説明

音響装置

【課題】適切なスレッショルドレベルを設定し、クリップの発生を抑制することが可能な「音響装置」を提供する。
【解決手段】音響装置10では、オーディオ信号が所定のスレッショルドレベルを超えないように、当該オーディオ信号を調整して出力するDSP12と、DSP12から出力されるオーディオ信号を増幅してスピーカ22に出力するパワーアンプ20と、パワーアンプ20において検出されるクリップ信号を取得するとともに、当該クリップ信号が取得されている間、スレッショルドレベルが小さくなる方向に段階的に補正するCPU14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置に関し、特にスレッショルドレベルに応じた信号の調整を行う調整部を含む音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンプがクリップすることにより、歪みや音割れなどの不快な音を生じるとともに、スピーカの耐久性を損なうなどの問題が生じていた。
【0003】
これを解決するための技術として、例えば、図5や図6に示す技術が採用されている。このうちの図5の技術は、電子ボリューム102を含むものであり、パワーアンプ104からクリップ信号が出力された場合に、CPU106が電子ボリューム102のボリュームをコントロールする(ボリュームを下げる)ことにより、クリップの発生を防止するものである。
【0004】
また、図6(a)の技術は、リミッタとしての機能を有するDSP(Digital Signal Processor)112を含むものであり、CPU114がA/Dコンバータ116においてモニタしている電源電圧Vbに基づいて、リミッタのスレッショルドレベルを図6(b)に示すようなテーブルに基づいて設定するというものである。
【0005】
なお、特許文献1には、中域から高域の歪感を低減しつつ、低域中心の音楽のパワー感を損なわないようにする音響制御を実現する技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−323156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図5の技術では、電子ボリューム102の調整量の最小単位が、電子ボリューム102の最小ステップに依存するため、当該最小ステップよりも細かい調整を行うことができない。このため、クリップ検出時には、出力波形がうねり、安定した出力を得ることができない。また、出力が不安定なため、連続信号の歪み率も一定しない。
【0008】
また、図6の技術では、上述した図5の技術の問題点は解消されているものの、CPU114内蔵のA/Dコンバータ116による電源電圧Vbの検出精度が十分でない場合には誤差が生じてしまうため、図6(b)に示すテーブルに基づいてスレッショルドレベルを設定しても、その値が適切でない可能性がある。これにより、製品によっては、設定より歪みが小さすぎたり、あるいは大きすぎたりするという事態が生じるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、適切なスレッショルドレベルを設定し、クリップの発生を抑制することが可能な音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の音響装置は、音源から入力されるオーディオ信号の信号強度が所定のスレッショルドレベルを超えないように、当該オーディオ信号を調整して出力する調整部と、前記調整部から出力されるオーディオ信号を増幅してスピーカに出力する増幅部と、前記増幅部において検出されるクリップ信号を取得するクリップ信号取得部と、前記クリップ信号取得部において前記クリップ信号が取得されている間、前記スレッショルドレベルを小さくする補正を段階的に実行する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、制御部は、クリップ信号取得部においてクリップ信号が取得されている間、スレッショルドレベルを小さくする補正を段階的に実行するので、装置の個体差によるばらつきに影響されることなく、クリップ信号取得部がクリップ信号を取得しなくなるスレッショルドレベルを適切に設定することができる。また適切なスレッショルドレベルを設定することにより、正確な歪み率でクリップの発生を適切に抑制することが可能となる。
【0012】
この場合において、前記制御部は、電源電圧に応じて、前記スレッショルドレベルの初期値を決定し、前記スレッショルドレベルの初期値の補正を段階的に実行することができる。かかる場合には、電源電圧に応じた適切なスレッショルドレベルの設定を行うことができる。
【0013】
この場合、前記制御部は、前記電源電圧が変更される毎に前記初期値を決定して、前記補正を段階的に実行するようにすることもできる。かかる場合には、電源電圧が変更されるごとに、スレッショルドレベルを適切な値に設定することができる。
【0014】
また、スレッショルドレベルの初期値を決定して補正する場合、前記制御部は、前記スレッショルドレベルの初期値を、前記クリップ信号取得部が必然的に前記クリップ信号を取得できる程度の値に決定することができる。かかる場合には、スレッショルドレベルを一方向(小さくなる方向)に補正していくのみで、スレッショルドレベルの設定を簡易かつ適切に行うことが可能となる。
【0015】
