説明

駆動伝達機構及び液体噴射装置と記録装置

【課題】動作用のカムの回転中に発生する当該回転を促進するトルクを抑制することができる多用途であって簡易な構成の駆動伝達機構及びその駆動伝達機構を備えた液体噴射装置と記録装置を提供することにある。
【解決手段】主動作カム21と同軸で回転可能であって、所定カム位置にて軸直交方向に変位可能な補助動作カム22を設ける。これにより、補助動作カムが主動作カムの任意の回転位置にて主動作カムに代わって回転することができるので、主動作カムの回転中に発生する当該回転を促進するトルクを抑制することができる。そして、補助動作カムのみを追加すれば良いので、簡易な構成とすることができ、大きな設置スペースも必要無いので、用途も限定されることは無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムと遊星機構を含む輪列を有する駆動伝達機構及びその駆動伝達機構を備えた液体噴射装置と記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源であるモータの駆動を伝達する機構として、カムと遊星歯車を含む輪列を備えたものがある。この駆動伝達機構の動作用のカムが所謂外縁カムである場合、そのカム面に沿ってカムフォロアが摺動しているため、外縁カムの山部高さが急変する部分で、カムフォロアにより外縁カムの回転を促進する方向のトルクが作用する場合がある。そして、このような外縁カムの回転を促進する方向のトルクが作用すると、外縁カムから遊星歯車までの輪列が先行して回され、その結果、遊星歯車において歯飛び現象が発生する場合がある。このような場合、外縁カムの位相管理が常に行われていれば問題は生じないが、原点からのモータステップ数で管理しているときは、歯飛びにより正確な動力伝達が行われず、狙いの位相に停止させることができなくなる。そこで、カムの回転中に発生するトルク変動を抑制できる駆動伝達装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−148592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した駆動伝達装置では、装置構成が大掛かりになり、用途が限られる。そこで、カム軸に側圧を掛けて歯飛びを防止することが考えられるが、モータへの負荷増大に繋がるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、動作用のカムの回転中に発生する当該回転を促進するトルクを抑制することができる多用途であって簡易な構成の駆動伝達機構及びその駆動伝達機構を備えた液体噴射装置と記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明の駆動伝達機構では、カムと遊星機構を含む輪列を有する駆動伝達機構において、主動作カムと同軸で回転可能であって、所定カム位置にて軸直交方向に変位可能な補助動作カムを設けることを特徴としている。これにより、補助動作カムが主動作カムの任意の回転位置にて主動作カムに代わって回転することができるので、主動作カムの回転中に発生する当該回転を促進するトルクを抑制することができる。そして、補助動作カムのみを追加すれば良いので、簡易な構成とすることができ、大きな設置スペースも必要無いので、用途も限定されることは無い。
【0007】
また、前記補助動作カムは、前記主動作カムの安定位置間の急変位部を回避し、前記主動作カムの次の安定位置に引き継ぐように形成されていることを特徴としている。これにより、特に主動作カムの回転を促進するトルクが発生し易い回転位置で補助動作カムを作用させることができる。また、前記補助動作カムは、軸直交方向に配置された付勢手段を有することを特徴としている。これにより、補助動作カムと主動作カムの間の回転の引継ぎをスムーズに行うことができる。
【0008】
上記目的達成のため、本発明の液体噴射装置では、噴射ヘッドから被噴射媒体に液体を噴射する液体噴射装置であって、上記各駆動伝達機構を前記噴射ヘッドと前記被噴射媒体とのギャップ自動調節手段に備えたことを特徴としている。また、本発明の記録装置では、記録ヘッドにより被記録媒体に記録する記録装置であって、上記各駆動伝達機構を前記記録ヘッドと前記被記録媒体とのギャップ自動調節手段に備えたことを特徴としている。これにより、上記各作用効果を奏する液体噴射装置又は記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1及び図2は、本発明の一実施の形態に係る記録装置の1つであるインクジェット式プリンタの外観構成の全体を斜め前方及び後方から見た斜視図、図3は、その内部構成の概略を示す斜視図、図4は、その内部構成の概略を示す断面側面図である。このインクジェット式プリンタ100は、例えばL判/2L判、ハガキ、JIS規格のA4判、A3判ノビ、A2判等のサイズの単票紙(以下、単に用紙(被噴射媒体、被記録媒体)という)にインク(液体)により記録することができる機能を備えている。
