説明

鞍乗型車両のエアバッグ装置

【課題】本発明は、ガスの発生量をきめ細かく設定することができるようにした鞍乗型車両のエアバッグ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】鞍乗型車両のエアバッグ装置は、保持箱121と、この保持箱121に収納されエアバッグ150を膨張させるガスを発生する左右のインフレータ111、112と、保持箱121に収納され左右のインフレータ111、112によって膨張展開するエアバッグ150と、を備えている。左右のインフレータ111、112は、各々ガスの発生量が異なっており、左右のインフレータ111、112のうちの、ガスの発生量が小さい方の右のインフレータ112を先に点火するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のエアバッグ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員シートの前方に設けられ、車両が所定の衝撃を受けたときに膨張展開するようにした鞍乗型車両のエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1の図4において、保持箱16に、エアバッグを膨張させるガスを発生するインフレータ22、22(符号は、同公報のものを流用する。以下同じ。)が並んで配置されている。2つのインフレータ22、22は、同一の大きさであり、同一量のガスを発生する。エアバッグ装置に、2つのインフレータが備えられているので、エアバッグの展開に必要な量のガスを容易に確保することができる。
【0004】
ところで、生産性や品揃えを考えると、インフレータは、標準モデルのガス発生量を100%とするとき、例えば、小型モデルとしてガス発生量が80%のモデル、大型モデルとして120%のモデルのように、ステップ的にインフレータが製造される。小型モデルから大型モデルまで、一群の製品としてラインナップされている。
【0005】
ガス発生量を増加する要求が出されると、2個の標準モデルを2個の大型モデルに変更することとなる。これで、ガス発生量は1.2倍に増加する。すなわち、2つのインフレータを同時に交換するため、ガスの発生量が大きく変動する。
ガス発生量を、0.9倍や1.1倍にする要求があったときには、90%のモデルや110%のモデルを新規に製造する必要があり、コストが嵩む。既存のモデルできめ細かな設定が可能であれば、好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−338658公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ガスの発生量をきめ細かく設定することができるようにした鞍乗型車両のエアバッグ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、乗員の前方に設けられている保持箱と、この保持箱に収納されエアバッグを膨張させるガスを発生する複数のインフレータと、保持箱に収納されインフレータによって膨張し乗員の前方で展開するエアバッグと、を備えた鞍乗型車両のエアバッグ装置において、複数のインフレータは、ガスの発生量が異なっていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、乗員の前方に設けられている保持箱と、この保持箱に収納されエアバッグを膨張させるためのガスを発生する複数のインフレータと、このインフレータに結合され膨張時に乗員の前方で展開し乗員を拘束可能にするエアバッグと、を備えた鞍乗型車両のエアバッグ装置において、このエアバッグ装置に、複数のインフレータの点火の時期が互いに異なるように制御する遅延手段が備えられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、複数のインフレータは、一方および他方のインフレータの2つとし、遅延手段は、一方および他方のインフレータの点火時期の差は、10ミリ秒超となるように制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、複数のインフレータは、一方および他方のインフレータの2つであり、これらの一方および他方のインフレータのうちの、ガスの発生量が小さい方のインフレータを先に点火するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、保持箱に収納されている複数のインフレータは、各々、ガスの発生量が異なっている。