説明

香味組成物

【課題】天然のバターの良好な香味を食品に付与することができる香味組成物を提供すること。
【解決手段】UC10FA(炭素数10以下の遊離脂肪酸)の含有量が0.01質量%以上であり、UC10FAとUC12FAEE(炭素数12以下の脂肪酸エチルエステル)の質量比UC10FA/UC12FAEEが50〜1000であることを特徴とする香味組成物。該香味組成物は、乳脂と、エチルアルコール濃度が1容量%以上のアルコール飲料との混合物に、リパーゼを加え、エステル交換とエステル化と加水分解を行うことより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然のバターの良好な香味を食品に付与することができる香味組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂や、チーズ等の乳原料を脂肪分解酵素(リパーゼ)で処理して、フレーバーを製造する方法について多くの報告がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、油脂に脂肪分解酵素を添加して分解した後、リポキシゲナーゼを添加して分解することからなるバターフレーバーの製造方法が記載されている。特許文献2には、油脂、無脂乳固形分、水を配合し、これに脂肪分解酵素とタンパク質分解酵素及び/又は乳糖分解酵素を添加して分解することからなるバターフレーバーの製造法が記載されている。特許文献3には、油脂に、脂肪分解酵素と乳製品から分離した菌株とを作用させてなる反応液を主成分とする食品又は食品用フレーバーが記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1〜3で得られたフレーバーでは、天然バターの良好な香味を食品に付与できなかった。
【0005】
特許文献4には、ラクトン、脂肪酸類、油脂加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上からなる成分を含有する乳系香料組成物が記載されている。特許文献5には、油脂及びフーゼル油にリパーゼを作用させるフレーバーの製造法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献4に記載の乳系香料組成物や、特許文献5に記載のフレーバーは、炭素数10以下の遊離脂肪酸/炭素数12以下の脂肪酸エチルエステルの質量比が50よりも小さいため、良好なバターの香味ではなく、フルーティーな香味を有する乳系香料組成物やフレーバーであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−59743号公報
【特許文献2】特公昭57−41898号公報
【特許文献3】特開平2−177868号公報
【特許文献4】特開2005−15685号公報
【特許文献5】特開平3−30647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、天然のバターの良好な香味を食品に付与することができる香味組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、UC10FA(炭素数10以下の遊離脂肪酸)の含有量が0.01質量%以上であり、UC10FAとUC12FAEE(炭素数12以下の脂肪酸エチルエステル)の質量比UC10FA/UC12FAEEが50〜1000であることを特徴とする香味組成物により、上記目的を達成するものである。
また、本発明は、上記香味組成物を製造する方法であって、乳脂と、エチルアルコール濃度が1容量%以上のアルコール飲料との混合物に、リパーゼを加え、エステル交換とエステル化と加水分解を行うことを特徴とする香味組成物の製造方法により上記目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の香味組成物により、天然のバターの良好な香味を食品に付与することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の香味組成物について詳述する。
【0012】
本発明の香味組成物のUC10FA(炭素数10以下の遊離脂肪酸)の含有量は、0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、最も好ましくは1〜10質量%である。本発明の香味組成物において、UC10FAの含有量が0.01質量%よりも少ないと、天然のバターの良好な香味を食品に付与する効果が弱くなる。
【0013】