【0011】
このインクジェット式プリンタ100は、図1及び図2に示すように、全体が略直方体状のハウジング101で覆われている。そして、ハウジング101の図1に示す上面右前側には操作部110が配設され、図1に示す上面左前側にはカートリッジ収納部120が配設されている。更に、図1に示す上面後側には第1リア給紙部130が配設され、図2に示す背面側には第2リア給紙部140が配設されている。そして、図1に示す前面側には排紙部150とフロント給紙部160が配設され、図1に示す前面右側には廃インク回収部170が配設されている。また、このインクジェット式プリンタ100の内部には、図3及び図4に示す用紙搬送部180、図2及び図4に示す制御部190と、図3及び図4に示す本発明の特徴的な部分を含む記録部200が配設されている。
【0012】
そして、図1及び図2に示すように、ハウジング101の上面における操作部110及びカートリッジ収納部120と第1リア給紙部130との間には、矩形状の開口部102が形成されている。この開口部102は、略矩形平板状のプリンタカバー210によって覆われている。プリンタカバー210は、後端の回動軸を中心に図示矢印a方向に回動可能に取り付けられている。ユーザは、プリンタカバー210を持ち上げて開口部102を開放することにより、開口部102を通して用紙搬送部180や記録部200等の内部機構のメンテナンス作業等を簡易に行うことができる。
【0013】
操作部110は、図1及び図2に示すように、略矩形状の操作パネル111を備え、この操作パネル111の略中央部に操作状態等を表示する液晶パネル112が配設され、この液晶パネル112の両側にパワーをオン・オフするパワー系、用紙の頭出し等を操作したりインクのフラッシング等を操作する操作系、画像処理等を行う処理系等のボタン113が配設されている。ユーザは、液晶パネル112を見て確認しながらボタン113を操作することができるので、誤操作を防止することができる。
【0014】
カートリッジ収納部120は、図1及び図2に示すように、印刷用の各色(本例では9色)のインクを貯留している図3及び図4に示すインクカートリッジ121が抜き差し可能に収納されている。このカートリッジ収納部120は、断面がL字状のカートリッジカバー122によって覆われている。カートリッジカバー122は、後端の回動軸を中心に図示矢印b方向に回動可能に取り付けられている。ユーザは、カートリッジカバー122を持ち上げてカートリッジ収納部120を開放することにより、インクカートリッジ121を簡易に交換等することができるので、作業効率を向上させることができる。
【0015】
第1リア給紙部130は、自動給紙(ASF)用であり、図1及び図2に示すように、上方に向かって矩形状に開口した第1給紙口131を開閉する機能と、給紙する用紙を1枚もしくは複数枚サポートする機能を併せ持った4段構造の第1ペーパーサポート132を備えている。この第1ペーパーサポート132は、後端の回動軸を中心に図示矢印c方向に回動可能に取り付けられている。
【0016】
ユーザは、インクジェット式プリンタ100の使用前においては、第1ペーパーサポート132の図示手前中央に設けられた穴132aに指を掛けて第1ペーパーサポート132を持ち上げて多段部分を引き出すことによりセッティングが完了するので、着脱式のペーパーサポートの場合に必要な保管や管理等が不要となる。更に、多段構造の第1ペーパーサポート132であるので、種々のサイズの給紙する用紙を確実にサポートすることができる。また、インクジェット式プリンタ100の使用後においては、第1ペーパーサポート132を多段部分を押し込んで閉じることにより第1給紙口131を塞ぐことができるので、プリンタ本体内への埃の侵入を防止することができると共に、第1ペーパーサポート132をコンパクトに格納しておくことができる。
【0017】
第2リア給紙部140は、手差し給紙用であり、図2に示すように、後方に向かって矩形状に開口した第2給紙口141を開閉する機能と、給紙する用紙を1枚サポートする機能を併せ持った2段構造の第2ペーパーサポート142を備えている。この第2ペーパーサポート142は、下端の回動軸を中心に図示矢印d方向に回動可能に取り付けられている。この第2リア給紙部140で給紙される用紙は、比較的薄手の例えば普通紙等が使用される。
