説明

飛行機械の自動離陸システム

【課題】翼と胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械の離陸特性を生かして、離陸距離計算を自動的に行い、離陸の可否判定を自動的に行うことができるようにする。
【解決手段】飛行機械の姿勢制御用2軸関節部分において、翼と胴体とを、互いに直交する2軸を中心に各駆動装置によって回動可能に結合する。この飛行機械では一定の迎角に制御した状態で離陸可能であるので、この飛行機械において予め得られている離陸特性データにより、翼の迎角を該飛行機械の最短離陸距離に設定したときの離陸障害範囲内に障害物が存在するか否かを判別する。このとき離陸不能と判別した場合には離陸不能信号を出力して離陸を行わせないと共に、離陸可能の時には適切な翼迎角と速度に設定して、安全な離陸を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は機体に対して自由に角度変更を可能にする駆動機構を介して取り付けた翼を備えている振子安定構造を備えた飛行機械に関し、特にこの種の飛行機械の連続関数で記述可能な離陸特性を生かして離陸距離計算を行い、前方の障害物を検出して離陸可否判断及び離陸制御を行うことができるようにした飛行機械の自動離陸システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては自動車の普及により行動範囲が広がり、郊外型小売業の展開や職住接近の郊外形住宅の普及、物流システムの変革等、社会生活の形態が大きく変わっている。しかしながら自動車による人間の移動についてみると、走行する道路網の完備が必要であり、そのためには多くの資金が必要となり、しかも持続的な維持管理費を必要とする。そのため高速道路等を使用する際には有料となることが多く、利用者にとっても多くの費用を要する。
【0003】
また、自動車による移動においては目的地まで直線で移動することはできないため、予め設備化されている道路に沿った移動をせざるを得ず、効率的な移動がなされないことが多い。更に自動車は道路をタイヤで走行するため、走行時の摩擦によるエネルギーロスが大きく、移動コストの増加の原因となっている。また走行音が道路近隣の住宅地に与える影響も問題となる。
【0004】
それに対して飛行機は前記のような道路を必要とせず、有料道路の利用は不要となり、道路の建設維持管理の減少が可能となり、目的地へは原則として直線距離で移動することができ、道路との摩擦損失が無く空気抵抗のみとなり効率的な移動が可能となり、エンジンの改良や比較的高空を飛行することによって定常走行時の騒音もあまり問題とならなくなる。
【0005】
このような観点から航空機の利用が注目されているが、従来の航空機では乗員一人当たりの輸送コストの低減から多くの乗員を輸送するため大型化せざるを得ず、また固定翼航空機では失速速度以上の加速が必須なため離陸距離が長くならざるを得ず、回転翼航空機ではローターブレードの旋回が危険となる問題もある。したがってできる限り軽量で且つ短距離で離陸でき、安全な軽飛行機の開発が望まれている。その対策として例えば、無線制御複葉飛行機において尾翼を揺動可能とし、安定飛行を可能とした技術は特開平09−109999号公報(特許文献1)に提案され、また揺動自在な補助翼を備えて離陸を短距離にする飛行機は特開平07−010088号公報(特許文献2)に提案されている。
【0006】
しかしながらこれらの従来提案されている技術では、尾翼や補助翼を必要とし、構造が複雑とならざるを得ない。それに対して本発明者等は先に、機体に対して自由に角度変更を可能にする駆動機構を介して取り付けた翼を備えている振子安定構造を備えた飛行機械を提案し、特開平2005−138641号公報(特許文献3)、特開平2006−341815号公報(特許文献4)に開示し、また下記(非特許文献1)に示すような文献で同様の技術を提案するとともに、試作し実験を重ねている。
【特許文献1】特開平09−109999号公報
【特許文献2】特開平07−010088号公報
【特許文献3】特開平2005−138641号公報
【特許文献4】特開平2006−341815号公報
