説明

風力発電用風車の制振装置

【課題】支柱の重量増加を伴うことなく、支柱内の狭小なスペースに設置することができるとともに、その固有振動数を変化させることができる風力発電用風車の制振装置を提供すること。
【解決手段】風力発電用風車の支柱の内部に格納して設置される風力発電用風車の制振装置10であって、支柱の上部に設けられたトップフロア13の上面14に、ユニバーサルジョイント15を介して立設されて第一の振動系11を構成する倒立式の振り子と、トップフロア13の下面34から吊り下げられて第二の振動系12を構成する振り子と、を備え、第二の振動系12を構成する振り子が、少なくとも二つの重錘41,42,43を備えており、これら重錘41,42,43の少なくとも一つが、第二の振動系12から第一の振動系11に移動して、第一の振動系11を構成する重錘20とともに、第一の振動系11を構成する重錘となり得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電用風車、特に、風力発電用風車のハブ高さ(地面からハブ中心までの高さ)が100mを超えるような大型の風力発電用風車に適用されて好適な制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電用風車は、その発電効率の向上および発電量の増大を図るために大型化し、そのハブ高さ(地面からハブ中心までの高さ)が100mを超えるものが実現に向けて設計されている。
しかしながら、ハブ高さが100mを超えるものでは、支柱(タワー)の一次固有振動数が、ローターヘッドおよび風車回転翼の回転に伴う共振域と合致し、支柱の疲労荷重が大幅に増加してしまうおそれがある。そのため、支柱の疲労荷重を低減させるために支柱の肉厚を厚くしなければならず、支柱の重量が大幅に増加してしまうといった問題点があった。
【0003】
そこで、このような問題点を回避するため、例えば、特許文献1に開示された制振装置を用いて、支柱の一次固有振動数が、ローターヘッドおよび風車回転翼の回転に伴う共振域と合致しても応答を低減することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−31735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された制振装置を風力発電用風車に適用した場合、ダンパー(減衰装置)の一端が支柱の内壁面等に固定されることになる。そのため、当該支柱の内壁面等を補強しなければならず、支柱の重量が増加してしまうといった問題点があった。
また、制振装置を風力発電用風車に適用するにあたっては、美観を損ねるような構造とならないようにするとともに、支柱内の狭小なスペースに設置しなければならないため、制振装置をできるだけ小型化する必要がある。
【0006】
さらに、ナセルが、ナセル旋回部、ナセル前部およびナセル後部に分割される風力発電用風車を組み立てていく際、支柱の上端にナセル旋回部が設置された段階、支柱の上端にナセル後部が設置された段階、支柱の上端にナセル前部(すなわち、ナセル全体)が設置された段階、ナセルにローターヘッドおよび風車回転翼が取り付けられ、風力発電用風車の全体が完成した段階で、支柱の固有振動数は、その都度変化していく(小さくなっていく)。そのため、それにあわせて制振装置の固有振動数を変化させることができると好適である。これは、風力発電用風車を組み立てていく際に気象条件が悪化し、完成系以前の形態にて強風にさらされる場合でも、効率的に支柱(タワー)の風応答を低減できるという利点による。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、支柱の重量増加を伴うことなく、支柱内の狭小なスペースに設置することができるとともに、その固有振動数を変化させることができる風力発電用風車の制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る風力発電用風車の制振装置は、風力発電用風車の支柱の内部に格納して設置される風力発電用風車の制振装置であって、前記支柱の上部に設けられた構造物(支柱を構成するトップフロアや梁等)の上面に、ユニバーサルジョイントを介して立設されて第一の振動系を構成する倒立式の振り子と、前記構造物の下面から吊り下げられて第二の振動系を構成する振り子と、を備え、前記第二の振動系を構成する振り子が、少なくとも二つの重錘を備えており、これら重錘の少なくとも一つが、前記第二の振動系から前記第一の振動系に移動して、前記第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘となり得るように構成されている。
【0009】
本発明に係る風力発電用風車の制振装置によれば、支柱一次振動の減衰を増加させる効果があり、減衰増加により風車回転翼の回転に伴う支柱一次の振動・振幅を抑制する効果がある。
これにより、支柱の重量増加を回避することができ、ハブ高さが100mを超える風力発電用風車を容易に設計することができる。
また、制振装置の一部(例えば、ダンパー(減衰装置))が支柱の内壁面等に固定されることはないので、当該支柱の内壁面等を補強する必要がなくなり、支柱の重量増加を回避することができる。
