説明

顕微鏡装置、観察方法および試料搭載機構

【課題】簡単な光学調整で高解像度の試料の画像を得ると共に、光軸方向に自由度を持たせた観察を行うことを目的とする。
【解決手段】本発明の顕微鏡装置1は、干渉性を有し、試料Sを励起させるレーザ光Lを発振するレーザ光源2と、試料Sにレーザ光Lを照射したときに蛍光した戻り光Rを検出する検出部14と、レーザ光Lの焦点Fの範囲内に定在波を発生させるようにレーザ光Lを反射させる反射面10aに試料Sを搭載した試料搭載部10と、を備えている。直接的に試料Sに焦点Fを結ぶレーザ光Lと反射面10aで反射したレーザ光Lとを干渉させて定在波を発生させている。また、戻り光においても干渉させている。これにより、分解能を高くすることができ、高解像度の画像を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に照明光を照射して、試料からの戻り光を検出して試料の画像を生成する顕微鏡装置、観察方法および試料搭載機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素や蛍光タンパク等を導入した試料に対してレーザ光を照射して蛍光を発生させ、発生した蛍光に基づいて試料の観察を行う顕微鏡装置が従来から用いられている。この顕微鏡として、非特許文献1に開示される4Pi共焦点顕微鏡を用いることができる。4Pi共焦点顕微鏡は、高解像度の画像を得ることを目的とした顕微鏡装置になる。
【0003】
4Pi共焦点顕微鏡は、試料を挟んで2つの対物レンズを対向配置している。レーザ光源から発振されたレーザ光は途中で分岐しており、分岐した2つのレーザ光は2つの対物レンズからそれぞれ試料に照射する。このときに、2つのレーザ光の焦点位置が試料において重なるようにする。これにより、励起光(レーザ光)を干渉させて、焦点の光軸方向(Z軸方向)の領域を狭小にしており、Z軸方向の分解能を高くしている。
【0004】
そして、対物レンズにより狭小な領域に焦点が結ばれたレーザ光によって試料に導入した蛍光色素や蛍光タンパクが蛍光する。この蛍光は戻り光となって、2つの対物レンズから回収される。このときに、戻り光を再び干渉させることで、Z軸方向の分解能を向上させている。そして、干渉した戻り光が検出部により検出されることで、高解像度の試料の画像を生成している。
【0005】
高解像度の画像を生成する顕微鏡としては、他に全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF顕微鏡)を用いることもできる。このTIRF顕微鏡では、励起光としてエバネッセント光を用いて、エバネッセント場を利用した局所的な励起を行っている。これにより、極めて被写体の深度を浅くすることができ、Z軸方向の分解能を高くしている。これにより、試料の画像を高解像度に生成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the Optical Society of America A 9: 2159-2166「Properties of a 4pi confocal fluorescence microscope by Stefan Hell and Ernest H. K. Stelzer」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した4Pi顕微鏡は、2つのレーザ光を試料において干渉させることで、高解像度の画像を得るようにしている。このために、2つのレーザ光は試料において正確に焦点を一致させる必要がある。従って、2つの対物レンズの位置関係は高精度に調整しなければならない。また、2つの対物レンズからそれぞれ戻り光を回収させており、且つ2つの戻り光を干渉させている。このため、戻り光の光路も正確に重ね合わせる必要があることから、顕微鏡全体の光学調整を極めて厳格に行う必要がある。従って、過剰に高い光学調整の精度が要求される。
【0008】
また、TIRF顕微鏡の場合には、エバネッセント場が発生する極めて限定された領域の画像が得られる。つまり、試料の厚さ数百ナノメートルでのみ励起光によって蛍光を発生するため、観察対象となる領域は深さ方向(Z軸方向)において非常に限定された領域になる。これにより、深さ方向における観察の自由度が低下する。
【0009】
そこで、本発明は、簡単な光学調整で高解像度の試料の画像を得ると共に、光軸方向に自由度を持たせた観察を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、干渉性を有し、試料を励起させる照明光を発振する光源と、前記試料に前記照明光を照射したときに蛍光した戻り光を検出する検出部と、前記照明光の焦点の範囲内に定在波を発生させるように前記照明光を反射させる反射面に前記試料を搭載した試料搭載部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この顕微鏡装置によれば、試料に直接的に入射する照明光と反射面で反射した反射光とを干渉させて定在波を発生させており、戻り光においても干渉を行う。これにより、光軸方向において分解能を高くすることができ、高解像度の画像生成を行うことができる。2つの対物レンズを用いて焦点を一致させなくてもよいことから、簡単に光学調整を行うことができ、エバネッセント光を用いていないため、光軸方向において任意の位置の観察を行うことができる。
【0012】
また、前記焦点の範囲内の前記戻り光のみを前記検出部に通過させるピンホールを備えたことを特徴とする。これにより、焦点の合った部分だけの画像を生成する共焦点顕微鏡とすることができることから、高解像度の画像を生成することができる。
【0013】
また、前記試料に前記照明光の焦点を結ばせる対物レンズと、前記照明光の光軸方向に直交する平面に前記照明光を走査する走査部と、を備えたことを特徴とする。対物レンズにより照明光に焦点を結ばせて、光軸方向に直交する平面を走査手段が走査することで、所定領域の3次元の試料の画像を生成することができる。
【0014】
