説明

駆動力分配を制御可能な自動車用差動歯車装置ユニット

駆動力を制御可能に分配するための自動車用差動歯車装置は、ハウジング、及びその中に出力軸(7,8)に伝動結合される2つの出力部材(16,19)を持つ差動歯車装置(4)、差動歯車装置の入力部材(14)に伝動結合される変速歯車装置(5)、及び2つの液圧制御可能な摩擦クラッチ(24,25)を含んでいる。回転伝達部を回避しかつ容易に組立て及び接近可能にするため、両方の摩擦クラッチ(24,25)の間にハウジング固定の中間部分(26)が設けられて、液圧操作装置(56,58)を含み、両方の摩擦クラッチ(24,25)の押圧環(33,45)が、中間部分(26)の方へ向くクラッチの側にあり、第1の摩擦クラッチ(24)の外側部分(30)が、変速歯車装置(5)に伝動結合され、かつ中間軸(37)を介して第2の摩擦クラッチ(25)の内側部分(42)に伝動結合され、第1の摩擦クラッチ(24)の内側部分(32)が第1の出力軸(7)に伝動結合され、第2の摩擦クラッチ(25)の外側部分(40)が第2の出力軸(8)に伝動結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの出力軸へ駆動力を制御可能に分配するための自動車用差動歯車装置ユニットであって、ハウジング、及びその中に入力部材及び出力軸に伝動結合される2つの出力部材を持つ差動歯車装置、駆動側で差動歯車装置の入力部材に伝動結合される変速歯車装置、及び一方では変速歯車装置の駆動側に伝動結合され、また他方ではそれぞれ1つの出力軸に伝動結合される2つの隣接して液圧制御可能な摩擦クラッチを含んでいるものに関し、摩擦クラッチの位置に応じて付加的なトルクが出力軸に伝達可能であり、両方の摩擦クラッチがそれぞれ内側部分、外側部分、薄板積層体及び押圧ピストンを持っている。
【0002】
このような差動歯車装置ユニットは、前車軸及び後車軸へ駆動力を分配するための全輪駆動自動車の車軸間差動装置としても、1つの車軸の両方の車輪へ駆動力を分配するための車軸差動装置としても使用可能である。第1の場合両方の出力軸が両方の車軸に伝動結合され、第2の場合両方の出力軸が車軸の個々の車輪に伝動結合されている。
【背景技術】
【0003】
車軸差動装置を対象としている欧州特許第662492号明細書から、両方の摩擦クラッチを差動歯車装置の同じ側に設けることが公知である。差動歯車装置は、従動側で、両方の摩擦クラッチに共通な外側部分に伝動結合されている。しかしそれは、2つの回転伝達部及び不充分な配置の操作機構を介して、両方の摩擦クラッチの互いに無関係な操作のために、圧力媒体の別々の供給を必要とする。更に両方の摩擦クラッチの内側部分は、1つの出力軸に結合されている。この装置は組立てが困難であり、ハウジングが適当に分割される場合にも、保守及び修理のために接近するのが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の課題は、これらの欠点をなくし、公知の回転伝達部を回避しかつ容易に組立て可能で接近可能な装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この課題は請求項1の特徴にとって解決される。
【0006】
両方の摩擦クラッチの間にハウジング固定の中間部分が設けられて、液圧操作装置を収容していることによって、回転伝達部がなくなり、供給導管を含む液圧操作装置のすべての素子が、回転しない部材にまとめられる。中間部分にある液圧操作機構と摩擦クラッチの押圧ピストンとの間の作用結合は、軸線方向に作用する転がり軸受を介して有効なやり方で行われる。この配置は、摩擦クラッチが″鏡映反転して″設けられていることによって可能になり、従って第1のクラッチの外側部分と第2のクラッチの内側部分が駆動する一次側である。それにより可能な両方の出力軸の配置は組立て及び保守における改善を生じる。全体としてこの配置は、差動歯車装置(遊星歯車又は傘歯車)及び変速歯車装置(固定軸又は遊星歯車)の構造とは無関係である。
【0007】