例えば、ガスの発生量を1.1倍にするときは、100%モデルと、120%モデルとを組み合わせればよく、ガスの発生量を0.9倍にするときは、100%モデルと、80%モデルとを組み合わせればよい。このように互いに、ガスの発生量が異なっている大小のインフレータを組み合わせることにより、ガスの発生量をきめ細かく設定することができる。ガスの発生量がきめ細かく設定可能になるので、車種や乗員とエアバッグ装置との間の距離などに応じて、大きさの異なるインフレータを組み合わせることで、好ましい量のガスを発生させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、エアバッグ制御装置に、複数のインフレータの点火時期を同時とせずに、異なる点火時期になるように制御する遅延手段が備えられている。
点火の時期が異なるインフレータを組み合わせて使用することで、求められる特性が異なる様々なタイプの鞍乗型車両に合わせてエアバッグの展開の特性を設定することが可能になる。
【0014】
請求項3に係る発明では、遅延手段によって、一方および他方のインフレータの点火時期の差は、10ミリ秒超となるようにずらして点火させるようにした。インフレータの点火時期の差が10ミリ秒超であれば、エアバッグの膨張展開を緩やかにすることができる。加えて、エアバッグの展開時間を長くすることが可能になる。
【0015】
請求項4に係る発明では、ガスの発生量が小さい方のインフレータを先に点火するようにしたので、エアバッグが膨張展開するときに、最初に乗員と接触する部分での衝撃を和らげることができる。
点火の順番を入れ替えることに加え、点火の時期をインフレータによって異ならせることによって、より多様な膨張展開特性が得られることになる。したがって、様々な要求に合わせた膨張展開特性をもつエアバッグ装置を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】リッドおよびエアバッグが取り外されている状態でのエアバッグモジュールの平面図である。
【図3】本発明に係るエアバッグモジュールの底面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係るエアバッグモジュールの斜視図である。
【図7】本発明に係るエアバッグモジュールに備えられているリッド規制手段の作用説明図である。
【図8】本発明に係るエアバッグ装置を備えている自動二輪車の作用説明図である。
【図9】本発明に係るエアバッグ装置のブロック図である。
【図10】本発明に係る鞍乗型車両のエアバッグ装置に備えられているインフレータの点火フローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図中および実施例において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、各々、自動二輪車に乗車する運転者から見た方向を示す。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1において、鞍乗型車両としての自動二輪車10は、ヘッドパイプ11と、このヘッドパイプ11から後方に延びている車体フレーム12と、を備えている。
車体フレーム12は、車体14の前部を構成するヘッドパイプ11と、このヘッドパイプ11から後方に延設するメインフレーム15と、このメインフレーム15の後端部に取り付けられピボット軸16を有するピボットプレート17と、このピボットプレート17の上部から斜め後上方に立ち上がり、次いで、後方に延びているシートレール18と、このシートレール18の後端部と前記ピボットプレート17の中間部との間を連結しシートレール18を支持するミドルフレーム19と、を主要な構成要素とする。つまり、車体フレーム12の後部にシートレール18を含んでいる。ピボットプレート17の下部に、運転者の足が載置される乗員ステップ20が取り付けられている。
【0019】
ミドルフレーム19の上端部からサブレール21が後方へ延ばされている。これらのサブレール21の後部とミドルフレーム19の間はシートステー22で連結される。さらに、シートステー22の後部から斜め後下方に、次いで、前方水平に補助ステー23が延びている。
サブレール21に、物を収納するトランク27が取り付けられ、このトランク27の前壁27aに、乗員の背中を保持する背もたれ28が取り付けられている。
【0020】
なお、メインフレーム15、ピボットプレート17、シートレール18、ミドルフレーム19、乗員ステップ20、サブレール21、シートステー22、補助ステー23は、各々、車幅中心に対して対称に左右一対に設けられている。