【0018】
ユーザは、インクジェット式プリンタ100の使用前においては、第2ペーパーサポート142の図示上部に指を掛けて第2ペーパーサポート142を押し下げて多段部分を引き出すことによりセッティングが完了するので、着脱式のペーパーサポートの場合に必要な保管や管理等が不要となる。更に、多段構造の第2ペーパーサポート142であるので、種々のサイズの給紙する用紙を確実にサポートすることができる。また、インクジェット式プリンタ100の使用後においては、第2ペーパーサポート142を多段部分を押し込んで閉じることにより第2給紙口141を塞ぐことができるので、プリンタ本体内への埃の侵入を防止することができると共に、第2ペーパーサポート142をコンパクトに格納しておくことができる。
【0019】
排紙部150は、図1に示すように、前方に向かって矩形状に開口した排紙口151を開閉する機能と、排紙される用紙を1枚もしくは複数枚スタックする機能を併せ持った図3に示す第1スタッカ51と第2スタッカ52の2段構造のスタッカ152を備えている。第1スタッカ51は、第2スタッカ52の先端側で回動軸を中心に図示矢印e方向に回動可能に取り付けられている。第2スタッカ52は、排紙口151に対して斜め上下に平行移動して突出・格納可能なように取り付けられている。
【0020】
ユーザは、インクジェット式プリンタ100の使用前においては、第1スタッカ51の上部に指を掛け第1スタッカ51を手前に回動させて排紙口151を開け、第1スタッカ51の先端を指で摘んで引き出し第2スタッカ52を斜め上方へ平行移動させて突出させることによりセッティングが完了するので、着脱式のスタッカの場合に必要な保管や管理等が不要となる。更に、多段構造のスタッカ152であるので、種々のサイズの排紙される用紙を確実に積層載置することができ、また、記録後の用紙は常に前面側から排紙されるので、ユーザは用紙を容易に取り出すことができる。また、インクジェット式プリンタ100の使用後においては、第1スタッカ51の先端を手で押し込むことにより第2スタッカ52を斜め下方へ平行移動させて格納すると共に、第1スタッカ51に手を添えて第1スタッカ51を後方へ回動させて排紙口151を塞ぐことができるので、プリンタ本体内への埃の侵入を防止することができると共に、スタッカ152をコンパクトに格納しておくことができる。
【0021】
フロント給紙部160は、手差し給紙用であり、図3に示すように、排紙口151におけるスタッカ152の上方に配設された給紙トレイ161を備えている。この給紙トレイ161は、排紙口151に対して水平に移動可能に設けられている。このフロント給紙部160で給紙される用紙は、搬送時に折り曲げることが不可能な比較的厚手の例えばマット紙等が使用される。
【0022】
ユーザは、インクジェット式プリンタ100の使用前においては、給紙トレイ161の先端を軽く押し込むことにより、給紙トレイ161のストッパが外れて給紙トレイ161が排紙口151から突出する。また、インクジェット式プリンタ100の使用後においては、給紙トレイ161の先端を軽く押し込むことにより、給紙トレイ161のストッパが掛かって給紙トレイ161が排紙口151内に格納される。従って、給紙トレイ161の配設スペース効率を高めることができる。
【0023】
廃インク回収部170は、図1〜図3に示すように、廃インク等を貯留する廃インクタンク171が抜き差し可能に収納されている。この廃インクタンク171は、記録ヘッド202のクリーニング処理時やインクカートリッジの交換時に廃棄される廃インク等を貯留する。ユーザは、廃インクタンク171に廃インク等が一杯に溜まったときは、その廃インクタンク171を引き出して新しい廃インクタンク171を差し込むのみで良いので、廃インクタンク171の交換作業を簡易に行うことができる。
【0024】
用紙搬送部180は、図3及び図4に示すように、第1リア給紙部130及び第2リア給紙部140から排紙部150に掛けて配設されており、自動給紙機構181、搬送機構182、排紙機構183を備えている。自動給紙機構181は、図4に示すように、第1ペーパーサポート132にサポートされている用紙を給送するために持ち上げるホッパ81、このホッパ81により持ち上げられた用紙を取り出す給紙ローラ82、この給紙ローラ82により重送された用紙を1枚のみに分離するリタードローラ83、このリタードローラ83により分離された残りの用紙をホッパ81へ戻す紙戻しレバー84等を備えている。
