説明

面状構造体及びその製造方法

【課題】面状体でありながら気体、液体等の各種流体の流通性を獲得し、必要により構造体としての強度維持や、内部空洞により発揮される流体の流通性、並びに内部空洞に封入された封入物により得られる諸機能も備えた面状構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有機高分子化合物からなるフィルム状物またはシート状物の面状体11の内部に中空管路20aを形成した面状構造体10Aであり、さらに面状体の内部に粒状空洞部を備え、併せて封入物を内包する。中空管路は長さ方向に揃うまたは分岐しており面状体の面方向に延びている。面状構造体の製造に際し、基材に事後的に溶解可能な管路予定被溶解物、必要により事後的に溶解可能な粒状被溶解物も含めて被溶解含有物とし、被溶解含有物を所定の面状成形体に成形した後、面状成形体に含まれる管路予定被溶解物を溶解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状構造体及びその製造方法に関し、特に面状体の内部に中空管路を形成した構造体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面状の成形体における機能向上のひとつにその表面に多数の孔を有する多孔質体がある。これは、他の物質の担持や気孔への封入等に適している。例えば、活性炭の吸着速度を高くすると共に、吸着容量を大きくするための吸着材がある(特許文献1参照)。特許文献1の吸着材によると、椰子殻ハスクを成形して得られた多孔性シートの表面及び内部組織の外気との接触面にバインダ層が形成され、前記のバインダ層に活性炭粒子が接着され、活性炭粒子表面は一部が露出された状態で保持されている。
【0003】
また、熱伝導率を低減して断熱性能を向上させるための複合多孔体がある(特許文献2参照)。特許文献2の複合多孔体は連続気孔多孔体を構造骨格として用い、その連続気孔多孔体の気孔内に乾燥ゲルが連続相として充填、成型されている。
【0004】
しかしながら、前出の吸着材は活性炭粒子表面がバインダに被覆されているため、粒子表面の一部が露出しているものの、吸着機能が十分に発揮されないことが懸念される。また、連続気孔多孔体の気孔内に充填される湿潤ゲルを乾燥することにより複合多孔体を得るため、湿潤ゲルの形成方法が限定される。
【0005】
加えて、従来の多孔体は孔の形態や大きさの高度な制御は極めて困難であり、孔径の分布も幅広いままであった。また、その製造方法に起因して、多孔体を構成する基材や封入物として用いることができる物質の選択の幅は極めて限定されており、多孔体に他の物質を封入あるいは担持させても、その機能が十分に発揮されていなかった。
【0006】
その後、多孔質体に種々の機能、特性等を付与した構造体として開発が進められてきた。近年、多孔質体は、前記の吸収、吸着目的に加え、例えば、細胞培養用の基材としても着目されている。一例として種々のメンブレンフィルタの多孔膜が細胞培養用の足場(scaffold)としての利用が提案されている(特許文献3参照)。培養用の足場は、固着性の細胞培養において不可欠である。細胞が分裂して増殖するためには、個々の細胞への養分の供給、老廃物の除去等が必須である。この点、特許文献3の技術においては、多孔膜の一方の面側からの吸引、加圧により対流を生じさせて対処していた。しかしながら、培養液の対流では多孔膜培地の部位毎に偏りが生じるおそれもある。
【0007】
一般に、多孔体における気体や液体等の流体の流通性は、内部に形成された空洞部の量に依存する。しかし、単に空洞部を増やすだけでは、構造強度的に脆弱化しやすい。そこで、成形体における各種流体の流通性を確保する新規な構造並びにその製法が切望されていた。
【特許文献1】特開平9−253188号公報
【特許文献2】特開2002―275305号公報
【特許文献3】特開2004−344002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、面状体でありながら気体、液体等の各種流体の流通性を獲得し、必要により構造体としての強度維持や、内部空洞により発揮される流体の流通性、並びに内部空洞に封入された封入物により得られる諸機能も備えた面状構造体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、面状体の内部に中空管路が形成されていることを特徴とする面状構造体に係る。
【0010】
請求項2の発明は、前記中空管路が前記面状体内部において面方向に延びている請求項1に記載の面状構造体に係る。
【0011】
請求項3の発明は、前記中空管路が長さ方向で略同一となるように前記面状体内部に形成されている請求項2に記載の面状構造体に係る。
【0012】
請求項4の発明は、前記中空管路が前記面状体内部で分岐している請求項2に記載の面状構造体に係る。
【0013】
請求項5の発明は、前記中空管路の開口部が前記面状体の切断表面に露出している請求項2に記載の面状構造体に係る。
【0014】
請求項6の発明は、前記面状体の内部に粒状空洞部が形成されており、前記粒状空洞部同士は連通されている請求項1に記載の面状構造体に係る。
【0015】
請求項7の発明は、前記粒状空洞部が封入物を内包している請求項6に記載の面状構造体に係る。
【0016】
請求項8の発明は、前記面状体が有機高分子化合物からなる請求項1に記載の面状構造体に係る。
【0017】
請求項9の発明は、前記面状体がフィルム状物またはシート状物である請求項1に記載の面状構造体に係る。
【0018】
請求項10の発明は、前記面状体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成されていると共に、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面に前記中空管路が溝状部として形成されている請求項9に記載の面状構造体に係る。
【0019】
請求項11の発明は、基材に事後的に溶解可能な管路予定被溶解物を含めて被溶解含有物とし、前記被溶解含有物を所定の面状成形体に成形した後、前記面状成形体に含まれる前記管路予定被溶解物を溶解して、前記面状成形体内部に中空管路を形成することを特徴とする面状構造体の製造方法に係る。
【0020】
請求項12の発明は、前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の面方向に延びた向きで前記被溶解含有物内に埋設されている請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0021】
請求項13の発明は、前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の長さ方向で略同一となるように前記被溶解含有物内に埋設されている請求項12に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0022】
請求項14の発明は、前記管路予定被溶解物が分岐構造物からなる請求項12に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0023】
請求項15の発明は、前記基材が有機高分子化合物からなる請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0024】
請求項16の発明は、前記面状成形体がフィルムまたはシート状物である請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0025】
請求項17の発明は、前記面状成形体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成される構造体であって、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面のいずれか一面側に前記管路予定被溶解物を載置した後に張り合わせられる請求項16に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0026】
請求項18の発明は、前記管路予定被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0027】
請求項19の発明は、前記基材に事後的に溶解可能な粒状被溶解物が添加される請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0028】
請求項20の発明は、前記粒状被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項19に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0029】
請求項21の発明は、前記基材に、封入物の表面の全部または一部を事後的に溶解可能な被溶解充填物で被覆した粒状複合材が添加される請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【0030】
請求項22の発明は、前記被溶解充填物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項11に記載の面状構造体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0031】
請求項1の発明に係る面状構造体によると、面状体の内部に中空管路が形成されているため、面状体でありながら流体の流通性を獲得し、必要により構造体としての強度を維持することができる。
【0032】
請求項2の発明に係る面状構造体によると、請求項1の発明において、前記中空管路が前記面状体内部において面方向に延びているため、特定方向に対して変形しやすくなる。特に、面方向への流体の流通性確保に効果的となる。
【0033】
請求項3の発明に係る面状構造体によると、請求項2の発明において、前記中空管路が長さ方向で略同一となるように前記面状体内部に形成されているため、特定方向に対する構造体の流体の流通性を高め、面方向からの圧迫により変形しやすくすることができる。
【0034】
請求項4の発明に係る面状構造体によると、請求項2の発明において、前記中空管路が前記面状体内部で分岐しているため、中空管路の数を少なくしても、流体の流通に効果を上げることができる。さらに、流体の流通に時間差を設けることもできる。
【0035】
請求項5の発明に係る面状構造体によると、請求項2の発明において、前記中空管路の開口部が前記面状体の切断表面に露出しているため、構造体外部との流体の流通に効果的となる。
【0036】
請求項6の発明に係る面状構造体によると、請求項1の発明において、前記面状体の内部に粒状空洞部が形成されており、前記粒状空洞部同士は連通されているため、中空管路と個々の粒状空洞部間における流体の流出入が容易となるため、流体の流通性が一段と高まる。むろん、粒状空洞部によるクッション性も備わる。
【0037】
請求項7の発明に係る面状構造体によると、請求項6の発明において、前記粒状空洞部が封入物を内包しているため、面状構造体は、吸着や放出等の種々の機能も兼備することができる。
【0038】
請求項8の発明に係る面状構造体によると、請求項1の発明において、前記面状体が有機高分子化合物からなるため、面状構造体としての安定性、加工容易性、価格面において優れる。