【0021】
メインフレーム15の下方に、締結部材31a〜31cによりエンジン32が懸架されている。このエンジン32は、例えば、水平対向型6気筒の水冷エンジンである。
ピボットプレート17に、ピボット軸16を中心に上下にスイング可能なリヤスイングアーム34が取り付けられ、このリヤスイングアーム34の後端部に、後軸35が設けられ、この後軸35に後輪36が回動可能に取り付けられている。後輪36は、エンジン32のドライブ軸37に取り付けたドライブスプロケット38と後輪36に一体化したドリブンスプロケット41との間に巻き掛けたチェーン42により駆動される。
【0022】
リヤスイングアーム34にリンク機構47が設けられ、このリンク機構47にリヤクッションユニット48の下端部が取り付けられ、メインフレーム15側に形成したブラケット49に、リヤクッションユニット48の上端部が取り付けられている。
【0023】
ヘッドパイプ11に、転舵自在にフロントフォーク52が取り付けられ、このフロントフォーク52に前輪車軸53が設けられ、この前輪車軸53に、前輪54が回転自在に取り付けられ、フロントフォーク52の上端部に、操向ハンドル55が取り付けられている。ヘッドパイプ11は、操向ハンドル55を回動可能に支持する部材である。
【0024】
メインフレーム15の前部側方に、メインカウル56が設けられ、このメインカウル56の側部に、開口部57が形成され、この開口部57に面するようにエンジン32を冷却するラジエータユニット58が配置されている。
【0025】
前輪54の上方に、フロントフェンダ66が設けられ、前輪54と一体化させたフロントデイスクプレート62が取り付けられ、このフロントデイスクプレート62を挟持するように設けられ制動をかけるフロントデイスクブレーキユニット61がフロントフォーク52に設けられている。
【0026】
ヘッドパイプ11の前方に、車両の前方を覆うフロントカウル63が配置され、このフロントカウル63の上部に、フロントシールド64が延設されている。ピボットプレート17の下端部に、メインスタンドブラケット68が設けられ、このメインスタンドブラケット68に、メインスタンド69が取り付けられている。乗員シート71の下方にバッテリ67が配置されている。フロントシールド64の後方に、メータ70が配置されている。
【0027】
シートレール18に、乗員が着座する乗員シート71が設けられている。乗員シート71は、前部シート72と、この前部シート72の後方に連なって設けた後部シート73とを一体化したものである。
【0028】
エアバッグモジュール82は、エアバッグ装置86を構成する要素の1つである。
エアバッグ装置86は、エアバッグモジュール82と、このエアバッグモジュール82に収納されているエアバッグ(図4、符号150)の展開を制御するエアバッグ制御ユニット87と、を主要な構成要素とする。
【0029】
エアバッグモジュール82は、乗員シート71の直前に配置されている。このエアバッグモジュール82に、ケース体としての保持箱121が備えられている。すなわち、保持箱121は、乗員が着座する乗員シート71の直前に設けられている。
【0030】
フロントフォーク52の上部および下部に、車体14にかかる衝撃を検出する第1センサ77および第2センサ78が配置され、これらの上下のセンサ部77、78から、第1ケーブル79が延びており、この第1ケーブル79は、エンジン32の上方を通過してエアバッグ制御ユニット87に連結されている。メータ70に、エアバッグ装置86の正常または異常を表示するインジケータ80が設けられ、このインジケータ80から第2ケーブル85が延びており、この第2ケーブル85は、エアバッグ制御ユニット87に連結されている。また、バッテリ67から第3ケーブル88が延びており、この第3ケーブル88は、乗員シート71の下方を通過してエアバッグ制御ユニット87に連結されている。
なお、第1センサ77、第2センサ78、第1ケーブル79は、各々、フロントフォーク52に備えられている左右のフォーク部に一対配置されている。
【0031】
以下、インフレータおよびエアバッグが収納されているエアバッグモジュールの詳細な構造について説明する。
先ず、リッドおよびエアバッグが取り外されたエアバッグモジュールを上から見た形態について説明する。
【0032】
