説明

音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法

【課題】1つの基準波長光源により波長選択の制御が可能な音響光学型チューナブルフィルタ制御装置の提供を図ること。
【解決手段】音響光学型チューナブルフィルタ制御装置100は、集積ドロップ型AOTF101に印加する高周波信号を発生させるRF信号発回路102と、集積ドロップ型AOTF101から出力された光の強度を検出する光モニタ回路103と、光の強度に基づいて、基準光を出力させる高周波信号の周波数を検出するDSP105と、集積ドロップ型AOTF101の温度を検出し、光の強度と、基準光を出力させる高周波信号の周波数と、集積ドロップ型AOTF101の温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を出力させるために印加する高周波信号の周波数を求め、RF信号発回路102によって高周波信号を発生させるFPGA104とを備え、波長選択を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光通信ネットワークに使用される光通信機器において、任意に光波長信号を分岐・挿入するための音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアネットワークの構築を目指し、大容量の送信データの超長距離の伝送を可能とさせるための光通信装置が求められている。このような送信データの大容量化を実現する手段として、特に光ファイバの広帯域性や大容量性を有効利用できるなどの利点から、WDM(Wavelength−Division Multiplexing;波長分割多重)方式の研究開発が進められている。
【0003】
光通信ネットワークにおいては、ネットワーク上の各地点において必要に応じて各波長の光信号を透過、分岐、および挿入する機能、光伝送路を選択する光ルーティング、クロクコネクト機能が必要である。このため、光信号を透過、分岐、および挿入する分岐挿入(Optical Add/Drop Multiplexer)装置(以下、「OADM」という。)が研究開発されている。このOADMは、固定波長の光信号のみを分岐挿入することができる波長固定型のOADMと、任意波長の光信号を分岐挿入することができる任意波長型のOADMがある。
【0004】
従来、任意波長型のOADMを実現するために音響光学型チューナブルフィルタ(Acousto−Optic Tunable Filter;以下、「AOTF」という。)が利用されている。AOTFは、選択する波長の光のみを抽出するように動作するため、選択する波長が固定であるファイバーグレーティングと異なり、任意に波長を選択することができる。さらに、可変波長選択フィルタでもあるので、端局間において光信号を分岐・挿入する局であるトリビュータリ局における可変波長選択フィルタとしても使用することができる。このような理由により、AOTFを使用したOADMが研究開発されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0005】
AOTFは、印加された160−180MHz帯の高周波信号(以下、「RF信号」という)が制御信号となり、周波数に応じた波長の光信号を出力する。しかし、一般的にAOTFには、その特性に温度依存性があるために同じRF信号を印加した場合でもその温度に応じて出力する光信号の波長は変化してしまう。そこで、既知の波長の光を出力する基準光源を用意し、基準光源を基に、任意の波長を出力させるためのRF信号を導き出すAOTFサブシステムが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−218790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、AOTFは、環境温度が変化すると同じ周波数のRF信号を印加した場合であっても出力される光信号の波長が変化する。つまり選択波長も変化してしまい、具体的には、1℃の環境温度変化に対して約0.8nm選択波長がシフトする。この波長のシフト量は高密度なWDM信号では、隣接波長との波長間隔に及んでしまうという問題があった。
【0008】
また、上述したようなAOTFサブシステムによる波長選択方法は、最短波長側の基準光と最長波長側の基準光の基準波長信号を用意し、基準波長をトラッキングし、波長数と2つのRF周波数差を基に所望のRF信号周波数を計算して与えている。しなしながら、こうした構成では、2個の基準波長光源が必要となり、コスト高の要因となるという問題があった。
【0009】
また、1つの基準波長光源により波長選択制御を行おうとすると、温度依存性引き寄せ効果という新たな課題が生じてしまう。図7は、ドロップ型AOTFの温度依存性引き寄せ効果を示す説明図である。以下、図7を用いて温度依存性引き寄せ効果について説明を行う。
【0010】