【0025】
ホッパ81は、用紙が載置可能な平板状に形成されて後壁と略平行に配設されており、下端が給紙ローラ82の近傍に位置し、上端が後壁頂部に近接して位置するように配設されている。そして、ホッパ81は、後壁に一端が取り付けられた図示しない圧縮バネの他端が下端側の裏面に取り付けられており、この圧縮バネの伸縮により上端側を中心に下端側が旋回するように配設されている。
【0026】
給紙ローラ82は、断面の一部が切り欠かれたD字状に形成されてホッパ81の下端近傍に配設されており、間欠的に回転してホッパ81により持ち上げられた用紙を摩擦給送するようになっている。リタードローラ83は、給紙ローラ82と当接可能に配設されており、給紙ローラ82により用紙が重送されたときに最上層の用紙のみを下層の用紙から摩擦分離するようになっている。紙戻しレバー84は、爪状に形成されて給紙ローラ82の近傍に配設されており、リタードローラ83により分離された下層の用紙を爪に掛けてホッパ81へ戻すようになっている。
【0027】
搬送機構182は、図4に示すように、記録動作に同期して副走査方向に用紙を送る紙送りローラ85とその従動ローラ86等が配設されている。紙送りローラ85は、プラテン203の搬送上流側に配設されており、給紙ローラ82により給送される用紙を従動ローラ86と共に挟持してプラテン203へ送り出すようになっている。
【0028】
排紙機構183は、図4に示すように、排紙ローラ87と第1ギザローラ88a及び第2ギザローラ88b等を備えている。第1ギザローラ88aは、プラテン203の搬送下流側に配設され、第2ギザローラ88bと排紙ローラ87は、第1ギザローラ88aの搬送下流側に対向配設されており、プラテン203を通過してくる用紙を先ず第1ギザローラ88aで排送し、続いて第2ギザローラ88bと排紙ローラ87で挟持してスタッカ152上へ排紙するようになっている。尚、第1ギザローラ88a及び第2ギザローラ88bは、図示しない同一の保持部材により保持されている。
【0029】
制御部190は、図4に示すように、プリンタコントローラを構成するメイン基板191を備えている。このメイン基板191は、図示しないCPU、ROM、RAM、ASIC等の制御素子や記憶素子、及びその他の各種回路素子が装着されている。そして、プリントエンジンを構成する用紙搬送部180や記録部200等を制御するようになっている。
【0030】
記録部(液体噴射装置)200には、図4に示すように、本発明の特徴的な部分を含む記録動作に同期して主走査方向に移動するキャリッジ201と、記録動作に同期してインクを吐出する記録ヘッド(噴射ヘッド)202、記録時の用紙を平坦に保持するプラテン203、キャリッジ201の移動を案内するキャリッジガイド軸204等が配設されている。キャリッジ201は、図3に示すように、プラテン203の上方でキャリッジガイド軸204に貫装されてキャリッジベルト205に連結されており、図示しないキャリッジモータによってキャリッジベルト205が作動すると、キャリッジベルト205の動きに連行され、キャリッジガイド軸204に案内されて往復移動するようになっている。
【0031】
記録ヘッド202は、図4に示すように、プラテン203と所定の間隔が空くようにしてキャリッジ201に搭載されており、2種類のブラック、例えばフォトブラックとマットブラックのインクと、イエロー、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ、グレー、レッドの7色のインクをそれぞれ吐出することができる。即ち、記録ヘッド202は、圧力発生室とそれに繋がるノズル開口がノズルプレートに設けられており、圧力発生室内にインクを貯留して所定圧で加圧することにより、ノズル開口から用紙に向けてコントロールされた大きさのインク滴を吐出するようになっている。
【0032】
プラテン203は、矩形平板状に形成され、紙送りローラ85と排紙ローラ87の間であって記録ヘッド202と対向するように配設されており、搬送されてくる用紙を面支持するようになっている。次に、本発明の特徴的な部分を含むキャリッジ201の詳細について、更に図を参照して説明する。
【0033】
図5は、上記キャリッジ201の詳細を前面側から見た斜視図である。このキャリッジ201は、メインキャリッジ11とサブキャリッジ12の2体構造で構成されている。メインキャリッジ11は、主走査方向に往復移動可能にキャリッジガイド軸204に軸支されている。サブキャリッジ12は、底面側に記録ヘッド202が搭載され、メインキャリッジ11の前面側にて記録ヘッド202のインク吐出面に対して垂直方向に移動可能に取り付けられている。
