説明

駆動力配分制御装置及び四輪駆動車

【課題】駆動力伝達系の異音の発生を抑えながら燃費の悪化を抑制することが可能な駆動力配分制御装置及び四輪駆動車を提供する。
【解決手段】駆動力配分制御装置1は、後輪105に伝達すべきトルク値を設定する制御装置3と、制御装置3が設定したトルク値に応じたトルクを後輪105に伝達する駆動力伝達装置2とを備え、制御装置3は、エンジン101の出力軸101aの回転速度が駆動力の脈動による駆動力伝達系110の異音が発生し得る回転速度域である場合に、後輪105に伝達すべきトルク値を、エンジン101の駆動力に応じて、駆動力伝達系110の異音を低減可能な値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助駆動輪へ配分する駆動力を制御する駆動力配分制御装置及び四輪駆動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動車の運転状態が、駆動力伝達系にエンジンのノッキングに起因する異常振動による異音が発生する異常振動発生領域である場合に、異常振動が発生しない所定の割合で駆動力を補助駆動輪に配分する駆動力配分制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力配分制御装置は、車速が振動発生下限速度を超え、かつ振動発生上限速度未満である場合に、異音を緩和するのに適した摩擦トルクをトルクカップリングに発生させるように構成されている。この摩擦トルクは、車速が異常振動発生領域でない場合よりも高い値とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−277881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、駆動力伝達系からの異音は、ノッキングが発生する場合に限らず、エンジンのトルクの脈動(周期的な変動)によっても生じ得る。また、燃費向上のためには、例えば直進定速走行時のように補助駆動輪に駆動力を伝達する必要性が少ない場合に、駆動力伝達系における摩擦トルクを低減すべく、補助駆動輪に伝達する駆動力を可及的に小さくすることが望ましい。そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、異音の発生の有無にはエンジントルクが関係していることを見出し、エンジンの回転数が異音の発生し得る範囲であっても、エンジントルクによっては異音が発生せず、このような状態では補助駆動輪に伝達する駆動力を小さくできるとの知見を得た。
【0006】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その目的は、異音の発生を抑えながら燃費の悪化を抑制することが可能な駆動力配分制御装置及び四輪駆動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、[1]〜[4]の駆動力配分制御装置及び四輪駆動車を提供する。
【0008】
[1]車両の駆動力を発生するエンジン、前記エンジンの出力軸の回転を複数段階の変速比で変速する変速装置、及び前記変速装置の出力を前輪又は後輪の一方の主駆動輪と他方の補助駆動輪とに伝達することが可能な駆動力伝達系を有する四輪駆動車に搭載され、前記補助駆動輪に伝達すべきトルク値を設定する制御装置と、前記制御装置が設定したトルク値に応じた駆動力を前記補助駆動輪に伝達する駆動力伝達装置とを備え、前記制御装置は、前記エンジンの出力軸の回転速度が前記駆動力の脈動による前記駆動力伝達系の異音が発生し得る回転速度域である場合に、前記トルク値を、前記エンジンの駆動力に応じて、前記異音を低減可能な値に設定する駆動力配分制御装置。
【0009】
[2]前記制御装置は、前記エンジンの駆動力と前記異音を低減可能な値との関係を示す関係情報を前記複数段階の変速比のうち少なくとも2つの変速比について記憶し、走行時における前記変速装置の変速比に対応する前記関係情報を参照して前記トルク値を設定する、[1]に記載の駆動力配分制御装置。
【0010】
[3]前記関係情報は、前記エンジンの出力軸の回転速度及び前記エンジンの駆動力と、前記異音を低減可能な値との関係を示す情報である、[2]に記載の駆動力配分制御装置。
