説明

顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法及び水系顔料インク組成物

【課題】顔料内包型のインクジェット記録用水系顔料インク組成物の調製に用いるのに適した顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法及び該製造方法で得られる顔料含有ポリマー粒子水分散体を含有する水系顔料インク組成物を提供すること。
【解決手段】(1)エチレン性不飽和モノマー中にビニル系樹脂を溶解させて樹脂溶液を調製する工程、(2)該樹脂溶液に顔料を添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を調製する工程、(3)該顔料分散樹脂溶液を乳化剤水溶液中に添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を水中に分散させてミニエマルションを調製する工程、及び(4)該ミニエマルションにラジカル開始剤を添加し、重合させる工程、からなる顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法及び水系顔料インク組成物に関し、より詳しくは、インクジェット記録用水系顔料インク組成物の調製に用いるのに適した顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法及び該製造方法で得られる顔料含有ポリマー粒子水分散体を含有する水系顔料インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は記録部材として普通紙を使用することができ、また、カラー化が容易であるので、近年広く用いられている。
【0003】
インクジェットに使用されるインクとして、インクがノズルに目詰まりするのを防止するために、水溶性染料及び多価アルコールを用いたものがある。しかし、この種のインクは耐水性や耐光性に劣り、特に熱ジェット方式のインクとして使用した場合には、ヒーター面の熱により染料が酸化され、インクがヒーター面に焦げつきやすく、吐出性が低下するという欠点がある。
【0004】
このような欠点を解消するために、顔料インクが提案されている。顔料インクには、界面活性剤や水溶性ポリマーにより顔料を水中へ分散させた顔料分散型インクと、水不溶性ポリマーの粒子中に顔料を含有させ、それを水中に分散させた顔料内包型インクとが提案されている。
【0005】
顔料分散型インクを用いた場合には、前記欠点がかなり改善されるものの、耐水性及び耐光性が不十分であるという欠点がある。これに対して、顔料内包型インクは、耐水性及び耐光性に優れている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、顔料内包型のインクジェット記録用水系顔料インク組成物の調製に用いるのに適した顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法及び該製造方法で得られる顔料含有ポリマー粒子水分散体を含有する水系顔料インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法は、
(1)エチレン性不飽和モノマー中にビニル系樹脂を溶解させて樹脂溶液を調製する工程、
(2)該樹脂溶液に顔料を添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を調製する工程、
(3)該顔料分散樹脂溶液を乳化剤水溶液中に添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を水中に分散させてミニエマルションを調製する工程、及び
(4)該ミニエマルションにラジカル開始剤を添加し、重合させる工程
からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で得られる顔料含有ポリマー粒子水分散体は、耐水性及び耐光性に優れた顔料内包型のインクジェット記録用水系顔料インク組成物の調製に用いるのに特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法の第一工程は、エチレン性不飽和モノマー中にビニル系樹脂を溶解させて樹脂溶液を調製する工程である。エチレン性不飽和モノマー中にビニル系樹脂を添加し、攪拌することにより容易に樹脂溶液を得ることができる。
【0010】
本発明の製造方法で用いるエチレン性不飽和モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸(n−、i−、t−)ブチル、(メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルコキシアルキル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−又は3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル樹脂又はメタクリル酸の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等の重合性アミド類;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有不飽和モノマー;酢酸ビニル、スチレン、α−クロロスチレン、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0011】
本発明の製造方法で用いるビニル系樹脂として、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等を挙げることができ、例えば、塩化ビニルの単独重合体のほか、主成分の塩化ビニルと他の共重合可能なコモノマーとの共重合体等、塩化ビニルを主な構成単位とする樹脂を挙げることができる。共重合可能なコモノマーとしては、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸またはそのエステル、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステル等を挙げることができる。
【0012】
本発明の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法の第二工程は、上記のようにして得た樹脂溶液に顔料を添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を調製する工程である。ホモジナイズ処理は、例えば、超音波、ビーズミル、剪断混合装置等で実施することができる。このホモジナイズ処理により、顔料を樹脂溶液中に均一に分散させることができる。
【0013】
本発明の製造方法で用いる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要により、これらの顔料と体質顔料とを併用することもできる。無機顔料として、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等を挙げることができる。これらの中では、特に黒色系インクでは、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとして、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等を挙げることができる。
【0014】
