説明

面状発熱体

【課題】 円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための面状発熱体において、150℃〜1000℃の比較的高い温度領域を含む広い温度領域で使用することが可能で、優れた可撓性、断熱性構造を有し、しかも廉価な面状発熱体を提供する。
【解決手段】 発熱素子の両面が電気絶縁材で被覆されたヒータ、及び該ヒータの外周側に空隙ができるようにスペーサを介して保持された金属薄板を備えてなる面状発熱体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための電気エネルギーを利用する面状発熱体に関するものである。更に詳細には、150℃〜1000℃の高温領域を含む広い温度領域の加熱が可能で、可撓性が優れており、外部への熱拡散が少ない面状発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の配管、継手等の外側に取付けて、これらを加熱するためのマントルヒータ(ジャケットヒータ)が広く利用されている。
このようなヒータの発熱素子としては、グラフトカーボン、カーボン粉末、金属粉末、あるいは金属酸化物粉末等を含む合成樹脂(導電性樹脂)を用いて、ガラスクロスに含浸させたもの、前記のような導電性樹脂をポリエステル、ポリイミド、マイカ等の絶縁基材シートに塗布または印刷により保持させたもの、金属箔をエッチングして回路としたもの、あるいは金属抵抗線を絶縁基板シートに張り巡らして回路としたもの等が使用されている。
【0003】
前記のような発熱素子の両面は、シリコーンゴムシート、ポリイミド樹脂シート、マイカシート等の電気絶縁材により被覆され、さらにその外周側は各種ゴム、各種発泡材、あるいはガラスマット等の断熱材により被覆されている。
【特許文献1】特開平10−64667号公報
【特許文献2】特開平11−288927号公報
【特許文献3】特開2000−173754号公報
【特許文献4】特開2003−68430号公報
【特許文献5】特開2004−111286号公報
【特許文献6】特開2004−185910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属箔をエッチングして回路としたもの、金属抵抗線を用いてマイカ等の絶縁基板シートに張り巡らして回路としたものは、150℃以上の比較的高い温度で使用できる利点がある。しかしながら、このような発熱素子を用いて被加熱物を高温に加熱する場合は、断熱材として耐熱性に優れたものを使用するとともに、外部への熱拡散を防止するために厚みを大きなものにする必要があり、可撓性に乏しく大きな面状発熱体になるという不都合、また断熱材の種類によっては高価な面状発熱体になるという不都合があった。
従って、本発明が解決しようとする課題は、150℃以上の比較的高い温度(150℃〜1000℃程度)の高温の領域を含む広い温度領域で使用することが可能で、優れた可撓性、断熱性構造を有し、しかも廉価な面状発熱体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討した結果、円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための面状発熱体において、発熱素子の両面が電気絶縁材で被覆されたヒータの外周側に、断熱材層として空隙部(空気層)を設け、さらにその外周側に熱反射板として金属薄板を設けることにより、優れた可撓性、断熱性構造を有し、しかも廉価な面状発熱体が得られることを見出し、本発明の面状発熱体に到達した。
【0006】
すなわち本発明は、円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための面状発熱体であって、発熱素子の両面が電気絶縁材で被覆されたヒータ、及び該ヒータの外周側に空隙ができるようにスペーサを介して保持された金属薄板を備えてなることを特徴とする面状発熱体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の面状発熱体は、断熱材層として空隙部(空気層)を設けた構成なので、高価な断熱材を多く用いることなく、優れた可撓性、断熱性を容易に付与することができる。また、空隙部(空気層)の外周に熱反射板として金属薄板を設けているので、ヒータからの熱が外部に拡散し難く、エネルギー効率よく被加熱物を加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の面状発熱体は、円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための電気エネルギーを利用した面状発熱体に適用されるが、特に被加熱物を高い温度(150℃〜1000℃)で効率よく加熱するための面状発熱体に好適に適用される。