【0039】
請求項9の発明に係る面状構造体によると、請求項1の発明において、前記面状体がフィルム状物またはシート状物であるため、量産性、後の加工の利便性に優れ、多種の用途に対応できる。
【0040】
請求項10の発明に係る面状構造体によると、請求項9の発明において、前記面状体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成されていると共に、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面に前記中空管路が溝状部として形成されているため、面状構造体を構成する各面の構造を異ならせることができる他、製造も容易となる。
【0041】
請求項11の発明に係る面状構造体の製造方法によると、基材に事後的に溶解可能な管路予定被溶解物を含めて被溶解含有物とし、前記被溶解含有物を所定の面状成形体に成形した後、前記面状成形体に含まれる前記管路予定被溶解物を溶解して、前記面状成形体内部に中空管路を形成するため、中空管路を内部に有する面状構造体を得ることができる。
【0042】
請求項12の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の面方向に延びた向きで前記被溶解含有物内に埋設されているため、出来上がる面状構造体において中空管路の面方向の向きを容易に揃えることができる。
【0043】
請求項13の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項12の発明において、前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の長さ方向で略同一となるように前記被溶解含有物内に埋設されているため、出来上がる面状構造体において中空管路の長さ方向の向きを容易に揃えることができる。
【0044】
請求項14の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項12の発明において、前記管路予定被溶解物が分岐構造物からなるため、分岐構造を備えた中空管路を有する面状構造体の製造が容易となる。
【0045】
請求項15の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記基材が有機高分子化合物からなるため、基材と管路予定被溶解物との混練が容易であり、安定性、加工容易性、価格面にも優れた面状構造体を得ることができる。
【0046】
請求項16の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記面状成形体がフィルムまたはシート状物であるため、面状構造体としての製造が容易である。
【0047】
請求項17の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項16の発明において、前記面状成形体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成される構造体であって、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面のいずれか一面側に前記管路予定被溶解物を載置した後に張り合わせられるため、張り合わせ面に形成される管路予定被溶解物の形状を自由に設計することができると共に、事後の工程によっても管路予定被溶解物は損傷されにくくなる。特に複雑な形状維持が必要な管路予定被溶解物に好都合となる。
【0048】
請求項18の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記管路予定被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去されるため、面状構造体における中空管路の形成を容易に行うことができる。
【0049】
請求項19の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記基材に事後的に溶解可能な粒状被溶解物が添加されるため、面状構造体に粒状空洞部を備えることができる。
【0050】
請求項20の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項19の発明において、前記粒状被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去されるため、面状構造体内に簡便に粒状空洞部を形成することができる。
【0051】
請求項21の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記基材に、封入物の表面の全部または一部を事後的に溶解可能な被溶解充填物で被覆した粒状複合材が添加されるため、粒状空洞部へ封入物を残留させた面状構造体を製造することができる。
【0052】
請求項22の発明に係る面状構造体の製造方法によると、請求項11の発明において、前記被溶解充填物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去されるため、比較的容易に被溶解充填物のみ消失させて、その内部の封入物のみを効率よく粒状空洞部内に残留させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。
図1は本発明の第1実施形態に関する面状構造体の概略図、図2は第2実施形態の面状構造体の概略図、図3は第3実施形態の面状構造体の概略図、図4は第4実施形態の面状構造体の概略図、図5は第5実施形態の面状構造体の断面模式図、図6は第6実施形態の面状構造体の断面模式図、図7は第7実施形態の面状構造体の断面模式図、図8は第8実施形態の面状構造体の断面模式図、図9は第9実施形態に関する面状構造体の断面模式図、図10は第10実施形態の面状構造体の断面模式図、図11は第11実施形態の面状構造体の断面模式図、図12は第12実施形態の面状構造体の断面模式図、図13は第13実施形態の面状構造体の概略図、図14は第13実施形態に関する他の面状構造体の概略図、図15は本発明の面状構造体の第1製法例を示す概略工程図、図16は面状構造体の第2製法例を示す概略工程図、図17は分岐構造物の概略図、図18は面状構造体の第3製法例を示す概略工程図、図19は被溶解充填物とこれを含む面状構造体の断面模式図である。
【0054】
本発明の面状構造体について、その大きさや厚さ等は比較的自由な面状物として選択される。また、その形状は、後述する成形の容易さや量産性、後の加工の利便性が重視され主に板状物となり、請求項9の発明に規定するように、概ねフィルム状物、シート状物等の平面的な構造体である。フィルムやシートの形状にすると、需要者、利用者側での加工が容易であり、利便性が高い。各々の面状構造体について、はじめに構造面から図示し、説明する。
【0055】
図1(a)の全体斜視図より理解されるように、請求項1の発明として規定する第1実施形態の面状構造体10Aでは、面状体11の内部に略針状の短い中空管路20a(いわゆる円筒体である。)が形成されている。図中の符号13は面状構造体の上面部、14は下面部である。この例において、略針状の短い空洞形状の中空管路20aは面状体11内部に無数に設けられ、各々の中空管路の方向は内部でランダムな向きである。すなわち、略針状の短い中空管路からなる多孔質構造と呼ぶこともできる。むろん、略針状の中空管路の管路長、管路径、内部に設けられている数量等は適宜である。図示のとおり面状体11内部における中空管路の配置は不定であるため、この面状構造体10Aはいずれの方向からの圧力に対しても均等に変形することとなる。
【0056】
請求項5の発明に規定され、図1(b)の断面模式図からも分かるように、中空管路20aの開口部21は、面状体11の切断表面12に露出している。これは、面状体11内部における略針状の中空管路20aを介して行われる流体の流通性を確保する上で効率が良いからである。流体の流通性とは、気体では通気性となり、液体では流通性、流動性となる。以下、同様である。
【0057】
図1(c)の断面模式図に示す面状構造体10A’によると、略針状の中空管路20aは、面状体11内部における基準面Psの面方向に延びている方向で概ね形成される。つまり、中空管路20aは、面状体11内部における基準面Psの面方向に沿うようにして散在した配置である。この場合、中空管路20aの面方向の配置により、面状構造体10A’は特定方向からの押圧、図示では上面部と下面部からの押圧に対して中空管路20aが圧迫されるため変形しやすくなる。
【0058】
図2(a)の全体斜視図として開示する第2実施形態の面状構造体10Bは、面状体11の内部に略糸状の中空管路20bが形成されている。図示からも良く分かるように中空管路20bは前記の略針状の中空管路20aよりもはるかに長い管路であり、中空管路20bは面状体11内部に適度に設けられ、管路自体の長さや方向は不定である。中空管路20bの存在比率いかんにより面状体11の剛性が変化するため、後記の製造方法に開示するように、所望の強度への作り分けが可能となる。
【0059】
この例においても、図2(b)の断面模式図からも分かるように、中空管路20bの開口部21は、面状体11の切断表面12に露出している。前記と同様に面状体11内部における略糸状の中空管路20bを介して行われる流体の流通性を確保する上で効率が良いからである。
【0060】
図2(c)の断面模式図に示す面状構造体10B’によると、略糸状の中空管路20bは、面状体11内部における基準面Psの面方向に延びている方向で概ね形成される。つまり、中空管路20bは、面状体11内部における基準面Psに沿って配置される。この場合、中空管路20bの面方向の配置により、面状構造体10B’は上面部と下面部からの押圧に対して中空管路20bが圧迫されるため変形しやすくなる。
【0061】
なお、中空管路20bについて、図示しないU字状や渦巻き状等の一続きの形状に形成して管路内を流通する流体の循環性を高めることも可能である。この場合、面状体の構成材料から中空管路に染み出て拡散、徐放の用途が検討される。
【0062】
図3(a)の全体斜視図として開示する第3実施形態の面状構造体10Cは、面状体11の内部に中空管路20cが並んで形成されている。すなわち、請求項3の発明に規定するように、面状構造体10C内の中空管路20cのそれぞれは、管路の長さ方向で略同一となる向きに揃えられて面状体11内部に設けられている。中空管路20c同士の間隔、管路長、管路径、内部に設けられている管路数等は適宜である。また、中空管路20cのそれぞれの管路径は全て同一でなくても良く、主となる中空管路の周りにより管路径の小さい中空管路が配置される場合もある。
【0063】
図3(b)の断面模式図からも分かるように、中空管路20cの開口部21は、面状体11の切断表面12に露出している。また、請求項2の発明に規定するように、中空管路20cは当該面状構造体10Cの内部において面方向に延びて形成されている。この点についても面状体11内部における中空管路20cの特定方向の流通性を確保する上で効率が良いからである。図示の例のように、面状構造体10Cの上面部と下面部からの押圧に対し中空管路20cは圧迫されやすいため、全体として面状構造体10C自体は変形しやすくなる。しかし、切断表面12方向からの押圧に対しては変形しにくい。そこで、変形方向を選択した衝撃吸収材等の用途が検討される。他に、面状構造体10Cは適宜のポンプ等の流体供給装置と組み合わせてインク等の流体を供給する機器の部品として用いることができる。さらには、適宜の押圧手段と組み合わせて面状構造体10C自体を流体の吸排出用のポンプとして用いることも考えられる。