UC10FA(炭素数10以下の遊離脂肪酸)は一価の遊離脂肪酸である。UC10FAは、食用に適する限り不飽和結合を有していてもよく分岐を有していてもよいが、通常は飽和且つ直鎖の遊離脂肪酸である。UC10FAの代表例としては、天然に由来して得られる酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸及びカプリン酸が挙げられる。これらの中でも、香味の観点から酪酸、カプロン酸が好ましい。本発明の香味組成物は、1種のみのUC10FAを含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。
【0014】
本発明の香味組成物のUC12FAEE(炭素数12以下の脂肪酸エチルエステル)の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.002質量%以上、一層好ましくは0.003質量%以上、最も好ましくは0.005〜0.04質量%である。本発明の香味組成物において、UC12FAEEの含有量が0.001質量%よりも少ないと、天然のバターの良好な香味とは異なる香味を食品に付与しやすい。
【0015】
UC12FAEE(炭素数12以下の脂肪酸エチルエステル)はモノエステルである。UC12FAEEを構成する脂肪酸には、上記のUC10FAについての説明を適宜適用することができる。
【0016】
本発明の香味組成物は、UC10FA/UC12FAEEの質量比が50〜1000、好ましくは70〜500、さらに好ましくは80〜400、最も好ましくは100〜300である。本発明の香味組成物において、UC10FA/UC12FAEEの質量比が50よりも小さいと、フルーティな香味を食品に付与してしまい、1000よりも大きいと、酪酸臭を食品に付与してしまう。尚、フルーティな香味は、本発明が目的とするバターの香味とは異質ものであり、本発明においては好ましいものではない。
【0017】
本発明の香味組成物の遊離脂肪酸(以下FAともいう)の含有量は、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20〜90質量%、最も好ましくは30〜80質量%である。本発明の香味組成物において、FAの含有量が10質量%よりも少ないと、天然のバターの良好な香味を食品に付与する効果が弱くなりやすい。尚、本発明でいう遊離脂肪酸には、UC10FAも含める。全遊離脂肪酸中におけるUC10FAの割合は、1〜10質量%であることが好ましい。
【0018】
UC10FA以外のFAも一価の遊離脂肪酸である。該FAも、食用に適する限り不飽和結合を有していてもよく分岐を有していてもよいが、好ましくは直鎖状のものである。UC10FA以外のFAの代表例としては、天然に由来して得られるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキン酸、ベヘン酸が挙げられる。本発明の香味組成物は、これらのうちの1種のみを含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。これらの中でも、パルミチン酸、オレイン酸が好ましい。
【0019】
本発明の香味組成物は、脂肪酸エチルエステル(以下FAEEとする)の含有量が好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%、最も好ましくは0.1〜0.2質量%である。本発明の香味組成物において、FAEEの含有量が0.01質量%よりも少ないと、酪酸臭を食品に付与してしまいやすい。尚、本発明でいうFAEEには、UC12FAEEも含める。全FAEE中におけるUC12FAEEの割合は、1〜10質量%であることが好ましい。
【0020】
FAEEを構成する脂肪酸には、上記のFAについての説明を適宜適用することができる。
【0021】
本発明の香味組成物は、FA/FAEEの質量比が好ましくは50〜1000、さらに好ましくは90〜800、最も好ましくは100〜500である。本発明の香味組成物において、FA/FAEEの質量比が50よりも小さいとフルーティな香味を食品に付与しやすく、1000よりも大きいと酪酸臭を食品に付与しやすい。
【0022】
本発明の香味組成物はそのほかの成分として、トリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリド(以下、これらを合わせてグリセリド類ともいう)並びにグリセリンを含有する。
【0023】
上記のトリグリセリドの含有量は好ましくは1〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは10〜25質量%である。