【0011】
[4]車両の駆動力を発生するエンジンと、前記エンジンの出力軸の回転を複数段階の変速比で変速する変速装置と、前記変速装置の出力を前輪又は後輪の一方の主駆動輪と他方の補助駆動輪とに伝達することが可能な駆動力伝達系と、前記補助駆動輪に伝達すべきトルク値を求める制御装置と、前記制御装置が求めたトルク値に応じた駆動力を前記補助駆動輪に伝達する駆動力伝達装置とを備え、前記制御装置は、前記エンジンの出力軸の回転速度が、前記駆動力の脈動による前記駆動力伝達系の異音が発生し得る回転速度域である場合に、前記トルク値を、前記エンジンの駆動力に応じて、前記異音を低減可能な値に設定する四輪駆動車。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異音の発生を抑えながら燃費の悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る四輪駆動車の構成例を示す概略図である。
【図2】図2は、トルクマップの一例を示し、(a)は選択されたギヤ段が第5速の場合のトルクマップ、(b)は選択されたギヤ段が第6速の場合のトルクマップを示す。
【図3】図3は、制御装置の制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の形態に係るトルクマップの一例を示し、(a)は選択されたギヤ段が第5速の場合のトルクマップ、(b)は選択されたギヤ段が第6速の場合のトルクマップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る四輪駆動車の構成例を示す概略図である。図1に示すように、この四輪駆動車100は、駆動源としてのエンジン101と、エンジン101の出力を変速する変速装置としてのトランスミッション103と、エンジン101の出力軸101aとトランスミッション103の入力軸103aとを締結するクラッチ102と、トランスミッション103の出力を二輪駆動状態と四輪駆動状態とに切替可能に左右一対の前輪104(左前輪104L及び右前輪104R)及び左右一対の後輪105(左後輪105L及び右後輪105R)に伝達する駆動力伝達系110と、駆動力配分制御装置1とを搭載している。駆動力配分制御装置1は、伝達トルクを調節可能な駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置3とを備えて構成されている。この駆動力伝達装置2は、四輪駆動車100の走行状態を二輪駆動状態と四輪駆動状態とに切替可能としている。
【0015】
また、四輪駆動車100の車室内には、運転者が操作を行うためのステアリングホイール120、アクセルペダル121、ブレーキペダル122、クラッチペダル123、及びシフトレバー124が配置されている。
【0016】
エンジン101は、アクセルペダル121の踏み込み量に応じた燃料が供給される内燃機関であり、四輪駆動車100が走行するための駆動力を、クランクシャフトに連結された出力軸101aから出力する。
【0017】
クラッチ102は、エンジンの出力軸101aに連結された第1ディスク102aと、トランスミッション103の入力軸103aに連結された第2ディスク102bとを有し、第1ディスク102aと第2ディスク102bとの摩擦係合により、エンジン101の出力軸101aとトランスミッション103の入力軸103aとを締結する。
【0018】
トランスミッション103は、シフトレバー124による運転者のギヤシフト操作によって、複数の段階にギヤ比を変化させることが可能な手動変速機である。トランスミッション103は、例えば第1速から第6速までの6段階(前進時)にギヤ比を変化させることが可能な6速ミッションである。
【0019】
(駆動力伝達系の構成)
駆動力伝達系110は、左前輪104L及び右前輪104Rにトルクを配分するフロントデファレンシャル装置112と、トランスミッション103の出力軸のトルクをフロントデファレンシャル装置112のデフケース112aに伝達するギヤ機構111と、デフケース112aに連結された入力ギヤ113a、及び入力ギヤ113aと回転軸を直交させて噛み合う出力ギヤ113bを有するトランスファ113と、出力ギヤ113bに連結されたプロペラシャフト114と、駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を介してプロペラシャフト114のトルクが伝達されるピニオンギヤシャフト115と、ピニオンギヤシャフト115に伝達されたトルクを左後輪105L及び右後輪105Rに配分するリヤデファレンシャル装置116とを備えている。