【0064】
また、図3(c)の断面模式図に示す面状構造体10C’のように、一の面状構造体の内部に長さ方向で略同一となる方向に揃えられた中空管路20cと、当該中空管路20cと方向を違えた中空管路20c’も併せて形成される。このようにすると、面状構造体10C’の各面毎の圧縮強度や弾性反発力を加味した設計の自由度が高まる。
【0065】
図4(a)の全体斜視図として開示する第4実施形態の面状構造体10Dは、面状体11の内部に中空管路20dが並んで形成されている。請求項2の発明に規定するように、面状体11の内部に中空管路20dは面方向に延びて形成されていると共に、請求項4の発明に規定するように、中空管路20dは面状体11の内部で分岐部25により分岐している。特に図示の分岐構造の中空管路20dは主管路23と副管路24から構成される。中空管路20d(主管路23,副管路24)に関しても、その間隔、管路長、管路径、内部に設けられている管路数等は適宜である。
【0066】
図4(b)の断面模式図からも分かるように、中空管路20dの開口部21は、面状体11の切断表面12に露出している。この点についても面状体11内部における分岐状の中空管路20dを介して行われる流体の流通性を確保する上で効率が良いからである。中空管路の数を少なくしても、流体の流通の効果は上がる。また、図示の例のように、分岐状の中空管路20dとしているため、管路内を流通する流体は副管路24にも流入しやすくなる。そこで、副管路24に流体を保持させて主管路23から少しずつ排出させることもできる(時間差が生じる)。このため、芳香剤、除虫材等の徐放性薬剤用の担持体としても有用となる。他に、適宜の押圧手段と組み合わせて面状構造体10D自体を流体の吸排出用のポンプとして用いることも考えられる。この場合、分岐した管路により逆止弁のような作用が考えられる。
【0067】
さらに、図4(c)の断面模式図に示す面状構造体10D’のように、一の面状構造体の内部においてある面方向に延びる方向の中空管路20dと、当該中空管路20dと方向を違えた中空管路20d’も形成される。このようにすると、面状構造体10D’の内部に設けられた複数の中空管路それぞれに異なる薬剤を浸透させて担持体としての機能を高めることもできる。
【0068】
図5ないし図8は、第1実施形態ないし第4実施形態として開示した面状構造体10A,10B,10C,10Dの面状体内部を多孔質化した構造例である。さらに、図9ないし図12は、第1実施形態ないし第4実施形態として開示した面状構造体10A,10B,10C,10Dの面状体内部を多孔質化すると共にその内部に封入物を内包、担持させた構造例である。以下、個別に説明する。
【0069】
図5の断面模式図に示される第5実施形態の面状構造体10Eにあっては、面状体15の内部に略針状の短い中空管路20aが形成され、さらに、請求項6の発明に規定するように、面状体15の内部に粒状空洞部30が形成されている。大半の粒状空洞部30同士は連通開口部31により連通されている。また、粒状空洞部と中空管路も部分的に連通部32によって連通されている。
【0070】
面状体15の内部に形成された粒状空洞部30の形状は、球形状、楕円体形状、紡錘体形状等の適宜であり、前記略針状の短い中空管路20aとは異なる形状である。中空管路20aの管路径と粒状空洞部30の孔径との大小比較は、いずれが大きくても良い。また、面状体内部における中空管路と粒状空洞部の存在比率は、多孔体としての機能を重視して粒状空洞部の方がより多く見られる。略針状の短い中空管路及び粒状空洞部の大きさ、形状は、面状構造体の構造強度、安定性、用途、後記の材質等を総合的に判断して設定される。面状構造体10Eの構造によると、中空管路を経由して個々の粒状空洞部へ流体の流出入が容易となるため、流体の流通性は格段に向上する。従って、吸液用途、拡散用途等に好適であり、面状体の材質に応じてクッション性も備える。
【0071】
図6の断面模式図に示される第6実施形態の面状構造体10Fにおいては、面状体15の内部に略糸状の中空管路20bと、前記同様に面状体15の内部に連通開口部31により連通された粒状空洞部30が形成されている。そこで、粒状空洞部30は中空管路20bの間に配され、粒状空洞部と中空管路は適度に連通している。略糸状の中空管路20bの管路径と粒状空洞部30の孔径との大小比較も前記同様適宜である。なお、粒状空洞部の孔径を中空管路の管路径よりも小さくすると、中空管路の周りが粒状空洞部により囲まれ、管路と空洞部との接触、連通性が高まる。面状構造体10Fは、前記面状構造体10Eと同様の作用を得ることができる。
【0072】
図7(a)の縦断面模式図並びに図7(b)の横断面模式図に示される第7実施形態の面状構造体10Gにおいては、面状体15の内部に複数の中空管路20cが管路の長さ方向で略同一となる向きに揃えられて並んで形成され、前記同様に面状体15の内部に連通開口部31により連通された粒状空洞部30が形成されている。中空管路20cの管路径と粒状空洞部30の孔径との大小比較も前記同様適宜である。この例のように中空管路と粒状空洞部は連通していることにより、粒状空洞部から面状体内部の中空管路への浸透性、あるいは逆に、中空管路から空洞部への浸透性を高めることができる。むろん、前記の面状構造体10Cの作用も備える。
【0073】
図8(a)の縦断面模式図並びに図8(b)の横断面模式図に示される第8実施形態の面状構造体10Hにおいては、面状体15の内部に分岐部25により分岐した中空管路20dが面方向に延びて形成され、前記同様に面状体15の内部に連通開口部31により連通された粒状空洞部30が形成されている。中空管路20dの管路径と粒状空洞部30の孔径との大小比較も前記同様適宜である。なお、中空管路が分岐構造となるため、少ない管路数であっても面状体の面方向並びに面状体の厚さに対する流体の流通性を高めることができる。
【0074】
粒状空洞部を有した面状構造体は図示の例示に限定されることはない。例えば、前記面状構造体10A’、10B’のとおり管路が面方向に延びた構造体に対しても粒状空洞部を適用することができる。さらには、前記面状構造体10C’,10D’のように、面状体の内部に方向が異なる中空管路が別に設けられている場合であっても適用できる。
【0075】
これまでの説明のとおり、面状構造体内部に粒状空洞部が形成されたことにより、当該構造体の表面積は飛躍的に増加する。そのため、気体や液体中の粒子の付着、細胞培養用の足場としての利用可能性が増す。
【0076】
続いて図9の断面模式図に示される第9実施形態の面状構造体10Jによると、面状体15の内部に略針状の短い中空管路20aが形成され、前記同様、請求項6の発明に規定するように、面状体15の内部に粒状空洞部30が形成されている。さらに、請求項7の発明に規定するように、粒状空洞部30には封入物40が内包されている。中空管路、粒状空洞部の構造は前記と共通するため、その説明を省略する。封入物40は、主に吸着、放出目的、あるいはその補助の目的から選択される材料、物質である。これらの詳細は後に述べる。この面状構造体10Jの場合、粒状空洞部30内にたいてい1個ずつ封入物40が封入されて形成される。従って、例えば面状構造体内に吸収された液体の濾過等の用途に適する。
【0077】
図10の断面模式図に示される第10実施形態の面状構造体10Kによると、面状体15の内部に略糸状の中空管路20bが形成され、前記同様、面状体15の内部に粒状空洞部30が形成されている。さらに、粒状空洞部30には封入物40が内包されている。
【0078】
図11(a)の縦断面模式図並びに図11(b)の横断面模式図に示される第11実施形態の面状構造体10Lによると、面状体15の内部に複数の中空管路20cが管路の長さ方向で略同一となる向きに揃えられて並んで形成され、前記同様に面状体15の内部に連通開口部31により連通された粒状空洞部30が形成されている。そして、粒状空洞部30には封入物40が内包されている。
【0079】
図12(a)の縦断面模式図に示される第12実施形態の面状構造体10Mによると、面状体15の内部に前記と同様に分岐部25により分岐した中空管路20dが並んで面方向に延びて形成され、前記同様に面状体15の内部に連通開口部31により連通された粒状空洞部30が形成されている。そして、粒状空洞部30には封入物40が内包されている。むろん、同図(b)の横断面模式図からも分かるように、分岐した中空管路20dは粒状空洞部30によりほぼ囲まれている。
【0080】
図9ないし図12に開示した第9ないし第12実施形態の面状構造体にあっては、その粒状空洞部30に封入される封入物は空洞径と対比して幾分小さな直径となる。この他、封入物としては、より細かい小径状の粉末状物が用いられることもある(後記図19参照)。封入物をより細かくすると、構造体内の粒状空洞部の空間容積を大きくすることができる。
【0081】
とりわけ、第9ないし第12実施形態の面状構造体において空洞部の大きさ(直径、最大長)は、主に封入物の大きさにより規定される。例えば、空洞部30の大きさは、面状体15内に封入物40を内包可能な大きさであると共に、構造体内の連通性を高めて流体の流通、貫通性能を確保しうる大きさである。また、封入物をより細かい小径状の粉末状物とする場合、粒状空洞部内からの封入物の脱離を抑制する大きさとなる。
【0082】
加えて、空洞部の大きさに関しては、封入物及び面状体の性質も影響する場合があり得る。例えば、親水性物質同士の組み合わせ(水素結合の作用)、疎水性物質同士の組み合わせ(非極性分子同士の作用)、他にカチオン性とアニオン性のイオン結合が成立する組み合わせ等である。そのため、前記の封入物をより細かい小径状の粉末状物とする場合であっても内包、保持可能となる。
【0083】
図13(a)の全体斜視図から把握される第13実施形態の面状構造体10Nは、請求項10の発明に規定するように、面状体11nはフィルム状物またはシート状物の2層以上の張り合わせによる。その面状体11nの内部に前記の分岐状の中空管路20d”が形成されている。図示では、第1シート体101と粒状空洞部30を有する第2シート体102との2層の張り合わせ構造である。そして、両シート体同士が密着する張り合わせ面105(切り欠き部分参照)に中空管路20d”は溝状部110として形成されている。すなわち、この例の中空管路20d”は、溝として食い込むように形成される。
【0084】
図13(b)の縦断面模式図に示すとおり、面状構造体10Nの第1シート体101側は緻密構造の平板状物であり、第2シート体102側は多孔質構造の平板状物である。中空管路20d”の開口部の形状からも把握されるように、溝状部110を成している。本形態の構造体10Nの場合、構造体の一面側からの流体の吸収や浸透、外部への拡散を抑えつつ、他面側のみに流体の吸収や浸透、外部への拡散の機能を発現させることができる。溝状部110の形状は面状構造体の作成方法によるため適宜の形状である。
【0085】
他に、図13(c)の縦断面模式図に示す面状構造体10N’のように、粒状空洞部30を有する第1シート体103と粒状空洞部内に封入物40が封入されている第2シート体104の2層の張り合わせにより形成される。この構造体では、中空管路20d”は、第2シート体104に溝状部110として設けられる。