また、前記光源は、近赤外光のパルスレーザを前記照明光として発振することを特徴とする。光源が近赤外光のパルスレーザを発振することで、2光子励起を生じさせることができ、光軸方向の分解能を高くできる。これにより、高解像度の画像生成を行うことができる。
【0015】
また、複数のマイクロレンズを配列した第1の回転ディスクと、この第1の回転ディスクと離間した位置に設けられ、前記マイクロレンズと同じパターンで複数のピンホールを配列した第2の回転ディスクと、前記第1の回転ディスクと前記第2の回転ディスクとを一体的に回転させる回転ドラムと、を備えたことを特徴とする。ニポウディスク方式の共焦点顕微鏡として用いることで、画像生成の速度を高速化できる。
【0016】
また、前記反射面に対して前記焦点の位置を異ならせたときの戻り光を前記検出部が検出して、これらの戻り光を比較して強度が高くなっている1つの領域以外の領域を除去するデコンボルーション処理を行う演算部を備えたことを特徴とする。焦点位置を異ならせたときの戻り光を検出して、特定の領域の強度を検出するデコンボルーション処理を行うことで、光軸方向に優れた分解能の画像を得ることができる。
【0017】
また、前記照明光を第1の照明光と第2の照明光とに分岐して、この第2の照明光を拡散光にして前記反射面で反射させ、前記第1の照明光と反射した前記第2の照明光との焦点を一致させる光分岐部を備えたことを特徴とする。これにより、焦点の中心を反射面から離間した位置に且つ自由な位置に設定することができ、光軸方向における任意の位置の画像を得ることができる。
【0018】
また、前記光源は、前記試料の蛍光が飽和する強度であり且つ一定の周波数で変調したレーザ光を発振することを特徴とする。これにより、飽和励起顕微鏡として用いることができる。飽和励起顕微鏡として用いることで、光軸方向の限定された領域のみが飽和をするため、分解能を向上させることができ、高解像度の画像生成を行うことができる。
【0019】
また、前記光源は、蛍光可能な状態と不可能な状態とを切り替え可能な蛍光分子が導入された前記試料に対してスイッチング用のレーザ光を発振することを特徴とする。これにより、顕微鏡装置をPALMに適用することができる。PALMでは個々の蛍光分子が蛍光するため、XY方向の分解能が高くなることから、XY方向およびZ方向の3次元に分解能の高い画像生成を行うことができる。
【0020】
また、前記光源は、前記照明光を励起用レーザ光として発振する励起用レーザ光源と、前記励起用レーザ光の焦点の外周にリング状の焦点を結ばせるSTEDレーザを発振するSTEDレーザ光源と、前記励起用レーザ光と前記STEDレーザとの光路を一致させるダイクロイックミラーと、を備えたことを特徴とする。これにより、STED顕微鏡として適用することができ、XY方向に高い分解能を得ることができる。このため、XY方向およびZ方向の3次元に分解能の高い画像生成を行うことができる。
【0021】
また、本発明の観察方法は、干渉性を有し、試料を励起させる照明光を発振する光源から、前記照明光の焦点の範囲内に定在波が発生するように前記照明光を反射させる反射面を形成した試料搭載部に搭載した前記試料に前記照明光を照射して、蛍光した戻り光を検出することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の試料搭載機構は、干渉性を有し、試料を励起させる照明光を照射したときに蛍光した戻り光を検出して観察を行うときの前記試料を搭載する試料搭載機構であって、この試料搭載機構の前記照明光が入射する側の面に前記照明光の焦点の範囲内に定在波を発生させる反射面を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、試料搭載部の試料を搭載する面を反射面として、試料に直接的に照射される照明光と反射面で反射した照明光とを干渉させて定在波を発生させており、戻り光においても干渉をさせている。これにより、焦点の範囲内の狭小な領域を蛍光させて分解能を高くでき、高解像度の画像を得ることができる。2つの対物レンズを使用して焦点を一致させなくてもよいことから、簡単な光学調整で顕微鏡装置を構成でき、エバネッセント光を使用していないため、光軸方向に自由度を持たせた観察を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態の顕微鏡装置の構成図である。
【図2】実施形態の焦点の状態を説明した図である。
【図3】図2の焦点の強度分布を示すグラフである。
【図4】図2から焦点の中心をずらしたときの状態を説明した図である。
【図5】図4の焦点の強度分布を示すグラフである。
【図6】図2から焦点の中心をさらにずらしたときの状態を説明した図である。
【図7】図6の焦点の強度分布を示すグラフである。
【図8】変形例1の顕微鏡装置の構成図である。
【図9】変形例1の顕微鏡装置の概念図である。
【図10】変形例2の顕微鏡装置の構成図である。
【図11】光分岐ユニットの構成を示す図である。
【図12】変形例2の焦点の状態を示す図である。
【図13】図12の焦点の強度分布を示すグラフである。
【図14】図12から焦点の中心をずらしたときの状態を説明した図である。
【図15】変形例5のレーザ光源の構成図である。
【図16】変形例6の試料搭載部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は顕微鏡装置1を示している。顕微鏡装置1はレーザ光源2とシャッタ3とダイクロイックミラー4と光走査ユニット5と瞳リレーレンズ6とミラー7と結像レンズ8と対物レンズ9と試料搭載部10と蛍光フィルタ11と集束レンズ12とピンホール13と検出部14とコントローラ15とディスプレイ16とを備えて構成している。試料搭載部10には蛍光指示薬(蛍光色素)が導入された試料Sが載置されている。
【0026】
レーザ光源2は干渉性を有するレーザ光Lを照明光として発振する光源になる。また、レーザ光Lは励起光であり、試料Sに導入した蛍光色素を励起させる波長λを有する。レーザ光源2が発振したレーザ光Lは図示しないコリメートレンズにより平行光にされて、シャッタ3に導かれる。シャッタ3は所定のタイミングで開放制御することでレーザ光Lを通過させる。シャッタ3を通過したレーザ光Lはダイクロイックミラー4に入射する。
【0027】
