【0007】
前記スクライブ線の形成後、割断専用の装置を用いて被割断基板を割断したり、スクライブ線の形成に追従させた曲げモーメント付与手段によって、被割断基板の割断が行われる。
【0008】
前記スクライブ線の形成に追従させた曲げモーメント付与手段によって、被割断基板を割断する装置及び方法は、設置場所、導入費用や処理時間の観点から、スクライブ専用の装置と前記割断専用の装置とを導入するよりも優位点が多く、導入が進んでいる。
【0009】
特許文献1によれば、段差の上に被割断基板を載置し、移動自在に設けられた移動体の押圧を、スクライブ線の形成に追従させて行うことで、被割断基板を割断する技術が開示されている。
【0010】
特許文献2によれば、凹凸形状を持つテーブルの上に被割断基板を載置し、押圧ローラや圧縮エアーを用いた曲げモーメントの付与を、スクライブ線の形成に追従させて行うことで、被割断基板を割断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−338534
【特許文献2】WO2007/142264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
レーザでスクライブした基板を割断すると、切断面はエッジ部を含めて、凹凸が少なく極めて滑らかであり、傷もない。切断面に傷がないため、基板に外部から応力が加わった場合に、応力集中する部分がないため、破断強度が飛躍的に向上し、極めて強度の高い製品が仕上がる。しかし、切断面のエッジ部は、ほぼ直角であり、エッジ同士がこすれることがあると、同一材料であるため、接触した部分に微小な傷がついてしまう。
【0013】
微小な傷がついてしまうと、前記外部からの応力が加わった場合に、前記傷部に応力が集中しやすく、傷が無い場合に比べると、破断強度が低下してしまうことがあった。
そのため、基板を割断した後、エッジ同士を再接触させないことが課題としてあった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する装置であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段と、
前記基板の第二の部分を割断後に保持する第二の基板保持手段と、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成する手段と、
前記スクライブ線を形成する手段に追従させて、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与する、モーメント付与手段とを備え、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分が、割断後の変形により、第二の基板保持手段に保持され、前記割断された基板の第一の部分と、前記割断された基板の第二の部分とを、所定の間隔を保って保持できる機構を備えたことを特徴とする、非金属基板の割断装置である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する方法であって、
前記基板の第一の部分を第一の基板保持手段に、前記基板の第二の部分を第二の基板保持手段に、載置するステップと、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成するステップと、
前記スクライブ線の形成に追従しながら、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与し、前記基板を割断するステップとを有し、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分が、割断後に変形するステップと、
前記変形により割断された前記基板の第二の部分が、前記第二の基板保持手段に保持されるステップとを有し、
前記割断された基板の第二の部分を、所定の間隔を保って保持できるステップを有することを特徴とする、非金属基板の割断方法である。
前記の発明の装置及び方法を用いることで、前記基板が割断された後、前記基板の第二の部分が前記基板の第一の部分から遠ざかる様に変形し、前記変形により前記基板の第二の部分は、第二の基板保持手段に保持され、そのまま所定の間隔を保った状態で保持される。
【0016】
請求項3に記載の発明は、
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する装置であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段と、
前記基板の第二の部分を保持する第二の基板保持手段と、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成する手段と、