【0020】
また、駆動力伝達系110は、フロントデファレンシャル装置112の一対のサイドギヤにそれぞれ連結されたドライブシャフト112L,112R、及びリヤデファレンシャル装置116の一対のサイドギヤにそれぞれ連結されたドライブシャフト116L,116Rを有している。ドライブシャフト112L,112Rは左前輪104L及び右前輪104Rにトルクを伝達し、ドライブシャフト116L,116Rは左後輪105L及び右後輪105Rトルクを伝達する。
【0021】
リヤデファレンシャル装置116のデフケース116aの外周部には、リングギヤ116bが相対回転不能に設けられている。リングギヤ116bは、ピニオンギヤシャフト115のギヤ部115aと噛み合わされ、ピニオンギヤシャフト115からのトルクをデフケース116aに伝達する。
【0022】
上記した駆動力伝達系110の各構成要素のうち、トランスファ113、プロペラシャフト114、ピニオンギヤシャフト115、リヤデファレンシャル装置116、及びドライブシャフト116L,116Rは、後輪105にエンジン101の駆動力を伝達する駆動力伝達部材の一例である。
【0023】
駆動力伝達系110は、上記構成により、左前輪104L及び右前輪104Rには、走行時に常にトランスミッション103から出力されたトルクが伝達される。また、左後輪105L及び右後輪105Rには、駆動力伝達装置2の作動により、四輪駆動車100の走行状態に応じて必要時にトルクを伝達される。つまり、本実施の形態の四輪駆動車100では、左前輪104L及び右前輪104Rが主駆動輪、左後輪105L及び右後輪105Rが補助駆動輪である。
【0024】
(制御装置の構成)
駆動力配分制御装置1を構成する制御装置3は、ROMやRAM等からなる記憶部31と、CPU等の演算処理装置からなる制御部32と、制御部32によって制御される電流出力回路33とを備えている。制御装置3は、制御部32が記憶部31に記憶されたプログラムに基づいて動作することにより、四輪駆動車100の前輪104と後輪105との回転差や、エンジン101の出力トルク、選択されたトランスミッション103のギヤ段、駆動力伝達系110における最終減速比、及びステアリングホイール120の操作による操舵角等に基づいて、後輪105側へ伝達すべき指令トルクの値を演算により求める。エンジン101の出力トルクは、例えばアクセル開度に基づいて演算することが可能である。
【0025】
電流出力回路33は、制御部32の演算処理によって求めた指令トルクに応じた電流を駆動力伝達装置2に供給する。電流出力回路33は、例えば図略のバッテリーから供給される電流をPWM(Pulse Width Modulation)制御により電流量を調節して出力するインバータ回路である。
【0026】
制御装置3には、ステアリングホイール120に連結されたステアリングシャフト120aの回転を検出するための操舵角センサ300、エンジン101の出力軸101aの回転速度(時間当たりの回転数)を検出するエンジン回転速センサ301、アクセルペダル121の踏み込み量に応じたアクセル開度(加速操作量)を検出するアクセル開度センサ302、及びシフトレバー124の位置を検出するシフトポジションセンサ303の各センサの検出信号が入力される。
【0027】
また、制御装置3には、左前輪104L,右前輪104R,左後輪105L,右後輪105Rの各車輪に対応して設けられ、これら各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ304〜307の検出信号が入力される。
【0028】
これら各センサ300〜307の検出信号は、センサ本体に接続された信号線を介して直接制御装置3に入力してもよく、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じた通信によって制御装置3に入力してもよい。
