説明

風計測方法及びその装置

【課題】 低サンプリングレートのA/D変換器を用いて、広い測風速範囲に対応した風計測装置を実現する。
【解決手段】 照射したビームの大気による反射波のドップラー周波数を用いて遠隔地点の風速を計測する場合に、反射波の受信信号をディジタル変換するサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を、ビーム照射方向と風向とのなす角によって変動する反射波のドップラー周波数が超過しない範囲の方角(例えば方角101、103、105など)から複数のビーム照射方向を選択し、選択された複数のビーム照射方向のドップラー周波数を組み合わせて、風速を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔地点の風速を計測する方法及びその装置に係るものであり、特に風計測装置の測風速範囲を拡張する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔点の風を計測する装置には、従来から気象ドップラーレーダやウィンドプロファイラなどの装置が使用されてきた。これらの装置は、空間に電波を放射し、雨滴や大気乱流などで反射された電波を受信して、受信信号のドップラー周波数から風速を算出するものである。
【0003】
これらの装置は、電波を放射するものであるが、送信周波数がさらに高い光波(レーザ光)を用いるレーザレーダ(光波レーダ、ライダ)で風を計測する方法も知られている(例えば非特許文献1)。このような技術は、電波を使う方法よりも送信周波数が高いため、装置を小型化しても放射する光波のビーム幅を極めて狭くすることができる。よって地表面や人工構造物などからの不要反射波の影響を最小限に留めながら、風計測を行うことができるという利点がある。
【0004】
【非特許文献1】浅香他, ”風計測用光波レーダの開発, ” 電子情報通信学会 信学技報SANE2000-39, 2000年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られるレーザを用いた風計測装置は、十分な測風速範囲を得るために、広い帯域幅の信号を処理しなくてはならない。このため、A/D変換を高速に行う必要が生じる。かかる高速なA/D変換器は高価であるため、装置価格の高騰を招き、レーザによる風計測装置の普及の妨げとなっている。
【0006】
この発明は、低サンプリングレートのAD変換器を用いているにも関わらず、広範な測風速範囲を得ることのできるレーザ風計測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る風計測方法は、照射したビームの大気による反射波を受信して得た受信信号を所定のサンプリングレートでディジタル変換し、ディジタル変換された受信信号から求められるドップラー周波数を用いて遠隔地点の風速を計測する風計測方法において、
ビーム照射方向と風向とのなす角に応じて変動する反射波のドップラー周波数が上記サンプリングレートでサンプリング可能な周波数を超過しない範囲の方角から複数のビーム照射方向を選択し、選択された複数のビーム照射方向からの反射波のドップラー周波数を組み合わせて、上記風速を計測するものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、この発明による風計測方法によれば、装置のハードウェア性能から生ずる測風速範囲の制約を超える風速の風であっても、測風速範囲内で計測できる方角から複数の方向のビームを選択し、そのビームの受信信号のドップラー周波数から算出される風速を組み合わせて測風速範囲を超える風速をも、算出する。このため、この発明による風計測方法は、低速かつ低廉なAD変換器を用いて、幅広い風速の風を計測できるという極めて優れた効果を奏するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
まず、この発明による風計測方法及びその装置の動作原理について説明する。一般的に、風計測装置は空間にレーダ波(電波)を放射し、雨滴や大気乱流などで反射された電波を受信する。大気によって反射された電波が再び風計測装置に受信された場合には、風計測装置から反射点までの間をレーダ波が往復する時間が送信時から経過している。そこで風計測装置ではパルスレーダを用いることが多い。パルスレーダはパルス波を送信し、パルス送信時からパルス受信時までの時間遅延を求めることで反射点までの距離を得るためである。
【0010】
さらに受信パルス波から得た受信信号を周波数分析することで、レーダ波を反射した位置(反射点)の大気の移動速度、すなわち風速を算出することができる。これは、反射点における大気の運動の影響により、パルス波の周波数はドップラー変調を受けており、反射点の速度とドップラー変調の関係が判っているためである。このようにして、風計測装置は、受信パルス波の周波数から反射点の風速を求める。
【0011】
受信信号の周波数分析を行う手法としては、高速フーリエ変換を初めとするいくつかの方法が知られているが、それらの方法の多くはアナログ受信信号をA/D変換器やA/D変換素子などのディジタル変換手段を用いてディジタル信号に変換して信号処理を施すものである。
【0012】
アナログ信号をディジタル信号に変換する回路を高速に動作させようとすると、ノイズの影響が生じやすい。また高速に動作するA/D変換器(回路又は素子)は歩留まりが悪く、高価である。
【0013】
一方、例えば、送信波長1.5μmの送信波で秒速−40m〜40mのドップラー速度を計測するには、−53.3MHzから53.3MHzのドップラー周波数を計測することが要求されるので、106.6MHzの信号を処理する必要がある。サンプリング定理によれば、アナログ信号の周波数を正しくディジタル信号の周波数に反映させるためには、アナログ信号の周波数の少なくとも倍のサンプリングレートを有するA/D変換器が要求される。したがって106.6MHzのアナログ信号を処理するには、少なくとも213MHzのサンプリングレートでデータ収拾が可能なA/D変換器が必要となることがわかる。
【0014】
このように、処理しようとする信号のドップラー周波数が高くなるにつれて、A/D変換器についても高速なものが要求されるようになる。このため、幅広い測風速範囲を有する風計測装置は高価である。以上の事情は、レーダを用いた風計測装置全般にあてはまるが、周波数の高いビームを送受信するレーザーレーダを採用する風計測装置では顕著な問題である。
