説明

香料組成物及び芳香製品の芳香性を改良又は増強する新しい方法

【課題】 ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの新しい製造方法を提供する。又、ニトロムスクに変わる、新しい香気を有し、従来の組成物に少量添加するだけで、一段と香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性、天然らしさを強化できる新しい香料組成物を提供する。
【解決手段】DMSOの溶媒中トリメチルスルフォキソニウムブロマイドとカリウムターシャリーブトキサイド又はソディウムメトキサイドの塩基の存在下に2−シクロペンタデセン−1−オンを反応させることによって、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンが容易に得られる。またこの化合物はパチュリ様香気を伴った動物的なムスク香を有しており、これを含有せしめた香料組成物芳香製品に添加することにより、フレーグランス製品の基礎香気に動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することができる。
【添付図】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化2
【0002】
【化2】

で表されるビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを製造する方法に関する。又、芳香成分としてビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを含有する香料組成物、更には、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを存在せしめることにより、フレーグランス製品の香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することを特徴とする芳香製品の芳香を改良又は増強する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤、消毒剤、殺虫剤等の保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤等の賦香剤として絶えず新しい基調香気が求められている。また一方で、保留剤としてその力強いムスク様香気を有する化合物であるニトロムスクの例のように、近年使用が限定される化合物が見られる。しかしながら、ニトロムスクを欠いた調合品では、出来上がる香りに限界があり、市場から要請される嗜好性の有る香りとして答えるには十分ではない。そこで、新しい香気を有した香りや、従来の組成物に少量添加するだけで、一段と香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することができる新しい化合物の開発が要望されてきている。
【0004】
キラルなビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを天然型ムスコンの合成のための原料として用いることは従来公知である。そのため、ラセミ体である本化合物のうち一方の光学活性体を製造する方法として、唯一、エノンをホモキラルなケタールに転換後、ジヨードメタンを亜鉛−銅触媒の存在下にDMSO溶媒中でナトリウムハイドライドとを作用させるケイス・エイ・ネルソン(Keith
A Nelson)らの方法があるのみであった(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー;1993年、115巻、1593−1594頁)。しかしながら、この方法は多量の亜鉛−銅触媒を必要とするうえ、発火の危険性の高いナトリウムハイドライドを使用することやジヨードメタンをこれも過剰に使用するもので、工業的なビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの製造法としては満足のいくものではない。
比較的最近、構造は本化合物と同じではないが比較的類似した化合物に対し、DMSO溶媒中でナトリウムハイドライドとトリメチルオキソスルフォニウム アイオダイドとをエノンに直接作用させる方法がユージーン・エイ・マーシュ等(Eugene
A Mash)らによって報告されている(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー;1997年、62巻、8513−8521頁)。しかしながら、この方法は前述のケイス・エイ・ネルソン(Keith
A Nelson)らの方法によってホモキラルなケタールとし、あらかじめ光学活性なシクロプロパン化後、さらにもう一つのシクロプロパン化を実行する際に採用される方法であることや、発火の危険性の高いナトリウムハイドライドを使用すること、およびトリメチルオキソスルフォニウムブロマイドにくらべ高価なトリメチルオキソスルフォニウムアイオダイドを使用している点で、工業的なビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの製造法としては満足ではない。
【0005】
又、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンが天然物中に極微量検出されたとする山口 功等による報告があるが(東京家政大学研究紀要2、自然科学、1997年、37巻、115−120頁)、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンが芳香を有することも、これが各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤、消毒剤、殺虫剤等の保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤等の賦香剤として用いられるという記載もない。
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー;1986年、51巻、2721−2724頁(J. Org. Chem. Vol.51,2721-2724, 1986)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー;1997年、62巻、8513−8521頁(J. Org. Chem. Vol.62,8513-8521, 1997)
【非特許文献3】東京家政大学研究紀要2、自然科学、1997年、37巻、115−120頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニトロムスクに代わり得る、従来の香料組成物に少量添加するだけで、香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化し、芳香製品の芳香を改良又は増強することのできる芳香化合物の新しい製造方法を提供する。又、ニトロムスクに変わる、新しい香気を有し、従来の組成物に少量添加するだけで、一段と香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することができる新しい香料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題に応えるべく鋭意研究を行った結果、DMSOなどの有機溶媒に懸濁/溶解したソディウムハイドライド、カリウムターシャリーブトキサイド及びソディウムメトキサイドから選ばれる少なくとも一種の塩基にトリメチルスルフォキソニウムブロマイドを加えて、2−シクロペンタデセン−1−オンと、反応させることによって化3で示されるビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン
【0008】
【化3】