有機顔料として、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタノン顔料等を挙げることができる。また、体質顔料として、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等を挙げることができる。
【0015】
本発明の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法の第三工程は、上記のようにして得た顔料分散樹脂溶液を乳化剤水溶液中に添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を水中に分散させてミニエマルションを調製する工程である。このホモジナイズ処理は第二工程におけるホモジナイズ処理と同様に実施することができ、このホモジナイズ処理により、上記のようにして得た顔料分散樹脂溶液が水中に微分散されてミニエマルションとなる。
【0016】
本発明の製造方法では種々の乳化剤を用いることができる。例えば、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等のカチオン乳化剤、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリル燐酸エステル等のアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンプロピルブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系乳化剤、ラウリルペタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両イオン性乳化剤等を用いることができる。しかし、本発明の製造方法ではアニオンノニオンタイプの乳化剤、特に反応性乳化剤を用いることが好ましい。
【0017】
本発明の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法の第四工程は、上記のようにして得たミニエマルションにラジカル開始剤を添加し、重合させる工程である。この重合工程を好ましくは30〜95℃の範囲内の温度で実施することができる。この重合により顔料の周りに樹脂が付着した顔料含有ポリマー粒子が形成され、この顔料含有ポリマー粒子は水中に分散している。即ち、顔料含有ポリマー粒子水分散体が得られる。
【0018】
本発明の製造方法で用いるラジカル開始剤として、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’− アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル) 、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ヒドロクロリド等のアゾ(アゾビスニトリル)タイプの開始剤、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過硫酸塩(例えば過硫酸アンモニウム)、過酸エステル(例えばt−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート及びt−ブチルペルオクテート)等の過酸化物タイプの開始剤を挙げることができる。
【0019】
上記のようにして得た顔料含有ポリマー粒子水分散体に、必要に応じて湿潤剤、分散剤、消泡剤、キレート剤、防黴剤等の添加剤を適量で添加することにより、水系顔料インク組成物を得ることができる。かくして得られた水系顔料インク組成物は、分散安定性、耐水性、耐光性及び印字特性に優れたものである。
【0020】
実施例1
メタクリル酸メチル60g、アクリル酸ブチル20g及びメタクリル酸ラウリル20gからなるエチレン性不飽和モノマー100gに塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体20gを添加し、攪拌して均一に溶解させて樹脂溶液を得た。
【0021】
上記の樹脂溶液に顔料としてフタロシアニンブルー(Ciba S.C.社製、PTB8700)30gを添加し、ビーズミルに30分間かけ、分散させて顔料分散樹脂溶液を調製した。分散後の顔料の平均粒子径は、 日機装株式会社製マイクロトラックMT3300EXで測定して、180ナノメートルであった。
【0022】
上記の顔料分散樹脂溶液を乳化剤水溶液中に添加し、超音波ホモジナイザー(日機装株式会社製、US−600TCVP)にかけて顔料分散樹脂溶液が水中に分散したO/W型ミニエマルションを得た。この乳化剤水溶液として反応性乳化剤SE1025A(アデカ社製)の2%水溶液を300g使用した 。
【0023】
攪拌機、温度センサー及びコンデンサーを備えた反応器をウォーターバス中にセットし、この反応器に上記のミニエマルションを移し、撹拌しながら70℃まで昇温させた。70℃に到達した時点で、過硫酸アンモニウム0.8gを溶解した水溶液を注入して重合をスタートさせた。その後5時間、70℃に保ち、更に80℃に昇温させて3時間保って重合を完結させた。
【0024】
このようにして得られた顔料含有ポリマー粒子(顔料−ポリマー複合粒子)水分散体は、固形分濃度32.5%で、固形分の平均粒子径230ナノメートルであった。また、この顔料含有ポリマー粒子水分散体に分散剤、消泡剤を適量添加した水系顔料インク組成物は、分散安定性、耐水性、耐光性及び印字特性に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)エチレン性不飽和モノマー中にビニル系樹脂を溶解させて樹脂溶液を調製する工程、
(2)該樹脂溶液に顔料を添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を調製する工程、
(3)該顔料分散樹脂溶液を乳化剤水溶液中に添加し、ホモジナイズ処理により顔料分散樹脂溶液を水中に分散させてミニエマルションを調製する工程、及び
(4)該ミニエマルションにラジカル開始剤を添加し、重合させる工程
からなることを特徴とする顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。
【請求項2】
ビニル系樹脂が塩化ビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。
【請求項3】
ホモジナイズ処理を超音波、ビーズミル又は剪断混合装置で実施することを特徴とする請求項1又は2記載の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。
【請求項4】
乳化剤としてアニオンノニオンタイプの乳化剤を用いることを特徴とする請求項1、2又は3記載の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。
【請求項5】
重合を30〜95℃の範囲の温度で実施することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の顔料含有ポリマー粒子水分散体の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法で得られる顔料含有ポリマー粒子水分散体を含有することを特徴とする水系顔料インク組成物。

【公開番号】特開2008−163059(P2008−163059A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350545(P2006−350545)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】