前記スクライブ線を形成する手段に追従させて、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与する、モーメント付与手段とを備え、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分を、割断後の変形に合わせて、姿勢を保持できる機構を備えていることを特徴とする、非金属基板の割断装置である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する方法であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段に、前記基板を載置するステップと、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成するステップと、
前記スクライブ線の形成に追従しながら、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与し、前記基板を割断するステップとを有し、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分を、割断後の変形にならって、姿勢を保持するステップを有していることを特徴とする、非金属基板の割断方法である。
前記の発明の装置及び方法を用いることで、前記基板が割断された後、前記基板の第二の部分は、第二の基板保持手段に保持されたまま、前記基板の第一の部分から遠ざかる様に変形し、そのまま所定の間隔を保った状態で保持される。
【0018】
本発明の装置及び方法を用いることで、被割断基板を割断した後、割断後の基板の第一の部分と第二の部分とのエッジ同士の接触させずに、次の工程に送ることが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の装置及び方法を用いて割断した基板は、割断したエッジ同士の再接触による傷の発生を防ぎ、切断した被割断基板の強度を維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による割断装置の概略を示す斜視図である。
【図2】本発明による割断装置のシステム構成を示す構成図である。
【図3】本発明による基板保持手段の構造を示す側面図である。
【図4】本発明による基板保持手段の構造を示す正面図である。
【図5】本発明による別の実施形態の基板保持手段の構造を示す側面図である。
【図6】本発明による別の実施形態の基板保持手段の構造を示す正面図である。
【図7】本発明による割断方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態について、図を用いながら説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例を示す斜視図である。
図において直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、XY平面を水平面、Z方向を鉛直方向
とする。特にZ方向は矢印の方向を上とし、その逆方向を下と表現する。また、Z方向を回転軸としたXY平面の回転方向をθとする。
【0022】
基板の割断装置1は、スライダ機構部2と、スクライブ線形成手段3と、モーメント付与手段4と、第一の基板保持手段5と、第二の基板保持手段6と、制御部9とが含まれて構成されている。
【0023】
スライダ機構2は、1対の支柱21と、支柱21を連結するように取り付けられた梁部22とで構成された門型の構造体と、梁部22に取り付けられた、X方向に伸びたレール23と、レール23の上を自在に移動可能なスライダ24と、を備えた構造をしている。さらに、それぞれの支柱21は、基板割断装置1の装置架台20上に取り付けられた、Y方向に伸びたレールとスライダーからなるY軸スライダ機構51の上に取り付けられており、スライダー24に取り付けられた機器が、基板割断装置1の装置架台20上で、XY方向に自在に移動出来る様な構造をしている。
【0024】
スクライブ線形成手段3は、スライダ24の上に取り付けられており、割断方向3vの矢視する方向から見て、初期亀裂形成手段30と、加熱ビーム照射手段33と、冷却手段34の順となる様に、配置されている。
【0025】
初期亀裂形成手段30には、アクチュエータと、前記アクチュエータに取り付けられたホイールホルダと、前記ホイールホルダに取り付けられたスクライブホイールが備えられている。前記アクチュエータがZ方向下向きに動くことにより、前記ホイールホルダと前記スクライブホイールがZ方向下向きに移動し、前記スクライブホイールが基板10に押し付けられ、基板10の割断開始端部に微小な初期亀裂を付ける事ができる。前記スクライブホイールは、基板10よりも硬質の材料が好ましく、人工ダイヤモンドやタングステンカーバイト、超硬金属、超硬金属化合物、若しくは超硬処理したものなどが用いられる。
【0026】
加熱ビーム照射手段33には、レーザ発信器31から照射されたレーザ光線を、所定の形状とエネルギー分布を有する加熱ビーム33aとなる様に整形し、加熱ビーム33aを基板10に向かって照射出来る様に、レンズやミラーなどの光学部品が備えられている。
【0027】
冷却ユニット34は、空気や水、その他の流体や混合物からなる冷媒などの冷却ミスト34aを供給する冷却剤供給手段と、基板10に向かって冷却ミスト34aを吹き付ける手段である、冷却ノズルとを含んで構成されている。
【0028】
