説明

食品用結着剤

【課題】凍結乾燥魚肉粉末の配合量を下げても、凍結乾燥魚肉粉末の単体と同等以上の優れた結着力を有する安価な結着剤を得ること。
【解決手段】結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚卵などの食品を素材(原料)とし、これらを結着加工する際に用いられる食品用結着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば魚卵の結着は、スケソウダラを原料とする凍結乾燥魚肉粉末を用いて行われていた。しかしながら、近年、スケソウダラの漁獲量が年々減少の一途を辿り、原料価格の上昇に伴い、製品の価格の維持が困難となってきている。そのため、凍結乾燥魚肉粉末の利用者からは、同魚肉粉末の単品と同等、あるいはそれ以上の結着力があり、しかも安価な結着剤が要望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、利用者の望むような食品の結着剤は開発されていないのが現状であり、凍結乾燥魚肉粉末の配合率だけを下げるという安易な方法では、結着力が低下するだけで、市場の要求する結着食品には到底なり得ない。また、そのような先行技術も見受けられない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者は、凍結乾燥魚肉粉末の配合率を下げてもなお、その鮮肉活性を維持できるものについて模索したところ、凍結乾燥魚肉粉末に、たん白素材と微生物由来のトランスグルタミナーゼを配合することで、優れた結着力を持つ結着剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白を配合したことを特徴とする食品用結着剤である。
【0006】
請求項2の発明は、結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼと大豆たん白、小麦たん白、乳たん白のうちのいずれか一種若しくは二種以上を配合したことを特徴とする食品用結着剤である。
【0007】
請求項3の発明は、結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白及び有機酸塩を配合したことを特徴とする食品用結着剤である。
【0008】
また、請求項4の発明は、結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白の他、大豆たん白、小麦たん白、乳たん白のうちのいずれか一種若しくは二種以上と有機酸塩あるいは有機酸塩と無機塩の二種を配合したことを特徴とする食品用結着剤である。
【発明の効果】
【0009】
したがって本発明によると、凍結乾燥魚肉粉末の配合量を下げても、凍結乾燥魚肉粉末の単体と同等以上の優れた結着力を有する安価な結着剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の対象となる食品素材(原料)としては、主として魚卵が挙げられるが、畜肉、魚肉、貝、卵、野菜、果実等動植物の食品素材の全てを対象とすることができる。例えば、畜肉でいえば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、山羊肉、家禽肉などであり、特に種類及び部位に限定されない。また、これらを二種以上組み合わせて用いても差し支えない。魚介類でいえば、軟骨魚類などの魚類のみならず、甲殻類、軟体動物、貝類等も挙げることができる。例えば、スケソウダラ、さんま、あじ、いわし、かつお、さけ、ハモ、鯛、したびらめ、かれい、ホキ、シログチ、イトヨリ、パシフィックホワイティン等の硬骨魚類、さめ、えい等の軟骨魚類、エビ、カニ、ロブスター等の甲殻類、いか、たこ等の軟体動物、ほたて、あわび等の貝類等であり、特に魚類に限定されるものではない。また、これらを組み合わせてもよいことは、畜肉の場合と同様である。
【0011】
凍結乾燥魚肉粉末としては、スケソウダラ、南タラ、ハモ等一般に用いられているスリ身原料が用いられる。これらの凍結乾燥魚肉粉末の配合量は、結着剤総重量に対して30重量%〜80重量%が好ましく、35重量%〜75重量%が最適である。
【0012】
本発明において用いられる微生物由来のトランスグルタミナーゼとしては、味の素株式会社製の商品名「アクティバTG−K」製剤が挙げられる。この製剤は上記のトランスグルタミナーゼ1%と、乳酸カルシウム75%、デキストリン他24%で構成されているものであるが、トランスグルタミナーゼを含有するものであれば、これに限られるものではなく、必要量の活性ユニットが得られればこれ以外でも使用可能である。本発明で使用されるトランスグルタミナーゼの配合量は、結着剤に対して0.03%〜0.05%(3ユニット〜5ユニット/g)で十分に効果を発揮し、通常の結着剤として使用する場合の20ユニット/g以上に比べ、遥かに少ない活性で十分な食品結着が行える。因みに、トランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定される。すなわち、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行い、生成したヒドロキサム酸をトリクロル酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定し、ヒドロキサム酸の量を検量線より求め、活性を算出する(特開平1−27471号公報参照。)。
【0013】
また、本発明で用いられるエンドウたん白は、黄色エンドウから抽出されたものであり、トランスグルタミナーゼの基質として用いられる。本発明で使用するものは、オルガノ株式会社製の商品名「PP−CS」であるが、これに限定されるものではない。前記「PP−CS」のアミノ酸組成のうち、トランスグルタミナーゼの活性に関与するリジンとグルタミン酸は、それぞれ6.8%と13.7%で、構成比率としては1:2の比率となり、他のたん白素材の多くが約1:3となるのに比べ、リジンとグルタミン酸の構成比率が高く、トランスグルタミナーゼの基質としては優れている。
【0014】
さらに、本発明で用いられる有機酸塩としては、ステアリン酸カルシウムが好ましく、無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ポリリン酸ナトリウム及びピロリン酸4ナトリウム塩から選ばれ、これらの一種又は二種以上を組み合わせることもできる。これらは、トランスグルタミナーゼとの相互作用において、少量で強い結着作用を発揮させるために用いられる。また、有機酸塩は、食品の結着過程における流動性の改善にも効果を示す。
【0015】
本発明による上記食品結着剤を用いた結着食品の製造例を示すと、先ず、凍結乾燥魚肉粉末、トランスグルタミナーゼ及びエンドウたん白を所定量計量(請求項1の場合。)し、円錐型スクリュー混合機やニーダーなどを用いて混合する。これらの混合粉末を、例えば脱水した魚卵に対して3%の食塩をまぶしたものに対して2%添加して混和成型した後、これを目的に応じて所定の温度条件下で所定時間処理して結着させることで結着食品が製造される。この結着食品は、そのままの状態であるいは加熱してから、必要に応じて適当な大きさにカットし流通に置くことができる。
【0016】
本発明では、トランスグルタミナーゼの酵素作用及び凍結乾燥魚肉粉末の鮮肉活性を活用するので、所定の温度および時間はトランスグルタミナーゼの最適作用条件を考慮して定める。トランスグルタミナーゼの酵素反応温度は0℃以上であるが、あまり高温になると酵素が失活するため、一般的には0℃〜60℃である。ただし、製造時に速やかに処理したい場合は20℃〜40℃が好ましい。また、生鮮食品素材である畜肉や魚介類の加工処理の場合は、5℃〜10℃くらいの方が素材の鮮度が保たれるので好ましい。反応時間については、反応温度によって異なるが、通常3〜16時間程度である。
【実施例】
【0017】
「実施例1」
冷凍シシャモ卵を流水解凍、洗浄、脱水したものに、対卵3%の食塩を添加、混和し、これに表1の「試験区1」〜「試験区5」に示す組成の結着剤を2%添加、混和して、10℃で16時間坐らせて結着シシャモ卵を得た。この結着シシャモ卵を、5mm球形プランジャーにて結着力の強度の目安となるゼリー強度を測定した。測定結果を表1に示す。凍結乾燥魚肉粉末単品に比べ、いずれの試験区でもゼリー強度が向上した。
【0018】
【表1】