【非特許文献1】岩田拡也 著 「空間移動ロボットに関する研究(第1報)」計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会論文集 2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等が提案している前記のような、機体に対して自由に角度変更を可能にする駆動機構を介して取り付けた翼を備えている振子安定構造を備えた飛行機械は、比較的低空を低速で安定に飛行可能で、乗り心地のよい飛行機械を提供することが可能となる。また、翼と本体を別々に設計開発が可能となるため、既に風洞実験や飛行特性が明らかな翼を使用して飛行機械の設計開発が可能なり、風洞実験や実際の飛行試験にかかる多額の開発費を不要とする効果がある。これは製造業の分担によるコスト削減効果と、翼と本体の組み合わせの多様化による多品種化の市場効果が大きくなる。
【0008】
更に、翼に燃料タンクなどの構造を設けることがないので翼が軽量化し、安価で構造の単純な翼が使用可能であり、また折畳翼を使用すると地上収納時のスペース効率が格段に高まる効果がある。また、翼と本体は1点でのみ接合され動力の燃料タンクが本体側にあるため、燃料の減少に伴う重心位置の変化が翼に影響しない、または動力関節の調整により自動的に機体姿勢安定化調整が可能である利点が生じるとともに、動力関節による翼の制御による操舵により翼のエルロンやフラップなどの機構を省略し軽量な折畳翼とすることも可能となる効果がある。
【0009】
しかも、推力を発生する動力の搭載位置は自由であるが、特に本体に搭載する場合重心位置や推力線の多少のずれは動力関節の動作により調整が可能であることから著しく設計自由度を上げ、部品点数を低減し、ニーズに応える意匠の導入が可能等々の効果を生じ、早急な実用化が各方面から望まれている。
【0010】
このような特性を備えた飛行機械を例えば軽飛行機の操縦免許を所有している人たちが気楽に自家用機として乗ることができるようにするためには、現在の軽飛行機よりももっと安全に、誰もが気楽に乗ることができる飛行機械とする必要があることが極めて重要である。その際重要なのは飛行機械が離陸するときであり、一旦離陸すると任意の高度で安全に目的地に飛行操縦することができ、また着陸も安全に行うことができることから、この飛行機械を安全に離陸できる離陸制御を自動化することが特に重要であって、この技術が完成するならばこの飛行機械は急速に普及することが見込まれる。
【0011】
したがって本発明は、翼と本体である胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械の離陸特性を生かして、離陸距離計算を自動的に行い、離陸の可否判定を自動的に行うことができるようにした飛行機械の自動離陸システムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る飛行機械の自動離陸システムは、前記課題を解決するため、翼と本体である胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械において、離陸走行開始地点前方の障害物迄の距離及び該障害物の高さを検出する障害物検出部と、予め得られている離陸特性データにより、翼の迎角を該飛行機械の最短離陸距離に設定したときの離陸障害範囲内に障害物が存在するか否かを判別する離陸可否判別部と、前記離陸可否判別部で離陸不能と判別したとき離陸不能信号を出力する離陸自動制御部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の飛行機械の自動離陸システムは、前記飛行機械において、前記回動可能な関節と胴体とを伸縮軸で結合し、該結合部でサスペンションを構成し、飛行中における外界からのショックを前記サスペンションで吸収する手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る他の飛行機械の自動離陸システムは、前記飛行機械において、前記予め得られている離陸特性データは、該飛行機械の翼迎角と離陸距離及び離陸速度についての連続関数のデータであることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る他の飛行機械の自動離陸システムは、前記飛行機械において、前記離陸可否判別部で離陸可能と判別したとき、前記離陸自動制御部は、離陸に必要な翼迎角及び滑走速度を設定し、所定の翼迎角を維持して滑走速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
