説明

面発光型半導体レーザーの製造方法

【課題】電流狭窄層を形成する工程において、電流狭窄層となる層の酸化反応が阻害されることを抑制できる面発光型半導体レーザーの製造方法を提供する。
【解決手段】面発光型半導体レーザー100の製造方法は、共振器の少なくとも一部を含む柱状部20を有する面発光型半導体レーザーの製造方法であって、SiClを含むガスを用いたエッチングにより、柱状部20を形成しつつ、柱状部20の側面21にシリコン含有膜を形成する工程と、フッ素系ガスを用いたエッチングにより、シリコン含有膜110を除去する工程と、柱状部20を構成する層のうち少なくとも1層を側面から酸化することにより、電流狭窄層28を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光型半導体レーザー(VCSEL)は、例えば、基板上に半導体多層膜を形成し、この半導体多層膜をパターニングして共振器となる柱状部を形成し、当該柱状部を構成する半導体多層膜のうち少なくとも1層を側面から酸化して、電流狭窄層を形成することにより形成される。
【0003】
ここで、上述した柱状部を形成する工程では、例えば特許文献1に開示されているように、エッチングガスとして、四塩化ケイ素(SiCl)とアルゴン(Ar)の混合ガスが用いられる。このようにSiClを含むガスを用いることで、ラテラルエッチングが抑制され、良好な柱状形状を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−198359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように、SiClを含むガスを用いて柱状部を形成した場合、柱状部の側面にシリコンを含有する膜が形成され、電流狭窄層となる半導体層の酸化反応を阻害する場合があった。そのため、例えば、電流狭窄層となる半導体層の面内において酸化速度に差異が生じて電流狭窄層の形状が非対称になるなど、電流狭窄層を所望の形状に形成することができない場合があった。
【0006】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、電流狭窄層を形成する工程において、電流狭窄層となる層の酸化反応が阻害されることを抑制できる面発光型半導体レーザーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る面発光型半導体レーザーの製造方法は、
共振器の少なくとも一部を含む柱状部を有する面発光型半導体レーザーの製造方法であって、
SiClを含むガスを用いたエッチングにより、前記柱状部を形成しつつ、前記柱状部の側面にシリコン含有膜を形成する工程と、
フッ素系ガスを用いたエッチングにより、前記シリコン含有膜を除去する工程と、
前記柱状部を構成する層のうち少なくとも1層を側面から酸化することにより、電流狭窄層を形成する工程と、
を含む。
【0008】
このような面発光型半導体レーザーの製造方法によれば、フッ素系ガスを用いたエッチングを行うことにより、柱状部の側面に形成されたシリコン含有膜を除去することができる。したがって、電流狭窄層を形成する工程において、柱状部の側面に形成されたシリコン含有膜によって電流狭窄層となる層の酸化反応が阻害されることを抑制することができる。
【0009】
本発明に係る面発光型半導体レーザーの製造方法において、
前記フッ素系ガスは、CF、CHF、Cのいずれかを含むガスであってもよい。
【0010】
このような面発光型半導体レーザーの製造方法によれば、電流狭窄層を形成する工程において、柱状部の側面に形成されたシリコン含有膜によって電流狭窄層となる層の酸化反応が阻害されることを抑制することができる。
【0011】
本発明に係る面発光型半導体レーザーの製造方法において、
前記シリコン含有膜を除去する工程では、前記フッ素系ガスにOガスを混合して用いてもよい。
【0012】
このような面発光型半導体レーザーの製造方法によれば、シリコン含有膜を除去する工程において、シリコン含有膜の除去およびレジスト等のアッシングの両方を行うことができる。
【0013】
本発明に係る面発光型半導体レーザーの製造方法において、
前記柱状部および前記シリコン含有膜を形成する工程では、SiClとArを混合したガスを用いてもよい。
【0014】
このような面発光型半導体レーザーの製造方法によれば、電流狭窄層を形成する工程において、柱状部の側面に形成されたシリコン含有膜によって電流狭窄層となる層の酸化反応が阻害されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーを模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
1. 面発光型半導体レーザー
まず、本実施形態に係る面発光型半導体レーザーについて、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る面発光型半導体レーザー100を模式的に示す断面図である。
【0018】
面発光型半導体レーザー100は、図1に示すように、基板10と、下部ミラー22と、活性層24と、上部ミラー26と、電流狭窄層28と、第1電極30と、第2電極32と、絶縁層40と、を含んで構成されている。
【0019】
基板10としては、例えば、第1導電型(例えばn型)GaAs基板などを用いることができる。
【0020】
基板10上には、第1導電型(例えばn型)の下部ミラー22が形成されている。下部ミラー22は、例えば、低屈折率層(図示せず)と高屈折率層(図示せず)とを交互に積層した分布ブラッグ反射型(DBR)ミラーである。低屈折率層は、例えば、n型Al0.9Ga0.1As層からなることができる。高屈折率層は、例えば、n型Al0.15Ga0.85As層からなることができる。低屈折率層と高屈折率層の積層数(ペア数)は、特に限定されないが、例えば、30〜40ペアとすることができる。
