説明

駆動制御装置、画像形成装置、駆動制御方法及びプログラム

【課題】起動時において、機構のバックラッシュ等のギヤの噛合いで生じる衝撃によってエンコーダ等の検出系が加振され、機構の速度や位置が誤検出された場合であっても、フィードバック制御系が安定となるような駆動制御装置、画像形成装置、駆動制御方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】電動機と、前記電動機の出力を伝達する伝達機構部と、前記伝達機構部に連結することで前記電動機の出力により駆動される従動機構部と、前記電動機、前記伝達機構部又は前記従動機構部のいずれか1つの速度又は位置を検出する検出部と、前記検出部の出力値と目標値との偏差の値に基づき、補償器を用いて所定の演算を行う補償器演算部と、前記補償器演算部の結果に基づいて前記電動機を駆動させる電動機駆動部と、を有する駆動制御装置であって、前記補償器演算部に入力する前記偏差の値に制限をかける偏差制限部を有する駆動制御装置によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の駆動を制御する駆動制御技術に関し、特に、着脱可能に設置されたユニットを駆動させる電動機の加速領域での駆動を安定化させる駆動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ、複写機といった電子写真方式を用いた画像形成装置では、光書き込みによって静電潜像を感光体上に形成し、当該静電潜像にトナーを付着させて顕像化を行う。その後、感光体上に形成されたトナー画像は用紙に転写され、熱及び圧力を加えられることで用紙上に印刷画像が形成される。
【0003】
また、フルカラーの画像形成装置では、中間転写体上に異なる色の複数のトナー画像を重ねて転写(一次転写)した後、中間転写体上のトナー像を用紙に転写(二次転写)するプロセスを経て最終的なフルカラー画像を形成する方式がある。
【0004】
画像形成装置に設けられた一次転写や二次転写、定着といったプロセスを実行する各ユニットはメンテナンス等のために脱着可能に設けられるのが一般的である。これらの脱着機構には、ギヤやカップリングの噛合いによるバックラッシュ等の大きなガタがあり、ユニット自体には剛性の低いシャフトやブレードが使用されていることによるバネ成分や摩擦成分といった変動成分を有している。
【0005】
そのため、各ユニットをメンテナンス等のために脱着させると、各部位の応力が一旦開放状態になったことや、ギヤ等の噛合わせによってユニットの駆動方向に対するガタが大きな状態になる場合がある。この様な状態でユニットを駆動させると、ギヤやカップリング等が噛合う衝撃等によって、各ユニットの速度等を検出するエンコーダが異常速度を検知してしまうことがある。
【0006】
エンコーダを使用した駆動装置のフィードバック制御系に上記した変動成分等の非線形要素を原因とする異常速度等が発生すると、場合によっては制御が振動的になり、不安定化してしまう可能性がある。画像形成装置によっては、例えば各ユニットが規定時間内に所定速度で駆動されない場合には、装置異常と判定されてエラー表示されるという問題が生じることもある。
【0007】
ユニットの脱着後であっても、一度起動されればギヤが一方向に当たることでバックラッシュが低減し、各部位のねじれ等が定常状態になる。そこで、モータ起動時のみフィードバック(閉ループ)による制御をせず、フィードフォワード(開ループ)による制御によって駆動制御装置を安定化させることも考えられる。
【0008】
しかしながら、この場合にはフィードバックによる補償をしていないため負荷の状態によっては立上げ時間に大きなばらつきが出てしまったり、フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り替えるときの過渡応答がスムーズでなくなる(非連続的になる)等の問題がある。
【0009】
そこで、例えば特許文献1には、電動機に連結された制御対象の剛性が低いことを原因とする振動の発生を防止するために、電動機へのトルク指令値に対して振動を励起する周波数の利得を下げる特性と、励起周波数よりも高域周波数の利得を抑える特性と、を併せ持つフィルタリングを行う電動機の制御方法が開示されている。
【0010】
上記の制御方法によれば、電動機へのトルク指令値が過大な値になることを自動的に防止できるため、制御対象の特性等によらず、常に自動的に電動機及び制御対象の振動を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に係る方法によれば、制御対象の剛性が低いことを原因とする機械共振の防止には有効であるが、バックラッシュ等の非線形要素によって電動機の駆動を検知するエンコーダ等が誤検知すると、制御が不安定化してしまう場合があった。
