説明

音響機器用塗料

【課題】スピーカー、ヘッドホン等の振動板および筐体に塗布される塗料の高弾性、高損失化を図り、優れた音響特性を有するスピーカーおよびヘッドホンを提供する。
【解決手段】カーボンナノファイバーと同じ炭素からなるフラーレンはカーボンナノファイバーと異なりトルエン等の有機溶剤に溶解することから高分子材料との親和性が大きく、分散容易である。また、複合材料の補強材として使用されるカーボン繊維等を曳きつける力、すなわち凝集力が強い特性を有する。この両特性を応用し、カーボングラファイト、マイカ等の燐片状形態を有する材料からなる塗料に添加し、スピーカーおよびヘッドホン等の振動板および筐体に用いられる塗料の高弾性、高損失化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカー、ヘッドホン等の振動板、匡体の表面に塗布する塗料において塗料にフラーレンを配合し、塗膜物性を改善し、音響特性の向上を目的とする技術に関るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スピーカー、ヘッドホン等音響機器の音響材料にカーボンナノチューブに代表されるナノファイバーを配合した塗料あるいはナノファイバーを複合したナノコンポジットが使用されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「日経ものつくり」2005.06
【0004】
【非特許文献2】月刊「化学経済」2007.02
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノコンポジットを作る上での重要な技術は、カーボンナノファイバー等のナノ材料を高分子材料中に均一に分散することとナノファイバーと高分子材料との接着性を向上させることである。
【0006】
現在、カーボンナノファイバー等の材料ではファイバー表面を化学的に改質し、改善する技術開発が進められているが、工業材料として一般的普及に至っていない。
【0007】
本発明はカーボンナノファイバーと同じ炭素からなるフラーレンをスピーカー、ヘッドホン等の振動板、匡体材料に用い、材料に要求される高弾性化、高内部損失化を図り、スピーカー、ヘッドホンの音響特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
カーボン繊維、ガラス繊維、グラファイトに代表されるミクロンサイズ材料を用いた複合材料はスピーカー、ヘッドホン等の振動板、匡体に多く用いられている。ミクロンサイズ材料はナノ材料と比較して、表面改質技術が確立されているが、まだ十分とは言えない。
【0009】
現在、このミクロンサイズ材料を用いた複合材料の引っ張り強度等の物性をさらに改善をするためにナノ材料との併用による新たな検討がなされている。
【0010】
ナノ材料としては、カーボンナノファイバーと同じ炭素からなるフラーレンが用いられている。フラーレンはカーボンナノファイバーと異なり、トルエン等の有機溶剤に溶解することから高分子材料との親和性が大きく、高分子材料中へ均一に分散する。この特性を利用し、高分子材料への強化材の分散性、接着性を改善し、物性の向上を図るものである。
【0011】
これまで、ミクロンサイズ材料としてカーボン繊維、高分子材料としてエポキシ樹脂を用い、これにフラーレン(C60,C70の混合)、重量比4%を添加した複合材料において、引っ張り強度26%、破壊強度34%の向上が確認されている。この物性の向上は添加されたフラーレンがミクロサイズ材料であるカーボン繊維間に入り込み繊維同士を曳きよせる力、いわゆる凝集力を発現し、繊維間の結合力が増加し、その結果であると推測されている。現在、応用商品としてテニスラケット等のフレームに使用され商品化がなされている。(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)
【0012】
スピーカー等の音響機器の振動板、匡体には音響特性の向上を図るために、コーティング剤と称して、多くの塗料が用いられている。この塗料にフラーレンの効果を応用すべく、ミクロンサイズ材料としては繊維材料とは異なり塗料化が容易で、フラーレンの効果を良好に発現する材料の探索研究を行い、カーボングラファイト、マイカに代表される鱗片状(板状)形態を有する材料が繊維形態材料と同様にフラーレン添加による効果を発現し、塗料膜に音響材料に要求される高弾性化、高内部損失化が実現される本発明に至った。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の効果を実証するために以下の実施例1〜4を行った。
以下に本発明で使用した材料名を示す。なお、材料はここに示したものに限定されるものではない。
【0014】
