説明

順止バルブ、燃料電池システム

【課題】低背な構造でも、ダイヤフラムとバルブ室の底面とが貼り付くのを防ぐことができる順止バルブ、及びこの順止バルブを備える燃料電池システムを提供する。
【解決手段】バルブ筐体130には、弁部150を開放させたときに、ダイヤフラム120が当接する半円状の突出部144と、メタノールを突出部144の内側から外側へ通過させる流路が、バルブ室140の底面141上における流入孔143の周囲に形成されている。また、この突出部144は、h>2γSb/Fsの関係を満たす形状に形成されている。そのため、この実施形態の順止バルブ101では、ダイヤフラム120が、弁部150の開放時にバルブ室140の底面141でなく突出部144に接触し、その下降量が規制される。さらに、ダイヤフラム120が突出部144に接触した時、メタノールは突出部144の内側から流路を介して突出部144の外側へ通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の順方向の流れを制御する順止バルブ、及びこの順止バルブを備える燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の燃料電池に用いられるパッシブ駆動の減圧弁が特許文献1に開示されている。この減圧弁は、流体の圧力が設定圧力になると、圧力差を利用してバルブが自動的に開閉するように構成されている。
【0003】
図1(A),図1(B)に、特許文献1に開示されている減圧弁の断面図を示す。この減圧弁は、可動部となるダイヤフラム1、伝達機構であるピストン2、バルブ筐体7、および、弁部を形成する弁座部3、弁体部4、および、支持部5からなる。弁体部4は支持部5によって周囲に支持されている。支持部5は、弾性を有する梁によって形成されている。また、バルブ筐体7は、ダイヤフラム1とともにバルブ室8を構成する。
【0004】
ダイヤフラム(可動部)1上部の圧力をP0、バルブ上流の1次圧力をP1、バルブ下流の圧力をP2とし、弁体部4の面積をS1、ダイヤフラム(可動部)1の面積をS2とする。このとき、圧力の釣り合いから、図1(B)のようにバルブが開く条件は、(P1−P2)S1<(P0−P2)S2となる。P2がこの条件の圧力より高いとバルブは閉じ、低いとバルブは開く。これによって、P2を一定に保つことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−59093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)においては、燃料(メタノール)の輸送を行うポンプを備えている。一般に、弁方式のポンプには弁による逆止機能はあるが、順止機能(順方向の流れを止める機能)は無い。順止機能の無いポンプを用いると、上流側の圧力(順方向の圧力)が燃料に印加される場合に、ポンプの非作動時にも燃料が流れてしまう。
【0007】
また、燃料電池システム内に組み込まれる燃料カートリッジが、外環境によっては高温になることがあり、高圧の流体が吐出されることがある。これにより、過剰な流体が燃料セルに供給されたり、場合によってはポンプを破壊してしまうおそれがある。そこで、高圧な流体が万が一加わった時に、順方向の流れを止めるバルブ(以下、順止バルブという)が求められている。
【0008】
例えば、特許文献1の減圧弁を、順止バルブとして用いようとしたとしても機能し得ない。また、燃料電池システムとして低背化が求められているが、ダイヤフラム1と対向するバルブ室8の底面9とダイヤフラム1との距離を狭くし、特許文献1の減圧弁を低背化すると、ダイヤフラム1が、弁の開放時にバルブ室8の底面9に接触するおそれがある。そして、メタノールのような液体を流体として当該減圧弁に使用した場合、ダイヤフラム1とバルブ室8の底面9とが接触した時に、当該液体の表面張力によりダイヤフラム1とバルブ室8の底面9とが貼り付くおそれがある。そのため、特許文献1の減圧弁を低背化した構造では、ダイヤフラム1とバルブ室8の底面9との貼付によりダイヤフラム1が元の位置に戻らなくなってしまい、弁が閉じなくなってしまうことがある。
【0009】
従って、上記特許文献1の減圧弁を低背化した構造を備える従来の順止バルブでは、その順止バルブに流体として液体を使用する場合、流体制御の十分な信頼性が得られないという問題があった。
【0010】
そこで本発明は、低背な構造でも、ダイヤフラムとバルブ室の底面とが貼り付くのを防ぐことができる順止バルブ、及びこの順止バルブを備える燃料電池システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の順止バルブは、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0012】