さらに、第二の振動系を構成する重錘を第一の振動系に移動させ、第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘とすることにより、制振装置の固有振動数が減少することになる。すなわち、風力発電用風車を組み立てていく際、例えば、支柱の上端にナセルが設置された段階、ナセルにローターヘッドおよび風車回転翼が取り付けられ、風力発電用風車の全体が完成した段階に応じて、支柱の固有振動数がその都度減少させられることになる。これにより、風力発電用風車を安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【0010】
上記風力発電用風車の制振装置において、前記第一の振動系を構成する重錘と、前記第二の振動系を構成する重錘とが、同一水平面内における同方向に振れ、かつ、同一垂直面内における反対方向に振れるように、前記第一の振動系を構成する重錘と、前記第二の振動系を構成する重錘とを拘束する拘束手段が設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような風力発電用風車の制振装置によれば、第一の振動系を構成する重錘と、第二の振動系を構成する重錘とが、同一水平面内における同方向に振れ、かつ、同一垂直面内における反対方向に振れることになる。
これにより、支柱一次振動を最も効率よく減衰させることができ、当該風力発電用風車の制振装置の小型化(最小化)を図ることができる。
【0012】
上記風力発電用風車の制振装置において、前記第一の振動系を構成する倒立式の振り子の重錘が、前記第二の振動系を構成する重錘とともに、第二の振動系を構成する重錘となり得るように構成されているとさらに好適である。
【0013】
このような風力発電用風車の制振装置によれば、例えば、支柱のみが完成した段階、すなわち、支柱の固有振動数が、支柱の上端にナセルが設置された段階よりも高い段階でも支柱一次振動が減衰されることになる。これにより、風力発電用風車をより安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【0014】
本発明に係る風力発電用風車は、支柱の重量増加を伴うことなく、支柱内の狭小なスペースに設置することができるとともに、その吊り長さを変化させることなく固有振動数を変化させることができる風力発電用風車の制振装置を具備している。
【0015】
本発明に係る風力発電用風車によれば、ハブ高さが100mを超える風力発電用風車の大型化に対応することができる。
【0016】
本発明に係る風力発電用風車の制振方法は、風力発電用風車の支柱の上部に設けられた構造物(支柱を構成するトップフロアや梁等)の上面に、ユニバーサルジョイントを介して立設されて第一の振動系を構成する倒立式の振り子と、前記構造物の下面から吊り下げられて第二の振動系を構成する振り子とが、前記支柱の内部に格納され、前記振り子が、少なくとも二つの重錘を備えている風力発電用風車の制振方法であって、前記重錘の少なくとも一つを、前記第二の振動系から前記第一の振動系に移動して、前記第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘として用いるようにした。
【0017】
本発明に係る風力発電用風車の制振方法によれば、支柱一次振動の減衰を増加させる効果があり、減衰増加により風車回転翼の回転に伴う支柱一次の振動・振幅を抑制する効果がある。
これにより、支柱の重量増加を回避することができ、ハブ高さが100mを超える風力発電用風車を容易に設計することができる。
また、制振装置の一部(例えば、ダンパー(減衰装置))が支柱の内壁面等に固定されることはないので、当該支柱の内壁面等を補強する必要がなくなり、支柱の重量増加を回避することができる。
さらに、第二の振動系を構成する重錘を第一の振動系に移動させ、第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘とすることにより、制振装置の固有振動数が減少することになる。すなわち、風力発電用風車を組み立てていく際、例えば、支柱の上端にナセルが設置された段階、ナセルにローターヘッドおよび風車回転翼が取り付けられ、風力発電用風車の全体が完成した段階に応じて、支柱の固有振動数がその都度減少させられることになる。これにより、風力発電用風車を安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【0018】
上記風力発電用風車の制振方法において、前記第一の振動系を構成する倒立式の振り子の重錘を、前記第二の振動系を構成する重錘とともに、第二の振動系を構成する重錘として用いるようにするとさらに好適である。
【0019】