高分子材料:以下の樹脂と硬化剤を重量比100:6で混合したもの
樹脂:バイロンUR−1400(ポリエステルウレタン樹脂)東洋紡(株)
硬化剤:デュラネート21S−75E旭化成ケミカルズ(株)
フラーレン:nano mix ST フロンティアカーボン(株)
鱗片状(板状)形態材料
(1)カーボングラファイト:SECファインパウダー グレードSNE
SECカーボン(株)
(2)マイカ:湿式粉砕マイカ粉A−21S (株)山口雲母工業所
【0015】
塗料化には有機溶剤としてトルエン、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルを用い塗料の固形分を30重量%にした。
【0016】
なお、有機溶剤の配合比は実施例1〜3の塗布方法に適する溶液粘度に合わせるため実施例1〜3では少し異なるが、およその配合は重量比でおよそトルエン:メチルエチルケトン:酢酸エチル=50:40:10である。
【実施例1】
【0017】
高分子材料85部、カーボングラファイト15部に対してフラーレンを0.5部〜5部を加えて、塗料化、厚さ75ミクロンのポリエステルフィルムに塗布、乾燥した後に振動リード法にてヤング率、内部損失を測定した。尚、乾燥後の塗膜の厚さは10ミクロン。
【0018】
図1から明らかなようにフラーレン1%の添加量でヤング率が大きく上昇、これに対して内部損失の変化が少なく、音響材料への効果が確認された。
【実施例2】
【0019】
高分子材料85部、マイカ15部に対してフラーレンを0.5部〜5部を加えて、塗料化、実施例1同様に、ポリエステルフィルムに塗布、乾燥した後に振動リード法にてヤング率、内部損失を測定した。
【0020】
結果を図3に示したように、実施例1のグラファイトと同様な効果が確認された。ポリエステルフィルムの厚さ、乾燥後の塗膜の厚さは実施例1と同一条件とした。
【実施例3】
【0021】
実施例1の塗料からフラーレンを取り除いた塗料と0.5%を添加した実施例1の塗料を10cmフルレンジスピーカーの振動板に塗布し、再生周波数特性の比較測定を行った。その結果を図3に示す。
【0022】
実施例1を塗布したスピーカーは、フラーレン添加のヤング率向上の効果が表れ再生周波数特性のピストン帯域が高周波数側にシフトし、スピーカーの特性が改善された。内部損失が影響するピストン帯域以降の分割帯域の現れる周波数特性のピークディップ幅に変化が見られず、図1に見られる内部損低下の影響は見られなかった。
【実施例4】
【0023】
実施例2から取り除いた塗料と1%を添加した実施例2の塗料をスピーカー、ヘッドホン筐体に多用されるABS樹脂で、長さ100ミリ、幅5ミリ厚さ、2ミリ)の短冊片を作り、塗料を厚さ約200ミクロン塗布し、振動リード法でヤング率、内部損失を測定し音響材料特性を評価した。
【0024】
結果を以下に示す。
【表1】

【0025】
結果から明らかなように内部損失の変化が少なく、ABSのヤング率が向上する効果が見られ、スピーカー、ヘッドホン等の匡体の音響特性が向上することが解った。
【発明の効果】
【0026】
実施例1、2で示したように塗料皮膜(複合体)の物性、特に音響材料に要求される高弾性化が図られ、実施例3〜4で示したように音響特性が改善され、フラーレン配合の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の振動リード法によるフラーレン添加量とヤング率(Pa)、内部損失 tanδの測定結果図である。
【0028】
【図2】実施例2の振動リード法によるフラーレン添加量とヤング率(Pa)、内部損失 tanδの測定結果図である。
【0029】
【図3】実施例3の10cmフルレンジスピーカーのフラーレン添加、有無の比較再生周波数特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状形態を有する粉体とフラーレンからなるスピーカー、ヘッドホン等音響機器の振動板、匡体等の表面に塗布する音響機器用塗料。
【請求項2】
請求項1のフラーレンはC60、C70、他フラーレンおよびそれら化学的処理を施したフラーレン誘導体。
【請求項3】
請求項1の塗料はフラーレン含有量、重量比0.5%から5.0%であること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−130401(P2011−130401A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299464(P2009−299464)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(506150146)ビフレステック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】