【0015】
この発明による風計測装置は、ビーム照射方向と風向との関係に基づいて、低速なA/D変換器を用いて幅広い測風速範囲を得るものである。その原理は次の通りである。
【0016】
いま、簡単のために水平面内の成分のみを考えることとし、この水平面内において、風速がv、風向θの風が吹いているものとする。ただし、風向θは風が吹いていく方向を表すものとする。風速のビーム照射方向成分(受信波のドップラー周波数から観測される風速)の大きさはビーム照射方向θ1と風向θとのなす角(θ1−θ)によって変動する。すなわち、風速のビーム照射方向成分をV(θ1)とすれば、V(θ1)=v×cos(θ1−θ)で算出される。このことから、ビーム照射方向θ1に対する風速の照射方向成分V(θ1)は図1に示すように分布することが分かる。この曲線はVAD(Velocity Azumuth Display)曲線と呼ばれている。
【0017】
図2は、図1のVAD曲線に、ディジタル変換処理で用いるA/D変換器のサンプリングレートで検出可能な風速範囲を重ね合わせた状態を示した図である。図の斜線部分はA/D変換器で処理可能な風速の範囲を示している。この図から、角度範囲101の風速V(θ1)はこのサンプリングレートで検出可能な風速範囲に収容されることが分かる。また角度範囲102のV(θ1)は、このサンプリングレートで検出可能な風速範囲には収容されない。すなわち角度範囲102は、風速vが大きい場合には受信信号をディジタル変換できないため、ドップラー周波数が算出できず、風速を計算することができない方角である。同様にして、角度範囲103と105はこのサンプリングレートで検出可能な風速範囲に収容され、また角度範囲104は風速を計算することができない場合がありうる方角となる。
【0018】
一方、角度範囲102や104の方向に照射したビームの反射波において、ディジタル変換のサンプリングレートを超えるドップラー周波数を発生させる風速が吹いていても、角度101や103、105にビームを照射すれば、同じサンプリングレートで収容可能なドップラー周波数の反射波を得ることができる。いま、この風の未知の風向θ、未知の風速Vがともに角度範囲102か104に含まれるとする。このような場合であっても、角度範囲101、103、105に含まれる2つの照射方向θ1とθ2を選択し、照射方向θ1の観測値V1と照射方向θ2の観測値V2とを取得することができれば、連立方程式(1)と(2)が得られる。
V1=V×cos(θ1−θ) (1)
V2=V×cos(θ2−θ) (2)
【0019】
そして、この連立方程式をVとθについて解けば、A/D変換器の性能にかかわらず、風速を算出することができる。3次元の風の場合はさらに式が1つ増え、さらに未知数として天頂角が増えることになる。以上が、この発明による風計測装置の動作原理である。
【0020】
続いて、この発明の1つの実施の形態による風計測装置の構成と動作について具体的に説明する。図3はこの発明の実施の形態1による風計測装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、この発明の実施の形態1による風計測装置1はビーム照射部11、送受信部12、ディジタル変換手段13、周波数分析部16、風速算出部18、ビーム走査方法設定部17を備えている。
【0021】
ビーム照射部11はビーム照射手段の一例であって、パルス波などのレーダ波を送受信するアンテナを備えている。ビーム照射部11は電子式あるいは機械式にビーム照射方向を選択できるようになっている。ビーム照射部11が照射するビームの方向を(水平方向の角度、天頂方向とのなす角度)という形式で表すならば、図4に示すように(0°、10°)、(72°、10°)、(144°、10°)、(216°、10°)、(288°、10°)の方向にビームを照射できるように構成されている。そして、これらの各方向に向けて順次、あるいはビーム照射部11がマルチアンテナ構成となっている場合は同時に、ビームを照射させるようになっている。
【0022】
送受信部12はパルス波を発生する回路や素子からなる送信信号生成部分と受信波を検波処理する受信器部分から構成されている。この例では、送信波長として1.5μmの送信信号を生成するものとする。したがって送信パルスの送信波長も1.5μmとなる。
【0023】
ディジタル変換手段13は、帯域制限フィルタ14とA/D変換部15とを備える部位である。帯域制限フィルタ14は、いわゆるローパスフィルタであって、一定の周波数以上の受信信号を遮断する回路又は素子である。ここで帯域制限フィルタ14が遮断する受信信号の周波数の境界値は、A/D変換部15の性能に基づいて定められる。これは、A/D変換部15のサンプリングレートを超えるドップラー周波数を有する受信信号が送受信部12より出力された場合に、誤ったサンプリングデータを出力しないようにすることを目的として設けられる部位である。
【0024】
A/D変換部15はアナログ入力信号を所定のサンプリングレートでディジタル信号に変換する素子又は回路である。この例では、41.6MHzのサンプリングレートを有するA/D変換器を用いることとする。この結果、A/D変換部15によってサンプリングできる受信信号のドップラー周波数の幅は20.8MHz以下となる。ビーム照射部11は波長1.5μmの送信パルスを照射するので、最大ドップラー周波数20.8MHzの範囲でサンプリング可能なドップラー周波数となる風速範囲の幅は最大15m/sとなる。
【0025】
周波数分析部16は、周波数分析手段の一例であって、ディジタル変換手段13によってディジタル化された受信信号を周波数分析する部位である。これによって受信信号のドップラー周波数が求められる。
【0026】
ビーム照射方向選択部17は、ビーム照射方向選択手段の一例であって、ビーム照射方向の反射波のドップラー周波数がA/D変換部15でディジタル変換可能な周波数を超過していないかどうかを調べて、超過していないビーム照射方向を選択する部位である。
【0027】
風速算出部18は、風速算出手段の一例であって、ビーム照射方向選択部17が選択したビーム照射方向の反射波のドップラー周波数に基づいて、風速を計測する部位である。
【0028】
続いて、風計測装置1の動作について図を用いて説明する。図5は風計測装置1の動作を示すフローチャートである。
【0029】