【0086】
続く図14の全体斜視図に示す面状構造体10N”は、緻密構造の平板状の第1シート体101、多孔質構造の平板状の第2シート体102からなる張り合わせによる。その面状体11n”の内部に緩やかに略N字状に屈曲し、かつ分岐構造を有した略糸状の中空管路20d”が形成されている。この構造体においても、中空管路20d”は、一側のシート体に溝状部110として設けられる。図示の面状構造体10N,10N’,10N”においては、両面の構造を異ならせているが、むろん、同一としても良い。この場合、後記の製造方法の発明からも理解されるように、製造が簡便となる。
【0087】
各実施形態の面状構造体を示す図面において、同一符号は共通する部材、構造を示す。このため、その説明を省略する。また、各実施形態は例示であるため、この他に適宜の組み合わせによる変形も許容される。
【0088】
各図に開示した実施形態の面状構造体を形成する材質としては、請求項8の発明に規定するように、広義に有機高分子化合物が用いられる。有機高分子化合物は、面状構造体としての安定性、加工容易性、価格等が重視される場合に選択されることが多い。後記する製造方法からも明らかなように、面状とする場合に都合が良く、用途も広いためである。有機高分子化合物として、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、あるいはポリエステル樹脂等が用いられる。また、有機高分子化合物においても生分解性能を考慮して動植物、微生物由来の天然有機高分子化合物も用いられる。
【0089】
ポリオレフィン樹脂を例示すると、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルとの1種または2種以上のランダムまたはブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、1−ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂等の炭化水素系樹脂である。
【0090】
ポリアミド樹脂を例示すると、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610及びナイロンMXD等のポリアミド系樹脂である。
【0091】
ポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂である。
【0092】
その他に利用可能な樹脂として、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン−アクリロニトリル系樹脂、PTFE等のフッ素樹脂、ポリイソプレン系樹脂、SBR等のブタジエン系のゴム、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水素結合性樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリケトン樹脂等を挙げることができる。
【0093】
天然有機高分子化合物においては、動物、植物からの産生物をほぼそのまま利用した化合物と、この化合物を出発原料として適宜調製した樹脂素材の両方が含まれる。前者の天然物には、コラーゲン、デンプン、アルギン酸(架橋物等)、キチン、キトサン、天然ゴム、アラビアゴム、ダンマル、コパール、ロジン、グッタベルカ等である。後者の樹脂素材には、羊毛等のケラチン由来のタンパク質樹脂、例えばバチルス属等の細菌から産生されるポリ−3−ヒドロキシ酪酸、あるいはポリ−3−ヒドロキシ吉草酸、並びに両分子からなる共重合体、カゼインプラスチック、大豆タンパクプラスチック、セルロースアセテート(アセチルブチルセルロース)、セルロースアセテートブチレート、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、加えてセルロース由来のビスコースより調製される再生セルロース、デンプンから調製されるポリ乳酸等、種々の樹脂が該当する。さらに、これら以外にも、微生物的生分解性能に優れたポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等も含めることができる。
【0094】
列記の有機高分子化合物(天然有機高分子化合物を含む。)の面状体を形成する材料としての選択に際し、面状構造体の用途、適用分野に即して適切に選択される。なお、これら有機高分子化合物の他に、リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)等の無機材料を適用しても良い。また、第13実施形態に示す面状構造体の場合、各面を構成する材料は同一としても異ならせても良い。
【0095】
図9ないし図12に開示した第9ないし第12実施形態の面状構造体、さらには第13実施形態に開示の粒状空洞部に封入されている封入物は、面状構造体内部に形成された中空管路に伴う流体の流通性(流動性)の向上に加えて、主に吸着もしくは放出、酸化もしくは還元、磁性または触媒の機能を単独、あるいは複合して併せ備える。これより、封入物を有する面状構造体の主な機能を説明する。
【0096】
〔吸着機能〕
吸着に際しては、水系、気系を問わず、流体中より不必要な分子種を除去することである。吸着目的の封入物として、炭素系吸着剤、無機系吸着剤、有機系吸着剤に大別される。
【0097】
・炭素系吸着剤
炭素系吸着剤には、樹木、竹、やし殻、コーヒー豆等の天然素材の炭化物を用いることができる。これらの天然物由来の活性炭に加え、古タイヤ、フェノール樹脂等の各種有機樹脂を用いた合成物由来の活性炭が用いられる。むろん、活性炭の出発原料はこれらに限られることはなく、また、製造方法、賦活方法等は適宜である。
【0098】
活性炭は、空洞部内への封入、保持等の取り扱い面において簡便であり、耐熱性、酸やアルカリ等の耐薬品性等においても優れている。また、既存の活性炭製品を容易に転用することもできる。一般に活性炭は、ミクロ孔(細孔直径2nm以下)、メソ孔(2〜50nm)、マクロ孔(50nm以上)までの広範囲にわたる細孔を有し、細孔直径、細孔分布、表面積等の各種指標を比較的均質に制御することができる。従って、目的とする様々な大きさの物質の吸着、捕捉に適応させて活性炭の種類を選択することが容易にできる。
【0099】
ここで、封入物として好例な活性炭は、ビーズ状、粒状、粉末状、繊維状の形態に分けられる。これらの活性炭は吸着の用途に合わせて選択される。ビーズ状活性炭は、平均粒径0.1〜1000μmの真球状である。粒状活性炭は、平均粒径100〜1000μmである。粉末活性炭は、平均粒径0.1〜100μmの破砕状である。また、繊維状活性炭は、平均断面径0.01〜20μm、全長0.1〜1000μmである。これらは例示であり、単独種のみの使用、もしくは複数の種類、大きさに加え、出発原料等を異とする活性炭の混合使用も当然に可能である。
【0100】
これらに加え、炭素系吸着剤としては、高度な選択的吸着性能からメソポーラス炭素を用いることも可能である。他に、特有な性質に鑑みC60、C70、C90等のフラーレン分子、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の使用も検討される。
【0101】
・無機系,有機系吸着剤
無機系吸着剤としては、シリカゲル、マイクロポーラスシリカ、活性アルミナ、リン酸ジルコニウム等が例示される。さらにイオン交換能を利用したゼオライト、スメクタイト(モンモリロナイト)も含めることができる。他に多孔性酸化マンガンをはじめとする多孔性金属酸化物や多孔性金属水酸化物、アパタイト等が含められる。有機系吸着剤としては、キチン類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のイオン交換樹脂、キレート樹脂、有機金属錯体等の合成吸着剤が検討される。
【0102】
上記の吸収機能により、例えば、空気浄化、脱臭の分野において、シックハウス症候群の原因となる有機溶剤の吸収、吸着、アンモニア臭等の生活臭、ペット、家畜等の臭いの吸収を目的としたフィルム、シート等が好例となる。また、水質浄化、脱色等の分野において、生活廃水中の窒素分、リン等の吸着、重金属分(イオン)の吸着、有機溶媒や流出油濁の吸着を目的としたフィルム、シート等が好例となる。ちなみに、吸着の用途においては、当該面状構造体に毛細管現象により液体が含浸、浸透することを補助するべく細かい樹脂繊維の粒状物を封入物に用いることもできる。これによると、面状構造体による保液性能は向上する。
【0103】
〔放出機能〕
放出とは、封入物の諸特性が面状構造体の外部、あるいは当該構造体内の管路を流通する流体に発現される現象である。例えば、次の(a)ないし(e)の用途例がある。
【0104】
(a)肥料の保持目的として、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、過リン酸石灰等を個別もしくは複数含む微小球状物を封入物とすることである。肥料分自体を含むシートを利用すると、土壌改良材シート、緑化育成シートとしての用途に有用である。特に樹脂種を前記の生分解性樹脂とすることにより、経年後の廃棄物処理の負担が無くなる。
【0105】
(b)芳香、薬効成分の保持目的として、例えば、香水や香料、殺虫剤等として使用されるメントール、ゲラニオール、リモネン、各種エステル類、ピネン類等の種々の化合物を揮発、拡散する芳香剤、殺虫剤に加工できる。いったん所望の香料分子をシリカゲル等の微小球状物等に含浸、あるいはクラウンエーテルやサイクロデキストリンに所望の香料分子を内包させてこれをシリカゲルの微小球状物等に含浸させた後、当該含浸物を封入物として面状構造体内に担持させる。この場合、フィルムやシートにあっては、芳香シート、殺虫シート等を得ることができ、あるいは新規な壁紙等の建材とすることができる。比較的少量の芳香成分としながらも、中空管路、もしくは空洞部からの拡散を利用するため、効率よく伝播させることができる。むろん、中空管路、空洞部の内径の大きさ等により、拡散速度を調整することは可能である。
【0106】
(c)殺菌あるいは抗菌目的において、無機系抗菌剤または有機系抗菌剤を封入物とすることもできる。特に銀、銅等の金属イオンをゼオライト、アパタイト等の無機系イオン交換体に担持させた無機系抗菌剤は耐熱性や安全性に優れるため、面状構造体をフィルム状物とし、絆創膏あるいは防疫マスク、防疫服等の基材として有望である。
【0107】
(d)色の発色に当たり、封入物を有機系、無機系の各種顔料とすることができる。例えば、アニリン類の化合物、銅やクロム、鉄等の酸化物、各種のスピネル結晶体、ペロブスカイト構造体(複合酸化物)、さらには酸化被膜ガラスフレーク等である。また、各種の蛍光も当然に含まれる。例えば、蛍石、リン光塗料の他、アルミン酸ストロンチウム等の蓄光剤を用いることができる。封入物には顔料以外にも金属、合金の微粉末を用いることができる。そこで、従来とは異なる色合いの構造体を得ることもできる。
【0108】
(e)光以外の電磁波であるガンマ線、他にベータ線の照射源を封入物とし、これらの担持体に面状構造体を利用することができる。封入物の線量いかんにより、殺菌、静菌、防腐等の用途、さらには放射線増感の基材としても用いることができる。封入物には線源となるラジオアイソトープ単体、その化合物、さらには天然鉱石等が用いられる。
【0109】
〔酸化・還元機能〕