【0009】
を容易に製造できることを見出した。またこの化合物がパチュリ様香気を伴った動物的なムスク香を有していることを見出すとともに、それらの香気的特徴だけでなく香気成分として含有せしめた香料組成物として用いる時、芳香組成物の香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性を顕著に強化することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。即ち、本発明は、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの簡便な製造法であり、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを賦香成分として含有する香料組成物であり、又、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを添加することにより、フレーグランス製品の基礎香気に動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化する、芳香製品の香気を改良又は増強する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することによって、従来簡便に調製する方法が知られていなかった、ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンがケトンのエポキシ化を抑えて、極めて容易且つ大量に製造でき、かくして得られるビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンは、ニトロムスクに変わる、新しい香気を有し、従来の組成物に少量添加するだけで、一段と香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することができる新しい香料組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般に、二重結合にトリメチルスルフォキソニウムブロマイド(アイオダイド)から得られるイリドを作用させると、ケトンからはエポキサイド化合物が得られ、炭素炭素二重結合からはシクロプロパン環化合物が得られる。
本発明において、適量の有機溶媒、例えばジメチルスルフォキサイド(DMSO)、イミダゾリジノン(DMI)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などから選ばれる一つの有機溶媒に懸濁又は溶解させた化学量論量以上のカリウムターシャリーブトキサイド又はソディウムメトキサイド塩基の存在下に、1.0〜3.0等量のトリメチルスルフォキソニウムブロマイドを数回に分けて攪拌しながら加え、反応器中でイリドを発生させ、これに2−シクロペンタデセン−1−オンを凡そ40℃以下、通常室温に保ちながら添加することでケトンのエポキシ化を抑え、二重結合へのメチレン基の導入を優先することができる。
【0012】
本発明を実施するに当って、出発物質である2−シクロペンタデセン−1−オンは、特開昭51−48635号公報に記載されており、又、特許公開公報2001−226306に記載の方法により得られる混合物 2(3)−シクロペンタデセン−1−オンも用いることができる。
【0013】
本発明においては、得られたビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを、石鹸、シャンプー、リンス等の化粧品類、洗毛料、養毛料等の頭髪用化粧品類、クリーム、化粧水、オーデコロン、パック等の基礎化粧品類、おしろい、ファンデーション、頬紅等のメークアップ化粧品類、香水等の芳香化粧品類、日焼け、日焼け止め化粧品、口紅、リップクリーム等の口唇化粧品類、歯磨き、マウスウォッシュ等の口腔化粧品類、浴用化粧品等各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤等の芳香剤類、消毒剤、殺虫剤等の保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤又は洗濯用洗剤等に使用される通常の賦香剤組成物に適当量含有せしめても良く、或いはこれらの各種賦香剤が添加された各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤、保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤等に直接添加混合してもよい。
【0014】
上記通常の賦香剤組成物が用いられる香りのタイプとしては、ミュゲタイプ、ムスクローズタイプ、グリーンフローラルタイプ、ベルガッモットタイプ等に、その用途はソープ用、芳香剤等何れに使用してもよく、これらにビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを適量添加、含有せしめることにより、既存香料の香りに、深み、力強さ、天然らしさ、拡散性及び又は甘みを与える新しい香りを発揮する。又、ジャスミンタイプ様芳香剤、フローラルブーケ等に添加したときには、香りに深みと拡散性を与え、且つそれぞれの持つ香りに一層天然らしさを強くする。
その添加料は、通常の賦香剤組成物中に0.1〜100重量%含有せしめる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)の製造
原料として用いる2−シクロペンタデセン−1−オンの合成法は特に限定しないが、たとえば特許公開公報2001−226306に記載の方法により得られる混合物 2(3)−シクロペンタデセン−1−オンも用いることができるので、ここでは特許公開公報2001−226306に記載の方法により得られた混合物としての2(3)−シクロペンタデセン−1−オンを使用する例を記す。