以下、本発明の面状発熱体を、図1〜図7に基づいて説明するが、本発明がこれにより限定されるものではない。尚、図1〜図4は各々本発明の面状発熱体の一例を示す断面図である。図5は本発明におけるヒータ(電気絶縁材/発熱素子/電気絶縁材)の一例を示す斜視図である。図6、図7は各々本発明におけるスペーサと金属薄板の組合せの一例を示す斜視図である。
【0009】
本発明の面状発熱体は、図1に示すように、円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための面状発熱体であって、発熱素子1の両面が電気絶縁材2で被覆されたヒータ3、ヒータ3の外周側に空隙4ができるようにスペーサ5を介して保持された金属薄板6を備えてなる面状発熱体である。
本発明の面状発熱体は、図2に示すように、さらにヒータ(内側の電気絶縁材2)の内周側に金属薄板6を配置することもできる。また、図3に示すように、さらに金属薄板6の外周側に断熱材7を配置することもできる。面状発熱体の加熱時は、外周側の金属薄板6も比較的に高温になるので、通常はこのように断熱材7を配置して用いられる。さらに、スペーサ5は、空隙を形成できればその形状に特に制限されることはなく、例えば図4に示すように、断面が波形状のものであってもよい。
【0010】
尚、本発明の面状発熱体の形状は、円筒形、曲管形のほか、円筒を切断面が中心軸と平行方向となるように分割した形状(図6、図7に示すような形状)、楕円筒を切断面が中心軸と平行方向となるように分割した形状、球面または楕球面の一部の形状、またはこれらに類似する形状、若しくは平面と前記のような曲面を合わせた形状等とすることができる。
しかしながら、例えば、円筒形、または円筒を切断面が中心軸と平行方向となるように、2分割、3分割、または4分割した形状、若しくは楕円筒形、または楕円筒を切断面が中心軸と平行方向となるように、2分割または4分割した形状が実用的である。
【0011】
本発明の面状発熱体に用いられる金属薄板は、通常は厚みが0.03〜2mmであり、アルミ薄板、ステンレス薄板、鉄薄板等のほか、アルミ箔、ステンレス箔、鉄箔等も使用可能である。金属薄板の厚みが0.1mm未満の場合は強度が弱くなるが、断熱材を兼ねた補強材として耐熱性樹脂板(発泡させたものも使用可)を併用することにより使用可能である。また、金属薄板の厚みが2mmを超えると可撓性、柔軟性が失われ所望の曲面形状に形成できなくなる虞がある。金属薄板は、例えば、図6、図7に示すような角柱状のスペーサ5のほか、円柱状、格子状、波形板状、またはこれらに類似する形状のスペーサを介してヒータと接着される。尚、接着の際は、接着剤による固着のほか、リベットによる固着も行なうことができる。また、スペーサの構成材料としては、通常は耐熱性樹脂、好ましくは可撓性を有する耐熱性樹脂が用いられるが、後述するように空隙の条件によってはセラミック等の材料が使用可能であり、さらに波形板状のスペーサの場合には金属を用いることができる。
【0012】
本発明の面状発熱体において、ヒータと金属薄板の間隙は、ヒータの大きさ、加熱温度等の条件にもよるが、通常は1〜20mmである。また、ヒータと金属薄板の間隙において、空隙が占める割合(体積)は通常は40〜99%、好ましくは50〜95%、さらに好ましくは60〜90%である。空隙が占める割合が99%を超える場合は、スペーサが占める割合が1%未満となりヒータと金属薄板の結合強度が弱くなる不都合が生じる。
【0013】
尚、空隙の割合が大きいほど、スペーサに要求される可撓性の条件が緩和され、種々の耐熱性材料からスペーサの構成材料を選定することができるようになる。このような耐熱性材料として、ヒータが高い温度(250℃以上)で使用される場合は、セラミックを用いることが好ましい。例えば、ヒータまたは金属薄板の表面に、セラミック塗料を塗布、乾燥後、微粉体の状態で固化、あるいは焼成することによりスペーサを形成させることができる。セラミック塗料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マイカ等のセラミック原料、あるいはこれらの2種類以上のセラミック原料を、必要に応じて無機充填材、有機充填材とともに溶媒に溶かしたものを用いることができる。