いま、風計測装置1の動作を具体的に説明するために、水平方向の最大風速を57m/s、鉛直方向の最大風速を5m/sとする風を観測する場合を考えることとする。ここで降雨が存在する場合には、雨滴の落下速度の成分を考慮する必要がある。雨滴の落下速度の最大値は10m/sと考えられるので、下降気流方向を正とすれば、鉛直方向の風速成分は−10m/s〜5m/sの分布を示すと想定できる。
【0030】
まず風計測装置1は観測値を取得する(ステップST11)そのために、ビーム照射部11は(0°,10°)、(72°,10°)、(144°,10°)、(216°,10°)、(288°,10°)の方向にビームを照射する。ビーム照射部11が照射したビームの反射波には風によるドップラー成分が含まれている。風速のうち、ビームに対してドップラー成分として寄与するのは、ビームに投影された風速成分のみである。
【0031】
ここで、各ビームと鉛直軸との間でなす角は10°である。そこで、風速の水平方向成分の分布を求めると、ビーム方向に投影した成分は57m/s×sin 10°≒10m/sであるから、−10m/s〜10m/sとして算出される。また鉛直方向のビーム方向投影成分の分布は、cos 10°≒1であるから、−10m/s〜5m/sとなる。このことからビーム方向への最大風速の投影成分は、水平方向成分に相当する−10m/s〜10m/sと鉛直方向成分に相当する−10m/s〜5m/sとを加えることで、−20m/s〜15m/sとなる。
【0032】
これらのドップラー成分を含むアナログ受信信号は送受信部12による検波処理を介して、帯域制限フィルタ14に入力される。帯域制限フィルタ14は、サンプリングレート41.6MHzのA/D変換部15に合わせて、アナログ受信信号のうち20.8MHzを超える周波数成分を遮断する。20.8MHzの周波数に相当する風速の幅は15m/sであるが、実際に観測される風速の幅は最大35m/sに及ぶので、アナログ受信信号の一部は遮断される。そして一部の周波数成分が遮断されたアナログ受信信号はA/D変換部15に入力される。
【0033】
A/D変換部15はアナログ信号をディジタル信号にサンプリングレート41.6MHzでサンプリングする。そして周波数分析部16はA/D変換部15によってディジタル信号に変換された受信信号に対して、例えば高速フーリエ変換を施して周波数分析を行う。これによって観測値が取得される。
【0034】
続いて、ビーム照射方向選択部17は、まず観測値の得られたビーム数が3以上かどうかを判断する(ステップST12)。このために、ビーム照射方向選択部17は周波数分析部16の出力する周波数スペクトルのピークを検出する。周波数スペクトルのピークが所定の高さに達していない場合には、データが欠損していると考えられるので、観測値が得られていないと判断する。風計測装置1の構成では、帯域制限フィルタ14を設けて予めA/D変換部15のサンプリングレートを超えてしまう周波数成分を除去することとしている。このことによって、SN比が向上し、周波数スペクトルのピークの検出が確実になされるようになる。
【0035】
次に、風計測装置1において、風の水平方向の最大風速を57m/sとし、鉛直方向の最大風速を5m/sとした場合のデータ欠損の発生状況について説明する。図6は、想定される最大風速を伴って風が吹いていると仮定した場合に、実際に観測される風速の分布(VAD曲線)とビーム方向、さらにはA/D変換可能な範囲の組み合わせを表した図である。この例の場合、A/D変換可能範囲は−10m/s〜5m/sであるのに対して、実際の風速は−5m/s〜15m/sとなる。
【0036】
図6の組み合わせの場合、(10°,72°)方向に照射したビームと(10°,144°)方向に照射したビームでは、最大風速がA/D変換可能な範囲を超えてしまうので、データの欠損が発生する。しかしその他のビーム、つまり(10°,0°)方向に照射したビームと(10°,216°)方向に照射したビーム、(10°,288°)方向に照射したビームにおいてはデータ欠損がなく、観測値が得られる。したがってデータ欠損のなかった3つのビームの観測値を組み合わせることで、風速ベクトルが得られる。
【0037】
また、図7は、風速の分布(VAD曲線)とビーム方向、A/D変換可能な範囲の別の組み合わせを示す図である。この例の場合、A/D変換可能範囲の風速は−10m〜5m/sであるのに対して、実際の風速は−20m/s〜0m/sとなる。
【0038】
図7の組み合わせの場合、(10°,216°)方向に照射したビームと(10°,288°)方向に照射したビームでは、最大風速がA/D変換可能な範囲を超えてしまうので、データの欠損が発生する。しかし(10°,0°)方向に照射したビームと(10°,72°)方向に照射したビーム、(10°,144°)方向に照射したビームにおいてはデータ欠損がなく、観測値が得られる。したがってデータ欠損のなかった3つのビームの観測値を組み合わせることで、風速ベクトルが得られる。
【0039】
このように、風計測装置1では、A/D変換部15のサンプリングレートからすれば、風速幅15m/sまでしか風速を計測できないにもかかわらず、3つ以上のビームの観測値を組み合わせることで、A/D変換部15のサンプリングレートを大きく超える風速を観測することができるのである。
【0040】
なお原理的には、3次元の風の場合は少なくとも3つのビームから観測値が得られれば十分であるが、さらに多くのビームの観測値が得られる場合には、絶対値が最大の風速に対応する周波数、すなわち最も高いドップラー周波数を示すビームの観測値を採用することが望ましい。高いドップラー周波数の観測値が得られるということは、ビームの照射方向と風向とのなす角が小さいことを意味する。ビームの照射方向と風向とのなす角が小さければ、ドップラー速度がより大きくなり、高い測定精度が得られるという効果が得られる。
【0041】
なお、ビーム数が3未満の場合(ステップST12:No)は、3次元の風速ベクトルを得ることができないのでこのサンプリングデータに対する処理を中止しエラー処理(ステップST13)に進む。エラー処理では、適宜エラーメッセージを利用者に通知したり、メモリに予め記憶しておいた前回風速値を今回の風速値に変えて表示する、などの処理を行う。
【0042】
一方、観測値の得られたビーム数が3以上の場合(ステップST12:Yes)、風速算出部18は、データ欠損のないビームの組み合わせを選択する(ステップST14)。データ欠損の有無は前述したように、ピークが所定値以上の周波数スペクトルの有無を調べればよい。そして得られた周波数からドップラー速度を算出し(ステップST15)、算出したドップラー速度から風速ベクトルを算出する(ステップST16)。
【0043】
