説明

音源同定装置および音源同定プログラム

【課題】本発明は、規定以上の音を発している車両や音源を同定する音源同定装置等に関し、高音域だけでなく、低音域についても正確に同定する。
【解決手段】車両通行路を走行する車両から発せられた音を受音することにより得られた原音信号から抽出した、高周波抽出対象音域の音成分を表わす第1の音信号に基づくビームフォーミング演算により音源位置を算出する第1の音源算出部と、原音信号から抽出した低周波抽出対象音域の音成分を表わす第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算により音源位置を算出する第2の音源算出部と、第1の音源算出部により算出された音源位置と第2の音源算出部により算出された音源位置とに基づいて音源を同定する音源同定部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源を同定する音源同定装置、およびコンピュータ等の演算処理装置を用いて音源を同定するための音源同定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば道路上を走行している複数の車両の中から、例えば改造マフラの装着等により規定以上の騒音を発している車両を同定することが要請されている。
【0003】
図1は、標準マフラー装着車から発せられる音の音圧と、改造マフラー装着車から発せられる音の音圧を示した図である。
【0004】
横軸は、マイクロホンをX=0.0mの位置に置いたときの、マイクロホンに対する車両先頭の相対位置を示している。また縦軸は音圧(dB)である。また、この図1中の2本のグラフのうちグラフ(A)は標準マフラー装着車から発せられた音の音圧、グラフ(B)は改造マフラー装着車から発せられた音の音圧を示している。
【0005】
この図1から、改造マフラー装着車はマイクロホンの前を通過して5m位先に進んだときに最大音圧となっていることが分かる。これは車両のリア側にマフラーが装着されていることによるものである。マイクロホンから見たときの音圧がピークになる位置のずれ方は車両の長さ等によって異なる。二輪車の場合、車両の長さは概ね短く、また車体による防音も期待できないため、マイクロホン通過前又は通過直後でも大きな騒音を受ける可能性がある。
【0006】
図2は、標準マフラー装着車や改造マフラー装着車から発せられた音の周波数分布を示した図である。横軸は、周波数(H)、縦軸は音圧(dB)である。
【0007】
この図2のグラフを見ると、改造マフラー装着車から発せられる騒音には、100H付近の低音域の騒音と、1.6kH付近の高音域の騒音とが存在し、その車両あるいは改造マフラーの種類等に応じて低音域の騒音を発する車両と高音域の騒音を発する車両とがある。したがって騒音車両を同定するにあたっては、高音域の騒音を発する車両と低音域の騒音を発する車両との双方を同定する必要がある。
【0008】
さらに、騒音車両の同定にあたり、例えば片側複数車線の道路などでは、2台の四輪車が近接して併走したり、四輪車と二輪車が併走したり、あるいは、2台の二輪車が互いに近接して併走する場合もあり、また、車線のレーンを跨いで走行する車両もある。また前後方向にも複数台の車両がかなり近接して走行する場合もある。したがってこのような場面で騒音車両を確実に同定するためには、車線ごとといった大雑把な位置の同定では不充分であり、騒音源位置をかなりピンポイント的に同定する必要がある。
【0009】
マイクロホンから見たときの音源の方向を特定する手段として、ビームフォーミング法(以下、「BF法」と略記する)と音響インテンシティ法(以下「SI法」と略記する)が知られている(非特許文献1参照)。1.6kH帯の高音域では、BF法を用いて騒音源の方向をピンポイント的に高精度に同定でき、騒音レベルが閾値を超えているか否かの判定に用いるための音圧もBF法で測定することができる。
【0010】
しかしながら、BF法による音源同定は音の波長に依存するため、100H帯の低音域では、音の波長が長く(例えば100Hでは3m程度の波長)、騒音源を正確に同定することは不可能である。したがって音圧も、例えば併走している2台の車両それぞれの音圧を分離して測定することも困難である。
【0011】
一方、SI法は、低音域でも、マイクロホンの間隔をその低音域に適合するように調整しておけば音の波長に依存せずにピンポイント的に音源の方向を指し示すことができる。また、音圧もSI法により測定することができる。しかしながら、SI法は、実際の測定現場では、音源の方向はピンポイントで指し示すものの、その指し示す方向がかなりふらつき、ピンポイントで指し示す方向に信頼性が薄い。
【0012】