好ましい実施形態では、中間部分が両側にそれぞれ1つの環状ピストンを収容し、これらの環状ピストンが推力軸受を介して対応する摩擦クラッチの押圧環に作用する(請求項2)。本発明による配置のため、押圧力を及ぼすために大きい面積の環状ピストンを使用でき、反作用力は軸受を負荷することなく直接ハウジングへ導出される。
【0008】
更に摩擦クラッチの操作に用いられる制御弁が中間部分に結合されている(請求項3)ので、液圧操作装置全体が交換可能な構造部分にまとめられている。制御弁が中間部分に収容されている(請求項4)のが更によい。こうして弁は外部の影響に対して保護され、差動歯車装置ユニットの組込み影像は突出する部分がない。
【0009】
有利な展開では、中間部分が油ポンプを収容し、中間部分を貫通する油ポンプの中間軸が、油ポンプの回転子に伝動結合されている(請求項5)。それにより、差動歯車装置ユニットのクラッチ部分はその固有の自主圧力源を持ち、この圧力源が更に他の液圧構造部分を収容する中間部分に既に設けられているので、弁及び押圧ピストンへの接続通路は非常に短く、無視できる圧力損失しか生じない。
【0010】
油ポンプがゲロータ(gerotor)形式のポンプであり、その内側回転子が中間軸上にはまり、その偏心した外側回転子が中間部分内に回転可能に案内されているのがよい(請求項6)。こうして2つの構造部分だけを中間部分に組込むことにより、特に効率的なポンプが構成され、吸入空間及び吐出空間が中間部分に形成される。
【0011】
両方の摩擦クラッチを収容するハウジングの部分が、軸線に対して直角な分離面を持ち、この分離面に中間部分及びハウジング蓋が続いていると(請求項7)、すべての液圧素子を収容する中間部分が特によく取付け可能であり、かつよく接近可能である。中間部分が、摩擦クラッチを収容するハウジング部分及びハウジング蓋に対して心出しされる板であり、その外側縁がハウジング輪郭を形成している(請求項8)のがよい。中間部分はこうしてハウジングのフランジと蓋のフランジとの間に心出しされて受入れられ、共通なボルトによりねじ止めされる。中間部分は外方まで延びているので、接続導管を接続するため外部から接近可能である。
【0012】
図により本発明が以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】 本発明による差動歯車装置ユニットの縦断面図を示す。
【図2】 差動歯車装置ユニットのクラッチを収容する部分を拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において差動歯車装置ユニットのハウジングは、事情によっては可能な分割に関係なく、全体を1で示され、クラッチを収容するハウジング部分のみが2で示されている。差動歯車装置ユニットは、大体において、ハウジング1,2に収容される次の部分から成っている。即ち入力歯車装置3ここでは傘歯車装置、差動歯車装置4ここでは遊星差動歯車装置、変速歯車装置5、及びハウジング部分2に収容されるクラッチ群6.更に第1の出力軸7及び第2の出力軸8が存在する。これらの出力軸は、図示した実施例では1つの車軸の両方の車輪へ通じているが、前輪駆動車両の車軸間差動歯車装置である場合、車両のそれぞれの車軸へ通じている。出力軸7,8は図示しない針軸受において互いに心出しされ、共に軸受9.1及び9.2によりハウジング1,2ないに支持されている。制御装置10は概略的にのみ示され、制御弁及び/又は電子制御装置を含んでいる。
【0015】
差動歯車装置を通る動力の流れは、ここではピニオン12と傘歯車13により形成される傘歯車装置3から始まる。傘歯車13は、環状歯車として構成されて差動歯車装置の入力部材を形成する差動歯車装置ハウジング14に相対回転しないように結合されている。この傘歯車13は転がり軸受15.1,15.2によりハウジング1内に支持され、遊星歯車18を持つ遊星キャリヤ16及び太陽歯車19を含んでいる。遊星キャリヤ16は、一方では第1の出力軸7に、他方では中空軸17に相対回転しないように結合されているか又はそれと一体である。太陽歯車19は第2の出力軸8に相対回転しないように結合されている。