図2において、インフレータは、車両幅方向中心の左側に配置される一方のインフレータとしての左のインフレータ111と、車両幅方向中心の右側に配置される他方のインフレータとしての右のインフレータ112と、からなる。の左右2つのインフレータ111、112は、互いにガスの発生量が異なる。左のインフレータ111の大きさは、右のインフレータ112より大きい。したがって、左のインフレータ111のガスの発生量は、右のインフレータ112のガスの発生量よりも大きい。左のインフレータ111は、外壁113に外側へ張り出す取付用のフランジ部115を備えている。同様に、右のインフレータ112は、外壁114に外側へ張り出す取付用のフランジ部116を備えている。
【0033】
保持箱121は、底板122と、この底板122から立ち上げた左右の壁123、124および前後の壁125、126と、を備え、底板122に各々のインフレータの下部を通すことができる大きさの左右の孔127、128が設けられている。これらの左右の孔127、128に嵌るように左右のインフレータ111、112を載置し、左右のインフレータに各々形成したフランジ部115、116を上方からバッグリング131で押さえるようにした。
【0034】
次に、下から見たエアバッグモジュールの形態を説明する。
図3において、底板122に設けた左の孔127に、左のインフレータの下部133が嵌り、底板122に設けた右の孔128に、右のインフレータの下部134が嵌っている。
【0035】
8本のねじ135に各々ナット136を締付ける。これで、底板122とバッグリング(図2、符号131)とでフランジ部(図2、符号115、116)が挟まれ、固定される。このようにして、左右のインフレータ111、112が保持箱121に取り付けられている。
【0036】
図4において、リッド141は、保持箱121の上方に開口した開口部142を塞ぐ部材であり、この開口部142を覆うカバー部143と、このカバー部143の左端部の近傍から下方に延設され保持箱121の左の壁123に取り付けられる左縦壁145と、このカバー部143の右端部の近傍から下方に延設され保持箱121の右の壁124に取り付けられる右縦壁146と、を備えている。
【0037】
左縦壁の高さ方向中間部に、エアバッグ150が展開したときに破断する左脆弱部147が形成され、右縦壁の高さ方向中間部に、エアバッグ150が展開したときに破断する右脆弱部148が形成されている。エアバッグ150が展開したときに、左右の脆弱部147、148を境にリッド141の上面部が保持箱121から破断し分断される。
【0038】
左縦壁145の外側に、エアバッグ150が展開したときにリッド141の開放角度を規制する左リンク機構151が配置されている。同様に、右縦壁146の外側に、エアバッグ150が展開したときにリッド141の開放角度を規制する右リンク機構152が配置されている。
【0039】
図5において、リッド141に、保持箱121の開口部142を覆うカバー部143と、このカバー部の前端部153から下方に延設し保持箱121の前の壁125に取り付けられる前縦壁155と、このカバー部の後端部154から下方に延設し保持箱121の後の壁126に取り付けられる後縦壁156と、が備えられている。
【0040】
前縦壁155の高さ方向中間部に、エアバッグ150が展開しリッド141が開放されたときに破断する前脆弱部157が形成され、後縦壁156の高さ方向中間部に、エアバッグ150が展開しリッド141が開放されたときにリッド141の回動支点となるヒンジ部158が形成されている。すなわち、このヒンジ部158は、リッド141の車両後方の側に設けられている。
【0041】
リッドのカバー部143に、図表裏方向に、リッドステー161が延びている。このリッドステー161は、リッドのカバー部143に、インサート成形されている。ここで、リッドステー161の材質は金属とし、リッド141の材質は樹脂とした。つまり、樹脂製のリッド141に金属製のリッドステー161がインサート成形されている。保持箱121の側部に複数のりべット162を介してリッド141が固着されている。
【0042】
図6において、左リンク機構151は、保持箱121の左の壁123に取り付けた第1支点165と、この第1支点165から後方に延びている第1リンク166と、この第1リンク166の前端部に設けた第2支点167と、この第2支点167から斜め前上方に延びている第2リンク168と、この第2リンク168の先端部に設けられリッドステー161に取り付けた第3支点169と、からなる。なお、右リンク機構は、前述した左リンク機構151と同様な構成であり説明を省略する。
【0043】
リッドステー161は、横腕173とこの横腕173の左端部から下方に延びている左の縦腕171と、この横腕173の右端部から下方に延びている右の縦腕172と、からなる。そして、左右の縦腕171、172に、各々、第3支点169、169が取り付けられ、これらの第3支点169、169に、揺動自在に、第2リンクの先端部174、174が取り付けられている。