上記のジグリセリドの含有量は好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%、最も好ましくは20〜30質量%である。
上記のモノグリセリドの含有量は好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%、最も好ましくは10〜15質量%である。
上記のグリセリンの含有量は好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜3質量%、最も好ましくは0.5〜2質量%である。
【0024】
上記のグリセリド類を構成する脂肪酸には、上記のFAについての説明を適宜適用することができる。
【0025】
また、本発明の香味組成物は油溶性であり、水分は好ましくは0.001〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%、最も好ましくは0.02〜0.08質量%である。
【0026】
一方、天然バターの組成は、産地、季節、加工法等により変動が見られるが、ある天然バターの組成分析の一例を挙げると、UC10FAの含有量は0.001質量%、UC12FAEEの含有量は0.00006質量%、FAの含有量は1.1質量%、FAEEの含有量は0.0009質量%、トリグリセリドの含有量は80質量%、ジグリセリドの含有量は3.8質量%、モノグリセリドの含有量は0.097質量%、グリセリンの含有量は0.0008質量%、水分15質量%である。
【0027】
次に、本発明の香味組成物の好ましい製造方法について説明する。
【0028】
本発明の香味組成物は、乳脂と、エチルアルコール濃度が1容量%以上のアルコール飲料との混合物に、リパーゼを加え、エステル交換とエステル化と加水分解を行うことにより製造することができる。斯かる製造方法により、本発明の香味組成物を容易に得ることができ、さらには、香味組成物に含まれる各成分の含有量及び比率を、容易に前述の好ましい範囲内とすることができる。
【0029】
上記の乳脂としては、乳脂そのもののほか、乳脂を含有する調製脂、無塩バター、加塩バター及び発酵バター等の乳脂含有油脂が挙げられる。これらは1種で又は2種以上を混合して使用することができる。乳脂含有油脂としては、一般に市販されているものを使用することができる。
【0030】
上記の混合物中の乳脂の含有量は好ましくは20〜98.9質量%、さらに好ましくは40〜99質量%、一層好ましくは60〜98質量%、最も好ましくは80〜95質量%である。上記の混合物において乳脂の含有量が20質量%よりも少ない又は98.9質量%よりも多いと、天然のバターの良好な香味を食品に付与する効果が弱くなりやすい。尚、ここでいう乳脂の量は、乳脂そのもの及び乳脂含有油脂に由来する乳脂の量であり、乳脂含有油脂に由来する乳脂以外の成分は含まない。
【0031】
上記の乳脂として、乳脂を含有する調製脂、無塩バター、加塩バター及び発酵バター等の乳脂含有油脂を使用する場合は、1)上記の乳脂含有油脂から分別した乳脂の中から選ばれた1種又は2種以上を使用する、2)上記の乳脂含有油脂そのものの中から選ばれた1種又は2種以上を使用する、3)上記の乳脂含有油脂から分別した乳脂の中から選ばれた1種又は2種以上と、上記の乳脂含有油脂そのものの中から選ばれた1種又は2種以上を使用する、ことが可能である。
【0032】
また、上記の乳脂含有油脂中の乳脂の含有量は、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、最も好ましくは60質量%以上である。上記の乳脂含有油脂における乳脂の含有量が20質量%未満であると、得られる香味組成物の香味が弱くなる場合がある。
【0033】
上記のエチルアルコール濃度が1容量%以上のアルコール飲料としては、清酒、葡萄酒等の醸造酒類、焼酎、ウイスキー等の蒸留酒類、梅酒、みりん等の混成酒類の中から選ばれた1種を又は2種以上を混合して使用することができる。これらのアルコール飲料は、一般に市販されているものを使用することができる。本発明では、これらのうち、香味の点で葡萄酒、みりん、焼酎の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0034】
また、上記のアルコール飲料のエチルアルコール濃度は、1容量%以上、好ましくは2〜60容量%、最も好ましくは5〜50容量%である。上記のアルコール飲料のエチルアルコール濃度が1容量%よりも低いと、脂肪酸エチルエステルの生成量が不充分となる。