図表701は、ドロップ型のAOTFの入力光用ポートへWDM伝送信号を入力し、基準光用ポートへ基準光を入力した際の光信号(λ1〜λn)と、基準光(λref1,λref2)の波長配置を表す。図表701に示したようにWDM伝送信号は、100GHzの周波数(グリッド)間隔の光信号から構成されている。例えば、Cバンド(1530〜1565nm)の波長光の場合は、32個の光信号が多重されている。2つの基準光のうちλref1は、WDM伝送信号の最短波長の光信号(λ1)から100GHzの周波数間隔となるような波長に設定されている。同様にλref2は、WDM伝送信号の最長波長の光信号(λ1)から100GHzの周波数間隔とだけなるように設定されている。
【0011】
図表702は、AOTFの温度が25℃の時、出力光用ポートの1つからλ2の光信号を出力させた際の光信号(λ1〜λn)と、基準光(λref1,λref2)との波長配置を表す。実線は、出力光用ポートから出力されている光信号を表し、破線は、出力光用ポートから出力されていない光信号および、基準光を表す。
【0012】
図表703は、AOTFの入力光用ポートと、基準光用ポートへ入力された光信号と基準光を出力光用ポートから出力させるためのRF信号(F1〜FnおよびFref1,Fref2)の周波数配置を表す。図表703は、図表702に示したλ2の光信号を出力させるためにAOTFに印加するRF信号(F2)を実線で表している。また、AOTFが25℃の時のλ1〜λnまでの光信号を出力させるためのRF信号をF1〜Fnと表す。各光信号は、等間隔の波長差で配置されているため、各RF信号も、Δf1の等しい周波数間隔で配置されている。したがって、図表702において破線で示された各波長の光信号は、図表703に破線で示した対応する各RF信号を印加することで出力される。
【0013】
しかしながら、AOTFの温度が変化すると、印加するRF信号の周波数と、出力される光信号の波長との関係も変化する。図表704は、AOTFの温度が45℃の時、出力光用ポートの1つからλ2の光信号を出力させた際のRF信号(F1’〜Fn’およびFref1’,Fref2’)の周波数を表す。実線で示したF2’は、λ2の光信号を出力させるためのRF信号である。破線で示したF1’〜Fn’およびFref1’,Fref2’は、各光信号および基準光を出力させるためのRF信号である。100GHz間隔の各光信号を出力させるためのRF信号の周波数はΔf2の等しい周波数間隔で配置されている。このときAOTFが25℃の際のRF信号の周波数間隔Δf1と比較しAOTFが45℃の際のRF信号の周波数間隔Δf2は、低周波である。
【0014】
このように、25℃から45℃と高温側に温度が変化したことで、同じ光波長の出力を得るためのRF信号周波数間隔がΔf1からΔf2(Δf2<Δf1)に変化する。これを温度依存性の引き寄せ効果という。1つの基準波長光源により波長選択制御を実現するためには、この温度依存性の引き寄せ効果によるAOTFの特性が新たな問題であった。
【0015】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、こうした温度依存性の引き寄せ効果特性の課題を解決するとともに、1つの基準波長光源により波長選択の制御をすることができる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置は、既知の波長の基準光が入力される基準光の入力ポートと、波長多重された光信号が入力される波長多重光の入力ポートと、印加された高周波信号に応じた波長の光を出力する基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを備えた音響光学型チューナブルフィルタと、前記音響光学型チューナブルフィルタに印加する所望の周波数の高周波信号を発生させる高周波信号発生手段と、前記音響光学型チューナブルフィルタの前記各出力ポートから出力された光の強度を検出する光検出手段と、前記光検出手段によって検出された前記基準光の出力ポートの光の強度に基づいて、前記基準光の入力ポートに入力された基準光を前記基準光の出力ポートへ出力させる高周波信号の周波数を検出する基準光周波数検出手段と、前記音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する温度検出手段と、前記光検出手段によって検出された前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光周波数検出手段によって検出された基準光を出力させる前記高周波信号の周波数と、前記温度検出手段により検出された温度と、予め測定した前記音響光学型チューナブルフィルタの温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める演算手段と、前記演算手段により求められた周波数の前記高周波信号を、前記高周波信号発生手段により発生させて前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加し、所望の波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、音響光学型チューナブルフィルタから基準光を出力させるために印加する高周波信号の周波数の検出と同時に、音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する。