ダイクロイックミラー4はレーザ光源2からのレーザ光Lを反射し、試料Sからの戻り光(蛍光)Rを透過させる特性を持つ光学部品である。よって、レーザ光源2が発振したレーザ光Lはダイクロイックミラー4で反射して、光走査ユニット5に導かれる。光走査ユニット5は第1の可変ミラー5aと第2の可変ミラー5bとを有する走査部である。
【0028】
第1の可変ミラー5aと第2の可変ミラー5bとは1本の軸の周りに回転可能に構成している。これにより、光走査ユニット5はレーザ光Lの反射角を制御して、レーザ光Lの焦点Fを試料搭載部10に載置した試料SのXY方向(水平面方向:光軸(Z軸)方向と直交する面)に走査する。
【0029】
光走査ユニット5からのレーザ光Lは瞳リレーレンズ6に入射し、その後にミラー7で反射される。そして、レーザ光Lは対物レンズ9により試料搭載部10に搭載された試料Sに焦点Fを結ぶ。対物レンズ9の瞳は瞳リレーレンズ6によって、光走査ユニット5の位置にリレーされるので、光走査ユニット5により走査される光は、対物レンズ9の瞳位置でレーザ光Lが走査される。
【0030】
試料Sは試料搭載機構としての試料搭載部10に搭載されており、対物レンズ9によってレーザ光Lが試料Sで焦点を結ぶ。また、光走査ユニット5により試料SのXY方向にレーザ光Lが走査される。試料搭載部10の試料Sを搭載する面はレーザ光Lを反射させる反射面10aとしている。これにより、対物レンズ9から入射したレーザ光Lと反射面10aで反射したレーザ光Lとが干渉して定在波を発生させる。
【0031】
試料Sには蛍光色素が導入されており、レーザ光Lによって試料Sの蛍光色素が励起される。これにより、蛍光して戻り光(蛍光)Rが発生する。発生した戻り光Rは対物レンズ9に入射して、レーザ光Lとは逆方向に進行する。そして、対物レンズ9、結像レンズ8、ミラー7、瞳リレーレンズ6、光走査ユニット5を経て、ダイクロイックミラー4に入射する。
【0032】
ダイクロイックミラー4は試料Sの蛍光の波長を透過させる特性を有している。よって、戻り光Rはダイクロイックミラー4を透過して、蛍光フィルタ11に入射する。蛍光フィルタ11は特定の波長成分、つまり蛍光の波長の光を選択的に透過させるフィルタである。
【0033】
よって、戻り光Rは蛍光フィルタ11により、蛍光の波長成分の光が選択的に透過されて、ピンホール13を通過する。ピンホール13は焦点面以外からの光を除去するために焦点と共役な位置関係に配置している。これにより、焦点面からの光だけを抜き出して通過させることができる。ピンホール13を通過した戻り光Rは検出部14に入射する。このピンホール13を形成することで、顕微鏡装置1を共焦点顕微鏡として適用している。つまり、ピンホール13を通過した戻り光Rは焦点Fの近傍のみの光であり、焦点範囲に合った画像を共焦点画像として得ている。
【0034】
検出部14は光検出部である。つまり、受光した戻り光Rの光量を電気信号に光電変換する。この変換した電気信号は戻り光Rの光量のデジタルデータ(光量データ)になる。検出部14が変換した光量データはコントローラ15に入力される。コントローラ15は入力した光量データをレーザ光Lの走査位置と対応させて画像のデータを生成する演算を行う。これにより、試料Sの画像を生成する。生成した画像は焦点面近傍からの蛍光画像になり、つまり共焦点画像になる。この共焦点画像がディスプレイ16に表示される。
【0035】
次に、本実施形態の動作について説明する。試料Sに照射されるレーザ光Lは対物レンズ9により焦点Fを結ぶ。この焦点Fを試料Sで結ばせることで、試料Sの蛍光色素を励起させている。このときの焦点FはPSF(点像分布関数)に基づく一定の広がりを有している。図2は焦点Fの状態を示しており、この焦点Fは楕円形の一定範囲に広がり有している。
【0036】
試料Sは試料搭載部10に搭載しており、試料搭載部10の試料Sを搭載する面は反射面10aとして形成している。この反射面10aはレーザ光Lおよび戻り光Rを反射させる面となっており、レーザ光Lが入射する側の面に形成している。反射面10aは、レーザ光Lの波長λおよび戻り光Rの波長(試料Sが蛍光した波長)を反射させる光学特性を有していればよい。
【0037】
例えば、アルミニウムや金等の金属のミラーコーティングを反射面10aに形成してもよいし、レーザ光Lおよび戻り光Rを選択的に反射させる誘電体多層膜を反射面10aとして形成してもよい。要は、レーザ光Lおよび戻り光Rを反射(全反射)させるものであれば、それ以外の波長域の光は透過させるものであってもよい。なお、反射面10aを保護するための保護層を反射面10aに形成してもよい。
【0038】
レーザ光Lの焦点Fは楕円形に所定範囲の領域となっている。よって、焦点Fの光軸方向の中心を反射面10aと一致させるように調整する。これは、対物レンズ9を調整することにより行う。焦点Fの中心が反射面10aと一致したときには、焦点Fの半分は反射面10aにより反射される。
【0039】
このとき、対物レンズ9から直接的に試料Sに照射されるレーザ光Lを直接光とし、反射面10aにより反射されたレーザ光Lを反射光とする。反射光と直接光とは相互に向きが異なるため、反射光は直接光に対して位相が180度(λ/2相当)シフトする。これにより、直接光と反射光とが干渉して定在波(定常波)が発生する。
【0040】
定在波を発生させているため、反射面10aからZ軸方向において「λ/4」の領域(図2の領域F1)では直接光と反射光とが強め合うように干渉する。領域F1は直接光と反射光との光路差が「λ/4+λ/4+λ/2=λ」と1波長分になることから定在波の「腹」になり、レーザ光Lの強度が高くなる。
【0041】
一方、反射面10aから光軸方向において「λ/2」の領域(図示せず)では直接光と反射光とにより弱め合うような干渉が生じる。この領域は、直接光と反射光との光路差が「λ/4+λ/4+λ/2=λ」と3/2波長分になることから、定在波の「節」になる。このために、レーザ光Lの強度が弱め合って、打ち消される。これにより、当該領域では蛍光(戻り光R)が発生しなくなる。
【0042】