酸化とは、面状構造体の外部に存在する分子種が中空管路、空洞部に侵入し、ここで封入物により酸化される現象である。例えば、屋内等の臭気の原因となる分子を酸化することにより構造が変化して、無臭の分子となる酸化的消臭が考えられる。そのため、二クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウムの担持が想定される。他に、急激な酸化反応の利用例として火薬、爆薬類を封入物として空洞部内に内包させることもできる。還元とは、連通多孔構造体の外部に存在する分子種が中空管路、空洞部に侵入し、ここで封入物により還元される現象である。一例に、酸素ラジカル種もしくはこれを内包する分子種に対するスカベンジャーを含浸させた封入物を内包させることが考えられる。例えば、カロテン、トコフェロール等の使用が検討される。
【0110】
〔磁性機能〕
磁性とは、連通多孔構造体の空洞部に封入されている封入物自体が磁性を帯びることである。当該用途においては、封入物を砂鉄、鉄粉末、ネオジウム磁石粉末、走磁性細菌由来物の各種の磁石とすることができる。
【0111】
〔触媒機能〕
触媒とは、連通多孔構造体の外部に存在する分子種が空洞部に侵入し、ここで封入物と接触することにより当該分子種の構造に変化が生じる現象である。このため、触媒機能は、酸化、還元等の諸機能を重複することが多い。好例として、封入物に銀、金、白金、酸化チタン等の金属元素、金属酸化物等が用いられる。例えば、臭気の分解を可能としたフィルムを提供することができる。加えて、多孔質ガラスビーズ、アルギン酸等に固定した固定化酵素の担持も勘案され、酵素反応膜としての利用も検討される。
【0112】
以上列記の機能は一例である。他に遮蔽機能を備えることもできる。遮蔽機能の目的は、各種電磁波、X線、γ線、β線、中性子線、さらには磁力等の外的エネルギーから対象物を遮断すること、あるいは内容物から生じるこれらのエネルギーの外部拡散、放射を防ぐ目的である。そのため、主に、電離放射線等を遮蔽する面状構造体の粒状空洞部の封入物には黒鉛、金属元素やその化合物が用いられる。中性子線の減速材(遮蔽)として用いる場合、封入物に適宜ホウ素化合物を用いることができる。また、封入物の種類によってはγ線等の照射に伴い放射性壊変のおそれもあるため、線種に応じて封入物の元素種は適切に選択される。
【0113】
電磁力の遮蔽においては、精密電子機器のノイズ対策、高周波防御に有益である。例えば、銅や炭等を封入物として用いた面状構造体のフィルムを得た場合、当該フィルムにより電子回路基板の保護を図ることが考えられる。
【0114】
これまでに詳述した封入物を空洞部に有する面状構造体において、発現される機能は必ずしも1種類に限られることはない。例えば、封入物を活性炭と酸化チタンの両方を用い、吸着と触媒(分解)の機能を併せ備えても良い。また、ゼオライトに銀を保持させた銀ゼオライトを用い、吸着と放出(抗菌)の機能を併せ備えることもできる。さらに、シリカゲル、セルロースやアルギン酸カルシウム等の物質は、高湿度環境では空気中の水分を吸収し、低湿度環境下では吸収した水分を空気中に放出する作用を示す。従って、これらを封入物として用いた面状構造体のフィルムは、室内の湿度変化を低減する調湿壁材や調湿性保存容器等への利用が検討される。
【0115】
さらには、封入物を有する面状構造体自体に別途の物質を含浸、担持させることも可能である。構造体の空洞部の内部には封入物が保持されるのみならず、含浸物が浸透、含浸される。例えば、速やかに含浸物の成分が構造体外に放出され、続いて封入物が放出される。つまり、放出の速さを異ならせた2段階放出させることができる。特に、中空管路が存在することにより、構造体に内包された成分の拡散がより円滑化する。この場合、前記の生分解性樹脂を面状体の基材として用い、封入物に肥料や炭を用い、これらを有する面状構造体を作成し、当該面状構造体に別途、農薬を含浸物として含浸させることも可能である。このような構造体は、微生物分解可能な緑化育成シート等として有用である。
【0116】
これより、本発明の面状構造体の製造方法(第1製法例)について説明する。すなわち、請求項11の発明に規定し、図15の概略工程図から理解されるように、基材(S1)に事後的に溶解可能な管路予定被溶解物(S2)が含められ、基材と管路予定被溶解物は互いに混練され(S3)、被溶解含有物が得られる(S4)。この被溶解含有物は所定の面状形状に成形され(S5)、面状成形体として得られる(S6)。続いて、面状成形体からその内部に含まれる管路予定被溶解物が溶解され除去は完了する(S7)。こうして、面状成形体内部の管路予定被溶解物が存在していた場所は中空管路に置き換えられ、完成品となる面状成形体が得られる。以下、各工程(S1ないしS7)の詳細を述べる。
【0117】
基材(構造体の基本材料)の材質は、前述の面状構造体を形成する材質と同様であり、請求項15の発明に規定するように、広義に有機高分子化合物が用いられる。有機高分子化合物は、基材、さらには面状構造体としての安定性、加工容易性、価格等が重視される場合に選択されることが多く、混練が容易なためである。基材の樹脂種の詳細は、前掲のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、あるいはポリエステル樹脂等や、生分解性能を考慮した天然有機高分子化合物が参照されるため、説明を省略する。
【0118】
事後的に溶解可能な管路予定被溶解物とは、請求項18の発明に規定するように、後記の溶解・除去において、水、酵素、有機溶剤のいずれかによって除去される組成物である。水や酵素により溶解、除去される管路予定被溶解物とは、例えば、デンプン繊維、ゼラチン繊維をはじめ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ乳酸等から調製される繊維状物である。有機溶剤により溶解、除去される管路予定被溶解物とは、ポリスチレン、ポリカプロラクトンの繊維状物である。むろん、これらの例示に限られることはなく、植物の繊維である木綿糸、麻糸、または絹糸等を用いることもできる。
【0119】
管路予定被溶解物の形状について、図1の第1実施形態等の短い中空管路を所望するのであれば、例示の繊維状物を適当な長さに砕いて細かくした針状物が用いられる。図2の第2実施形態等の中空管路を所望するのであれば、例示の繊維状物を適当な長さに裁断した線状物が用いられる。
【0120】
混練は、基材と管路予定被溶解物とをほぼ均一に混ぜ合わせることであり、製造規模に応じて公知のブレンダーやニーダー等が用いられる。通常、基材となる樹脂が硬化しないように加温しながら混練することもある。
【0121】
基材と管路予定被溶解物とからなる被溶解含有物は、押出成形、ブロー成形、プレス成形等の適宜樹脂加工分野の公知成形手法が用いられ面状成形体が得られる。他に、テープキャスティング法等を用いても良い。
【0122】
とりわけ、請求項16の発明に規定するように、面状成形体をフィルムまたはシート状物とする場合にあっては、Tダイ法、チューブラー法、カレンダー法等の公知の方法が使用される。基材を熱可塑性樹脂とするフィルムは、その機械的物性等から、延伸フィルムとしても良い。延伸フィルムを製造する際の延伸方法には、ロール−一軸延伸、圧延、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、チューブラー延伸等の公知の方法が使用できる。特に、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が、厚薄精度、機械的物性等の点で優れているため好ましい。延伸フィルムとする場合にあっては、前出の被溶解含有物を温水中等で適度に加温しながら、管路予定被溶解物を引き延ばすようにすると、成形が容易になる。
【0123】
管路予定被溶解物の溶解・除去をより詳しく説明する。前記の管路予定被溶解物の材質に応じ水、酵素、有機溶剤のいずれかが用いられる。ここで、水とは、温水、熱水、亜臨界水も含まれる。また、酸・アルカリのpH値の調整や適宜の塩類の溶解液も含まれる。これらは総称して水系の溶剤といえる。自明ながら、基材は水に不溶、難溶な材料から構成される。水系の溶剤を用いる利点は、管路予定被溶解物の溶出とその除去を安価かつ容易に行うことができる。また、管路予定被溶解物の溶出除去後の処理として、乾燥のみで済むことから製造に要する処理が簡便となり、相対的に製造原価の圧縮が可能となる。ちなみに、乾燥に際しては、基材の熱劣化を考慮して過熱水蒸気による短時間の乾燥とすることが好ましい。
【0124】
水系の溶剤の別形態として酵素も併せて用いられる。管路予定被溶解物は当該酵素により除去可能な物質、つまり基質となる。使用する酵素は、アミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ(ペプチダーゼ)等の加水分解酵素から選択され、基質に応じて単一種の酵素、あるいは複数種の酵素としても良い。酵素処理の利点は、水に不溶、難溶な管路予定被溶解物を用いて面状成形体を形成可能な点である。
【0125】
さらに、有機溶剤により管路予定被溶解物を溶出、除去しようとする場合、有機溶剤の種類は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールをはじめとする各種アルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、他にアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、他にアセトニトリル等、また、へキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、シリコーンオイル、テルペン類、リモネン等のいずれであっても良い。これらは、単独種で用いることもできるが、基材の溶解性に鑑み複数種の有機溶剤を混合調整して用いることができる。
【0126】
前出のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂の場合、含水により可溶化する。よって、管路予定被溶解物が存在していた場所は容易に中空管路に置き換わる。これについては、有機溶剤による溶出も同様である。また、デンプン繊維やゼラチン繊維の場合、含水と共に酵素による加水分解も加わるため、同じく管路予定被溶解物が存在していた場所はそのまま中空管路となる。
【0127】
続いて、図16の概略工程図を用い他の面状構造体の製造方法(第2製法例)を説明する。同図(a)は基材の調製段階に相当する。出来上がる面状構造体を多孔質構造とする場合にあっては、請求項19に規定する発明のように、基材201に事後的に溶解可能な粒状被溶解物205が添加される。これらは十分に混練され基材に粒状被溶解物は均一に分散されて分散物210が得られる。
【0128】
同図(b)のとおり、管路予定被溶解物220が静置され、ここに分散物が注がれて、分散物中に管路予定被溶解物が浮いた状態となる。粒状被溶解物入りの被溶解含有物が得られる。同図(c)においては、被溶解含有物は乾燥、あるいは適宜の成形を経て面状成形体240となる。この面状成形体より、埋設された管路予定被溶解物、並びに粒状被溶解物は溶出により除去されて同図(d)の中空管路を有する多孔質の面状構造体250が得られる。
【0129】