したがって、音響光学型チューナブルフィルタの温度が変化しても、所望の波長の光信号を出力させるために印加する高周波信号の最適な周波数が求められ、高精度に波長選択を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法によれば、1つの基準波長光を用いる構成であっても、温度変化に対応した高精度な波長選択ができるという効果を奏する。また、基準光の数を削減できることから、装置の小型化や低コスト化も実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
(本発明の構成)
まず、図1を用いてこの発明の実施の形態にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置の構成を説明する。図1は、この発明の実施の形態にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置の構成を説明する説明図である。
【0021】
図1に示したように、音響光学型チューナブルフィルタ制御装置100は、集積ドロップ型AOTF101と、RF信号発生回路102と、光モニタ回路103と、FPGA(Field Programmable Gate Array)104と、DSP(Digital Signal Processor)105と、光タップ106からなる光フィルタ部107と、分岐カプラ108とから構成される。
【0022】
音響光学型チューナブルフィルタ制御装置100において、集積ドロップ型AOTF101は、所定の周波数のRF信号を印加されると、WDM伝送信号入力Inから入力された複数の光信号(λ1〜λn)から、特定の波長の光信号のみを印加するポートに応じて任意のポート(ポート1〜ポート4)へ出力することができる。また、集積ドロップ型AOTF101へ印加するRF信号を制御するため基準波長Inから基準光(λref)が入力され、基準とするRF信号を印加することによってポート5から出力される。なお、ポート1〜ポート5を光信号出力Outと呼ぶ。
【0023】
集積ドロップ型AOTF101のようなAOTF素子の動作原理は、図2を用いて後で詳しく説明する。RF信号発生回路102は、集積ドロップ型AOTF101へ印加するRF信号を発生させる。なお、RF信号発生回路102の構成は、図3を用いて後で詳しく説明する。光モニタ回路103は、集積ドロップ型AOTF101の各出力ポートに出力された光信号のモニタリングを行う。なお、光モニタ回路103構成は、図4を用いて後で詳しく説明する。
【0024】
FPGA104は、プログラミング可能なLSI(Large Scale Integration)でありDPS105から入力される波長選択要求に応じて、所定波長の光信号を出力させるためRF信号の周波数を演算し、RF信号発生回路102へRF信号の発生指示を行う信号を入力する。このとき、FPGA104には集積ドロップ型AOTF101の温度値が入力されており、演算の変数として用いている。DSP105は、光モニタ回路103から入力された光信号および基準光のモニタ値に基づいてRF信号発生回路102から印加されるRF信号の切り替え制御を行う。光タップ106は、ポート1〜ポート4に出力された光信号と、ポート5に出力された基準光をそれぞれ分岐して光モニタ回路103へ出力する。
【0025】
図2は、AOTFの構成を説明する説明図である。図2に示したように、AOTFは、強誘電体結晶の一種であり圧電作用を示すニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板1−7にチタン(Ti)拡散で2本の光導波路1−1、1−2を形成する。これら光導波路1−1、1−2は、互いに2箇所で交叉しており、これら2つの交叉する部分に導波路型の偏光ビームスプリッタ(Polarization Beam Splitter;以下、「PBS」という)1−3、1−4が設けられている。また、これら2つの交叉する部分の間において、2本の光導波路1−1、1−2上には、金属膜のSAWガイド1−6が形成されている。このSAWガイド1−6には、櫛を交互にかみ合わせた電極(Inter Digital Transducer;以下、「IDT」という)1−5に(以下、RF信号を印加することによって発生する弾性表面波(Surface Acoustic Wave )が伝搬する。
【0026】