このような風力発電用風車の制振方法によれば、吊り長さを変える等制振装置の構造形態を変えることなく、重錘初期設置位置内の移動のみで固有振動数を変えることができるので、例えば、支柱のみが完成した段階、すなわち、支柱の固有振動数が、支柱の上端にナセルが設置された段階よりも高い段階でも支柱一次振動が減衰されることになる。これにより、風力発電用風車をより安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る風力発電用風車の制振装置によれば、支柱の重量増加を伴うことなく、支柱内の狭小なスペースに設置することができるとともに、その固有振動数を変化させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の概略を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の支柱内の様子を示す一部断面図であって、図3において下側から見た図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の支柱内の様子を示す平面図であって、図2において上側から見た図である。
【図4】図2に示す重錘を、図2において上側から見た平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を簡略化して模式的に描いた図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置の作用効果を説明するための図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置について、図1から図6を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の概略を示す側面図、図2は本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の支柱内の様子を示す一部断面図であって、図3において下側から見た図、図3は本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を具備した風力発電用風車の支柱内の様子を示す平面図であって、図2において上側から見た図、図4は図2に示す重錘を、図2において上側から見た平面図、図5は本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置を簡略化して模式的に描いた図、図6は本発明の一実施形態に係る風力発電用風車の制振装置の作用効果を説明するための図表である。
【0023】
図1に示すように、風力発電用風車1は、基礎2上に立設される支柱(タワー)3と、支柱3の上端に設置されるナセル4と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル4に設けられるローターヘッド5と、ローターヘッド5の回転軸線周りに放射状に取り付けられた複数枚、例えば、3枚の風車回転翼6とを備えている。そして、ローターヘッド5の回転軸線方向から風車回転翼6にあたった風の力が、ローターヘッド5を回転軸線周りに回転させる動力に変換されるようになっている。
【0024】
ナセル4の上部には、周辺の風速値を測定する風速計7と、風向を測定する風向計8と、避雷針(図示せず)とが備えられている。
ナセル4の内部には、いずれも図示を省略しているが、ローターヘッド5と同軸の増速機を介して連結された発電機が設置されている。すなわち、ローターヘッド5の回転を増速機で増速して発電機を駆動することにより、発電機より発電機出力が得られるようになっている。
【0025】
図2に示すように、本実施形態に係る風力発電用風車の制振装置(以下、「制振装置」という。)10は、第一の振動系11と、第二の振動系12とを備えている。
図2または図3に示すように、第一の振動系11は、例えば、支柱3内の最上部に設けられたトップフロア(構造物)13の上面14に、四つの(第一の)ユニバーサルジョイント15を介して立設(設置)された倒立式の振り子であり、四本の縦フレーム16と、奥行き方向(図3において左右方向)に延びる二本の(第一の)横フレーム17と、幅方向(図3において上下方向)に延びる二本の(第二の)横フレーム18と、四本の連結フレーム19と、一つの重錘20とを備えている。
【0026】
各縦フレーム16は、静止した状態で鉛直方向に沿って延びる棒状の部材(例えば、中空円筒状の鋼管やH型鋼)である。各縦フレーム16の下端は、ユニバーサルジョイント15を介してトップフロア13の上面14に接続され、各縦フレーム16の上端は、(第二の)ユニバーサルジョイント21を介して対応する横フレーム17の一端部または他端部に接続されている。また、本実施形態では、図5に符号Lで示すユニバーサルジョイント15の回動中心とユニバーサルジョイント17の回動中心との間の距離(すなわち、第一の振動系11の振り子長さ)が1mとなるように、縦フレーム16の長さが設定されている。
【0027】
各横フレーム17は、静止した状態および揺動している状態で奥行き方向および水平方向に沿って延びる棒状の部材(例えば、中空円筒状の鋼管やH型鋼)である。各横フレーム17の一端部下面および他端部下面にはそれぞれ、ユニバーサルジョイント21が接続されており、各横フレーム17の中央部内側面には、横フレーム18の端面が直接接続されている。
【0028】
各横フレーム18は、静止した状態および揺動している状態で幅方向および水平方向に沿って延びる棒状の部材(例えば、中空円筒状の鋼管やH型鋼)であり、奥行き方向に所定の間隔をあけて配置されている。各横フレーム18の一端面は、一方の横フレーム17の中央部内側面に直接接続され、各横フレーム18の他端面は、他方の横フレーム17の中央部内側面に直接接続されている。