【0012】
そこで本発明では、電動機の起動時において、機構のバックラッシュ等のギヤの噛合いで生じる衝撃によってエンコーダ等の検出系が加振され、機構の速度や位置が誤検出された場合であっても、フィードバック制御系が安定となるような駆動制御装置、画像形成装置、駆動制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、電動機と、前記電動機の出力を伝達する伝達機構部と、前記伝達機構部に連結することで前記電動機の出力により駆動される従動機構部と、前記電動機、前記伝達機構部又は前記従動機構部のいずれか1つの速度又は位置を検出する検出部と、前記検出部の出力値と目標値との偏差の値に基づき、補償器を用いて所定の演算を行う補償器演算部と、前記補償器演算部の結果に基づいて前記電動機を駆動させる電動機駆動部と、を有する駆動制御装置であって、前記補償器演算部に入力する前記偏差の値に制限をかける偏差制限部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、駆動機構の制御が不安定化するような、例えばギヤやカップリングの噛合わせによるバックラッシュや、着脱するユニットのシャフトやブレードの捩れ等による変動成分といった非線形要素を有する駆動制御装置であっても、短時間で高精度に加速させて定常状態の速度に到達させることができる。
【0015】
特に、上記の非線形要素が原因となってエンコーダ等の検出系が駆動速度等を誤検知した場合であっても、駆動開始から定常状態に至るまでの起動時間がばらつくことがなく、また、制御が振動的になることがない、安定的な駆動制御による立上げを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る画像形成装置の概略を示す図
【図2】実施形態に係る二次転写部及び中間転写ベルトクリーニング部の構成を示す図
【図3】実施形態に係る二次転写ローラ及び中間転写ベルトクリーニングローラの駆動機構の概略を示す図
【図4】実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御系の構成例を示す図
【図5】駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図を示す図
【図6】第1の実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図を示す図
【図7】第3の実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図を示す図
【図8】実施形態に係る補償器のフィルタ演算を説明する図
【図9】第2の実施形態に係る積分ゲインの制御例を示す図
【図10】駆動制御装置の駆動制御結果の例を示す図
【図11】非線形要素により駆動制御が不安定化した例を示す図
【図12】第1の実施形態に係る駆動制御装置の駆動制御結果の例を示す図
【図13】第1の実施形態に係る偏差制限部の処理例を示すフローチャート
【図14】第2の実施形態に係る補償器演算部の処理例を示すフローチャート
【図15】第3の実施形態に係る加速判定部の処理例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下「実施形態」という)について、図面を用いて詳細に説明する。
<画像形成装置の概要>
図1に、本実施形態に係るカラー画像形成装置100の構成を示す。
【0018】
画像形成装置100は、感光体40、感光体40を帯電させる帯電装置18、帯電された感光体40上に形成された静電潜像にトナーを付着させる現像装置61等を含む現像部を、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、黒(K)の各色ごとに複数有する、いわゆるタンデム方式の画像形成装置である。
【0019】
各色の現像部の感光体40に形成されたトナー画像は、中間転写ベルト10に一次転写されて色重ねされ、二次転写ローラ23及び対向ローラ24の間を用紙Pが搬送される間にバイアスを印加されることによって用紙P上に二次転写される。
【0020】
カラートナー画像を乗せた用紙Pは、さらに搬送されて定着装置25を通過する際に熱と圧力を加えられて用紙P上にトナー画像が定着され、機外に排出される。
<二次転写部及び中間転写ベルトクリーニングの概要>
図2に、本実施形態に係る二次転写部及び中間転写ベルトクリーニング部の構成例を示す。
【0021】
二次転写部は、二次転写ローラ23と二次転写対向ローラ24とで構成される。2つのローラ23,24の間を用紙Pが搬送されて通過する際に、圧力及び電位差を与えることで、中間転写ベルト10上のトナー画像101が用紙Pに転写される。
