説明

顕微赤外分光測定用試料台、及び顕微赤外分光分析用試料作製方法

【課題】 オペレータの熟練を必要とせず、試料の紛失や汚染物質の混入を防ぎ、微小・微量試料を赤外分光測定に好適な試料形態に簡便に加工できる顕微赤外分光測定用試料台を提供することにある。
【解決手段】 顕微赤外分光測定に使用する顕微赤外分光測定用試料台において、板状物質1が多数の凹み形状部分4を有し、これらの凹み形状部分4の開口部4aの面積をこれらの底面4bの面積よりも大きくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外分光分析における顕微赤外分光測定用試料台及びこの試料台を使用して顕微赤外分光分析用検体(試料)を作成する顕微赤外分光分析用試料作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微小・微量物質(主に有機物)の組成分析方法として、試料を溶媒抽出法等によって濃縮してミクロ錠剤(臭化カリウムの粉末と混合し、円盤状に加圧成型したもの)を作製した上で、これに対して赤外分光測定を行う方法や、微小試料を採取して赤外透過材料または反射材料に載せて加圧し、顕微赤外分光測定を行う方法が知られている。また、試料作製方法として、試料を赤外透過材料で挟み、加圧することによって薄膜試料を作製する方法が知られている。
素子開発の効率を加速させるために、材料の評価・解析は重要である。製品の不良解析を迅速に行い、製品の完成度を高めることが、近年、とくに要求されている。
これらの要求に対し、IR(赤外線)を利用した機器による組成分析は重要であり、とくに有機分析、例えば、レーザプリンタ、複写機などの電子写真製品では微小・微量異物の組成分析、光ディスク製品では有機薄膜の組成分析の試料前処理技術の向上が要求されている。
従来の赤外分光分析装置で測定を行う方法において、試料は赤外光が透過する範囲で均一かつ適当な濃度である必要がある。例えば膜状の試料では、好適な試料の膜厚が透過測定法で10μm以下、反射測定法で5μmである(材料組成によって好適な膜厚は異なっている)。
数十μm以下の微小物質の組成分析を行う場合、前述の条件を満たす試料を作製するには、赤外透過材料または赤外反射材料で挟んで加圧する方法や溶媒に溶かして薄膜化し、顕微赤外分光測定を行う方法が用いられている。
微量物質の場合には溶媒で濃縮した試料を臭化カリウムや塩化ナトリウム等の赤外透過材料の粉末と混合し、直径1〜3mm程度の円盤状に加圧成型する方法(ミクロKBr錠剤法)、試料が濃縮された溶媒を赤外測定用の板に滴下しかつ溶媒が蒸発した後測定する方法、または赤外透過材料の粉末を測定対象物にまぶして回収し、乳鉢で混合した後円盤状に加圧成型する方法(ジョンソン法)が用いられている。
【特許文献1】特開2001−74620公報
【特許文献2】特開平5−149839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、加圧して薄膜化する方法やミクロKBr錠剤法はオペレータの熟練が必要であり、また、試料が微小・微量であるため、試料の紛失や汚染物質の混入等の失敗は許されない。
微小試料を溶媒に溶かす場合に試験管で作業すると試料回収のロスが発生する。赤外測定用の平面板で作業すると試料が流れてしまったりするか、または適当な膜厚を有する均一な膜にならないことが多い。
そこで、本発明の目的は、上述した実情を考慮して、オペレータの熟練を必要とせず、試料の紛失や汚染物質の混入を防ぎ、微小・微量試料を赤外分光測定に好適な試料形態に簡便に加工できる顕微赤外分光測定用試料台を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、顕微赤外分光測定に使用する顕微赤外分光測定用試料台であって、板状物質と、該板状物質の面に形成した多数の凹み形状部分と、を有し、各凹み形状部分の開口部の面積を、各凹み形状部分の底面の面積よりも大きく設定したことを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記板状物質は面方位<100>のシリコン基板である請求項1記載の顕微赤外分光測定用試料台を特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1及び2記載の顕微赤外分光測定用試料台を用いて微小・微量試料を薄膜化・濃縮化させる顕微赤外分光分析用試料作製方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、顕微赤外測定用試料台において、試料台の凹み形状部分は底面の面積より開口部の面積の方が大きいので、微小・微量物質を効率よく顕微赤外分光測定に適した形状に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明による顕微赤外分光測定用試料台を作成するための開口パターンを平面及び断面で示す概略図である。図2は図1の開口パターンをウェットエッチングにて除去することにより得られた凹み形状部分を有する試料台の1部分を示す概略断面図である。