図2において、波長λ1、λ2、λ3の光をAOTFのポート1に入力した場合、PBS1−3によって、TEモードとTMモードの偏波モードによって混成された入力光は、TEモードとTMモードに分かれて光導波路1−1、1−2を伝搬する。ここで、特定の周波数のRF信号f1を印加することにより弾性表面波がSAWガイド1−6に沿って伝搬すると、SAWガイド1−6と交叉している部分において、音響光学(Acousto−Optic;AO)効果により2つの光導波路1−1,1−2の屈折率は、周期的に変化する。
【0027】
このため、入力光のうち、この屈折率の周期的な変化と相互作用をする特定の波長の光のみ偏波モードが回転し、TEモードとTMモードとが入れ替わる。TEモードとは伝播方向に電界成分をもたない導波モードであり、TMモードとは電界方向に磁界成分をもたない導波モードである。回転量は、TEモードとTMモードの光が屈折率の変化と相互作用する作用長およびRF信号のパワーに比例する。作用長は、IDT1−5を挟んで光導波路1−1,1−2上に形成される、表面弾性波を吸収する吸収体1−8,1−9の間隔によって調整される。
【0028】
したがって、作用長とRF信号のパワーとを最適化することによって、光導波路1−1の中でTMモード光は、TEモード光に変換され、光導波路1−2の中でTEモード光は、TMモード光に変換される。そして、この変換されたTEモード光とTMモード光は、PBS1−4によって進行方向が変わり、相互作用をした波長の光のみが、分岐光として選択され、相互作用をしなかった波長の光は、透過して出力光となる。図2では、RF信号f1,f2によって、それぞれ波長λ1,λ2の光信号が作用を受け、分岐光として選択されたことを示している。
【0029】
このように、AOTFは、RF信号の周波数に応じた波長の光のみを選択して分岐させることができ、さらに、このRF信号の周波数を変化させることによって選択される光の波長を変えることができる。また、このとき、ポート2から射出される出力光は、ポート1に入射される入力光からRF信号の周波数に対応する波長の光のみが除去された光信号(波長λ2、λ3)であるので、AOTFは、リジェクション機能をもつと考えることができる。集積ドロップ型AOTF101は、以上説明したAOTFを5個組み合わせることで実現される。
【0030】
図3は、RF信号発生回路の構成を示すブロック図である。RF信号発生回路102は、DDS(Direct Digital Synthesizer)301と、BPF(Band−Pass Filter;帯域通過フィルタ)302と、RF AMP(Radio Frequency−amplifier;高周波増幅器)303とから構成される。
【0031】
RF信号発生回路102において、DDS301は、FPGAから入力された周波数、位相、振幅等の設定情報にしたがって、sin波信号または、cos波信号を出力する。BPF302は、DDS301から入力されたsin波信号または、cos波信号のうち、所定の周波数域内の信号のみを透過させる。RF AMP303は、BPF302から入力された信号を増幅し、集積ドロップ型101へRF信号を出力する。このとき、RF信号発生回路102から出力されるRF信号は、BPF302によって周波数の制限が行われているため、160MHz〜180MHzの周波数である。
【0032】
図4は、光モニタ回路の構成を示すブロック図である。光モニタ回路103は、PD(Photo Diode;受光素子)401と、電流電圧変換用LOGAMP(ログアンプ)402と、非反転増幅器403と、LPF(Low−Pass Filter;低域通過フィルタ)404と、ADC(Analog to Digital;AD交換器)405とから構成される。
【0033】
光モニタ回路103において、PD401は、光タップ106から分岐された光信号を電気信号へ変換するため、入力された光に応じた電流を発生する。電流電圧変換用LOGAMP402は、PD401から入力された電流をログ特性にしたがって、電圧値へと変換する。非反転増幅器403は、電流電圧変換用LOGAMP402から印加された電圧値を増幅させる。LPF404は、非反転増幅器403によって増幅された電圧値の高周波成分を低周波成分のみを透過させる。したがって、電圧値の高周波成分は除去される。ADC405は、LPF404から出力されたアナログ信号によって表される電圧値をデジタル信号へ変換し、DSP105へ出力する。
【0034】
本発明は、以上説明したような構成からなる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置100を用いることでWDM伝送信号から任意の波長の光信号を出力させる波長選択が可能となる。
【0035】
(音響光学型チューナブルフィルタ制御装置を用いた波長選択方法)
図5−1は、集積ドロップ型AOTF温度(TAOTF)を変化させた時のRF信号周波数間隔ΔFの測定値を示す図表である。RF信号周波数間隔ΔFとは、100MHz間隔に配置された各光信号を出力させるための各RF信号の周波数の間隔を意味する。また、図5−2は、集積ドロップ型AOTFの温度とRF信号の周波数間隔との関係を示す図表である。図5−2において、縦軸はRF信号周波数間隔ΔF[Hz]を表し、横軸はAOTF(図1に示した集積ドロップ型101)温度[℃]を表し、図5−1に示したAOTF温度(TAOTF)に対応するRF信号周波数間隔ΔFがプロットされている。