【0029】
(駆動力伝達装置2の構成)
駆動力伝達装置2は、プロペラシャフト114に連結された有底円筒状のアウタハウジング21と、ピニオンギヤシャフト115に連結された円筒状のインナシャフト22と、アウタハウジング21の内周面とインナシャフト22の外周面との間に配置された複数の摩擦板からなるメインクラッチ23とを有している。メインクラッチ23は、アウタハウジング21に相対回転不能にスプライン嵌合された複数のアウタクラッチプレート23aと、インナシャフト22に相対回転不能にスプライン嵌合された複数のインナクラッチプレート23bとを交互に配列して構成されている。
【0030】
また、アウタハウジング21とインナシャフト22との間には、メインクラッチ23を軸方向に押圧する押圧力を発生するための環状の電磁コイル24,電磁コイル24の電磁力により押圧されるパイロットクラッチ25,及びパイロットクラッチ25を介して伝達される回転力をメインクラッチ23を押圧する軸方向のスラスト力に変換するカム機構26が配置されている。
【0031】
電磁コイル24には、制御装置3の電流出力回路33(図1参照)から励磁電流が供給される。電磁コイル24に励磁電流が供給されると、その電磁力によりパイロットクラッチ25を介してアウタハウジング21の回転力がカム機構26に伝達され、カム機構26が作動することによりメインクラッチ23を押圧するスラスト力が発生する。これにより、アウタハウジング21からインナシャフト22に伝達される駆動力は、電磁コイル24に供給される励磁電流に応じて変化する。
【0032】
(制御装置の機能)
制御装置3は、電磁コイル24に供給する励磁電流を調節することにより、駆動力伝達装置2によるトルクの伝達量を制御する。制御装置3は、前後輪の回転速度の差や、エンジン101の出力トルク、選択されたトランスミッション103のギヤ段、駆動力伝達系110における最終減速比、及びステアリングホイール120の操作による操舵角等に基づいて後輪105に伝達すべきトルク値を算出し、算出されたトルク値に応じた励磁電流を駆動力伝達装置2の電磁コイル24に供給する通常制御機能を有している。
【0033】
また、制御装置3は、運転者によるシフトレバー124の操作によって選択されたトランスミッション103のギヤ段が所定のギヤ段であり、かつエンジン101の出力軸101aの回転速度が所定の回転速度域である場合に、後輪105に伝達するトルク値をエンジン101の駆動力の脈動による駆動力伝達系110の異音を低減可能な値とする異音対策制御機能を有している。次に、通常制御機能と異音対策制御機能の具体例について説明する。
【0034】
(通常制御機能)
制御装置3の制御部32は、前輪104と後輪105の回転速度差に基づく第1トルクt1と、エンジン101の出力トルクや選択されたトランスミッション103のギヤ段等に基づく第2トルクt2と、操舵角に基づく第3トルクt3と、の和により指令トルクtcを演算する。
【0035】
第1トルクt1の演算では、左右前輪104L,104Rに対応して設けられた車輪速センサ304,305の検出信号に基づいて前輪104の回転速度Vf(左右前輪104L,104Rの平均回転速度)を算出し、左右後輪105L,105Rに対応して設けられた車輪速センサ306,307の検出信号に基づいて後輪105の回転速度Vr(左右後輪105L,105Rの平均回転速度)を算出し、前輪104の回転速度Vfから後輪105の回転速度Vrを減算して前後輪の回転速差ΔV(ΔV=Vf−Vr)を得る。
【0036】
そして、記憶部31に記憶された回転速差ΔVと第1トルクt1との関係を示す第1トルクマップを参照して第1トルクt1を求める。この第1トルクマップは、回転速差ΔVが大きいほど第1トルクt1が大きくなるように設定されている。これにより、例えば左前輪104L又は右前輪104Rにスリップが発生した場合に、エンジン101の駆動力を後輪105側により多くの割合で配分し、スリップを抑制することが可能となる。なお、第1トルクt1はさらに車速Sによって変更してもよい。車速Sは、例えば前輪104の回転速度Vfと後輪105の回転速度Vrの和に所定の係数を乗じて得ることができる。
【0037】