図1及び図2において、顕微赤外分光測定用試料台A(以下の説明では試料台A)上には、面方位<100>シリコン基板1の両面(図では上面のみを示している)にLPCVD法によってSiN膜2を形成する。その後、フォトリソ技術及びSiN膜2のドライエッチングによって、多数のマスク開口部3を有する開口パターンを形成する。
SiN膜2にマスク開口部3を備えたシリコン基板1をエッチング液中に所定時間浸漬することにより異方性エッチングを行うことにより、シリコン基板1面には凹み形状部分4が形成される。
実施例1において詳述するが、凹み形状部分4を形成した後に図1のSiN膜2をウェットエッチングにて除去する。凹み形状部分4の開口部4aは2.7mm四方の正方形で、底面4bは100μm四方の正方形、そして開口部4aから底面4bまでの深さが1.836mmであり、これにより図2に示す凹み形状部分4を有する試料台Aが得られる。
【0007】
図3はSiN膜のウェットエッチングを説明する第1の図である。図4はSiN膜のウェットエッチングを説明する第2の図である。図5はSiN膜のウェットエッチングを説明する第3の図である。
図3乃至図5に示すように、面方位<100>シリコン基板1の両面(図では上面のみを示している)にLPCVD法によってSiN膜2を形成する。このSiN膜2には多数のマスク開口部3を有する開口パターンを形成する。
その後、濃度25wt%、温度80°のKOH水溶液にて異方性エッチングして、所定時間経過後エッチング液からシリコン基板1を引き上げて異方性エッチングを終了する。SiN膜2をウェットエッチングにて除去することによって図2の凹み形状部分4である開口部4aが形成される。
図5に示すように、マスク開口部3が広い場合、エッチングはまだ進行中であり、マスク開口部3が狭い場合、図に示す以上はエッチングされない。この場合、シリコン基板1の<111>面のエッチングレートが極端に遅いので、<100>と<111>面のなす54.7の角度でエッチングされていく。
試料台Aの凹み形状部分4は底面4bの面積より開口部4aの面積の方が大きく加工されていることにより、溶媒に溶かした試料を凹み形状部分4内に充填することにより効率よく濃縮しかつ薄膜化することができる。円錐や四角錐のような底面のない形状は試料を効率よく濃縮することができる。
しかしながら、顕微赤外分光測定領域(10〜300μm四方)で平面とならないため、顕微赤外分光測定に適していない。開口部4及び截頭形状の底面4bの形状は、円形、正方形、三角形、長方形などとくに限定されない。
【0008】
本発明で使用できる板状物質(面方位<100>シリコン基板1)1は、赤外透過材料、赤外反射材料(赤外反射材料をコーティングした材料も含まれる)等である。板状物質1が赤外透過材料や赤外反射材料であることにより試料処理を行ったままの状態で赤外分光測定を行うことができ、試料の紛失や汚染物質の混入を防ぐことができる。
赤外透過材料の場合は中赤外領域(主に4000〜400cm-1)の一部を透過していていればよい。具体的には、臭化カリウム、塩化ナトリウム、フッ化カルシウム、サファイア、ゲルマニウム(Ge)、セレン化亜鉛、シリコン、ダイヤモンド、二酸化珪素(ガラス、石英)等である。
赤外反射材料としては、金、銀、アルミニウム、ステンレス、またはこれらの金属をコーティングした材料が赤外光の反射率が高く測定信号を効率よく検出できるので好ましい。
これらの赤外透過または赤外反射材料の中で、とくに面方位<100>のシリコン基板が低コストであり、公知のエッチング法を用いて精度良く加工できるので好ましい。
【0009】
<実施例1>
長さ2.54cm、幅7.62cm、厚さ2mmの面方位<100>シリコン基板1を用いて、まず、シリコン基板1にLPCVD法にてSiN膜2を両面に形成した。
その後、図3乃至図5に示すように、フォトリソ技術及びSiN膜2のドライエッチングによって、図1の開口パターンを形成した。さらに、その後、濃度25wt%、温度80°のKOH水溶液にて異方性エッチングを行った。
異方性エッチングが進行するにつれ、シリコン基板1は基板面と54.7°をなすエッチングレートの極端に遅い<111>面に沿って開口形成されてゆき、6時間18分後にエッチング液からシリコン基板1を引き上げて異方性エッチングを終了し、SiN膜2をウェットエッチングにて除去することにより凹み形状部分4が得られた。