また、反射面10aから光軸方向において「(3/4)×λ」の領域(図2の領域F2)では直接光と反射光とが干渉して強め合う。これは、領域F2では直接光と反射光との光路差が2波長分になるためである。ただし、この領域F2の部分は焦点Fの中心部分から離れた位置になっているため、領域F1に比べて強度が弱くなっている。従って、領域F2は領域F1よりも暗い領域となる。
【0043】
さらに、反射面10aから光軸方向においてλの領域(図示せず)では直接光と反射光とが弱め合うような干渉が生じ、レーザ光Lが打ち消される。つまり、当該領域では直接光と反射光との光路差が(5/2)×λになるため、レーザ光Lが弱め合って打ち消される。このため、蛍光(戻り光R)が発生しなくなる。
【0044】
従って、反射面10aをレーザ光Lが反射する反射面10aとすることで、Z軸方向に励起する領域(蛍光する領域)を狭小にすることができる。図3(a)はZ軸方向のレーザ光Lの強度分布を示しており、この図に示すように、領域F1およびF2で強度(光強度)が高くなっているが、他の領域では強度がほぼゼロになっている。
【0045】
つまり、焦点Fの領域のうち一部の領域F1、F2のみの強度(レーザ光Lの強度)を高くすることができ、蛍光する領域を狭小な領域F1、F2に限定することができる。これにより、Z軸方向の分解能が高くなる。以上は、試料Sに照射されるレーザ光Lに干渉による定在波を発生させた場合を説明したが、戻り光Rについても干渉させることで、分解能を高くしている。
【0046】
図1に示したように、試料Sに照射されるレーザ光Lと戻り光Rとはほぼ同じ光路を辿っている。つまり、同じ光路において、レーザ光Lと戻り光Rとは往復している関係になる。前述したものは往路について干渉による定在波を発生させているが、復路についても干渉を発生させている。これにより、戻り光Rについても分解能を高くすることができる。
【0047】
レーザ光Lにより試料Sが励起して蛍光することにより、戻り光Rが発生する。蛍光が発生する点を極めて小さな光点とすると、この光点から発生する戻り光Rは直接的に対物レンズ9に入射する光(直接光)と反射面10aで反射してから対物レンズ9に入射する光(反射光)との2つの光が発生する。従って、戻り光Rの直接光と反射光とはその光路差に基づいて干渉が発生する。
【0048】
蛍光した光点が反射面10aから「λ/4」の位置(領域F1)にあるとすると、直接光と反射光との光路差は「λ/4+λ/4+λ/2=λ」と1波長分に相当する。つまり、往路の場合と同様に復路の場合も戻り光Rが強め合う。同様に、励起された光点が反射面10aから「(3/4)×λ」の位置(領域F2)にあるときには光路差が2波長分になり、戻り光Rが強め合う。ただし、領域F2を光点としたときの戻り光Rの強度は領域F1を光点としたときの戻り光Rの強度よりも弱くなる。
【0049】
一方、蛍光した光点が反射面10aから「λ/2」或いは「(3/2)×λ」に位置している場合には、戻り光Rが弱め合うため、打ち消される。干渉による定在波が発生した戻り光Rはピンホール13により通過される光が制限され、検出部14で検出される。復路(戻り光R)のみを考えた場合には、その強度分布は図3(a)と同じになるが、往路のレーザ光L(励起系)と復路の戻り光R(検出系)との相乗効果により、検出部14で検出される戻り光Rの強度分布は図3(b)のようになる。
【0050】
この図3(b)の強度分布は図3(a)の強度分布を概ね2乗した分布になる。なお、図中の光強度は2乗になっているため、その値も2乗になっている。図3(b)の強度分布では図3(a)の強度分布よりもガウシアン分布がシャープになっている。つまり、強度が高い領域をさらに狭小な領域とすることができる。これにより、分解能を高くすることができる。戻り光Rはピンホール13を通過しており、これにより高い分解能の共焦点画像を得ることができる。
【0051】
このとき、検出部14では領域F1とF2との強度が高くなっている戻り光Rを検出する。ここでは、狭小な領域F1の蛍光が観察対象となる。よって、領域F2の強度の影響をデコンボルーション処理により除去する。つまり、点像分布関数(PSF)を用いて、領域F2については検出部14が検出した戻り光Rから除去する計算を行う。或いは、戻り光Rを実測して領域F2を除去するように処理を行う。このデコンボルーション処理を行うことで、領域F1のみの蛍光を観察することができ、より狭小な領域の戻り光Rを検出できる。これにより、分解能をさらに高くすることができる。
【0052】
図1に示すように、対物レンズ9は1つだけを用いており、4Pi顕微鏡のように2つの対物レンズを用いてレーザ光の焦点を重ねるようにしなくてもよい。これにより、顕微鏡装置1の光学調整を簡単に行うことができる。また、エバネッセント光を用いることなく、試料Sの画像生成を行っているため、光軸方向の観察に自由度を持たせることができる。
【0053】
以上において、レーザ光源2は複数波長のレーザ光Lを選択的に発振可能なように構成してもよい。また、蛍光色素の色に応じた波長を持つレーザ光Lを発振するようにしてもよい。従って、蛍光色素の色を変えたときには、レーザ光源2のレーザ光Lは蛍光色素の色に応じた発振波長とする。これにより、複数の色の蛍光色素の画像取得を行うことができる。また、レーザ光源2に代替して、LEDやSLD(Super Luminescent Diode)等の可干渉距離の短い光を発振するようにしてもよい。
【0054】
また、光走査ユニット5によりレーザ光Lは試料Sにおいて水平面方向(XY方向)に走査される。このときに、レーザ光Lの焦点Fは反射面10aに対してZ軸方向において常に一定の位置(焦点Fの中心が反射面10aとなるような位置)にする必要がある。この位置関係を維持しながら光走査ユニット5がXY方向にレーザ光Lを走査する。つまり、焦点Fを反射面10aに追従させる必要がある。
【0055】
このために、オートフォーカス機能を搭載して、自動的に焦点Fを調整するようにしてもよい。このオートフォーカス機能はレーザ光Lの反射光を用いてもよい。例えば、光ディスクで使用される非点収差法を用いて常に反射面10aに焦点Fを高速に追従させることができる。
【0056】