第2トルクt2の演算では、左右前輪104L,104R及び左右後輪105L,105Rに伝達されるトルクの総和(駆動トルク)と第2トルクt2との関係を示す、記憶部31に記憶された第2トルクマップを参照して第2トルクt2を求める。駆動トルクは、例えばエンジン101の出力トルク,選択されたトランスミッション103のギヤ段,及び駆動力伝達系110における最終減速比に基づいて演算により求めることができる。
【0038】
第2トルクマップは、駆動トルクが所定値未満の場合には、駆動トルクの増大に応じて第2トルクt2が増加又は一定の値となり、駆動トルクが上記所定値以上の場合には、駆動トルクが上記所定値未満の場合よりも大きな増加割合で、駆動トルクの増大に応じて第2トルクt2が増加するように設定されている。この所定値は、左右前輪104L,104Rのグリップ限界トルクに対応して設定された値である。
【0039】
これにより、例えば急加速時におけるエンジン101の大きな駆動力を前輪104側及び後輪105側に均等に配分し、主駆動輪である左右前輪104L,104Rに駆動力が集中した場合に生じ得る左前輪104L又は右前輪104Rのスリップを回避することが可能となる。なお、第2トルクt2はさらに車速Sによって変更してもよい。
【0040】
第3トルクt3の演算では、操舵角センサ300の検出信号からステアリングシャフト120aの操舵角を検出し、記憶部31に記憶された操舵角と第3トルクt3との関係を示す第3トルクマップを参照して第3トルクt3を求める。この第3トルクマップは、操舵角が大きいほど第3トルクt3が大きくなるように設定されている。
【0041】
これにより、操舵角が大きい旋回時の四輪駆動車100の車両挙動を安定させるとともに、操舵角が小さい旋回時や直進時の補助駆動輪である後輪への指令トルクtcを小さくすることで燃費が増大することを抑制できる。なお、第3トルクt3はさらに車速Sによって変更してもよい。
【0042】
(異音対策制御機能)
また、制御装置3の制御部32は、トランスミッション103のギヤ段、及びエンジン101の出力軸101aの回転速度が、エンジン101の駆動力の脈動によって駆動力伝達系110から異音が発生し得る状態であるとき、後輪105にトルクを伝達することによって異音の発生を抑制する。
【0043】
一般に、内燃機関であるエンジンは、吸気行程,圧縮行程,爆発行程,排気行程を繰り返し、爆発行程で駆動力を発生させるので、エンジンから出力される駆動力は、アクセル開度が一定であったとしても常に脈動している。この脈動の周期は、エンジンの回転数に応じて変化し、エンジンの回転数が低いほど長くなる。これにより、後輪側に伝達されるトルクがゼロ付近であり、実質的に前輪のみに駆動力が伝達される二輪駆動状態では、エンジンが低回転状態であるときに、トランスファやリヤデファレンシャル装置におけるギヤ噛み合い部から異音(歯打ち音)が発生することがある。
【0044】
制御装置3の制御部32は、二輪駆動状態であっても後輪105にトルクを伝達することによって、トランスファ113やリヤデファレンシャル装置116におけるギヤの噛み合い方向が変動しないように、つまりギヤ歯同士の接触状態及び非接触状態の切り替わりが繰り返されないように、後輪105にエンジン101の駆動力を伝達する各駆動力伝達部材同士を押し付け、異音を低減する。
【0045】
また、制御部32は、後輪105に伝達するトルクをエンジン101が出力している駆動力に応じて変化させる。このエンジン101の駆動力(エンジンが出力している駆動力)は、エンジン101の状態の検知結果に基づき四輪駆動車100の演算装置で演算され出力されるエンジントルクである。このエンジン101の駆動力は、例えばアクセル開度センサ302の検出信号によって検出したアクセル開度に基づいて算出してもよく、あるいはエンジン101の制御装置から取得した情報を参照して求めてもよい。
【0046】
制御装置3は、エンジン101の駆動力と、エンジン101の回転数(出力軸101aの回転速度)と、異音を低減可能なトルク値(以下、このトルク値を「異音低減トルクtd」という)との関係を示す関係情報を、3次元のトルクマップとして記憶部31に記憶している。本実施の形態では、トランスミッション103の6つのギヤ段のうち、高速走行用の2つのギヤ段(第5速及び第6速)について、トルクマップを記憶している。