【0019】
「実施例2」
実施例1で、凍結乾燥魚肉粉末の配合量が総重量の37%でも十分なゼリー強度が保てることが判明したため、同魚肉粉末配合量を37%にした場合でエンドウたん白以外のたん白素材に置き換えたときのゼリー強度を測定した。結着シシャモ卵の製造方法は、組成及び配合量以外は実施例1に準じる。なお、小麦たん白はグリコ栄養食品株式会社製「小麦たん白」を、大豆たん白−1は不二製油株式会社製「大豆たん白(粉末状大豆たん白とソルビタン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルから構成。)」を、大豆たん白−2は日清オイリオ株式会社製「大豆たん白(粉末状大豆たん白とレシチンから構成。)」を、乳たん白は森永乳業株式会社製「乳たん白」を使用し、それぞれ試験区1〜試験区6とし、そのうち、試験区3及び試験区6はたん白二種の併用とした。試験結果を表2に示す。乳たん白単独使用の試験区5以外は、エンドウたん白使用の結着剤(表1の試験区5参照。)と同等のゼリー強度が認められた。
【0020】
【表2】

【0021】
「実施例3」
エンドウたん白は、取扱い時に流動性が良くないことを知得していた。そこで、この流動性を改善するため、有機塩を添加することで対応した。有機塩としては品川加工株式会社製の「ステアリン酸カルシウム」を用いた。結着シシャモ卵の製造方法は、組成及び配合量を除き実施例1に準じる。流動性の評価結果を表3に示す。ステアリン酸カルシウムの3%添加でゼリー強度の上昇が見られ、同5%添加で流動性に改善が認められ、10%添加では流動性、ゼリー強度共に良好となった。流動性の改善に伴いゼリー強度が上がったのは、魚卵の中に結着剤が行き渡った為と考えられる。なお、流動性評価の数値は、5:良好、4:やや良好、3:普通、2:やや悪い、1:悪い、とした。
【0022】
【表3】

【0023】
「実施例4」
実施例3でステアリン酸カルシウムの添加により流動性が良好となった結果を受け、乳たん白使用でのゼリー強度の向上のため、エンドウたん白との併用を行ったうえで、前記結着シシャモ卵の製造工程における対卵3%の食塩添加のところを、添加食塩3%の15%分を「複合リン酸塩」に置き換えて添加(試験区2)し、置き換えない試験区1と比較した。「複合リン酸塩」としては、エフシー化学株式会社製の商品名「エフシーリンサンD(ポリリン酸ナトリウム50%、ピロリン酸4ナトリウム塩50%組成)」を用いた。また、大豆たん白−1についても、エンドウたん白との併用による「複合リン酸塩」の置き換え有り(試験区4)と置き換え無し(試験区3)につき、対照区との関係で試験を行った。なお、結着シシャモ卵の製造方法は、組成及び配合量を除き実施例1に準じる。試験結果を表4に示す。「複合リン酸塩」を置き換えた試験区2では、ゼリー強度が増加し、エンドウたん白併用の大豆たん白使用(試験区3及び4)では、「複合リン酸塩」の置き換えの有無に拘わらず、ゼリー強度の明らかな増加が認められた。また、取扱い時の流動性はいずれの試験区でも良好であった。
【0024】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白を配合したことを特徴とする食品用結着剤。
【請求項2】
結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼと大豆たん白、小麦たん白、乳たん白のうちのいずれか一種若しくは二種以上を配合したことを特徴とする食品用結着剤。
【請求項3】
結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白及び有機酸塩を配合したことを特徴とする食品用結着剤。
【請求項4】
結着剤総重量に対し30重量%〜80重量%の配合量の凍結乾燥魚肉粉末に、微生物由来のトランスグルタミナーゼとエンドウたん白の他、大豆たん白、小麦たん白、乳たん白のうちのいずれか一種若しくは二種以上と有機酸塩あるいは有機酸塩と無機塩の二種を配合したことを特徴とする食品用結着剤。

【公開番号】特開2009−284885(P2009−284885A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162552(P2008−162552)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000194745)株式会社セイワテクニクス (6)
【Fターム(参考)】