【0034】
このように、サブキャリッジ12をメインキャリッジ11に対して相対移動させることにより、記録ヘッド202のインク吐出面とプラテン203の用紙搬送面とのギャップを容易にかつ精度良く調節することができる。このギャップ自動調節手段(駆動伝達機構)70は、ギャップ調節用軸71、ギャップ調節用カム(カム)72、ギャップ調節用バネ73、ギャップ調節用当接板74、ギャップ調節用駆動歯車75、ギャップ調節用歯車機構(輪列)76、ギャップ調節用駆動モータ77等を備えている。
【0035】
ギャップ調節用軸71は、軸方向が主走査方向に向いてメインキャリッジ11の前面側の上部両側に設けられている2つの軸受13間に回転自在に貫装されている。ギャップ調節用カム72は、ギャップ調節用軸71の両側にギャップ調節用軸71と共に回転自在にそれぞれ嵌入されている。ギャップ調節用バネ73は、引張コイルバネであり、一端がメインキャリッジ11の前面側の下部両側に係止され、他端がサブキャリッジ12の後面側の上部両側に係止されている。
【0036】
ギャップ調節用当接板74は、サブキャリッジ12の後面側の上部にて各ギャップ調節用カム72と上方から当接するようにサブキャリッジ12と一体的に配設されている。ギャップ調節用駆動歯車75は、軸受13から外側に突出したギャップ調節用軸71の一端にギャップ調節用軸71と共に回転自在に嵌入されている。そして、このギャップ調節用駆動歯車75は、ギャップ調節用歯車機構76と噛み合って駆動されるようになっている。
【0037】
ギャップ調節用歯車機構76及びギャップ調節用駆動モータ77は、プリンタ内部のサイドフレーム102に配設されている。ギャップ調節用歯車機構76は、モータ駆動軸77aに嵌入されている第1ギア76a、この第1ギア76aと噛合う2連の第2ギア76b、この第2ギア76bと噛合う2連の太陽ギア(遊星機構)76c、この太陽ギア76cと腕(遊星機構)76dを介して噛合い、またギャップ調節用駆動歯車75と噛合い/噛合い解除可能な遊星ギア(遊星機構)76eを備えている。
【0038】
図6及び図7は、上記ギャップ自動調節手段70の駆動伝達動作を示す図である。記録ヘッド202とプラテン203とのギャップを調節する場合、先ず、キャリッジ201がホームポジションへ移動する。このとき、図6に示すように、遊星ギア76eは下方に旋回移動しており、移動してくるギャップ調節用駆動歯車75と干渉しないようになっている。次に、図7に示す矢印方向へギャップ調節用駆動モータ77が駆動して第1ギア76aから第2ギア76bを介して太陽ギア76cを回転させる。これにより、腕76dと共に遊星ギア76eは上方に旋回移動してギャップ調節用駆動歯車75と噛合うので、ギャップ調節用駆動モータ77の駆動をギャップ調節用軸71に伝達することができる。
【0039】
そして、ギャップ調節用軸71と共にギャップ調節用カム72が回転し、ギャップ調節用カム72と当接しているギャップ調節用当接板74を、ギャップ調節用カム72の押圧力により上昇させ、もしくはギャップ調節用バネ73の復元力とサブキャリッジ12の重量により下降させて、記録ヘッド202とプラテン203とのギャップを調節する。その後、ギャップ調節用駆動モータ77が先程とは逆駆動して第1ギア76aから第2ギア76bを介して太陽ギア76cを逆回転させる。これにより、腕76dと共に遊星ギア76eは下方に旋回移動してギャップ調節用駆動歯車75から離間する。
【0040】
ここで、背景技術でも述べたように、ギャップ調節用カム72のカム面に沿ってギャップ調節用当接板74が摺動しているため、ギャップ調節用カム72の山部高さが急変する部分で、ギャップ調節用当接板74によりギャップ調節用カム72の回転を促進する方向のトルクが作用する場合がある。そして、このようなギャップ調節用カム72の回転を促進する方向のトルクが作用すると、ギャップ調節用駆動歯車75が先行して回され、その結果、遊星ギア76eにおいて歯飛び現象が発生する場合がある。そこで、本実施形態のギャップ調節用カム72は、歯飛び現象を防止するため、以下のような構造となっている。
【0041】
図8(A)、(B)は、上記ギャップ調節用カム72を左右前面からそれぞれ見たときの斜視図である。このギャップ調節用カム72は、主なギャップ調節動作を案内する主動作カム21と、この主動作カム21の案内を補助する補助動作カム22を備えている。この補助動作カム22は、ギャップ調節用軸71に挿入されて主動作カム21と接するように配置されている。
【0042】