本発明の音響装置では、前記制御部は、前記クリップ信号取得部において前記クリップ信号が取得されない状態が所定時間続いた後に、前記クリップ信号を取得した場合には、前記補正を一定時間実行しないこととしても良い。かかる場合には、出力信号がスレッショルドレベルを超えてから利得を低減するまでの間(アタック期間)、スレッショルドレベルを補正しないこととすることで、スレッショルドレベルを過度に低く設定してしまうのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、適切なスレッショルドレベルを設定し、クリップの発生を抑制することが可能な音響装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の音響装置の一実施形態について、図1〜図4に基づいて説明する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る音響装置10の構成を示している。この音響装置10は、音源からのオーディオ信号を調整するリミッタ機能を有する調整部としてのDSP(デジタル信号プロセッサ)12と、DSP12から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ18と、クリップ検出機能を有する増幅部としてのパワーアンプ20と、DSP12のリミッタ機能におけるスレッショルドレベルを設定するクリップ信号検出部及び制御部としてのCPU14とを備えている。
【0019】
DSP12のリミッタ機能は、音源からのオーディオ信号が、CPU14によって設定されたスレッショルドレベルを超えないように調整するものである。パワーアンプ20は、D/Aコンバータ18から出力されたアナログ信号を増幅して、スピーカ22に出力する。また、パワーアンプ20では、増幅したアナログ信号が所定のクリップレベルを超えたのを検出したときに、CPU14に対してクリップ信号を出力する。CPU14は、電源電圧をモニタするA/Dコンバータ16を有しており、この電源電圧と、パワーアンプ20から送信されるクリップ信号とに基づいて、DSP12のリミッタ機能において用いられるスレッショルドレベルを設定する。
【0020】
ここで、CPU14によるスレッショルドレベルの設定方法につき、図2のフローチャートに沿って、かつその他の図面を適宜参照しつつ説明する。
【0021】
まず、CPU14は、図2のステップS10において、アタック期間であるか否かを判断する。ここで、アタック期間とは、図3のリミッタ動作イメージに示すように、オーディオ信号が無信号の状態から大信号の状態に移行した際に、予め定められているスレッショルドレベル(「既定スレッショルドレベル」とも呼ぶ)を超えてから利得を低減するまでに要する期間をいう。本実施形態では、このアタック期間中は、スレッショルドレベルの設定を実行しないので(この理由については後述する)、ここでの判断が否定されるまで、ステップS10を繰り返す。なお、CPU14は、アタック期間の長さに関するデータを予め保持しているため、アタック期間か否かについての判断は、無信号から大信号状態に移行してからの経過時間に基づいて行うようにしている。
【0022】
次いで、ステップS12では、A/Dコンバータ16でモニタされる電源電圧Vbに応じて、CPU14がスレッショルドレベルの初期値を設定する。この場合のスレッショルドレベルの初期値としては、DSP12においてオーディオ信号がスレッショルドレベル以下となるように調整したとしても、パワーアンプ20においてクリップ信号が確実に出力されるような値に設定する。具体的には、例えば電源電圧Vbが13.0Vであった場合、図6(b)に示すように、従来は−1.0dB程度のスレッショルドレベルを設定していたので、その値(−1.0dB)よりも大きい−0.7dBや−0.8dBなどの値を設定する。なお、本実施形態では、スレッショルドレベルの初期値として、−0.8dBを設定したものとして、以下説明する。
【0023】
そして、DSP12において、オーディオ信号がスレッショルドレベル(−0.8dB)以下となるように調整された後、ステップS14に移行すると、CPU14は、パワーアンプ20からクリップ信号が出力されたか否かを判断する。この段階では、図4の表に示すように、スレッショルドレベルが−0.8dBの状態では、クリップ信号が「有」であるので、ここでの判断は肯定され、ステップS16に移行する。
【0024】
次のステップS16では、CPU14が、補正値(ここでは、微小な値(−0.02dB)とする)によりスレッショルドレベルを補正して、新たなスレッショルドレベルの値として−0.82dBを設定する。そして、DSP12において、オーディオ信号がスレッショルドレベル(−0.82dB)以下となるように調整された後、ステップS14に戻り、クリップ信号が出力されたか否かを判断する。この場合にも、図4に示すようにクリップ信号は「有」であるので、ここでの判断は肯定され、再度、ステップS16に移行して、補正値(−0.02dB)によりスレッショルドレベルを補正(−0.84dB)する。
【0025】
その後は、CPU14は、クリップ信号の出力がなくなるまでステップS14とステップS16とを繰り返し実行し、クリップ信号の出力がなくなった時点(図4では、スレッショルドレベルが−1.04dBになった時点)で、ステップS14の判断が否定され、ステップS18に移行する。なお、オーディオ信号が小信号でありつづけると、クリップ信号が一定時間検出されないこともあることから、ステップS14においては、スレッショルドレベルを補正した後、所定時間(例えば1分)経過してもクリップ信号が検出されなかった場合にのみ、「クリップ信号が検出されなかった」と判断するようにすることが好ましい。
【0026】
次のステップS18では、CPU14は、スレッショルドレベルを−1.04dBに確定し、ステップS20に移行して電源電圧が変更されるまで待機する。
【0027】
その後、電源電圧が変更された場合には、ステップS10に戻り、アタック期間経過後(ステップS12)、スレッショルドレベルの初期値を電源電圧に応じて変更し(ステップS14)、スレッショルドレベル(の初期値)の補正(ステップS16)を繰り返すことにより、電源電圧に応じた新たなスレッショルドレベルを確定する処理(ステップS18)を実行する。
【0028】
なお、本実施形態において、前述したようにアタック期間中はスレッショルドレベルの設定(補正)動作を行わないようにしたのは(ステップS10参照)、大信号状態においては、オーディオ信号がアタック期間開始時のスレッショルドレベル(既定スレッショルドレベル)以下にならない限り、たとえスレッショルドレベルを下げる補正を行っても、クリップし続けてしまうからであり、アタック期間中の補正によってスレッショルドレベルを必要以上に低い値に設定しまうおそれがあるからである。