【0036】
従来技術における課題で説明したように、AOTF素子は、温度依存性引き寄せ効果を有する。したがって、AOTF温度[℃]が上昇するにつれてRF信号周波数間隔ΔF[Hz]が低下する。しかしながら、図5−2に示したプロットより明らかなように、温度依存性引き寄せ効果の特性は、リニアに変化する。したがって、本発明では、図5−2の図表を用いて、所望の波長の光信号を出力させるためのRF信号周波数を演算することで波長選択を実現させる。
【0037】
図6は、この発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置による波長選択動作を説明するフローチャートである。まず、WDM伝送信号Inから入力された運用対象となるWDM伝送信号(λ1〜λn)を、分岐カプラ108で4つに分岐され、各分岐光をポート1〜ポート4へ入力されている。また、ポート5には、任意の基準波長λref1が入力されている。
【0038】
以上のような状態において、まずDSP105のメモリに、波長選択を行うための固定値と変数を用意する(ステップS601)。具体的には、下記の固定値と変数を用意する。
【0039】
(固定値)
a:AOTF温度0℃の時のΔFの値
b:AOTF温度1℃あたりのRF信号周波数間隔ΔFの特性直線の傾き係数値
λref:基準光源波長値
(変数値)
AOTF:現在のAOTF温度値(測定値)
Fref:現在の基準光源波長を出力させるためのRF信号周波数値(測定値)
λx:選択要求波長値(入力値)
【0040】
つぎに、RF信号発生回路102からポート5へ入力するRF信号の周波数を180MHzから1kHz刻みに減少させて、光モニタ回路103におけるモニタ値を読み取り、基準波長λref1を出力させるためのRF信号周波数値Frefを検出する(ステップS602)。基準波長λref1を検出するには、RF信号を1kHz刻みに減少させていく時のモニタ値の変化から極大値を検出し、この極大値をモニタリングした時のRF信号が基準波長λref1を出力させるためのRF信号周波数値Frefとなる。
【0041】
つぎに、ステップS602において検出したRF信号周波数値FrefをDSP105のメモリに記憶する(ステップS603)。また、環境温度の変化や基準波長光源の揺らぎなどの変動に応じて最適なRF信号周波数を維持するため、光モニタ回路103におけるモニタ値を読み取り値が最大値となるようにRF信号周波数のトラッキング処理およびRFパワートラッキング処理を行う(ステップS604)。このように、現在の基準光源波長を出力させるためのRF信号周波数値は、周波数トラッキング処理により常時、最新の値に更新しておく。
【0042】
また、Frefの更新時には、AOTF温度(TAOTF)をモニタし、DSP105のメモリに記憶する(ステップS605)。つまり、AOTF温度(TAOTF)も常に更新される。
【0043】
つぎに、現在の100GHz間隔の光信号を出力させる各RF信号のRF信号周波数間隔ΔFを下記の(1)式により算出する(ステップS606)。
【0044】
ΔF=a+b×TAOTF …(1)
ΔF:現在の100GHzグリッド間隔のRF信号周波数間隔値
【0045】
つぎに、波長選択要求されているか、否かの判断を行う(ステップS607)。波長選択要求されていない場合(ステップS607:No)は、待機状態となる。波長選択要求されている場合(ステップS607:Yes)は、選択したい要求波長値(λx)を、ス
テップS601に用意した固定値と変数値およびステップS602〜S605の処理で更新したFrefとAOTF温度(TAOTF)のパラメータ情報を基に下記の(2)式の演算を行い、選択要求波長に対応するRF信号周波数値(Fx)を算出する(ステップS60
8)。
【0046】
Fx=Fref+ΔF×(λref−λx)/0.8 …(2)
Fx:選択要求波長に対応するRF信号周波数値
【0047】
つぎに、ステップS608によって求めたRF信号周波数値(Fx)とステップS60
4における基準光源のRFパワートラッキング処理で取得した最適RF信号パワー値を、集積ドロップ型AOTF101のポートに与え、要求波長を選択する(ステップS609)。
【0048】
最後に、波長選択を終了するか否かの判断を行う(ステップS610)。波長選択を終了する場合(ステップS610:Yes)は、処理を終了する。波長選択を継続する場合(ステップS610:No)は、ステップS601に戻り、同じ処理を繰り返すことで温度変化に対応した更新を行いながら波長選択を継続することができる。
【0049】
以上説明したように、音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法によれば、所定の固定値と変数を用いることで、1つの基準光源で正確に、所望の光信号を出力させるための波長選択を実現することができる。