【0044】
エアバッグモジュール82は、保持箱121と、この保持箱121に収納され膨張時に乗員の前方で展開するエアバッグ(図4、符号150)と、保持箱の開口部(図4、符号142)を閉じるリッド141と、このリッド141の車両後方の側に設けられエアバッグ150が展開するときにリッド141の回動支点となるヒンジ部(図5、符号158)と、リッド141と保持箱121の間に、リッド141の開放角度を規制するリッド規制手段としてのリンク機構151、152と、を備えている。
【0045】
リッド141に、リッドステー161が一体に設けられ、これらのリッドステー161に備えられている左右の腕171、172に、各々、リンク機構151、152が取り付けられている。リッドステ−161は、横腕173と、左右の縦腕171、172と、からなる。すなわち、リッド141に、リンク機構151、152を取り付けるリッドステー161が左右一体的に備えられている。リッド141に左右のリッドステー(左右の縦腕171、172)が一体に設けられているので、リッド141が開放されたときに、リンク機構151、152から受ける衝撃をリッド141に均等に受け止めることができる。
【0046】
以上に述べた鞍乗型車両のエアバッグ装置の作用を次に述べる。
図7(a)において、保持箱121がリッド141により覆われている。リッド規制手段としてのリンク機構151は、リッド141と保持箱121の間に備えられている。なお、反対側に設けられているリンク機構は、リンク機構151と同様に作用するものであり、説明を省略する。
【0047】
図7(b)において、エアバッグ150の展開に伴い、リッド141が開放され、リンク機構151を構成する第1リンク166と、第2リンク168とが一直線状に伸びている状態を示す。
【0048】
仮に、保持箱121とリッド141の間に、リッド規制手段としてのリンク機構151を設けておらず、リッド141の開放角度を規制しないときには、エアバッグ150に、上方への規制はかかり難い。
【0049】
この点、本発明では、リッド規制手段としてのリンク機構151、152を備えている。リッド141の開放角度をθ1に規制することで、エアバッグ150が膨張する時に、エアバッグ150が上方へ展開することを規制し、乗員の前方に展開させることができる。エアバッグ150の上方への展開を規制しつつ前方に展開させることで、好ましい位置にエアバッグ150が展開する。
【0050】
図中、θ1とは、ヒンジ部158を軸としたとき、底板122に対するリッド141の開放角度であり、本実施例において、θ1は70°に設定されている。このθ1はエアバッグモジュール82におけるリッド141の開放角度でもある。なお、θ1の値は70°に限定されることなく変更可能な値である。
【0051】
リッド規制手段としてリンク機構151を設けたので、リッド141が開放されるとき、リンク166は直線的に延びる。リンク166が直線的に延び、直線的に延びたリンク166によってエアバッグ150がガイドされ、リンク166の外側にエアバッグ150が拡がり難くなるため、エアバッグ150の展開する方向を必要な領域に向けることができる。
【0052】
さらに、力のかかり易いリッドステー161を金属製とし、保持箱121の上方を覆うリッド141を樹脂製とすることで、エアバッグモジュール82に必要とされる強度を確保しつつ装置の軽量化を図ることができる。さらに、リッド141が樹脂製であれば、リッド141と保持箱121の境界部に形成する脆弱部(図4、符号147、符号148、図5、符号157)を容易に設けることが可能になる。
【0053】
図8において、エアバッグモジュール82が鞍乗型車両である自動二輪車10に搭載された状態で、路面Gに対して、リッド141の展開角度は、θ2(=90°)を超えないように設定されている。θ2は車両におけるリッド141の開放角度であって、θ1の値とθ2の値とによって、乗員Dが乗車したときにおけるエアバッグ150の規制方向などを決める。
【0054】
仮に、リッドの展開角度であるθ2の値が90°以上であれば、エアバッグは、保持箱の後方にも展開することになる。
この点、本発明では、リッド141の展開角度は、路面に対し90°を超えないように設定されているので、エアバッグ150を保持箱の前方から上方にかけて展開させることができる。かかる角度設定であれば、特に、乗員の前方移動を伴う場合において、エアバッグ150を前方かつ上方へ向け展開させることができる。
【0055】