【0014】
本発明の面状発熱体において用いられる金属薄板のうち、被加熱物側に配置される金属薄板(図2)は、加熱面を均一にするために用いられる。また、被加熱物側と反対側に配置される金属薄板は、熱反射板としての効果(ヒータからの熱が外部に拡散し難く、優れたエネルギー効率が得られる効果)のほか、電気絶縁材等から発生する粉塵等の外部への飛散を防止する効果もあり、例えばクリーンルーム内で使用される面状発熱体の被覆材として好適である。
【0015】
本発明の面状発熱体に用いられる可撓性を有する発熱素子としては、例えば所望のパターンに成形した金属箔抵抗体(図5)、金属線抵抗体、または、グラフトカーボン、カーボン粉末、金属粉末、金属酸化物粉末から選ばれる少なくとも1種を合成樹脂に分散させた導電性樹脂を、ガラス繊維基材またはセラミック繊維基材に含浸させた抵抗体を用いることができる。このような発熱素子の厚みは、通常は0.01〜0.5mm、好ましくは0.05〜0.3mmである。厚みが0.01mm未満の場合は強度が弱く、0.5mmを超えると可撓性、柔軟性が失われる虞が生じる。また、その他の発熱素子としては、グラフトカーボン、カーボン粉末、金属粉末、金属酸化物粉末から選ばれる少なくとも1種をシリコーン樹脂等の耐熱性樹脂に混練させた抵抗体を用いることができる。カーボン粉末をシリコーン樹脂に練り込ませた抵抗体は、1mm以上の厚みがあっても可撓性、柔軟性がある。
【0016】
尚、前記のガラス繊維基材またはセラミック繊維基材は、低温度で熱分解するバインダーを含まないようにするか、予め加熱処理してバインダーを熱分解しておくか、あるいはバインダーを使用しないようにすることが好ましい。低温度で熱分解するバインダーが含まれる場合、発熱素子が高温になるとバインダーが熱分解し、面状発熱体が劣化する不都合が生じる。ガラス繊維基材を使用する場合は、通常はガラスクロスとされる。また、ガラス繊維及びセラミック繊維を混合した基材を用いることもできる。さらに、強度及び耐熱性を向上させるために、炭素繊維等を含ませてもよいが、これらの含有量が大きくなると可撓性、柔軟性が失われる虞があるので、これらを含ませる場合は、基材全量に対して30wt%以下であることが好ましい。
【0017】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
(ヒータの製作)
エッチングにより縦20cm、横25cmの範囲内で形成した蛇行状の金属箔抵抗体(線幅3mm、厚さ0.05mm)を、縦24cm、横28cm、厚さ0.8mmの未加硫シリコーン樹脂を含浸させたガラスクロスシートで挟持した後、直径が約90mmの鉄製のパイプに巻き付け、180℃の炉に30分間投入し1次硬化させた後、更に200℃の炉に2時間投入して完全硬化させて、縦24cm、内周28cm、厚さ1.6mmで約2mm幅のスリットが入った円筒状ヒータを製作し、図5に示すようなヒータ(但し、スリット入)(シリコーン/金属箔抵抗体/シリコーン)を得た。
【0019】
(面状発熱体の製作)
次に、縦23.5cm、横32cm、厚さ0.5mmのアルミ薄板を横方向が円になるように曲げ加工により直径約10cmのスリット入円筒を製作し、その外側に厚さ3mmのウレタンスポンジを貼り合せて最外層の断熱構造体を得た。
前述のヒータの外周側に幅10mm、厚さ5mmのシリコーンスポンジ製のスペーサを貼り合せ、さらにその外周側に前記の断熱構造体を貼り合せて、図3に示すような構成の面状発熱体(ヒータと金属薄板の間隙における空隙割合:84.5%)を得た。
【0020】
(面状発熱体の検査)
以上のようにして得られた面状発熱体を、ステンレス製の円筒管(長さ40cm、直径9cm、厚さ3mm)の周囲に取付け、室温22℃の試験室において、100Vの交流電圧を通電し、円筒管の内側中央部の表面温度が150℃となるように温度調節しながら2時間通電して消費電力量を測定した。その結果、使用電力量は27.0W時で、断熱構造体の外側の温度は58℃であった。また、表面温度が200℃となるように温度調節しながら2時間通電して消費電力を測定した。その結果、使用電力両は42.5W時で、断熱構造体の外側の温度は70℃であった。
【0021】
[比較例1]