この凹み形状部分4の開口部4aは平面形状が2.7mm四方の正方形であり、底面4bが100μm四方の正方形、そして開口部4aから底面4bまでの深さが1.836mmである。これによって、図2に示す凹み形状部分を有する試料台Aが得られた。
上述したように、この試料台(顕微赤外測定用試料台)Aにおいては、板状物質として面方位<100>シリコン基板1を使用している。したがって、微小・微量物質の顕微赤外分光測定に好適な試料台Aを低コストで精度良く作製することができる。
<測定例1>
上記実施例1で作製した試料台Aの凹み形状部分4に直径30μmのポリスチレンの粒を入れ、クロロホルム4μlをガラス毛細管で凹み形状部分4に滴下し、ポリスチレンを溶解した。クロロホルムが蒸発した後、試料台Aを顕微赤外分光分析装置(図示せず)のステージ(図示せず)にセットし、顕微透過法にて測定したところ、良好なIRスペクトルが得られた。
【0010】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で作製した試料台表面にイオンスパッタを用いて膜厚300nmの金をコーティングした。
<測定例2>
実施例2で作製した試料台Aの凹み形状部分4に20μm程度の大きさのポリカーボネートの粒を入れ、テトラヒドロフラン4μlをガラス毛細管で凹み形状部分4に滴下し、ポリカーボネートを溶解した。テトラヒドロフランが蒸発した後、試料台Aを図示してない顕微赤外分光分析装置のステージにセットし、顕微反射法にて測定したところ、良好なIRスペクトルが得られた。
図6は比較例として作成した四角錐状の凹み形部分の試料台を示す概略図である。ここでは、比較例として、異方性エッチング時間を18時間に変えた他は実施例1と同様に試料台Aを作製した。これによって、凹み形状部分4の開口部4aが2.7mm四方の正方形、開口部4aから深さが1.907mmの図6に示す四角錐状の凹み形状部分4を有する試料台Aが得られた。
<比較測定例1>
比較例1で作製した試料台Aの凹み形状部分4に直径30μmのポリスチレンの粒を入れ、クロロホルム4μlをガラス毛細管で凹み形状部分4に滴下し、ポリスチレンを溶解した。クロロホルムが蒸発した後、試料台Aを図示してない顕微赤外分光分析装置のステージにセットし、顕微透過法にて測定したところ、IRスペクトルを得ることはできなかった。
本発明によれば、顕微赤外分光測定用試料作製方法において、微小・微量物質を効率よく顕微赤外分光測定に適した形状に加工し、試料紛失や汚染物質の混入を防ぐ試料作製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による顕微赤外分光測定用試料台を作成するための開口パターンを平面及び断面で示す概略図である。
【図2】図1の開口パターンをウェットエッチングにて除去することにより得られた凹み形状部分を有する試料台の1部分を示す概略断面図である。
【図3】SiN膜のウェットエッチングを説明する第1の図である。
【図4】SiN膜のウェットエッチングを説明する第2の図である。
【図5】SiN膜のウェットエッチングを説明する第3の図である。
【図6】比較例として作成した四角錐状の凹み形の試料台を示す概略図である。
【符号の説明】
【0012】
1 板状物質(シリコン基板)、2 SiN膜、3 マスク開口部、4 凹み形状部分、4a 凹み形状部分の開口部、4b 凹み形状部分の底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微赤外分光測定に使用する顕微赤外分光測定用試料台であって、板状物質と、該板状物質の面に形成した多数の凹み形状部分と、を有し、各凹み形状部分の開口部の面積を、各凹み形状部分の底面の面積よりも大きく設定したことを特徴とする顕微赤外分光測定用試料台。
【請求項2】
前記板状物質は、面方位<100>のシリコン基板であることを特徴とする請求項1記載の顕微赤外分光測定用試料台。
【請求項3】
請求項1及び2記載の顕微赤外分光測定用試料台を用いて微小・微量試料を薄膜化及び濃縮化させることを特徴とする顕微赤外分光分析用試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−308490(P2006−308490A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133263(P2005−133263)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】