図示の製造方法によると、略棒状(直線上)の管路予定被溶解物が用いられる。従って、管路予定被溶解物の並べ方を揃えることにより、請求項12の発明に規定するように、管路予定被溶解物は面状成形体の面方向に延びた向き(紙面の上下方向)で被溶解含有物内に埋設される。さらに、請求項13の発明に規定するように、略棒状(直線上)の管路予定被溶解物の並べ方と共にその長さも揃えて面状成形体の長さ方向で略同一となるように埋設される。よって、出来上がる面状構造体における中空管路の面方向の向き、長さ方向の向きを簡単に揃えることができる。
【0130】
同図(c)において、単に型を外したのみでは平板状の面状成形体として得られる。成形体の肉厚を制御するためには、適宜プレス加工、延伸が行われてフィルム状、シート状となる。むろん、このような型を用いる他に、管路予定被溶解物と被溶解含有物を一緒に押し出して薄く広げることもでき、成形方法は自由である。
【0131】
粒状被溶解物の除去は、請求項20の発明に規定するように、水、酵素、または有機溶剤のいずれかにより行われる。前記の管路予定被溶解物の手法とほぼ同様に、温水、熱水、亜臨界水も含まれる。また、酸・アルカリのpH値の調整(希塩酸等)や適宜の塩類の溶解液も含まれる。また、これらにアミラーゼ等の加水分解酵素が添加される。なお、粒状被溶解物であるため、その形状は粒径状を成している限り特に限定されない。例えば、砂糖や食塩、みょうばんの結晶、デンプンの粒子(粉末)、石灰の粉末が用いられる。さらには、粒状被溶解物としてスチレン、ポリカプロラクトン等の粒状物が用いられる場合には、有機溶剤により被溶解物は溶解、除去される。
【0132】
デンプン粒子の形態や粒径は植物種によって異なり、粒径は約1〜100μmである。例えば、馬鈴薯デンプンの粒子は平均粒径約30〜40μmの楕円形であり、コーンスターチ粒子は平均粒径13〜15μm程度でその径状はやや角張っている。目的とする面状構造体の空洞部の形態により、これらのデンプン粒子が選択され、1種類のみ、あるいは複数種類のデンプン粒子が粒状被溶解物として用いられる。
【0133】
管路予定被溶解物の形状は、図示の略棒状の他に、事後的に図4(a)の中空管路20dとするべく、請求項14の発明に規定し、図17に示す分岐構造物300とすることもできる。ここで、管路予定被溶解物のひとつである分岐構造物300の作り方を図17に従って説明する。
【0134】
同図(a)のモノフィラメント301は、前記のデンプン繊維やゼラチン繊維等から選択される。モノフィラメント301を所定数撚り合わせて同図(b)のマルチフィラメント302が得られる。さらに、マルチフィラメント302を所定数撚り合わせて同図(c)の被溶解紐状物303が得られる。次に、被溶解紐状物303をさらに所定数撚り合わせて同図(d)の被溶解縄状物304が出来上がる。
【0135】
この被溶解縄状物304の末端から被溶解紐状物303を1本ずつ解くと、被溶解縄状物304から被溶解紐状物303が1本ずつ分岐部305より枝分かれし、分岐構造物300となる。この作成法によると、被溶解縄状物304の一端側306から他端側307にかけて縮径も生じる。そこで、分岐構造物の溶解除去後、一端側306から流体を流入させると、流入圧力より上手く個々の副管路にも流体は流入しやすくなると考えられる。むろん、分岐構造物300の形成方法、撚り合わせ方はこの例に限らず適宜である。
【0136】
図16に開示の面状構造体の製造方法において、粒状被溶解物入りの被溶解含有物の代わりに単に基材を用いる場合、出来上がる面状構造体には粒状空洞部は形成されない。従って、粒状空洞部形成の有無を比較的容易に選択することができる。
【0137】
次に、図18の概略工程図を用いさらに他の面状構造体の製造方法(第3製法例)を説明する。前記の第2製法例と同様に、同図(a)は基材の調製段階に相当する。出来上がる面状構造体を多孔質構造とする場合にあっては、基材201に事後的に溶解可能な粒状被溶解物205が添加される。これらは十分に混練され基材に粒状被溶解物は均一に分散されて分散物210が得られる。
【0138】
同図(b)では、はじめに分散物210のみによりフィルム状またはシート状に公知手法により成形、加工される。そして、同図(c)のように、得られたフィルム・シート215の表面に管路予定被溶解物220が描画される。図示では分岐状としている。この描画に際し、公知の数値制御駆動するロボットアームを備えた塗装装置Dmを用いてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂をフィルム表面に描く方法の採用が望ましい。塗装装置を用いる場合、同一の図柄の複製、樹脂の吐出量の制御も容易なためである。他に、直接人手により筆で描いても良く、あるいは、砂糖や食塩を線状等の図形にフィルム表面に振りかけて描画することもできる。
【0139】
描画を終えた後、請求項17の発明に規定し、同図(d)のように、フィルム状物やシート状物の表面に管路予定被溶解物が描画(あるいは載置)された一面側は張り合わせ面213となり、ここに管路予定被溶解物を被覆するため再度フィルム状物(シート状物)がその表面に張り合わせられて面状成形体となる。フィルム状物やシート状物の表面の張り合わせは、加熱融着、超音波による圧着等が用いられる。再度張り合わされるフィルム状物等は、前出の分散物と同様としても異ならせても良い。図示では同組成物とした。
【0140】
その後、フィルム状物やシート状物の張り合わせにより形成された面状成形体から、前述のとおり、管路予定被溶解物及び粒状被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤により溶解、除去される。こうして、同図(e)のように中空管路と共に粒状空洞部も同時に形成され、中空管路を有する多孔質の面状構造体260が得られる。
【0141】
図18に開示の第3製法例によると、フィルム状物やシート状物同士の張り合わせ構造となるため、その張り合わせ面に形成される管路予定被溶解物の形状を自由に設計することができると共に、事後の工程によっても管路予定被溶解物は損傷されにくい。よって、特に分岐形状のように複雑な形状維持が必要な管路予定被溶解物に好都合である。例示の描画の他に前記の分岐構造物300等の所定形状からなる管路予定被溶解物をそのまま載置しても良く、あるいは、予め別異のシートの表面に管路予定被溶解物を描画しておき、これを張り合わせ面側に転写して形成することもできる。さらには、繊維状、針状の管路予定被溶解物を適度に表面に振りかけても良い。つまり、管路予定被溶解物となり得る材料選択の幅が広がる。
【0142】
図19は既述の面状成形体における粒状空洞部に封入物を内包(残存)させる場合の例である。すなわち、請求項21の発明に規定するように、面状成形体を形成する基材に、封入物の表面の全部または一部を事後的に溶解可能な被溶解充填物によって被覆した粒状複合材4A,4B,4Cが添加される。当該粒状複合材は前記の第2製法例、第3製法例に示した粒状被溶解物の代わりに添加、混合されて分散物となる。そして、管路予定被溶解物に加えて、請求項22の発明に規定するように、被溶解充填物も、水、酵素、または有機溶剤により溶解、除去される。各段階は第2製法例、第3製法例と同様となるため省略する。
【0143】
同図(a)に示す複合材4Aは、封入物40aの表面の全部または一部が被溶解充填物41aにより被覆されている。複合材4Aを基材に添加すると、同図(d)の粒状空洞部内に封入物40aを残した面状構造体となる。比較的粒径の大きな封入物を封入する場合には複合材4Aを用いると良い。同図(b)に示す複合材4Bは、複数個の封入物40bが凝集してこの表面の全部または一部が被溶解充填物41bにより被覆されている。複合材4Bを基材に添加すると、同図(e)の粒状空洞部内に封入物40bを残した面状構造体となる。また、同図(c)に示す複合体4Cは、被溶解充填物41cの表面の全部または一部に封入物40cを被着させ、この表面上の封入物40cの周囲をバインダ42により被覆、保護した構造である。複合材4Cを基材に添加すると、同図(f)の粒状空洞部内に封入物40cが付着した面状構造体となる。この構造体の場合、粒状空洞部の空間容積を大きくすることができる。図中、符号tuは中空管路、mpは粒状空洞部である。
【0144】
封入物は、活性炭をはじめとして、既述の吸着、放出等の諸機能を有する物質、材料である。被溶解充填物には、砂糖、食塩をはじめとする水溶性材料が用いられる。さらに、バインダとして、デキストリン、プルラン、スクロース、マルトース、トレハロース、グルコース等の天然化合物、あるいはCMC、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子化合物を用いることができる。図示の各複合材は、封入物と被溶解充填物との混練、スプレードライ等により造粒され、篩別、分級等が行われて粒径が揃えられる。このようにすると、比較的容易に被溶解充填物のみ消失させて、その内部の封入物のみを効率よく残留させることができる。
【0145】
以上のとおり図示し説明した面状構造体並びに製造方法について、適用可能な分野は必ずしも限定されず、個々の実施形態にて詳述の緩衝材、流体供給材、吸液材等となり、脱臭、脱色、分離の用途が期待でき、これらを利用した壁紙や断熱材等の建材、緑化シート、さらには油濁回収材等の適用例が参照される。とりわけ、内部に形成される中空管路の大きさや形状を制御すると共に、空洞部との組み合わせ方も自由に設計できることから、マイクロリアクター等の小型でしかも薄い反応装置を安価に製造することもできる。
【0146】
さらには、細胞培養用の足場材としても有効と考えられる。リンパ球等の浮遊性の細胞種では液体培地による培養が一般的である。一方、肝細胞、ランゲルハンス島細胞、ケラチノサイト等の各種固着性の細胞種にあっては、細胞接着の影響も考慮して、その効率よい増殖に足場が必要となる。
【0147】
特に、中空管路と共に粒状空洞部を備えた面状構造体を用いることにより、当該構造体の表面積は飛躍的に増大する。このようにすると、粒状空洞部の内面に細胞を増殖させ、さらに、構造体の内部にも細胞を侵入させることができる。つまり、今までは培養細胞の積層化が困難である細胞種の場合であっても、構造体のフィルムやシートの内部を培養細胞で満たすことが比較的に容易となる。従来、単純な層構造の培養細胞に多孔質を利用した3次元の広がりを持たせることができる。
【0148】
さらに、中空管路を用いて構造体の内部側を負圧にするような吸引が可能となる。すると培養細胞から排出されるの廃物は管路を通じて吸引され、常時培養液側からの新鮮な栄養成分、酸素等が構造体の内部側に浸透する。構造体内部の空洞部に付着した培養細胞であっても成長阻害を受けにくくなる。この結果、細胞増殖の不均一さの解消が図られ、従前にはみられない、新規の細胞培養の足場となり得る。あるいは、中空管路から、栄養成分、酸素、細胞増殖因子等を流通、拡散させることも可能である。
【0149】
この他に、樹脂種の選択、中空管路や粒状空洞部の大きさ、その組み合わせによって固体高分子形燃料電池、例えば特開2006−24555号、特開2006−85911号公報に開示されているバイオ燃料電池等に用いる高分子膜への適用の途がある。加えて、中空管路、粒状空洞部、あるいは封入物を担体として固定化酵素や抗体、DNA等を含むバイオリアクター、分離膜としても期待される。さらには、選択透過膜、再生医療用材料としても検討される。
【実施例】
【0150】
[面状構造体の試作]
発明者らは、これまでに図示し詳述した面状構造体について試作と共に、適宜表面、または断面を観察した。
【0151】