主動作カム21は、ギャップ調節用軸71の軸径と略同一の軸穴が穿設されており、ギャップ調節用軸71に対して嵌合されて、ギャップ調節用軸71と共に回転する。補助動作カム22は、ギャップ調節用軸71の軸径と略同一の幅を有する長穴22aが穿設されており、ギャップ調節用軸71に対して挿入されている。そして、長穴22a内には圧縮コイルバネ(付勢手段)23が挿入されており、その一端は長穴22aの一端側内壁に当接し、他端はギャップ調節用軸71の周面に当接している。
【0043】
これにより、補助動作カム22は、圧縮コイルバネ23の復元力により長穴22aの他端側内壁がギャップ調節用軸71の周面に押し付けられるので、ギャップ調節用軸71と共に回転する。また、補助動作カム22の周面に掛かる径方向の外力又は圧縮コイルバネ23の復元力により長穴22aの一端側内壁が押圧されるので、ギャップ調節用軸71に対し径方向に往復移動する。
【0044】
主動作カム21の周面は、1周の間に軸心からの距離が一定となる領域(安定位置)が段階的に複数個設けられている。補助動作カム22の周面は、主動作カム21の最終段(軸心からの距離が最大の安定位置)から初段(軸心からの距離が最小の安定位置)への位相(急変位部)において、主動作カム21の最終段と同一の半径で形成されている。このようなギャップ調節用カム72の動作状態を図を参照して説明する。
【0045】
図9(A)、(B)及び図11(A)、(B)は、ギャップ調節用カム72の動作状態を右前面から見た斜視図、図10及び図12は、記録ヘッド202とプラテン203とのギャップ調節状態を示す側面図である。先ず、図8(B)から図9(A)にかけては、補助動作カム22は関与しておらず、主動作カム21のみがギャップ調節用当接板74に当接してギャップ調節用当接板74を徐々に押し上げる。そして、図9(A)から図9(B)にかけても、補助動作カム22は関与しておらず、主動作カム21のみがギャップ調節用当接板74に当接して、ギャップ調節用当接板74を主動作カム21の最終段である最高位置まで徐々に押し上げる。この最高位置においては、図10に示すように、記録ヘッド202とプラテン203とのギャップGは最大となっている。
【0046】
次に、図9(B)から図11(A)にかけては、主動作カム21から補助動作カム22に移行して、補助動作カム22のみがギャップ調節用当接板74に当接する。このとき、圧縮コイルバネ23の弾性力はギャップ調節用バネ73の弾性力とサブキャリッジ12の重量の和よりも小さくなるように設定されているので、補助動作カム22は、ギャップ調節用当接板74により徐々に押し下げられる。
【0047】
そして、図11(A)から図11(B)にかけては、当初は補助動作カム22のみがギャップ調節用当接板74により徐々に押し下げられているが、最終的にはギャップ調節用当接板74が主動作カム21に当接して、ギャップ調節用当接板74は主動作カム21の初段である最低位置に押し下げられる。この最低位置においては、図12に示すように、記録ヘッド202とプラテン203とのギャップGは最小となっている。さらに回転を続けると、ギャップ調整用バネ73の弾性力により、補助動作カム21は元の位置に戻される。以上のように、主動作カム21の最終段から初段への位相(急変位部)においては補助動作カム22が補助するので、ギャップ調節用カム72の回転を促進する方向のトルク変動を防止することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態のギャップ自動調節手段70によれば、主動作カム21と同軸で回転可能であって、所定カム位置にて軸直交方向に変位可能な補助動作カム22を設けているので、補助動作カム22が主動作カム21の任意の回転位置にて主動作カム21に代わって回転することができ、主動作カム21の回転中に発生する当該回転を促進するトルクを抑制することができる。そして、補助動作カム22のみを追加すれば良いので、簡易な構成とすることができ、大きな設置スペースも必要無いので、用途も限定されることは無い。更に、コスト面でのアップも殆ど無い。
【0049】
また、補助動作カム22は、主動作カム21の安定位置間の急変位部を回避し、主動作カム21の次の安定位置に引き継ぐように形成されているので、特に主動作カム21の回転を促進するトルクが発生し易い回転位置で補助動作カム22を作用させることができる。また、補助動作カム22は、軸直交方向に配置された圧縮コイルバネ23を有しているので、補助動作カム22と主動作カム21の間の回転の引継ぎをスムーズに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
