説明

顕微鏡装置

【課題】励起光による病理組織等標本等の発する蛍光の撮影を行う顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】顕微鏡装置は、蛍光色素の励起光を発生する蛍光撮影用光源2と、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な液晶波長可変フィルターユニット6と、励起光を反射すると共により波長の長い蛍光は透過するダイクロイックミラー8と、対物レンズ9と、撮影対象物と蛍光撮影用撮影ユニット13間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な液晶波長可変フィルターユニット12と、蛍光撮影用撮影ユニット13と、上記液晶波長可変フィルターユニットに所望の電圧を加える制御装置であるパソコン18とを備える。複数の蛍光色素を用いた同時蛍光撮影を自動的かつ高速、高精度に実行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織学検査や血液学検査、遺伝子検査、細胞学検査、分子生物学的研究等において使用される顕微鏡装置に関し、特に、標本の発する蛍光を撮影する機能を有する顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病理組織学、血液学、遺伝子検査学の顕微鏡検査等においては、採取した病理組織や細胞や血液等の標本を顕微鏡に装備した撮影装置によって撮影し、その画像をコンピュータに取り込んで、ディスプレイ上で観察できる画像データを作成することが行われている。
【0003】
現在、スライド画像データの作成においては、撮影、データ処理、表示を高速で行うことが可能である。更に、画像データをデータベースにより管理することで、ネットワークやWebを通して、バーチャルスライド画像とその属性情報を閲覧することができる。(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
一方、病理検査的、分子生物学的研究において、細胞内や組織上の分子局在を正確に解析するために、複数の発現分子又は遺伝子を同時に検出することが求められている。従来、可視光色素を用いた検出では、2〜4種類程度の色素の同時検出が可能であるが、蛍光波長の異なる複数の蛍光色素を用いた同時検出を行うことにより、更に多くの色素の同時検出が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、1つの標本に対して蛍光波長が異なる複数の蛍光色素を用いた蛍光画像の同時撮影を行う場合、蛍光色素毎にそれぞれ適正な励起光および色素から発せられる微弱な蛍光の波長があるため、蛍光色素毎に励起光および蛍光について複数の光学フィルターを交換する必要があった。このため、光学フィルターの交換に時間が掛かり、試料が劣化したり、時間の経過に従って微弱な蛍光の光強度が更に弱くなるという問題があった。また、光学フィルターの交換の際の振動等によってスライドの視野がずれてしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は、蛍光同時撮影における従来の波長固定フィルター交換方式の問題点を解決し、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能となる液晶波長可変フィルターユニットを具備することにより、複数の蛍光色素を用いたスライド画像の撮影やバーチャルスライド画像の作成を高速かつ高精度に行うことができる顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために提供される本発明の顕微鏡装置は、複数の蛍光物質と対応する複数の波長の励起光を選択的に発生する蛍光撮影用光源と、前記蛍光撮影用光源から出力される特定波長よりも短い波長の励起光を撮影対象物の方向に反射し、撮影対象物から発現される特定波長よりも長い波長の蛍光を透過するダイクロイックミラーと、前記ダイクロイックミラーと撮影対象物との間に配置された対物レンズと、前記ダイクロイックミラーと蛍光撮影用撮影ユニット間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な液晶波長可変フィルターユニットと、前記液晶波長可変フィルターユニットから出力される蛍光画像を撮影する蛍光撮影用撮影ユニットと、前記励起光および撮影対象物の発する蛍光と対応した所望の特性になるように前記蛍光撮影用光源および前記液晶波長可変フィルターユニットを制御する制御装置とを備えたことを主要な特徴とする。
【0009】