(1)バルブ筐体と、
前記バルブ筐体とともにバルブ室を構成し、前記バルブ室内の液体の圧力によって変位するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムの変位によって前記バルブ室への流体の流入を遮断又は開放させる弁部と、
前記バルブ筐体に接合され、前記ダイヤフラムに対向するキャップ部と、を備え
前記バルブ筐体には、前記バルブ室へ液体が流入する流入孔と、ポンプが接続されて前記ポンプによる液体の吸引圧力によって前記バルブ室から液体が流出する流出孔と、前記流入孔の周縁に位置する弁座と、が形成された、順止バルブであって、
前記弁部は、前記ダイヤフラムが下降して前記ダイヤフラムに押し下げられることによって前記弁座から離間し、前記バルブ室への液体の流入を開放させる弁体と、前記弁体が前記弁座に対して接近および離間する方向へ可動自在に前記弁体を支持し、前記弁体が前記弁座に接近する方向へ前記弁体を附勢する支持部と、を有し、
前記バルブ筐体または前記キャップ部には、前記ダイヤフラムの下降量を規制する規制部が形成された。
【0013】
この構成では、ダイヤフラムの下降量が、弁開放時に規制部により規制される。そのため、この構成ではダイヤフラムの下降量を規制部によって調整することで、液体の表面張力によりダイヤフラムとバルブ室の底面とが貼り付くこと無く、ダイヤフラムが元の位置に戻り、弁が閉じる。
従って、この構成によれば、低背な構造でも、ダイヤフラムとバルブ室の底面とが貼りつくことを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
【0014】
(2)前記規制部は、前記ダイヤフラムが前記規制部に規制されて下死点に位置する時の前記バルブ室の高さをhとし、前記液体の表面張力係数をγとし、前記バルブ室の底面積をSbとし、前記支持部の附勢力をFsとしたとき、h>2γSb/Fsの関係を満たすよう形成されることが好ましい。
【0015】
この構成では、弁部の支持部の附勢力が液体の表面張力による貼り付き力より強くなる。そのため、ダイヤフラムは液体の表面張力に打ち勝って元に戻り、弁部が閉じる。即ち、ダイヤフラムがバルブ室の底面に表面張力により貼り付くことがない。
【0016】
(3)前記規制部は、前記弁体が前記流入孔から前記バルブ室への液体の流入を開放させたときに、前記ダイヤフラムが当接する突出部と、当該液体を前記突出部の内側から外側へ通過させる流路と、からなり、前記ダイヤフラムと対向する前記バルブ室の底面上における前記流入孔の周囲に形成されることが好ましい。
【0017】
この構成では、突出部によりダイヤフラムの下降量を規制する。詳述すると弁開放時、ダイヤフラムは、バルブ室の底面でなく突出部に接触する。さらに、ダイヤフラムが突出部に接触した時、流体は突出部の内側から流路を介して突出部の外側へ通過する。
【0018】
(4)前記規制部は、前記ダイヤフラムに接合されて大気圧と前記バルブ室の内圧との差圧を受ける受圧板と、前記キャップ部に接合されて前記受圧板の周縁部が載置される載置部と、からなることが好ましい。
【0019】
この構成では、受圧板と載置部とによりダイヤフラムの下降量を規制する。詳述すると弁開放時、ダイヤフラムはバルブ室の底面に接触せず、ダイヤフラムの下死点がバルブ室の底面の上方にくる。
【0020】
(5)前記液体はメタノールであることが好ましい。
【0021】
また、本発明の燃料電池システムは、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0022】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の順止バルブと、
前記順止バルブの前記流入孔に接続される燃料貯蔵部と、
前記順止バルブの前記流出孔に接続されるポンプと、を備える。
【0023】
この構成により、上記(1)〜(5)のうちいずれかに記載の順止バルブを用いることで、当該順止バルブを備える燃料電池システムにおいても同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、低背な構造でも、ダイヤフラムとバルブ室の底面とが貼り付くのを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】特許文献1の順止バルブの構造を説明する断面図である。
【図2】順止バルブの動作原理を説明する順止バルブの模式断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101を備える燃料電池システムのシステム構成図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101の構造を説明する分解斜視図である。