【0035】
上記の混合物中のアルコール飲料は、上記の混合物中のエチルアルコールの含有量が好ましくは0.001〜0.15容量%、さらに好ましくは0.01〜0.1容量%、一層好ましくは0.02〜0.05容量%、最も好ましくは0.025〜0.045容量%となるように含有させる。上記の混合物においてエチルアルコールの含有量が0.001容量%よりも少ないと酪酸臭を食品に付与しやすく、0.15容量%よりも多いとフルーティな香味を食品に付与しやすい。
【0036】
上記の好ましい乳脂の含有量及び好ましいエチルアルコールの含有量を考慮すると、通常、上記の混合物は、乳脂(乳脂そのもの及び/又は乳脂含有油脂)100質量部に対してアルコール飲料0.01〜5質量部の割合で混合して調製される。
【0037】
上記の混合物中の水分は、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜8質量%、一層好ましくは1〜7質量%、最も好ましくは2〜6質量%である。混合物中の水分が0.1質量%よりも少ないと天然のバターの良好な香味を食品に付与する効果が弱くなりやすく、水分が10質量%よりも多いと香味組成物の収率が低くなりやすい。
【0038】
上記の混合物中の水分は、乳脂含有原料、アルコール飲料に含まれている水分を含めるものとし、混合物中の水分が上記の範囲とならない場合は、天然水、水道水の中から選ばれた1種又は2種以上を混合物に添加して、上記の範囲とすることが可能である。
【0039】
なお、上記の収率は、下記の式にて求めることができる。
(A)水(天然水、水道水)を混合物に添加した場合
香味組成物の収率=香味組成物g/(混合物中の乳脂の含有量g+混合物中の乳脂含有油脂の含有量g+混合物中のアルコール飲料の含有量g+混合物中の水の含有量g)×100
(B)水(天然水、水道水)を混合物に添加していない場合
香味組成物の収率=香味組成物g/(混合物中の乳脂の含有量g+混合物中の乳脂含有油脂の含有量g+混合物中のアルコール飲料の含有量g)×100
【0040】
本発明の製造方法では、上記の収率が好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは95〜100質量%、最も好ましくは97〜100質量%であることが望ましい。
【0041】
次に、上記の混合物にリパーゼを加え、混合物の酵素反応を行う。この酵素反応により、乳脂に由来するグリセリド類が加水分解されて遊離脂肪酸が生じ且つグリセリド類がエステル交換されると共に、上記遊離脂肪酸によって、アルコール飲料に由来するエチルアルコールがエステル化されて脂肪酸エチルエステルが生じる。上記のリパーゼとしては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属、サーモマイセス(Thermomyces)等に由来する微生物リパーゼや、パンクレアチン等の動物由来のリパーゼが挙げられる。
【0042】
上記のリパーゼはランダム酵素であってもよいし、1,3位置特異性酵素であってもよい。また、上記のリパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0043】
上記の混合物に対するリパーゼの添加量は、上記の混合物100質量部に対し、好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部、最も好ましくは0.5〜3質量部である。
【0044】
上記の混合物のエステル交換とエステル化と加水分解の反応温度は、好ましくは30〜60℃、さらに好ましくは40〜60℃である。
上記の混合物のエステル交換とエステル化と加水分解の反応時間は、好ましくは1〜50時間、さらに好ましくは5〜10時間である。
【0045】
上記の混合物のエステル交換とエステル化と加水分解後、例えば無水硫酸ナトリウムを加えてろ過し、残存水分、酵素を除去して、本発明の香味組成物を得ることができる。
【0046】
次に、本発明の香味組成物を含有する香味が付与された食品について説明する。
【0047】
本発明の香味組成物は、食品に天然のバターの良好な香味を付与することができる。本発明の香味組成物は、香味組成物そのものを食品に直接用いることもできるし、食用油脂に本発明の香味組成物を添加したものを食品に用いることもできる。
【0048】
上記食品は、そのまま食せるものでもあってもよいし、食品原料として用いられるものであってもよく、また、ショートニングのような油相のみからなる食品であってもよいし、水相と油相を有する乳化物である食品であってもよい。上記の食品が乳化物の場合は、油中水型、水中油型、二重乳化のいずれでも構わない。