【0029】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、パワーアンプ20においてクリップ信号が検出されている間、CPU14は、スレッショルドレベルが小さくなる方向に段階的に(微小量(例えば−0.02dB)ずつ)補正することとしているので、音響装置の個体差によるばらつきに影響されることなく、クリップしないスレッショルドレベルを適切に設定することができる。また、適切なスレッショルドレベルを設定することで、音響装置におけるクリップの発生を低減することが可能である。
【0030】
また、本実施形態では、スレッショルドレベルの初期値を、クリップが生じる可能性(蓋然性)が高い値に設定することとしているので、補正の際には、スレッショルドレベルが小さくなる方向に補正するのみで良い。これにより、スレッショルドレベルの設定(確定)を簡易かつ適切に行うことが可能である。
【0031】
また、本実施形態では、クリップ信号が取得されない状態が続いた後(無信号状態が続いた後)に、クリップ信号を取得した場合(大信号状態になった場合)には、一定時間(アタック期間の間)はスレッショルドレベルの設定動作(補正動作)を実行しないこととしているので、スレッショルドレベルを必要以上に低く設定してしまうのを防止することが可能である。
【0032】
なお、上記実施形態では、電源電圧ごとにスレッショルドレベルの初期値を変更することとしたが、これに限らず、電源電圧の値にかかわらず、予め設定された初期値を用いてスレッショルドレベルの設定(補正)動作を行うこととしても良い。
【0033】
また、上記実施形態では、スレッショルドレベルの補正値が一定値(例えば−0.02dB)である場合について説明したが、これに限らず、補正回数に応じて、補正値を徐々に小さくするようにすることとしても良い。
【0034】
また、上記実施形態では、クリップ信号の検出が無くなった時点における値(上記実施形態では−1.04dB)を、スレッショルドレベルに設定する場合(ステップS18参照)について説明したが、これに限らず、例えば、クリップ信号の検出がなくなった時点における値に、所望の歪み率を得るための係数(例えば、3%の歪みであれば、0.2dB)を加算して、その値をスレッショルドレベルとして確定することとしても良い。
【0035】
また、上記実施形態では、電源電圧が変更された場合に、スレッショルドレベルの再設定動作を開始する(ステップS20)シーケンスについて説明したが、これに限らず、例えば、電源電圧の変更分が所定の値(例えば0.5V)以上になった場合に、スレッショルドレベルの再設定動作を開始するようなシーケンスを採用しても良い。
【0036】
また、上記実施形態では、アタック期間中は、スレッショルドレベルの設定動作を実行しない場合について説明したが、これに限らず、アタック期間が短い場合など、スレッショルドレベルの設定動作にほとんど影響が生じない場合には、アタック期間中であっても、スレッショルドレベルの設定動作を開始することとしても良い。
【0037】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。また、上記実施形態の説明において使用した数値は一例であって、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施形態に係る音響装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のCPUによるスレッショルドレベルの設定シーケンスを示すフローチャートである。
【図3】リミッタ動作のイメージ図である。
【図4】スレッショルドレベルと、クリップ信号の検出の有無との関係を示す図である。
【図5】従来技術を説明するための図(その1)である。
【図6】従来技術を説明するための図(その2)である。
【符号の説明】
【0039】
10 音響装置
12 DSP(調整部)
14 CPU(クリップ信号取得部、制御部)
20 パワーアンプ(増幅部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源から入力されるオーディオ信号の信号強度が所定のスレッショルドレベルを超えないように、当該オーディオ信号を調整して出力する調整部と、
前記調整部から出力されるオーディオ信号を増幅してスピーカに出力する増幅部と、
前記増幅部において検出されるクリップ信号を取得するクリップ信号取得部と、
前記クリップ信号取得部において前記クリップ信号が取得されている間、前記スレッショルドレベルを小さくする補正を段階的に実行する制御部と、を備える音響装置。
【請求項2】
前記制御部は、電源電圧に応じて、前記スレッショルドレベルの初期値を決定し、前記スレッショルドレベルの初期値の補正を段階的に実行することを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電源電圧が変更される毎に前記初期値を決定して、前記補正を段階的に実行することを特徴とする請求項2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記スレッショルドレベルの初期値を、前記クリップ信号取得部が必然的に前記クリップ信号を取得できる程度の値に決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記クリップ信号取得部において前記クリップ信号が取得されない状態が所定時間続いた後に、前記クリップ信号を取得した場合には、前記補正を一定時間実行しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−159537(P2009−159537A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338298(P2007−338298)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】