【0029】
各連結フレーム19は、静止した状態および揺動している状態で鉛直方向に沿って延びる棒状の部材であり、上部フレーム(第一のフレーム)31と、中間部フレーム(第二のフレーム)32と、下部フレーム(第三のフレーム)33とを備えている。
各上部フレーム31の上端は、対応する横フレーム18の一端部下面または他端部下面に直接接続され、各下部フレーム33の下端は、重錘20の奥行き方向における中央部で、幅方向における一端部上面または他端部上面に直接接続されている。
中間部フレーム32の上端と、上部フレーム31の下端とはそれぞれ、ボルト・ナット等を介して取り外し可能に接続されており、中間部フレーム32の下端と、下部フレーム33の上端とはそれぞれ、ボルト・ナット等を介して取り外し可能に接続されている。また、中間部フレーム32は、トップフロア13を板厚方向に貫通する貫通穴22に挿通されている。
【0030】
重錘20は、例えば、奥行き1150mm×幅1750mm×厚み75mm、重量1.17tonの直方体状の鋼板である。
【0031】
図2または図4に示すように、第二の振動系12は、例えば、支柱3内の最上部に設けられたトップフロア13の下面34に、ブラケット((第一の)アイプレート)35を介して吊り下げられた振り子であり、四本のワイヤロープ40と、(第一の)重錘41と、(第二の)重錘42と、(第三の)重錘43とを備えている。
【0032】
各ワイヤロープ40は、静止した状態で鉛直方向に沿って延びる鋼索であり、本実施形態では、図5に符号l(小文字のエル)で示す第二の振動系12の振り子長さが1mとなるようにワイヤロープ40の長さが設定されている。各ワイヤロープ40の上端は、ブラケット35を介してトップフロア13の下面34に接続され、各ワイヤロープ40の下端は、(第二の)ブラケット44を介して重錘41の上面に接続されている。
【0033】
重錘41は、例えば、奥行き950mm×幅1750mm×厚み490mm、重量6.27tonの直方体状の鋼板である。重錘42は、例えば、奥行き1050mm×幅1750mm×厚み120mm、重量1.70tonの直方体状の鋼板である。重錘43は、例えば、奥行き1150mm×幅1750mm×厚み60mm、重量0.93tonの直方体状の鋼板である。
【0034】
重錘41,42,43の奥行き方向における中央部で、幅方向における一端部および他端部にはそれぞれ、下部フレーム33の下端部を鉛直方向に沿って案内するボールスプライン(拘束手段)51が挿通される(第一の)貫通穴52が設けられている。ボールスプライン51の上端部は、重錘41に固定(固着)され、ボールスプライン51の下端部は、重錘43に形成された貫通穴52に対して摺動可能とされており、ボールスプライン51の上端部と下端部との間に位置する中央部は、重錘42に形成された貫通穴52に対して摺動可能とされている。
【0035】
重錘41,42,43に形成された貫通穴52の奥行き方向における外側で、幅方向における外側には、鉛直方向に沿って延びるボルト53の雄ネジ部54と螺合する雌ネジ部(図示せず)が設けられている。また、重錘42に形成された雌ネジ部の奥行き方向における外側で、幅方向における外側には、重錘43の上面に植え込まれて鉛直方向に延びるスタッド55が挿通される(第二の)貫通穴56が設けられている。さらに、重錘43に埋め込まれたスタッド55の奥行き方向における外側で、幅方向における外側には、重錘20の上面に植え込まれて鉛直方向に延びるスタッド57が挿通される(第三の)貫通穴58が設けられている。
【0036】
なお、図2中の符号59,60はそれぞれ、スタッド57に螺合されたナットを示している。
また、図2中の符号71は、トップフロア13の下面34から鉛直方向に沿って下方に延びる支柱、符号72は、揺動する下部フレーム33のエネルギーを吸収して、下部フレーム33の振り幅を減衰させるバネである。
さらに、図2中の符号73は、バネ72の一端を支柱71の外周面に取り付けるためのブラケット(アイプレート)、符号74は、バネ72の他端を下部フレーム33の外周面に取り付けるためのブラケット(アイプレート)である。
【0037】
さて、上述の制振装置10を簡略化して模式的に描いた図5に示すように、ユニバーサルジョイント15の回動中心とユニバーサルジョイント17の回動中心との間の距離(すなわち、第一の振動系11の振り子長さ)をL(m)、第二の振動系12の振り子長さをl(m)、第一の振動系11に吊り下げられる重錘の重量をM(kg)、第二の振動系12に吊り下げられる重錘の重量をm(kg)とした場合、数1、数2、数3、数4の各数式が成立する。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
【数3】

【0041】
【数4】

【0042】
また、上記数1、数2を数4に代入すると、数5が導かれることになる。
【0043】
【数5】

【0044】
そして、数5を、縦軸に重錘の重量(kg)、横軸に固有振動数f(Hz)をとった図表にプロットすると、図6が得られることになる。