従来の固定翼航空機の離陸は、引き起こし動作があるため連続関数として取り扱うことが不可能であり、離陸に関する理論関数の導出が難しかったのに対して、本発明における翼と本体である胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械を用い、電子制御による振子安定構造とした飛行機械は、離陸走行前の地上接地時に主翼の迎角が設定可能なため、この特性を生かして迎角の関数として離陸速度や離陸距離という離陸特性が予め設定することができるため、導出された離陸障害範囲内に障害物がないことと、風速等の各種条件を適宜検出すれば、離陸の可否を自動判定することが可能となり、自動離陸が可能となる。それにより、現在の軽飛行機よりももっと安全に、誰もが気楽に乗ることができる飛行機械を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、翼と本体である胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械を用い、電子制御による振子安定構造とした飛行機械における特性を生かして自動離陸の可否判断を行うことができるようにするため、この飛行機械の離陸走行開始地点前方の障害物迄の距離及び該障害物の高さを検出する障害物検出部と、予め得られている離陸特性データにより、翼の迎角を該飛行機械の最短離陸距離に設定したときの離陸障害範囲内に障害物が存在するか否かを判別する離陸可否判別部と、前記離陸可否判別部で離陸不能と判別したとき離陸不能信号を出力する離陸自動制御部とを備えた自動離陸システムにより実現した。
【実施例1】
【0018】
本発明で用いる飛行機械は、本発明者等が前記特許文献4等において開示しているような飛行機械を用いるものであり、詳細は同文献に詳細に記載しているので、ここではその概要のみを説明する。図5(a)は、動力関節により翼と本体が1点で接合されることを特徴とする例であり、実際に試作した飛行機械の概略図である。51は、飛行機械の揚力を発生するための折畳式軽量翼である。42は、飛行機械が姿勢を保つために折畳式軽量翼を制御する動力関節を示している。55は、空力的にロール姿勢制御を行うためのエルロンである。但し本発明においてはこのエルロンは必ずしも必要としない。53は折畳式軽量翼と本体を連結する伸縮軸であるスイングロッド(Swing rod)を示し、56は伸縮軸の伸縮を制御するアクチュエータと力センサを示しており、57は噴流式のエンジンを示している。実証実験ではこのエンジンに騒音防止効果に優れたターボジェットエンジンを用いているが、電動ファンでも、圧縮空気タービンでも本システムは実現可能である。58は離発着用の車輪である。
【0019】
図5(b)は、前記実際に試作した飛行機械の内部構造の説明図であり、試作機のため人間は搭乗しない構造としている。飛行機械が姿勢保持や操舵のために折畳式軽量翼を制御する動力関節52は、この例では精密な角度検出が可能なロータリエンコーダを搭載した電動サーボとなっており、それぞれ59、60の位置に搭載されている。折畳式軽量翼41と伸縮軸53との接点に折畳式軽量翼51のロール角(バンク角)とピッチ角を検出する角速度センサ(ジャイロセンサ)と3軸加速度センサ搭載したセンサユニット61があり、その61からの情報をもとに翼と本体の姿勢制御を電子制御により行うマイクロコンピュータユニット62が図5(b)に示されている。62は各種センサからの情報をもとに飛行機械の姿勢制御に関する信号処理を行う回路とプログラム格納型マイクロプロセッサ、出力ドライバ回路、遠隔指令用受信機、受信信号処理回路から構成されている。63はバッテリで実機では48Vで150Wの2軸制御用モータを動作させている。64はターボジェットエンジン用燃料タンクで、57に示した2基のエンジン用に独立した2つのタンクを装備している。65は、自律制御動作を行うための位置制御用RTK-GPS受信機、無線通信によるマンマシンインターフェイスを処理するマイクロプロセッサである。
【0020】
翼のロール制御は流体力学的動作を用いない重心の位置制御による飛行安定制御を行う。図5(b)に示すように、飛行機械の姿勢制御用2軸関節52の駆動源であるロール制御用サーボモータ59は、翼と本体を結合するスイングロッドの翼側の根元に取り付けられ、その動力は一段減速歯車を介してスイングロッドに伝えられる。センサとしては、モータ軸にロータリエンコーダ、レートジャイロが存在する。
【0021】