また、反射面10aの複数点の高さを予め測定しておき、反射面10aの面の傾きを予測してレーザ光Lの焦点Fを自動的に追従させてもよい。また、レーザ光Lが走査されるXY平面(水平面)に対して反射面10aが傾きを生じている場合には、反射面10aとXY平面とが平行になるように傾き調整を行ってもよい。
【0057】
また、レーザ光源2から発振するレーザ光Lを近赤外光のパルスレーザを用いるようにしてもよい。レーザ光Lは近赤外光を用いるため、ダイクロイックミラー4等の光学系もそれに対応したものを用いる。また、2光子励起によって生じた蛍光に対応した蛍光フィルタ11を用いる。これにより、顕微鏡装置1を2光子励起顕微鏡として用いることができる。
【0058】
2光子励起顕微鏡としているため、焦点近傍でのみ2光子励起が生じる。このため、深部観察等において光路の途中で発生する蛍光やそれによって生じる退色の影響を極めて少ないものとすることができ、分解能を高くすることができる。特に、2光子励起現象は光密度が高い領域において生じるため、図3(a)および(b)の領域F1の頂点近傍でのみ2光子励起が生じるため、光軸方向の分解能がさらに向上する。
【0059】
なお、2光子励起の場合には、蛍光はレーザ光Lの波長λのおおよそ半分になるため、戻り光Rの検出時には干渉によって強め合う領域が、レーザ光Lの干渉によって強め合う領域以外にも生じる。ただし、往路および復路の相力の干渉の効果が乗じられるため、復路のみで生じる強め合う領域の影響は小さくなる。従って、2光子励起の場合も同様に分解能を高くすることができる。
【0060】
また、レーザ光Lの焦点Fの中心を反射面10aに一致させなくてもよい。つまり、焦点Fの中心を反射面10aから任意の間隔だけ離間させてもよい。図4は、レーザ光Lの焦点Fの中心を反射面10aから「λ/4」の分だけ離間した位置となるようにした例になる。この場合には、図2のように領域F1、F2の2箇所だけではなく、図4に示すように領域F1、F2、F3の3箇所が干渉による定在波により強度が高くなる。
【0061】
この場合には、焦点Fの中心が反射面10aからずれていることにより、焦点Fの中心が反射面10aと一致しているときと比較して若干の非対称性を持つ。このために、干渉により弱め合う領域についても僅かに強度を有する。図5(a)は、この場合のレーザ光Lの強度分布を示している。
【0062】
ただし、戻り光Rについても光路差に基づく干渉を発生させている。これにより、検出部14で検出される戻り光Rの強度分布は図5(a)の強度分布の概ね2乗になることから、図5(b)のようなシャープな形になる。これにより、図3(b)とほぼ同程度の強度分布を持つ戻り光Rを検出することができる。従って、分解能を高くすることができ、高解像度の試料Sの画像を得ることができる。
【0063】
また、焦点Fの中心を反射面10aから「(3/4)×λ」の位置にすることもできる。この場合には、図6に示すように、焦点Fは領域F1、F2、F3、F4の4つの領域が高い強度となる。この場合のレーザ光Lの強度分布は図7(a)のようになり、検出部14で検出される戻り光Rの強度分布は同図(b)のようになる。これにより、分解能を高くすることができ、高解像度の画像生成を行うことができる。
【0064】
ここで、図3(b)、図5(b)および図7(b)は、それぞれ焦点Fの中心を反射面10aに対して変化させたときの強度分布を示している。このため、Z軸方向に強度が高くなる領域が異なるようになる。このうち、観察対象となるのは何れか1つの領域(例えば、領域F1)であり、それ以外の領域(例えば、F2、F3、F4)を除去しなければならない。
【0065】
領域F2、F3、F4の強度はPSFに基づいて所定の演算処理(デコンボルーション処理)を行うことで除去できる。この演算処理はコントローラ15により行われる。ここで、図3(b)の強度分布または図5(b)の強度分布と図7(b)の強度分布を用いてデコンボルーション処理を行う。
【0066】
つまり、反射面10aに対して焦点Fの中心を異ならせたときの戻り光Rを検出して、戻り光Rの強度分布を比較することにより対象となる領域F1のみを抽出する処理を行う。これにより、領域F1のみが抽出され、光軸方向の分解能が向上する。また、図7(b)において、領域F1だけではなく、領域F2、F3またはF4のみを抽出するようにデコンボルーション処理を行うこともできる。この場合には、Z軸方向に反射面10aから異なる距離の複数の断面画像を生成することができる。
【0067】
次に、変形例1について説明する。図8および図9は変形例1の顕微鏡装置1を示している。この顕微鏡装置1はニポウディスク方式の共焦点顕微鏡装置になり、レーザ光源2とスキャナユニット20と顕微鏡30とカメラ40とを備えて構成している。
【0068】
レーザ光源2が発振したレーザ光Lは光ファイバ2Fによってスキャナユニット20にまで伝達される。スキャナユニット20は、マイクロレンズディスク21とピンホールディスク22と回転ドラム23とモータ24とコリメートレンズ25とダイクロイックミラー26とリレーレンズ27とを備えて構成している。
【0069】
マイクロレンズディスク21は、図9に示すように4条の螺旋状パターンの複数のマイクロレンズ21Mを配列した第1の回転ディスクである。ピンホールディスク22は、マイクロレンズディスク21のマイクロレンズ21Mのパターンと同じパターンで複数のピンホール22Pを配列した第2の回転ディスクである。
【0070】
マイクロレンズディスク21とピンホールディスク22との間には所定の間隔が設けられている。また、マイクロレンズディスク21およびピンホールディスク22の回転方向において、マイクロレンズ21Mとピンホール22Pとが同じ位置となるように形成している。
【0071】
回転ドラム23はマイクロレンズディスク21とピンホールディスク22とを一体的に回転させる。モータ24は回転ドラム23に回転力を付与する回転手段である。コリメートレンズ25は光ファイバ2Fによって導かれたレーザ光Lを平行光に変換する。このレーザ光Lは複数のマイクロレンズ21Mによって複数のピンホール22Pで焦点を結ぶようになっている。
【0072】
マイクロレンズ21Mとピンホール22Pとの間にはダイクロイックミラー26が配置されている。ダイクロイックミラー26はレーザ光源2が発振するレーザ光Lの波長の光を透過させ、試料Sの蛍光の波長の光を反射させる特性を持つ光学部品である。よって、マイクロレンズ21Mからピンホール22Pにレーザ光Lは透過する。