【0050】
また、1つの基準光源のみで波長選択が行えることから、装置全体の小型化や低コスト化を図ることも可能となる。また、所望の波長選択を行うためのRF信号を演算によって導き出すことから、WDMにおける固定されたチャンネルに限定されず、容易に、任意の波長を選択することができる
【0051】
なお、本実施の形態で説明した波長選択方法は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【0052】
(付記1)既知の波長の基準光が入力される基準光の入力ポートと、波長多重された光信号が入力される波長多重光の入力ポートと、印加された高周波信号に応じた波長の光を出力する基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを備えた音響光学型チューナブルフィルタと、
前記音響光学型チューナブルフィルタに印加する所望の周波数の高周波信号を発生させる高周波信号発生手段と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの前記各出力ポートから出力された光の強度を検出する光検出手段と、
前記光検出手段によって検出された前記基準光の出力ポートの光の強度に基づいて、前記基準光の入力ポートに入力された基準光を前記基準光の出力ポートへ出力させる高周波信号の周波数を検出する基準光周波数検出手段と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する温度検出手段と、
前記光検出手段によって検出された前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光周波数検出手段によって検出された基準光を出力させる前記高周波信号の周波数と、前記温度検出手段により検出された温度と、予め測定した前記音響光学型チューナブルフィルタの温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める演算手段と、
前記演算手段により求められた周波数の前記高周波信号を、前記高周波信号発生手段により発生させて前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加し、所望の波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させる制御手段と、
を備えることを特徴とする音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【0053】
(付記2)前記音響光学型チューナブルフィルタは、一定の光周波数間隔の光信号を一定の周波数間隔の高周波信号により出力させるものであり、前記周波数間隔は、温度に応じて線形に変化する温度特性を有し、
前記演算手段は、前記音響光学型チューナブルフィルタの温度と、前記温度特性とに基づき前記温度における前記周波数間隔を求める周波数間隔演算手段と、
前記周波数間隔演算手段によって求めた前記周波数間隔と、前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光の波長と、当該基準光を前記基準光の出力ポートから出力させるための前記高周波信号の周波数と、に基づいて、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める高周波信号演算手段と、
を有することを特徴とする付記1に記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【0054】
(付記3)前記演算手段は、前記音響光学型チューナブルフィルタの温度と、前記光の強度の検出を継続して行うことで、温度変化に対応して所望の波長の光信号を出力させるための最適な高周波信号の周波数を演算し、
前記制御手段は、前記演算手段によって導き出された、温度変化に対応した周波数を前記高周波信号発生手段によって前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加することを特徴とする付記1または2に記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【0055】
(付記4)所定の波長の前記基準光を出力する1つの基準光源を備え、
前記音響光学型チューナブルフィルタは、前記基準光源から出力された前記基準光が入力される1つの前記基準光の入力ポートと、前記波長多重光の入力ポートと、基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを含むフィルタが単一の基板上に形成されてなることを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【0056】
(付記5)波長多重された前記光信号を複数に分岐させる分岐手段を備え、