【0022】
二次転写部において、用紙Pは二次転写ローラ23と中間転写ベルト10との間で挟持搬送される。そのため、二次転写ローラ23の回転速度は用紙Pの搬送速度に関わり、回転速度にばらつきが生じると、用紙Pの搬送速度にもばらつきが発生するため、結果として画像むらや画像倍率の変動といった問題が発生してしまう。従って、二次転写ローラ23の駆動制御は、画像品質を維持するためにも高精度に行う必要がある。
【0023】
二次転写ローラ23に付着したトナーは、クリーニングブレード111によって掻き取られて除去される。クリーニングブレード111はゴム等の弾性材料が用いられ、二次転写ローラ23に接触して設けられているため、二次転写ローラ23を脱着後に駆動開始する際には、駆動を不安定化させる要因になる場合がある。また、二次転写ローラ23のクリーニングは、付着トナーを除去できれば良く、クリーニングブラシ等を用いることもできる。
【0024】
二次転写部において用紙Pに転写されず、中間転写ベルト10上に残留したトナーは、クリーニングローラ22によって回収され、未転写トナーが除去された中間転写ベルト10は、次の画像形成に供される。
【0025】
中間転写ベルト10のクリーニングローラ22は、ゴムローラ、ブラシローラ及びスポンジローラ等で構成することができる。いずれの場合にも中間転写ベルト10に付着した転写残トナーを回収し、回収されたトナーは不図示の機構により廃トナーボトルまで搬送される。
<二次転写駆動機構の概略>
図3に、本実施形態に係る二次転写ローラ23及び中間転写ベルト10のクリーニングローラ22を含む駆動機構の概略を示す。
【0026】
電動機であるモータ110の駆動力は、伝達機構部107を介して、従動機構部である二次転写ローラ23及びクリーニングローラ22に伝達される。
【0027】
モータ110はDCブラシレスモータや、DCブラシ付モータでも良く、フィードバック制御が可能なモータであれば好適である。
【0028】
二次転写ローラ23及びクリーニングローラ22にはカップリング等の脱着機構106が設けられており、各ユニットのメンテナンス等のために脱着することが出来る様に構成されている。二次転写ローラ23とクリーニングブレード111を含むユニットと、クリーニングローラ22を有するユニットは、図中に点線102、103で示した部分で脱着可能に設けられている。
【0029】
二次転写ローラ23の回転速度は用紙Pの搬送速度に関与するため、画像品質に影響を及ぼす。そのため、検出部であるエンコーダ109を用いて位置又は速度に基づいてフィードバック制御を行い、駆動を高精度に制御している。
【0030】
本実施形態に係る画像形成装置100では、モータ110から伝達機構において一段減速後のギヤにエンコーダ109を設けている。検出部としてのエンコーダ109を設ける位置は、モータ110の軸や、従動機構部107である二次転写ローラ23及びクリーニングローラ22の軸等に設けることもできる。
【0031】
二次転写ローラ23等の各ユニットは、メンテナンス等のために脱着可能に設けられるため、駆動源となるモータ110、伝達機構部107及び駆動を検出するエンコーダ109とは切り離せる構造とするのが一般的である。
【0032】
エンコーダ109は、スリットが刻まれたコードホイール108と、スリットを光学的に読み取るエンコーダセンサ103とで構成される。本実施形態においては、光学式のエンコーダ109を用いたが、磁気式のエンコーダを用いることもできる。また、アナログ式やデジタル式を用いることもできる。さらに、レゾルバや位置ではなく速度として検出するタコジェネレータでも良い。
【0033】
エンコーダ109による実速度の検出は、エンコーダパルスの間隔を基準クロックで計測する周期カウント方式や、エンコーダパルスをアップダウンカウンタでカウントし、その差分から算出する方式、高い周波数のエンコーダパルスをローパスフィルタ等で平滑化する方法等、どの様な方法でも良い。
<フィードバック制御系について>
図5に、一般的に用いられている駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図の例を示す。ここでは、速度を制御する速度制御系の例を示す。
【0034】
目標速度と、エンコーダ109によって検出された実速度は、比較器201によって比較され、速度偏差が出力される。この速度偏差は補償器202で所定のフィルタ演算が行われ、電動機駆動部であるモータドライバ126にモータ電圧値又は電流値の指示を行う。
【0035】
モータ110はモータドライバ126によって駆動され、伝達機構部107及び二次転写ローラ23等の従動機構部203を駆動させる。駆動時の速度は、伝達機構部107に取り付けたエンコーダ109によって検出される。