カムと遊星機構を含む輪列を有する駆動伝達機構であれば、ギャップ自動調節手段に限られず適用することができる。また、記録装置としてインクジェット式プリンタを例に説明したが、記録装置であれば、例えばファクシミリ装置、コピー装置等であっても適用可能である。また、記録装置に限らず、インクに代えてその用途に対応する液体を液体噴射ヘッドから被噴射媒体に噴射して液体を被噴射媒体に付着させる液体噴射装置の意味として、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料噴射ヘッド等を備えた装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係る記録装置の1つであるインクジェット式プリンタの外観構成の全体を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】図1のプリンタの外観構成の全体を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】図1のプリンタの内部構成の概略を示す斜視図である。
【図4】図1のプリンタの内部構成の概略を示す断面側面図である。
【図5】図1のプリンタのキャリッジの詳細を前面側から見た斜視図である。
【図6】図5のギャップ自動調節手段の駆動伝達動作を示す第1の図である。
【図7】図5のギャップ自動調節手段の駆動伝達動作を示す第2の図である。
【図8】図5のギャップ調節用カムを左右前面からそれぞれ見たときの斜視図である。
【図9】図5のギャップ調節用カムの動作状態を右前面から見た第1の斜視図である。
【図10】図1のプリンタの記録ヘッドとプラテンとのギャップ調節状態を示す第1の側面図である。
【図11】図5のギャップ調節用カムの動作状態を右前面から見た第2の斜視図である。
【図12】図1のプリンタの記録ヘッドとプラテンとのギャップ調節状態を示す第2の側面図である。
【符号の説明】
【0052】
11 メインキャリッジ、12 サブキャリッジ、21 主動作カム、22 補助動作カム、23 圧縮コイルバネ、70 ギャップ自動調節手段、71 ギャップ調節用軸、72 ギャップ調節用カム、73 ギャップ調節用バネ、74 ギャップ調節用当接板、75 ギャップ調節用駆動歯車、76 ギャップ調節用歯車機構、76c 太陽ギア、76d 腕、76e 遊星ギア、77 ギャップ調節用駆動モータ、100 インクジェット式プリンタ、101 ハウジング、102 サイドフレーム、110 操作部、120 カートリッジ収納部、130 第1リア給紙部、140 第2リア給紙部、150 排紙部、160 フロント給紙部、170 廃インク回収部、180 用紙搬送部、190 制御部、200 記録部、201 キャリッジ、202 記録ヘッド、203 プラテン、210 プリンタカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムと遊星機構を含む輪列を有する駆動伝達機構において、
主動作カムと同軸で回転可能であって、所定カム位置にて軸直交方向に変位可能な補助動作カムを設けることを特徴とする駆動伝達機構。
【請求項2】
前記補助動作カムは、前記主動作カムの安定位置間の急変位部を回避し、前記主動作カムの次の安定位置に引き継ぐように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動伝達機構。
【請求項3】
前記補助動作カムは、軸直交方向に配置された付勢手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動伝達機構。
【請求項4】
噴射ヘッドから被噴射媒体に液体を噴射する液体噴射装置であって、
請求項1〜3の何れか一項に記載の駆動伝達機構を前記噴射ヘッドと前記被噴射媒体とのギャップ自動調節手段に備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
記録ヘッドにより被記録媒体に記録する記録装置であって、
請求項1〜3の何れか一項に記載の駆動伝達機構を前記記録ヘッドと前記被記録媒体とのギャップ自動調節手段に備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−118223(P2007−118223A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309848(P2005−309848)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】