【図5】図5(A)は、図4の順止バルブ101に備えられるキャップ部110の上面図である。図5(B)は、図4の順止バルブ101に備えられるバルブ筐体130の下面図である。
【図6】図5(A)のS−S線における断面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101の弁開放時の模式断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る順止バルブ201に備えられるバルブ筐体230の斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る順止バルブ201の弁開放時の模式断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る順止バルブ301の弁開放時の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
《順止バルブの動作原理》
まず、小型の燃料電池に用いられるパッシブ駆動の順止バルブの動作原理について説明する。
図2(A)は、弁が閉じた状態における順止バルブ90の模式断面図であり、図2(B)は、弁が開いた状態における順止バルブ90の模式断面図である。順止バルブ90は、可動部となるダイヤフラム20、ダイヤフラム20とともにバルブ室40を構成するバルブ筐体30、バルブ筐体30に接合されたキャップ部10、および、弁体部51を有する弁部50からなる。
【0027】
バルブ筐体30には、バルブ室40へ流体が流入する流入孔43と、ポンプが接続されてポンプによる流体の吸引圧力によってバルブ室40から流体が流出する流出孔49とが形成されている。
【0028】
ダイヤフラム20は、伝達機構であるプッシャ23を有し、バルブ室40の流体の圧力によって変位する。ダイヤフラム20が弁部50に近づく方向へ変位した時、プッシャ23が弁体部51を押下する。
【0029】
弁部50は、弁体部51の流入孔43側にリング状の弁突起55が形成されており、弁突起55が流入孔43の周縁に位置する弁座48に当接するよう配置される。そして、弁体部51は、ダイヤフラム20の変位によって弁座48に対して当接または離間し、流入孔43からバルブ室40への流体の流入を遮断または開放させる。
【0030】
キャップ部10には、外気と通じる孔部15が上面に形成されている。この結果、ダイヤフラム20の上部に大気圧が加わる。
【0031】
順止バルブ90は、流体の圧力が設定圧力になると、圧力差を利用して弁部50が自動的に開閉するように構成されている。詳述すると、ダイヤフラム20上部の大気の圧力をP0、バルブ上流の1次圧力をP1、バルブ下流の圧力をP2とし、弁体部51の面積(ここでは、弁体部51にリング状の弁突起55が形成されているため弁突起55で囲まれた領域の径で決まる面積)をS1、ダイヤフラム20の面積をS2、弁体部51が上向きに付勢する力をFsとする。このとき、圧力の釣り合いから、図2(B)のように弁部50が開く条件は、(P1−P2)S1+Fs<(P0−P2)S2となる。P2がこの条件の圧力より高いと弁部50は閉じ、低いと弁部50は開く。これによって、P2を一定に保つことができる。
【0032】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101を備える燃料電池システム100のシステム構成図である。燃料電池システム100は、燃料であるメタノールを貯蔵する燃料カートリッジ102と、順止バルブ101と、メタノールを輸送するポンプ103と、ポンプ103からメタノールの供給を受けて発電する発電セル104と、を備える。
【0033】
ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)においては、燃料であるメタノールの輸送を行うポンプ103を備えている。一般に、弁方式のポンプ103には弁による逆止機能はあるが、順止機能は無い。順止機能の無いポンプ103を用いると、上流側の圧力(順方向の圧力)がメタノールに印加される場合に、ポンプ103の非作動時にもメタノールが流れてしまう。
そのため、ポンプ103と組み合わせて使用し、ポンプ圧力を利用して弁の開閉を行う順止バルブ101を設ける方が好ましい。
【0034】