なお、以上の処理は一回の送受信毎に行ってもよいし、複数回の送受信で得られたドップラースペクトルを加算するインコヒーレント積分を行うことで、ドップラースペクトルのランダムなゆらぎを小さくし、ピーク検出を容易にするようにしてもよい。
【0044】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態1による風計測装置によれば、A/D変換のサンプリングレートを超えるドップラー周波数成分を発生する風速であっても、VAD曲線にも基づいてA/D変換可能な観測値を有するビーム照射方向を選択し、これらのビームのドップラー周波数を組み合わせることで、観測することができる。
【0045】
またこの結果、サンプリングレートの低いA/D変換器やA/D変換素子を用いて、大きな測風速範囲を達成する風計測装置を実現することができるので、風計測装置の低価格化に貢献する。
【0046】
さらには、レーザレーダのように高周波受信波を扱うレーダと組み合わせることも容易となるので、風計測装置の高精度化・高性能化につなげることができる。
【0047】
また観測値が得られるビーム数が3を超える場合にあっては、3を超えるビームを選択しておき、選択したビームの観測値のすべてを用いて風速を算出することもできる。このような場合には、未知数の数よりも方程式の数が多い状態となりうるが、このような場合には、たとえば最小二乗法を用いて最も最小誤差の少ない解を算出するようにしてもよい。
【0048】
実施の形態2.
引き続き、この発明の別の実施の形態による風計測装置について説明する。この発明の実施の形態2による風計測装置は、ビーム走査方法として天頂角を変化させる点に特徴を有するものである。
【0049】
ビーム反射におけるドップラー効果を用いて風速を計測する風計測装置では、ビームと風とのなす角が小さいほど、ビームの反射波における風速によるドップラー効果の程度が大きくなり、高いドップラー周波数が発生する。このような受信信号を処理するには、A/D変換を高速に行う必要がある。ところが高速なA/D変換器は高価であるから、安価でかつ広い測風速範囲を達成する風計測装置の提供は難しいことになる。
【0050】
一方、ビームと風とのなす角を大きくしてやると、ビームの反射波における風速の寄与は小さくしドップラー周波数が低く抑えられるので、必要となるA/D変換器のサンプリングレートも小さくすることができる。一般に、風速ベクトルの水平方向成分の最大値と鉛直方向成分の最大値とを比較すると、水平方向成分の最大値の方が大きい場合が多い。すなわち上昇気流や下降気流で大きな風速が発生する場合は少ない。したがって低サンプリングレートのA/D変換器を用いて測風速範囲の大きい風計測装置を実現するには、ビームの天頂角(鉛直軸とのなす角)を小さくする方法が考えられる。
【0051】
ところが、ビームの天頂角を小さくとり、風ベクトルとビームとのなす角を大きくすると反射波のドップラー速度が小さくなるため、測定精度が下がるという問題が生じるのである。そこで、低いサンプリングレートのA/D変換器で広い測風速範囲を実現しながら、同時に測定精度の向上を実現するために、風速に応じて適応的にビームの天頂角を変更する。これが実施の形態2による風計測装置の特徴である。
【0052】
この発明の実施の形態2の風計測装置は、以上のような動作原理に基づくものであるが、その具体的な構成と動作の一例を説明するならば、次のようになる。図8は、実施の形態2の風計測装置の構成を示すブロック図である。図において、ビーム照射方向選択部17は、ビーム照射方向の反射波のドップラー周波数がA/D変換部15でディジタル変換可能な周波数を超過していないかどうかを調べてビーム照射方向を選択するという実施の形態1の機能に加えて、ビームの選択結果に応じてビーム照射部11におけるビーム照射方向を設定する機能が付け加えられている。
【0053】
また、A/D変換部15は、−5m/sから5m/sのドップラー速度が計測可能なサンプリングレートを有するものを用いる。また、ビーム照射部11は、ビームの方位角(ビームの水平方向成分)として、東西南北の各方向(それぞれの方向の方位角を0°、90°、180°、270°とする)にビームを指向させるとともに、照射するビームの天頂角(鉛直軸とビームがなす角)を4.8°と9.6°に設定するようになっている。他の構成要素については実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
続いて、この発明の実施の形態2における風計測装置1の動作について説明する。図9は風計測装置1の動作を示すフローチャートである。なお、図9において図5のフローチャートと同一の符号を付している処理(ステップ)については、実施の形態1と同様である。そこで以下の説明においては、図9のフローチャートで新たに追加された処理を中心に説明することとし、図5のフローチャートと同一の符号を付した処理については、実施の形態2に特化した部分についてのみ触れていくこととする。
【0055】
まずビーム照射方向選択部17は、ビーム照射部11によるビーム照射方向を初期設定する(ステップST10)。初期設定の方法としては、例えば天頂角を設定可能な範囲のうち最小に設定する方法や最大に設定する方法、あるいは中央値に設定する方法などが考えられる。
【0056】
続いて実施の形態1と同様にビームの観測値を取得し(ステップST11)、観測値の得られるビームの個数が3以上かどうかを調べる(ステップST12)。観測値が得られたビームが3個以上の場合(ステップST12:Yes)、ビーム照射方向選択部17はデータ欠損のないビームの組み合わせを選択し(ステップST14)、ドップラー速度を算出して(ステップST15)、風速ベクトルを算出する(ステップST16)。ステップST11〜ST16の処理については実施の形態1と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0057】
ステップST17において、処理を終了するかどうかを判定する。これは例えば操作員が終了操作を行った結果、終了信号が到着している等の判断によって行う。その結果、終了する必要がある場合は終了する(ステップST17:Yes)。また終了する必要がない場合はステップST18に進む(ステップST17:No)。
【0058】
ステップST18において、天頂角をさらに大きくしても観測値が得られるビーム数が3以上となるかどうかを、現在の観測値(風速、風向き)に基づいて推測し、天頂角を大きくしてもビーム数が3以上となると推測される場合は、ステップST19に進む(ステップ18:Yes)。また天頂角を大きくしてしまうと、観測値が得られるビーム数が3以上とならない場合は何もせずにステップST11に戻る。