【0016】
動力の流れにおいて、差動歯車装置4に変速歯車装置5が続いている。そのため駆動歯車20が、クラッチ群6の方へ向く差動歯車装置ハウジング14の側に取付けられている。この駆動歯車20は、中間歯車21を介して減速されるか又はなるべく増速されて、既にクラッチ群6に属している従動歯車22を駆動する。クラッチ群6は、大体において第1の摩擦クラッチ24、第2の摩擦クラッチ25、及び両方のクラッチ用の液圧操作装置の一部を収容するハウジング固定の中間部分26から成っている。中間部分26は、その基本形状において平行な面を持つ厚い板であり、クラッチハウジング2の分離面28に一方の側で当接している。他方の側にはハウジング蓋27が続いて、第2の出力軸8の軸受9.2も保持している。
【0017】
図2により、摩擦クラッチ24,25が詳細に説明される。第1の摩擦クラッチ24は、推力軸受31によりハウジング部分2に支持される鐘状の外側部分30、中空軸17上にはまる内側部分32、通常の構造の薄板積層体33、皿ばねから構成されるクラッチばね34、及び押圧環35を含んでいる。押圧環35により、交互に外側部分30及び内側部分32に相対回転しないように結合される薄板から成る薄板積層体33が、クラッチばね34の力に抗して圧縮される。クラッチの外側部分30は、推力軸受31から遠い方の側で、クラッチ板36に相対回転しないように結合され、中間部分26を貫通する中空軸である中間軸37上にクラッチ板36が固定的にはまっている。
【0018】
第2の摩擦クラッチ25は、中間軸37に相対回転しないように結合される内側部分42、薄板積層体43、クラッチばね44、押圧環45、及びボス41及び連結歯46により第2の出力軸8に相対回転しないように結合される鐘状外側部分40を含んでいる。
【0019】
中間部分26の外側縁50は、ハウジング部分2のフランジ51と蓋27のフランジ52との間に心出しされて存在する。すべてこれら3つの部分は、周囲にわたって分布されるボルト53により固定的に結合されている。出力軸8を引出しかつボルト53を外した後、蓋27及び中間部分26は容易に取去り可能である。こうして修理のため両方の摩擦クラッチ24,25によく接近可能であり、液圧操作装置のすべての素子を収容する中間部分が簡単に交換可能である。
【0020】
中間部分26は、第1の摩擦クラッチ24に近い方の側に第1の環状ピストン56を収容し、この環状ピストン56は中間部分26の円環状凹所内に軸線方向移動可能に案内されている。同様に中間部分26は、第2の摩擦クラッチ25に近い方の側に第2の同じような環状ピストン58を収容している。両方の環状ピストン56,58は、ここでは針軸受として構成される推力軸受57,59を介して、それぞれの摩擦クラッチ24,25の押圧環35,45に作用する。
【0021】
中間部分26自体は軸線方向に見て同様に円環であり、その内側円を中間軸37が貫通している。この内側円内に、ゲロータ形式の油ポンプ60が収容されている。油ポンプ60は、中間軸37に相対回転しないように結合される内側回転子61と、これに対し偏心して中間部分26内で自由に回転可能に案内される外側回転子62を含んでいる。内側回転子61は、ゲロータポンプでは外歯を形成され、外側回転子62は内歯を形成されている。
【0022】
内側回転子61が中間軸37に相対回転しないように結合され、この中間軸37がそれぞれのクラッチ位置に関係なく常に回転することによって、常に充分な油供給も保証される。中間部分26には、この形式のポンプに対して典型的な三日月状吸入空間又は吐出空間63も形成され、最短経路で図示しない制御弁及び環状ピストンを収容するシリンダ空間に接続されている。これらの接続に対して象徴的に通路64が記入されている。図示してない制御弁は、図1に10で示す制御箱又は中間部分26自体に収容されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの出力軸へ駆動力を制御可能に分配するための自動車用差動歯車装置ユニットであって、ハウジング、及びその中に