実施例1の面状発熱体の製作において、スペーサと金属薄板とウレタンスポンジからなる被覆物の替わりにシリコーンスポンジの被覆物(実施例1と同様の形状、大きさで、空隙はなし)を用いたほかは実施例1と同様にして面状発熱体を製作した。この面状発熱体について、実施例1と同様の条件で、面状発熱体の検査を行なった。その結果、円筒管の内側中央部の表面温度が150℃の時の使用電力量は31.5W時で、断熱構造体の外側の温度は76℃あった。また、表面温度が200℃の時の使用電力量は47.0W時で、断熱構造体の外側の温度は93℃であった。
【0022】
以上のように、前述の条件下において、本発明の実施例の面状発熱体は、比較例の面状発熱体に較べて、円筒管の内側中央部の表面温度が150℃の時の省エネ率は14.3%、200℃の時の省エネ率は9.6%となり、省エネ効果が得られ、高価な耐熱性樹脂等を多く用いることなく、150℃以上の高温の領域を含む広い温度領域で使用することが可能で、優れた可撓性、断熱性構造を有し、ヒータからの熱が外部に拡散し難く、エネルギー効率よく被加熱物を加熱できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の面状発熱体の一例を示す断面図
【図2】本発明の図1以外の面状発熱体の一例を示す断面図
【図3】本発明の図1、図2以外の面状発熱体の一例を示す断面図
【図4】本発明の図1〜図3以外の面状発熱体の一例を示す断面図
【図5】本発明におけるヒータの一例を示す斜視図
【図6】本発明におけるスペーサと金属薄板の組合せの一例を示す斜視図
【図7】本発明における図6以外のスペーサと金属薄板の組合せの一例を示す斜視図
【符号の説明】
【0024】
1 発熱素子
2 電気絶縁材
3 ヒータ
4 空隙
5 スペーサ
6 金属薄板
7 断熱材
8 電源コード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形、曲管形、または球形の形状を有する被加熱物を加熱するための面状発熱体であって、発熱素子の両面が電気絶縁材で被覆されたヒータ、及び該ヒータの外周側に空隙ができるようにスペーサを介して保持された金属薄板を備えてなることを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
さらにヒータの内周側に金属薄板が備えられた請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
さらに金属薄板の外周側に断熱材が備えられた請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項4】
スペーサの構成材料が、耐熱性樹脂、セラミック、または金属である請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項5】
スペーサの形状が、角柱状、円柱状、格子状、波形板状、またはこれらに類似する形状である請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項6】
ヒータと金属薄板の間隙が1〜20mmである請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項7】
ヒータと金属薄板の間隙において、空隙が占める割合が20〜99%である請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項8】
発熱素子が、金属箔抵抗体、金属線抵抗体、または、グラフトカーボン、カーボン粉末、金属粉末、金属酸化物粉末から選ばれる少なくとも1種をガラス繊維基材またはセラミック繊維基材に含ませた抵抗体である請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項9】
発熱素子が、グラフトカーボン、カーボン粉末、金属粉末、金属酸化物粉末から選ばれる少なくとも1種を耐熱性樹脂に混練させた抵抗体である請求項1に記載の面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−9835(P2009−9835A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170541(P2007−170541)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000229601)日本パイオニクス株式会社 (96)
【出願人】(390006677)菱有工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】