尚、ここでは改造マフラー装着による騒音車両を例に挙げて説明しているが、上記の事情は改造マフラー装着による騒音車両の同定のみに生じる問題ではなく、例えば異音を発する鉄道車両の走行音の音源探査やタイヤ路面騒音のデータベース化による路面損傷の評価など、低域と高域の音源が混在する場合の音源探査に共通の問題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】音の環境と制御技術第I巻基礎技術 2000年2月24日初版第1刷発行 監修者時田保夫 発行者小野介嗣 発行所株式会社フジ・テクノシステム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み、高音域だけでなく、低音域についても音源を正確に同定することのできる音源同定装置および音源同定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明の音源同定装置は、
ビームフォーミングによる音源計測用と音響インテンシティによる音源計測用に配列された複数のマイクロホンと、
上記車両通行路を走行する車両から発せられた音を上記複数のマイクロホンで受音することにより得られた原音信号から、高周波抽出対象音域の音成分を表わす第1の音信号および低周波抽出対象音域の音成分を表わす第2の音信号をそれぞれ抽出する高周波音域抽出フィルタおよび低周波音域抽出フィルタと、
上記第1の音信号に基づくビームフォーミング演算により車両通行路上の音源位置を算出する第1の音源算出部と、
上記第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算により車両通行路上の音源位置を算出する第2の音源算出部と、
第1の音源算出部により算出された音源位置と第2の音源算出部により算出された音源位置とに基づいて音源を同定する音源同定部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
ここで、上記の複数のマイクロホンは、例えば車両通行路の上方に設置される。あるいは、車両通行路を斜め上から眺める位置に設置してもよく、設置位置は同定すべき音源の位置との関係で適宜決めればよい。
【0017】
また、上記本発明の音源同定装置において、上記音源同定部は、第2の音源算出部で算出された音源位置のうちの低周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置に近接した、第1の音源算出部で算出された音源位置を、低周波音源の位置とするものであることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明の音源同定装置において、上記音源同定部は、前記第1の音源算出部で算出された音源位置のうちの高周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置を、高周波音源の位置とするものであることが好ましい。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の音源同定プログラムは、プログラムを実行する演算処理装置内で実行され、その演算処理装置を、
ビームフォーミングによる音源計測用と音響インテンシティによる音源計測用に配列された複数のマイクロホンでその車両通行路を走行する車両から発せられた音を受音することにより得られた原音信号から抽出された高周波抽出対象音域の音成分を表わす第1の音信号に基づくビームフォーミング演算により車両通行路上の音源位置を算出する第1の音源算出部と、
上記原音信号から抽出された低周波抽出対象音域の音成分を表わす第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算により車両通行路上の音源位置を算出する第2の音源算出部と、
第1の音源算出部により算出された音源位置と第2の音源算出部により算出された音源位置とに基づいて音源を同定する音源同定部とを有する音源同定装置として動作させることを特徴とする。
【0020】
ここで、上記本発明の音源同定プログラムにおいて、上記音源同定部は、第2の音源算出部で算出された音源位置のうちの低周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置に近接した、第1の音源算出部で算出された音源位置を、低周波音源の位置とするものであることが好ましい。
【0021】