【0047】
図2は、トルクマップの一例を示し、(a)は選択されたギヤ段が第5速の場合のトルクマップ、(b)は選択されたギヤ段が第6速の場合のトルクマップを示す。
【0048】
第5速が選択された場合は、図2(a)に示すように、エンジン101の回転数がr12(2000rpm)以下の場合に異音対策制御を行い、異音低減トルクtdは、r11(1500rpm)でピーク値(t)となる。また、異音低減トルクtdは、エンジン101の駆動力によっても変化し、エンジン101の駆動力の増大に伴って大きな値となる。
【0049】
また、第6速が選択された場合は、図2(b)に示すように、エンジン101の回転数がr22(2500rpm)以下の場合に異音対策制御を行い、異音低減トルクtdは、r21(2000rpm)でピーク値(t)となる。つまり、異音対策制御を行うか否かの閾値となるエンジン101の回転数r22、及び異音低減トルクtdがピークとなるエンジン101の回転数がr21が、共に第5速の場合(r12及びr11)よりも大きくなる。また、異音低減トルクtdは、第5速の場合と同様に、エンジン101の駆動力によって変化し、エンジン101の駆動力の増大に伴って大きな値となる。またさらに、第6速が選択された場合の異音低減トルクtdのピーク値(t)は、第5速が選択された場合の異音低減トルクtdのピーク値(t)よりも大きな値となる。
【0050】
このようなトルクマップは、例えば実際の車両において、エンジン101の駆動力、エンジン101の回転数、及び後輪105への伝達トルクを変化させて異音の有無を測定することで構築することができる。
【0051】
(制御装置の処理手順)
図3は、制御装置3の制御部32が実行する処理の一例を示すフローチャートである。制御部32は、このフローチャートに示す処理を所定の制御周期(例えば100ms)ごとに繰り返し実行する。
【0052】
まず、制御部32は、シフトポジションセンサ303の検出信号に基づいて、シフトレバー124の操作によって選択されたトランスミッション103のギヤ段を識別し(ステップS100)、このギヤ段が所定値(本実施の形態では第5速)以上であるか否かを判定する(ステップS101)。
【0053】
制御部32は、この判定の結果、ギヤ段が所定値以上である場合(S101:Yes)には、エンジン回転速センサ301の検出信号に基づいて、エンジン101の出力軸101aの回転速度を検出し(ステップS102)、出力軸101aの回転速度が異音対策制御を行う回転速度域か否かを判定する(ステップS103)。この判定の結果、出力軸101aの回転速度が異音対策制御を行う回転速度域である場合(ステップS103:Yes)には、異音対策制御(ステップS104〜S105)を行う。本実施の形態では、ギヤ段が第5速の場合には、エンジン101の回転数がr12(2000rpm)以下の場合に異音対策制御を行い、ギヤ段が第6速の場合には、エンジン101の回転数がr22(2500rpm)以下の場合に異音対策制御を行う。
【0054】
異音対策制御を行う場合(ステップS103:Yes)、制御部32は、エンジン101が出力している駆動力を取得し(ステップS104)、ステップS102において算出したエンジン101の出力軸101aの回転速度と合わせて記憶部31に記憶されたトルクマップを参照し、異音低減トルクtdを算出する(ステップS105)。そして、制御部32は、この異音低減トルクtdを指令トルクtcとして電流出力回路33に出力し(ステップS106)、処理を終了する。
【0055】
一方、ギヤ段が所定値以上でない場合(S101:No)、又はエンジン101の出力軸101aの回転速度が異音対策制御を行う回転速度域でない場合(S103:No)、制御部32は、通常制御機能によって指令トルクtcを求め(ステップS107)、この指令トルクtcを電流出力回路33に出力し(ステップS106)、処理を終了する。
【0056】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、エンジン101の回転速度が駆動力の脈動による駆動力伝達系101の異音が発生し得る回転速度域である場合に、指令トルクtcがこの異音を低減可能な値に設定される。この場合の指令トルクtcは、エンジン101が出力している駆動力に応じて設定されるので、後輪105に必要以上のトルクが伝達されることがなく、異音の発生を抑えながら燃費の悪化を抑制することが可能となる。