【0059】
ステップST19において、ビーム照射方向選択部17はビーム照射部11のビーム照射方向の天頂角を大きくする。例えば、ビーム照射部11のビーム照射方向の天頂角が4.8°である場合には、9.6°とする。
【0060】
これは、現在の天頂角で受信した受信波のドップラー周波数がA/D変換部15のサンプリングレートで処理可能であるので、さらに天頂角を大きくするものである。天頂角を大きくすることで、ビーム照射方向を水平に近づける。ビーム照射方向と風向とのなす角が小さくなり、ドップラー速度が大きくなる。その結果、測定精度を向上させることができる。
【0061】
一方、ステップST12において、観測値が得られたビームが3個に満たない場合(ステップST12:No)、ビーム照射方向選択部17はビーム照射部11のビーム照射方向の天頂角を小さくする(ステップST13)。ビーム照射部11のビーム照射方向の天頂角が9.6°である場合は4.8°にする。
【0062】
これは、天頂角を小さくすることで、風速の水平成分がビーム反射波に及ぼすドップラー効果の程度を小さくするためである。こうすることで、次回観測時にビーム反射波のドップラー周波数を低く抑えて、A/D変換部15のサンプリングレートであっても観測値が得られるようになる可能性が高まる。
【0063】
このようにして、観測値が得られるビームの個数を考慮しながら天頂角の調整を行った後、再度観測値の取得を行う。
【0064】
以上から明らかなように、この発明の実施の形態2による風計測装置によれば、風速の状況に対して適応的にビームの天頂角を調整することとしたので、低サンプリングレートのA/D変換器を用いた構成であるにもかかわらず、広い測風速範囲を実現できるとともに、A/D変換器のサンプリングレートと風速の組み合わせから許容される範囲で最も高いドップラー周波数を得て高精度の風計測を実現できるのである。
【0065】
なお上述の構成例では、天頂角として4.8°と9.6°のいずれか一方を選択する構成としているが、選択可能な天頂角の種類を多くしてもよいことはいうまでもない。
【0066】
実施の形態3.
実施の形態2において天頂角の調整を行った処理を、ビーム走査の中心方向を調整する処理に替えてもよい。この発明の実施の形態3による風計測装置は、かかる特徴を有するものである。
【0067】
以下の説明において、ある方位を中心軸とする円錐面上でビーム方向を変化させる走査方法をコニカル走査と呼ぶ。図10と図11は、実施の形態3による風計測装置及び方法の原理を説明する図である。図10は、x軸の正の方向へ吹く風が存在する場合、図11はにx軸方向の負の方向へ吹く風が存在する場合の例を示している。図10の場合は、xz面内でxが正となる方向を中心としてコニカル走査を行えば、コニカル走査における全てのビーム方向において、正(遠ざかる方向)のドップラー速度が観測される。
【0068】
また、図11の場合は、xz面内でxが負となる方向を中心としてコニカル走査を行えば、コニカル走査におけるすべてのビーム方向において、正(遠ざかる方向)のドップラー速度が観測される。
【0069】
一般には、水平風の風向に応じて、風の吹いていく方位角方向にコニカル走査の走査中心を傾ければ、正のドップラー速度が観測されるようになる。コニカル走査の開き角(コニカル円錐面の中心軸と円錐面上の任意の方向とのなす角、図10の角度βに相当する)を大きくすれば、ビーム方向によるドップラー速度の差が大きくなる。よって、水平風速が大きい場合にはβを小さく、水平風速が小さい場合にはβを大きくすれば、ドップラー速度計測範囲の幅が水平風速によらずほぼ一定となる。
【0070】
このことから、水平風の風速に応じて、コニカル走査の開き角を調整することで、低速なAD変換器を用いた構成であっても測風速範囲を広くすることができる。また、走査中心の天頂角αについては、鉛直流がないと想定する場合には、βと同じ値とすれば、観測されるドップラー速度の最小値が0m/sとなるのである。
【0071】
次に、この発明の実施の形態3の風計測装置の構成と動作について説明する。この発明の実施の形態3の風計測装置の構成は、実施の形態2と同様に図8のブロック図によって示される。ただし、この発明の実施の形態3においては、ビーム照射部11はコニカル走査を行うように構成されており、さらにビーム照射方向選択部17はコニカル走査の方向を制御するようになっている。
【0072】
続いて、この発明の実施の形態3の風計測装置の動作について説明する。図12は、この風計測装置の動作のフローチャートである。図において、図9と同一の符号を付した処理(ステップ)は実施の形態2と同様であるので説明を省略し、図12のフローチャート固有の処理についてのみ説明することとする。
【0073】
ステップST12において、観測値の得られたビーム数、すなわちディジタル変換可能な周波数に収容されたドップラー周波数を伴うビーム数が3以上となる場合、風速ベクトルの算出(ステップST16)とともに、終了操作が選択されていない場合(ステップST17:No)に、ビーム照射方向選択部17は、現在の風速・風向に対して開き角を大きくしても観測値が得られるビーム数が3以上となるかどうか判断する。そして開き角を大きくしても観測値が得られるビーム数が3以上となる場合(ステップST22:Yes)、ビーム照射方向選択部17は、開き角を大きくするようにビーム照射部11を制御する(ステップST23)。開き角を大きくすることで、ビームの照射方向と風向とのなす角が小さくなるので、反射波のドップラー速度が大きくなり、観測精度が向上する。その後ステップST11に戻る。
【0074】
一方、開き角を大きくすると、観測値が得られるビーム数が3以上とならない場合(ステップST22:No)は、何もせずにステップST11に戻る。
【0075】
またステップST12において、観測値の得られたビーム数が3未満の場合(ステップST12:No)は、ビーム照射方向選択部17は、開き角を小さくするようにビーム照射部11を制御する(ステップST21)。この場合は、風速ベクトルを算出するのに十分な数のドップラー周波数が得られないので、開き角を小さくして反射波のドップラー周波数を大きくし、ディジタル変換可能な周波数内に収容させるのである。これにより、低サンプリングレートのA/D変換器を用いた構成であっても、広い測風速範囲を達成できる。
【0076】
実施の形態4.