【0073】
各マイクロレンズ21Mからピンホール22Pに向けてレーザ光Lが入射する。ピンホール22Pを通過したレーザ光Lは顕微鏡30に入射する。顕微鏡30は結像レンズ31と対物レンズ32とを有して構成している。ピンホール22Pを通過したレーザ光Lは結像レンズ31によって所定傾きの平行光に変換される。この平行光が対物レンズ32に入射する。
【0074】
対物レンズ32に入射したレーザ光Lは試料搭載部10の試料Sで焦点を結ぶ。そして、試料Sで蛍光色素が励起されて蛍光が発生する。この蛍光は戻り光Rとなって顕微鏡30、そしてピンホール22Pを通過してダイクロイックミラー26で反射する。この反射した戻り光Rはリレーレンズ27によってカメラ40の撮像素子で結像をする。カメラ40の前段には図示しない蛍光フィルタが設けられており、試料Sの蛍光だけが選択的にカメラ40に結像される。
【0075】
なお、図8において、レーザ光Lの光路を2つ示しているが、このうち実線で示す光路と破線で示す光路とは異なるマイクロレンズ21Mを通過する光であることを示している。つまり、レーザ光Lの光軸中心のレーザ光Lと光軸中心からずれたレーザ光Lを示している。また、図9において、顕微鏡30は1枚のレンズとして模式的に表している。
【0076】
本変形例の動作について説明する。モータ24は回転ドラム23を回転させることにより、マイクロレンズディスク21とピンホールディスク22とが一体的に回転する。レーザ光源2からレーザ光Lを発振させることにより、レーザ光Lはマイクロレンズ21Mからピンホール22Pを通過する。マイクロレンズディスク21とピンホールディスク22とは一体的に回転している。これにより、レーザ光Lが試料搭載部10の試料Sにて走査される。且つ、複数のマイクロレンズ21Mおよび複数のピンホール22Pを配置していることから、同時に複数の焦点Fが生じる。そして、試料Sにレーザ光Lの焦点が結ばれることにより、試料Sの蛍光色素が発光する。
【0077】
この蛍光が戻り光Rとなって、カメラ40に結像する。戻り光Rのうち焦点面以外の光はピンホール22Pを殆ど通過できないため、カメラ40に到達しない。これによって、カメラ40は焦点面のみの共焦点画像を撮影することになる。レーザ光Lが試料Sにて走査されるため、カメラ40の受光面にて戻り光Rが走査される。従って、焦点Fの情報がカメラ40に投影されて、試料Sの観察を行うことができる。
【0078】
試料搭載部10には反射面10aが形成されており、前述した実施形態と同様にレーザ光Lを干渉させて定在波を発生させている。このために、レーザ光Lの焦点Fの領域を狭くすることができ、高い分解能を得ることができる。また、戻り光Rにおいても干渉を発生させているために、高い分解能を得ることができる。そして、変形例1ではニポウディスク方式の顕微鏡装置1を適用していることから、極めて高速に画像生成を行うことができるようになる。
【0079】
次に、変形例2について説明する。図10は変形例2の顕微鏡装置1を示している。この顕微鏡装置1は実施形態の顕微鏡装置1に対して新たに光分岐ユニット50を光分岐部として追加している。この光分岐ユニット50は光走査ユニット5とダイクロイックミラー4との間に設けている。
【0080】
図11は光分岐ユニット50の構成を示している。光分岐ユニット50はハーフミラー51とデフォーマブルミラー52と反射ミラー53とハーフミラー54とを有して構成している。レーザ光源2が発振したレーザ光Lはハーフミラー51によりレーザ光L1とL2とに分離される。同図の実線は分離された一方のレーザ光L1(第1の照明光)を示しており、破線は他方のレーザ光L2(第2の照明光)を示している。
【0081】
ハーフミラー51で分離されたレーザ光L2はデフォーマブルミラー52により反射する。デフォーマブルミラー52はそのミラー曲面が変形可能な光学部品であり、静電力、電磁力、圧電素子等で駆動される。このデフォーマブルミラー52でレーザ光L2が反射することにより、レーザ光L2は微小な拡散光に変換される。そして、このレーザ光L2は反射ミラー53で反射して、ハーフミラー54に入射する。
【0082】
ハーフミラー54において、ハーフミラー51を透過したレーザ光L1と反射ミラー53で反射したレーザ光L2とが光路を同じにする。なお、レーザ光L1とレーザ光L2との光路差はレーザ光Lの波長λの整数倍となるように光分岐ユニット50を構成している。
【0083】
このとき、レーザ光L1は平行光となっているが、レーザ光L2は拡散光となっている。そして、対物レンズ9により試料Sに焦点を結ぶ。このときに、レーザ光L1の焦点Fの中心が試料搭載部10の反射面10aから「(7/4)×λ」となるように対物レンズ9を調整している。つまり、前述してきたものよりも、焦点Fの中心を反射面10aから離間した位置にしている。勿論、反射面10aに対する焦点Fの中心は「(7/4)×λ」には限定されない。
【0084】
図12はこの場合の焦点Fを示している。レーザ光L1(実線)の焦点Fの中心は反射面10aから「(7/4)×λ」の位置となっており、焦点Fの全体が反射面10aから離間している。このとき、拡散光となっているレーザ光L2はレーザ光L1の焦点Fよりも遠方で焦点を結ぶようになる。従って、レーザ光L2は反射面10aで反射した後に焦点を結ぶ。このときに、反射後のレーザ光L2の焦点がレーザ光L1の焦点Fと一致するように、デフォーマブルミラー52をコントロールする。
【0085】
従って、レーザ光L1およびL2の焦点Fは図12に示すようになる。同図に示すように、焦点FではZ軸方向に強度が高くなる領域を複数発生する(領域F1、F2、F3、F4、F5)。このときの焦点Fにおけるレーザ光L1およびL2の強度分布は図13のようになる。
【0086】
レーザ光Lが焦点Fを結ぶことにより、試料Sが蛍光して戻り光Rが発生する。この戻り光Rについても、対物レンズ9に直接的に入射する光(戻り光R1:実線の光)と反射面10aで反射した後に対物レンズ9に入射する光(戻り光R2:破線の光)とが発生する。そして、戻り光R1とR2とは光路差により干渉する。干渉した戻り光R1とR2とが戻り光Rとして、ピンホール13を通過して検出部14に入射して検出される。