また、本発明の顕微鏡装置は、複数の蛍光物質と対応する複数の波長の励起光を含む光を発生する蛍光撮影用光源と、前記蛍光撮影用光源とダイクロイックミラー間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な第1の液晶波長可変フィルターユニットと、前記第1の液晶波長可変フィルターユニットから出力される所定の特定波長よりも短い波長の励起光を撮影対象物の方向に反射し、撮影対象物から出力される特定波長よりも長い波長の蛍光を透過するダイクロイックミラーと、前記ダイクロイックミラーと撮影対象物との間に配置された対物レンズと、前記ダイクロイックミラーと蛍光撮影用撮影ユニット間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な第2の液晶波長可変フィルターユニットと、前記第2の液晶波長可変フィルターユニットから出力される蛍光画像を撮影する蛍光撮影用撮影ユニットと、前記励起光および撮影対象物の発する蛍光と対応した所望の特性になるように前記第1および第2の液晶波長可変フィルターユニットを制御する制御装置とを備えたことを主要な特徴とする。
【0010】
また、前記した顕微鏡装置において、更に、上記蛍光撮影用光源と第1の液晶波長可変フィルターユニット間に配置され、可視光よりも波長が長い赤外線を吸収する熱線カットフィルターと、上記蛍光撮影用光源と第1の液晶波長可変フィルターユニット間に配置され、可視光よりも短い波長の光を吸収する紫外線カットフィルターと、前記ダイクロイックミラーと前記蛍光撮影用撮影ユニットの間に配置され、特定波長よりも短い波長の光を吸収する光学フィルターとを備えている点にも特徴がある。
【0011】
また、前記した顕微鏡装置において、前記液晶波長可変フィルターユニットは、ユニット内に温度センサーを備えた液晶波長可変フィルターユニットであり、前記制御装置は前記温度センサーを用いて前記液晶波長可変フィルターユニット内の温度を測定し、測定結果に基づいて前記液晶波長可変フィルターユニットに印加する電圧を制御する点にも特徴がある。
【0012】
また、前記した顕微鏡装置において、更に明視野撮影を行うための明視野撮影用光源と、明視野撮影時に光路上に配置され光路を屈折させるプリズムと、明視野撮影用撮影ユニットを備えている点にも特徴がある。
【0013】
また、前記した顕微鏡装置において、更に、前記制御装置による制御に基づいて撮影対象物を3次元方向に移動可能な3次元移動ステージを備え、前記制御装置は顕微鏡により撮影したスライド蛍光画像データを自動的に生成する処理を行う点にも特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下のような効果がある。
(1)液晶波長可変フィルターユニットを備えることにより、フィルター移動機構を用いずに任意かつ高速にフィルター透過波長を設定、切り替えでき、多重蛍光染色に対応して多数の蛍光色素の同時検出が可能な蛍光撮影ができると共に、フィルター移動機構の動作に起因する振動等による視野のずれもなくなる。
(2)スライド画像データ作成機能を備えることにより、蛍光画像によるスライド画像の生成、バーチャルスライド画像の作成を高速に行うことができる。
(3)明視野撮影用光源と明視野撮影用撮影ユニットを備えることにより、明視野撮影も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の顕微鏡装置の実施例1の構成例を示したブロック図である。
【図2】実施例1の顕微鏡装置における蛍光撮影の光学特性の一例を示したグラフであり、蛍光撮影用光源の光学特性と撮影対象物に入射する励起光の光学特性を示している。
【図3】実施例1の顕微鏡装置による蛍光撮影における、撮影対象物の反射光の光学フィルター透過前と透過後の光学特性と、光学フィルターの光学特性を示すグラフである。
【図4】実施例1の顕微鏡装置による、蛍光撮影用光源と対物レンズ間に配置されている液晶波長可変フィルターユニットにおける、励起光の透過/遮断の光学特性を示すグラフである。
【図5】実施例1の顕微鏡装置による、光学フィルターと撮影ユニット間に配置されている液晶波長可変フィルターユニットにおける、撮影対象物の反射光の透過/遮断の光学特性を示すグラフである。
【図6】実施例1の顕微鏡装置を用いて蛍光撮影した画像データの一例を示す写真である。
【図7】実施例1の顕微鏡装置を用いて蛍光撮影した画像データをバーチャルスライド化した一例を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の顕微鏡装置1の実施例1の構成例を示したブロック図である。 この顕微鏡装置1は、蛍光撮影用光源2、熱線カットフィルター3、紫外線カットフィルター4、温度センサーA5及びB11をユニット内に有する2つの液晶波長可変フィルターユニットA6及びB12、電圧印加装置7、ダイクロイックミラー8、対物レンズ9、光学フィルター10、蛍光撮影用撮影ユニット13、明視野撮影用光源14、プリズム15、明視野撮影用撮影ユニット16、3次元移動ステージ17および制御装置であるパソコン18からなる。