実施の形態1乃至3では、風向風速によって観測を行うビーム走査方法を変更するようにしたものである。しかしビーム走査方向を変更せずに、信号処理の対象とするビームを調整するようにしてもよい。例えば、風向風速に応じて、一部のビームからの受信信号をA/D変換しないようにする構成などが考えられる。実施の形態4による風計測装置は、かかる特徴を有するものである。
【0077】
図13は、この発明の実施の形態4による風計測装置の構成を示すブロック図である。図において、ビーム照射方向選択部17は、ビーム照射方向の反射波のドップラー周波数がA/D変換部15でディジタル変換可能な周波数を超過していないかどうかを調べてビーム照射方向を選択するという実施の形態1の機能に加えて、ビームの選択結果に応じてA/D変換部15がディジタル変換するビーム照射方向を設定する機能が付け加えられている。その他、図3と同一の符号を付した構成要素については、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
次に、この発明の実施の形態4の風計測装置の動作について説明する。A/D変換部15のサンプリングレートで定まる速度計測範囲内で大気のドップラ速度を計測できるビームを選択する点では、実施の形態1と同じ動作となる。ただし実施の形態1では、選択したビーム方向のみで観測を行うのに対し、この発明の実施の形態4の風計測装置では、ビーム走査方法を固定して観測を継続する。このビーム走査方法としては、想定する風速範囲であれば、全ビームを用いれば、3つ以上の方向でドップラ速度を計測できるようなものとする。例えば、実施形態1と同様に、ビーム1(5,0)、ビーム2(5,72)、ビーム3(5,144)、ビーム4(5,216)、ビーム5(5,288)の5方向で観測することが考えられる。
【0079】
ビーム照射方向選択部17は、欠損なくドップラ速度を計測できたビームのうち、任意の3つを選択し、その結果をA/D変換部15へ出力する。4つ以上のビームで欠損なく観測ができる場合の3つのビームの選択方法としては、実施形態1の場合と同様に、ビーム方向の違いによる風速差をできるだけ大きくして、風速ベクトル算出精度を高くするために、ドップラ速度の最大値と最小値を含むように選択するとよい。
【0080】
A/D変換部15は前回の観測値に基づいてビーム照射方向選択部17が選択したビーム方向で観測する時間のみで、A/D変換処理を行う。あるいは選択されたビーム方向で観測する時間のみでAD変換した結果をA/D変換部15の内部メモリに記憶するようにする。
【0081】
この構成では、実施の形態1と異なり、選択されなかったビーム方向にもビーム走査されるため、実質として観測しない時間帯が生じる。しかし、選択されなかったビーム方向に対してA/D変換処理は行わないため、A/D変換部15において使用する内部メモリ量を小さくすることができる。一般にA/D変換器の内部メモリには、SRAM(Static Random Access Memory)のような高速メモリが用いられるが、このメモリは一般に高価である。したがって、実施の形態4によれば、A/D変換器の低サンプリングレートのA/D変換器を用いて、広い測風速範囲に対応する風計測装置を実現できる。それとともに内部メモリ容量を削減するので、よりA/D変換器を廉価にすることが可能となる。
【0082】
実施の形態5.