・試作例1(針状の中空管路を備えた面状構造体)
面状構造体を構成する基材として、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(宇部丸善ポリエチレン株式会社製:商品名「ユメリット 0540F」)を用いた。この直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE樹脂)を凍結粉砕し、樹脂粉末とした。以下、PE樹脂粉末として説明する。
【0152】
管路予定被溶解物にはデンプン繊維を用いた。このデンプン繊維は、アミロペクチン含有量の高いデンプンを糊化後、アルコール中にて紡糸して得たデンプン繊維である。
【0153】
PE樹脂粉末30重量部に対して十分に乾燥したデンプン繊維70重量部を混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、被溶解含有物R11を得た。被溶解含有物R11を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、被溶解含有物をステンレス鏡面板から取り出し、面状成形体R12(縦2cm×横2cm、厚さ400μm)を得た。
【0154】
面状成形体R12からのデンプン繊維の管路予定被溶解物の除去に際し、アミラーゼ(大和化成株式会社製:商品名「クライスターゼT−5」)を用いた。同酵素を1重量%含み、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に面状成形体R12を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、略針状の短い中空管路を有する面状構造体R13を試作した(試作例1)。
【0155】
試作例1については電子顕微鏡により断面を観察した。図20は面状成形体時点における水平断面写真(倍率100倍)であり、図21は出来上がった面状構造体の水平断面写真(倍率100倍)である。図20の面状成形体の時点では、溶融したLLDPE樹脂によりデンプン繊維の管路予定被溶解物が取り囲まれ、全体がひとかたまりとなっている。これに対し、図21の面状構造体によると、全体的に空洞が目立つ。すなわち、デンプン繊維の管路予定被溶解物は酵素により溶解され、その痕跡として中空管路が形成できた。
【0156】
試作例1の面状構造体を調製するにあたり、樹脂粉末とデンプン繊維の割合について、面状成形体の内部に存在するデンプン繊維(管路予定被溶解物)の溶解効率を高めるためには、その存在比を多くする必要がある。発明者らの経験によると、管路予定被溶解物にデンプン繊維のみを用いる場合、デンプン繊維の配合量は面状成形体容積の半分よりも多くすることが好ましい。
【0157】
・試作例2(ランダムな線状の中空管路を備えた面状構造体)
面状構造体を構成する基材として、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルム(フタムラ化学株式会社製:商品名「LL−XMTN」厚さ150μm)、管路予定被溶解物には再生医療用ゼラチン繊維(株式会社井元製作所製,繊維直径:約40〜50μm)を用いた。当該ゼラチン繊維には赤色の着色品を使用した。以下、前出のフィルムはPE樹脂フィルムとして説明する。
【0158】
1辺を5cmに切り出したPE樹脂フィルムを2枚用意し、1枚目のPE樹脂フィルムの上に十分に乾燥したゼラチン繊維をランダムに載置し、2枚目のPE樹脂フィルムを被せて積層体R21とした。この積層体R21をステンレス鏡面板内に導入して同鏡面板を140℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、積層体R21をステンレス鏡面板から取り出し、面状成形体R22を得た。面状成形体R22の端部よりゼラチン繊維の断面が露出するまで面状成形体R22を切り落とした。得られた面状成形体R22を80℃の熱水浴中に1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、ランダムな糸状の中空管路を有する面状構造体R23を試作した(試作例2)。
【0159】
試作例2については光学顕微鏡により表面と断面を観察した。図22(a)は面状成形体時点における表面写真、同図(b)はその断面写真(共に倍率50倍)である。図23(a)は面状構造体時点における表面写真、同図(b)はその断面写真(共に倍率50倍)である。図22の面状成形体時点では、溶融したPE樹脂フィルム内にゼラチン繊維が埋没している。互いの屈折率は近いため、ゼラチン繊維は不鮮明な輪郭として見ることができる。これに対し、図23の面状構造体によると、ゼラチン繊維の管路予定被溶解物は熱水により溶解された痕跡として中空管路が生じた。写真のとおり、中空管路部分は空洞となったため、輪郭は鮮明となった。
【0160】
・試作例3(平行な中空管路を備えた面状構造体)
面状構造体を構成する基材に前記のPE樹脂フィルム、管路予定被溶解物に前記のデンプン繊維を用いた。
【0161】
1辺を5cmに切り出したPE樹脂フィルムを2枚用意し、1枚目のPE樹脂フィルムの上に十分に乾燥したデンプン繊維をほぼ平行に載置し、2枚目のPE樹脂フィルムを被せて積層体R31とした。この積層体R31をステンレス鏡面板内に導入して同鏡面板を140℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、積層体R31をステンレス鏡面板から取り出し、面状成形体R32を得た。面状成形体R32の端部より全てのデンプン繊維の断面が露出するまで面状成形体を切り落とした。
【0162】
面状成形体R32を前出のアミラーゼが1重量%含まれpH6.0に調整した80℃の熱水浴中に1時間浸漬後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、ほぼ平行に延びた中空管路を有する面状構造体R33を試作した(試作例3)。
【0163】
試作例3について、図24(a)は面状構造体の表面写真(倍率50倍)、同図(b)はその断面写真(倍率50倍)である。写真からわかるように、デンプン繊維の溶出により中空管路を得ることができた。また、出来上がった中空管路は概ね平行であることも確認できた。
【0164】
・試作例4(ランダムな線状の中空管路と粒状空洞部を備えた面状構造体)
はじめに、前出のPE樹脂粉末22重量部に平均粒径約27μmの馬鈴薯デンプン(東海澱粉株式会社製)を78重量部混入し、Tダイを装備した二軸混練押出機により170℃に加熱して同樹脂粉末を溶融しながら馬鈴薯デンプンと樹脂を混練した。均一に混練した後、Tダイより押出して直ちに2本の金属ロール間に導入しロールで加圧しながら冷却して、フィルム状物R41(幅60cm、厚さ200μm)を得た。試作例4において馬鈴薯デンプンが粒状被溶解物である。
【0165】
フィルム状物R41の1辺を5cmに切り出して2枚用意し、1枚目のフィルム状物R41の上に十分に乾燥した前記のゼラチン繊維をランダムに載置し、2枚目のフィルム状物R41を被せて積層体R42とした。この積層体R42をステンレス鏡面板内に導入して同鏡面板を140℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、積層体R42をステンレス鏡面板から取り出し、面状成形体R43を得た。面状成形体R43の端部よりゼラチン繊維の断面が露出するまで面状成形体を切り落とした。
【0166】
面状成形体R43を前出のアミラーゼが1重量%含まれpH6.0に調整した80℃の熱水浴中に1時間浸漬後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、粒状空洞部と共にランダムな糸状の中空管路を有する面状構造体R44を試作した(試作例4)。
【0167】
試作例4については電子顕微鏡により観察した。図25は面状構造体の断面写真(倍率50倍)である。断面には粒状の空洞部からなる多孔質構造と共に、空洞部とは異なる大きさの細長い空間も形成されている。図26の拡大写真(倍率1000倍)からわかるように、ゼラチン繊維の溶出に伴う管状の空洞形成が確認できた。
【0168】
・試作例5(粒状空洞部と分岐状の中空管路を備えた面状構造体)
管路予定被溶解物には、メタノールにポリビニルピロリドン(PVP)を溶解したPVPの10%(w/v)溶液を用いた。このPVP溶液を卓上用塗布装置(武蔵エンジニアリング株式会社製:商品名「SHOT mini100S」)に装着した内径0.2mmのニードル付きシリンジに充填し、試作例4にて用いたフィルム状物R41(PE樹脂粉末,馬鈴薯デンプン含有)の表面に描画した。描画の模様は図27の模式図に示す葉脈を模したPVP溶液の分岐パターン400である。このパターンは幹部401に枝部402を接続している。なお、枝部同士も交差している。幹部401は、大径部411、中径部412、小径部413の順にPVP溶液の塗布量を制御して縮径させて形成した。
【0169】
分岐パターンを塗布したフィルム状物を十分に乾燥した後、パターンが描かれた面に前記のフィルム状物R41を重ねて積層体R51とした。この積層体R51をステンレス鏡面板内に導入して同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、積層体R51をステンレス鏡面板から取り出して、面状成形体R52を得た。面状成形体R52の端部より乾燥したPVPの分岐パターンが露出するまで面状成形体を切り落とした。
【0170】
面状成形体R52を前出のアミラーゼが1重量%含まれているpH6.0,80℃の熱水浴中に1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、粒状空洞部と共に網状の分岐構造の中空管路を有する面状構造体R53を試作した(試作例5)。
【0171】
〈浸透性能の評価〉
面状構造体R53のフィルムの両面に対し、高周波電源と処理ステーションを備えたコロナ放電処理装置(春日電機株式会社製)を用いてコロナ放電処理を施した。次に、PETフィルム(フタムラ化学株式会社製:商品名「FE2001#25」)を用意した。このPETフィルムの片面に酢酸エチル溶剤のドライラミネート接着剤を塗布し、面状構造体R53の両面にPETフィルムの接着剤塗布面をラミネートして、接着のむらが生じないように加圧し40℃にて3日間エージングし、ラミネート体R54を得た。
【0172】
ラミネート体R54の中間層に当たる面状構造体R53の主管路にシリンジの針(テルモ株式会社社製:商品名「テルモ注射針」,φ0.4mm)を挿入した。このシリンジの針を同社製のシリンジ(商品名「テルモシリンジ」)に装着し、これをシリンジポンプ(KD Scientific社製:商品名「1C3100」)に取り付けた。このシリンジポンプを用いて青色染料を溶かした水・エタノールの混合溶液を10mL/hrの流速で注入した。
【0173】
図28(a)は注入前のラミネート体の写真、同図(b)は注入により青色染料がラミネート体内部に浸透した状態の写真である。この写真から明らかなとおり、青色染料の溶液は、面状構造体内の主管路、副管路を通じて粒状空洞部に到達したことがわかる。よって、面状構造体における面方向への流体の拡散を確認することができた。
【0174】
・試作例6(粒状空洞部に封入物を有し分岐状の中空管路を備えた面状構造体)