【0018】
光源ユニット19の構成要素である蛍光撮影用光源2は、撮影対象物であるスライド20に照射する蛍光色素の励起光を発生する。蛍光撮影用光源2としては具体的には水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどの高輝度光源が用いられる。蛍光撮影用光源2は複数の蛍光物質に対応する励起光を含んでいる。光源2は発生した光を効率よく撮影対象物に照射するためにレンズあるいは反射板等の集光手段を備えていてもよい。
【0019】
熱線カットフィルター3は、可視光よりも波長が長い赤外線を吸収するフィルターである。熱線を熱線カットフィルター3によって吸収させることにより、液晶波長可変フィルターユニットA6や撮影対象物20などが加熱されるのを抑制する。
【0020】
紫外線カットフィルター4は、可視光よりも波長が短い紫外線を吸収するフィルターである。紫外線を紫外線カットフィルター4で吸収させることにより、試料の劣化や液晶波長可変フィルターユニットA6への悪影響を防ぐことができる。
【0021】
前記顕微鏡装置1に装備される液晶波長可変フィルターユニットA6は、複数枚の液晶セルによって構成される。この液晶波長可変フィルターユニットA6は、電圧の大きさによって任意にフィルター透過波長を設定でき、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能である。従って、この液晶波長可変フィルターユニットA6をパソコン18によって制御することによって所望の波長の励起光のみを透過させる。
【0022】
また、液晶波長可変フィルターは温度変化によって波長透過率特性が変動するため、ユニット内に温度センサーA5を備え、パソコン18が温度センサーA5によって測定された温度に従って電圧印加装置7を制御し、液晶波長可変フィルターユニットA6への印加電圧を調整する。これにより波長透過率特性の変動を抑制できる。
【0023】
なお、液晶波長可変フィルター自体は公知である。光学フィルターとしては、2枚の偏光板で挟んだ一軸性結晶を多段に積層することにより、比較的狭い透過スペクトルを有するバンドパスフィルターとしてリオ・フィルター(Lyot-filter)が知られており、更に、前記したリオ・フィルターにおいて一軸性結晶を液晶セルに置き換えることにより、印加電圧値によって透過/遮断波長を広範囲に変化させることができる液晶波長可変フィルター(例えば下記特許文献2を参照)が知られている。
【特許文献2】特開平3−282417号公報。
【0024】
ダイクロイックミラー(dichroic mirror)8は、特定波長よりも短い波長の光を反射すると共に、その特定波長よりも長い波長の光を透過する波長選択性を有している。本発明においては、特定波長が一番波長の長い励起光の波長よりも長く、かつ波長が一番短い蛍光の波長よりも短いものを使用する。なお、ダイクロイックミラー自体は周知である。
【0025】
対物レンズ9は、撮影対象物を拡大観察するための顕微鏡用の光学レンズであり、撮影対象物である標本のスライド20とダイクロイックミラー8間に配置される。対物レンズ9は、パソコン18により制御される移動機構によって所望の倍率のものに切り替え可能に構成されていてもよい。
【0026】
光学フィルター10は、前記した特定波長よりも短い波長の光を吸収し、特定波長よりも長い波長の光を透過するフィルターである。光学フィルター10はダイクロイックミラー8の後段に配置され、この光学フィルター10により撮影対象物20からの反射光に含まれる励起光が更に除去される。
【0027】
光学フィルター10の後段に配置される液晶波長可変フィルターユニットB12は、液晶波長可変フィルターユニットA6と同一機能の液晶波長可変フィルターユニットである。この液晶波長可変フィルターユニットB12は、パソコン18によって制御されることによって所望の波長の蛍光のみを透過させ、励起光や他の波長の蛍光は遮断する。
【0028】
また、液晶波長可変フィルターユニットB12はやはりユニット内に温度センサーB11を備え、パソコン18が温度センサーB11によって測定された温度に従って電圧印加装置7を制御し、液晶波長可変フィルターユニットB12への印加電圧を調整する。
【0029】
蛍光撮影用撮影ユニット13は、撮影対象物からの微弱な蛍光を電気信号に変換し、静止画像データを生成する顕微鏡用の撮像手段である。蛍光撮影用撮影ユニット13としてはCCD撮像素子を使用したモノクロあるいはカラーの高感度冷却カメラを使用する。なお、このような高感度冷却カメラは市販されている。
【0030】