順止バルブ101は、詳細を後述するが、ダイヤフラム120とともにバルブ室140を構成するバルブ筐体130を備える。バルブ筐体130には、燃料カートリッジ102が流入路163を介して接続される流入孔143と、ポンプ103が流出路165を介して接続される流出孔149とが形成されている。順止バルブ101は、流入路163と流出路165とが形成されたポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂製のシステム筐体160に、流漏れを防ぐOリング161、162を介して表面実装される。
【0035】
燃料電池システム100では、メタノールが燃料カートリッジ102から流入路163と流入孔143を介してバルブ室140へ流入する。そして、ポンプ103によるメタノールの吸引圧力によってバルブ室140から流出路165と流出孔149を介してポンプ103へメタノールが流出する。そして、メタノールはポンプ103によって発電セル104へ供給される。
【0036】
図4は、第1の実施形態に係る順止バルブ101の分解斜視図である。図5(A)は、図4の順止バルブ101に備えられるキャップ部110の上面図である。図5(B)は、図4の順止バルブ101に備えられるバルブ筐体130の下面図である。図6は、図5(A)のS−S線における断面図である。
【0037】
順止バルブ101は、図4に分解斜視するように、キャップ部110と、可動部となるダイヤフラム120と、バルブ筐体130と、弁部150と、を備える。
【0038】
バルブ筐体130は、略正方形板状である。バルブ筐体130には、バルブ室140へ流体が流入する流入孔143と、ポンプ103が接続されてポンプ103による流体の吸引圧力によってバルブ室140から流体が流出する流出孔149と、が形成されている。また、バルブ筐体130には、キャップ部110とバルブ筐体130をシステム筐体160に固定するためのネジ止め用の穴131と、ダイヤフラム120の周縁部121が載置される載置部134と、が形成されている。
【0039】
また、バルブ筐体130には、図4、図6及び図7に示すように、弁部150が流入孔143からバルブ室140へのメタノールの流入を開放させたときに、ダイヤフラム120が当接する突出部144と、メタノールを突出部144の内側から外側へ通過させる流路145とが、ダイヤフラム120と対向するバルブ室140の底面141上における流入孔143の周囲に形成されている。ここで、突出部144は、本発明の「規制部」に相当する。
【0040】
上記突出部144は、ダイヤフラム120が突出部144に規制されて下死点に位置する時のバルブ室140の高さをhとし、液体の表面張力係数をγとし、バルブ室140の底面積をSbとし、詳細を後述する弁部150の支持部152の附勢力をFsとしたとき、h>2γSb/Fsの関係を満たす形状に形成されている。この実施形態では、当該高さhを0.15(mm)に、当該底面積Sbを115(mm)に設定している。当該底面積Sbは、突出部144の上面の面積も含む。また、この実施形態で使用するメタノールの表面張力係数γは22.6(m・N/m)である。
【0041】
また、バルブ筐体130には、図5(B)及び図6に示すように、弁部150をバルブ筐体130の実装面側から嵌めこむことにより弁部150を収納する開口部147と、流入孔143の周縁に位置する弁座148と、が形成されている。
【0042】
なお、バルブ筐体130の材質については、バルブ筐体130のメタノールと接する部分134、141、144、145、148の材質は耐メタノール性の高い樹脂、例えばPPS(Polyphenylenesulfide)樹脂等からなり、バルブ筐体130のメタノールと接しない縁132の材質は金属からなる。バルブ筐体130は、金属部分の縁132をモールド金型にインサートして射出成形するインサートモールドにより形成される。
【0043】
ダイヤフラム120は、図4及び図6に示すように、伝達機構であるプッシャ123を中心に有し、周縁部121の厚みが中央部122より厚い円板状に形成されている。ダイヤフラム120の材質は、耐メタノール性の高いゴム、例えばエチレンプロピレンゴムまたはシリコーンゴムである。ダイヤフラム120は、周縁部121がバルブ筐体130に載置されてバルブ筐体130とともにバルブ室140を構成する。ダイヤフラム120は、バルブ室140の流体の圧力によって周縁部121の内側の中央部122が変位する。ダイヤフラム120の中央部122が弁部150に近づく方向へ変位した時、プッシャ123が弁体部151を押下する。
【0044】
なお、液体を流体として順止バルブ101に使用した場合、液体の表面張力が大きいため、気体を流体として順止バルブ101に使用した場合より大きな流体の流路が必要となる。しかし、この実施形態の順止バルブ101ではダイヤフラム120の材質がゴムであるため、ダイヤフラム120をシリコンや金属で形成した場合に比べてダイヤフラム120の可動範囲が大きくなる。そのため、この実施形態の順止バルブ101では、十分なメタノールの流路を確保できる。