すなわち、第一の振動系11に吊り下げられる重錘(上側重錘)を、重量1.17tonの重錘20のみとし、第二の振動系12に吊り下げられる重錘(下側重錘)を、重量0.93tonの重錘43、重量1.70tonの重錘42、および重量6.27tonの重錘41、すなわち、総重量8.37tonの重錘とした場合、制振装置10の固有振動数fは、0.437Hzになる。
【0045】
また、第一の振動系11に吊り下げられる重錘(上側重錘)を、重量1.17tonの重錘20、および重量0.93tonの重錘43、すなわち、総重量2.10tonの重錘とし、第二の振動系12に吊り下げられる重錘(下側重錘)を、重量1.70tonの重錘42、および重量6.27tonの重錘41、すなわち、総重量7.97tonの重錘とした場合、制振装置10の固有振動数fは、0.381Hzになる。
【0046】
さらに、第一の振動系11に吊り下げられる重錘(上側重錘)を、重量1.17tonの重錘20、重量0.93tonの重錘43、および重量1.70tonの重錘42、すなわち、総重量3.80tonの重錘とし、第二の振動系12に吊り下げられる重錘(下側重錘)を、重量6.27tonの重錘41のみとした場合、制振装置10の固有振動数fは、0.247Hzになる。
【0047】
なお、第一の振動系11に吊り下げられる重錘(上側重錘)が重錘20のみとされ、第二の振動系12に吊り下げられる重錘(下側重錘)が重錘43、重錘42、および重錘41とされている場合、ナット59,60は、重錘43から離れた位置にあり、重錘20と、重錘43、重錘42、および重錘41との振り子運動が、互いに阻害されないようになっている。
【0048】
また、重錘43を、第二の振動系12に吊り下げられる重錘から、第一の振動系11に吊り下げられる重錘へと変更(移動)する場合には、ボルト53を弛め、重錘43に形成された雌ネジ部とボルト53の雄ネジ部54との螺合を解き、スタッド57、ナット59,60を介して重錘43を重錘20に固定することになる。このとき、重錘42の下面はスタッド55の上端よりも上方の離れた位置にあり、重錘20および重錘43と、重錘42および重錘41との振り子運動が、互いに阻害されないようになっている。
【0049】
さらに、重錘42を、第二の振動系12に吊り下げられる重錘から、第一の振動系11に吊り下げられる重錘へと変更(移動)する場合には、ボルト53をさらに弛め、重錘42に形成された貫通穴56内に、重錘43の上面に立設されたスタッド55が嵌り込むようにして重錘43の上に重錘42を載置することになる。このとき、重錘41の下面は重錘42の上面よりも上方の離れた位置にあり、重錘20、重錘43、および重錘42と、重錘41との振り子運動が、互いに阻害されないようになっている。
【0050】
さらにまた、中間部フレーム32をすべて取り外し、重錘20、重錘41、重錘42、および重錘43のすべてが第二の振動系12から吊り下げられるようにすると、制振装置10の固有振動数fは、0.498Hzになる。
【0051】
本実施形態に係る制振装置10および制振方法によれば、支柱一次振動の減衰を増加させる効果があり、減衰増加により風車回転翼6の回転に伴う支柱一次の振動・振幅を抑制する効果がある。
これにより、支柱3の重量増加を回避することができ、ハブ高さが100mを超える風力発電用風車1を容易に設計することができる。
また、制振装置10の一部(例えば、ダンパー(減衰装置))が支柱3の内壁面等に固定されることはないので、当該支柱3の内壁面等を補強する必要がなくなり、支柱3の重量増加を回避することができる。
さらに、第二の振動系12を構成する重錘43,42を第一の振動系11に移動させ、第一の振動系11を構成する重錘20とともに、第一の振動系11を構成する重錘とすることにより、制振装置10の固有振動数fが減少することになる。すなわち、風力発電用風車1を組み立てていく際、例えば、支柱3の上端にナセル4後部が設置された段階、支柱3の上端にナセル4前部(すなわち、ナセル4全体)が設置された段階、ナセル4にローターヘッド5および風車回転翼6が取り付けられ、風力発電用風車1の全体が完成した段階に応じて、支柱3の固有振動数がその都度減少させられることになる。これにより、風力発電用風車1を安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【0052】
また、本実施形態に係る制振装置10および制振方法によれば、中間部フレーム32をすべて取り外し、重錘20、重錘41、重錘42、および重錘43のすべてが第二の振動系12から吊り下げられるようにして、制振装置10の固有振動数fを0.498Hzすることもできる。
これにより、例えば、ナセル4の旋回部が設置された段階、すなわち、支柱3の固有振動数が、支柱3の上端にナセル4後部が設置された段階よりも高い段階でも支柱一次振動を減衰することができ、風力発電用風車1をより安全、かつ、速やかに組み立てていくことができる。
【0053】
さらに、本実施形態に係る制振装置10によれば、第一の振動系11を構成する重錘20と、第二の振動系12を構成する重錘41,42,43とが、同一水平面内における同方向に振れ、かつ、同一垂直面内における反対方向に振れるように、第一の振動系11と、第二の振動系12とが、ボールスプライン51を介して拘束されている。