【0021】
下部ミラー22上には、活性層24が形成されている。活性層24は、例えば、GaAsウェル層とAl0.3Ga0.7Asバリア層とから構成される量子井戸構造を3層重ねた多重量子井戸(MQW)構造を有する。
【0022】
活性層24上には、第2導電型(例えばp型)の上部ミラー26が形成されている。上部ミラー26は、例えば、低屈折率層(図示せず)と高屈折率層(図示せず)とを交互に積層したDBRミラーであることができる。低屈折率層は、例えば、p型Al0.9Ga0.1As層からなることができる。高屈折率層は、例えば、p型Al0.15Ga0.85As層からなることができる。低屈折率層と高屈折率層の積層数(ペア数)は、特に限定されないが、例えば、30〜40ペアとすることができる。なお、上部ミラー26を構成する半導体多層膜の最上層は、第2電極32とオーミックコンタクトする層(コンタクト層)であってもよい。
【0023】
なお、下部ミラー22、活性層24、および上部ミラー26を構成する各層の組成および層数は特に限定されるわけではなく、必要に応じて適宜調整されることができる。
【0024】
下部ミラー22、活性層24、および上部ミラー26は、垂直共振器を構成することができる。p型の上部ミラー26、不純物がドーピングされていない活性層24、およびn型の下部ミラー22により、pinダイオードが構成される。上部ミラー26、活性層24、および下部ミラー22の一部は、柱状の半導体堆積体(以下「柱状部」という)20を構成することができる。すなわち、共振器の一部は、柱状部20に含まれている。なお、図示はしないが、共振器の全部が、柱状部20に含まれていてもよい。柱状部20の平面形状は、例えば円形などである。
【0025】
また、図1に示すように、例えば、上部ミラー26を構成する層のうちの少なくとも1層を電流狭窄層28とすることができる。電流狭窄層28は、活性層24に近い領域に形成されている。電流狭窄層28としては、例えば、AlGaAs層を酸化したものを用いることができる。電流狭窄層28は、開口部を有する絶縁層である。電流狭窄層28は、例えばリング状に形成されている。また、電流狭窄層28の開口部の平面形状は、例えば、円形である。
【0026】
下部ミラー22上には、第1電極30が形成されている。第1電極30は、下部ミラー22と電気的に接続されている。なお、図示はしないが、第1電極30は、基板10の裏面(下部ミラー22が形成された面と反対側の面)に形成されていてもよい。
【0027】
上部ミラー26および絶縁層40の上には、第2電極32が形成されている。第2電極32は、上部ミラー26と電気的に接続されている。第2電極32は、柱状部20上に開口部を有する。該開口部によって、上部ミラー26の上面に第2電極32の設けられていない領域が形成される。この領域が、レーザー光の出射面となる。出射面の平面形状は、例えば、円形である。第1電極30と第2電極32とによって活性層24に電流が注入される。第1電極30および第2電極32は、面発光型半導体レーザー100を駆動させるために使用される。
【0028】
絶縁層40は、下部ミラー22上に形成されている。絶縁層40は、柱状部20を取り囲むように形成されている。絶縁層40は、第2電極32と下部ミラー22とを電気的に分離させることができる。
【0029】
面発光型半導体レーザー100は、例えば、CPT(Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器の光源や、照明装置等として用いられる。
【0030】
2. 面発光型半導体レーザーの製造方法
次に、本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2〜図7は、本実施形態に係る面発光型半導体レーザーの製造工程を模式的に示す断面図である。
【0031】
図2に示すように、基板10として、例えば、n型GaAs基板を用意する。次に、基板10上に、例えば、組成を変調させながらエピタキシャル成長させることにより、半導体多層膜101を形成する。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。半導体多層膜101は、下部ミラー22、活性層24、上部ミラー26を構成する半導体層を順に積層したものである。なお、上部ミラー26となる半導体多層膜を成長させる際に、活性層24近傍の少なくとも1層を、後に酸化されて電流狭窄層28となる半導体層28aとすることができる。電流狭窄層28となる半導体層28aとしては、例えば、Al組成が0.95以上のAlGaAs層などを用いることができる。
【0032】
図3に示すように、半導体多層膜101上にレジストRを形成する。レジストRは、レジストを成膜した後、露光処理および現像処理を行うことによって形成される。
【0033】
図4に示すように、レジストRをマスクとして、半導体多層膜101を異方性エッチングし、所望の形状の下部ミラー22、活性層24、上部ミラー26を形成する。これにより、柱状部20が形成される。半導体多層膜101のエッチングは、SiClを含むガスを用いて行われる。より具体的には、半導体多層膜101のエッチングは、SiClとArの混合ガスを用いて行われる。
【0034】
SiClを含むガスを用いて半導体多層膜101をエッチングすると、図4に示すように、柱状部20が形成され、この柱状部20の側面21にはシリコン含有膜110が形成される。すなわち、本工程では、SiClを含むガスを用いて半導体多層膜101をエッチングすることにより、柱状部20を形成しつつ、柱状部20の側面21にシリコン含有膜110を形成している。ここで、シリコン含有膜110とは、その材質として、シリコンを含む膜である。シリコン含有膜110は、例えば、酸化シリコン等のシリコン化合物からなる膜であってもよい。シリコン含有膜110が柱状部20の側面21に形成されることにより、ラテラルエッチングが抑制され、良好な柱状形状が得られる。