【0049】
上記食品の具体例としては、スプレッド用油脂、練り込み用油脂、ロールイン用油脂、調理用油脂、フライ用油脂、スプレー用油脂、バタークリーム、無水クリーム、サンドクリーム、フィリングクリーム、ホイップクリーム、乳代替組成物、濃縮乳、デザート、アイスクリーム、飲料、マヨネーズ、ドレッシング、チョコレート、食パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クラッカー、クッキー、ビスケット、ワッフル、スコーン、スナック菓子、キャンディー、ガム、米菓、サラダ、スープ、ソース、レトルト食品、ルー、フライ食品、冷凍食品等が挙げられる。
【0050】
本発明の香味組成物の配合量は、上記食品中、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%、最も好ましくは0.3〜3質量%である。上記食品中において、本発明の香味組成物の配合量が0.1質量%よりも少ないと天然のバターの良好な香味を食品に付与する効果が得られにくく、10質量%よりも多いと天然のバターの良好な香味が過剰となりやすい。
【実施例】
【0051】
次に、実施例、比較例等を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0052】
〔実施例1〕
400gのバター(よつ葉乳業(株)製)を湯煎で融解した後、丸底フラスコに仕込み、30℃に調温し、この温度でNaCl10質量%水溶液100g(pH4に調整)と混合した。次に20℃で2週間、密封状態で保管後、40℃に加熱、遠心分離することで、乳脂を得た。
300mLの4つ口フラスコに乳脂100g、水3g、市販の焼酎(エチルアルコール25容量%)を0.07g加え、混合物とした。なお、混合物中の乳脂の含有量は97質量%、エチルアルコールの含有量は0.017容量%、水分2.96質量%であった。
上記の混合物にリパーゼとしてリポザイムRM−IM(ムコール属、ノボザイム社製、ランダム酵素)2gを加え、40℃、300rpmで8h反応後、無水硫酸ナトリウムを加えて濾過し、残存水分、固定化酵素を除去して香味組成物1を得た。
【0053】
〔実施例2〕
300mLの4つ口フラスコに実施例1で用いた乳脂80g、市販バター20g、市販の本みりん(エチルアルコール14容量%)を0.29g加え混合物とした。なお、混合物中の乳脂の含有量は96.8質量%、エチルアルコールの含有量は0.039容量%、水分3.1質量%であった。
上記の混合物に添加し、リパーゼとしてリポザイムTL−IM(サーモマイセス属、ノボザイム社製、1,3位置特異性酵素)1gを加え、40℃、300rpmで8h反応後、無水硫酸ナトリウムを加えて濾過し、残存水分、固定化酵素を除去して香味組成物2を得た。
【0054】
〔実施例3〕
300mLの4つ口フラスコに実施例1で用いた乳脂100g、水3g、市販の赤ワイン(エチルアルコール11容量%)を0.44g加え混合物とした。なお、混合物中の乳脂の含有量は96.8質量%、エチルアルコールの含有量は0.039容量%、水分3.15質量%であった。
上記の混合物に添加し、リパーゼとしてリパーゼPLC(アルカリゲネス属、名糖産業(株)製、ランダム酵素)1gを加え、40℃、300rpmで8h反応後、無水硫酸ナトリウムを加えて濾過し、残存水分、固定化酵素を除去して香味組成物3を得た。
【0055】
〔実施例4〕
300mLの4つ口フラスコに実施例1で用いた乳脂100g、水3g、市販の純米酒(エチルアルコール12容量%)を0.58g加え混合物とした。なお、混合物中の乳脂の含有量は96.5質量%、エチルアルコールの含有量は0.067容量%、水分3.4質量%であった。
上記の混合物に添加し、リパーゼとしてリパーゼQLC(アルカリゲネス属、名糖産業(株)製、1,3位置特異性酵素)0.5gを加え、40℃、300rpmで8h反応後、無水硫酸ナトリウムを加えて濾過し、残存水分、固定化酵素を除去して香味組成物4を得た。
【0056】
〔比較例1〕
実施例1において、市販の焼酎(エチルアルコール25容量%)を未添加の混合物とした他は、実施例1と同様にして香味組成物5を得た。なお、混合物中の乳脂の含有量は97.1質量%、エチルアルコールの含有量は0容量%、水分2.9質量%であった。
【0057】
〔比較例2〕
比較例1で得られた香味組成物5に、フーゼル油の脂肪酸エチルエステル蒸留分(脂肪酸エチルエステル95質量%)を700ppm加えて香味組成物6を得た。なお、混合物中の乳脂の含有量は97.1質量%、エチルアルコールの含有量は0容量%、水分2.9質量%であった。