【0057】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について図4を参照して説明する。第1の実施の形態では、エンジン101の駆動力と、エンジン101の回転数と、異音低減トルクtdとの関係を示す関係情報を示す3次元のトルクマップを参照して異音低減トルクtdを求めたが、本実施の形態では、エンジン101の駆動力と、異音低減トルクtdとの関係を示す関係情報を示す2次元のトルクマップを参照して異音低減トルクtdを求める。制御部32が実行する処理の手順は図3のフローチャートを参照して説明した第1の実施の形態と同様である。
【0058】
図4は、本実施の形態に係るトルクマップの一例を示し、(a)は選択されたギヤ段が第5速の場合のトルクマップ、(b)は選択されたギヤ段が第6速の場合のトルクマップを示す。
【0059】
第5速が選択された場合は、エンジン101の回転数が例えば2000rpmの場合に異音対策制御を行い、エンジン101の駆動力に基づいて異音低減トルクtdを求める。図4(a)に示す例では、エンジン101の駆動力がd11(エンジン101の最大出力の5%)以下の範囲には異音低減トルクtdがt11であり、エンジン101の駆動力がd11からd12(エンジン101の最大出力の20%)の範囲では、エンジン101の駆動力の増大に伴って異音低減トルクtdがt11からt12(t12>t11)まで単調に増加する。エンジン101の駆動力がd12以上の範囲では、異音低減トルクtdがt12で一定となる。
【0060】
また、第6速が選択された場合は、エンジン101の回転数が例えば2500rpmの場合に異音対策制御を行う。図4(b)に示す例では、エンジン101の駆動力がd21(エンジン101の最大出力の10%)以下の範囲には異音低減トルクtdがt21であり、エンジン101の駆動力がd21からd22(エンジン101の最大出力の30%)の範囲では、エンジン101の駆動力の増大に伴って異音低減トルクtdがt21からt22(t22>t21)まで単調に増加する。エンジン101の駆動力がd22以上の範囲では、異音低減トルクtdがt22で一定となる。
【0061】
また、t21はt11よりも大きく、t22はt12よりも大きい。また、d21はd11よりも大きく、d22はd12よりも大きい。このように、第6速が選択された場合は、第5速が選択された場合よりも異音低減トルクtdが大きくなる。
【0062】
また、図4(a)及び図4(b)における斜線部は、駆動力伝達系110に異音が発生する領域を示している。図4(a)及び図4(b)に示すように、異音低減トルクtdは、この領域を上回るようにトルクマップが設定されている。つまり、異音低減トルクtdは、駆動力伝達系110の異音を低減可能な値に設定されている。
【0063】
[他の実施の形態]
以上、本発明の駆動力配分制御装置、及び四輪駆動車を上記各実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0064】
例えば、上記各実施の形態では、ギヤ段が第5速又は第6速の場合に異音対策制御を実行することとしたが、これに限らず、例えば、ギヤ段が第4〜第6速、又は第3〜第6速の場合に異音対策制御を実行してもよい。この場合、それぞれにギヤ段ごとに異なるトルクマップを記憶することが望ましい。また、トランスミッション103のギヤ段の数は、4又は5であってもよい。
【0065】
また、上記各実施の形態では、エンジン101の駆動力が大きいほど異音低減トルクtdを大きくして異音の発生を抑制する場合について説明したが、これに限らず、異音低減トルクtdの値は四輪駆動車100の特性に応じて、実験等に基づいて適宜設定することができる。例えば、エンジン101の駆動力が大きいほど異音低減トルクtdを小さくして異音の発生を抑制してもよい。あるいはエンジン101の駆動力が所定の範囲ではエンジン101の駆動力が大きいほど異音低減トルクtdを大きくし、他の所定の範囲ではエンジン101の駆動力が大きいほど異音低減トルクtdを小さくするようにしてもよい。
【0066】