蛍光撮影時には、蛍光撮影用光源2によって生成された励起光が熱線カットフィルター3、紫外線カットフィルター4、液晶波長可変フィルターユニットA6、ダイクロイックミラー8、対物レンズ9をこの順序で通過し撮影対象物20に入射する。このとき撮影対象物に入射した励起光は撮影対象物に存在する蛍光染料を励起し、励起光よりも長い波長の蛍光を発生させる。
【0031】
発生した微弱な蛍光は、対物レンズ9、ダイクロイックミラー8、光学フィルター10、液晶波長可変フィルターユニットB12をこの順序で通過して蛍光撮影用撮影ユニット13に入射し、蛍光画像として撮影される。
【0032】
3次元移動ステージ17に搭載され、スライド20の下方に配置された明視野撮影用光源14は、明視野撮影時に撮影対象物20に照射する透過光を発生する。また、プリズム15は蛍光撮影時には光路外に移動配置されるが、明視野撮影時には光路上に自動的に(あるいは手動により)配置され、光路を明視野撮影用撮影ユニット16の方向に屈折させる。
【0033】
この顕微鏡装置では、蛍光撮影及び明視野撮影について、撮影対象物20とプリズム15の間に共通の光路を有する。蛍光撮影時にはダイクロイックミラー8、光学フィルター10及び液晶波長可変フィルターユニットB12が共通光路上に配置され、プリズム15は共通光路外に配置される。また、通常のカラー画像を撮影する明視野撮影時にはプリズム15が共通光路上に配置され、ダイクロイックミラー8、光学フィルター10及び液晶波長可変フィルターユニットB12が共通光路外に配置される。
【0034】
明視野撮影用撮影ユニット16は、撮影対象物からの光を電気信号に変換し、画像データを生成する通常の顕微鏡用の可視光撮像手段である。明視野撮影にはCCDあるいはCMOS撮像素子を使用した高転送速度のカラーカメラを用いる。明視野撮影時には、明視野撮影用光源14によって撮影対象物に照射された光が対物レンズ9を通り、プリズム15によって光路が屈折されて、明視野撮影用撮影ユニット16に入射しスライド画像として撮影される。
【0035】
3次元移動ステージ17は、パソコン18による制御に基づいて3次元方向に移動可能な試料運搬機構であり、撮影対象物20を直交するX、Y、Z軸方向に順次移動させながら、スライド画像の撮影を高速で行う事が出来る。
【0036】
制御装置であるパソコン18は、蛍光撮影用撮影ユニット13及び明視野撮影用撮影ユニット16により撮影したスライド画像データを高速かつ自動的に生成・処理するプログラムを内蔵し、利用者の指示に基づき、複数の蛍光色素を用いた蛍光画像の同時撮影処理を行い、バーチャルスライド画像とその属性情報を作成することができる。また、温度センサーA5及びB11が測定した温度に基づき、電圧印加装置7が液晶波長可変フィルターユニットA6及びB12に印加する電圧を調整する。
【0037】
次に、撮影動作について説明する。蛍光同時撮影においては、まずプリズム15を光路外に移動し、ダイクロイックミラー8、光学フィルター10、液晶波長可変フィルターユニットB12を光路に挿入する。また、蛍光撮影用光源2を点灯し、3次元移動ステージ17を撮影開始位置に移動させる。
【0038】
次に、液晶波長可変フィルターユニットA6が第1の蛍光色素と対応する励起波長の光のみを透過するように、電圧印加装置7を介して所望の電圧を液晶波長可変フィルターユニットA6に印加する。この際、温度センサーA5を用いて液晶波長可変フィルターユニットA6の温度を測定し、測定結果に基づいて印加する電圧を調整する。また、液晶波長可変フィルターユニットB12が第1の蛍光色素と対応する蛍光波長の光のみを透過するように、電圧印加装置7を介して所望の電圧を液晶波長可変フィルターユニットB12に印加する。この際、温度センサーB11を用いて液晶波長可変フィルターユニットB12の温度を測定し、測定結果に基づいて印加する電圧を調整する。その後、蛍光撮影用撮影ユニット13を制御して蛍光画像を撮影し、画像データを読み込む。
【0039】
次に第2の蛍光色素について、第1の蛍光色素の場合と同様にフィルターの制御および撮影を行う。この処理を蛍光色素の種類数だけ繰り返す。全ての蛍光色素について撮影が完了すると、3次元移動ステージ17を制御して、次の撮影位置まで1ステップだけ移動させ、撮影終了位置まで上記した撮影と移動を繰り返す。フィルターの制御および撮影の間には顕微鏡装置に可動部分がないので、振動等によって複数の蛍光画像の撮影の間に視野がずれることがなくなる。
【0040】
なお、明視野撮影も行う場合には、例えばある位置において全ての蛍光色素についての撮影が完了した後、ダイクロイックミラー8、光学フィルター10、液晶波長可変フィルターユニットB12を光路外に移動し、プリズム15を光路に挿入し、明視野撮影用光源14を点灯し、明視野撮影用撮影ユニット16を制御して明視野撮影を行う。
【0041】
図2は図1の顕微鏡装置1による蛍光撮影時の光学特性の一例を示したグラフであり、図2(a)には、蛍光撮影用光源2の光学特性(波長毎の強度)が示され、図2(b)には撮影対象物に入射する熱線カットフィルター3、紫外線カットフィルター4、液晶波長可変フィルターユニットA6、ダイクロイックミラー8通過後の励起光の波長毎の強度が示されている。