したがって、スクライブ線形成手段3が、割断方向3vの矢視する方向に動きながら、基板10にスクライブ線を形成することが出来る構造をしている。
【0029】
モーメント付与手段4は、スライダ24の上に取り付けられており、スクライブ線形成手段3に追従するように移動することが出来る。そして、スクライブ線形成手段3で形成した、基板10のスクライブ線を押し広げるように、ローラー40を、Z方向下向きに押し付けることが出来る様な構造をしている。
【0030】
第一の基板保持手段5は、装置架台20の上に取り付けられたθ軸回転機構52と、θ軸回転機構52の上に取り付けられたテーブル50とを含んで構成されている。
基板10は、基板10上に設定された割断予定線11を挟んで、基板の第一の部分10aと、基板の第二の部分10bと呼び、基板の第一の部分10a側は、第一の基板保持手段5のテーブル50により保持されている。さらに、テーブル50は、基板10の第一の部分10aを保持し、θ方向に回転できる様な構造をしている。
【0031】
第二の基板保持手段6は、詳細を後述するが、基板10の第二の部分10bを保持できる様な構造をしている。
【0032】
制御部9は、情報入力手段91と、情報出力手段92と、発報手段93とが含まれて構成されている。
【0033】
図2は、本発明による割断装置のシステム構成を示す構成図である。
図2に示す様に、制御部9には、制御用コンピュータ90が含まれて構成されており、情報入力手段91と、情報出力手段92と、発報手段93と、情報記録手段94と、接続されている。また、制御部9には、機器制御ユニット95とが含まれており、制御用コンピュータ90や、後述する割断装置1の各機器と接続されている。
【0034】
制御用コンピュータ90として、マイコン、パソコン、ワークステーションなどの、数値演算ユニットが搭載されたものを例示することが出来る。
情報入力手段91として、キーボードやマウスやスイッチなどを例示することが出来る。
情報出力手段92として、画像表示ディスプレイやランプなどを例示することが出来る。
【0035】
発報手段93として、ブザーやスピーカ、ランプなど、作業者に注意喚起が出来るものを例示することが出来る。
情報記録手段94として、メモリーカードやデータディスクなどの、半導体記録媒体や磁気記録媒体や光磁気記録媒体などを例示することが出来る。
機器制御ユニット95として、プログラマブルコントローラやモーションコントローラと呼ばれる機器などを例示することが出来る。
【0036】
機器制御ユニット95は、スライダ24、初期亀裂形成手段30、レーザ31、加熱ビーム照射手段33,冷却手段34、モーメント付与手段4、Y軸スライダ機構51、θ軸回転機構52、並びに第二の基板保持手段6と接続され、各機器に制御用信号を送ることにより、次のように制御することができる。
1)スライダ24においては、スクライブ線形成手段3とモーメント付与手段4とをX方向に所定の速度で加速させ、所定の区間を予め設定しておいた速度で移動させた後、減速させ、静止させることが出来る。
2)初期亀裂形成手段30においては、Z方向に上下動作させることが出来る。
3)レーザ31においては、出力を調節したり、付随のシャッターを開閉させたりして、加熱ビーム33aのエネルギーを調節したり、ON/OFF制御をすることが出来る。
4)加熱ビーム照射手段33においては、加熱ビーム33aの形状や照射位置などを調節することができる。
5)冷却手段34においては、冷却ミスト34aの噴霧と停止の制御をすることができる。
6)モーメント付与手段4においては、ローラ40の上下動作をさせることが出来る。
7)Y軸スライダ機構51においては、テーブル50をY方向に所定の速度で加速させ、所定の区間を予め設定しておいた速度で移動させた後、減速、静止させたり、所定のピッチで移動させた後で静止させたりすることが出来る。
8)θ軸回転機構52においては、Z方向を回転軸として、テーブル50を回転させたり、角度を変更させたりした後で、静止させることが出来る。
さらに、その他のアクチュエータや圧力スイッチなどの制御機器(図示せず)が、接続されて、それらの機器を動作させたり、止めたりすることが出来る様になっている。
【0037】
基板10の割断位置や割断速度、加熱ビーム33aなどの設定や変更は、前記制御コンピュータ90に接続された、情報入力手段91を用いて行われ、情報表示手段92によって確認することが出来る。
また、設定された前記塗布条件は、制御コンピュータ90に接続された、情報記録手段94に登録することが可能で、適宜読み出し、編集し、変更をすることが出来る。
【0038】
割断装置1は、前記の様な構造と機器構成をしているので、基板10上に設定された割断予定線11に沿って、基板10上の任意の場所を割断することが出来る。
[基板保持機構詳細:吸盤保持、引き込み]
【0039】
図3は、本発明による基板保持手段の構造を示す側面図である。図3は、図1に示した割断装置1を左側から、つまりX方向に矢印と反対側から見た図であり、モーメント付与手段4のローラー40が、割断予定線11を挟んで、基板の第一の部分10aと基板の第二の部分10bとを、Z方向下向きに押し付けている状態を示している。