【0087】
このときの検出部14で検出される戻り光Rの強度分布は図13(b)のようになる。つまり、図13(a)の強度分布を2乗したシャープな形になる。コントローラ15は検出部14が検出した戻り光Rの光量データに対してデコンボルーション処理を行う。これにより、特定の領域の強度だけが検出される。そして、図13に示すように、Z軸方向に複数の戻り光Rの強度が検出される。従って、所望の領域の強度のみを抽出するデコンボルーション処理を行うことで、試料SにおけるZ軸方向の複数の断面画像を得ることができる。
【0088】
ここでは、焦点Fの中心が反射面10aから「(7/4)×λ」の位置となるようにしたが、焦点Fの中心は反射面10aから任意の位置に設定してもよい。焦点Fの中心を光軸方向にずらすことで、強度が高くなる領域の位置を変化させることができる。図14(a)および図14(b)は、反射面10aから(7/4)×λの位置を焦点Fの中心としたときから、焦点Fの中心をZ軸方向に変化させた場合を示している。
【0089】
このように、焦点Fの中心をZ軸方向に変化させることで、Z軸方向の複数の領域の強度が得られる。そして、検出した戻り光Rに基づいて、より正確なデコンボルーション処理を行うことで、試料SのZ軸方向における任意の位置における断面の画像生成を行うことができる。
【0090】
このときに、光分岐ユニット50のレーザ光L1またはL2の何れかの光路に位相変調素子を挿入して、一方の位相をコントロールすることができる。これにより、焦点Fの状態を常に図12のようにすることができる。このときには、デコンボルーション処理を行うときのPSFが一定になるため、演算処理が容易になる。なお、位相変調素子ではなく、レーザ光L1またはL2の何れかの光路長をコントロールすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0091】
従って、本変形例2では、反射面10aから離間した位置(「(7/4)×λ」の位置)の試料Sの断面画像を得ることができる。また、反射面10aに対して焦点Fの中心をZ軸方向にすらすことで、試料SのZ軸方向の任意の位置の断面画像を得ることができる。
【0092】
次に、変形例3について説明する。変形例3では、顕微鏡装置1を飽和励起顕微鏡として用いている。顕微鏡装置1の構成としては図1と同じである。ただし、レーザ光源2が発振するレーザ光Lの強度を高くすると共に、レーザ光Lを一定の周波数fで変調する。これにより、レーザ光Lの焦点Fの中心部分(頂上付近)において蛍光信号の飽和が発生する。
【0093】
これにより、この頂上付近の領域の蛍光信号の時間変化には歪みを生じ、周波数2f、3fの高調波を含むようになる。このような高調波を含む信号成分を検出することにより、Z軸方向およびこれに直交するXY方向の限定された狭小な領域でのみ蛍光の飽和を生じさせる。従って、狭小な領域でのみ蛍光を飽和させて、これを検出することで、分解能を高くすることができる。そして、反射面10aによりレーザ光Lを反射させて干渉させているため、より高解像度の画像を得ることができる。
【0094】
次に、変形例4について説明する。変形例4はPALM(Photoactivated localization microscope)という手法に顕微鏡装置1を適用している。ここでは、レーザ光源2は2色のレーザ光Lを発振するものを用いる。このうち、1つはスイッチング用のレーザ光Lであり、もう1つは蛍光取得用のレーザ光Lである。
【0095】
また、蛍光分子を個別に発光させるために、蛍光のON(蛍光可能な状態)とOFF(蛍光不可能な状態)とを切り替えることが可能な蛍光タンパク質(蛍光プローブ)を用いる。この蛍光プローブを蛍光がOFFの状態で試料Sに導入する。この状態で非常に微弱なスイッチング用のレーザ光Lで蛍光プローブのスイッチングを行う。このときに、試料Sの各蛍光分子の距離が充分に離れた少数の蛍光分子だけがONにされる条件下でスイッチングを行う。
【0096】
その後に、蛍光取得用のレーザ光Lで計測された蛍光分子の点像分布にガウス関数によるフィッティングを行う。そして、その中心位置を分子の位置として記録する。続けて、このONの状態の蛍光分子を退色させた後に、別の蛍光分子のスイッチングを行い、この方法を繰り返す。これにより、XY方向の分解能が極めて優れた画像を取得することができる。
【0097】
このときに、反射面10aにより反射したレーザ光Lと対物レンズ9から直接的に入射するレーザ光Lとの干渉により定在波を発生させることで、Z方向に高い分解能を得ている。従って、XY方向およびZ方向において分解能を高くすることができ、3次元に高解像度の画像を得ることができる。
【0098】
次に、変形例5について説明する。変形例5は顕微鏡装置1を誘導放出抑制(STED)顕微鏡に適用している。このSTED顕微鏡におけるレーザ光源2は、図15に示すように、励起用レーザ光源60とSTEDレーザ光源61と位相制御板62と反射ミラー63とダイクロイックミラー64とを備えている。
【0099】
励起用レーザ光源60が発振するレーザ光Lは前述したものであり、試料Sに照射させて蛍光色素を励起させる。STEDレーザ光源61が発振するSTEDレーザLSは、励起用レーザ光源60が発振したレーザ光Lの焦点Fに対してリング状の強度分布を持つ誘導放出用のレーザ光になる。
【0100】
STEDレーザLSは反射ミラー63により反射して、ダイクロイックミラー64に入射する。このダイクロイックミラー64にはレーザ光Lも入射している。ダイクロイックミラー64はレーザ光Lを透過して、STEDレーザLSを反射する特性を有している。これにより、レーザ光LとSTEDレーザLSとが同軸になり、同じ光路を辿る。
【0101】
これにより、試料Sにおいて、レーザ光Lの焦点Fの外周にリング状にSTEDレーザLSの焦点が重なる。STEDレーザLSは誘導放出の作用を発生させる。レーザ光Lの焦点Fとなる中心部分は蛍光を発生し、リング状のSTEDレーザLSの焦点は蛍光を発しなくなる。これにより、中心部分の領域が蛍光し、その周辺が蛍光しなくなることから、蛍光する領域を狭小にすることができる。