【0042】
この様な励起光の照射によって撮影対象物は、励起光よりも長い波長の蛍光を発生させる。なお、ダイクロイックミラー8反射後の光には、蛍光の他に励起光も若干は含まれている。この励起光は光学フィルター10によって除去される。
【0043】
図3は図1の顕微鏡装置1による蛍光撮影の光学特性の一例を示したグラフであり、図3(a)は、撮影対象物によって反射された励起光及び励起光により発現された蛍光の様子が示されており、図3(b)には図1の顕微鏡装置1による光学フィルター10通過後の光学特性の一例が示され、図3(c)には光学フィルター10の光学特性が示されている。この例では、撮影対象物による反射光のうち、波長(480nm)よりも短い波長の光が吸収除去されている。
【0044】
図4は、図1の顕微鏡装置1の液晶波長可変フィルターユニットA6における、電圧の変化による励起光の透過/遮断の一例を示した図である。中心波長420nm(半値幅23nm)の光を選択的に透過させた場合における、液晶波長可変フィルターユニットA6透過後の撮影対象物に入射する励起光の光学特性が示されている。
【0045】
図5は、図1の顕微鏡装置1の液晶波長可変フィルターユニットB12における、電圧の変化による撮影対象物から発現される蛍光の透過/遮断の一例を示した図である。図5(a)、図5(b)、図5(c)には、それぞれ525nm、585nm、655nmの波長の光を選択的に透過させた場合における、液晶波長可変フィルターユニットB12透過後の蛍光の光学特性が示されている。
【0046】
図6は、図1の顕微鏡装置1を用いて蛍光撮影した画像データの一例である。図6(a)、図6(b)、図6(c)には、同じ撮影対象物の同じ視野においてそれぞれ525nm、585nm、655nmの波長の蛍光をほぼ同時に(順に)撮影した画像データが示されている。
【0047】
図7は、図1の顕微鏡装置1を用いて蛍光撮影した複数の画像データをバーチャルスライド化(撮影した複数の画像を合成)したものである。図7(a)、図7(b)、図7(c)には、それぞれ525nm、585nm、655nmの波長の蛍光を撮影し、バーチャルスライド化した画像が示されている。
【0048】
以上実施例を説明したが、本発明には以下のような変形例も考えられる。実施例においては、光源ユニット19内に熱線カットフィルター3、紫外線カットフィルター4、液晶波長可変フィルターユニットA6が配置される例について説明したが、光源を所望の励起光のみを発光できる例えばレーザー光源あるいはLED光源などに置き換えてもよい。必要とする励起光がある特定の波長の励起光のみであれば、上記熱線カットフィルター3、紫外線カットフィルター4、液晶波長可変フィルターユニットA6に換えて、ある特定の波長のみを透過させる励起光フィルターのみを配置しても良い。また、それぞれ異なる波長の励起光のみを発光できる光源を複数個装備して切り替えて点灯させるようにしてもよい。
【0049】
また、実施例においては正立型顕微鏡装置の例について説明したが、本発明はこれに限らず、倒立型顕微鏡装置にも適用することができる。
【0050】
実施例においてはフィルターの温度を測定して補正を行う例を開示したが、更に液晶波長可変フィルターユニット内に加熱・冷却装置を配置して液晶の温度を制御するようにしてもよい。また、実施例においては液晶を用いた波長可変フィルターを使用する例を開示したが、透過波長を可変できるフィルターであれば液晶以外の素子を用いたものでも使用可能である。
【0051】
実施例においては蛍光撮影用と明視野撮影用に別の撮影ユニットを用いる例を開示したが、1つのカラー撮影ユニットを共用するようにしてもよい。
【0052】
実施例においてはダイクロイックミラーを使用して、対物レンズを介して励起光を照射する例を開示したが、ダイクロイックミラーを使用せずに、例えば励起光を対物レンズを介さず、斜め上方、横方向、斜め下方などから照射するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のスライド画像データ作成装置は、医学(病理学・血液学・寄生虫学等)・農学・薬学・理学・教育など顕微鏡を利用する全分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 顕微鏡装置
2 蛍光撮影用光源
3 熱線カットフィルター
4 紫外線カットフィルター
5 温度センサーA
6 液晶波長可変フィルターユニットA
7 電圧印加装置
8 ダイクロイックミラー
9 対物レンズ
10 光学フィルター
11 温度センサーB
12 液晶波長可変フィルターユニットB
13 蛍光撮影用撮影ユニット
14 明視野撮影用光源
15 プリズム
16 明視野撮影用撮影ユニット