a)入力部材(14)及び出力軸(7,8)に伝動結合される2つの出力部材(16,19)を持つ差動歯車装置(4)、
b)駆動側で差動歯車装置の入力部材(14)に伝動結合される変速歯車装置(5)、及び
c)一方では変速歯車装置(5)の駆動側に伝動結合され、また他方ではそれぞれ1つの出力軸(7,8)に伝動結合されかつそれぞれ1つの内側部分(32,42)及び薄板積層体(33,43)及び押圧環(33,45)を持つ2つの隣接して液圧制御可能な摩擦クラッチ(24,25)
を含んでいるものにおいて、
d)両方の摩擦クラッチ(24,25)の間にハウジング固定の中間部分(26)が設けられて、液圧操作装置(56,58,61,...)を含み、
e)両方の摩擦クラッチ(24,25)の押圧環(33,45)が、中間部分(26)の方へ向くクラッチの側にあり、
f)変速歯車装置(5)の従動側に近い方の第1の摩擦クラッチ(24)の外側部分(30)が、一方では変速歯車装置(5)に伝動結合され、他方では中間部分(26)を貫通する中間軸(37)を介して第2の摩擦クラッチ(25)の内側部分(42)に伝動結合され、
g)第1の摩擦クラッチ(24)の内側部分(32)が第1の出力軸(7)に伝動結合され、第2の摩擦クラッチ(25)の外側部分(40)が第2の出力軸(8)に伝動結合されている
ことを特徴とする、差動歯車装置ユニット。
【請求項2】
中間部分(26)が両側にそれぞれ1つの環状ピストン(56,58)を収容し、これらの環状ピストン(56,58)が推力軸受(57,59)を介して対応する摩擦クラッチ(24,25)の押圧環(33,45)に作用することを特徴とする、請求項1に記載の差動歯車装置ユニット。
【請求項3】
摩擦クラッチ(24,25)の操作に用いられる制御弁が中間部分(26)に結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の差動歯車装置ユニット。
【請求項4】
摩擦クラッチ(24,25)の操作に用いられる制御弁が中間部分(26)に収容されていることを特徴とする、請求項3に記載の差動歯車装置ユニット。
【請求項5】
中間部分(26)が油ポンプ(60)を収容し、中間部分(26)を貫通する油ポンプ(60)の中間軸(37)が、油ポンプの回転子(61)に伝動結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の差動歯車装置ユニット。
【請求項6】
油ポンプ(60)がゲロータ(gerotor)形式のポンプであり、その内側回転子(61)が中間軸(37)上にはまり、その偏心した外側回転子(62)が中間部分(26)内に回転可能に案内されていることを特徴とする、請求項5に記載の差動歯車装置ユニット。
【請求項7】
両方の摩擦クラッチ(24,25)を収容するハウジング(1)の部分(2)が、軸線に対して直角な分離面(28)を持ち、この分離面(28)に中間部分(26)及びハウジング蓋(27)が続いていることを特徴とする、差動歯車装置ユニット。
【請求項8】
中間部分(26)が、摩擦クラッチ(24,25)を収容するハウジング部分(2)及びハウジング蓋(27)に対して心出しされる板であり、その外側縁(50)がハウジング輪郭を形成していることを特徴とする、請求項7に記載の差動歯車装置ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−503814(P2010−503814A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531727(P2009−531727)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008072
【国際公開番号】WO2008/034572
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(503211264)マグナ・シユタイル・フアールツオイクテヒニク・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト (18)
【Fターム(参考)】