【0036】
前記した補償器202のフィルタ演算は、比例+積分補償器(PIフィルタ)や、比例+積分+微分補償器(PIDフィルタ)や、位相補償器等の古典制御理論に基づいて行うことができる。また、状態フィードバック等の現代制御理論や、H∞等のロバスト制御理論に基づいても良く、どの様な形式の補償器でも用いることができる。
【0037】
図8に、一般的なPIフィルタを用いた場合の補償器のフィルタ演算を説明する図を示す。
【0038】
PIフィルタは、図8(a)及び(b)に示した様なブロック線図で表され、比例ゲインKp、積分ゲインKiもしくはKi´を調整することにより、制御系の応答特性を制御できる。
【0039】
モータドライバ126は、PWM入力、アナログ入力、数値入力のいずれでも良く、出力形式もPWM出力でもアナログ出力等でも良い。ここでは、電圧制御型のモータドライバ126として説明するが、電流制御型のモータドライバを用いることもできる。電流制御型の場合は、電流とモータトルクが比例することになる。
【0040】
また、位置制御フィードバック系の場合には、検出してフィードバックする値がエンコーダ109による位置を示す値となり、補償器202をそれに合わせる形に構成し、図5に示した制御系の外側に位置のフィードバックループが付くだけであり、基本的構成は同様である。
<駆動制御装置のフィードバック制御系の構成>
図4に、本実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御系の構成例を示す。
【0041】
CPU120は、シーケンス動作や各種フィルタ演算等を行い、各種CPU周辺器はバス129で接続されている。
【0042】
ROM121はCPU120における演算に使用するプログラムを格納している。
【0043】
RAM122はCPU120の外部記憶部であり、演算用の変数等が格納されている。
【0044】
周期カウンタ123は、エンコーダ109のパルス間隔を基準クロックで計測するものであり、その結果の逆数の演算をCPU120で行うことにより、速度が算出される。
【0045】
PIO124は、周辺機器からの入出力用のデジタルポートであり、モータドライバ126のON/OFF等に使用される。
【0046】
PWM発振器125は、モータドライバ126へモータ電圧相当のPWM値の設定を行う。PWM発振器125以外にも、アナログ入力のモータドライバ126であれば、ADコンバータ等のアナログ出力を用いることができる。
【0047】
モータドライバ126は、モータ110のロータ位置をホール出力HU、HV、HWで検出し、U相、V相、W相のコイルに電圧を印加して電流を流し、モータ110を駆動する。
【0048】
モータ110が駆動することにより、伝達機構部107を介して従動機構部203が駆動される。本実施形態では、伝達機構部107が駆動する速度をエンコーダ109によって検出している。
<起動時の駆動制御について>
図10に、駆動制御装置の駆動制御結果の例を示す。図中の点線は目標速度であり、実線はエンコーダ109によって検出された実速度である。
【0049】
図示した様に、時間t0にて起動されると、モータ110が目標速度に追従する様に駆動することで、エンコーダ109によって検出された実速度が急速に立ち上がっている。続けてモータ110は加速され、時間t1にて検出速度が目標速度に到達し、その速度を維持する様に制御されている。
【0050】
起動時において機構部が問題無く駆動し、エンコーダ109によって異常値が検出される様なことがなければ、図示した様な目標速度に沿った駆動制御を行うことができる。
【0051】
しかしながら、図3に示した駆動機構には、多くの非線形要素が含まれている。非線形要素としては、例えば、ギヤの噛合わせやカップリングによるバックラッシュ、二次転写ローラ23やクリーニングローラ105等の軸の捩れ、二次転写ローラ23をクリーニングするクリーニングブレード111の変形、クリーニングローラ105表面のブラシの変形等が挙げられる。これらの非線形要素は、モータ110の起動時にエンコーダ109の検出値に影響を与え、制御系が不安定化する要因となる。
【0052】
例えば、一つのモータ110から伝達機構部107を介して複数の従動機構部203を駆動させる構成において、エンコーダ109を伝達機構部107に設けた場合に、上記した非線形要素の影響を受け易くなる。
【0053】
本実施形態の構成では、メンテナンス等のために従動機構部203の一つである二次転写ローラ23を一旦取り外し、調整動作後に再度組み付けた様な場合に、伝達機構部107のギヤの当たりが変化したり、応力が一度開放される等によって、定常駆動時とは制御対象の特性が変化してしまう。その状態で起動すると、ギヤのバックラッシュ等による衝撃によって伝達機構部107に取り付けられたエンコーダ109が加振されて異常速度が検出され、制御が不安定化してしまう場合がある。