17 3次元移動ステージ
18 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蛍光物質と対応する複数の波長の励起光を選択的に発生する蛍光撮影用光源と、
前記蛍光撮影用光源から出力される特定波長よりも短い波長の励起光を撮影対象物の方向に反射し、撮影対象物から出力される特定波長よりも長い波長の蛍光を透過するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーと撮影対象物との間に配置された対物レンズと、
前記ダイクロイックミラーと蛍光撮影用撮影ユニット間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な液晶波長可変フィルターユニットと、
前記液晶波長可変フィルターユニットから出力される蛍光画像を撮影する蛍光撮影用撮影ユニットと、
前記励起光および撮影対象物の発する蛍光と対応した所望の特性になるように前記蛍光撮影用光源および前記液晶波長可変フィルターユニットを制御する制御装置と
を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
複数の蛍光物質と対応する複数の波長の励起光を含む光を発生する蛍光撮影用光源と、
前記蛍光撮影用光源とダイクロイックミラー間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な第1の液晶波長可変フィルターユニットと、
前記第1の液晶波長可変フィルターユニットから出力される所定の特定波長よりも短い波長の励起光を撮影対象物の方向に反射し、撮影対象物から出力される特定波長よりも長い波長の蛍光を透過するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーと撮影対象物との間に配置された対物レンズと、
前記ダイクロイックミラーと蛍光撮影用撮影ユニット間に配置され、様々な波長の光を選択的に透過/遮断することが可能な第2の液晶波長可変フィルターユニットと、
前記第2の液晶波長可変フィルターユニットから出力される蛍光画像を撮影する蛍光撮影用撮影ユニットと、
前記励起光および撮影対象物の発する蛍光と対応した所望の特性になるように前記第1および第2の液晶波長可変フィルターユニットを制御する制御装置と
を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項3】
更に、上記蛍光撮影用光源と第1の液晶波長可変フィルターユニット間に配置され、可視光よりも波長が長い赤外線を吸収する熱線カットフィルターと、
上記蛍光撮影用光源と第1の液晶波長可変フィルターユニット間に配置され、可視光よりも短い波長の光を吸収する紫外線カットフィルターと、
前記ダイクロイックミラーと前記蛍光撮影用撮影ユニットの間に配置され、特定波長よりも短い波長の光を吸収する光学フィルターと
を備えたことを特徴とする請求項2に記載された顕微鏡装置。
【請求項4】
前記液晶波長可変フィルターユニットは、ユニット内に温度センサーを備えた液晶波長可変フィルターユニットであり、前記制御装置は前記温度センサーを用いて前記液晶波長可変フィルターユニット内の温度を測定し、測定結果に基づいて前記液晶波長可変フィルターユニットに印加する電圧を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された顕微鏡装置。
【請求項5】
更に明視野撮影を行うための明視野撮影用光源と、明視野撮影時に光路上に配置され光路を屈折させるプリズムと、明視野撮影用撮影ユニットを備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された顕微鏡装置。
【請求項6】
更に、前記制御装置による制御に基づいて撮影対象物を3次元方向に移動可能な3次元移動ステージを備え、前記制御装置は顕微鏡により撮影したスライド蛍光画像データを自動的に生成する処理を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載された顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−186182(P2011−186182A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51282(P2010−51282)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504135114)株式会社クラーロ (4)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(503354044)財団法人21あおもり産業総合支援センター (27)
【Fターム(参考)】