これにより、支柱一次振動を最も効率よく減衰させることができ、当該制振装置10の小型化(最小化)を図ることができる。
【0054】
一方、本実施形態に係る風力発電用風車1は、支柱3の重量増加を伴うことなく、支柱3内の狭小なスペースに設置することができるとともに、その固有振動数を変化させることができる制振装置11を具備している。これにより、ハブ高さが100mを超える風力発電用風車の大型化に対応することができる。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更実施可能である。
例えば、上述した実施形態では、第二の振動系12を構成する重錘を三つの重錘で構成したものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、二つあるいは四つ以上の重錘で構成するようにしてもよい。
【0056】
また、重錘20,41,42,43の寸法および重量は、風力発電用風車1を組み立てていく際の各段階における支柱3の固有振動数にあわせて適宜変更することが望ましい。
【0057】
さらに、上述した実施形態では、第一の振動系11を、支柱3内の最上部に設けられたトップフロア13の上面14に設置し、第二の振動系12を、支柱3内の最上部に設けられたトップフロア13の下面34から吊り下げられるようにして設置したものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第一の振動系11を、支柱3内の最上部に設けられて支柱3を構成する梁(図示せず)の上面に設置し、第二の振動系12を、支柱3内の最上部に設けられて支柱3を構成する梁(図示せず)の下面から吊り下げられるようにして設置してもよい。すなわち、本発明に係る制振装置は、支柱3を構成する種々の構造物を利用して設置されることになる。
【符号の説明】
【0058】
1 風力発電用風車
3 支柱
10 (風力発電用風車の)制振装置
11 第一の振動系
12 第二の振動系
13 トップフロア(構造物)
14 上面
15 ユニバーサルジョイント
20 重錘
34 下面
41 重錘
42 重錘
43 重錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電用風車の支柱の内部に格納して設置される風力発電用風車の制振装置であって、
前記支柱の上部に設けられた構造物の上面に、ユニバーサルジョイントを介して立設されて第一の振動系を構成する倒立式の振り子と、
前記構造物の下面から吊り下げられて第二の振動系を構成する振り子と、を備え、
前記第二の振動系を構成する振り子が、少なくとも二つの重錘を備えており、これら重錘の少なくとも一つが、前記第二の振動系から前記第一の振動系に移動して、前記第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘となり得るように構成されていることを特徴とする風力発電用風車の制振装置。
【請求項2】
前記第一の振動系を構成する重錘と、前記第二の振動系を構成する重錘とが、同一水平面内における同方向に振れ、かつ、同一垂直面内における反対方向に振れるように、前記第一の振動系を構成する重錘と、前記第二の振動系を構成する重錘とを拘束する拘束手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の風力発電用風車の制振装置。
【請求項3】
前記第一の振動系を構成する倒立式の振り子の重錘が、前記第二の振動系を構成する重錘とともに、第二の振動系を構成する重錘となり得るように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の風力発電用風車の制振装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の風力発電用風車の制振装置を具備していることを特徴とする風力発電用風車。
【請求項5】
風力発電用風車の支柱の上部に設けられた構造物の上面に、ユニバーサルジョイントを介して立設されて第一の振動系を構成する倒立式の振り子と、前記構造物の下面から吊り下げられて第二の振動系を構成する振り子とが、前記支柱の内部に格納され、前記振り子が、少なくとも二つの重錘を備えている風力発電用風車の制振方法であって、
前記重錘の少なくとも一つを、前記第二の振動系から前記第一の振動系に移動して、前記第一の振動系を構成する重錘とともに、第一の振動系を構成する重錘として用いることを特徴とする風力発電用風車の制振方法。
【請求項6】
前記第一の振動系を構成する倒立式の振り子の重錘を、前記第二の振動系を構成する重錘とともに、第二の振動系を構成する重錘として用いることを特徴とする請求項5に記載の風力発電用風車の制振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122546(P2012−122546A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273771(P2010−273771)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】