図4に戻って、エアバッグ制御ユニット87は、車両側面視で、ヘッドパイプ11とエアバッグモジュール82の間に配置されている。そして、エアバッグ制御ユニット87に、左右2つのインフレータ111、112の点火の時期が互いに異なるように制御する遅延手段(図9、符号189)が備えられている。
【0056】
左右のインフレータ111、112は、各々ガスの発生量が異なっている。
従来、生産性や品揃えを考えると、インフレータは、標準モデルのガス発生量を100%とするとき、例えば、小型モデルとしてガス発生量が80%のモデル、大型モデルとして120%のモデルのように、ステップ的にインフレータが製造される。小型モデルから大型モデルまで、一群の製品としてラインナップされている。
【0057】
ガス発生量を増加する要求が出されると、2個の標準モデルを2個の大型モデルに変更することとなる。これで、ガス発生量は1.2倍に増加する。すなわち、2つのインフレータを同時に交換するため、ガスの発生量が大きく変動する。
ガス発生量を、0.9倍や1.1倍にする要求があったときには、90%のモデルや110%のモデルを新規に製造する必要があり、コストが嵩む。既存のモデルできめ細かな設定が可能であれば、好ましい。
【0058】
この点、本発明では、ガスの発生量が異なる左右のインフレータ111、112を組み合わせて使用したので、ガスの発生量をきめ細かく設定することができる。ガスの発生量がきめ細かく設定可能になるので、車種や乗員とエアバッグ装置との間の距離などに応じて、大きさの異なるインフレータを組み合わせることで、好ましい量のガスを発生させることができる。つまり、求められる特性が異なる様々なタイプの鞍乗型車両に合わせて出力を設定することが可能になる。
【0059】
なお、本実施例において、左のインフレータ111は、右のインフレータ112の約2倍の容量(ガス発生量)を有するものとした。このように、製品ラインナップのうち、大小異なるガス発生量をもつ、2つのインフレータを組み合わせることで、様々なニーズに対応することが可能となる。
【0060】
また、従来、四輪車両用のエアバッグに較べて、大きな容量をもつ鞍乗型車両用エアバッグを膨張展開させるためには、点火の出力が大きいインフレータを使用する必要がある。この場合に、大出力のインフレータでは、大きなスペースが必要であった。
【0061】
この点、本発明では、エアバッグ装置86に、各々ガスの発生量が異なっている左右のインフレータ111、112を設けることで、必要とする点火出力を確保しつつインフレータ111、112をコンパクトに配置することが可能になる。
【0062】
次に、エアバッグ装置の主要構成について説明する。
図9において、エアバッグ装置86に、フロントフォーク52の上部に設けた第1センサ77と、フロントフォーク52の下部に設けた第2センサ78と、車体フレーム12に設け遅延手段189を有するエアバッグ制御ユニット87と、エアバッグ150を展開させるインフレータ111、112を取り付けたエアバッグモジュール82と、が備えられている。
【0063】
以下、図9に基づいて、本発明に係るエアバッグ装置の作用を説明する。
図10に示されているフローチャートにおいて、ST01(STXXは、ステップ番号を示す。以下同じ。)で、第1センサ77と第2センサ78とによって車両が受けた衝撃を検出し、車両が受けた衝撃を車体フレーム(図1、符号12)に設けたエアバッグ制御ユニット87によって演算し(ST02)、あわせて、車両が受けた衝撃は、エアバッグ150が展開すべき条件を満たす衝撃か否かについて判断する(ST03)。
所定の条件を満たす衝撃であれば、ST04に進み、所定の条件を満たさない場合は、車両の受けた衝撃が、エアバッグ150が展開すべき条件を満たす衝撃か否かについての判断を継続する。
【0064】
次に、ガスの発生量が小さい方の右のインフレータ112(1stインフレータ112)へ作動指示を行い(ST04)、T1秒経過するまで待機する(ST05)。本実施例では、T1=10m秒に設定されている。
1stインフレータ112へ作動指示をした後、T1秒後に、左のインフレータ111(2ndインフレータ111)へ作動指示を行い(ST06)、一連の動きが完了する。
【0065】
遅延手段189によって、左右のインフレータ111、112の点火時期の差(T1)は、10ミリ秒または10ミリ秒超となるようにずらして点火させるようにしたので、エアバッグ150の膨張展開を緩やかに行わせることができる。加えて、エアバッグ150の展開時間を長くすることが可能になる。
なお、T1の値は、車種や、エアバッグモジュールの位置、その他の要素によって、任意の値に設定が可能である。
【0066】