また、上記本発明の音源同定プログラムにおいて、上記音源同定部は、第1の音源算出部で算出された音源位置のうちの高周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置を、高周波音源の位置とするものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高音域だけでなく、低音域についても音源を正確に同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】標準マフラー装着車から発せられる音の音圧と、改造マフラー装着車から発せられる音の音圧を示した図である。
【図2】標準マフラー装着車や改造マフラー装着車から発せられた音の周波数分布を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態としての騒音源同定装置を示すブロック図である。
【図4】道路上のマイクロホンアレイの設置場所の概念図である。
【図5】マイクロホンアレイのレイアウトを示す平面図である。
【図6】マイクロホンアレイを斜め下から眺めたときの模式斜視図である。
【図7】マイクロホンアレイを横から見て、かつ支持具を模式的に示した図である。
【図8】ビームフォーミングの原理説明図である。
【図9】ビームフォーミングの原理説明図である。
【図10】SIとしての1つのセンサを示した図である。
【図11】500H帯におけるBFとSIによる音源位置同定実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態としての騒音源同定装置を示すブロック図である。
【0026】
この図3に示す騒音源同定装置10は、マイクロホンアレイ20と、フィルタリング装置30と、演算装置40とを有する。
【0027】
マイクロホンアレイ20は、車両通行路の上方に、ビームフォーミングによる音源計測用と音響インテンシティによる音源計測用に配列された複数のマイクロホンで構成されている。
【0028】
また、フィルタリング装置30は、高周波騒音抽出フィルタ31と低周波騒音抽出フィルタ32を有する。高周波騒音抽出フィルタ31は、車両通行路を走行する車両から発せられた音をマイクロホンアレイ20で受音することにより得られた音信号から、高周波騒音帯域の音成分を表わす第1の音信号を抽出するフィルタである。また、低周波騒音抽出フィルタ32は、車両通行路を走行する車両から発せられた音をマイクロホンアレイ20で受音することにより得られた音信号から、低周波騒音帯域の音成分を表わす第2の音信号を抽出するフィルタである。
【0029】
演算装置40は、第1の音源算出部41と、第2の音源算出部42と、騒音源同定部43とを有する。
【0030】
第1の音源算出部41には、フィルタリング装置30の高周波騒音抽出フィルタ31で抽出された第1の音信号が入力され、第1の音源算出部41では、その第1の音信号に基づくビームフォーミング演算による車両通行路上の音源位置の算出が行なわれる。一方、第2の音源算出部42には、フィルタリング装置30の低周波騒音抽出フィルタ32で抽出された低周波騒音帯域の音成分を表わす第2の音信号が入力され、第2の音源算出部42では、その第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算による車両通行路上の音源位置の算出が行なわれる。また、騒音源同定部43では、第1の音源算出部41により算出された音源位置と第2の音源算出部42により算出された音源位置とに基づく騒音源の同定が行なわれる。具体的には、この騒音源同定部43では、第2の音源算出部42で算出された音源位置のうちの低周波騒音帯域の音圧が閾値音圧以上の音源位置に近接した、第1の音源算出部41で算出された音源位置が、低周波騒音源の位置として決定され、第1の音源算出部41で算出された音源位置のうちの高周波騒音帯域の音圧が閾値音圧以上の音源位置が、高周波騒音源の位置として決定される。
【0031】
尚、この演算装置40は、プログラム実行により処理を行なうものであり、図3に示す第1の音源算出部41、第2の音源算出部42、および騒音源同定部43は、この演算装置40内で、本発明の一実施形態としての騒音源同定プログラムが実行されることにより実現する機能である。
【0032】
図4は、道路上のマイクロホンアレイの設置場所の概念図である。
【0033】
ここには片側二車線の道路が示されており、ここでは、そのうちの、車両が左側から右側に進行する側の二車線について、騒音車両を同定する設備が置かれている。
【0034】
画像撮影部51では、道路上の、例えば4mの高さにカメラ51aが設置され、通過した車両の後部のナンバプレートが撮影される。画像撮影部51は違法改造による騒音を発している車両の取締り用である。
【0035】
検知ゾーン52には、道路上の、やはり4m程度の高さ位置にマイクロホンアレイ20(図3参照)が設置される。このマイクロホンアレイ20の具体例については後述する。
【0036】