【0040】
モーメント付与手段4は、スクライブ後の基板を割断するために用いるローラー40とスライダー24とを、所定の間隔に保ったまま保持させるために、次の様な構造をしている。すなわち、スライダー24の側面には、ブレイカ支持ブラケット41が取り付けられており、ブレイカ支持シャフト42を介して、ローラ支持ブラケット43が取り付けられている。
ローラ支持ブラケット43は、略コの字型をしているものを例示することが出来、ローラ支持シャフト45を介して、ローラ40が取り付けられている。
【0041】
ブレイカ支持ブラケット41には、ローラ支持ブラケットが必要以上に振れないように、ストッパ44が取り付けられており、ローラ支持ブラケットがストッパ44に当たらない範囲で、ローラがY方向に首振り出来る様な構造をしている。そのため、ローラ40を基板10に押し付けて、基板10を割断した後、更に基板の第1の部分10aをローラー40とテーブル50とで挟み込んで保持した状態で、さらに、基板の第二の部分10bをローラー40で押し付け続けることが出来る。
【0042】
前記押し付け量の最適条件は、予めテストした結果を基に決定し、制御用コンピュータ90と情報記録手段94に設定し、登録しておく。
【0043】
第二の基板保持手段6は、装置架台20の上に取り付けられたアクチュエータ61aと、アクチュエータ61aの上に取り付けられた吸盤60aとを含んで構成されている。また、アクチュエータ61aは、吸盤60aをZ方向に移動できる様な構造をしている。さらに、アクチュエータ61aの内部には、位置検出器62aが備えられており、吸盤60aをZ方向の所定の位置に動かして静止させることが可能な構造をしている。
【0044】
基板10がテーブル50に載置された状態では、基板の第二の部分10bは、吸盤60aと所定の間隔を空けて保持されている。
【0045】
スクライブ線が形成され、ローラ40を押し付けて基板10を割断すると、基板の第二の部分10bが、Z方向下向きに動き、吸盤60aと接触する。
吸盤60aの内部を、予め真空源と連通させておくと、第二の基板10bと吸盤60aとが接触することで、吸盤60aの内部が所定の負圧状態となる。
【0046】
吸盤60a内の圧力を計測し、所定の負圧になったことを検出し、所定の負圧になったことをトリガーにして、アクチュエータ61aをZ方向下向きに移動し、その状態を保持出来る様にしておく。そうすることで、基板10が割断された後、第二の基板10bを、Z方向に移動させ、その状態を保持させることができる。
【0047】
吸盤60aは、弾性樹脂からなる吸盤や、平坦な金属や樹脂の上面に孔や溝を設けて、負圧吸着が出来る様にしたものを例示することができ、特にゴムやスポンジなど弾力性の材料を用いることが好ましい。
【0048】
図4は、本発明による基板保持手段の構造を示す正面図である。図4は、図1に示した割断装置1を紙面手前側から、つまりY方向に矢印と反対側から、見た図である。
【0049】
第二の基板保持手段6は、割断後の基板の第二の部分10bを保持することが出来る様に、吸盤60aとエアシリンダ61aと同じ構成の、吸盤60b〜hとエアシリンダ61b〜hとを、割断方向3vに並べた状態に配置して、備えている。
吸盤60a〜hは、装置架台20の上に取り付けられた、エアシリンダ61a〜hの上に取り付けられており、吸盤60a〜hの上端と基板10の第二の部分10bの下面とは、所定の隙間を隔てて、位置合わせされている。
【0050】
吸盤60a〜hは、各々エア配管と開閉バルブを介して、真空源に接続されている。吸盤60a〜hと、それらに対応する開閉バルブとの間には、圧力スイッチ62a〜hが接続されており、吸盤60a〜h内部の圧力検出が出来る構造になっている。エアシリンダ61a〜hには、各々の上下限位置を検出する位置検出器が63a〜h取り付けられており、各々のシリンダ上下動用のエア配管が、各々のシリンダ上下動制御用バルブ64a〜hを介して、エア供給源に接続されている。
【0051】
図2に示す様に、エアシリンダ61a〜hと、位置検出器63a〜hと、シリンダ上下動制御用バルブ64a〜hとは、機器制御ユニット95と接続されており、吸盤60a〜h内部の圧力や、エアシリンダ61a〜hの位置が、制御部9で分かるようになっている。
本発明の割断装置1は、上記の様な構造をしているので、スクライブ線の形成に追従して基板10を割断しながら、割断した基板の第二の部分10bを基板の第一の部分10aから遠ざかる様に待避させることができる。そのため、割断装置1は、割断した基板10の第一の部分10aと第二の部分10bとを、お互いに再接触させることなく、所定の間隔を空けて、保持することが出来る。
割断後の基板10の第二の部分10bは、吸盤60a〜hの負圧を大気開放させ、取り出すことが出来る構造をしている。
[別の実施形態:ならい保持]
【0052】
図5は、本発明による別の実施形態の基板保持手段の構造を示す側面図である。基板の割断装置1は、前述した第二の基板保持手段6に代えて、別の実施形態の第二の基板保持手段7を含んで構成することが出来る。
【0053】