【0016】
還流冷却器、温度計、攪拌機を備えた1Lの四頚フラスコに360mLのジメチルスルフォキサイド(DMSO)を入れ、室温でソジウムメトキサイドの28%メタノール溶液54g(0.25×1.1mol)を加える。30分攪拌後、50gのトリメチルスルホキソニウムブロマイド(TMSOB、0.25×1.5mol)を15分間隔で、3回に分けて加える。加えた後さらに30分攪拌する。これに、特許公開公報2001−226306に記載の方法により得られた蒸留により得られた2(3)−シクロペンタデセン−1−オンの混合物の56g(0.25mol、ただしガスクロチャートより純度換算すると2−シクロペンタデセン−1−オンとしては0.17mol)を滴下して加える。滴下中僅かに発熱するので、水浴により40度以下に保つ。さらに同温度で1時間攪拌を継続した後、反応液を300mLの氷水に攪拌しつつ投入する。これを200mLのイソプロピルエーテル(IPE)で3回抽出する。IPE層を20mLの5%塩酸で洗浄後、500mLの飽和食塩水で3回洗浄して中性とする。有機層を乾燥剤で乾燥した後濃縮すると、58gの燈黄色油状物が得られる。
【0017】
これを減圧下(3mmHg)に蒸留して、137℃から143℃の溜分として36.9gの結晶物を得た。この結晶物はガスクロマトグラムによる純度測定により94.4%の面積百分率を示すとともに、GC−MS測定結果から、得られた結晶の主成分がビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)の文献値(非特許文献1)によく一致することを確認した。また、ここで得られた主成分以外のガスクロマトグラムピークには、カルボニル基だけへのイリドの付加生成物は見当たらなかった。
【0018】
GC−MS;m/z(相対値)236(5)、125(9)、109(18)、97(28)、72(95)、41(100)。
更に、これをトルエン溶媒によるシリカゲル−カラムクロマトで精製し、ガスクロマトグラムによる純度測定で99%の白色結晶29.9gを得た後、その結晶のNMR、IR測定を行いビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)であることを確認した。
H NMR(CDCl);δ 0.66−0.92(3,m)、1.07−1.62(20,m)、1.68−1.77(1,m)、1.79−2.01(2,m)、2.36−2.71(2,m)。
IR(CHCl);cm−12928、2860、1698、756。
【0019】
表1に示した基本組成を有するミュゲタイプ香料を処方し(対照区)、これに上に得られたビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)を0.1部(試料A)、1部(試料B)、10部(試料C)夫々添加混合して、常法通り室内芳香剤用組成物を調製した。これらを専門パネラー10名に官能評価をさせ、得られた総合評価結果を表2に示した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
実施例2
表3に示した基本組成を有するムスクローズ香料を処方し(対照区)、これにビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)を0.1部(試料A)、10部(試料B)、100部(試料C)夫々添加混合して、ムスク調香料用ベースを調製した。これらを専門パネラー10名に官能評価をさせ、得られた総合評価結果を表4に示した。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
実施例3
表5に示した基本組成を有するグリーンフローラル香料を処方し(対照区)、これにビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オン(1)を50部添加混合して、シャンプー用香料組成物を調製した。
このものの香りは、対照のものに比べて自然でしっかりしたグリーンな感じが強調された。
【0026】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒に懸濁又は溶解したカリウムターシャリーブトキサイド又はソディウムメトキサイド塩基にトリメチルスルフォキソニウムブロマイドを加えた反応混合物に2−シクロペンタデセン−1−オンを加えて反応させることを特徴とする化1
【化1】

で示されるビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの製造方法。
【請求項2】
2−シクロペンタデセン−1−オンが2(3)−シクロペンタデセン−1−オンである請求項1に記載のビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンの製造方法。
【請求項3】
ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを賦香成分として含有する香料組成物。
【請求項4】
ビシクロ[13.1.0]ヘキサデカ−2−オンを0.1〜100重量%含有する香料組成物を含有させることにより、フレーグランス製品の基礎香料の香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを付与することを特徴とするフレーグランス製品の芳香を改良又は増強する方法。

【公開番号】特開2006−265171(P2006−265171A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85365(P2005−85365)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000241278)豊玉香料株式会社 (6)
【Fターム(参考)】