さらに、その検知ゾーン52よりも車両走行方向下流側の、警告表示部53には電光掲示板53a等が設置されており、検知ゾーン52に設置したマイクロホンアレイ20で騒音源として特定された車両が警告表示部53に近づいて来ると、その電光掲示板等53aに警告が表示される。
【0037】
図5は、マイクロホンアレイのレイアウトを示す平面図、図6は、そのマイクロホンアレイを斜め下から眺めたときの模式斜視図、図7は、そのマイクロホンアレイを横から見て、かつ支持具23を模式的に示した図である。
【0038】
このマイクロホンアレイ20は、一例として、道路上4mの高さに設置された複数本のマイクロホン21と、図にハッチングを付して示した、3.7511mの高さに設置された複数本のマイクロホン22から構成されている。
【0039】
ハッチングを付したマイクロホン22は、その一本一本が、その一本のマイクロホン22の周囲の、4mの高さに設置された3本のマイクロホン21と組になって正四面体の各頂点の位置に配置されており、その正四面体の各頂点に配置された4本のマイクロホン21,22で音響インテンシティ(SI)用の1つのセンサとして作用する。尚、4mの高さに設置されたマイクロホン21の中には、SI用の複数のセンサに兼用されているマイクロホンもある。
【0040】
尚、図5,図6に示す、マイクロホンどうしを結ぶ線分は、正四面体の各辺を示している線分であり、実在する部材ではない。
【0041】
ビームフォーミング(BF)用としては、このマイクロホンアレイ20を構成する全てのマイクロホン21,22が採用される。3.7511mの高さに設置されているマイクロホン22については、4mの高さで受音したときの音信号と等価な音信号になるように、音信号に遅延補正が施される。あるいは、4mの高さに並ぶマイクロホン21だけでBFを行なってもよい。
【0042】
図8,図9は、ビームフォーミングの原理説明図である。ここでは原理説明のために、マイクロホンアレイ24を構成する複数のマイクロホン25は一直線上に並んでいるものとして説明する。
【0043】
図8に示すように、音源23がこのマイクロホンアレイ24の正面に存在するときは、各マイクロホン25で受音して得られる音信号をそのまま加算器26で加算することにより、この図8に示した感度分布25Aのように正面の音源23について強く反応した音信号(A)が得られる。
【0044】
一方、図9に示すように音源23が斜めの位置に存在するときは、各マイクロホン25で得られた音信号を図8のようにそのまま加算すると、図9に示す音信号(B)のように減衰した音信号となってしまう。この斜めの位置にある音源23に強く反応した音信号を得るためには、各マイクロホン25に音が届く遅延分を補償する遅延器27を置き、各マイクロホン25で受音して得られた音信号を各遅延器27で遅延させてから互いに加算する。各遅延器27における遅延時間は、例えば図9の一番上に示す遅延器27Aの場合、音が(d1−d2)の距離だけ進む間に要する時間と同じ時間である。他の遅延器27についても同様である。このようにして各マイクロホン25で得られた音信号をそれぞれ遅延させてから互いに加算すると、図9のように斜めの位置にある音源23に強く反応した音信号(図8に示す音信号(A)を参照)を得ることができる。この複数の遅延器27による遅延パターンを様々に調整すると、様々な位置にある音源に強く反応した音信号を得ることができ、音源が存在する方向を知ることができる。また、そのときの音信号のレベルから音圧を求めることができる。尚、ここでは複数のマイクロホン25が一直線上に並ぶ例について説明したが、マイクロホン25が二次元的に広がる面上に配置されていれば、同様の演算により音源位置の二次元的な方向を知ることができる。さらに、図5〜図7に示すようにマイクロホン21,22が異なる位置に配置されている場合であっても、その異なる高さ分を音の進行速度を考慮して遅延器で遅延させる補正を行なうことにより、全てのマイクロホンが同一平面上にある場合と同等に取り扱うことができる。
【0045】
ただし、このBFは、その原理上、音の波長に依存した分解能しか得られず、したがって低音域では車両を確実に同定するだけの分解能はない。このため、音圧に関しても複数の車両からの騒音を一緒にした音圧しか得られない。
【0046】
次に音響インテンシティ(SI)についてその原理を説明する。
【0047】
図10は、SIとしての1つのセンサを示した図である。ここには、例えば4mの高さに配置された3本のマイクロホンch1,ch2,ch3と、3.7511mの高さに配置された1本のマイクロホンch4が示されている。これら4本のマイクロホンch1〜ch4は、正四面体の4つの各頂点に配置されている。この場合、SIのx,y,z成分は以下の式により求められる。ここで、x,yは、3本のマイクロホンch1〜ch3で作る平面内の座標、zは高さ方向の座標である。