デンプン(フタムラ化学株式会社製:商品名「エフスマッシュ(登録商標)」)20重量%を水に溶かしてデンプン溶液とし、このデンプン溶液100重量部に、塩化亜鉛賦活活性炭(フタムラ化学株式会社製:平均粒径20μm,粒径分布3〜90μm)2重量部を分散して分散物とした。この分散物を170℃のスプレードライヤに導入して乾燥と共に粒状物に加工した。さらに、粒状物を105℃の乾燥機内で24時間乾燥後、目開き120μmのステンレスメッシュにより篩別し、篩を通過した粒状物のみを粒状複合材R61とした。当該試作例6において、活性炭は封入物であり、デンプンは被溶解充填物である。
【0175】
面状構造体を構成する基材として、エチレンビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業株式会社製:商品名「ソアノールA4412」)を用いた。このエチレンビニルアルコール樹脂を凍結粉砕し、樹脂粉末とした。以下、EVOH樹脂粉末として説明する。
【0176】
EVOH樹脂粉末44重量部に前出の粒状複合材R61を混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらEVOH樹脂粉末を溶融、混練し、被溶解含有物R62を得た。被溶解含有物R62を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を170℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、被溶解含有物をステンレス鏡面板から取り出し、フィルム状物R63(縦10cm×横10cm、厚さ200μm)を得た。
【0177】
前記の試作例5にて用いたポリビニルピロリドン(PVP)の10%(w/v)溶液を内径0.2mmのニードル付きシリンジに充填し、このシリンジを前出の卓上用塗布装置に装着してフィルム状物R63の表面に図27に示す分岐状の模様を描画した。
【0178】
分岐パターンを塗布したフィルム状物R63を十分に乾燥した後、パターンが描かれたフィルム状物R63の表面に塗布していないフィルム状物R63を重ねて積層体R64とした。この積層体R64をステンレス鏡面板内に導入して同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、積層体R65をステンレス鏡面板から取り出して、面状成形体R65を得た。
【0179】
面状成形体R65を前出のアミラーゼが1重量%含まれpH6.0に調整した80℃の熱水浴中に2時間浸漬後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬した。続いて、面状成形体R65を直径10cmの円形に切り抜いて吸引びんに接続したブフナー漏斗上に載置し、吸引しながら面状成形体R65に蒸留水を通水して洗浄した。ブフナー漏斗を通過した濾液が糖類の呈色反応を示さなくなるまで洗浄を続けた。洗浄を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、粒状空洞部に封入物を有すると共に網状の分岐構造の中空管路を有する面状構造体R66を試作した(試作例6)。
【0180】
〈吸着・濾過性能の確認〉
はじめに濾過対象となる溶液として、希ヨードチンキ(日本薬局方)を1000倍容量の水で希釈することにより被濾過液を3L用意した。液の色は薄い褐色であった。次に、面状構造体R66の主管路に前出のシリンジの針を挿入すると共にシリコーンチューブも接続した。マイクロシリンジの針が挿入された面状構造体部分が被濾過液と接触しないように、面状構造体を被濾過液内に沈めた。シリコーンチューブを通じて0.2mL/分の流速によりチューブポンプを用いて吸引した。チューブポンプから吐出した液の色を目視したところ、ほぼ無色透明であった。この結果より、面状構造体内に存在する中空管路、粒状空洞部を通じて流体の吸引が確認できた。さらに、粒状空洞部に吸着剤となる封入物を残存させることにより、別途の機能として、濾過機能を獲得することも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】本発明の第1実施形態に関する面状構造体の概略図である。
【図2】第2実施形態の面状構造体の概略図である。
【図3】第3実施形態の面状構造体の概略図である。
【図4】第4実施形態の面状構造体の概略図である。
【図5】第5実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図6】第6実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図7】第7実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図8】第8実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図9】第9実施形態に関する面状構造体の断面模式図である。
【図10】第10実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図11】第11実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図12】第12実施形態の面状構造体の断面模式図である。
【図13】第13実施形態の面状構造体の概略図である。
【図14】第13実施形態に関する他の面状構造体の概略図である。
【図15】本発明の面状構造体の第1製法例を示す概略工程図である。
【図16】面状構造体の第2製法例を示す概略工程図である。
【図17】分岐構造物の概略図である。
【図18】面状構造体の第3製法例を示す概略工程図である。
【図19】被溶解充填物とこれを含む構造体の断面模式図である。
【図20】試作例1の面状成形体時点の電子顕微鏡による断面写真である。
【図21】試作例1の面状構造体の電子顕微鏡による断面写真である。
【図22】試作例2の面状成形体時点の光学顕微鏡による表面・断面写真である。
【図23】試作例2の面状構造体の光学顕微鏡による表面・断面写真である。
【図24】試作例3の面状構造体の光学顕微鏡による表面・断面写真である。
【図25】試作例4の面状構造体の電子顕微鏡による断面写真である。
【図26】図25の拡大断面写真である。
【図27】描画した分岐パターンの模式図である。
【図28】試作例5のラミネート体への注入前後の写真である。
【符号の説明】
【0182】
10A,10A’,10B,10B’,10C,10C’,10D,10D’,10E,10F,10G,10H,10J,10K,10L,10M,10N,10N’,10N” 面状構造体
11 面状体
12 切断表面
20a,20b,20c,20c’,20d,20d’,20d” 中空管路
25 分岐部
30 粒状空洞部
40 封入物
110 溝状部
300 分岐構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状体の内部に中空管路が形成されていることを特徴とする面状構造体。
【請求項2】
前記中空管路が前記面状体内部において面方向に延びている請求項1に記載の面状構造体。
【請求項3】
前記中空管路が長さ方向で略同一となるように前記面状体内部に形成されている請求項2に記載の面状構造体。
【請求項4】
前記中空管路が前記面状体内部で分岐している請求項2に記載の面状構造体。
【請求項5】
前記中空管路の開口部が前記面状体の切断表面に露出している請求項2に記載の面状構造体。
【請求項6】
前記面状体の内部に粒状空洞部が形成されており、前記粒状空洞部同士は連通されている請求項1に記載の面状構造体。
【請求項7】
前記粒状空洞部が封入物を内包している請求項6に記載の面状構造体。
【請求項8】
前記面状体が有機高分子化合物からなる請求項1に記載の面状構造体。
【請求項9】
前記面状体がフィルム状物またはシート状物である請求項1に記載の面状構造体。
【請求項10】
前記面状体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成されていると共に、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面に前記中空管路が溝状部として形成されている請求項9に記載の面状構造体。
【請求項11】
基材に事後的に溶解可能な管路予定被溶解物を含めて被溶解含有物とし、前記被溶解含有物を所定の面状成形体に成形した後、前記面状成形体に含まれる前記管路予定被溶解物を溶解して、前記面状成形体内部に中空管路を形成することを特徴とする面状構造体の製造方法。
【請求項12】
前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の面方向に延びた向きで前記被溶解含有物内に埋設されている請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項13】
前記管路予定被溶解物が前記面状成形体の長さ方向で略同一となるように前記被溶解含有物内に埋設されている請求項12に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項14】
前記管路予定被溶解物が分岐構造物からなる請求項12に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項15】
前記基材が有機高分子化合物からなる請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項16】
前記面状成形体がフィルムまたはシート状物である請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項17】
前記面状成形体がフィルム状物またはシート状物の張り合わせにより形成される構造体であって、前記フィルム状物またはシート状物の張り合わせ面のいずれか一面側に前記管路予定被溶解物を載置した後に張り合わせられる請求項16に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項18】
前記管路予定被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項19】
前記基材に事後的に溶解可能な粒状被溶解物が添加される請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項20】
前記粒状被溶解物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項19に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項21】
前記基材に、封入物の表面の全部または一部を事後的に溶解可能な被溶解充填物で被覆した粒状複合材が添加される請求項11に記載の面状構造体の製造方法。
【請求項22】
前記被溶解充填物が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかによって除去される請求項11に記載の面状構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−90517(P2009−90517A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262324(P2007−262324)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】