【0045】
弁部150は、図4及び図6に示すように、略円形状であり、耐メタノール性の高いゴム、例えばシリコーンゴムからなる。弁部150は、ダイヤフラム120の変位によって弁座148に対して当接または離間し、流入孔143からバルブ室140への流体(メタノール)の流入を遮断または開放させる弁体部151と、弁体部151が弁座148に対して接近および離間する方向へ可動自在に弁体部151を支持する支持部152と、メタノールを通過させる孔部153と、弁部150が開口部147に収納されたときにバルブ筐体130の開口部147の内周面に当接し、支持部152を固定する固定部154と、を有する。
なお、弁体部151には、弁座148とのシール性を高めるため、流入孔43側にリング状の弁突起155が形成されているが、弁突起155は必ずしも形成される必要はない。
【0046】
弁体部151は、弁部150が開口部147に収納されたときに弁体部151の弁突起155が弁座148に当接し、弁体部151が流入孔143からバルブ室140への流体の流入を遮断する方向へ弁座148を弁閉時に与圧する。そして、弁体部151は、ダイヤフラム120が下降してダイヤフラム120に押し下げられることによって弁座148から離間し、流入孔143と孔部153が連通して、バルブ室140へのメタノールの流入を開放させる。
この弁開放時、支持部152は、弁体部151が弁座148に対して接近する方向へ弁体部151を附勢力Fsで附勢する。
【0047】
キャップ部110は、図4、図5(A)及び図6に示すように、略正方形板状であり、例えば、ステンレススチールの板を用いて金型成形により形成される。キャップ部110には、キャップ部110とバルブ筐体130をシステム筐体160に固定するためのネジ止め用の穴111が形成されている。ここで、金属製のキャップ部110の縁116は、ダイヤフラム120が載置部134に載置された状態で、バルブ筐体130の金属製の縁132と溶接により接合される。キャップ部110の周縁部位114は、接合されると、ダイヤフラム120の周縁部121を押圧して載置部134とともに周縁部121を挟持する。
【0048】
また、キャップ部110の中央部位113には、外気と通じる孔部115が形成されている。この結果、ダイヤフラム120の上部に大気圧が加わる。
ダイヤフラム120には、この大気圧とバルブ室140の内圧との差圧を受ける円形の金属からなる受圧板125が接合されている。
【0049】
順止バルブ101は、上述した順止バルブ90(図2参照)と同じように、流体の圧力が設定圧力になると、圧力差を利用して弁部150が自動的に開閉するように構成されている。
【0050】
以上の構成では、バルブ室140の底面141とダイヤフラム120との距離を狭くし、順止バルブ101を低背化している。しかし、この実施形態のバルブ筐体130には、図4、図6及び図7に示すように、弁部150を開放させたときに、ダイヤフラム120が当接する半円状の突出部144と、メタノールを突出部144の内側から外側へ通過させる流路145とが、バルブ室140の底面141上における流入孔143の周囲に形成されている。
【0051】
そのため、この実施形態の順止バルブ101では、ダイヤフラム120が、弁部150の開放時にバルブ室140の底面141でなく突出部144に接触し、その下降量が規制される(後述の図7参照)。さらに、ダイヤフラム120が突出部144に接触した時、メタノールは突出部144の内側から流路145を介して突出部144の外側へ通過する。
【0052】
また、この突出部144は、上述したように、h>2γSb/Fsの関係を満たす形状に形成されている。そのため、この実施形態の順止バルブ101では、メタノールの表面張力によりダイヤフラム120とバルブ室140の底面141とが貼り付くこと無く、ダイヤフラム120が元の位置に戻り、弁が閉じる。
【0053】
ここで、弁開放時における液体の表面張力について図7、8を用いて詳述する。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る順止バルブ101の弁開放時の模式断面図である。図7は、バルブ室140内にのみ液体が満たされている場合の表面張力を説明する図である。
なお、図7では説明を簡略化するためダイヤフラム120を全体的に下降させているが、実際は、ダイヤフラム120の周縁部121が載置部134と周縁部121に挟持されているため、ダイヤフラム120における周縁部121より内側の中央部のみが僅かに下降する。
【0054】