吸着パッド70aは、装置架台20の上に取り付けられた、アクチュエータ71aの上に取り付けられており、基板10は吸着パッド70aによって支えられてる。
吸着パッド70aは、弾性樹脂からなる吸盤や、平坦な金属や樹脂の上面に孔や溝を設けて、負圧吸着が出来る様にしたものを例示することができ、特にゴムやスポンジなど弾力性の材料を用いることが好ましい。
アクチュエータ71aは、内部に位置検出器72aが備えられており、吸着パッド70aをZ方向の所定の位置に動かして静止させることが可能な構造をしている。
【0054】
また、第二の基板保持手段7の吸着パッド70aは、基板10を第一の基板保持手段5のテーブル50に載置した時に、基板の第二の部分10bと接触する様に、配置されている。ここで、基板10が載置された後、アライメント動作を行うまでは、吸着パッド70aは負圧吸着されず、基板の第二の部分10bはXYθ方向に自在に動くことが出来る。そして、基板10のアライメント動作が行われた後、基板の第二の部分10bは、吸着パッド70aで負圧吸着によって保持され、XYθ方向には自在に動くことが出来なくなる。
【0055】
図6は、本発明による別の実施形態の基板保持手段の構造を示す正面図である。
第二の基板保持手段7は、基板の第二の部分10bを保持することが出来る様に、前述した吸着パッド70a及びアクチュエータ71a、位置検出器72aと同じ構成の、吸着パッド70b〜h及びアクチュエータ71b〜h、位置検出器72b〜hを、割断方向3vに並べた状態に配置して、備えている。
また、図示はしないが、アクチュエータ71a〜hと位置検出器72a〜hとは、機器制御ユニット95と接続されており、アクチュエータ71a〜hを上下動作させたときの、現在の位置情報が制御部9で分かるようになっている。
【0056】
スライダー24の現在位置もしくは、割断速度とローラ40通過後の時間との関係から、割断点とアクチュエータ71a〜hとの距離を算出し、適宜アクチュエータ71a〜hをZ方向下向きに移動させる。
【0057】
アクチュエータ71a〜hの下降タイミングや下降移動量、経時的に移動量を変化させる(いわゆる、下降速度プロファイルを設定する)かどうか、などの下降動作設定は、経験則や事前のテスト結果などを参考にして決定し、予め設定しておく。
前記下降動作設定は、実際の割断ポイントが、スクライブ線形成ポイント(概ね、冷却ミスト34aの噴霧位置付近)と、適切な距離を保ち続けることができる条件が、最適であるといえる。その様な条件に設定することで、割断後の基板どうしの隙間が保たれ、良好な割断面も得られる。
[動作フロー]
【0058】
図7は、本発明による割断方法を示すフロー図である。
第一の基板保持手段5と、第二の基板保持手段6の上に基板10を載置する(s101)。
基板10を、第一の基板保持手段5で吸着保持させ(s102)、第二の基板保持手段6においては、吸盤60a〜hの内部を真空源と連通させて負圧状態にしておく。また、第二の基板保持手段6に代えて、別の形態の第二の基板保持手段7を用いる場合は、吸着パッド70a〜h内部を負圧状態にして、基板の第二の部分10bを吸着保持する。
【0059】
続いて、基板10のアライメントマークを読み取り(s103)、予め設定された割断予定線11に沿って、スクライブ線形成手段3を走行させて(s104)、基板10のエッジ部分に初期亀裂形成手段30を用いて、小さな亀裂を付ける。
その状態で、加熱ビーム33aを基板10に照射し、加熱ビーム33aに追従させて、冷却ミスト34aを基板10に噴霧し、基板10のレーザスクライブを行う(s105)。
【0060】
スクライブ線形成手段3に追従させて移動する、曲げモーメント付与手段4のローラ40を基板10に向けて押し付け、前記レーザスクライブした部分が開く様に、表面の亀裂を伸展させ、基板10を割断する。(s106)
第二の基板保持手段の吸盤60a〜hが、徐々にZ方向下向きに、変位させ、その位置を保持する(s107)。
【0061】
1ラインの割断が終了したかどうかを判断し(s108)、割断中であれば、s105〜s107を繰り返す。
基板10の割断が終了すれば、スクライブ線形成手段の走行を停止させる(s109)。
第二の基板保持手段6の吸着を解除し(s110)、基板の第二の部分10bを取り出す(s111)。
【0062】
全ラインの割断が終了したかどうかを判断し(s112)、まだ割断する場合は、基板10の載置場所を変更し、s104〜s111を繰り返す。
全ての割断が終了すれば、第一の基板保持手段5の吸着を解除し(s113)、基板の第一の部分10aをテーブル50から取り出す(s114)。
【0063】
上述のステップs101〜s114の方法を用いて、被割断基板10を割断する。
そうすることで、割断した基板の第一の部分10a及び、割断した基板の第二の部分10bは、割断後にお互いのエッジを接触させることが無い。
上述の装置及び方法を用いて、基板10(特にガラスなどの脆性材料)を割断した後、強度低下を防ぐことが出来るので、生産工程における歩留まり向上や製品品質向上に寄与することが出来る。
【符号の説明】
【0064】
1 割断装置
2 スライダ機構
3 スクライブ線形成手段
3v 割断方向
4 モーメント付与手段