【0054】
この場合において、従動機構部203の脱着によってモータ110に従動する機構部のイナーシャが変化し、制御が不安定化することも考えられるが、本実施形態においては減速機構を用いているためにイナーシャの変化が駆動制御に与える影響はほぼ無いものと考えられる。
【0055】
次に図11に、上記した非線形要素による影響を受けた場合の駆動制御結果の例を示す。
【0056】
ユニットの脱着を経て時間t0にて起動した後、時間t1で目標速度を大きく超えた値がエンコーダ109によって検出されている。
【0057】
この様な大きな速度変化は、補償器202の積分器に積算されてしまうため、その後の応答に遅れが生じ、時間t2にて目標速度に到達するまでに振動的な動作を繰り返すことになる。
【0058】
振動的な動作が収束するまでに時間を要すると、装置異常が発生したとして装置の起動が失敗したものと判断される場合や、振動的な動作によって機構部が壊れてしまう、といった問題が生じる場合がある。
【0059】
エンコーダ109によって異常値が検出された場合であっても、起動時にフィードバック制御を行わなければ、非線形要素による影響を受けた後でも不安定化することは無いと考えられる。しかし、負荷の大きさによっては起動時間にばらつきが生じたり、起動後にフィードバック制御に切り替えた際に応答遅れが生じる可能性があるため好ましくない。
【0060】
また、制御を安定化するために、定常駆動時に速度偏差が小さく(制御性能が高く)なるように設計された補償器202をそのまま使用しても、制御が振動的になってしまったり、最悪の場合には発振して制御系を壊してしまうことがある。
[第1の実施形態]
図6に、第1の実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図の例を示す。
【0061】
第1の実施形態に係る駆動制御装置では、図5に示した駆動制御装置に加えて、目標速度とエンコーダ109によって検出された実速度を比較する比較器201の後段に、偏差制限部204を有する。また、伝達機構部107を有し、従動機構部203は伝達機構部107を介してモータ110によって駆動される様に構成している。補償器演算部205は、補償器202を用いて所定の補償器演算を行う。
【0062】
図13に、偏差制限部の処理例のフローチャートを示す。
【0063】
まず、ステップS1にて比較器201で求められた速度偏差が±100mm/sであるか否かを判定する。速度偏差が±100mm/s以内であれば、偏差制限部204から速度偏差の値がそのまま補償器演算部205に入力される。
【0064】
速度偏差が±100mm/sを超える場合には、ステップS2にて速度偏差の値の正負判定を行う。速度偏差の値が+100mm/sよりも大きい場合には、ステップS3にて速度偏差の値を+100mm/sに制限し、補償器演算部205に入力する。
【0065】
ステップS2にて速度偏差の値が−100mm/sよりも小さい場合には、速度偏差の値を−100mm/sに制限した上で、補償器演算部205に入力する。
【0066】
偏差制限部204の上記処理により、機構部の非線形要素によって発生する大きな速度偏差を制限することができ、補償器演算部205における補償器202の積分器に積算される値が小さくなる。そのため、補償器202における積算値が所定の定常値に収束されるまでの時間を短くすることができ、応答が振動的になることを回避することができる。
【0067】
なお、定常状態における積分器の積分値は定常負荷を補償するため、ほぼ一定値となる。積分値がこの値から大きく外れると実速度が目標速度を超えるオーバーシュートが生じたり、制御が振動的になること等によって駆動が安定化するまでの収束時間が長くなってしまう。
【0068】
第1の実施形態に係る偏差制限部204では、速度偏差を制限する値を±100mm/sとしたが、通常の加速領域で生じる可能性がある速度偏差の範囲で制限すれば良い。
【0069】
図12に、第1の実施形態に係る駆動制御装置の駆動制御結果の例を示す。点線は目標速度であり、実線はエンコーダ109にて検出された機構部の実速度である。
【0070】
時間t0において起動した後、目標速度に沿う形でモータ110によって機構部が駆動するが、ギヤのバックラッシュ等の非線形要素によって時間t1にて目標速度を大きく上回る値がエンコーダ109によって検出されている。
【0071】
しかし、偏差制限部204が比較器201によって求められた速度偏差の値に制限をかけることによって、補償器202における演算が不安定化するのを防止する処理を行う。その結果、機構部の制御が振動的になることなく、目標速度に沿って加速制御され、時間t2において目標速度に到達し、その速度が維持されている。