図5(c)は、折畳式軽量翼を本体が動力関節により姿勢制御を行うメカニズムをロール軸についてモデル化したものである。基本的には振子の運動方程式に振子の支点が大きな空気抵抗を持つ物体により移動することを考慮することとなる。図5(c)では飛行体が外乱Tzを受け水平面とθ1の角度で姿勢が傾き、その姿勢を修正するためにサーボモータが働いた場合を示している。
【0022】
このロール姿勢制御モデルにおいて、機体のロール方向を反時計回りが正となるように方向を定めたときの運動方程式等は先の出願に記載したとおりであるので、ここでの説明は省略する。姿勢制御中の機体は翼がほぼ水平でスイングロッド(swing rod)が垂直に直立した状態となる。実際の機体の傾きは、翼と本体の慣性モーメント J1,J2の比較によりθ1で近似できる。また実際の外乱Tzは、通常の場合平均風速2〜5m/s程度とシステムに対して相対的に小さい。このとき、θ1は0近傍の値しかとらないため、θ1=0、sinθ1=θ1、cosθ1=1とおくことにより線形化することが可能となる。線形制御理論におけるシステム表現についても先の出願に記載した通りであり、このような線形近似を用いると本システムは可制御であり、4つの状態変数が全てセンシングできるため、状態フィードバックによって安定化することが可能となる。
【0023】
実際に前記のような飛行機械を試作して飛行させた結果、動力関節のサーボモータをエンコーダによる位置制御により動作する設計としておくと本体の重量により自動的に翼が水平を保ち、かつ回転軸方向のバネ&ダンパーの機能も受け持つことがわかった。
【0024】
上記のような、機体に対して自由に角度変更を可能に取り付けた翼を備えている、電子制御による振子安定構造を備えた飛行機械について更に検討を加えた結果、この飛行機械は前記のように主翼と胴体が固定されておらず、アクチュエータにより自由な角度に設定可能なため、滑走開始地点での地上設置時から離陸後まで同一の主翼迎角を保持することが可能になることがわかった。なお、本発明者等はこのような飛行機械において、スイングロッドにダンパーを付加することによって、より安定した飛行を行うことができるようにする技術を提案しており、本発明においてもこの技術を効果的に適用することができる。
【0025】
本発明による飛行機械は図1(a)に示すように、滑走開始地点Aにおいて翼2の迎角を所定値αに設定して滑走を開始するとき、この飛行機械の離陸特性は同図(b)のグラフに示すように連続的な特性を示す。このグラフから明らかなように、翼迎角αを所定値としたとき、揚力Lは速度Vの上昇と共に同図に示すように増大し、一方、機体の車輪と地面との摩擦力Mは、空気抵抗の増大と揚力の増大によって速度Vの上昇と共に次第に減少し、図示の例では最初の滑走開始時における約40kgfの摩擦力から減少して、約35km/hで摩擦力がゼロとなり、ここで離陸できることがわかる。
【0026】
この離陸特性は図3(c)に示す式のように表される。即ち、空気抵抗の増加による揚力Lは(1)式のように空気密度ρ、空気との相対速度V、翼平面面積S及び揚力係数Cの関数である。また、揚力増加に伴う設置荷重の減少による地面との摩擦力Mの変化は(2)式に示すようになる。即ち、飛行機全体重量Wから前記揚力Lを差し引いた重量に対して地面との摩擦係数μを乗じた値であり、この揚力Lに前記(1)式を当てはめると(2)式のとおりとなる。
【0027】
ここで地面との摩擦力がゼロとなる状態が離陸であるので、M=0とすると、離陸時の速度Vは図3(c)の(3)式のように導き出される。ここでCは翼迎角αの関数なので、離陸速度VR、離陸距離SR、離陸時間TRが翼迎角αの関数として記述可能となる。図1(c)は前記図3(c)に示す(2)式の地面との摩擦力の速度依存性を翼迎角αを変えてプロットした図であり、翼迎角7度と16度において実測値と理論値がほぼ一致していることがわかる。
【0028】
また、図3(c)に示した(3)式から、翼迎角αに対する離陸速度VRは図4(a)のように、また離陸時間TRは同図(c)のように、更に離陸距離SRは同図(b)のように表される。これらの図においてそれぞれ翼迎角7度及び16度の実測値とほぼ一致していることがわかる。なお、同図(d)は飛行機械の滑走開始地点からの距離Sと高度Hの実測値である。特に同図(c)に示すグラフの関数により導出された離陸距離SRにおいて、このグラフを飛行機械の最大出力滑走時のグラフとすることにより、離陸障害範囲内に障害物がないことと、更に風速及び離陸予定方向に対する風向等の各種条件を検出することにより、離陸の可否を自動判定することが可能となり、電子制御による振子安定構造の飛行機械が有する自動姿勢安定機能により自動離陸が可能となる。なお、このときに離陸障害範囲内に障害物があるか否かの判断に際しては、障害物の高さと例えば図4(d)のような飛行機械の離陸後の上昇速度を考慮して決定する。また、図3(a)及び(b)には、前記特性を備えた飛行機械を実際に製作するときの外観例を示している。