5 第一の基板保持手段
6 第二の基板保持手段
7 第二の基板保持手段
9 制御部
10 基板
10a 基板の第一の部分
10b 基板の第二の部分
11 割断予定線
20 装置架台
21 支柱
22 梁部
23 レール
24 スライダ
30 初期亀裂形成手段
31 レーザ
33 加熱ビーム照射手段
33a 加熱ビーム
34 冷却手段
34a 冷却ミスト
40 ローラ
41 ブレイカ支持ブラケット
42 ブレイカ支持シャフト
43 ローラ支持ブラケット
44 ストッパ
45 ローラ支持シャフト
50 テーブル
51 Y軸スライダ機構
52 θ軸回転機構
60a〜h 吸盤
61a〜h エアシリンダ
62a〜h 圧力スイッチ
63a〜h 位置検出器
64a〜h 制御用バルブ
70a〜h 吸着パッド
71a〜h アクチュエータ
72a〜h 位置検出器
90 制御用コンピュータ
91 情報入力手段
92 情報表示手段
93 発報手段
94 情報記録手段
95 機器制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する装置であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段と、
前記基板の第二の部分を割断後に保持する第二の基板保持手段と、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成する手段と、
前記スクライブ線を形成する手段に追従させて、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与する、モーメント付与手段とを備え、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分が、割断後の変形により、第二の基板保持手段に保持され、前記割断された基板の第一の部分と、前記割断された基板の第二の部分とを、所定の間隔を保って保持できる機構を備えたことを特徴とする、非金属基板の割断装置。
【請求項2】
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する方法であって、
前記基板の第一の部分を第一の基板保持手段に、前記基板の第二の部分を第二の基板保持手段に、載置するステップと、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成するステップと、
前記スクライブ線の形成に追従しながら、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与し、前記基板を割断するステップとを有し、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分が、割断後に変形するステップと、
前記変形により割断された前記基板の第二の部分が、前記第二の基板保持手段に保持されるステップとを有し、
前記割断された基板の第二の部分を、所定の間隔を保って保持できるステップを有することを特徴とする、非金属基板の割断方法。
【請求項3】
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する装置であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段と、
前記基板の第二の部分を保持する第二の基板保持手段と、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成する手段と、
前記スクライブ線を形成する手段に追従させて、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与する、モーメント付与手段とを備え、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分を、割断後の変形に合わせて、姿勢を保持できる機構を備えていることを特徴とする、非金属基板の割断装置。
【請求項4】
非金属基板を、前記基板上に設定された割断予定線に沿って、第一の部分と第二の部分とに割断する方法であって、
前記基板の第一の部分を保持する第一の基板保持手段に、前記基板を載置するステップと、
前記割断予定線の始端から終端に向かって、前記基板の表面にスクライブ線を形成するステップと、
前記スクライブ線の形成に追従しながら、前記スクライブ線を押し広げるように、曲げモーメントを付与し、前記基板を割断するステップとを有し、
前記基板の第一の部分を、前記第一の基板保持手段で保持したまま、
割断された前記基板の第二の部分を、割断後の変形にならって、姿勢を保持するステップを有していることを特徴とする、非金属基板の割断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−88360(P2011−88360A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243801(P2009−243801)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】