【0072】
以上の様に、第1の実施形態に係る駆動制御装置によれば、機構部の脱着等によって非線形要素による影響を受けた場合においても、偏差制限部204が速度偏差の値を制限することによって制御が不安定化するのを防止し、安定的な駆動制御を実現することが可能になる。
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る駆動制御装置の制御について説明する。
【0073】
第2の実施形態に係る駆動制御装置では、第1の実施形態に加えて、補償器演算部205が以下に説明する処理を行う。
【0074】
図14に補償器演算部205の処理例のフローチャートを示す。以下の説明において、モータ110の正方向の回転をCW、負方向の回転をCCWとする。
【0075】
画像形成装置100が起動し、二次転写ローラ23等の駆動が開始されると、補償器演算部205にて加速領域であるか否かの判定が行われる。加速領域であるか否かの判定は、エンコーダ109によって検出された速度が一定値に到達したか否かで判定しても良く、起動から一定時間を加速領域であると判定しても良い。
【0076】
加速領域である場合には、まずステップS11にてモータ110の目標回転方向の判定を行う。回転方向がCWの場合には、ステップS12にてモータドライバ126の駆動方向をCWに設定する。続いて、ステップS13で補償器演算部205に、偏差制限部204から制限された速度偏差が入力され、補償器202によって演算された結果を判定し、補償器202の出力が正であった場合には、ステップS14にて補償器202の出力をモータドライバ126に設定する。
【0077】
ステップS13にて補償器202の出力がモータ110の回転方向と異なる場合には、ステップS15で補償器202に含まれる積分器の積分値を所定の値にリセットする。第2の実施形態においては、所定の値を0とする。次にステップS16にて所定の値をモータドライバ126に設定する。
【0078】
この様な積分値の設定は、積分器に異なる方向の値が積分されることによる応答の遅れを抑えるための処理であり、モータドライバ126に所定値を設定するのは、振動的な動作を防ぐための処理である。
【0079】
ステップS11にてモータ110の目標回転方向がCCWだった場合には、ステップS17でモータドライバ126の駆動方向をCCWに設定する。
【0080】
次に、ステップS18にて偏差制限部204から制限された速度偏差に基づいて補償器演算した結果を判定し、補償器202の出力がモータ110の回転方向と同一であった場合には、ステップS19にて補償器202の出力をモータドライバ126に設定する。
【0081】
ステップS18にて補償器202の出力がモータ110の回転方向と異なった場合には、ステップS20にて補償器202に含まれる積分器の積分値に所定の値を設定する。次に、ステップS21にて、所定の値をモータドライバ126に設定する。第2の実施形態においては、所定の値をそれぞれ0とする。
【0082】
以上の処理において、補償器202の積分値に設定する所定の値を0としたが、応答を改善するための値であれば0でなくとも良く、定常状態における積分値等を設定するようにしても良い。
【0083】
また、モータ110の回転方向と補償器202の出力の回転方向が異なる場合にモータドライバ126に設定する所定の値を0としたが、駆動系が振動又は発振しない値であれば0でない値を用いても良い。
【0084】
補償器演算部205において上記した処理を行うことによって、補償器202の出力がモータ110の駆動方向と異なる場合であっても、モータ110の駆動方向を固定し、補償器202における積分値をリセットすることによって、起動時に安定的な駆動制御を実現することができる。
【0085】
また、補償器202の動作を図8及び図9を用いて説明する。
【0086】
補償器202のフィルタ演算をPIフィルタとすると、補償器202における演算は、上記した通り図8の(a)もしくは(b)の様なブロック線図で表される。
【0087】
ここで、図8(a)における伝達関数は式1、図8(b)の伝達関数は式2で表され、比例ゲインKiとKi´とはKi=Kp×Ki´の関係を有し、同じ特性を示すものである。
【0088】
PI=Kp+Ki/s ・・・(式1)
PI=Kp(1+Ki´/s) ・・・(式2)
ここで、上述した様に補償器演算部205にてモータ110が加速領域であると判定した場合には、例えば数式中の比例ゲインKpを小さくし、補償器202の応答周波数が低くなる様に設定する。モータ110の加速領域が終了し、定常領域になった場合には、比例ゲインKpを高くすることで応答周波数が高くなる様に制御する。
【0089】