【0035】
図5に示すように、フッ素系ガスを用いたエッチングにより、シリコン含有膜110を除去する。フッ素系ガスとしては、例えば、CF、CHF、Cのいずれかを含むガスを用いることができる。さらに、フッ素系ガスにOガスを混合してエッチングを行うことにより、レジストRを除去することができる。すなわち、本工程において、フッ素系ガスとOガスの混合ガスを用いることにより、シリコン含有膜110の除去およびレジストRの除去(アッシング)の両方を行うことができる。
【0036】
図6に示すように、電流狭窄層28となる半導体層28aを側面から酸化することにより、電流狭窄層28を形成する。例えば、400℃程度の水蒸気雰囲気中に、上記工程によって柱状部20が形成された基板10を投入することにより、半導体層28aを側面から酸化して、電流狭窄層28を形成する。半導体層28aの側面は、柱状部20の側面21を構成している。ここで、柱状部20を形成する工程で柱状部20の側面21(半導体層28aの側面)に形成されたシリコン含有膜110は、上述のように、フッ素系ガスを用いたエッチングにより除去されている。そのため、シリコン含有膜110によって電流狭窄層28となる半導体層28aの酸化反応が阻害されることを抑制することができる。したがって、例えば、半導体層28aの面内において酸化速度を均一化することができ、電流狭窄層28を所望の形状に形成することができる。
【0037】
図7に示すように、下部ミラー22上に柱状部20を取り囲むように、絶縁層40を形成する。絶縁層40は、スピンコート法等を用いて下部ミラー22の上面および柱状部20の全面にポリイミド樹脂等からなる層を形成し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術等を用いてこの層をパターニングすることにより形成される。このようにして、所望の形状の絶縁層40を形成することができる。
【0038】
図1に示すように、第1電極30および第2電極32を形成する。電極30,32は、真空蒸着法およびリフトオフ法の組み合わせ等により、所望の形状に形成されることができる。なお、各電極30,32を形成する順番は特に限定されない。
【0039】
以上の工程により、面発光型半導体レーザー100を製造することができる。
【0040】
本実施形態に係る面発光型半導体レーザー100の製造方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0041】
面発光型半導体レーザー100の製造方法によれば、上述のように、フッ素系ガスを用いたエッチングにより、シリコン含有膜110を除去する工程を含む。これにより、SiClを含むガスを用いたエッチングによって柱状部20の側面21に形成されたシリコン含有膜110を除去することができる。そのため、電流狭窄層28を形成する工程において、シリコン含有膜110によって電流狭窄層28となる半導体層28aの酸化反応が阻害されることを抑制することができる。したがって、例えば、半導体層28aの面内において酸化速度を均一化することができ、電流狭窄層28を所望の形状に形成することができる。これにより、装置の特性や信頼性を高めることができる。
【0042】
面発光型半導体レーザー100の製造方法によれば、シリコン含有膜110を除去する工程において、フッ素系ガスにOガスを混合して用いることにより、シリコン含有膜110の除去およびレジストRの除去(アッシング)の両方を行うことができる。したがって、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0043】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0044】
10 基板、20 柱状部、21 側面、22 下部ミラー、24 活性層、26 上部ミラー、28 電流狭窄層、28a 半導体層、30 第1電極、32 第2電極、40 絶縁層、100 面発光型半導体レーザー、101 半導体多層膜、110 シリコン含有膜、R レジスト、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器の少なくとも一部を含む柱状部を有する面発光型半導体レーザーの製造方法であって、
SiClを含むガスを用いたエッチングにより、前記柱状部を形成しつつ、前記柱状部の側面にシリコン含有膜を形成する工程と、
フッ素系ガスを用いたエッチングにより、前記シリコン含有膜を除去する工程と、
前記柱状部を構成する層のうち少なくとも1層を側面から酸化することにより、電流狭窄層を形成する工程と、
を含む、ことを特徴とする面発光型半導体レーザーの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素系ガスは、CF、CHF、Cのいずれかを含むガスである、ことを特徴とする請求項1に記載の面発光型半導体レーザーの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン含有膜を除去する工程では、前記フッ素系ガスにOガスを混合して用いる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザーの製造方法。
【請求項4】
前記柱状部および前記シリコン含有膜を形成する工程では、SiClとArを混合したガスを用いる、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の面発光型半導体レーザーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93439(P2013−93439A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234711(P2011−234711)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】