【0058】
〔比較例3〕
実施例1において、乳脂のかわりにパーム油を用いて混合物を調製した他は、実施例1と同様にして香味組成物7を得た。なお、混合物中の乳脂の含有量は97質量%、エチルアルコールの含有量は0.017容量%、水分2.96質量%であった。
【0059】
<香味組成物の分析>
実施例1〜4で得られた香味組成物1〜4、比較例1〜3で得られた香味組成物5〜7の組成を、固相マイクロ抽出/ガスクロマトグラフ質量分析、薄相クロマト抽出/ガスクロマトグラフにより定量した。それらの結果を表1及び2に示した。
【0060】
〔実施例5〜8、比較例4〜6〕
<マーガリンの調製>
パーム油60質量%、菜種油25質量%、香味組成物0.6質量%を混合し、油相とした。この油相と、食塩1質量%を水道水13.4質量%に添加した水相とを、乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。さらに急冷可塑化し、実施例1〜4の香味組成物1〜4を用いた油中水型乳化のマーガリン(実施例5〜8)、及び比較例1〜3の香味組成物5〜7を用いた油中水型乳化のマーガリン(比較例4〜6)を調製した。
【0061】
<マーガリンの評価>
得られたマーガリンを、官能テストの熟練者15人で、下記評価基準に従って5段階で評価を行なった。評価の平均値を表3と表4に示した。
(バターの香り)
1 弱い
2 やや弱い
3 やや強い
4 強い
5 とても強い
(バターの呈味)
1 弱い
2 やや弱い
3 やや強い
4 強い
5 とても強い
(酪酸臭)
1 ほとんど感じられない
2 やや弱い
3 やや強い
4 強い
5 とても強い
(フルーティーな香り)
1 ほとんど感じられない
2 やや弱い
3 やや強い
4 強い
5 とても強い
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
バターの香りとバターの呈味の評価は、実施例5〜8で得られたマーガリンの方が比較例4〜6で得られたマーガリンよりも評価が良かった。
実施例2〜4の香味組成物を使用したマーガリン(実施例6〜8)では、酪酸臭はほとんど感じられなかったが、FA/FAEE比及びUC10FA/UC12FAEE比が実施例2〜4に比べて高い実施例1の香味組成物を使用したマーガリン(実施例5)では、酪酸臭が僅かに感じられた。
また、比較例4で得られたマーガリンも酪酸臭が感じられた。これは、比較例4で用いた比較例1の香味組成物が、UC12FAEEを含むFAEEを全く含有しておらず、実質的に、FA/FAEE比及びUC10FA/UC12FAEE比が極めて高いことと同義であるためと考えられる。
フルーティな香りは、他の香味組成物に比べてUC10FA/UC12FAEE比が低い香味組成物(実施例4、比較例2、3)を使用した実施例8、比較例5、6で感じられた。フルーティな香りは、実施例8と比較例6では僅かであったが、UC12FAEE含有量が特に高い比較例2の香味組成物を使用した比較例5では強く感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
UC10FA(炭素数10以下の遊離脂肪酸)の含有量が0.01質量%以上であり、UC10FAとUC12FAEE(炭素数12以下の脂肪酸エチルエステル)の質量比UC10FA/UC12FAEEが50〜1000であることを特徴とする香味組成物。
【請求項2】
FA(遊離脂肪酸)の含有量が10質量%以上、FAEE(脂肪酸エチルエステル)の含有量が0.01質量%以上、FA/FAEEの質量比が50〜1000である請求項1記載の香味組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の香味組成物を含有することを特徴とする香味が付与された食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の香味組成物を製造する方法であって、乳脂と、エチルアルコール濃度が1容量%以上のアルコール飲料との混合物に、リパーゼを加え、エステル交換とエステル化と加水分解を行うことを特徴とする香味組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−189513(P2010−189513A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34350(P2009−34350)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】