図9に比例ゲインKpの制御例を示す。モータ110の加速領域では比例ゲインKpをKpとして応答周波数が低くなるように設定し、定常領域では比例ゲインKpがKpよりも大きいKpに制御し、応答周波数が高くなるように制御する。
【0090】
例えば、加速領域の比例ゲインKpを定常領域における比例ゲインKpの1/10に設定することで、応答周波数を加速領域では5Hz、定常領域では50Hzに制御することができる。
【0091】
また、式1の場合には、比例ゲインKpだけを変化させて補償器202の応答周波数を制御することもできるが、制御系の安定性を考慮して比例ゲインKpだけでなく積分ゲインKiも同じ割合で変化させることが一般的である。
【0092】
第2の実施形態における補償器202で、例えばPIフィルタを用いた場合において、積分値を所定の値にリセットするとしたが、補償器202が状態方程式で記述される場合は、状態量を所定の値にリセットすることになる。
【0093】
上記した様に、モータ110の加速領域では、補償器演算部205における補償器202の比例ゲイン等を下げることで応答周波数を低下させるように制御を行う。この様に制御することにより、フィードバック制御系が安定で、且つ、定常状態に到達するまでの時間にばらつきが少ない立上げが可能な駆動制御装置を得ることができる。
【0094】
以上説明した様に、第2の実施形態に係る駆動制御装置では、モータ110の加速領域において補償器202の出力がモータ110の駆動方向と異なる場合には、モータ110の駆動方向を固定し、補償器202における積分値をリセットする処理を補償器演算部205が行う。また、補償器202の比例ゲイン等を下げることで応答周波数を低下させる制御を行う。
【0095】
第2の実施形態に係る駆動制御装置によれば、上記した制御により機構部を安定的に駆動制御することができ、且つ、立上げ時間にばらつきの少ない制御をすることができる。
[第3の実施形態]
図7に、第3の実施形態に係る駆動制御装置のフィードバック制御のブロック線図の例を示す。
【0096】
第3の実施形態に係る駆動制御装置は、従動機構部203が伝達機構部107を介してモータ110により駆動される構成であり、第1及び第2の実施形態と同様の構成だが、加速判定部206を有している点で異なっている。
【0097】
加速判定部206には目標速度と、エンコーダ109によって検出された実速度とが入力され、モータ110が加速領域にあるか否かの判定を行う。
【0098】
図15に、加速判定部206の処理例のフローチャートを示す。
【0099】
画像形成装置100が起動し、モータ110の駆動が開始されると、加速判定部206では、まずステップS31にてエンコーダ109にて検出された速度プロファイルが定常値に達したか否かの判定を行う。
【0100】
速度プロファイルが定常値に達したか否かの判定は、エンコーダ109によって検出される速度が所定の周期で一定の値になったか否かで判断される。
【0101】
速度プロファイルが定常値に達したと判断された場合には、ステップS32にてエンコーダにて検出された速度が目標値の所定の範囲内であるか、例えば300mm/s±5%の範囲内に入っているか否かの判定を行う。ステップS31にて速度プロファイルが定常値に達し、ステップS32にて目標速度の±5%以内にあると判定された場合には、ステップS33にて加速領域にあると判定される。
【0102】
ステップS31又はステップS32の条件を満たさない場合には、ステップS34にて加速領域であると判定される。
【0103】
第3の実施形態に係る駆動制御装置は、加速判定部206によってモータ110が加速領域にあるか否かの判定を精度良く行うことができる。そのため、偏差制限部204において制限する値、補償器演算部205における応答周波数の制御、積分値及びモータドライバ126に設定する値の制御等を、加速領域と定常領域とで精度良く切り替えて制御することが可能となる。
【0104】
従って、二次転写ローラ23等の駆動が定常領域に達した後に、必要以上の処理をしない様に設定等することで、定常領域における駆動時には処理にかかる負荷を軽減することができる。
【0105】
また、二次転写ローラ23等のユニット脱着後の最初の起動時にのみ、偏差制限部204によって偏差の値に制限を設け、補償器202の積分値のリセットやモータドライバ126への所定値の設定、応答周波数の制御、加速判定等を行う様にすることもできる。初回起動時にのみ安定駆動のための処理を行い、一度でも安定して駆動した後は、上記した処理を行わない様に設定することで、その後の駆動制御にかかる負荷を低減できる。
【0106】
以上で説明した第1から第3の実施形態に係る駆動制御装置では速度制御系の場合について説明したが、速度偏差に変えて位置偏差とすれば、位置制御系に関しても同様の構成及び処理にて駆動を安定制御することができる。