図7に示すようにバルブ室140内にのみ液体が満たされている場合、液体内部のラプラス圧ΔPはΔP=2γ/hの式で表わされる。ここで、この実施形態では突出部144の高さhが0.15(mm)、メタノールの表面張力係数γが約22.6(m・N/m)、バルブ室140の底面141の面積Sbが115(mm)であるため、ダイヤフラム120にはメタノールの表面張力によって貼り付き力Fh=2γSb/h≒0.03(N)が作用する。しかし、この実施形態では、弁部150の附勢力Fs(約0.1N)がFs>Fhであるため、ダイヤフラム120は表面張力に打ち勝って元に戻り、弁部150が閉じる。このように、この実施形態の順止バルブ101では、突出部144がh>2γSb/Fs≒0.05(mm)の関係を満たすよう形成されているため、ダイヤフラム120がバルブ室140の底面141に表面張力により貼り付くことがない。
【0055】
以上より、この実施形態の順止バルブ101によれば、低背な構造でも、メタノールの表面張力によりダイヤフラム120とバルブ室140の底面141とが貼り付くのを防ぐことができる。従って、流体制御の信頼性を向上できる。
【0056】
また、以上の構成において、バルブ筐体130のメタノールと接する部分134、141、144、145、148の材質は全て樹脂であり、ダイヤフラム120と弁部150の材質もゴムであるため、金属イオンがメタノール中に溶出することがない。そのため、この実施形態の順止バルブ101では、金属イオンの溶出によるDMFCの特性の劣化も起こらない。
従って、この実施形態の順止バルブ101を用いることで、当該順止バルブ101を備える燃料電池システム100においても同様の効果を奏する。
【0057】
《第2の実施形態》
図8は、本発明の第2の実施形態に係る順止バルブ201に備えられるバルブ筐体230の斜視図である。図9は、バルブ室240内にのみ液体が満たされている場合の表面張力を説明する、順止バルブ201の弁開放時の模式断面図である。
なお、図9では説明を簡略化するためダイヤフラム120を全体的に下降させているが、実際は、ダイヤフラム120の周縁部121が載置部134と周縁部121に挟持されているため、ダイヤフラム120における周縁部121より内側の中央部のみが僅かに下降する。
【0058】
この実施形態の順止バルブ201が上記順止バルブ101と相違する点は、突出部244であり、その他の構成については上記順止バルブ101と同じである。突出部244は、環状に形成されている点で、図4に示す突出部144と異なる。
【0059】
この実施形態における順止バルブ201においても、図8及び図9に示すように、弁部150を開放させたときに、ダイヤフラム120が当接する環状の突出部244と、メタノールを突出部244の内側から外側へ通過させる流路245とが、バルブ室140の底面141上における流入孔143の周囲に形成されている。また、この突出部244も、上述した、h>2γSb/Fsの関係を満たす形状に形成されている。
【0060】
従って、この実施形態の順止バルブ201においても順止バルブ101と同様の効果を奏する。また、この実施形態の順止バルブ201を用いることで、当該順止バルブ201を備える燃料電池システムにおいても同様の効果を奏する。
【0061】
《第3の実施形態》
図10は、本発明の第3の実施形態に係る順止バルブ301の弁開放時の模式断面図である。図10は、同順止バルブ301に備えられるバルブ室240内にのみ液体が満たされている場合の表面張力を説明する図である。
なお、図10では説明を簡略化するためダイヤフラム120を全体的に下降させているが、実際は、ダイヤフラム120の周縁部121が載置部134と周縁部121に挟持されているため、ダイヤフラム120における周縁部121より内側の中央部のみが僅かに下降する。
【0062】
この実施形態の順止バルブ301が上記順止バルブ101と相違する点は、突出部144でなく、受圧板325と、載置部326と、でダイヤフラム120の下降量を規制する点である。その他の構成については上記順止バルブ101と同じである。受圧板325は受圧板125と形状のみが異なり、周縁部の内側の中央部がダイヤフラム120に接合され、周縁部が載置部326に載置される。
【0063】
そのため、この実施形態の順止バルブ301では、弁部150の開放時、ダイヤフラム120はバルブ室140の底面141に接触せず、ダイヤフラム120の下死点がバルブ室140の底面141の上方にくる。
【0064】
また、この実施形態の順止バルブ301においても、図10に示すように、上述した、h>2γSb/Fsの関係を満たすように、受圧板32及び載置部326が形成されている。そのため、この実施形態の順止バルブ301においても、メタノールの表面張力によりダイヤフラム120とバルブ室140の底面141とが貼り付くこと無く、ダイヤフラム120が元の位置に戻り、弁が閉じる。
【0065】