【0048】
【数1】

【0049】
【数2】

【0050】
【数3】

【0051】
ここで、ωは、音の角周波数、ρは空気密度、dはマイクロホンどうしの間隔(正四面体の一辺の長さ)である。また、Gij(i,j=1,2,3,4)は各マイクロホンch1〜ch4間のクロススペクトルでありImはその虚数部を表わしている。例えば、G12は、2本のマイクロホンch1,ch2でそれぞれ得られた音信号のクロススペクトルである。他も同様である。
【0052】
上記の(1)〜(3)の3本の式から音源位置が同定される。また、音圧pは次式で求められる。
【0053】
【数4】

【0054】
ここでReは実数部を表わす。
【0055】
このSI用のセンサにおいて、そのセンサを構成するマイクロホンの間隔を低音域用に設定すると、高音域についてはマイクロホンの間隔が広過ぎてSIの計測を行なうことができない。ただし、ここではSIは低音域のみ計測可能であればよく、マイクロホンの間隔は低音域に合わせて設定されている。
【0056】
図11は、500H帯におけるBFとSIによる音源位置同定実験結果を示す図である。
【0057】
図中、直径2m弱の大きな円形R1がBFにより同定された音源位置であり、小さな4つの円形は、SIの4つのセンサにより同定された各音源位置である。本来の音源は、大きな円形のほぼ中央付近に1つだけ存在している。
【0058】
この図10から、BFの場合は音源位置の分解能が低く、SIの場合は音源位置をピンポイントで指し示すものの、その指し示した音源位置の信頼性が低いことが分かる。ここでは、500H帯の音信号を使っているが、100H帯では、BFによる円はさらに4〜5倍に大きくなり、音源位置の同定には不都合である。
【0059】
以上の説明を踏まえ、再度図3に戻って本発明を説明する。
【0060】
フィルタリング装置30に備えられた高周波騒音抽出フィルタ31ではマイクロホンアレイ20を構成する複数のマイクロホン21,22(図5〜図7参照)のそれぞれで得られた音信号から、高周波騒音域である1.6kH帯の周波数成分を抽出することにより第1の音信号を生成する。また、これと同様に、フィルタリング装置30を構成する低周波騒音抽出フィルタ32では、低周波騒音域である100H帯の周波数成分を抽出することにより第2の音信号を生成する。
【0061】
高周波騒音抽出フィルタ31で抽出された第1の音信号は第1の音源算出部41に入力される。この第1の音源算出部41は、高音域の信号である第1の音信号に基づくBF法により音源位置と音圧を計測する。騒音源同定部43では、そのBFにより計測された音圧が騒音の閾値を超えているときは、そのBFにより計測された音源を高周波騒音源として同定する。また、BFにより計測された音圧が騒音の閾値を超えていないときは、騒音同定部43では、そのBFで計測された音源位置のみ、以下の低音域の騒音の音源位置の同定のために利用される。
【0062】
低音域騒音抽出フィルタ32で抽出された第2の音信号は第2の音源算出部42に入力される。この第2の音源算出部42は、低音域の音信号である第2の音信号に基づくSI法により音源位置と音圧を計測する。騒音源同定部43では、そのSI法により計測された音圧が騒音の閾値を超えているか否か判定される。第1の音源算出部41で算出された高音域の音圧が閾値未満であり、第2の音源算出部42で算出された、低音域の音圧も閾値未満であるときは、その車両は、騒音を発していない正常な車両であると判定される。一方、第1の音源算出部41で計測された、高音域の音圧が騒音の閾値未満であっても、第2の音源算出部42で計測された低音域の音圧が騒音の閾値を超えていたときは、第2の音源算出部42でのSI法により計測された音源位置の近傍にある、第1の音源算出部41でのBF法により計測された音源位置を、低周波騒音源として同定する。
【0063】
SI法により計測された音源位置をそのまま採用しない理由は、前述の通り、SI法では音源位置をピンポイントで指し示すものの信頼性が低いからである(図10参照)。一方、高音域の音信号を使ってBF法で計測した音源位置は高い信頼性を有する。
【0064】
本実施形態では、上記のようにして、低音域および高音域双方について騒音源を正確に同定することができる。
【0065】
尚、ここでは100H帯を低音騒音域、1.6kH帯を高音騒音域としているが、これらの中心周波数や帯域幅は、様々な騒音車両についてデータを積み重ねた上で決定されるものであり、ここでは、一例として述べたに過ぎない。
【0066】