【0107】
また、画像形成装置100において、モータ110が伝達機構部107を介して二次転写ローラ23及び中間転写ベルトクリーニングローラ22を駆動させる構成に基づいて説明したが、感光体ユニットや、定着ユニットの駆動制御、その他モータを用いて機構を駆動させる駆動制御装置に本発明を適用することができる。
<まとめ>
本発明の実施形態によれば、従動機構部である二次転写ローラ23等が脱着された後に、ギヤの噛合いや軸の捩れ等といった非線形要素を原因として駆動開始後にエンコーダ109によって異常値が検出された場合であっても、制御が振動的になって不安定化することなく、安定した駆動の立ち上がりを実現することができる。
【0108】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0109】
22 クリーニングローラ(従動機構部)
23 二次転写ローラ(従動機構部)
100 画像形成装置
107 伝達機構部
109 エンコーダ(検出部)
110 モータ(電動機)
126 モータドライバ(電動機駆動部)
202 補償器
204 偏差制限部
205 補償器演算部
206 加速判定部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0110】
【特許文献1】特許第4294344号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機の出力を伝達する伝達機構部と、
前記伝達機構部に連結することで前記電動機の出力により駆動される従動機構部と、
前記電動機、前記伝達機構部又は前記従動機構部のいずれか1つの速度又は位置を検出する検出部と、
前記検出部の出力値と目標値との偏差の値に基づき、補償器を用いて所定の演算を行う補償器演算部と、
前記補償器演算部の結果に基づいて前記電動機を駆動させる電動機駆動部と、
を有する駆動制御装置であって、
前記補償器演算部に入力する前記偏差の値に制限をかける偏差制限部を有する
ことを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
前記電動機の加速領域で、前記補償器の出力の駆動方向が、前記電動機の駆動方向と異なる場合に、
前記補償器演算部において、前記補償器の出力及び前記補償器中の積分値をそれぞれ所定の値に設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記電動機の加速領域における補償器の応答周波数を、
前記電動機の定常領域における応答周波数よりも低くする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
前記検出部によって検出される速度又は位置プロファイルが定常値になり、且つ、前記検出部によって検出される速度又は位置が所定範囲に入るまでを、前記電動機の加速領域と判定する加速判定部を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の駆動制御装置を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
電動機と、
前記電動機の出力を伝達する伝達機構部と、
前記伝達機構部に連結することで前記電動機の出力により駆動される従動機構部と、
を有する駆動制御装置の駆動制御方法であって、
前記電動機、前記伝達機構部又は前記従動機構部のいずれか1つの速度又は位置を検出するステップと、
前記検出された出力値と目標値との偏差の値に基づき、所定の補償器演算を行うステップと、
前記補償器演算結果に基づいて前記電動機を駆動させるステップと、
前記補償器演算に入力する前記偏差の値に制限をかけるステップと、を有する
ことを特徴とする駆動制御方法。
【請求項7】
電動機と、
前記電動機の出力を伝達する伝達機構部と、
前記伝達機構部に連結することで前記電動機の出力により駆動される従動機構部と、
を有する駆動制御装置のコンピュータに、
前記電動機、前記伝達機構部又は前記従動機構部のいずれか1つが駆動する速度又は位置を検出するステップと、
前記検出された出力値と目標値との偏差に基づき、所定の補償器演算を行うステップと、
前記補償器演算結果に基づいて前記電動機を駆動させるステップと、
前記補償器演算に入力する前記偏差の値に制限をかけるステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−231577(P2012−231577A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97514(P2011−97514)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】