【0029】
このような特性を備えた飛行機械は、例えば図2(b)に示すような飛行制御装置11により、特に離陸の自動制御を確実に行うことができる。図2(b)に示す飛行制御装置11の例においては、同図(a)のように機体1に備えたレーダー4によって前方の障害物を検出し、図示の例では更に監視カメラ5によって周囲を監視すると共に前方の障害物の検出も可能とする。また飛行制御装置11によって前記のような翼2の迎角を初め、ロール角の制御も可能とする。上記のような飛行機械の設備及び飛行制御装置によって、本発明における飛行機械の自動離陸システムが構成される。
【0030】
図2(b)に示す飛行制御装置11の例においては、レーダー信号入力部12から同図(a)のレーダー4で検出した信号を入力し、障害物検出部14に出力する。カメラ画像処理部13では監視カメラ5の画像を入力して画像処理を行い、前方の障害物を中心とした画像データを障害物検出部14に出力する。障害物検出部14ではレーダー及び監視カメラの画像データによって、特に離陸に際して障害となる物体を検出し、その障害物の距離15及び高さ16を測定する。それにより例えば図1に示すように、滑走開始地点Aから距離SPの位置にある高さHである、最も飛行の障害となる物体としての障害物Pを検出し、その距離及び高さの検出データを飛行制御部32に出力する。
【0031】
飛行制御部32ではそのほか外気条件検出部17から風速18、風向19、気温20、湿度21、気圧22等の各センサ信号を入力し、また図示の例では振子式摩擦係数測定器のような地面摩擦係数検出部23から車輪が接している地面の摩擦係数のデータを入力している。更に図2に示す例においては、機体状態検出部24から全重量25、重心位置26、機体の移動速度27、ジャイロセンサ等による機体傾斜状態28等のデータを入力し、また、翼状態検出部29から翼の迎角30、更にはロール角31も入力し、翼の角度のフィードバック制御を可能としている。
【0032】
飛行制御部32においては飛行に関する各種制御を行うものであるが、特に離陸自動制御部33では離陸可否判別部34において前記障害物検出部14からの障害物検出データに基づき、外気条件検出部17からの各種外気条件、地面摩擦係数検出部23からの地面摩擦係数を入力するとともに、機体状態検出部24からの種々の機体状態のデータに基づいて、例えばエンジンの最大推力で且つ失速しない範囲の最大翼迎角に設定して、障害物にぶつからず離陸可能であるか否かを判別する。この判別に際して、この飛行機械の前記のような連続関数に基づき、容易に判別することが可能となる。ここで離陸は不可能であると判別したときには操縦者に対して離陸不能のメッセージを出力すると共に、飛行を行わない制御信号を出力する。
【0033】
図示の例においては飛行制御部32における離陸制御部33に翼制御部35及び滑走速度制御部36を備え、離陸可否判別部34で離陸可能と判別したとき、障害物を考慮して離陸可能限界値ではなく、可能な限り安全で動作変化の少ない離陸を行うことができる翼迎角を設定し、風向等を考慮して必要に応じ翼のロール角も設定し、同時に滑走速度を設定するため、翼制御部35及び滑走速度制御部36を備えている。それにより飛行制御部32から迎角制御出力部に迎角制御信号を出力し、ロール角制御出力部38にロール角制御信号を出力すると共に、機体速度制御部39に対して離陸時の滑走速度制御信号を出力する。これらの制御信号は、離陸自動制御部33からの離陸時の前記のような制御信号以外に、離陸後の飛行時にも制御を行う。図2に示す例においては更にGPS40も備え、飛行機械の移動位置を正確に検出する。また、通信ユニット41を備え、飛行制御に必要な各種信号の送受信を、適宜信号毎に周波数を変更して行う。
【0034】