また、ここでは、マフラー改造車両を念頭に置いた実施形態について説明したが、本発明はマフラー改造車両の同定のみでなく、例えば異音を発する鉄道車両の走行音の音源探査やタイヤ路面騒音のデータベース化による路面損傷の評価など、低音域と高音域の音源が混在する場合の音源探査に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
20,24 マイクロホンアレイ
21,22,25,ch1〜ch4 マイクロホン
23 音源
26 加算器
27 遅延器
30 フィルタリング装置
31 高周波騒音抽出フィルタ
32 低周波騒音抽出フィルタ
41 第1の音源算出部
42 第2の音源算出部
43 騒音同定部
51 画像撮影部
52 検知ゾーン
53 警告表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームフォーミングによる音源計測用と音響インテンシティによる音源計測用に配列された複数のマイクロホンと、
前記車両通行路を走行する車両から発せられた音を前記複数のマイクロホンで受音することにより得られた原音信号から、高周波抽出対象音域の音成分を表わす第1の音信号および低周波抽出対象音域の音成分を表わす第2の音信号をそれぞれ抽出する高周波音域抽出フィルタおよび低周波音域抽出フィルタと、
前記第1の音信号に基づくビームフォーミング演算により前記車両通行路上の音源位置を算出する第1の音源算出部と、
前記第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算により前記車両通行路上の音源位置を算出する第2の音源算出部と、
前記第1の音源算出部により算出された音源位置と前記第2の音源算出部により算出された音源位置とに基づいて音源を同定する音源同定部とを備えたことを特徴とする音源同定装置。
【請求項2】
前記音源同定部は、前記第2の音源算出部で算出された音源位置のうちの低周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置に近接した、前記第1の音源算出部で算出された音源位置を、低周波音源の位置とするものであることを特徴とする請求項1記載の音源同定装置。
【請求項3】
前記音源同定部は、前記第1の音源算出部で算出された音源位置のうちの高周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置を、高周波音源の位置とするものであることを特徴とする請求項1又は2記載の音源同定装置。
【請求項4】
プログラムを実行する演算処理装置内で実行され、該演算処理装置を、
ビームフォーミングによる音源計測用と音響インテンシティによる音源計測用に配列された複数のマイクロホンで該車両通行路を走行する車両から発せられた音を受音することにより得られた原音信号から抽出された高周波抽出対象音域の音成分を表わす第1の音信号に基づくビームフォーミング演算により前記車両通行路上の音源位置を算出する第1の音源算出部と、
前記原音信号から抽出された低周波抽出対象音域の音成分を表わす第2の音信号に基づく音響インテンシティ演算により前記車両通行路上の音源位置を算出する第2の音源算出部と、
前記第1の音源算出部により算出された音源位置と前記第2の音源算出部により算出された音源位置とに基づいて音源を同定する音源同定部とを有する音源同定装置として動作させることを特徴とする音源同定プログラム。
【請求項5】
前記音源同定部は、前記第2の音源算出部で算出された音源位置のうちの低周抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置に近接した、前記第1の音源算出部で算出された音源位置を、低周波音源の位置とするものであることを特徴とする請求項4記載の音源同定プログラム。
【請求項6】
前記音源同定部は、前記第1の音源算出部で算出された音源位置のうちの高周波抽出対象音域の音圧が閾値音圧以上の音源位置を、高周波音源の位置とするものであることを特徴とする請求項4又は5記載の音源同定プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−266399(P2010−266399A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119918(P2009−119918)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本音響学会 2009年春季研究発表会 講演論文集 平成21年3月10日発行 独立行政法人交通安全環境研究所 平成20年度 交通安全環境研究所フォーラム2008講演概要 平成20年11月20日発行
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(509139209)
【Fターム(参考)】