実施の形態1乃至4の風計測装置は、低サンプリングレートのA/D変換処理を行いながら、広い測風速範囲に対応した風計測装置を実現することを目的としていた。
しかしながら、A/D変換処理の速度よりもディジタル変換処理後の受信信号を信号処理する信号処理系の演算能力が劣る場合、この信号処理系が測風速範囲を広くする上でのネックとなる場合も考えられる。
【0083】
図14は、観測値の取得処理、A/D変換処理の動作速度に比べて、信号処理の処理性能が劣る場合のタイミングチャートである。この図の下部に観測処理と観測値をデータ転送する処理、さらに信号処理のタイミングを示している。図において符号101が示しているのは、各ビームを用いて一定の時間内に取得した観測値を信号処理して風速を算出するプロセスの時間割である。ここでは一連のビームの観測値を処理し終えるのに300ms(ミリ秒)を要するものと仮定する。
【0084】
符号102が示しているのは、観測値の取得処理と取得した観測値をデータ転送する処理の時間割である。また部分タイミングチャート103は符号102に示した時間割をさらに詳細に示した時間割であって、ここでは例えばビーム1〜ビーム5からなる5本のビームによる観測値を取得し、その観測値をデータ転送するのに要する時間の関係を示している。部分タイミングチャート104は、部分タイミングチャート103のビームの一つの時間割構成をさらに詳細に示したタイミングチャートである。
【0085】
部分タイミングチャート104において示されるように、ビーム送信とビーム受信との対を一つのビーム当たり1000回繰り返すものとする。ビーム送信とビーム受信との対を終えるのに要する時間を20μs(マイクロ秒)とすると、この対を1000回繰り返すには、20μs×1000=20msを要することとなる。よって、これを5本のビームで繰り返せば20ms×5=100msを要する。このような観測値をA/D変換するにはサンプリング速度として毎秒50M(メガ)サンプルあれば足りる。ここではA/D変換速度も十分高速であると仮定する。
【0086】
そうすると、毎秒50Mサンプルの速度で5本のビームの送受信時間100msの間に発生した信号をA/D変換すると発生するデータ量は50M/s×100ms=5Mバイトとなる。このデータを信号処理可能なようにバス転送するには、バス転送速度を50Mバイト/秒とすれば、転送時間100msを必要とする。
【0087】
観測値の取得と、取得した観測値の転送を合わせると200msの所要時間が必要となるが、この観測値を処理するのに300ms必要となるので、観測値の取得とデータ転送処理の素子や回路には100msのアイドル時間が発生することになる。つまり、風計測装置において演算能力の低い信号処理系を採用すると、低速なA/D変換器を使用するのと同様の結果となる。
【0088】
なお、ここではデータ転送効率のよいDMA(Direct Memory Access)を利用して、信号処理とデータ転送処理は並列に行うものと仮定してタイミングチャートを示しているが、信号処理とデータ転送処理とを時分割で行うものとすると、さらに多くのオーバーヘッドが生ずる。
【0089】
そこで、このような場合には、ディジタル変換された後の観測値の一部だけを選択的に信号処理の対象とする構成を採用するとよい。この発明の実施の形態5による風計測装置は、かかる特徴を有するものである。
【0090】
図15は、この発明の実施の形態5による風計測装置の構成を示すブロック図である。図より明らかなように、この発明の実施の形態5では、ビーム照射方向選択部17の制御対象が周波数分析部16となっている点に特徴がある。なお、図13と同一の符号を付した構成要素は実施の形態4と同様であるので説明を省略する。
【0091】
ビーム照射方向選択部17は、例えば5本のビームの中から3本のビームを選択する。こうすると図14に示した信号処理系と同じ性能を有する信号処理系であっても、図16に示すように300m/s×3/5=180m/sで信号処理を完了する。したがって観測とデータ転送に要する時間200msよりも短い時間で信号処理を終えることとなり、アイドル時間は発生しない。
【0092】
このように構成することで、信号処理系が低速の構成のままであっても、広い測風速範囲に対応した風計測装置を実現することが可能となる。
【0093】
実施の形態6.
なお、実施の形態1乃至5の風計測装置の構成では、受信信号の内容に基づいてビームの照射方向の調整や処理対象とするビームの選択を行った。しかし受信信号の内容に基づいてこれらを調整や選択するのではなく、例えば一定時間毎にビームの照射方向の調整や処理対象とするビームの選択を行うようにしてもよい。
【0094】
このようにすることで、簡易な手順で一定時間毎に確実にビーム走査方法を最適化することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
この発明は、例えば低サンプリングレートのA/D変換器や風計測装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】VAD曲線の例を示す図である。
【図2】VAD曲線に、A/D変換器のサンプリングレートで検出可能な範囲を重ね合わせた状態を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態1による風計測装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1のビーム照射方向を説明するための図である。
【図5】この発明の実施の形態1による風計測装置のフローチャートである。
【図6】VAD曲線とビーム方向、A/D変換可能な範囲の組み合わせを示す図である。
【図7】VAD曲線とビーム方向、A/D変換可能な範囲の別の組み合わせを示す図である。
【図8】この発明の実施の形態2による風計測装置の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態2による風計測装置のフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態3のビーム照射方向を説明するための図である。
【図11】この発明の実施の形態3のビーム照射方向を説明するための図である。
【図12】この発明の実施の形態3による風計測装置のフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態4による風計測装置の構成を示すブロック図である。
【図14】従来の風計測装置における各処理のタイミングチャートである。
【図15】この発明の実施の形態5による風計測装置の構成を示すブロック図である。
【図16】この発明の実施の形態5による風計測装置における各処理のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0097】
11 ビーム照射部、
13 ディジタル変換手段、
16 周波数分析部、
17 ビーム照射方向選択部、
18 風速算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射したビームの大気による反射波を受信して得た受信信号を所定のサンプリングレートでディジタル変換し、ディジタル変換された受信信号から求められるドップラー周波数を用いて遠隔地点の風速を計測する風計測方法において、
ビーム照射方向と風向とのなす角に応じて変動する反射波のドップラー周波数が上記サンプリングレートでサンプリング可能な周波数を超過しない範囲の方角から複数のビーム照射方向を選択し、選択された複数のビーム照射方向からの反射波のドップラー周波数を組み合わせて、上記風速を計測することを特徴とする風計測方法。
【請求項2】