また、上記各実施の形態では、前輪104を主駆動輪とし、後輪105を補助駆動輪とした場合について説明したが、これに限らず、前輪104を補助駆動輪とし、後輪105を主駆動輪とする四輪駆動車にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…駆動力配分制御装置、2…駆動力伝達装置、3…制御装置、4…操舵装置、21…アウタハウジング、22…インナシャフト、23…メインクラッチ、23a…アウタクラッチプレート、23b…インナクラッチプレート、24…電磁コイル、25…パイロットクラッチ、26…カム機構、31…記憶部、32…制御部、33…電流出力回路、100…四輪駆動車、101…エンジン、101a…出力軸、102…クラッチ、102a…第1ディスク、102b…第2ディスク、103…トランスミッション、103a…入力軸、104…前輪、104L…左前輪、104R…右前輪、105…後輪、105L…左後輪、105R…右後輪、110…駆動力伝達系、111…ギヤ機構、112…フロントデファレンシャル装置、112L,112R…ドライブシャフト、112a…デフケース、113…トランスファ、113a…入力ギヤ、113b…出力ギヤ、114…プロペラシャフト、115…ピニオンギヤシャフト、115a…ギヤ部、116…リヤデファレンシャル装置、116L,116R…ドライブシャフト、116a…デフケース、116b…リングギヤ、120…ステアリングホイール、120a…ステアリングシャフト、121…アクセルペダル、122…ブレーキペダル、123…クラッチペダル、124…シフトレバー、300…操舵角センサ、301…エンジン回転速センサ、302…アクセル開度センサ、303…シフトポジションセンサ、304〜307…車輪速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を発生するエンジン、前記エンジンの出力軸の回転を複数段階の変速比で変速する変速装置、及び前記変速装置の出力を前輪又は後輪の一方の主駆動輪と他方の補助駆動輪とに伝達することが可能な駆動力伝達系を有する四輪駆動車に搭載され、
前記補助駆動輪に伝達すべきトルク値を設定する制御装置と、
前記制御装置が設定したトルク値に応じた駆動力を前記補助駆動輪に伝達する駆動力伝達装置とを備え、
前記制御装置は、前記エンジンの出力軸の回転速度が前記駆動力の脈動による前記駆動力伝達系の異音が発生し得る回転速度域である場合に、前記トルク値を、前記エンジンの駆動力に応じて、前記異音を低減可能な値に設定する駆動力配分制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記エンジンの駆動力と前記異音を低減可能な値との関係を示す関係情報を前記複数段階の変速比のうち少なくとも2つの変速比について記憶し、走行時における前記変速装置の変速比に対応する前記関係情報を参照して前記トルク値を設定する、
請求項1に記載の駆動力配分制御装置。
【請求項3】
前記関係情報は、前記エンジンの出力軸の回転速度及び前記エンジンの駆動力と、前記異音を低減可能な値との関係を示す情報である、
請求項2に記載の駆動力配分制御装置。
【請求項4】
車両の駆動力を発生するエンジンと、
前記エンジンの出力軸の回転を複数段階の変速比で変速する変速装置と、
前記変速装置の出力を前輪又は後輪の一方の主駆動輪と他方の補助駆動輪とに伝達することが可能な駆動力伝達系と、
前記補助駆動輪に伝達すべきトルク値を求める制御装置と、
前記制御装置が求めたトルク値に応じた駆動力を前記補助駆動輪に伝達する駆動力伝達装置とを備え、
前記制御装置は、前記エンジンの出力軸の回転速度が、前記駆動力の脈動による前記駆動力伝達系の異音が発生し得る回転速度域である場合に、前記トルク値を、前記エンジンの駆動力に応じて、前記異音を低減可能な値に設定する四輪駆動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32060(P2013−32060A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168202(P2011−168202)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】