従って、この実施形態の順止バルブ301においても順止バルブ101と同様の効果を奏する。また、この実施形態の順止バルブ301を用いることで、当該順止バルブ301を備える燃料電池システムにおいても同様の効果を奏する。
【0066】
《その他の実施形態》
以上の実施形態では流体としてメタノールを用いているが、当該流体が、エタノール等の他の液体、気液混合流、固液混合流などのいずれであっても適用できる。
【0067】
なお、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1…ダイヤフラム
2…ピストン
3…弁座部
4…弁体部
5…支持部
7…バルブ筐体
8…バルブ室
9…底面
10…キャップ部
15…孔部
20…ダイヤフラム
23…プッシャ
30…バルブ筐体
40…バルブ室
43…流入孔
48…弁座
49…流出孔
50…弁部
51…弁体部
55…弁突起
90…順止バルブ
100…燃料電池システム
101、201、301…順止バルブ
102…燃料カートリッジ
103…ポンプ
104…発電セル
110…キャップ部
111…穴
113…中央部位
114…周縁部位
115…孔部
116…縁
120…ダイヤフラム
121…周縁部
122…中央部
123…プッシャ
125、325…受圧板
326…載置部
130、230、330…バルブ筐体
131…穴
132…縁
134…載置部
140…バルブ室
141…底面
143…流入孔
144、244…突出部
145、245…流路
147…開口部
148…弁座
149…流出孔
150…弁部
151…弁体部
152…支持部
153…孔部
154…固定部
155…弁突起
160…システム筐体
161、162…Oリング
163…流入路
165…流出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ筐体と、
前記バルブ筐体とともにバルブ室を構成し、前記バルブ室内の液体の圧力によって変位するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムの変位によって前記バルブ室への流体の流入を遮断又は開放させる弁部と、
前記バルブ筐体に接合され、前記ダイヤフラムに対向するキャップ部と、を備え
前記バルブ筐体には、前記バルブ室へ液体が流入する流入孔と、ポンプが接続されて前記ポンプによる液体の吸引圧力によって前記バルブ室から液体が流出する流出孔と、前記流入孔の周縁に位置する弁座と、が形成された、順止バルブであって、
前記弁部は、前記ダイヤフラムが下降して前記ダイヤフラムに押し下げられることによって前記弁座から離間し、前記バルブ室への液体の流入を開放させる弁体と、前記弁体が前記弁座に対して接近および離間する方向へ可動自在に前記弁体を支持し、前記弁体が前記弁座に接近する方向へ前記弁体を附勢する支持部と、を有し、
前記バルブ筐体または前記キャップ部には、前記ダイヤフラムの下降量を規制する規制部が形成された、順止バルブ。
【請求項2】
前記規制部は、前記ダイヤフラムが前記規制部に規制されて下死点に位置する時の前記バルブ室の高さをhとし、前記液体の表面張力係数をγとし、前記バルブ室の底面積をSbとし、前記支持部の附勢力をFsとしたとき、h>2γSb/Fsの関係を満たすよう形成された、請求項1に記載の順止バルブ。
【請求項3】
前記規制部は、前記弁体が前記流入孔から前記バルブ室への液体の流入を開放させたときに、前記ダイヤフラムが当接する突出部と、当該液体を前記突出部の内側から外側へ通過させる流路と、からなり、前記ダイヤフラムと対向する前記バルブ室の底面上における前記流入孔の周囲に形成された、請求項1又は2に記載の順止バルブ。
【請求項4】
前記規制部は、前記ダイヤフラムに接合されて大気圧と前記バルブ室の内圧との差圧を受ける受圧板と、前記キャップ部に接合されて前記受圧板の周縁部が載置される載置部と、からなる、請求項1又は2に記載の順止バルブ。
【請求項5】
前記液体はメタノールである、請求項1から4のいずれかに記載の順止バルブ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の順止バルブと、
前記順止バルブの前記流入孔に接続される燃料貯蔵部と、
前記順止バルブの前記流出孔に接続されるポンプと、を備える燃料電池システム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−42001(P2012−42001A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184873(P2010−184873)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】