前記音響光学型チューナブルフィルタは、前記分岐手段により分岐された前記光信号が入力される複数の波長多重光の入力ポートと、当該波長多重光の入力ポートに対応する複数の波長多重光の出力ポートとを備えることを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【0057】
(付記6)既知の波長の基準光が入力される基準光の入力ポートと、波長多重された光信号が入力される波長多重光の入力ポートと、印加された高周波信号に応じた波長の光を出力する基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを備えた音響光学型チューナブルフィルタにおける波長選択方法であって、
前記基準光の入力ポートに既知の波長の基準光を入力する基準光入力工程と、
前記各出力ポートから出力された光の強度を検出する光検出工程と、
前記光検出工程によって検出された前記基準光の出力ポートの光の強度に基づいて、前記基準光の入力ポートに入力された基準光を前記基準光の出力ポートへ出力させる高周波信号の周波数を検出する基準光周波数検出工程と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する温度検出工程と、
前記光検出工程によって検出された前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光周波数検出工程によって検出された基準光を出力させる前記高周波信号の周波数と、前記温度検出工程により検出された温度と、予め測定した前記音響光学型チューナブルフィルタの温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める演算工程と、
前記演算工程により求められた周波数の前記高周波信号を発生させて前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加し、所望の波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させる制御工程と、
を含むことを特徴とする波長選択方法。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置、および波長選択方法は、高密度WDMによる光信号の伝送に有用であり、特に、メトロネットワークにおける光信号の分岐挿入のための波長選択に適している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の実施の形態にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置の構成を説明する説明図である。
【図2】AOTFの構成を説明する説明図である。
【図3】RF信号発生回路の構成を示すブロック図である。
【図4】光モニタ回路の構成を示すブロック図である。
【図5−1】集積ドロップ型AOTF温度(TAOTF)を変化させた時のRF信号周波数間隔ΔFの測定値を示す図表である。
【図5−2】集積ドロップ型AOTFの温度とRF信号の周波数間隔との関係を示す図表である。
【図6】この発明にかかる音響光学型チューナブルフィルタ制御装置による波長選択動作を説明するフローチャートである。
【図7】ドロップ型AOTFの温度依存性引き寄せ効果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
100 音響光学型チューナブルフィルタ制御装置
101 集積ドロップ型AOTF
102 RF信号発生回路
103 光モニタ回路
104 FPGA
105 DSP
106 光タップ
108 分岐カプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の波長の基準光が入力される基準光の入力ポートと、波長多重された光信号が入力される波長多重光の入力ポートと、印加された高周波信号に応じた波長の光を出力する基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを備えた音響光学型チューナブルフィルタと、
前記音響光学型チューナブルフィルタに印加する所望の周波数の高周波信号を発生させる高周波信号発生手段と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの前記各出力ポートから出力された光の強度を検出する光検出手段と、
前記光検出手段によって検出された前記基準光の出力ポートの光の強度に基づいて、前記基準光の入力ポートに入力された基準光を前記基準光の出力ポートへ出力させる高周波信号の周波数を検出する基準光周波数検出手段と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する温度検出手段と、
前記光検出手段によって検出された前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光周波数検出手段によって検出された基準光を出力させる前記高周波信号の周波数と、前記温度検出手段により検出された温度と、予め測定した前記音響光学型チューナブルフィルタの温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める演算手段と、