受信信号をディジタル変換するサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を反射波のドップラー周波数が超過しない範囲の方角に照射したビームの中から、そのビームの反射波のドップラー周波数が大きい順にビーム照射方向を所定個数だけ選択することを特徴とする請求項1に記載の風計測方法。
【請求項3】
照射したビームの大気による反射波を受信して得た受信信号を所定のサンプリングレートでディジタル変換し、ディジタル変換された受信信号からドップラー周波数を求めるとともに、このドップラー周波数を用いて遠隔地点の風速を計測する風計測装置において、
ビーム照射方向と風向とのなす角に応じて変動する上記ドップラー周波数が上記サンプリングレートでサンプリング可能な周波数を超過しない範囲の方角から複数のビーム照射方向を選択するビーム照射方向選択手段と、
上記ビーム照射方向選択手段によって選択された複数のビーム照射方向からの反射波のドップラー周波数を組み合わせて、上記風速を計測する風速算出手段と、
を備えたことを特徴とする風計測装置。
【請求項4】
所定の複数の方向にビームを照射するビーム照射手段を備え、
ビーム照射方向選択手段は、上記ビーム照射手段がビームを照射した複数の方向からビーム照射方向を選択することを特徴とする請求項3に記載の風計測装置。
【請求項5】
ビーム照射方向選択手段は、ビーム照射手段が複数の方向に照射されたビームの反射波のドップラー周波数が、受信信号をディジタル変換するサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を反射波のドップラー周波数が超過したことを検出し、超過した反射波のビーム照射方向を上記所定の複数の方向から除く残りのビーム照射方向を選択することを特徴とする請求項4に記載の風計測装置。
【請求項6】
反射波の受信信号のドップラー周波数がディジタル変換のサンプリングレートを超過する場合にその信号成分を遮断するとともに、上記受信信号が上記サンプリングレートを超過しない場合に上記受信信号をディジタル変換してディジタル受信信号を出力するディジタル変換手段と、
上記ディジタル受信信号を周波数分析してドップラー周波数を求めるとともに、上記ディジタル変換手段が信号成分を遮断した場合に、データ欠損を発生させる周波数分析手段と、を備え、
ビーム照射方向選択手段は、上記周波数分析手段でデータ欠損が発生したときに、上記サンプリングレートでサンプリング可能な周波数を反射波のドップラー周波数が超過したことを検出することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一に記載の風計測装置。
【請求項7】
ビーム照射方向選択手段は、ディジタル変換のサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を反射波のドップラー周波数が超えない範囲の方角に照射したビームの中から、そのビームの反射波のドップラー周波数が大きい順にビームを所定個数だけ選択することを特徴とする請求項6に記載の風計測装置。
【請求項8】
ビーム照射方向選択手段が選択した複数のビーム照射方向に対してビームを照射するビーム照射手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の風計測装置。
【請求項9】
ビーム照射手段は、第1の天頂角方向と第1の天頂角よりも大きい第2の天頂角方向とのいずれかを天頂角とする複数の方向にビームを照射し、
ビーム照射方向選択手段は、ビーム照射方向の天頂角が第2の天頂角方向であり、かつ、ディジタル変換のサンプリングレートでサンプリング可能な周波数をビームの反射波のドップラー周波数が超えない範囲の方角に照射したビームの個数が所定個数に満たない場合に、ビーム照射手段によるビーム照射方向の天頂角を第1の天頂角に設定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項10】
ビーム照射手段は、第1の天頂角方向と第1の天頂角よりも大きい第2の天頂角方向とのいずれかを天頂角とする複数の方向にビームを照射し、
ビーム照射方向選択手段は、ビーム照射方向の天頂角が第1の天頂角方向であり、かつ、ディジタル変換のサンプリングレートでサンプリング可能な周波数をビームの反射波のドップラー周波数が超えない範囲の方角に照射したビームの個数が所定個数以上の場合に、ビーム照射手段によるビーム照射方向の天頂角を第2の天頂角に設定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項11】
ビーム照射手段は、所定の方位を中心軸とする円錐面上でビーム照射方向を変化させるコニカル走査を行うとともに、コニカル走査の中心軸を変動する構成とされ、
ビーム照射方向選択手段は、ディジタル変換のサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を,ビームの反射波のドップラー周波数が超えない範囲の方角に照射したビームの個数が所定個数に満たない場合に、ビーム照射手段のコニカル走査の中心軸と鉛直方向とのなす角が小さくなるようにビーム照射手段のビーム照射方向を設定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項12】
ビーム照射手段は、所定の方位を中心軸とする円錐面上でビーム照射方向を変化させるコニカル走査を行うとともに、コニカル走査の中心軸を変動する構成とされ、
ビーム照射方向選択手段は、ディジタル変換のサンプリングレートでサンプリング可能な周波数を,ビームの反射波のドップラー周波数が超えない範囲の方角に照射したビームの個数が所定個数以上となる場合に、ビーム照射手段のコニカル走査の中心軸と鉛直方向とのなす角が大きくなるようにビーム照射手段のビーム照射方向を設定することを特徴とする請求項8に記載の風計測装置。
【請求項13】
所定の複数の方向に照射されたビームのうち、一部の方向のビームの反射波の受信信号を所定のサンプリングレートでディジタル変換するディジタル変換手段を備え、
ビーム照射方向選択手段は、選択したビーム照射方向のビームの反射波の受信信号を上記ディジタル変換手段にディジタル変換させることを特徴とする請求項3に記載の風計測装置。
【請求項14】
照射したビームの大気による反射波を受信して得た受信信号を所定のサンプリングレートでディジタル変換し、ディジタル変換された受信信号からドップラー周波数を求めるとともに、このドップラー周波数を用いて遠隔地点の風速を計測する風計測装置において、
上記サンプリングレートで定められた制限時間内をドップラー周波数を信号処理してこのドップラー周波数のビーム照射方向の風ベクトル成分を算出できる範囲の方角から複数のビーム照射方向を選択するビーム照射方向選択手段と、
上記ビーム照射方向選択手段によって選択された複数のビーム照射方向のドップラー周波数を組み合わせて、上記サンプリング可能な周波数を超過する方向の風の風速を計測する風速算出手段と、
を備えたことを特徴とする風計測装置。
【請求項15】
ビーム照射方向選択手段は、一定周期毎に風向とビーム照射方向の関係に基づいてビーム照射方向を選択することを特徴とする請求項3〜14の何れか一に記載の風計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−177853(P2006−177853A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372871(P2004−372871)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】