上記のような飛行制御装置11における迎角制御出力部37及びロール角制御出力部38からの信号は、図4(a)における翼2をロール方向及びピッチ方向に回動する動力関節3に出力し、翼の角度を所定の値に設定する。また、この翼の状態は翼状態検出部29で検出し、フィードバック制御を行う。それにより図1(a)のような飛行を確実に行うことができる。なお、実際に製作した飛行機械の制御システムを図6に示しているが、このシステムによって確実に自動離陸制御を行うことができた。
【0035】
このように、従来技術である固定翼航空機の離陸は、引き起こし動作があるため連続関数で記述することが不可能であり、離陸に関する理論関数の導出が難しかったのに対して、本発明の電子制御による振子安定構造の飛行機械は、地上接地時に翼の迎角が設定可能なため、迎角の関数として離陸速度や離陸距離といった離陸特性が記述可能となった。このため、導出された離陸障害範囲内に障害物がないことと風速を検出すれば、離陸の可否を自動判定することが可能となり、電子制御による振子安定構造の飛行機械が有する自動姿勢安定機能により自動離陸が可能となる。
【0036】
なお、前記の例においては離陸を直線上で行う例を示したが、それ以外に螺旋状の離陸も可能であり、その際には安全に離陸できる最小限の半径で螺旋飛行を行うとき、障害物に接するか否かの判断を行うこととなり、このときには翼のロール角の制御も必要に応じて行うこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明で用いる飛行機械の離陸特性を示す図であり、(a)は翼迎角を一定に制御したときの飛行態様を示し、(b)は離陸特性の連続性を示すグラフであり、(c)は翼迎角による地面との摩擦力の速度依存性を示すグラフである。
【図2】本発明の飛行制御装置の説明図であり、(a)は本発明で用いる飛行機械の概要を示し、(b)は特に離陸自動制御部を中心にして示した飛行制御装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明で用いる飛行機械の外観及びその飛行機の離陸特性を示す式を示し、(a)及び(b)はこの飛行機械を実際に製作するときの例を示す外観図であり、(c)は離陸特性の式を表している。
【図4】本発明で用いる飛行機械の特性を示す図であり、(a)は翼迎角と離陸速度の特性を示し、(b)は翼迎角と離陸時間の特性を示し、(c)は翼迎角と離陸距離の特性を示し、(d)は試作機における離陸走行開始地点からの距離と高度を示すグラフである。
【図5】本発明で用いる飛行機械の説明図であり、(a)は外観図、(b)は胴体部分の断面図、(c)は振り子安定機能を説明する図である。
【図6】本発明の試作機で用いた飛行機械制御装置の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼と本体である胴体とを、互いに直交する2軸を中心に回動可能な関節により結合し、前記2軸を中心に各々任意に回動する駆動装置を備えた飛行機械において、
離陸走行開始地点前方の障害物迄の距離及び該障害物の高さを検出する障害物検出部と、
予め得られている離陸特性データにより、翼の迎角を該飛行機械の最短離陸距離に設定したときの離陸障害範囲内に障害物が存在するか否かを判別する離陸可否判別部と、
前記離陸可否判別部で離陸不能と判別したとき離陸不能信号を出力する離陸自動制御部とを備えたことを特徴とする飛行機械の自動離陸システム。
【請求項2】
前記回動可能な関節と胴体とを伸縮軸で結合し、該結合部でサスペンションを構成し、飛行中における外界からのショックを前記サスペンションで吸収する手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の飛行機械の自動離陸システム。
【請求項3】
前記予め得られている離陸特性データは、該飛行機械の翼迎角と離陸距離及び離陸速度についての連続関数のデータであることを特徴とする請求項1記載の飛行機械の自動離陸システム。
【請求項4】
前記離陸可否判別部で離陸可能と判別したとき、前記離陸自動制御部は、離陸に必要な翼迎角及び滑走速度を設定し、所定の翼迎角を維持して滑走速度を制御することを特徴とする請求項1記載の飛行機械の自動離陸システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−166585(P2009−166585A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5426(P2008−5426)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】