前記演算手段により求められた周波数の前記高周波信号を、前記高周波信号発生手段により発生させて前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加し、所望の波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させる制御手段と、
を備えることを特徴とする音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【請求項2】
前記音響光学型チューナブルフィルタは、一定の光周波数間隔の光信号を一定の周波数間隔の高周波信号により出力させるものであり、前記周波数間隔は、温度に応じて線形に変化する温度特性を有し、
前記演算手段は、前記音響光学型チューナブルフィルタの温度と、前記温度特性とに基づき前記温度における前記周波数間隔を求める周波数間隔演算手段と、
前記周波数間隔演算手段によって求めた前記周波数間隔と、前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光の波長と、当該基準光を前記基準光の出力ポートから出力させるための前記高周波信号の周波数と、に基づいて、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める高周波信号演算手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記音響光学型チューナブルフィルタの温度と、前記光の強度の検出を継続して行うことで、温度変化に対応して所望の波長の光信号を出力させるための最適な高周波信号の周波数を演算し、
前記制御手段は、前記演算手段によって導き出された、温度変化に対応した周波数を前記高周波信号発生手段によって前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加することを特徴とする請求項1または2に記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【請求項4】
波長多重された前記光信号を複数に分岐させる分岐手段を備え、
前記音響光学型チューナブルフィルタは、前記分岐手段により分岐された前記光信号が入力される複数の波長多重光の入力ポートと、当該波長多重光の入力ポートに対応する複数の波長多重光の出力ポートとを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の音響光学型チューナブルフィルタ制御装置。
【請求項5】
既知の波長の基準光が入力される基準光の入力ポートと、波長多重された光信号が入力される波長多重光の入力ポートと、印加された高周波信号に応じた波長の光を出力する基準光の出力ポートと、波長多重光の出力ポートとを備えた音響光学型チューナブルフィルタにおける波長選択方法であって、
前記基準光の入力ポートに既知の波長の基準光を入力する基準光入力工程と、
前記各出力ポートから出力された光の強度を検出する光検出工程と、
前記光検出工程によって検出された前記基準光の出力ポートの光の強度に基づいて、前記基準光の入力ポートに入力された基準光を前記基準光の出力ポートへ出力させる高周波信号の周波数を検出する基準光周波数検出工程と、
前記音響光学型チューナブルフィルタの温度を検出する温度検出工程と、
前記光検出工程によって検出された前記波長多重光の出力ポートの光の強度と、前記基準光周波数検出工程によって検出された基準光を出力させる前記高周波信号の周波数と、前記温度検出工程により検出された温度と、予め測定した前記音響光学型チューナブルフィルタの温度に依存した出力特性とに基づき、所望する波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させるために印加する前記高周波信号の周波数を求める演算工程と、
前記演算工程により求められた周波数の前記高周波信号を発生させて前記音響光学型チューナブルフィルタへ印加し、所望の波長の光信号を前記波長多重光の出力ポートから出力させる制御工程と、
を含むことを特徴とする波長選択方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−330515(P2006−330515A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156304(P2005−156304)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人情報通信研究機構、「フォトニックネットワークに関する光アクセス網高速広帯域通信技術の研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】