エアバッグ制御装置86に、左右のインフレータ111、112の点火時期を同時とせずに、異なる点火時期になるように制御する遅延手段189を有する。
かかる遅延手段189を有するエアバッグ制御装置86と、保持箱121に収納され点火の時期が異なるように設定される左右2つのインフレータ111、112を組み合わせて使用することで、求められる特性が異なる様々なタイプの鞍乗型車両に合わせてエアバッグ150の展開の特性を設定することが可能になる。
なお、本実施例において、インフレータの数は左右2つ設けられているが、例えば、3つ、4つなどでも良く、複数のインフレータであれば、その数は任意に設定可能である。
【0067】
前述のように、本発明では、左右のインフレータ111、112のうちの、ガスの発生量が小さい方の右のインフレータ112を先に点火するようにした。
ガスの発生量が小さい方の右のインフレータ112を先に点火するようにしたので、エアバッグ150が膨張展開するときに、最初に乗員と接触する部分での衝撃を和らげることができる。
左右のインフレータ111、112の大きさを様々な大きさのインフレータを組み合わせることに加えて、左右のインフレータ111、112で、点火時期を異ならせることによって、エアバッグ150により多様な膨張展開特性が得られることになる。したがって、様々な要求に合わせた膨張展開特性をもつエアバッグ装置86を得ることが可能になる。
例えば、エアバッグと乗員とが離間して配置されているような車両などにおいては、左右のインフレータ111、112のうちの、ガスの発生量が大きい方の左のインフレータ111を先に点火すると、展開初期にエアバッグの展開速度を高め、エアバッグを素早く展開させることができる。
【0068】
尚、本発明は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、三輪車にも適用可能であり、一般の鞍乗型車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、エアバッグ装置が搭載されている自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0070】
10…鞍乗り型車両(自動二輪車)、86…鞍乗型車両のエアバッグ装置、111…一方のインフレータ(左のインフレータ)、112…他方のインフレータ(右のインフレータ)、121…保持箱、150…エアバッグ、189…遅延手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の前方に設けられている保持箱と、この保持箱に収納されエアバッグを膨張させるガスを発生する複数のインフレータと、前記保持箱に収納され前記インフレータによって膨張し乗員の前方で展開するエアバッグと、を備えた鞍乗型車両のエアバッグ装置において、
前記複数のインフレータは、ガスの発生量が異なっていることを特徴とする鞍乗型車両のエアバッグ装置。
【請求項2】
乗員の前方に設けられている保持箱と、この保持箱に収納されエアバッグを膨張させるためのガスを発生する複数のインフレータと、このインフレータに結合され膨張時に乗員の前方で展開し乗員を拘束可能にするエアバッグと、を備えた鞍乗型車両のエアバッグ装置において、
このエアバッグ装置に、前記複数のインフレータの点火の時期が互いに異なるように制御する遅延手段が備えられていることを特徴とする鞍乗型車両のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記複数のインフレータは、一方および他方のインフレータの2つとし、前記遅延手段は、前記一方および他方のインフレータの点火時期の差は、10ミリ秒超となるように制御することを特徴とする請求項2記載の鞍乗型車両のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記複数のインフレータは、一方および他方のインフレータの2つであり、これらの一方および他方のインフレータのうちの、前記ガスの発生量が小さい方のインフレータを先に点火するようにしたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の鞍乗型車両のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−969(P2011−969A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145782(P2009−145782)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】