【0102】
従って、XY方向に高い分解能を得ることができ、高解像度の画像取得を行うことができる。そして、前述したように、反射面10aを用いて干渉による定在波を発生させることで、Z方向の分解能も高くすることができる。これにより、XY方向およびZ方向の分解能を高くすることができ、3次元の高解像度の画像生成を行うことができる。
【0103】
次に、変形例6について説明する。図16に示すように、変形例6は顕微鏡装置1を倒立顕微鏡として構成したものである。試料搭載部10は台71と反射蓋72とを有して構成している。台71は内部に試料Sを搭載可能な皿状に構成している。また、反射蓋72は試料Sの側に反射面72aを形成している。台71と反射蓋72との間には細胞1層分程度(10μm程度)の間隙を設けるようにする。
【0104】
顕微鏡装置1は倒立顕微鏡であり、図1の顕微鏡装置1とは試料搭載部10の構成が重力方向において逆方向になっている。倒立顕微鏡としたときでも、反射蓋72に反射面72aを形成することで、干渉による定在波を発生させることができ、高い分解能を得ることができる。これにより、高解像度の画像生成を行うことができる。
【符号の説明】
【0105】
1 顕微鏡装置
2 レーザ光源
5 光走査ユニット
9 対物レンズ
10 試料搭載部
10 試料搭載部
10a 反射面
14 検出部
15 コントローラ
20 スキャナユニット
21 マイクロレンズディスク
22 ピンホールディスク
23 回転ドラム
24 モータ
30 顕微鏡
31 結像レンズ
32 対物レンズ
40 カメラ
50 光分岐ユニット
51 ハーフミラー
52 デフォーマブルミラー
53 反射ミラー
54 ハーフミラー
60 励起用レーザ光源
61 レーザ光源
62 位相制御板
63 反射ミラー
64 ダイクロイックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉性を有し、試料を励起させる照明光を発振する光源と、
前記試料に前記照明光を照射したときに蛍光した戻り光を検出する検出部と、
前記照明光の焦点の範囲内に定在波を発生させるように前記照明光を反射させる反射面に前記試料を搭載した試料搭載部と、
を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記焦点の範囲内の前記戻り光のみを前記検出部に通過させるピンホールを備えたこと
を特徴とする請求項1記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記試料に前記照明光の焦点を結ばせる対物レンズと、
前記照明光の光軸方向に直交する平面に前記照明光を走査する走査部と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記光源は、近赤外光のパルスレーザを前記照明光として発振すること
を特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
複数のマイクロレンズを配列した第1の回転ディスクと、
この第1の回転ディスクと離間した位置に設けられ、前記マイクロレンズと同じパターンで複数のピンホールを配列した第2の回転ディスクと、
前記第1の回転ディスクと前記第2の回転ディスクとを一体的に回転させる回転ドラムと、
を備えたことを特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記反射面に対して前記焦点の位置を異ならせたときの戻り光を前記検出部が検出して、これらの戻り光を比較して強度が高くなっている1つの領域以外の領域を除去するデコンボルーション処理を行う演算部を備えたこと
を特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記照明光を第1の照明光と第2の照明光とに分岐して、この第2の照明光を拡散光にして前記反射面で反射させ、前記第1の照明光と反射した前記第2の照明光との焦点を一致させる光分岐部を備えたこと
を特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記光源は、前記試料の蛍光が飽和する強度であり且つ一定の周波数で変調したレーザ光を発振すること
を特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項9】
前記光源は、蛍光可能な状態と不可能な状態とを切り替え可能な蛍光分子が導入された前記試料に対してスイッチング用のレーザ光を発振すること
を特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項10】
前記光源は、
前記照明光を励起用レーザ光として発振する励起用レーザ光源と、
前記励起用レーザ光の焦点の外周にリング状の焦点を結ばせるSTEDレーザを発振するSTEDレーザ光源と、
前記励起用レーザ光と前記STEDレーザとの光路を一致させるダイクロイックミラーと、
を備えたことを特徴とする請求項3記載の顕微鏡装置。
【請求項11】
干渉性を有し、試料を励起させる照明光を発振する光源から、前記照明光の焦点の範囲内に定在波が発生するように前記照明光を反射させる反射面を形成した試料搭載部に搭載した前記試料に前記照明光を照射して、蛍光した戻り光を検出すること
を特徴とする観察方法。
【請求項12】
干渉性を有し、試料を励起させる照明光を照射したときに蛍光した戻り光を検出して観察を行うときの前記試料を搭載する試料搭載機構であって、
この試料搭載機構の前記照明光が入射する側の面に前記照明光の焦点の範囲内に定在波を発生させる反射面を形成したこと
を特徴とする試料搭載機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−198276(P2012−198276A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60688(P2011−60688)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】